スパロボ学院 ~ OGだよ、全員集合! ~   作:北洋

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<注・意・事・項>
絶賛、キャラ崩壊中!
ヴァルストークファミリーの面々がキャラ崩壊しています。
イメージを崩したくない方は閲覧を避けた方がよいかもしれません。

ちなみに、今回は久しぶりにややマジメな話。
そのせいで文章長めです。


俺たちゃヴァルストークファミリー ~俺の妹がこんなに可愛いわけがない~

 

 

 【ヴァルストーク営業日誌 6月13日】

 

 突然でなんだが、俺の名前はカズマ・アーディガン。

 

 何故か高校の密集する地域「エリア」一のマンモス高校OG高等学院、通称ジェネ高に通う高校2年生だ。

 本当に突然で申し訳ないのだが ──

 

── 倒産の危機です、お父さん!

 

 ……相変わらず、壊滅的なギャグセンスだな、俺。

 俺たちヴァルストークファミリーは、「エリア」で運送業を営んでいる運び屋一家だ。

 だけど最近営業が苦しくってな……通産36回目の倒産の危機を迎えていた。

 

「武士は喰わねど高楊枝!」

 

 これは親父 ── ブレスフィールド・アーディガンの世迷い言なので気にしなくでくれ。

 36回も危機を迎えるあたり親父の経営手腕に疑問を覚えたりするのだが、問題は36回目の倒産の危機を乗り越えるにはどうすればいいか? そこに帰決する。

 

「しゃかきりに働くしかねーじゃん?」

 

 これは次女で俺の姉貴 ── アカネ・アーディガンの言葉である。

 いや御尤(ごもっと)も。うだうだ考えている暇があったら体を動かせってことだな。チイ姉らしい言葉だし、俺もその方が性に合っている。

 ちなみにチイ姉は既に成人しており取得している大型免許を活かして、我が家なけなしの大型トラック ── ヴァルストーク号の運ちゃんをしている。

 またちなみに、長女のシホミ姉さんはヴァルホーク号でナビをしている(悲しい事にカーナビを増設する余裕がないため)。あとホリスは棚卸や配達のため荷台に押し込まれている(人権侵害?)。

 またまたちなみに、俺は帰宅後の空いている時間を活用して自転車便として、愛機── ヴァルホーク号で「エリア」を駆けまわっていた。

 ああ高校生なのに、なんて家族思いなんだろうな、俺。褒めてあげたい。

 とにかく、36回目の倒産の危機を乗り切るため、俺たち一家は一丸となって貧乏と戦っているのだ。

 ……そんな訳で、実家には親父を含めた社会人組はほとんど帰って来ないのが実情である。

 

「お兄ちゃん、ご飯だよー、まだ日誌書いてるのー?」

「分かったミヒロ、すぐに行くからちょっと待っててくれ!」

 

 居間の方から妹のミヒロ・アーディガンの声が聞こえて来た。

 ミヒロは俺たち一家の四女で、10歳という幼さだが家事全般をこなし、家計の管理を任される程のしっかり者だ。今日もミヒロの節約料理が、食卓で顔をそろえて待っているに違いない。

 またまたまたちなみに、俺が書いているのはヴァルストーク・ファミリーの営業日誌である。

 思い出は大切に……それもあるが、日記は昔を振り返る上で非常に有用なモノなので、営業上の失態を忘れないために日々綴るのが俺の役割になっている。

 俺は営業日誌を閉じると、ミヒロの待つ居間へと向かった。

 しかし……気が重い。

 

── 俺が、顔を合わせたくない奴が居間にいるだろうからだ。

 

 俺が扉を開けると、ソイツの声が嫌でも耳に届いてくる。

 

「美味しいぃー、流石ミヒロだね! もう三ツ星料理店なんかより断然美味しいよ!」

「褒めたってお金は増えないよ、アリ姉ちゃん」

 

 猫なで声。

 それ以外に表現が思いつかない甘ったるい声で、ソイツはミヒロの料理を褒めちぎっていた。対してミヒロはその言葉に冷静な返し。流石だぜ、俺はこの子の行く末が怖くて仕方ないね。

 食卓に既についているソイツ ── アリアは、俺の双子の妹である。

 ブルーのショートヘアーが目に入って来る。顔立ちも極めて端正であり、人なつっこい声は話していて気持ちがいい。学校でも友人が多い人気者だ。

 しかも学業優秀、品性彷徨で教師受けもよく……チッ、俺とは似ても似つかない双子の妹さ。

 アリアの不思議な色をした瞳と眼があった。

 

「チッ…………ウザ……来るじゃないわよバカカズマ」

「……はいはい、悪うございましたね、っと」

 

 一瞥しただけで吐き捨てるアリアに、俺は荒くなりそうな声を抑えながら食卓に着く。

 そして夕食。

 俺たちの間に会話はない。

 アリアは一方的にミヒロに話掛けるだけで、俺などこの場に居ないように振る舞うのだ。明朗に笑うアリアは、元気一杯の美少女だ……なのだが、

 

「……キモ……見てんじゃないわよ」

 

 これである。笑顔をチラ見してただけじゃんかよ……。

 俺に対してだけなぜか態度が固い、というか酷い。他の家族とは仲がいいのになぜだろうな? 俺には理解できずに今に至っている。

 特に用がなければ無視し合う。

 それが俺たちの間にできた不文律(ルール)だった。 

 ……別にいいね、俺もアリアとなんて別に話したくないし……。

 

 だから、このときは思いもしなかったんだ。

 俺たちのこれまでの関係を覆す、あんな事件が起ろうなんて……さ。

 

 

 

 スパロボ学院 ~OGだよ、全員集合!~

 俺たちゃヴァルストークファミリー ~俺の妹がこんなに可愛いわけがない~

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 6月19日】

 

「消えろ、バカカズマ」

 

 それが、玄関で鉢合わせたアリアの開口一発目の言葉だった。

 俺が自転車便の仕事を終えて帰宅すると、アリアは何処かに出かける直前だったようで、入り口に立つ俺が邪魔だったのだろう。

 だから「消えろ」、端的で分かりやすいね。悪意しか感じないぜ。

 

「チッ……わぁーたよ」

「…………」

 

 俺が道を開けてやると、アリアは無言で玄関口から飛び出して行った。

 俺に一言もかけないのはいつもの事だ。別にいい。

 しかしそのとき肩を俺の体にぶつけてくるサービス付き、どう思うよ?……可愛くねえ! ホントに頭に来る女だぜ! と俺は主張したい。

 絶対にワザとだな、間違いない。世間の妹様ってのがみんなああだとは思いたくないね。と ──

 

「ん? なんだこれ?」

 

 下足場に一冊の本が落ちていた。

 「らき☆シス」……なんだこりゃ? 目の中に星が輝いていそうな数人の少女が「私、可愛いでしょ?」みたいな自意識過剰なポージングで、カバーにプリントされていた。

 俺は手に取り中身をパラパラと捲って見る。

 

「な、なんだこりゃあ!?」

 

 俺は目を疑ったね。そりゃあもう、目玉が飛び出しそうになるぐらいには。

 

── 裸の少女が男と絡み合っていた。

 

 ………………………冷静になろうか、カズマ・アーディガン?

 これはー、いわゆる一つのエロ本というモノですねえ。

 なぜこんな暗黒物質(ダークマター)が家の玄関口に落ちているのだろう? 分からない。理解できないが、こう言った物を俺たち一家の中で一番持っていそうな奴が誰かは分かる。

 俺、さ。

 俺は16歳、思春期真っ盛りの雄だ。こう言った書物の数冊ぐらい持っていても不思議ではない。

 だから困る。

 もし俺以外の誰かに拾われていてみろ……問答無用で魔女裁判に掛けられて、火あぶりの刑にされるところだった。

 

「お兄ちゃん、帰ったの?」

「うわああああぁ!」

 

 絶妙なタイミングで顔をだしたミヒロに、俺の心臓機能は一瞬で臨界点に達した。

 あ、危な……まさしく即死トラップ。もう少しで、一家内での俺の立場が崩壊するところだったぜ。

 

「なんでもないぞミヒロ! 俺、ちょっと日誌書いてくるからな、絶対に部屋に入って来るんじゃないぞ!」

「……? 分かったよ」

 

 こんなミヒロの情操教育によろしくない物は、早々に処分してしまうに限る。

 疑問符を顔に浮かべるミヒロを置いて、俺は急いで自室に掛け込み、取り合えず机に座り日誌を開いた。習慣的な行動なので特に意味はない。

 

「しかし、一体誰がこんなもんを……?」

 

 俺は手元にある「らき☆シス」に目を落とした。

 少女たちがプリントされたカバー……その一角に18歳未満購入禁止と書かれている。……つまり、これはそう言うモノだ。内容も卑猥だったしな。こんな爆弾を玄関に落とすなんてありえない、何処の俺に恨みを持つ輩の犯行だ?

