スパロボ学院 ~ OGだよ、全員集合! ~   作:北洋

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<注・意・事・項>

絶賛キャラ崩壊中!
スパロボWキャラのイメージが崩れるのが嫌な方は閲覧を避けるべきかもしれません!
それでもよいという方はどうぞ!

<もうひとつ注意と謝罪>
この作品はパロディです。当然、原作があるので、興味を持った方は原作をご覧になってみてください。
あと、更新遅れてすいませんでした。


俺たちゃヴァルストークファミリー ~ダイエットは危険の香り~

 

 それは……遠い昔の記憶。

 

 俺が営業日誌をつけ始めるよりも前の話だ。

 双子の妹アリアは今でこそ俺のことをゴミのように毛嫌いしているが、小学生低学年くらいまでは割と俺に懐いてくれていた。

 同じ歳で懐くという表現もオカシイかもしれないが、日が落ちるまで公園で遊び合う程度には仲の良い兄妹だったと思う。

 ……それが高校生になった今では冷戦状態。

 どこで選択肢を間違ったんだろうな?

 俺には正直見当もつかない。

 でも昔からアリアが気の強い女の子であったのは確かだ。 

 しょっちゅう同じクラスの女の子と喧嘩をしていて、それはそれはガキ大将と呼ぶに相応しい暴れん坊っぷりだったと記憶しているね。

 そんな暴れん坊だから怪我することもある。

 ある日公園で遊んでいた俺に、ボロボロになったアリアが泣きべそかきながら言ってきた。

 

『お兄ちゃん、おんぶしてー』

 

 懐かしいな。この頃のアリアは、俺の事をバカカズマではなく兄貴と呼んでくていたんだっけか。

 俺はたいして背丈も違わない重い妹を背負って帰ったものだった。

 今では想像も出来ないね。俺とあのクソ生意気な妹様にもそんな時期があったんだってな……信じられる? 俺には無理だと、断言する。

 しかし、子ども時分に思ったもんだ。

 

『おまえ、そんなにらんぼうものだと、しょうらいけっこうできないぜー』

『いいもん。べつにすきなひといないし』

『おまえなぁ……』

 

 女の子なんだから将来の夢はお嫁さんとか、可愛らしい事いってりゃいいのによ……まったく、この頃から妹様は生意気で可愛げなくていらっしゃる。

 もう少し女の子らしくして欲しいもんだ、と俺は子ども心に思ったもんだったぜ。

 

『もし……』

『あん?』

『もし、だれもすきなひとができなかったら、そのときは ──』

 

 アリアはなんて言っていたっけ? 

 思い出せそうで出てこない、もどかしいとはまさにこの感覚の事だろうぜ。

 とにかく時間は人を変えるもんだ。

 思春期となった俺たち兄弟の間には見えない国境線が張られ、俺は帝国軍アリア側からの一方的な砲撃に耐える毎日を送っている。

 断言するね。

 俺はクソ生意気で可愛げのねえ妹様のことが、大っ嫌いだぜ!

 

 

 

 スパロボ学院 ~OGだよ、全員集合!~

 俺たちゃヴァルストークファミリー ~ダイエットは危険の香り~

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 7月6日】

 

 本日も晴天なり。

 ここはなぜか高校が密集する地域「エリア」。その土地で俺たちヴァルストークファミリーは運び屋をしている。

 風邪穏やかにして波は低く、36回目の倒産の危機を乗り切った我らヴァルストークファミリーの生活は順風満帆と言っていい。ただ……

 

「太った……」

 

 食卓に木霊するアリアの呟きを除いては。

 

「太ったよう……」

「…………」

「太ったんだよう……」

 

 あーウゼえ。

 3回も言わなくても聞こえてるっつーの。俺はアリアの言葉を無視してミヒロ特製の豚の生姜焼きをご飯に乗せ、口にかき込む。

 

「あー、旨い」

 

 まさに至福!

 36回目の倒産危機を乗り越えた我が家の食卓は、少しばかり内容がグレードアップされていた。使っている肉がトリのムネ肉から豚のバラ肉にランクアップしたのだ!

 素晴らしいね。ビバ、贅沢!

 しかもヴァルストークファミリーの四女 ── ミヒロ・アーディガンの料理の腕はプロ並みときている。

 今日も食卓に並ぶミヒロの料理を、毎日アリアは……

 

「美味しいぃー、やっぱりミヒロの料理は最高だね!」

 

 と、パクパク口に運んで、さらにはおかわりまでしていたのだから……そりゃあね、体重もね、アップデートされるわな。自業自得だぜ。

 ま、アリアはミヒロの事が大好きだからな……妹ネタの同人誌書いてしまうぐらいに、妹大好きミヒロ大好きな変態妹様さ。ミヒロの料理なら、ご飯何杯でもいけるってか? ハハ、この変態め!

 

「太ったんだってばー……」

「よかったねアリ姉ちゃん。すくすく大きなってね」

「あーん、ミヒロが虐めるよー」

 

 悪気のないミヒロの言葉にアリアが打ち崩されていた。

 

 ……ああ、申し遅れたな。俺の名前はカズマ・アーディガン。ヴァルストークファミリーの長男坊さ。

 今、食卓には俺、アリア、ミヒロが付いて夕食を共にしている。

 親父たちはまだ会社から帰って来てないな。倒産の危機は回避されたが、経営難は未だに続いている。なもんで社会人組は各々残業をして別々に帰ってくる……若干寂しい気がするが、ま、しゃあない。

 だから、俺たち3人で食卓を囲む光景が日常と化しているのさ。

 

「……そんな気にするなよ、アリア」

 

 つい最近の事件から、俺は妹様のことを名前で呼ぶようになっていた。

 説明するのも面倒なので省くが、少し俺たちの冷戦が終戦に向かいつつある……そう思っているのは俺だけだろうか?

