俊輔達が地下へ行っている時、孝達は一組の親子を見付けた。
「パパ‼ ママは‼」
「ママには後で会えるから………今は避難しておこう」
「う、うん」
少女の言葉に父親は笑顔で切り替えした。
二人は一軒の家の玄関で立ち止まる。
「助けて下さい‼ 子供連れで逃げられないんです‼ 少しの間で良いので入れて下さい‼」
『来るな‼ 他所へ行ってくれ。ここはもう一杯なんだ‼』
「クッ………」
「パパ……」
父親の言葉虚しく、他所へ行くように言われてしまう。
「判りました、行くぞありす」
「どこに?」
「助けてくれる家だよ」
「そう言うと父親はありすと呼んだ娘の手を引きもう一軒の家へと向かった。
「開けて下さい‼ 子供連れなんです‼」
『他所へ行ってくれ』
もう一軒の家も先ほどの家同様に断われてしまう。だが、父親は逃げる際に既に奴らの手が近づいていた事に気付いていた。
「頼む‼ 自分の事はどうでも良いから、娘だけでも助けてくれ‼」
『ムリだ‼ ここはもう一杯なんだ‼』
「なら、明けてくれないと言うのならドアを壊す‼」
『ま、待ってくれ‼ 今開けるから、扉を壊さないでくれ‼』
中の住人からの言葉で、ドアの鍵が開けられようとした。
「ありが………たい」
ドアが開けられると同時に、中から簡易的に作られた槍で父親の胸を貫いた。
「許してくれ、許してくれ‼」
中の住人たちは父親を殺したことを謝っていた。なかには、手を合わせて念仏を唱える者までいた。
そして、無情にも娘を残して扉は閉められた。
「パパ? パパ‼」
「あ、ありす………どこかに隠れなさい」
「でも‼」
「パパは大丈夫だから……さぁ」
ありすは父親の手を握っていたが、力なく父親の手は落ちてしまう。
「いやだぁ‼ パパと一緒にいる‼」
ありすは事切れた父親に抱き着き大声で泣き叫んでしまう。だが、奴らは感情と言うものを失い悲しむ事は無く、ただ目の前にある人間を食べたいと言う欲求でしか行動していなかった。
だから、ありすの声に奴らは近づいて行く。
「It's Rock'n'roll‼」
コータは試射した事の無い狙撃銃を使い、ありすに近づく奴らの頭を撃ち抜いた。
「試射もしていない他人の銃で、頭を一発で撃ち抜けるなんて僕って天才だよね‼」
そう言いながらもコータは狙撃銃の引き金を引いて行き、奴らを一人また一人と倒していく。
「平野、撃たないんじゃなかったのか?」
「小さな女の子だよ‼ 井郷君は助ける気はないの?」
「いや、君の言う通りだな。孝」
「おう‼」
「僕はここから援護するから‼ 気を付けてね?」
コータの言葉に二人は手を上げた。
下へ降りて行くと、入り口に麗と冴子が立っていた。
「どうかしたの?」
「女の子を助けに行く」
「えっ?」
孝の言葉に麗は驚くが、一方の冴子には驚きの表情は無かった。
「やはり君たちも男の子と言うものか………良いだろう‼ ここは何があっても護り切って見せる」
「お願いします。永」
「おう‼」
孝と永はバイクに跨ろうとした。そこに待ったをを掛けた麗。手には銃が一丁握られていた。
「これ位は持って行って。永は武器はあるの?」
「ああ、俊輔君から渡されたベレッタがな」
そう言うと永は腰に差しているベレッタを見せた。
「行くぞ」
静かに呟くと孝はバイクのアクセルを全開にしたのであった。
一方、俊輔達はキャリアーを見て驚いていた。
「三台積めるタイプのものだけど、若干長いな」
「でもこれで三台積み込む事は出来るでしょ?」
「そうだな、急いで行動するぞ」
俊輔の声によりキャリアーは地下から地上へ出し、ハイエース、ヴェルファイアは上段へ、スカイラインは下段の方へ積み込まれた。
「さて、後はどうするかだが………」
俊輔が悩んでいるのは、キャリアー自体、普通の車両同様であったからである。