 俺はパラパラと中身を確認し、一瞥すると本を閉じた。

 この本の内容を端的に説明するとだな。

 前半部分は卑猥な漫画が数十ページに渡って掲載されている。

 そして後半部分はエロい挿絵の入った小説となっていた。いわゆる一つの官能小説ってやつか? 俺はもう一度本を開き、その文章を読んでみた。

 そして……後悔する。

 

「ええーと、俺の名前はカズヤ。今日も激萌え妹のミホロたんと合体するために、毎日超絶な特訓に励む超絶イケメンだぜ。そのとき、敵が現れる。ズガアアアン、くっ、何者だ? 貴様、俺のミホロたんになにをする ──」

 

 静かに、俺は本を閉じました。

 …………はぁ、見なきゃよかった。

 なにこれ、ヒロインは妹っぽくて官能小説って……近親相姦モノ? うぇ……吐き気がする。リアルに妹がいる俺にとっては汚物的な書物である。

 こんな趣味の悪いもんで俺の目を汚しやがって……誰が落としやがった!?

 しかも偶然なんだろうけど主人公とヒロインの名前が、俺とミヒロに似ているし!?

 

「許せん。俺に即死トラップを仕掛けたのは誰だ?」

 

 シホミ姉ちゃん……は論外だな。じゃあチイ姉……はマッチョ好きだからこんな本は持っていないだろうし、ミヒロが持っているとは思いたくないので除外する。

 となると……

 

「親父か、はたまたホリスか……趣味悪いことしやがって!」

 

 あのバカ親父と影薄キャラめ、今度会ったら鉄拳を喰らわせてやる……しかし、俺の頭に疑問が浮かんだ。

 

「でも親父たち……最近帰ってきてないよな? ホリスはこの家には来れないし」

 

 前述したように、俺たち一家は36回目の倒産の危機に見舞われている。

 そのため、社会人組は会社に寝泊まりして働いており、最近実家に顔を出したことがないのだ。

 親父たちに俺を落とし入れる暇があるだろうか?

 ない。ような気が俺はする。

 

「じゃあ……誰だろう?」

 

 俺は「らき☆シス」を机の上に投げて思った。

 残る容疑者はあと一人だ。

 

「アリア……? まさかな?」

 

 俺は自分の呟きに苦笑していた。あのクソ生意気な双子の妹が「らき☆シス」など持っていて堪るか!

 しかし……有り得ない。有り得ない考えだが、そう仮定すれば説明がつく。

 アリアは俺と玄関でブツカッタときにブツを落とした。

 仮定さ。でもこれで万事丸く説明がつくだろう? 有り得ない話だけどな。

 

「お兄ちゃん、ご飯だよー」

「おう、今行く……ん?」

 

 居間から聞こえてくるミヒロの声に返事をして部屋を出ると、玄関口にアリアが居た。

 しゃがみ込んでなにかを探している様だ。

 いつもの俺なら無視しているのだが、流石に喉に詰まった小骨は大き過ぎた。俺はそれを吐きだす様に声をかける。

 

「何探してんの?」

「キモッ…………勝手に見るなだし、このバカカズマ」

 

 突き出していたお尻を隠して怒るアリア、その様は他人が見れば悶絶ものかもしれないが、俺にとっては何てことない妹の尻だ。反応なんて全然しないぜ。

 それなのに妹様はこの言い草……ああ、キレそうだ。

 できることなら尻を引っ叩いてやりたいぜ!

 

「ああ、そうかい」

 

 冷静に対応すると、俺は居間の食卓についた。

 ミヒロも、探し物を諦めたのかアリアも同席する。アリアは心なしか元気がないように見える。嫌な事に、この妹の様子が俺の疑問を確信に近づけていく。

 ……カマを掛けてみるか?

 相変わらずミヒロにばかり話かけているアリアに俺は、

 

「そういえばさー」

 

 ごく自然に独り言を大声で漏らしていた。

 

「『らき☆シス』って知ってるか?」

「ッ……!」

「お兄ちゃん、なにそれ?」

 

 おいおい、分かりやすい反応だな。

 キーワードに触れただけでビクンって肩を震わせてちゃ、私が犯人ですと言っているようなものだぜ。ふふん。さながら俺の気分は名探偵、某ちびっ子名探偵みたく「犯人はお前だ!」と決めてみたい。

 しかし俺の体は大人、心も大人……無意味に妹を曝し物にする趣味は別にないし、しても仕方ないと分かっているのでこれ以上の詮索はしないことにする。

 反応してきたミヒロに答えてやった。

 

「いやな、学校のダチが最近ハマってるアニメらしいんだわ。面白いんだったら見てみようと思ってさ」

「ふーん」

「…………」

 

 適当な言葉でお茶を濁す俺、純粋に聞き入るミヒロ、無言のままのアリア。

 場の空気があまり良くないなぁ……言っておいてなんだが、失言だったかな?

 俺は適当に喋って場を持たせると、食事を終えた後すぐに自室に引っこむことにした。

 

 

 

      ●

 

 

 

「どうしたもんかな?」

 

 俺は自室に置いた「らき☆シス」を見下ろしながら考えた。

 この本の持ち主はアリアだろう。それはおそらく間違いのない事実……そう思わせるに十分な反応を俺の妹は示してくれた。 

 有り得ない……と思っていたことが実は事実だった。

 なんて、俺は信じたくはない。

 だってあのアリアだぜ……いつも、俺に対してゴミを見るような態度で臨んでくるクソ妹が、実は妹モノの官能小説が好きでしたなんて……信じられるか?

 

── だから俺はトラップを仕掛けることにした。

 

 もしアリアが星なら即死級のトラップだ。

 俺がこんな状況に陥ったと仮定して、まず何をするか考えて仕掛けるからな。

 黒ならまず間違いなく物的証拠を処分にしにかかるだろう?

 俺だってそうする。アリアだってそうするはずだ。 

 だから俺は廊下で大声を張り上げたんだ。

 

「おーいミヒロ、ちょっと親父に頼みごとされたからさー、自転車便で届けモノしてくらあ!!」

「はーい、あんまり遅くならないでねお兄ちゃん!」

 

 ああミヒロ、お前はアリアと違って本当に優しいな。

 そんな訳で俺は「らき☆シス」を懐に収めたまま実家の外に出た。

 俺が自転車便で配達に出た場合、大体の1時間ぐらいが所要時間だ。なにせ物を本社に取りに行って、そこから運ばなければならないからな。迷えばさらに時間がかかるって寸法さ。

 ……家主が1時間近く帰って来ないと分かったら、あんたならどうする?

 俺なら証拠品を処分するね。

 

「おいおい、マジかよ……?」

 

 実家のすぐ傍で待機していた俺の目に、実家の俺の部屋に電気が灯される光景が飛びこんで来た。

 俺は家を出る前に電気を消して来た。エコロジーだろう?