 

「成長期なんだからさ、多少体重増えるのは仕方ないって」

 

 優しい俺の台詞は、きっと世の兄貴の鏡に違いない。

 

「キモッ……うわサイテー、セクハラなんですけどー」

 

 だがこれだ。

 ふふん、どうやら相手は徹底抗戦の構えらしいな。

 もう譲歩などしてやらん。お前なんか俺の敵だもんね、バーカバーカ。

 

「太ったようー、助けてよーミヒロー」

「だってアリ姉ちゃん沢山食べるんだもん。そりゃ太るよ」

「だってー、ミヒロの料理が美味しいだもん。美味しすぎるは罪」

 

 自分の食欲を料理のせいにするな。

 しかしそこはミヒロ。妹様と違って優しい、

 

「しょうがないなー。じゃあ明日から低カロリーの料理作ってあげるね」

「あ、ありがとーミヒロ。大好き! もうチューしちゃう、ちゅちゅ♡」

「もー、や、やめてよ、アリ姉ちゃん!」

 

 アリアの奴、わざわざ食卓を立ってミヒロをハグしに行きやがった。

 そして頬っぺたにキスの乱舞。ミヒロも本気で嫌がっていない様子だ。なんつーの、女姉妹同士のボディタッチって、きっと子猫同士がジャれてる感覚に近いんだろうな。

 

 ……もちろん俺は蚊帳の外……俺、イズ、エアカズマ。

 いいもんね、慣れたもんね。別に寂しくなんてないもんね。

 ふ、お邪魔虫は退場するとするか。見てらんねえし。

 俺は居間のテレビでも見ようと、テレビ前のソファに腰掛けリモコンを操作した。

 

「また悪の組織が、謎の仮面の男に襲撃されました。これで13件目 ──」

 

 なんか物騒なニュースやってるなぁ、と俺が思っていると。

 

「いやっふー」

 

 能天気な声を響かせて居間に入って来る人影があった。

 チイ姉だ。

 チイ姉はファミリーの次女で、会社でトラックの運ちゃんをしている。ちなみに何故チイ姉かと言うと、シホミ姉ちゃんと比べて胸が小さいから、小さい方の姉ちゃんって意味でチイ姉。

 本人には、次女だから歳の小さい方の姉ちゃんでチイ姉と一家一丸となって嘘ぶいている。真実は人の心に沈めておくべきなのさ。

 

「ただいマンゴープリン! 愛しのマンゴープリンちゃん、今帰ったわよ!」

 

 俺の壊滅的なギャグセンスは遺伝かもしれないな。

 

「おかえりチイ姉。なんだ、もう風呂入ったのか?」

「うん、仕事で汗かいちゃったからね」

 

 仕事上がりに風呂でも入ったのだろう。余韻の湯気を纏って、着ている服はタンクトップに短パンと下手すりゃ扇情的と言われそうな格好である。

 ケッ、風呂上がりに素っ裸で歩き回るオカンじゃあるまいし、俺がいるって事を少しは意識してもらいたいもんだ。

 以前文句を言ったことがあるがスルーされた。

 残念なことに、我がファミリーにおける俺のヒエラルキーは最下層と言っていいからな。

 なんなら分かりやすく図解してやろう。

 俺<ホリス<<<親父<<<<<<<(ATフィールド)<<<<<アリア・ミヒロ・チイ姉<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<<シホミ姉ちゃん。

 どうだ、分かりやすいだろう?

 優しい人たちには、俺がどれだけ虐げられているか察して貰えると思う。

 ちなみに冷蔵庫の中身も戦力分布図がハッキリしているね。俺の陣地は卵置き用のケース1個分だ。チロルチョコ1個置けるか置けないかぐらい……切ねえ……

 俺の思いを知るよしもなく、チイ姉は広大な自陣からマンゴープリンを取り出した。

 

「マママッ、マママッ、マーヨネェーズ! マママッ、ママママッ、マーヨネェーズゥ!!」

 

 さらにチイ姉は意味不明なテンションで、作詞作曲自分の「マヨネーズの歌」を口ずさみながらマヨネーズを取り出した。

 マヨラーという人種がいるようにマヨネーズは人を魅了する神の調味料だ。

 チイ姉も御多分に漏れず超マヨラーだった。

 

「おいチイ姉、まさかマンゴープリンにかけるつもりか?」

「そうだけど?」

 

 マンゴープリンとマヨネーズが合うわけねえ。頭文字のマしか合ってねえよ。

 

「……マヨネーズってカロリー高いんだよね」

 

 何故かアリアがチイ姉に絡んで来た。

 

「チイ姉、マヨネーズばかり食べてたら太っちゃうよ!」

「大丈夫だよ。私、いくら食べても太らないし」

 

── ピシイッ

 俺は確かに空気が割れる音を聞いた。

 

「トラックの運ちゃんって意外とカロリー使うんだよね。マヨネーズでも喰わないとやってられないよ」

 

 ブリブリブリ、と濁音を響かせてマンゴープリンを凌辱するマヨネーズ。

 チイ姉はそれを美味しそうに食べている。味覚狂ってんじゃねえのか?

 

「あれ? もしかしてアリア、太ったの?」

「うわあああぁぁん!!」

 

 直球すぎるチイ姉の言葉にアリアは泣きながら居間を飛び出してしまった。

 哀れな……やはり、家の女性陣に慈悲の心など存在しねえな。

 

「ちょっとチイ姉ちゃん、酷いよ。アリ姉ちゃん体重増えたの気にしてたのに」

「あはは、ごめんごめん。でも体重ってそんなに気になるもん?」

 

 嫌みすぎる……絶対にその言葉をアリアに浴びせるなよチイ姉。アイツ、再起不能になるぞ。

 

「そもそも体重が増えるのは運動しないからだよ。アリア、あんまり運動しないだろう?」

「そうだな……確かにその通りだ」

「私みたいなスレンダーボディになりたかったら、しっかり運動しなくっちゃね。どう、カズマ? うふ~ん、私のボディラインにメロメロでしょー?」

「はいはい、メロメロっす」

 

 ない乳のくせに……ウゼえ。

 チイ姉、俺は大草原より双子山の方が好きなんだぜ。しかしシホミ姉ちゃんもアリアも大きいのに、なんでチイ姉だけ小さいんだろうな。へっ、まさにチイ姉 ──

 

「カズマー」

「な、なに?」

 

 チイ姉が鬼の形相で俺を睨んでいた。

 

「あんた、今失礼なこと考えたでしょ!」

 

 な、なんで分かる? チイ姉はテレパシーでも使えるのか!?

 

「あんたの考えなんてお見通しよ! お仕置きしてやる!」

「ゆ、許してくれ、チイ姉!」

「やっぱり考えてたな!」

「ひ、酷え! カマかけやがったな!?」

 

 完全に墓穴を掘ってしまった。

 チイ姉は飛びかかっきて押し倒し、うつ伏せになってしまった俺の背に腰を降ろした。そして顎に手を掛け、腰を支点に俺を捻り上げる。

 

「キャメルクラッチ!」

「ぎゃあああああああぁぁっ!!」

 

 痛え! なにが痛いって全部痛え! このままでは○ロッケンマンになっちまう!?

