学園黙示録~魔法を持って行く物語   作:武御雷参型

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第四十四話

ティーガーとパーシングが、家を打ち抜き大き目な道路に出る。

 

「ここから、どう行けば良いんだ?」

 

「目的地は、左に進んで十字路を一つ越え、その先のT字路を右に俺てすぐ先だ。距離はざっと200mはあると思う」

 

俊輔はティーガーを止め、孝に確認をする。その横にはパーシングが停車していた。

 

「空、聞こえているか?」

 

『感度良好です。俊輔君。麗さんも同じ事を言っています』

 

「雨足も強くなって来た。そろそろ、休憩を入れようと思うのだが……どうだ?」

 

俊輔はずっと走りっぱなしであるティーガーとパーシングの足回りのチェックをしたかったのである。その為、今のタイミングであれば、音を出しても雨の音で抑えられると考えていた。

 

「判った。少しだけ休憩しよう」

 

孝もずっと戦車に乗りっぱなしと言う事もあり、疲労感が見えており、他のメンツもそうであった。

 

「空、少しの間、休憩を入れる。その間にパーシングの足回りのチェックをしろ。俺はティーガーのチェックをする」

 

『了解です』

 

俊輔は空に無線機で、休憩と足回りのチェックを指示を出す。空もレインコートを着込み、パーシングから出ると足回りのチェックに入った。

 

「孝、冴子さんとイチャコラすんなよ?」

 

「お、お前と一緒にするな‼」

 

俊輔はティーガーの足回りのチェックをする為、外へ出ようとする際に孝に冴子とのイチャコラを抑える様に言うが、孝の反論に俊輔は苦笑いで答え、外へと出る。

 

「…………駆動系統は問題なさそうだな……でも履帯に人肉が挟まったりしてこのままだと、やばいな」

 

「俊輔君。そっちはどうですか?」

 

俊輔がティーガーの足回りのチェックをしていると、一足早くに終わらせた空が俊輔の元に来る。

 

「ティーガーの履帯を酷使し過ぎている。履帯の間に人肉が挟まっていやがる。履帯が鉄だからまだ大丈夫だと思うが……時間の問題だな。そっちはどうだ?」

 

「パーシングの履帯や駆動系統に問題は見られません。この雨のお陰で、車体にこびり付いていた血とか肉片なんかは流されましたよ。ある意味で、この雨のお陰で洗車しなくて済みそうです。戦車だけに」

 

空は寒いギャグを挟むが、俊輔には壺だったらしい。小さくであるが、笑い始める。

 

「お前wwwww今そんなギャグを入れるなやww」

 

俊輔は一頻り笑うと、目尻にたまった涙を拭いた。

 

「笑った笑った。久々に笑うのも良いもんだ………さて、こっからが問題なんだが………パーシングの砲弾は問題なさそうか?」

 

「使ったのに、僕らが寝ている間に補充されていますよ。神様様ですね」

 

「やっぱりか……道理で使った砲弾の数が合わないんだな………さて、この雨の中を走っていたら履帯に挟まった人肉も落ちるだろう。先を急ぐぞ」

 

「はい‼」

 

二人はそれぞれの戦車に乗り込む。

 

「待たせたな」

 

「どうだったの?」

 

ティーガーに戻った俊輔に沙耶が尋ねる。

 

「まぁ、駆動系統に問題は見られないんだが……履帯の間に奴らの肉片が挟まっていた」

 

「見なくて正解だわ」

 

俊輔からの報告に沙耶は項垂れた。自分も手伝おうとしていたが、戦車の知識に疎い自分では、俊輔の足手まといになると思っていたからである。

 

「その気持ちだけでもありがたいよ。沙耶」

 

「………ナチュラルに気障な言葉を言うな」

 

沙耶はどこからともなく出したハリセンで、俊輔の頭を叩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俊輔達はティーガーを走らせる事、数分。T字路に差しかかった。

 

「孝、このT字路を右だったな?」

 

「そうだよ」

 

「良し…ここからは徒歩で行くぞ」

 

俊輔の言葉に全員が驚く。

 

「なんで戦車で行かないんだ? その方が簡単だろう?」

 

「戦車で行っても良いが……一般人が戦車を見たらどうなる?」

 

「……あっ‼」

 

俊輔の質問に沙耶が解った様に、手を上げる。

 

「どうぞ、沙耶さん」

 

「パニックになるわ。自分達を撃ちに来たのではないかと思ってね」

 

「正解」

 

沙耶の言葉に俊輔はにんまりとする。

 

「と言う事だ。全員、降車‼ 各自、武装を所持しろ‼ ありすと鞠川先生に関しては中央に。孝、永、麗は先頭だ。コータ、沙耶、冴子さんは後方で殿を頼む」

 

「俊輔はどうするのよ? 戦車の中で待機してますなんて言わないわよね?」

 