 だがそんな俺の前で自室には光が煌々と照らされている。

 

「……ミヒロが掃除しているだけでありますように」

 

 祈りながら、俺は極力音を立てぬように家に帰り、そして自室の前にまで辿り着いた。

 真っ暗な廊下だから分かる。俺の部屋には電気がついている。光が扉の隙間から漏れているのだ。

 要するに俺は電源を切って行ったから、中に誰か居るってことに他ならない。

 俺は意を決して扉を開ける、

 

「おい、俺の部屋でなにやってんだ?」

「ッ!?」

 

 と侵入者が体を跳ね上げる勢いで驚いていた。

 侵入者の名前はアリア……俺の双子の妹だ。部屋はアリアによって滅茶苦茶に荒らされている。俺の机は元より、ベッドのメイキングや俺が苦労して集めた○ャンプコミックまで床に放り出されていた。

 やりたい放題である。最も、俺が帰って来るまでに整理するつもりだったのだろう、アリアは信じられないと言った表情を浮かべていた。

 

「なっ…………な、ななな、なんでアンタがここに居るのよ!?」

「なんでってな……ここは俺の部屋だし」

 

 俺の理屈は正当だろう?。

 しかし妹よ、いくら取り乱しているからって兄の部屋を家探しするか、普通? しかもお前が手にかけようとしているベット下のスペースは、俺のコレクションたちが眠っているワンダーゾーンだぜ? それ以上手を引っ張ることは許さんぞ。

 錯乱しかけの妹に、俺は懐から取り出した物を見せつけてやった。「らき☆シス」だ。

 

「お前の探している物はこれか?」

「返せぇ!!」

 

 アリアが飛びかかって来た。

 滅殺! そんな勢いだったが、俺はアリアの突撃をあっさり躱す。

 勢い余ったアリアは廊下の壁にしこたま額をぶつけていたが、親の仇みたいな形相で俺を睨みつけてきた。

 

「なんで……なんでアンタがそれを持ってんのよ……!」

「玄関で拾った」

「この変態!!」

 

 まったく、酷い言い草だぜ。

 拾ったのが俺だったのを感謝してもらいたいね。

 そもそも俺はアリアに興味はないし、コイツがどんな趣味持っていようが知らないね。

 それに趣味なんて個々人それぞれと言っていいし、それを否定しようとは俺は思わない。他人の趣味を否定してまで示せる程高尚な趣味が俺にある訳じゃないしな。

 お前はお前の好きにしろ。

 それが俺の率直な思いである。

 

「ほら」

「え?」

 

 「らき☆シス」を差し出した俺にアリアが素っ頓狂な声を上げる。

 

「玄関で拾ったんだ。でも俺は心当たりがない。お前持ち主を知らないか? 知っていたら返して欲しいんだけどよ」

「え、ええ……知ってるわよ。それは友達があたしに貸してくれた物だから……」

 

 18禁の漫画つき小説を貸すような友達がいてたまるか! ……いや世の中は広いから実際に居るのかもしれないけどよ、少なくとも俺の周りには居やしないね。

 

「じゃあな、頼んだぞ」

「う……うん」

 

 「らき☆シス」をアリアに渡した俺は家の外に出ることにした。

 ここに居ても妹が居づらいだけだろうし、追い出しても荒れた部屋を直さなければならない。この場に俺が居ない方がアリアも部屋を片付けてくれるだろう、淡い期待を胸に俺は自転車を漕いで近くのコンビニに向かった。

 今日は○ャンプの発売日だったのを忘れていた。金魂さんはどうなっているだろうか?

 灯りの付いた自室を背に俺はコンビニに向かうのだった。

 

 

 

 1時間ほど立ち読みした後、俺は自宅への帰路に着いた。

 それにしても今週の金魂さんの展開は驚きだった。まさか辛い物大好きの金さんが超甘党に変身してしまうとは思わなかった。いやぁ、次回も楽しみだ。 

 

「ただいまぁっと」

 

 真っ暗な玄関で定型文を口にする俺だが返事は返って来ない。

 ミヒロはお子様だからもう寝てしまったのだろうし、アリアが俺を迎え入れてくれる訳がないからな。別にいい、気にしちゃいない。

 俺はさっさと自室へ足を運んだ。

 しかしそこで思いがけない人物が俺を待ち受けていた。

 

「チッ…………なにしてんだよ?」

「…………」

 

 アリアである。

 あのクソ生意気な妹様が、まるで弁慶の立ち往生みたく部屋の扉の前に立ちふさがっているのだ。

 はっきり言って邪魔だ。メッチャ邪魔だ。部屋に入れないではないか、俺が。

 

「……ねぇ…………………のってよ」

「あん?」

 

 顔をうつ向けがちにアリアがなにか言っていたが、声が小さくてよく聞こえないので俺には理解できない。

 俺の様子に苛立ちでも覚えたのか、今度は大きな声で叫んでくる。

 

「だからー、人生相談に乗ってって言ってるのよ!」

「わ、馬鹿! ミヒロが起きちまうだろうが!」

 

 俺は慌ててアリアの口を塞いだ。なに逆ギレしてんだ、この妹様はよ?

 

「分かったからとにかく落ち付け。人生相談だろうが何だろうが乗ってやるから、な……?」

「……うん」

「落ち着いたら部屋に入るぞ、ここじゃ話もできやしねえ」

 

 俺が自室の扉を開けようとすると、

 

「あっ」

 

 とアリアが小さな悲鳴を漏らした。

 なに? 嫌な予感しかしないんだけど……扉を開けた俺の目に飛び込んで来たのは、見るも無残に荒らされたままの自室であった。

 ……このアマ、掃除してねえ。

 家探ししたらばれない様に片づけるのが世間のマナーだろ? しかしこの妹様が掃除をしている所を俺はついぞ見た事がない。もしかしたら掃除できないのかもしれないな。

 茫然としている俺の袖を、アリアが引っ張った。

 

「ねえ…………私の部屋……行こ」

「お、おう」

 

 途切れがちな台詞に俺は思わずドキマギしてしまっていた。……妹なのに、軽くショックだ。しかしアリア、俺以外にその言葉を口にするなよ。相手が勘違いして押し倒されても知らんからな。

 暗がりで良く分からんが、アリアの顔は上気しているような気がする。

 それにしてもアリアの部屋か……入るのは何年ぶりだろうか。互いに行き来しなくなったのはいつからだったろうな? 覚えていない。まるで北と南に分かれて喧嘩している国みたいに、俺たちの間には見えない国境線でも張られている感じがする。

 

「……入って」

「ああ、お邪魔します」

 

 国境を越えるとそこは雪国……ではなく、変哲もない部屋だった。

 ただ壁紙が俺の部屋と違いやや青い色で、空気がなんだか甘ったるく、抱き枕に丁度良さそうな人形が数個転がっている様はまさしく女の子の部屋といった様相である。

 

「キモ……あんまりジロジロ見んなバカカズマ」

「……へーいへい」

 

 まったく妹様には敵いませんね。自分から招き入れといてこの仕打ち、嬉しくって涙がちょちょ切れそうだわ。

 アリアは電源の入ったデスクトップPCの前の椅子に腰かけた。

 俺が座れそうなものは……アリアのベッドぐらいしかない。いや、流石にマズイだろう。

 

「おい、座布団ぐらい出せよ」

「…………チッ」

 

 アリアは舌打ちすると、心底嫌そうにやけにモコモコした分厚い座布団を投げて来た。

 客に物を投げんな! 

 ホント不遜っていうかなんていうか、高圧的でイケ好かねえ女である。チッ、しゃあないから座っといてやるぜ。感謝しろ、妹様め。

 

「で、なんだよ?」

「……なにが?」

「人生相談」

 

 片言の会話を交わす俺たち。

 普段無視し合っている間柄だからこれでも十分すぎるぐらいだ。俺は早く人生相談って奴を済ませて自室に戻りたいね。文句あっか。

 

「早くしないと帰っちまうぞ」

「わ、分かったわよ…………ほら……」

 

 急かす俺にアリアは1冊の本を差し出してきた。「らき☆シス」だ。

 

「……これがなに? 返しとけって言っただろ」

「これの持ち主…………実はあたしなんだ」

「…………ふ」

 

 バウゥゥゥゥゥゥカッか、こいつは!?

 人が善意で詮索せず、友人に返しておいてくれという体(てい)で渡した書物なのに……持ち主不明のままで事が完了するはずだったのに!