 DV《ドメスティックバオレンス》だ! こんなのDV以外の何者でもない!

 

「ひひひ、いい運動になるっしょ?」

 

 もちろん、チイ姉だけはな!?

 俺には何のメリットもないこの仕打ちは、結局俺が謝るまで続けられた。酷いもんだ。ヴァルストークファミリーに置ける俺の立ち位置なんてこんなもんさ……。

 理不尽だよー理不尽だよー。何が理不尽って? この家の女共!

 男に生まれたってだけで、妹には邪険にされ、姉には玩具にされなくちゃいけないの? 

 畜生、いつか目にモノ見せてやる……覚えてろ。

 

 ……それにしてもアリアの奴、体重気にするなんてやっぱり女の子なんだな。しかしあれだけ食べて動かなければ太るのは自明の理……けどなあ、俺にはアイツが運動している姿が想像出来ないんだ。

 だって漫画や小説を書いて、それを売って金もうけしようと考えるような女だぜ?

 それも18禁な。

 アイツが走ったりしてる姿を思い浮かべるのは無理だわ。

 俺みたいに日々運動している健康体と違って、アイツは文字通り心身共に不健全だからな。

 痩せたきゃ運動するんだな……ま、俺の知ったこっちゃないけどよ……

 

 

 

 

 

「人生相談のりなさいよ!」

 

 チイ姉の呪縛から解放された俺が自室に戻ろうとすると、アリアが仁王像のように扉の前に立ちはだかっており、以前聞いた事がある台詞を叫んできた。

 

「聞いてるの、バカカズマ!?」

「…………チッ」

 

 ウゼえ。

 またかよ? このフレーズは前にも聞いたぞ。しかもその後面倒事に巻き込まれたんだよね……嫌な思い出だぜ……ふう。

 やれやれ、そろそろ兄と妹の立場の違いというものを教えてやらねばならないようだな。

 はは……

 ヴァァァァァァァッカじゃねえの!?

 どんな答えがお望みだ? 嫌だか? NOか? べーだ、か? 失せろ腐れシスコン女か? どれでも好きなので答えてやるぜ!!

 

「……なんだよ?」

 

 でも口に出せない俺は、ほぼ間違いなくヘタレだろう……ああ、情けね。

 この一家にいると女の命令に逆らえない体になんのかな? 俺は熱く燃える男の中の男になりたいのに、ああ、道のりは遠く険しい……。

 

「バカカズマ、ダイエット付き合いなさいよ!」

「…………」

「返事は!?」

「……へーいへい」

 

 やってらんねえ。

 まったく、なんで家の妹様はこんなに自己中心的なんですかね? 

 俺のこと従者かなんかと勘違いしてんじゃねえの? これで学校では人気者で友達も多いってんだから、猫被り恐るべしである。おそらく、面の皮が5cmぐらいあるんだろうぜ。

 

「で、今度はなにをすればいいわけ?」

「あんたバカァ? それを考えるのがアンタの役目でしょうが!」

 

 うふふ、ぶっ殺そうかなコイツ?

 某人気女性キャラの台詞だが、好意を持ってない相手言われても不快でしかねえな。

 

「あーそう」

 

 妹様に言われて、俺はない脳味噌を巡らせてみた。

 で、行きついた結論。

 みんな聞いてくれ。俺はこの不毛な大地であるヴァルストークファミリーで生活して悟ったことが一つある。

 

── 結婚するならな、相手は外見じゃなく中身で選ぶべきだね!!

 

 ここ大事、超重要!

 アリア見てると心底そう思うぜ! 恋人ならいいけど、家族になったら常に顔合わせるわけだろ? 外見なんて四六時中見てたらすぐ見飽きるね! 

 断言しよう、アリアと結婚する男は可哀想だぜ!! ……でも、俺も彼女欲しい。なんか沈むな……ハァ。適当に相手しとこう。

 

「……適当に運動でもすればいいじゃん」

「運動? 運動ってなにすればいいの?」

「脂肪燃やすにはやっぱ有酸素運動だろ? じゃあジョギングでいいんじゃねえの」

「ハァ? ……もしかしてアンタ、夜道をあたし一人で走れって言うの? 信じらんなーい、痴漢に襲われたらどうすんのよ!?」

 

 ……どうしろってんだ?

 俺はアリアが痴漢に襲われようが、強姦魔に襲われようが、補導されようがどうだっていいね。事が起こった場合に事後処理が面倒くさくなるのと、ジョギングを提案した俺へ非難の目が集中するだけだからな……。

 チッ、面倒事は嫌なので協力してやらんこともない。感謝しろ妹様め。

 

「……分かった分かった、付き合ってやるから……」

「運び屋心得『一度言った事は必ず守れ、逆に言わせれば勝ち』よ! 破ったら承知しないからね!!」

 

 ……荷物一度も運んだ事ねえくせに……運び屋心得語るんじゃねえ!

 また言質取られちまったな。俺、なんだかアリアの手の上で踊らされてるみたいだ……

 

「いい? 明日の学校終わるまでに、いいダイエット方法考えときなさいよ! 絶対だからね!!」

「はいはい、分かりましたよ」

 

 へこむ……俺の人生これでいいのだろうか?

 

 

 

      ●

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 7月7日】

 

 翌日 ──

 

「バカカズマ、なによこれ?」

 

 ジェネ高から帰宅した俺をアリアは侮蔑(ぶべつ)を持って迎え入れてくれた。

 俺たちは実家のすぐ前におり、準備されている道具は愛機 ── ヴァルホーク号改。配達物を詰む荷台以外にも、サイドカーを増設し無理なく2人乗りができるように工夫してある。

 昨日の夜、俺が導き出した効率的なダイエット方法、それは ──

 

「今日配達が1件あるんだ。だからアリア、お前が自転車便で配達しろよ」

「ハァ? なんであたしが?」

 

 それは自転車便! 俺、頭悪いからな。急に新しい方法考えるなんて無理。

 しかし案の定、アリアは眉を顰めて反論してきた。

 

「配達なんてアンタがすればいいでしょ」

「ふふ、なにも分かってねえな……」

 