「空、鉄板を前方に付けられないか?」
「出来ますけど、時間が掛かります」
「そうだな……ん?」
俊輔の耳に銃声が聞こえ始めた。
「聞こえたな?」
俊輔の言葉に全員が頷いた。
「状況を確認する‼ シグナムとヴィータ、アインスは上がれ、シャマルとザフィーラはトラックに乗り込め。俺達は戦車を出す」
『了解』
俊輔の指示で全員が動き始めた。
俊輔と空は戦車に乗り込み、ザフィーラはキャリアー、シャマルは73式中型トラックに乗り込んだ。
因みに余談だが、全部の車両には無線機が搭載されており、どこにいても通信が出来る様になっていた。
「こちらティーガー、出発するぞ」
『こちらパーシング。いつでもどうぞ』
『ザフィーラだ。こちらも行ける』
『73式も行けるわ』
俊輔の通信に全員が準備が出来た事を伝える。
「俺が先頭に出る。空は殿を頼む」
『了解』
「では、パンツァーフォー‼」
俊輔はティーガーを発進させた。
「いやっほう‼ 最高だぜ‼」
俊輔はパンツァーハイになっていたが、誰も咎めようとはしなかった。寧ろ、止められなかった。なぜならば……
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ‼』
空も同様であったからである。
孝と永はありすが隠れている家の前に来ていた。
「いっけぇぇ‼」
孝はバイクを横滑りさせてスピードを緩め、丁度入り口でアクセルを全開にした。
だが、奴らを踏んでいた為、油で横転してしまう。
「大丈夫か? 永」
「無茶をするよな、お前」
永は孝よりもいち早く立ち上がり入り口を閉める。
「マンガの様には行かないわな」
「当たり前だ。あそこだ」
「行くぞ‼」
「おう‼」
孝と永はそれぞれ持っている武器を片手に戦う。孝は釘抜きを使い、奴らの頭を強打する。永は空手の腕前を使い的確に急所を捕らえて行く。
「よく無事だったな‼ もう大丈夫だ」
「孝、数が多すぎる‼ これじゃ持たないぞ‼」
永が言う先には柵を壊そうと奴らが集結していた。
「音を立てすぎたな………どうする?」
「ここは賭けに出るか?」
「?……ああ」
永が指差したのは塀であった。
「だが、やる事があるだろ?」
「そうだな………」
二人が目線を向けた先にはありすを護っていた父親の亡骸であった。
「お兄ちゃん達………パパは死んじゃったの?」
孝と永は何も言えなくなったが、孝が機転を利かして、掛けられてあったYシャツを取ると父親の顔に被せた。
「君を守ろうとして死んだ。だが、立派なお父さんだな」
「うぅ………パパ………パパァァァァァ‼」
ありすは父親が死んだことにショックを抑えられず、大声を出して泣いてしまう。
「すまない。泣いている時間は無い。ここを逃げ出さなければ」
「そうだな、立てるか?」
「うん」
目元を腫らしたありすであったが、孝の声に素直に頷き立ち上がった。
「さて、塀を登ろうにも手ごろな足場が無いしな………ヴィータみたいに飛べないし………」
孝と永はどうするべきか悩んでした。だが、そこに救世主が現れた。
「困っている様子だな?」
「えっ? あっアインスさん?」
上から声がしたので見上げるとそこにはアインスとシグナム、ヴィータが停空していた。
「ここからの脱出を考えていたのだろ?」
「ええ、まぁ………塀を登ろうにもバイクはあんなんだし………」
孝が言った先にあるバイクは既に使い物にならない状態であった。
「仕方が無い。鉄槌、女の子を頼む。シグナムと私は二人を抱えて飛ぶぞ」
「まぁ、仕方がねぇわな」
「判った」
ヴィータはありすを抱えると空へ飛びあがった。
シグナムとアインスは孝と永を背中から抱き着き抱え込んだ。二人はシグナムとアインスの胸部の感触にドキドキしているのであった。
後に孝は冴子に、永は麗に酷酷く怒られるのであった。