 よりにもよって、この妹様は自分からカミングアウトしやがった。

 分かってる?

 それはただの妹モノの漫画+小説じゃないんだぜ?

 年齢制限がつく、俺でも手が出ない代物だというのに、持ち主を名乗り出てどうするんだ。あー、ダル。さっさと帰って部屋片して寝よう。

 

「中、見たんでしょ?」

「……チッ、ああ見たよ」

「で、どうだった?」

 

 なにがだよ?

 

「内容、面白かった? 興奮した? 萌えた? これ売れそうかな?」

「……そんな批評出来る程呼んでねえよ……ち、チラ見しただけだかんな」

 

 エロ本まじまじ凝視してましたなんて答えられるか! しかも内容は妹モノで近親相姦モノ……どんな変態だよ俺は!?

 アリアが俺をどう思っているか薄々感じ取れる質問だな。やはり今後も無視しよう。それがお互いのためだ。

 

「そもそもなんでそんな事訊いてくるわけ? 『らき☆シス』っての? そんなアニメみたいなものって普通に市販されてる物だろ?」

 

 質問に質問で返してやったぜ。ざまあみろ。と……

 俺に強烈なカウンターパンチが返って来た。

 

「だって、あたしが作者だもん」

「なっ……!?」

 

 しかもジョー矢吹ばりのクロスカウンター!

 無論、クロス破りなんて使えない俺はまともに喰らう。

 ぐぅ、耐えろ! 耐えるんだカズマ・アーディガン! ここで倒れたら負けだ。

 きっと空耳だ。そうだ、そうに違いない。それ以外があってあるものか!

 俺の妹が、妹モノで近親相姦モノの漫画+小説の作者だなんて……信じられる? 俺の嘆きを余所にアリアは実に活き活きと話し始めた。

 

「同人誌っていうのよ。原作のアニメや漫画のファンの人がオリジナルのストーリーを書いて、即売会で売り合うの。中には原作以上に原作っぽい作品もあるんだよ!」

 

 さいですか。

 でもお前のは原作レイプだな。裸にひん剥かれたキャラが可哀想だ。

 

「でねあたしは『らき☆シス』の漫画とあたしのオリジナルの妹小説書いてみたわけ。ねえねえ、絵上手い? 絵上手い? 話面白い? 萌えた? 萌えたでしょ? ねえねえねえったら」

「ヴァーーー、うるせえ!!」

 

 せがむようなアリアの態度に、俺の理性は限界を超えた。

 空耳だと思いたいのに……このアマ! そんなに楽しそうな顔されたら否定したいのに否定できねえじゃねえか!

 

「チラ見しただけで読んでねえっつってんだろうが! それになに? お前は兄貴にエロ本の感想訊くわけ!?」

「あ…………!」

 

 自分の言動がかなり恥ずかしい事に気付いたのか、アリアは赤面してうつ向いてしまった。

 そして沈黙。

 …………………居づれえ。

 なんだこの空気? とんでもなく重い上に、粘着質に絡みついてくる。払っても払っても取りきれない、そんな感じ。

 運び屋心得その1「36計逃げるが勝ち」……はやくこの場を去ってしまおう。

 

「話はお終いか? じゃあ俺は帰るからな」

「──── ったくせに……」

「あん?」

「人生相談乗るって言ったくせに……!」

 

 アリアが俺を非難するような視線をぶつけて来た。

 運び屋心得その36「言った事は必ず守れ、逆に言わせれば勝ち」……か。

 チッ、ここで逃げるのは簡単だがそれでは男が廃(すた)っちまう。言質も取られちまってるしな、ここは協力して人生相談って奴を速やかに終わらせる。俺が解放されるための最速かつ唯一の条件だろう。

 運び屋心得その15「口は災いの元、口は飯を食うことだけに務めるべきだ」だぜ、まったく。

 俺はため息をつきながらアリアに訊く。

 

「分かったよ。で、お前は俺になにをさせたい訳?」

「これ見てよ」

 

 アリアはパソコンを操作して自分のメールボックスを開け、その中の一つを俺に見せた。

 …………なんだか、面接云々とかいう単語が目に付いた。

 

「なになに、『連絡有難うございます、アリにゃん様』……ってアリにゃんってお前かよ!?」

「う、うるさいわね。HN(ハンドルネーム)ぐらい好きにしてもいいでしょ」

 

 俺の突っ込みに頬を膨らませてそっぽ向いてしまう。はいはい、可愛い可愛い。

 

「『この度は持ち込み希望のメール有難うございます。つきましては一度お会いして原文を確認の後、採用するか検討したいと愚考しております。よろしければ、指定した場所まで来ていただければ』……ってなにこれ? なんだかコイツ、お前が漫画だか小説を出版社に持ち込みするみたいな口振りだな、ハハ」

「その通りよ」

 

 アリアは胸を張り、誇らしげに答えた。豊満な胸がプルンと揺れる。はいはい、でかいでかい。

 

「ってちょっと待て ── ッ!!」

 

 胸見てる場合ではなかった。

 この妹様は信じられないことをのたまったのだ。

 

「持ち込みってもしかしてコレ!? 正気かお前!?」

「ふふん、自分で言うのも何だけど相当の自信作よ!」

 

 嘘だ!

 冒頭3行で、擬音を鳴らして敵が登場するような小説……出版社に採用されるわけがない。

 しかも登場人物の名前が、なんだか俺とミヒロに似ていたしな。吐き気がする。

 

「もちろん漫画はアニメのモノだから使えないけど、小説の方は私のオリジナルだからイケるはず。妹萌えを満載した、妹の妹による妹のための小説よ!」

 

 あ、頭痛い……そういやコイツ、ミヒロ大好きだったな。

 それが転じて妹好きになり、妹モノの同人誌を書き、さらに内容は卑猥なモノに……いやいや、理屈通ってませんって。オマエ、小説の中で妹泣かせて何がしたいわけ?

 頭の中身どうなってんだ? 思考回路曲がりくねって関係ない結論に行きついてカビ生えてんじゃないかな。多分、脳味噌腐ってんだなこの女。

 

「どうどう!? イケると思わない!?」

「あ、ああ……そうだな、イケるんじゃないか」

「イケるって、何発? ねえ何発なの?」

 

 ふへへ、ぶっ殺そうかなコイツ。

 さり気なく実に良い笑顔で、兄貴にセクシャルなハラスメントするのは止めてくれ。対応に困る。

 

「で、結局なんなわけ?」

「え……なにが?」

「だからー、そのメールの内容だよ! 人生相談、それに関係してんだろ!?」

「あー、そうそう、そうだったー」

 

 テヘヘと舌を出してはにかむアリアは、他人が見れば間違いなく可愛らしく映るだろう。俺はぶっ飛ばしたいけどね。

 アリアは本題を切り出してきた。

 

「実は持ち込み希望のメール出したんだけど、そしたら実際に会いたいって返事が返って来たの。出版社の人が私の才能を見抜いたわけ、どうどう、これって凄くない?」

「はいはい、すごいすごい」

 

 この妹様はあの小説を本気で持ち込みするつもりらしい。

 勇気があるというかなんというか……俺には理解しがたい。それに好きな事の話になると途端に饒舌になるなぁ。普段もこれの一割ぐらい愛想振りまいて欲しいもんだ。

 

「それで明日、その編集者さんに会いにいくんだけど……」

「マジか?」

 

 持ち込みしようというアリアもアリアだが、応じる編集者も編集者だ。しかし ──

 

「でもよ……いくらなんでも話がうますぎないか?」

 

 まるで振って沸いたような幸運、とでも言えば良いのかな。かなり怪しい。

 

「………………そう?」

 

 残念なことに、アリアは一切の疑いを持っていなかったようだけど……。

 胡散臭さはプンプンするが、なにより俺が眉唾物だと思う理由はたった一つ。

 俺、文才ないもん。

 日誌読み返してみれば分かる。

 長年小説を執筆し、持ち込みを続けて来た小説家志望なら話は分かるぜ。けどよ、アリアは俺の双子なんだ。アリアも文章書くスキルは俺と似たようなモンだと勝手に想像する。

 まあ仮に才能があったとしても、18禁モノの小説持ち込む女子高生なんか普通採用するか?

