俊輔達は未だに渋滞に立ち往生していた。だが、バスの中では混沌とした空気が流れだしていた。
「こう言う時だからこそ、我々藤見学園の者として、誇りを忘れてはいけないのです‼ その意味ではこのバスから去って行った宮本さんや小室君は、皆さんと一緒にいる事が相応しくないのです‼ 生き残る為に、一致団結しましょう‼」
紫藤の演説は火に油を注いだかのように、熱を上げていた。だが一方で熱が冷めている者達もいた。冴子達である。
彼女たちは、紫藤の演説を聞いている生徒達を見ながらある事を考えていた。
「マジヤバいわよ。あの状況」
「ああ、確かにな………あれではまるで」
「新興宗教の布教に近いですね」
「まるででは無い。完全に布教しようとしている。そして、僕達の前で新しい新興宗教が誕生しようとしている」
沙耶の言葉に冴子も頷き、コータが言葉をつづける。そして永に至っては状況を冷静に見ていた。
「紫藤教の始まりを僕達は目にしているんだ。見てくれ。あの紫藤の演説を聞いている生徒の眼を。完全に紫藤の事を神父の様に思っている連中しかいない」
永の言う通りである。紫藤の演説に惹かれた生徒達、全員の眼が紫藤の事を神の様に崇拝する眼差しを送っていた。
「道がこの有様では、バスを捨てて徒歩で逃げる他、あるまい」
「でも、そうした場合。僕達の足が無くなってしまいますよ?」
冴子の言葉にコータが意見を出す。
「だが、何としてでも御別橋を渡り警察署へ向かわなくては………小室君達と合流は難しいだろう?」
「あれぇ? 随分と小室の事を気にするじゃない? 自分の家族の事は良いの?」
冴子の言葉に沙耶が噛み付く。だが、冴子は冷静を欠ける事無く反論する。
「私の家族は父が一人だし、日本には居ない。つまり、今の私にとっては小室君との約束を守る事以外に護るのは己の命だけと言う事だ」
「グヌヌヌヌ」
冴子の言葉に沙耶は何も言えなくなってしまう。ここで、何かアクションを起こせば弱みの一つでも握れると思った沙耶の思惑が潰れてしまうのであった。
「それに私は父に言われ続けている事がある。一度、約束した事は絶対に違えるなとね」
「そうですか~」
沙耶は素っ気なく答えた。
「ところで、高城さんのお家はどこにあるの?」
「うちは小室同様、御別橋の向こう側です」
「ぼ、僕も家族が国外にいるので…………高城さんと一緒ならどこへでも………」
コータの言葉に興味を持った鞠川と冴子。
「平野君のご家族はいまどちらにおられるのだ?」
「父さんは宝石商なんでオランダへ買い付けへ行っていますし、母さんに至っては、ファッションデザイナーなので、ずっとパリに住んでいます」
「いつの時代の設定よ‼」
コータの家族構成に沙耶がツッコミを入れる。
「マンガだと、パパは外国航路の客船の船長さんだったりして………」
「お祖父ちゃんがそうでした……お祖母ちゃんはバイオリニストでした……」
「完璧だわ………」
鞠川の言葉にコータの祖父母がそうであったと暴露され、沙耶は完全に頭を抱え込むのであった。
「それで、これからどうするの> 私も一緒に行きたいのだけど………」
「えっ? 良いんですか?」
鞠川の言葉に永は驚く。
「うん、私の両親はこの世にいないしね…親戚も遠いしね…………それにこう言っちゃったらあれなんだけど」
鞠川はそう言うと言葉を区切り、演説を続けている紫藤を見ながら「私、紫藤先生の事。好きじゃないの」と発言する。
この言葉に永達に笑顔が戻った。
「どうしたのですか? 皆さん。ここは一致団結して一緒にn「ご遠慮させて頂きます。紫藤先生。僕達は僕達で目的を持って行動しているのです。修学旅行では無いのですから、一緒に行動する必要が無いですから。僕達はバスを降りさせて頂きます」ほう?」
紫藤の言葉に被さる様に永が言葉を発し、それが終わる頃には紫藤の表情が変わるのが判った。そして、角田が立ち上がり、いつでも殴り掛かれる体制を整えていた。
「あなた方が決めた事です。異議は立てられません。ですが………鞠川教諭。貴女には残って頂きたいですね‼」
紫藤の言葉に鞠川は体を震わせた。何に震わせたかと聞かれたら、判らないとしか答えられないが、紫藤の表情や声の質などで鞠川は、バスに残る=自分が何かされると言う恐怖感に襲われた。
「現状で、医師の資格を持っている貴女をバスから降ろすと、マイナスが大き過ぎますし…………それに、居場所をはっきりさせていれば、高城さん達も戻れる事ですしね~困った時に貴女を頼りにこのb」