 アリアの反論は想定の範囲内だぜ。

 コイツ、俺がなにか言うと一言目には侮辱か嘲笑か文句しか言わねえからな。こんな展開になるのは目に見えていた。

 まったく、気に入らないことには取り合えず噛み付く猛犬みたいな女だと思う。

 

「いいか、アリア。ダイエットで重要なのは生活習慣の改善だ。食事の方がミヒロがやってくれるとして、お前運動の方はどうするんだよ? 一人でジョギングするのは嫌なんだろ?」

「当たり前じゃない! 襲われたらどうすんのよ!?」

「じゃあ自転車便だ」

「なんでそうなるのよ!?」

 

 金切り声を上げるアリアは喧しくて仕方ないな。いいだろう。俺が、授業中に考えたロジックでねじふせてやるぜ。

 

「なあアリア、脂肪を燃やすのに効果的な運動がジョギングとかの有酸素運動だって知っているか?」

「あんたバカァ、そんなの常識じゃん」

「(イラッ)……だからさ、自転車便だって自転車漕いでるわけだから有酸素運動だろ。ダイエットにはピッタリだろうが」

 

 どうだ、この完璧な論理展開は?

 ダイエットには有酸素運動→自転車を漕ぐ、という非常に明確で分かりやすい理由づけである。そして自転車便はほぼ毎日あるから、荷物積んで配達続ければ痩せられねえ道理はない。

 しかしアリアはまだ不満げに頬を膨らませている。俺の完璧な理論に文句があるらしい。

 

「だからー、なんで自転車便なのかって訊いてんの。それだと別にサイクリングでもいいわけでしょ」

「ふっ……」

 

 バゥアァァァァァァカッ、じゃねえの!?

 そんなの俺が楽するために決まってんじゃん! 

 ダイエットにかまけて自転車便を押しつければ楽できるし、空いた時間でコミックの金魂さんを読み返したりできるだろう? もちろん、俺がな。

 はっきり言っておく、俺はアリアが大嫌いだ。

 お前の得になるようなこと、素直に実行してやったりするものか! 運び屋心得を守りつつ、普段の恨みをココで晴らしてくれよう。

 夜なべして考えたロジックでアリアの説得を試みる。

 

「だって自転車便は毎日あるだろう? 毎日続けなければいけないってこと、つまり義務だな。やらなくっちゃいけないことが、そのままダイエットに繋がるんだ。合理的だろ?」

「でも……」

 

 まだ不満があるのかアリアは視線を泳がせ、唇を尖らせている。

 はいはい、お前の言いたい事は全部お見通しですよ。

 この間の事件で判明した事だが、この妹様は意外と臆病だ。

 小説持ち込みの一件で面接するのをビビっていたように、一人で自転車便を担うのが不安なんだろうな。普段の強気な態度は臆病な内面の裏返しなのかもしれん。

 俺への仕打ちは裏返しでも何でもなく、完全に素だろうけどな……。

 

「分かってるって。初めからお前一人で行かせたりしねえよ」

「ホ、ホント?」

 

 アリアが安心したような表情を見せる。

 俺だって運び屋の端くれ、中途半端な仕事はしたくないし、いきなり素人を放り出すような真似をしたりしないぜ。それに一人にして以前みたいに厄介事にでも巻き込まれたら面倒だしな。

 ……もちろん、この俺の言葉には裏がある。

 日頃の恨みを晴らすための秘策がな、ククク。

 

「ふっ、お兄ちゃんに任せな」

「キモ」

 

 ……チッ、即答かよ。可愛げのない妹には恨みは3割増しでお送りすることにする。

 

「行くぞアリア、あまりお客さんを待たせる訳にいかないからな」

「ま、待ってよ」

 

 俺はジェネ高から帰って即効でカスタムしたヴァルホーク号のサイドカー部分に腰を下ろした。無論、サイドカーにはペダルなど存在しない。補助動力にもならない完全なるお荷物だ。

 聡明なみんなには、俺の言っている意味分かるよね?

 

「ちょ、ちょっとバカカズマ! なんでアンタまで乗ってんのよ、重いじゃない!」

「しょうがねえだろ? チャリはヴァルホーク号しかないんだからさ」

 

 ククク、アリアの唖然とした表情ったらないね。

 トドメとばかりに、俺はにっこりと爽やかな笑顔を浮かべて聖母マリアのように優しく言ってあげた。

 

「それとも1人で行く?」

「う ──── 痩せたら覚えてろ、バカカズマ!」

 

 ラジャー了解、今すぐに忘れるであります。

 俺はアリアの言葉を早々に忘却の彼方へと流した。

 一方アリアは、俺にやり込められるのが悔しくて仕方ないが、一人で自転車便をこなす自信もなく俺の協力が得られないのは困るし、でもそれはそれでプライドが許さないといった何とも複雑で神妙な顔つきをしていた。

 ふふん、実に滑稽で結構だ。

 運び屋心得その7「受けた依頼は必ず果たす、金と恩と恨みは必ず返す」だぜ。こんな爽快なフレーズ聞いた事がないね。恨みも返せて気分爽快! 俺は顔に出さずに心の中で笑うのだった。

 アリアは渋々座席に付く。

 

「カズマ・アーディガン、ヴァルホーク号改、出るぞ!!」

「ううぅぅ……」

 

 エンジンは顔を真っ赤に変色させながら、ヴァルホーク号は亀の如き早さで走りだす。

 

 

── ざまあみろっ!!

 

 

 ゆっくりと流れる風景が実に雅(?)だぜ。

 これに懲りたら兄ちゃんの扱いを反省するんだな、アリア。

 俺たちは荷物を取りに一路会社を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 非常に残念な事に荷物の重さは1-2kg程度であった。

 普段の荷物の量だと、ヴァルホーク号の荷台にリアカーくくりつけて引いていくんだが……俺の両手に収まる大きさのブツにリアカーを使うわけにいかないな。負荷が足りん。まことに遺憾である。

 

「ひーひー」

 

 ま、それでもアリアには十二分に効いているようだが。

 顔面は紅潮して息は弾み、額どころか全身汗だくになっている。俺って結構筋肉質だから50kgはあるもんね。重いペダルを踏むたびに筋肉はビンビンと刺激を受け、カロリーはガンガンと消費されているだろう。実にエクササイズである。

 これを毎日続ければ確実に痩せるだろう。

 

「ほらアリア、もっとスピードあげろー」

「こっ……はぁはぁ……バッ……ゲホゲホッ!」

 