 俺ならしないね。

 

「その編集者って男? 女?」

「多分男だと思うけど?」

「例えばその編集者ってのがウソっぱちでさ。なんか変な奴らだったら、お前危ねえんじゃないか?」

 

 世の中の編集者が全てそうとは言いたかないが、アリアみたいなポッと出の小娘は世の悪い輩にとっては良い喰い物だろう。

 編集者を語って近づくナンパ男……なんてのがいないとも限らないからな。

 それに身内贔屓(みうちびいき)じゃないが、アリアはかなりの美少女だ。女子高生大好きな某漫画家が援助交際で捕まったりするような御時世だからな。アリア目当てで近づく変態男がいてもオカシクない。

 ……俺が渋い顔で腕を組むと、アリアが顔を覗き込んできた。

 

「……へー、なに? バカカズマのくせに、あたしのこと心配なんだ?」

「ばっ……バカ言え、誰がお前の心配なんか……!」

 

 俺がそっぽ向くと、アリアは勝ち誇ったような笑みを浮かべやがる。

 

「キモーイ。超キモイんですけど? 実の妹がいるのにシスコンとかありえなくない?」

「なんだと!? 俺はシスコンじゃねえ!!」

 

 口には出さねえが、俺はお前が大嫌いだ!!

 

「じゃあお前はどうなんだよ! このシスコン女!!」

「あたしはいいの。あたしが想像してもミヒロは汚れないもん。でもアンタはだめ。汚いから、っていうか男って時点で汚い生き物だしー……えんがちょ」

「ぶるああああぁぁぁっ!!」

 

 俺は砕けそうになる心を、奇声を上げることでギリギリ繋ぎ止めた。

 このアマ……男が汚いだと?

 全国の青少年の皆さんに謝りなさい! あとミヒロにもだ! お前が淫猥(いんわい)な想像して書物まで執筆してると知ったらミヒロ泣くぞ!

 

「ふーふー……」

「あはははは、あー面白い」

 

 意地クソ悪く笑うアリア。この妹様はなんとか息を落ちつける俺を散々見下した後、

 

「はいはい、仕方ないわね。本当は嫌なんだけど、アンタがどーーしても(・・・・・)って言うんなら連れて行ってあげてもいいわよ?」

「………………くっ」

 

 なんという……なんという上から目線発言であろうか。

 俺に人生相談と称してこの話を持ちかける辺り、コイツは本当は怖くてしょうがないのだと思う。

 持ち込みしたいけど相手の編集者は男、もし何かされたらどうしよう……不安になるのも無理はない。女子高生が一人で行くのは相当に勇気がいるだろう。

 要するに、アリアは一人行くのは怖いから、できれば俺に同伴して欲しいのだ。

 偶発的に秘密を知ってしまったゴミ扱いしている兄貴でも、いないよりはまし(・・・・・・・・)、ということだろう。

 冗談じゃないぜ。

 運び屋心得その7「受けた依頼は必ず果たす、金と恩と恨み(,,)は必ず返す」だ。

 ここで重要なのは恨みな、恨み。俺はアリアから正式に依頼を受けた訳ではないし、返す恨みは山のように蓄えてある。

 ヴァァァァァァカじゃねえの? 誰が行くか、んなもん! それに物には頼み方ってのがあるんだぜ?

 俺は意地クソ悪く質問してやることにした。

 

「俺が行かねえっつったらどうすんだよ?」

「1人で行く」

「……チイ姉かシホミ姉ちゃんに行ってもらえよ」

「キモ! 何考えてんの、言えるわけないでしょ、こんなこと……」

 

 まぁ、そりゃそうだわな。

 妹を凌辱する小説の持ちこみに行きたいから一緒に来てくれなんて、実の姉に言える訳がない。

 親父もホリスも論外だし、ミヒロは連れていく訳にいかないだろう。

 だからって1人で行こうとするか、普通?

 最も会いに行くのは明日らしいので、今日「らき☆シス」を発見しなければ単独行動する予定だったのだろうけどさー。

 アリアは見てくれだけは可愛いからな……ナンパされたりするかもしれないし。その編集者が悪い奴だったら、幾らアリアでも一人では抵抗するのに限界がある。

 別に心配しちゃいないぜ。

 でもよ、聞いちまった以上気になって仕方ないんだ。

 ……チッ、しゃあねえなぁ。

 

「……分かった。俺が一緒に行ってやるよ」

「はぁ? なに、その口の利き方は? 連れて行って下さい、お願いしますアリア様、でしょ?」

「連れて行ってくれ、お願いします!」

 

 もうどうにでもなれ! 床に頭を擦りつける様は、きっと何処からどう見てもシスコンにしか見えないだろう。

 断言しとくぜ……俺はシスコンなんかじゃねえ!

 俺はアリアが大っ嫌いだ! ソコのところは勘違いして欲しくないね、まったく……

 

 

 

      ●

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 6月20日】

 

 悪夢のような夜が明け、翌日になりました。

 

 夢オチだったらなぁという淡い願いを胸に秘め朝食に臨む俺。

 当然、ミヒロとアリアが食卓に同席しているが、アリアは俺のことを完全スルーである。もはや空気。エアカズマとなった俺は手早く食事を済ませて自室に戻る事にした。

 昨日の出来事があったから、アリアの態度に変化でもあるのかと思っていたが……冷戦は継続されているようだ。 

 別にいい。

 これで昨日のことが夢だったらそれでいい。

 

「さあ、行くわよ、バカカズマ!」

「うぇーい」

「なに? その気の抜けたコーラみたいな返事は? シャキッとしなさい、シャキっと!」

 

 できるかっての。

 やはり現実と言うのは残酷なもので、俺はアリアに引き摺られて「エリア」の繁華街に連れて来られた。なぜコイツは二人っきりになると饒舌になるのだろうか? 食卓でも普通に話掛けてくりゃいいのに、まったく理解しがたい。

 とにかく、やる気……出ねえ。

 折角の俺の休日を、みたくもない妹様の面倒みて潰されるのか……ふ、最高にやるせないね。

 

「おい、何処で待ち合わせてんだよ?」

「もうちょっと……ほらあそこよ!」

 

 うるせえなぁ。無駄にテンション上げやがって、騒がしいたらないぜ。

 アリアが指差した先には、何処かの出版社のロビーのようだった。「イスルギ文庫」? 俺は小説読まないから分からないけど、割とメジャーな出版社なんじゃねえのココ?

 

「あんたはここで待ってて!」

 

 入り口を潜るアリアに続こうとしたら怒られた。

 

「なにかあったら携帯で連絡するから、すぐに飛んできてよ!」

「…………」

「返事は!?」

「……はいはい」

 

 ここまで連れて来て門前払いですか?

 折角同行したのだから、俺だって編集者という人間を見てみたい。だってそうだろう? 俺たちが普段読んでいる本という本全てに編集者がおり、内容を調整して俺たちに届けてくれているのだ。

 どんな仕事しているのかは、ただ純粋に興味はあった。

 ま、願いは叶わないけどね……。

 

「まあ、頑張れよ」

「キモ! 言っておくけどお礼なんてしないからね!」

 

 ……なぁ、俺泣いていいのかな?

 理不尽だよー、理不尽だよー。なにが理不尽ってもう全部。きっと世の中なんて理不尽とエゴで出来てるんだ。ケッ、やってらんねえ。

 

「……つ、付いてこないでいいけど、すぐ傍にはいてよね。空メール送ったらすぐに飛んできて」

「あいあい、了解」

 

 どないせいちゅうねん? 見返りなしで協力を求めるこの妹様は間違いなく理不尽の権化だね。

 それでも出版社の前で待機する俺はヘタレなのだろうか?

 メールを見逃さないためにケータイを握りしめる。……ふう、それにしても俺が来た意味ってあんのかね?