紫藤の言葉は最後まで続かなかった。なぜならば、紫藤の頬から一筋の傷が出来、そこから血が流れだしていた。そして、それを作った張本人はコータであった。コータは手に持つ釘銃を撃って先へ進ませようとはさせなかった。
「ひ、平野君………君はこんなことをする生徒では無かったでしょ? どうしてですか?」
「外した訳じゃ無いんですよ? 紫藤先生。態と、外したんです。そして今の状況下………奴らだけじゃない。生きている人間も殺す覚悟も、僕は出来ている。もう普通なんて戻って来ないんですから」
コータはそう言うと釘銃の銃口を紫藤に向けたまま冴子の方へ振り返る。
「毒島先輩‼ 先に降りて下さい。殿は僕が務めますから」
「
こうしてバスを降りたコータ、沙耶、永、冴子、鞠川は次の行動をどうするか相談をし始める。
「どう進む? 私はこの辺の地理には詳しくない」
「先に御別橋を確かめた方が良いわ」
「でも、この渋滞は普通の渋滞では無いです。行って見るだけ行って見ましょう」
そう言うとコータ達は先へと進むのであった。
だが、マイクロバスの入り口に立つ紫藤は、自分の計画が巧い事、進まなかった事に苛立っていた。
「先生? 大丈夫ですか?」
女子生徒が紫藤の事を心配する。
「大丈夫です。さぁ、これで邪魔する者達が居なくなりました‼」
紫藤の顔は先程とは打って変わり、笑顔であった。
時を戻し、孝達はそれぞれの行動をしていた。
「一度はやってみたかったんだ」
孝はカウンターの上に立つと、レジに向けて金属バットを振り下げた。
レジは破壊され、お金を入れる所が開き孝は迷わず、お金を手に取った。
麗はバイクを背にして立ち、孝が壊しているレジの音を聞きながら、これまでの事を振り返っていた。
「私も孝や山本君達の事を言える立場じゃなくなったわね」
ヴィータは上空へ上がるとサーチャーを飛ばそうとした。しかし、その瞬間、麗の悲鳴が聞こえた。
「なっ⁉」
ヴィータは目線を下に向けると、そこには暴漢に捕まった麗の姿があった。
「本当に暴漢が居るとは思いもしなかった」
ヴィータはまさか本当に暴漢が居るとは思っても見なかった。
「手が焼けるな、まったく‼」
ヴィータはそう言うと麗の元へと駆けつけるのであった。
孝が麗の悲鳴を聞きつけ、外へ出るとそこには体格の良い男が麗を後ろから抱え込み、ナイフを首元へ突き付けていた。
「ひゃぁっはっはっは‼ 兄ちゃん、可愛い彼女連れてんじゃん‼」
体格の良い男は麗にナイフを突きつけながら叫ぶ。
「麗を離せ‼」
「ばーか、誰が離すかよ‼ 化け物だらけになっちまった世界に生き残るには為には、可愛い女の子が要るんだよ‼」
「壊れてる…………」
男の言葉に孝は、相手が既に感情をコントロール出来ていないのが判った。
「あたりめぇだろうが‼ 俺の家族はな‼ 俺の目の前で化け物に喰われ化け物になったんだからな‼」
男は孝の言葉に反応する。だが、次の瞬間、表情が一変する。
「俺はな‼ 化け物になっちまった家族をこの手で殺したんだからな‼ 親父もお袋も弟、妹をな‼」
男はそう言うと高らかに笑い始める。そして、男は徐に麗の胸を掴んだ。
「ひうっ⁉」
「ウッヒョー‼ 可愛い声で啼くねぇ‼ そそられるぜ‼」
男は視線を麗から孝へ向ける。
「兄ちゃん、この娘と毎晩やってるんだろ? ああぁ? やってねぇの? マジで⁉ バッカじゃねぇの‼」
男の言葉に孝は麗を助けようと足を動かした。だが、
「おっと、そこから動くんじゃねぇぞ? 動いたら、この娘の首にナイフが刺さっちまうからな‼」
「チィッ‼」
男の言葉で孝は一歩も動けなくなってしまうのであった。
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「ねぇ、作者? 僕達の出番はまだ?」
「○○、少しぐらいは落ち着かぬか‼」
「王、私もそろそろ我慢の限界です」
「で、どうなのだ? 駄作者よ」
駄作者って………まだいつ出すか判らない状況なの。もう少し待ってて。ほら、飴上げるから。
「うわ~い‼ アメだ‼」
「誰がそんなもので釣られるか‼ それはミッドで期間限定で販売された飴じゃないか‼ 我にも寄こせ‼」
「王、先程の発言は何だったのですか?」
「あっ………忘れろ」
「承知しました」