 もはや悪態をつく余裕もないようだ。実にいい気味。

 しかし出発時に比べてスピードが落ちてきたな。このペースだと配達時刻を大幅にオーバーしてしまいそうだ。……うーん、それにちょっと可哀想になってきたな。今日のところはこれぐらいで勘弁してやろうか ──

 

「おーい、カズマ」

 

 ── とした時、大型トラックが俺たちの隣に付けて来た。ヴァルストーク号だ。

 運転席からチイ姉が顔を出してくる。

 

「アリアと2人っきりでなにやってんの? ひひひ、デートか?」

「そう見える? なら眼科行った方がいいぜ、チイ姉」

 

 下世話な笑みを浮かべるチイ姉、昔から俺のことをからかったり虐めたりするのが趣味のような人だから気にはならない。

 込められたニュアンスは最低でも笑顔だけは飛びきり上等だからな。嫌な気分にもならないし。

 

「あれ?」

 

 チイ姉が眉をしかめた。

 

「アリにゃん、様子変じゃない?」

「え?」

 

 アリアの秘密も知らないのにHN(ハンドルネーム)を当てたチイ姉の声に釣られて振り向くと、目の焦点が合わなくなっているアリアがいた。

 目が虚ろで何処を見ているか分からない。

 あれ? ヤバくない? そう思った瞬間には、アリアの体を俺の乗るサイドカーの方に倒れて来た。

 

「お、おい、アリア! 大丈夫か!?」

「…………」

 

 返事がない、ただの妹のようだ ── じゃないッ!

 しまったやり過ぎた。アリアは普段から運動している俺と違ってインドアだからな。そこんとこ理解して限界まで虐めてやろう、なんて遊び心を持ったのがまずかったか。

 気絶してしまったアリアを受け止める俺を見て、チイ姉はヴァルストーク号を路駐する。

 降りて俺たちの方へ歩いてきた。

 

「ど、どうしようチイ姉?」

「たくっ……そんなだからバカカズマって言われるんだよ。反省しな」

「痛ッ!」

 

 呆れたような言葉の後、チイ姉の軽い拳骨が頭に降り注いだ。

 ほんの少し視界が歪む程度の衝撃……痛かった。肉体的にじゃなく、精神的にだ。普段から暴力的なチイ姉だからこそ余計に痛かった。

 

「あー、多分脱水だわ。この子朝からあんまり食べてなかったからね。どうせ学校でもご飯食べてなかったんじゃない?」

「え、さ、さあ?」

 

 そんなの全然見てなかった。だって俺食事の時アリアとろくに話しないし……ていうかチイ姉、良く見てるな。

 茫然(ぼうぜん)とする俺を尻目に、チイ姉はアリアをおぶって言った。

 

「アリにゃんは私が連れて帰るから、アンタは自分の仕事しな」

「でも……」

「大丈夫」

 

 チイ姉は俺に満面の笑みを向けて言った。不覚にも俺は、その笑顔に安堵感を覚えてしまったんだ。

 

「元々健康だし若いんだ、水分とってしっかり休めば大事にゃならないよ。だからアンタは自分の仕事しな」

「…………」

「……ふう。カズマァ!!」

 

 そして答えを返せないでいた俺を、チイ姉は今度は怒鳴りつけた。

 

「運び屋心得その7、言ってみな!!」

「『う、受けた依頼は必ず果たす、金と恩と恨みは必ず返す』……だろ?」

「そうだ。分かってるね、これ以上は言わないよ」

 

 本当にそれだけ言うと、ニカッ、と聞こえてきそうな笑みを見せてチイ姉は背を向けた。アリアを助手席に乗せ、一度も振り返らずにヴァルストーク号で去ってしまう。

 ……後には、玩具みたいなサイドカーに乗った俺だけが残された……

 

「…………くそ」

 

 なんて様だ……なんて様だカズマ・アーディガン。

 男の中の男を目指す? ……はは、お笑いだね。

 今の俺はそれから最もかけ離れた存在じゃないか……中途半端な仕事はしたくないなんて、カッコつけて、心得の意味を都合の良いように解釈して吐き違えて、俺を頼って来た妹をチッポケな感情から傷つけてしまった……。

 比べて、チイ姉は小さいけど大きい背中。

 俺は……

 

「……本当に、どうしようもない程ガキだな……」

 

 俺はヴァルホーク号改のサドルに腰を移しペダルを漕いだ。サドルやハンドルが妙に温かい。せめて荷物だけは届けなければと思った……。

 

 

 

 配達を終了して居間に入るとアリアの姿はなかった。

 自室で休んでいるらしい。結局、夕食にも顔は出さず、誰も俺の事は責めなかった。

 

 ……翌日、アリアは体調を崩して学校を休んだ。

 

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 7月8日】

 

 俺がジェネ高から帰って来た時も、アリアは自室に引き籠ったままだった。

 まだ体調は戻らないらしい……鍛え方が足りない。はっきり言って情けないと思う。

 しかし俺にそれを口にする権利はない。

 原因の一端は、俺のチッポケすぎる復讐心から来てるんだから……。

 

 アリアの罵声が聞こえないと寂しい……と思う程マゾではないが、アイツがいないと張り合いがない。悪態付かれて無視されるのが日常化していたからな……我ながら情けないが、その環境に体が慣れてしまっているようだ。

 ……今までの冷戦関係のままでいい、せめて顔を見せて欲しい。

 もちろん、俺の中の罪悪感を消すためだけでもいい。

 顔を見せだけで、その後は自室に引っこんいてくれても構わない。

 俺は、アリアが大嫌いだぜ……でも気分悪いんだよ……顔を見せるだけでもから、早く元気になってくれよ……。

 

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 7月9日】

 

 次の日、アリアは食卓に顔を見せた。

 

「おい、食わないのかよ?」

「…………」

 

 当然のように俺たちの間に会話はない。

 食欲がないのか普段の半分も食事に手を付けず、悪態も付かずにジェネ高へと出発してしまった。

 学校が終了し、自転車便を終えた俺が帰宅すると、運動着に着替えて家を出ようとするところだった。

 

「どこに行くんだよ?」

「……キモ、アンタには関係ないでしょ」

 

 ……チッ、少々元気が足らないがこれは復調の兆しと捉えていいのかね?