 

 

 

 

 30分ほど経過……アリアからSOSのメールはなかった。

 だが俺の方がそろそろ限界だ。本職の警備員でもないのに、ずっと同じ場所で待機なんてしてられるかよ。と、そのときスーツを見事に着こなした男性が入り口から姿を現した。

 アリアも一緒だ。

 

「よう、お疲れ」

「あれ? まだ居たんだ、アンタ?」

「ふふふ、さらっとトンデモないこと言いやがったな。もし俺の中にリミットゲージがあったら速攻で超級武神覇斬《ちょうきゅうぶしんはざん》だよ、アリにゃん?」

 

 まだいたんだ……マダイタンダ……

 ホントにコイツだきゃー、いつか殺す! 

 ちなみに、超級武神覇斬というのはFF7の主人公クラ○ドの最強リミット技である。

 心に誓う熱き思い。だが水を注すようにスーツの男性が俺を見下ろしてきた。かなり細身で背が高い、雰囲気を比喩するなら抜き身の日本刀のようだ。

 

「アリにゃん様のお兄様ですか?」

「え、ええ、そうですが……」

 

 いかにもビジネスマン風の中年男性が「アリにゃん」とか言うと違和感を覚えるなぁ。

 

「私、こういう者です」

「あ、ども」

 

 ビジネスマンは丁寧にお辞儀し、名刺を俺に渡してくれた。

 「イスルギ文庫 出版部編集者 クリティック」と書かれている。おお、これが世に噂される名刺というものか! 初めて見た!

 頭を上げたクリティックが言う。

 

「暫くの間、妹さんをお借りしたい」

「はぁ……?」

「アリにゃん様の着眼点は非常にユニークで独創的です。上手くして出版に漕ぎ着ければヒットも夢ではないでしょう」

 

 そういうもんか?

 俺にはまったく理解できなかったが、編集者がこう言うのだからそうなのだろう。へー、実はアリアの奴ホントに文才あったんだな。若干、というかかなり気に食わんけど、編集者にこう評価してもらえるとはあっぱれだぜ。

 でもどうしてアリアを貸してくれという話になるのだろう?

 

「アリにゃん様には才能があります。しかし如何せん独学で執筆を続けていたようですので、基本的な文法が出来ていません。作品を売り出すには最低限の作法は知っておかねばなりません」

 

 んー、まあクリティックの言うとおりだろうな。俺は黙って話を聞く。

 

「ですので数日妹さんを私たちがお預かりし、レクチャーをします。どうでしょう? 妹さんを私たちに貸して貰えないでしょうか?」

「そういう話なら俺は全然OKっすよ。でも、アイツは……?」

 

 俺が視線を向けると、アリアは満面の笑みを浮かべながら言った。俺でなく、クリティックに。

 

「ねえねえ早く行きましょう? あたしもっと勉強したいんだ」

「分かっていますともアリにゃん。では参りましょうか」

 

 あれ? 俺、スルー?

 アリアの奴、クリティックのこと完全に信用しきっているな。言っていることも筋が通っていたし真面目そうな人だったからな。当初俺が懸念していた悪い人物像からはかけ離れている。ま、あの人なら大丈夫だろう。

 俺は遠ざかる2人の背中を眺めながら思っていた。

 

「アイツがいいってんなら別にいいか……でも俺、マジ、エアカズマ」

 

 もしかして俺、体透けてないだろうな?

 あんまりスルー続けられると、ホントに自分がここに居るのか疑いたくなる時があるぜ。

 ま、アリアの持ちかけて来た人生相談はこれで終わりだ。

 約束は守ったからな。運び屋心得その36「言った事は必ず守れ、逆に言わせれば勝ち」には反していないはずだ。

 

「へっ……精々頑張んな」

 

 クソ生意気な妹様の背中に俺は吐き捨ててやった。

 別に心配しているわけじゃないぞ。

 何度も言うようだが、俺はアリアが大嫌いだ。可愛げゼロだし、俺を邪険に扱うし、まさしく俺の天敵のような存在だと言っていいね。

 

 とにかく、これで俺は自由だ。

 帰って、コミックの金魂さんでも読み返そーっと。

 俺は軽い足取りで実家へと戻るのであった……

 

 

 

 結局この日、アリアは帰って来なかった。

 

 

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 6月21日】

 

 今日も親父たちは帰って来ない。

 そしてアリアもいない。

 学校を終え、自転車便の仕事を終えた俺を迎えてくれたのはささやかな平穏の日々である。ああ、幸せ。

 

「お兄ちゃん、アリ姉ちゃんは?」

「知らねー」

 

 夕食を共にするミヒロが訊いてきたので答えてやった。

 普段アリアから話しかけられまくってるので気になるのだろう。でも俺は気にならないね。むしろ、心に平穏を保ったまま食卓に座れることを喜びたい気分だ。

 ビバ、平和!

 これで倒産の危機が去ってくれれば言うことはない……

 

 結局、この日もアリアは帰って来なかった。

 

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 6月22日】

 

 今日も親父たちは帰って来れない。

 自転車便の傍ら様子を窺(うかが)ってみたが、会社内は締切前の漫画家の仕事場のような修羅場と化していた。全員目が血走っている。こりゃあ余計なことは言わない方がよさそうだ。

 そんな訳で、親父たちにアリアの事は伝えていない。

 今日もアリアは家に居なかった。 

 ……なんだか、火が消えたよう……とまでは言わないが、この家ってこんなに広かったんだなって思う。

 冷戦中の俺たちだが、相手が突然消えるってのは違和感しか覚えないな。

 ま、アリアの奴は夢に向かって頑張ってんだから邪魔しちゃ悪いよな……でもよ、連絡の一つくらい入れてもバチは当たんねえんじゃねえかな?

 

 結局、この日もアリアは帰って来なかった。

 

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 6月23日】

 

 この日は些細な変化があった。

 アリアから連絡があったのだ。俺の携帯に短く4文字で終わってしまうようなメール。実に味気ないモノだったが、

 

『タスケテ』

 

 と書かれていた。

 不審に思った俺は返信をしてみたが、1時間待てどもアリアからの連絡は返って来なかった。

 ……言わんこっちゃない。

 なにかのトラブルに巻き込まれやがったな?

 今更SOSのメールか。お前との人生相談は3日前に終了してんだよ、助けに行く義理なんて俺にはないね。

 

「お兄ちゃん」

「ミヒロか、どうした?」

 

 ミヒロが俺の部屋の扉を開けて立っていた。

 

「アリ姉ちゃん、なにかあったんだよね?」

「…………」

「助けに行くんだよね?」

「…………へっ」

 

 ヴァァァァァァァァカじゃねえの?

 ここに宣言しよう!

 俺はアリアが大っ嫌いだ!

 高慢ちきで我がままで、俺のことをゴミ扱いして無視ばっかりするくせに、必要な時だけ頼ってきたりする「お前、それは調子よすぎじゃね?」と思いたくなるクソ生意気な妹だ。

 外面ばっかり良くて、胸がでかくて、成績優秀で人気者で教師受けもいい……俺に似ても似つかねえ双子の妹だ。

 ああ、気に食わないね。

 俺はアリアが大嫌いさ。

 でもな。それでもアイツは俺の妹なんだよな……。

 家族なんだよ。

 忘れちゃいけねえ、そこだけは忘れちゃいけないんだ!

 

「ミヒロ、俺を誰だと思ってやがる? 俺はカズマ・アーディガン、男の中の男だぜ!」

「それ漫画の台詞でしょ?」

「うぐッ……」

 

 見透かされたか。ミヒロ恐ろしい子、可愛い妹だが俺はお前の将来が末恐ろしいよ。

 

「でもなあ……」

 

 俺はアリアを助けに行こうにも居場所を知らない。

 あのクリティックという男を信用していたからな。名刺もよくよく今見ると、会社名と名前しか書いていない。住所や電話番号が書かれていない名刺なんて存在するのだろうか?

 偽造だな、十中八九間違いなく。

 野郎、手の込んだことしやがって! 目的は確実にアリア本人だろう。

 急がねえと、何をされてるか分かったもんじゃねえ。

 

「お兄ちゃん」

「なんだミヒロ? お兄ちゃんは今考え事をしていて忙しい ──」

「アリ姉ちゃんの居場所なら分かるよ」

 

 なに? それはどういうことだミヒロ?