「あたりめぇだ‼ 俺と空、ヴォルケンリッター達は上空に上がる。何が起きるか判らないんだ。すぐに動けれる遊撃隊に徹する。各自、持ち場に就け‼」

 

リーダーである孝を置いて、俊輔は空たちにも指示を出していく。

 

「俺って、必要か?」

 

俊輔の的確な指示を聞いた孝は、リーダーを本気で俊輔に譲ろうかと考えていた。

 

「孝、リーダーとしての手腕を見せているんだ。勉強しろ。この先、俺達が護ってやれるか不明なんだから」

 

「お、おう」

 

俊輔の言葉に引っ掛かりを覚えた孝であったが、無理やり納得する。

 

 

そして、戦車から降車した全員は、持ち場に就いてT字路を曲がろうとしたが、その瞬間、大きな声が響き渡った。

 

「貴様等、いい加減にしろ‼」

 

「今の声って‼」

 

「ああ‼」

 

麗と孝はこの声に一人の女性を思い浮かばせる。そして、全員がT字路を曲がると、そこには家具などでバリケードを敷いている前に、一人の女性が槍を持って立っていた。

 

「必要な物を取りに行かせておいて、帰ってきたら入れないってどう言うつもりだ‼ 宮本貴理子を舐めんじゃねぇぞ‼」

 

女性であるのを忘れるかのような迫力のある声で、バリケード内にいるであろう住民に怒鳴る。

 

「お元気そうで、何よりだ~」

 

「あはははは………」

 

孝は麗の母親である宮本貴理子の姿に安心し、麗に至っては苦笑いをしていた。

 

「良いから、どっかへ行きやがれ‼ 撃つぞ‼」

 

すると、バリケードの間からショットガンらしきものを出し、貴理子に威嚇する。

 

「アンタらねぇ‼」

 

麗はある程度、貴理子と住民によるケンカ(?)が済んだ所を見図り、麗が母親に抱き着いた。

 

「お母さん‼」

 

「麗⁉ んまっ、孝ちゃんも‼」

 

貴理子は孝の存在に気付き、孝と麗が生きている事に嬉しく感じていたのである。

 

「で、何の騒ぎ? 大声を出したら集まる習性を持っている事ぐらい、解るでしょ‼」

 

「だってぇ、ご近所の皆さんの為に食べ物とか取りに行って戻ってみたら、入れてくれないんだもの……最初は協力して、うまくやっていたのに……でも、電気が止まってからは色々と大変になって来て………それに、私が出ている間に変な人が入ったらしくて、皆を纏めちゃったのよ………ご近所付き合いの限界ってやつね」

 

貴理子はそう言うと、一度だけバリケードの方を見る。

 

「すまない。時間が押している」

 

「え? 人が空から……どう言う事⁉」

 

「お、落ち着いて。お母さん‼」

 

俊輔が上空から降りて来ると、貴理子は驚き、アタフタする。警官である事を忘れさせるほどであった。

 

「すみません、今は時間が惜しいのです。麗のお母さん。今から逃げます。付いて来て下さい」

 

俊輔は貴理子にそう切り出す。

だが、貴理子も並大抵の警官では無い。

 

「どこに逃げると言うのかしら? 明確な目的が無い事には、うまく行く事も行かなくなるわよ。生き残ると言うだけでは意味が無いわ。それとも、その覚悟があると言うかしら?」

 

「ええ、明後日の午後に新床三小で、ごく短時間ですが、自衛隊の救出作戦が行われる事になっています。東署のJ-ALERTで確認しました。多分ですが、これが最後の救出作戦になると思われます」

 

貴理子の質問に答えたのは沙耶であった。そして、沙耶の説明を受けると、バリケード内にいる住民に声を掛ける。

 

「明後日の午後‼ 新床三小で自衛隊の救助作戦が行われる‼ 私達はそこに向かいます‼ 一緒に行く人は出て来て‼」

 

「う、嘘だ‼ 俺達は信じないぞ‼」

 

しかし、貴理子の説得も虚しくバリケード内にいる住民の耳には届かなかったのであった。

 

「チッ‼ 無駄です。忠告はしたんです。警察の義理は果たしました。逃げますよ‼」

 

「俊輔‼ 大変だ‼ 距離60に奴らの群れを視認‼ 服装に見覚えがある………さっき、君が美地壊した家の横にいた奴らだよ‼」

 

『………………』

 

コータからの報告に、俊輔を除く全員が俊輔に視線を送る。そして本人である俊輔は顔を背けていた。

 

「なら、俺と空だけで戦車を回収に行く。ヴォルケンズ‼ 行くぞ‼」

 

『了解‼』

 

俊輔の指示でヴォルケンリッター達と空が上空へと上がり、戦車の元へと飛んでいったのである。

 

「戦車? どう言う事なの、麗?」

 

「あはははは………」

 

麗は貴理子にどう説明すればいいのか判らず、苦笑いをして逃げようとしていたのであった。


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