 生意気な妹様は外へ出るとゆっくりしたペースで走って行ってしまった。どうやら、ジョギングに行くらしい。

 あれだけ1人は嫌だと抜かしていたくせに、結局はダイエットの王道に結論が行きついたようだ……別に悔しくなんかない。アリアには自転車便は無理だった。それだけのことさ。

 そうそう痴漢に襲われるわけもなく、アリアは無事に帰宅し夕食に顔をだしたが、食はいつもの半分程度だった。

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 7月10日】

 

 今日もアリアはジョギングに出ている。

 しかし夕食の時間になっても食卓にアリアの姿は見えなかった。

 

「ねぇお兄ちゃん……アリ姉ちゃん、帰って来るの遅いね」

「……そうだな」

 

 出発してからゆうに2時間は経過していた。

 遠出したものの疲れて歩いて帰って来ているのか……それとも、またなにかあったのか。後者だとは思いたくないけどなぁ。

 と思う俺の前に、扉を開けて居間に侵入してくる影が一つ ──……

 

「ただいマンボー♪」

 

 ── ……チイ姉だった。

 仕事帰りの風呂を済ませたのか、湯気と色香をごちゃ混ぜにしたタンクトップ姿で冷蔵庫を漁り始めた。

 

「チイ姉、親父たちは?」

「んー、まだ残業してるみたいよー。経理的な。私、その方面手伝うの無理だからさっさと帰って来た」

 

 薄情だなおい。

 チイ姉が取り出したのは結局マヨネーズで、「最終融合承認だ~」と作詞作曲自分の「マヨネーズの歌」2番を口ずさみ、ミヒロの作った夕食にそれをブチマケル。

 ぶりぶりぐちゃぐちゃ。夕食とマヨネーズがフュージョンし、もはや境界線が分からなくなる。完全に夕食レイプだぜ、チイ姉……。

 

「なぁ、チイ姉?」

「なにー? うーん、デリシャス!」

 

 白米にもマヨネーズかけて食べるチイ姉に俺は訊いた。

 

「……アリア、ジョギングに出てまだ帰ってこないんだ」

「…………」

「なにかあったと思うか?」

 

 チイ姉は無言で答えなかったが、しばらくすると箸を置いて俺を見た。

 

「ねえカズマ、アンタはどう思っているの?」

「……? どうって?」

「あの子になにかあったと思う?」

「……うん」

 

 おうむ返しなチイ姉の質問に俺は頷いた。

 勘、だけどアイツを1人にしておくと、なにかとトラブルに巻き込まれやすい気がする。現にクリティックの時もそうだったし、あの妹様は巻き込まれ体質なのかもしれない。

 そういや痴漢のことをやけに気にしていたっけ……いやいや、流石にそれはないだろう。

 でもジッとしていると……イライラしてくる。

 

「じゃあ何故カズマきゅんはー、こんな所で呑気にご飯食べてんのかな?」

 

 チイ姉が言った。

 

「アリにゃんのことが気になっているんでしょ。こんな所で燻ってないで、迎えに行ってやればいいじゃん」

「いや、でもよチイ姉……アイツ、俺のこと大嫌いなんだぜ」

 

 ニコニコと笑うチイ姉に言い返す。

 

「この間もやりすぎちまったし……俺、絶対また嫌われてるって」

「…………」

 

 チイ姉は笑みを浮かべて黙って聞いていた。心なしか眉がピクついている。

 

「そりゃ元々嫌われてたけど、さらにって感じかな? そこは別にいいんだぜ。俺だってアリアなんて大っ嫌いだしな」

「…………」

「いつもいつもキモッ、とかウザッ、とか言ってくるしよ、でも肝心な所では人のこと頼って来るし、それが上手くいかなかったらさらに文句言ってくるし、我儘だし言う事聞かないし、ハッキリ言って俺はアイツのことが嫌いだぜ」

「…………」

「でも気になるんだよ。けど俺が探しに行って見つけても、アイツに文句言われるだけだと思うんだ……なぁ、チイ姉。俺はどうすればいいと思う?」

「…………ぷっ」

 

 チイ姉の口から空気が吹き出る音。なんだろう、と顔上げると ──

 

「ギャハハハッハハハッハハハハッ!! あはははははっははははははっ!! ひぃーひひひひひひひひひひひっ ── ッ! ゲホゲホッ!! だはははははっ!!」

 

 ── チイ姉が爆笑していた。顔が真っ赤で、苦しそうにむせ込んでも笑うのを止めない……

 

「な、なんだよ!?」

「ひひ、いやー悪い悪い。カズマがあんまり可笑しな事いうからさー、ぷぷっ、死ぬかと思った」

 

 ……酷え。

 俺の言ったことは変だっただろうか? チイ姉は思い出し笑いを堪えるように口元を押さえている。……ケッ、やはりこの家の女共は理不尽だ。

 相談する相手を間違えたようだな、カズマ・アーディガン。

 どうもチイ姉は味覚だけでなく、聴覚まで狂っているらしい。

 俺が空になった食器を流しに片しに行こうとすると、まだチイ姉は笑みを浮かべていた。

 

「ホント、アンタたちは仲が良いわね」

「はぁ?」

 

 世迷い言をチイ姉がほざいていた。

 

「似た者同士って言うか、見てて飽きないよ」

「チッ……」

 

 そういう意味か。俺は見世物小屋のサルじゃねえんだぞ? あんまり見てると金要求すんぜチイ姉。

 

「素直になんな」

 

 唐突にチイ姉が言った。

 

「なんだよ、それ?」

「さっきの質問の答えさ」

「はぁ? 意味わかんね。俺のどこが素直じゃねえって言うんだよ」

「ひひ、自覚ないところもキャワイイねー、カズマちん」

 

 チイ姉はいつも俺のことを子ども扱いしやがる。

 歳だって4つしか離れてないのにさ、不当な扱いには断固抗議したいと思うね。……どうせスルーされるから言わないけどよ……。

 それにしても素直じゃないってのはムカつくなぁ。

 その言葉はアリアのためのモノであって、俺のモノじゃないのにさ。

 ……チッ、やってらんねえ。

 

「ミヒロ、あれ貸してくれよ」

「あ、『キャレットちゃん』だね。待っててお兄ちゃん、部屋から取って来るから」

 