 

「じゃじゃーん、発信器追跡装置『キャレット』ちゃんだよ!」

 

 ミヒロが懐から赤い液晶付きの人形を取り出した。

 なんだそりゃ? それに発信器って……

 

「こんなこともあろうかと、アリ姉ちゃんの携帯に発信器仕込んどいたの☆」

「へ、へー……凄いなあミヒロは……」

 

 語尾に☆付けてキャピっても誤魔化されんぞ。

 実の姉の携帯に発信器を仕込むとは、発想がすっ跳んでやがる。お前はそれを使ってなにかしたいわけ? なんて言えばいいのかな……10歳にして腹の中真っ黒なんじゃないか、この妹様は?

 はっ、まさか俺の携帯にも付けていないだろうな!?

 

「ま・さ・か( ̄ー ̄)(ニヤリ)」

「そ、そっか……でも助かったぜミヒロ」

 

 これでアリアの所まで行ける。

 ホントはアリアを助けに行くなんて不本意だけどよ、行くっきゃねえだろ?

 運び屋心得その7「受けた依頼は必ず果たす、金と恩と恨みは必ず返す」だ。

 まだあの人生相談は終わっていなかったみたいだぜ。アリアはクリティックと会う事を不安がっていた。一度は消えた不安が、今度は恐怖として蘇っていることだろう。

 受けた依頼は必ず果たす。運び屋として最低限のモラルだぜ。

 待ってろアリア、今、迎えに行ってやる。

 ここで勘違いしないで貰いたいのは、これはアリアのためではなく、俺の中の運び屋心得を守るためということだ。

 俺はアリアが大嫌いだからな、アイツのためになんか動いてやんねえよ!

 

「行ってくるぜミヒロ!」

「夕食までには戻って来てねお兄ちゃん!」

「あいよ!」

 

 愛機 ── ヴァルホーク号をぶっ飛ばして俺は目的地に向かった。

 俺の脚ならあっという間だね。

 後……帰ってきたら携帯をバラシテみよう。怖いったらありゃしないからな……。

 

 

 

      ●

 

 

 

 辿り着いたのは古びたテナントビルだった。

 繁華街から少し離れた所に立っていて人気がなく、ビルにもほとんど店が入っていない。俺は良く分からないだが、こういうビルってスナックとかバーが沢山入る建物だよな?

 なのにほとんど店が入っていないというのが怪しい。怪しすぎる。

 そして唯一店が入っているのは5階「恥の記録社」という店……胡散臭さ全開である。

 扉に鍵は掛かっていなかったので、俺は抜き足で忍び込む。

 

「いいよーアリにゃん、もっと足を崩してみてー」

 

 クリティックの声が聞こえた。

 先日の真面目そうな声ではなく、ナンパ野郎みたいな間延びした口調だ。

 野郎。猫被ってやがったな。

 俺が侵入していることに気付かないクリティックは、薄気味悪い口調で続ける。

 

「いいねー。もっと胸を腕で挟んで強調してね。アリにゃんは胸が売りなんだからー、そうそう、いいよいいよー。あと上目使いで御主人様を見上げるような視線で ──」

 

── ブツンッ

 俺の中で何かが切れた。

 

「テメエ、人様ん家の妹になにしてやがる!?」

「── へっ?」

 

 突然登場した俺に、クリティックは目を白黒させて驚いていた。

 

「クリティック、よくも騙してくれやがったな!!」

「お、お兄さん? いや違うんだ、これには事情がね ──」

「問答無用!!」

 

 俺はクリティックの顔面めがけて拳を放った。

 クリティックはひょろい中年男性だ。対して俺は自転車便で普段から体を酷使している若者。運び屋の体力舐めんなよ。

 クリティックは鼻血を撒き散らせ、一撃で白眼を剥いて気絶した。

 ざまあみろ、この変態め。天誅だ。さぁて、あとはアリアを連れ帰って人生相談終了だ。

 

「もう大丈夫だぞアリア ──── って、お前なにやってんの?」

「こっち見んな、バカカズマ!」

「見んなっつわれてもなぁ……」

 

 俺の視界に飛び込んできたアリアの姿は信じられない物だった。

 真っ裸。

 ではないよ。もしそうなら今この瞬間に俺はアリアによって全殺しにされているだろうからだ。しかし今のアリアの姿は考えようによっては全裸よりも恥ずかしいモノだった。

 白いボディラインの浮き出る全身スーツを身に纏い、赤いカラーコンタクト入れて、頭に妙な髪飾りを着けている。

 

「お前、それ……もしかしてコスプレか?」

「言うな!!」

 

 アリアは激昂して叫んでいた。

 ……うんうん、やっぱりコスプレなんだな。クリティックの野郎、文法作法を教えるとか言ったくせに、やっていることはアリアをコスプレさせて撮影会か? とんだ変態野郎だぜ。

 しかしアリアが何のアニメのキャラのコスプレをしているのか、俺にも分かった。

 俺が詳しいわけでなく、それくらいメジャーなキャラなのだ。

 新世紀○ヴァンゲリオンの○波 レイだ。白いスーツはプラグスーツだろう。それにしても恐ろしいぐらい似てやがるな……髪の毛が元々青のショートだからか? カツラも被っていないので違和感が仕事をしていない。

 最も、雰囲気は全く似ていない。

 助けに来てやった俺を射殺さんばかりに睨みつけてきやがる。性格の悪さがプンプン滲み出てきやがるね。寡黙な○波とは対照的である。

 

「ま、いいや。さっさと着替えろ。晩飯までに帰るぞ」

「う……うん」

 

 アリアは奥の更衣室に引っこんだ。

 俺の足元には気絶したクリティック。

 

「まったく、とんだ狸親父だったぜ」

 

 追い打ちとばかりに頭を踏みつけてやる。

 小さな悲鳴が上がったような気がするのは気のせいだろう。

 

「おまたせ!」

「おう」

 

 普段着に戻ったアリアを連れて店を出る。

 そして俺たちは帰路についた……。

 

 

 

 

 

 実家までの道のりを、俺はアリアをヴァルホーク号の荷台に載せながら進んだ。

 普段から自転車便で働いている俺だ。女子高生1人くらい、いつもの荷物に比べてれば全然軽いね。楽勝だ。

 帰り道でアリアが独白を始める。

 

「あのおっさん、最初はちゃんと文法を教えてくれてたんだ」

 

 そうなのか?

 最後の様子を見る限りじゃ、その名残なんて一欠けらもなかったぞ。

 

「でも途中から登場キャラの気持ちになりきることが大切だって言い始めて、あたしもなるほどって思っちゃたわけ……最初はキャラの台詞を音読してみたりしてさ、その内だんだんエスカレートして色んな服装に着替えてみたりして……初めは楽しかったよ。色々、可愛い服を着れるんだもん」

 

 ほう、コイツにそんな女の子らしい一面があるとはね。

 部屋も女の子っぽかったし、俺に見せないだけで可愛い服を着たいという願望はあるのだろう。

 無言で話を聞く俺に、アリアは続ける。

 

「でもね急にオカシクなったの……いろんなアニメのコスプレさせられて、ポーズ取らされて、写真取られて……あたし、だんだん怖くなってきて……」

「……それで俺にメールを、ね……」

 

 分かるぜ、コイツの気持ち。すげえ分かる。

 怖くて怖くて仕方なかったんだろう……それでも、自分の秘密をばらすことが出来ないから助けを呼ぶこともできない……親父やチイ姉を頼るには自分の秘密をばらさねばならない……イヤだったんだろうな、凄く。コイツ、俺以外の家族大好きだから。

 だから大嫌いな俺でも、秘密を知っている最後に頼りにできる人間だったんだろう。

 それであのメールだ。

 可愛くねえ。ホントに可愛くねえよコイツ。

 消去法で俺を選んだんだぜ。兄貴として立つ瀬がないっての。

 

「でもね……アンタが来た時、凄く嬉しかったんだ……」

 

 コイツ……と、突然なに言い出しやがる?

