とあるナビの日記   作:炭酸ミカン

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・持ちナビになったあたりの日記

 人もすなる日記というものをナビもしてみんとてすなり。日記を始めた一番最初の部分に書く気がするけど細かいことは気にしないスタイルでいこう。

さて出会った日に泣きだしたぼくのオペレーターさんは長い金髪の良く似合うお嬢さんでした。名前をカリンカちゃんというそうです。どうも日本人ではなさそうな名前ですがどこの出身なんでしょう?白くてきれいな肌をしてたのでロシアあたりかな?そういえばこの世界にロシアってあるのでしょうか、この世界微妙に前の世界と名称が違うんですよ。例えばアジアとかはひとまとめになっててアジーナで、ヨーロッパなのかアメリカなのかよくわからない国でアメロッパってのもあるらしいです。でも日本はニホンのまま、一体どんな歴史をたどってきたんだろう……。わたし、気になります。

気になりだした世界の成り立ちとかは置いといてカリンカちゃんのことについて書きましょう。年は小学生高学年くらい、結構親御さんから丁寧に躾をされてて礼儀正しい言葉遣いをしています。彼女が泣き止んで落ち着いたころに「あなたが私の新しいナビ……。私の名前はカリンカと申します。よろしくお願いしますわ」って言われたときは若干お見合いしてる気分になりました。まあ性格とか合わなかった場合はお見合いと同じように別のナビを顔合わせをするのでしょう。ひょっとしてぼくが知らないだけでお見合い写真ならぬお見合いナビカタログの山が積んであったりするのかもしれません。

 彼女に最初にあったときに泣き出してしまった理由を聞きましたがはぐらかされて教えてはくれませんでした。ぼくのスペックに不満があるとかこんなナビは嫌だ!とかそういう理由ではないとのことでしたがなんとも意味深です。実はこれからあなたたちに殺し合いをしてもらいますとか言い出さないよね?少し前までウイルスバスティング漬けの生活だっただけにあり得そうなのが笑えません。多分ここまで人間不信入りかけてたのはあのマッド博士の所為に違いない。あの人優しそうな顔してやることがぶっ飛んでましたからね。

現状少し話してみた感じではカリンカちゃんからマッドなオーラは感じないのでいいマスター…いやオペレーターさんに恵まれてるのだと思いましょう。

また少し生活が落ち着いたら日記をまとめることにします。

 

 

 

〇カリンカの独白

 私用に新しいナビをくれるということで科学省に向かったのは数日前のことでした。幼いころに家族が先立ち、残った家族である父も家には戻らず仕事に打ち込んでいてめったに家に帰らない。ほぼ一人で暮らしていた私にとっては心中複雑なものでした。確かにいれば便利ですが現状がいなくても家事をこなしていける私にとってはネットナビを必要とすることはなかったのです。親しい人を亡くした経験のある私にとって、自分との距離が近く家族とも言っていい存在になり得るナビは進んで手に入れたいものではないのです。また自分の周りから親しい存在がいなくなるかもしれない。それを避けるためにも私は極力人と接することがないようにしてきた。

 おそらくまだ小学生である私がそんな生き方を選んでいたことを父なりに気にしていたのだろう。「科学省で知り合いの博士からネットナビを渡してもらえるように頼んだ」と電話越しに伝えた父はどことなく申し訳なさそうな様子で新しいネットナビのことを教えてくれた。

 『トランス』という名前の男性型のネットナビ。基本的には汎用型のそれに近い能力を持っているらしいのですが、父が言うには私にとっては何よりも特殊なネットナビとなるとのこと。父から細かいことを聞き出そうとしたものの、仕事が忙しい彼は私の質問に深く答えることなくさっさと通話を切ってしまった。家族が亡くなってしまってからというもの、私との距離感を測りかねている父はいつもそっけない。もう少し話してくれてもいいじゃないと心の中で愚痴を漏らしつつ、科学省にそのナビを迎えに行きました。

 憂鬱な心中とは裏腹に天気は雲一つない晴れで沈みがちな心を癒してくれる。見慣れた科学省に入るといつもは忙しそうにしている光博士が私を見つけて声をかけてくれました。まだ科学者としては年若い部類に入る光博士だけれど、父によるとすごく優秀な方だそうで、特にネットナビについて彼と同じレベルで議論を交わせる人は一握りだそうです。そう、私にネットナビを渡してくれるという父の知り合いの博士は光博士だったのですわ。

 彼に導かれるまま私はこれから私のネットナビとなる『トランス』がいる部屋と向かいました。あまり気乗りのしていない私の様子に彼は苦笑しながら「大丈夫、きっと彼なら君と上手くやっていけるよ」と励ましてくれました。目の前で私のPETを接続し初めてのネットナビとのやりとりを見守る彼の視線はどこか暖かかったのを覚えています。

 

 そうして、私は『トランス』を画面の中に見つけました。

 

 その瞬間のことをきっと私は生涯忘れることはないでしょう。一目ぼれとは違いますがトランスに私はなんとも言い難い懐かしさ親しさ切なさ愛おしさを感じたのです。理由は自分でもよくわかっていませんでした。

「どうしたの?お腹でも痛いの?」

落ち着いた静かで優しい声が私の耳に届く。初めて聞いたトランスの言葉でようやく私は自分が涙を流していることに気が付きました。自覚して、でも止められない涙。

「だ、だい……じょうぶ…グスッ……大丈夫」

そうしゃくりあげながら心配する自分のナビになんとか精一杯言葉を伝えて、確信するのでした。

 

彼が私の最初で最後のナビになる。

 

そう、思ったのですわ。




もうちっとだけ続くんじゃ
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