 ミヒロは発信器探知端末「キャレットちゃん」を取りに部屋へと走って行った。

 前回の事件で判明したことだが、ミヒロはアリアや俺の携帯に発信器を仕込んでいるらしい……なんの為かは、残念ながら怖いので訊けない。俺のヘタレ。

 俺は携帯をバラして確認してみたが、それらしきモノは発見できなかった……恐怖である。

 

「カズマ」

 

 チイ姉が白米にマヨネーズを追加しながら声を掛けて来た。どうでもいいがマヨネーズは既に山盛り、マヨネーズご飯ではなくご飯マヨネーズになっている。

 

「困ったらいつでも連絡していいからね。力になるよ」

「でもよ……」

「遠慮すんなって。私はアンタの姉ちゃんなんだからさ」

 

 チイ姉はご飯マヨネーズを頬張りながら破顔する。

 チイ姉の笑顔は飛びきり上等で、俺はこのアホだけど、頼りがいのある姉ちゃんの笑い顔が大好きだった。

 それにしても姉ちゃん、ね。

 チイ姉は俺の姉だ、家族だ。アリアだってそうさ。

 はっきり言って俺はアリアが大嫌いだけど、それでもアイツは俺の妹で家族なんだ。それはきっと、忘れちゃいけない大事な事なんだ。

 俺はガキだ。

 加えてバカだ。バカな事して、妹を倒しちまう程度の半端ないバカさ。

 それでも困っているかもしれない家族を見過ごすなんてできねえ。俺がバカでもそこは譲れねえ。

 だから俺はアリアを探しに行く。

 断っておくがアリアの為じゃない。アイツには自転車便の時の借りがあるからな、早く返しておかないと気分が悪い。あくまで俺自身の為だ、文句あっか!?

 

「お兄ちゃん、お待たせ『キャレットちゃん』だよ」

「サンキューミヒロ。じゃあ行ってくるぜ!」

 

 俺はミヒロから赤い人形のような端末を受け取ると、愛機ヴァルホーク号を駆り、発信器を頼りに家を飛びだした……

 

 

 

      ●

 

 

 

 前回同様、「キャレットちゃん」は恐ろしいほど正確にアリアの居場所を教えてくれた。

 俺が辿り着いた場所は「エリア」内にある小さな公園。

 夜になっているため公園内で遊んでいる子どもの姿は見えず、ブランコに揺られる変な仮面を付けたおっさんがいたが関係ないので無視することにした。

 発見したアリアはベンチに腰掛けて頭を抱えている。

 

「こんな所でなにやってんだよ?」

「……バカカズマ」

 

 俺の声にアリアが顔を上げた。

 

「2時間以上も外でブラつきやがって、俺はしてねえけどミヒロやチイ姉が心配してたぞ。飯もアリアの分取ってあるから早く来いよ」

「…………ご飯」

 

 かなり疲れているのか、虚ろな瞳で俺を見るアリア。

 ベンチから腰をあげようとしないので起立を促そうとすると、それよりも先に、ぐぅぅぅぅ~、という間抜けな音が返って来た。

 もちろん、アリアの腹からである。

 

「……何処かで虫が鳴いているみたいね」

 

 お前の腹の虫がな。

 バツが悪そうに顔を背けるアリアは少々元気がない。しかし元気の無さを除けばいつも通りの妹様のように思える。

 食事をしっかり取ればきっと元に戻るだろう。

 

「たくっ、ダイエットだがなんがか知らねえけど、動けなくなるまで食事抜いてんじゃねえよ。

それにジョギングも痴漢に襲われるからイヤって言ってたのに、飯抜きで疲れて外で動けなくなるなんて格好の獲物だぜ」

「……うっ、だって……」

「だってじゃねえよ」

 

 飯抜いてまで痩せたいという気持ちが俺には理解できない。

 旨い飯食って、元気でいる方が断然良いと思うぜ。自然だしな。だから俺は言ってやることにする。

 

「いいじゃねえか、少しぐらい太ってたって。見た目全然変わんねえんだし、なんでそんなにこだわるだよ?」

「……ホント?」

 

 アリアが俺の顔をじっと見てきた。

 なんだコイツ? 俺の事嫌いなくせに、なんで俺に意見なんか訊いてくるんだよ?

 アリアは体重増えたと自己申告していたが、俺から見ればなんにも変わってない。顔は元々少し丸顔だし、お腹が出てるという印象を受けたこともない。胸も大きいし、十分なナイスバディだと思うんだけどな……。

 ……ヤベえ。妹の体マジマジ見つめて評価するって、俺、まるで変態みたいじゃん。

 へこむなぁ……でもここで回答間違えたら、さらに悪い方向に進んでしまいそうだ。慎重に答えよう。

 

「嘘ついてどうすんだよ? パッと見で全然分かんねえし、言われきゃ体重増えたなんて知らなかったぞ」

「……鈍感。そんなのバカカズマが鈍感だからだよ」

「あ、酷え」

「チイ姉ちゃんは気づいてたでしょ……それにシホミ姉ちゃんはスタイルいいし、チイ姉ちゃんはスレンダーじゃん? だから、あたしだけがその……少し……その、ね?」

 

 お腹を触るアリアを俺は一瞥して、

 

「バーカ」

 

 と罵ってやった。途端にアリアの顔色が変わる。

 

「バ、バカって言った! バカカズマのくせに生意気ー!」

「あーあー、もううるせえなぁ」

 

 生意気なのはどっちだよ?

 だいたいさぁ、チイ姉の言葉じゃねえけど気にしすぎなんだよ。自意識過剰、とまでは言わないにしても気にしすぎだと思う。

 そもそも食が細くて痩せている女の子よりも、しっかり飯食って、多少ふくよかで、元気一杯の女の子の方が魅力があると俺は思うね。

 ……勘違いすんなよ。別にアリアのことじゃねえからな、ボケ。

 他の子は他の子。アリアはアリアだ。比べて自分は劣っていると考えるのは自由だろうけど、それに縛られてちゃあ駄目だろ?

 

「アリア、トレイラー心得その6、知ってるか?」

「うん。『何事にも束縛されず自由であれ。無論、この心得にも』でしょ?」

「チイ姉はチイ姉、シホミ姉ちゃんはシホミ姉ちゃん、そんでお前はお前だろ。姉ちゃんに比べて自分はどうだ、なんて考えに縛られることはねえよ。お前はお前、それでいいんだ」

「……なによ……今日のバカカズマ、ホントに生意気ぃー」

 

 どうやら、俺はまた妹様の機嫌を損ねてしまったらしい。唇を尖らせてむくれていた。

 ハハ、ホント面倒臭い女だぜ。

 

「少々太ってても見苦しくなきゃそれでいいんだよ。太ってたらお嫁にいけないとかアホなこと思ってるわけじゃねえだろ?」

「……サイッテー」

 

 あれ? 俺、なんか悪い事言った?