 

「来てくれた……あたしのために来てくれたんだって……凄く、嬉しかった……」

「アリア……」

 

 やべえ。

 なんだコイツ、急にしおらしくなりやがって。コイツ、アリアの偽物か? 俺の妹はこんなに可愛くなんてねえぞ。

 やべえ、キュンと来ちまった。気持ち悪い、こんな俺自身に吐きそうだ。

 アリアは俺のシャツを握りながら。

 

「あたし……お金が欲しかったんだ……」

 

 今回の持ち込みの理由を語りだした。

 

「今、倒産の危機迎えてるじゃん?」

「ああ、これで36回目だな」

「だからあたしも力になりたかったんだ」

 

 紡がれるアリアの本音。

 

「アンタって自転車便やってんじゃん……それにミヒロも節約料理で家計に貢献してるし……なにもしてないのってあたしだけだったから、なにか役に立ちたかったんだ……」

「……そうか」

 

 お前はそんな事考えていたのか。

 俺たちの間に会話が消えてからもう大分長かったからな。お前の悩みなんて俺には気づきようがなかったぜ。

 でもよ、お前の気持ちは良く分かる。

 俺も同じ気持ちだったからな。家族のために力になりたい。その手段が自転車便か18禁小説の持ち込みかって違いだけだからな……俺たちの根っこの部分は一緒なんだろうぜ。

 アリア……お前はやっぱり俺の妹だぜ。そして家族だ。

 確かに俺はクソ生意気なお前が大嫌いだし、無視し合った方が精神衛生上は健康なんだろうがよ、それでもお前は俺の家族だ。

 家族が困ってるのを見過ごせるかってんだ!

 俺はカズマ・アーディガン、男の中の男を目指してんだ!

 

「アリア」

 

 俺は久しぶりに妹を名前で呼んだ。

 

「困った事があったら相談しろ。俺で良ければいくらでも人生相談に乗ってやる」

「……うん」

 

 アリアが俺の背中に体を預けて来た。

 なんだろう? クソ生意気な妹様なのに、コイツの体ってこんなに小さかったっけと、ドギマギしてしまう自分に気付く。

 落ち付け俺! コイツはアリアだ、妹なんだぞ!

 

「ありがとう」

 

 ………………………なんだって?

 アリアが……アリアが俺に礼を言いやがった……。

 嘘だろ? こんなこと初めてだ。礼を言われただけなのに妙に嬉しい。

 嬉しいだけじゃくて体や顔が熱い。胸がチリチリする……なんだこの気分?

 

「頼りにしてるから……お兄ちゃん」

「お、おう、任せとけ!」

 

 俺は顔の熱さを紛らわせるために、ヴァルホーク号を全速力で漕いだ。

 ……あのアリアが俺のことを「お兄ちゃん」と呼びやがった。

 信じらんねえ。クソ生意気な妹様が、なに殊勝になってんの? 俺のことをゴミみたいに見下してるあの妹様がだぜ? 信じられねえっての。

 コイツはやっぱりアリアの偽物だ。

 だって俺の妹は、全然可愛くないもんね。

 

── 俺の妹がこんなに可愛いわけがないもんね!

 

 だが裏腹に俺の心臓は激しく脈打っている。全力疾走しているせいだと思いたいね。……俺ってシスコンの気があったのかな? 軽くショックだ。

 ま、なんにせよ。

 

「帰ろうぜ、俺たちの家によ!」

「うん!」

 

 俺は妹様を荷台に乗せて、実家に向かって疾走するのだった。

 

 

 

 

 

 

ここは高校がなぜか密集する土地『エリア』。

『エリア』には個性豊かな人間が沢山いる。

今日も、楽しく愉快な仲間達がアホな事件を巻き起こす。

次はどんな事件が起こるのだろう……それは誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

【ヴァルストーク営業日誌 7月2日】

 

 あれからしばらく経って、俺たちヴァルストークファミリーがどうなったかというと

 

── お父さん、倒産の危機は回避されました!

 

 ふっ、俺ギャグセンスが皆無だから、もうこの路線でいくもんね。

 なにはともあれ、36回目の倒産の危機は回避された。

 親父やチイ姉の働きが功を奏した……訳ではない。

 ではどうやったかと言うと、驚くべき事にアリアの口座に多額の金額が振り込まれていたため、それを使って当面の倒産の危機を乗り切ったと言う訳だ。

 ……なに? 分かりづらい?

 なら具体的に書いてやる。

 信じられない事に、クリティックの狸親父め……あの時撮り溜めた写真で、アリアのコスプレ写真集を売り出しやがった!

 しかもそれが大ヒット!

 世の中の奴ら……感性が狂ってやがる! 人の妹様をなんだと思ってやがんだ!

 ま、もちろん肖像権の侵害である。

 だがクリティックの奴先手を打って来やがった。

 要するに、売上の一部を口止め料として入金してきたわけさ。

 俺たちは喉から手が出るほど金が欲しかったからな。まさに渡りに船ってやつ? 裁判沙汰にすると時間と金がかかっちまうからな……俺たちにそんな余裕はない。

 ありがたく頂戴いたしました。

 無論、アリアはキレていたがどうでもいいね。

 俺たちゃファミリー。個人よりもファミリーの方が優先されるのだ。

 こうして俺たちヴァルストークファミリーは通算36回目の倒産危機を無事乗り切ったのだった。

 ……二度と、倒産の危機が来ない事を節に願う。

 

 あ、日誌のページがないな。

 今日の日誌はこれで終わりだ。

 次回から新しいノートに日誌を付ける事にしよう ──

 

 

 

 

 




<キャラ紹介>
カズマ・アーディガン:ジェネ高2年、ヴァルストークファミリーの長男坊。自転車便でファミリーの仕事を手伝っている。双子の妹(原作は違います)のアリアとは犬猿の仲。恋人欲しいけど……そんな話が浮上しないのも悩みの一つ。

アリア・アーディガン:ジェネ高2年、ファミリーの3女。生成優秀、容姿端麗とカズマで友人も多いが、その正体は重度のシスコンで同人誌まで書いている隠れオタク。ミヒロラブ! バカカズマ死ね! と思っているらしい。(原作と設定違い元々家族という設定)

ミヒロ・アーディガン;ファミリーの4女、10歳の幼女。家事全般と家計の管理を任されているしっかり者だが、腹黒疑惑が絶えない。家族はみんな大好き。

クリティック:恥の記録社でなにかやってる中年。アリアの写真集で大儲けしたらしい。その後の行方は不明。




<次・回・予・告>

エクセレン「キョウスケ・ナンブ曰く『俺の彼女がこんなに可愛いわけがない』!」

キョウスケ「…………」

エクセレン「つまりーこの言葉の意味はー、『アイラビューエクセレン、俺は君が愛しくてしょうがないよ。なんでも好きな物を言ってごらん。買ってあげるぜ!』って意味よね、キョウスケ?」

キョウスケ「…………チッ」

エクセレン「キョ、キョウスケがグレちゃった!?」

キョウスケ
「俺の名前を言ってみろォ!! 忘れたとは言わせん!! そんなわけで次回予告だ!!
次回もファミリーの話は続くぞ!
もっかいテーマは「家族愛?」だ! 俺も愛と出番が欲しい!!
次回スパロボ学院「ダイエットは危険の香り」に、リボルビングステェェクッ!!」

エクセレン「『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』もよろしく!!」





どうも北洋です。
今回は絶賛アニメ放送中の「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」ネタでお送りしました。
具体的には1巻と3巻からネタを頂いています。
面白いので興味のある方は読んでみてください。

ケルンバイターさん、sibugakiさん、三国同盟さん、ヴィーアスさん、暗黒ミカンさん感想ありがとうございます!
最近、ラノベやアニメ、マンガからネタをパロるのがマイブームです。
ちなみに原作でアリアはカズマの妹ではありません。でも双子みたいなものです。
早くPS3で動くカズマたちを見てみたいものです。

という訳で次回もカズマたちでお送りします。
文章長くなってしまいましたが、読んで頂きありがとうございました!
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