 まあここで問答してても仕方ないし、はやく家に帰る事にしよう。俺はアリアに手を差し出した。

 

「帰ろうぜ、アリア」

「……うん、バカカズマ」

 

 俺はアリアの手を取り、ベンチから引き起こした。しかしこんな時でもバカ呼ばわりか? でも、キモいと言われなかっただけ、以前の俺たちの関係よりマシなってるのかもしれないな。

 俺は尊大な妹様を荷台に乗せて、ヴァルホーク号を漕ぎだした。

 別に重くない。この体重をアリアは気にしていたのか? バカみたいだね、でも口にするとまたアリアが怒りだし説得が無意味になるので声には出さない。

 しかしお嫁にいけないね……あれ? ……そういえば昔にも……あー、思い出した……

 

「ねえ、バカカズマ」

 

 アリアが荷台で呟いた。

 

「さっきお嫁さんって言ったよね?」

「言ったけど」

「それで少し思い出したんだけど……」

「うるせえ、それ以上喋るな……恥ずかしいだろが」

「ふふ、そうね」

 

 笑うと、アリアは俺の背中に体を預けてきた。

 軽い。軽いね。俺の妹様はクソ生意気で我儘で乱暴者で臆病でどうしようもないシスコンだけど、この軽さを感じるとやっぱり女の子なんだなと思う。

 …………それにしても……

 幼い頃、約束を交わしたのはあの公園だったのかもしれないな。

 

 

 

『そのときは、おにいちゃんのおよめさんにしてくれる?』

 

 

 

 ……チッ、我ながらハズい記憶だぜ。

 運び屋心得その10「思い出は何にも代えがたい、だから金になる」か……でもなぁ、この思い出はできれば忘れたままでいたかったぜ。

 金にもならんし、恥ずかしいだけだしな。

 約束した相手が背中に居るってのも気まずくってやり場のない気持ちにかられるぜ。

 決めた。忘れる。それでOKだ ──

 

「お兄ちゃん」

「な、なんだ?」

 

 突然かけられたアリアの言葉に驚いた。

 だって、いきなり殊勝(しゅしょう)に兄と呼ばれるとは思ってなかったし……くそぅ、心臓に悪い妹様だぜ。せめて心の準備ぐらいはさせてもらいたいね。

 振り返ると、アリアはチイ姉に似た飛びきり上等な笑顔を浮かべていた。

 

「お腹すかない? どっか寄って帰ろうよ!」

「……へっ、とんだ腹ペコ娘だぜ。いいよ、また倒れられちゃ敵わないし、どっか連れてってやる」

「やったー、奢りだー。ありがと、お兄ちゃん!」

「は、なんでだよ!?」

 

 ホント、都合のいい時だけお兄ちゃんって呼ぶ奴だな。

 結局この後、商店街で「にんにくラーメンチャーシュー抜き」を振る舞う羽目に……今月小遣いピンチなのに……ケッ、都合のいい時だけ妹面しやがる妹様め……まったく、敵わねえぜ。

 俺の人生これでいいのだろうか……なんて。

 実は満更でもない自分がいるのが非常に悔しかったりするのであった……へこむぜ。

 

 

 

 

 

ここは高校がなぜか密集する土地『エリア』。

『エリア』には個性豊かな人間が沢山いる。

今日も、楽しく愉快な仲間達がアホな事件を巻き起こす。

次はどんな事件が起こるのだろう……それは誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 




<キャラクター紹介>
 
カズマ・アーディガン:ジェネ高2年生、ファミリーの自転車便を担当している。アリア以外の家族の事を大切に思っているが、いざという時にはアリアにも手を貸してあげるお兄ちゃん。悩みは彼女ができないこと……絶賛彼女募集中!

アリア・アーディガン:ジェネ高2年生、カズマの双子の妹。最近の悩みは体重が増えた事……カズマを巻き込んでダイエットに勤しむ。ちなみに妹大好き、ミヒロラブ!

ミヒロ・アーディガン:若干10歳にして、家事全般をそつなくこなすファミリーの末っ子。最近の悩みは中々背と胸が成長しないこと。チイ姉みたいな胸にはなりたくないと思っている。

アカネ・アーディガン:20歳、ファミリー唯一のトラック「ヴァルストーク号」の運ちゃんをしている。最近の悩みは特になし! 分かりやすい特徴を上げると、超マヨラー、マッチョ大好き、キモカワ人形好き、プロレス好き(主に被害者はカズマ)など。カズマにとっては頼れるねーちゃんである。



<次・回・予・告>

キョウスケ「ククククッ……!」

エクセレン「……」

キョウスケ「フハハハハッ!」

エクセレン「キョ、キョウスケ……?」

キョウスケ「とうとう来たぞこの時が! どれだけ待ち望んだことか……フハハハハッ!」

エクセレン「あーん、キョウスケが壊れちゃったよう……!」

キョウスケ
「そんな訳で次回予告だ!
貴様らぁ、俺の名を言ってみろ!
忘れたとは言わせんぞ! もし忘れても、今から言うから近くに寄って、耳をほじって聞くんだな!!
俺の名前はキョウスケ・ナンブ! 次回の話の主人公だ!!
次回スパロボ学院、『賭博黙示録キョウスケ第3話 ~やったぜウルフ! 誰が為に鐘はなる?~』に、ファイナルアルティメットジョーカー!!(意味不明)」

エクセレン
「『世界平和は家族団欒の後で』もよろしく! 原作何巻のパロか分かるかなー♪」




まず初めに、更新遅れて申し訳ありませんでした!
当初の予想でも3,4日で更新するつもりだったのですが、1週間以上空いてしまいましたね。
言い訳ですが忘年会やら、所属チームの取り組みとか評価で帰ってから執筆する気にならんかったのです。
後、遅ればせながらスパロボLをやってたりするのも一つの原因ですが……

感想を下さっている皆さんには大変感謝しています。
要望も一件貰ったことですし、それもいつか短編にしてみたいと思います。
しかし師走、やらなければいけないことが詰まっているので更新は遅れると思います。どうか、ご容赦を!
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