絶賛、キャラ崩壊中!
ギャンブルスキーな主人公がキャラ崩壊しています。
それでも良いという方はどうぞ!!
あと後半超展開なので注意です。少しホラーも入っているかも?
ちなみに今回登場するギャンブルはパチンコと麻雀です。
注意:ギャンブルは程々に。のめり込みすぎると身を滅ぼします。
幸運は神から与えられるモノだろうか?
俺の名前はキョウスケ・ナンブ。
なぜか高校の密集する地域「エリア」一のマンモス高校、OG高等学院 ── 通称、ジェネ高の3年生だ。
幸運。
運が良い事、廻り合わせが良い様……幸せ。
そう言う事を表す言葉らしい。
だが、俺は神の与える幸運を否定する。
神から与えられる幸運なんて意味があるだろうか?
幸運は、自分の力で掴み取ってこそ意味があるモノだろう……俺はそう思う。
そもそも、この世界に神なんて存在がいるのだろうか?
神が生み出した人間同士が争い合うこの世界を、望むような神が存在しているのだろうか?
俺は名前はキョウスケ・ナンブ、チッポケな人間だ。
仮に神がいたとしても、俺に神の意志など理解することは叶わないだろう。
それに俺は神など信じていない。
俺は、俺自身の力で、俺の生き様を決める。
そこに誰も入ることは許さない。
俺の恋人 ── エクセレン・ブロウニング以外の人間に俺の生き様を指図されることを俺は望んでいない。
「ロンッ」
目の前にどんな障害があろうとも、俺はただ、打ち貫くのみ!!
俺は自分の生き様は自分で決める。
どんな不利な状況だろうとも、俺は自分で道を斬り開いてみせる……
……それは分の悪い賭けだろう。
止めておけ、誰もがそう言う。
しかし俺は好きなのだ。自分で生き様を切り開くこの感覚が堪らなく好きなのだ。
そう、俺は ── ……
…… ── 分の悪い賭けは嫌いじゃない!!
「四暗刻(スーアンコー)、役満だ」
「ま、マジッすかキョウスケさん!?」
対戦相手の一人、タスク・シングウジが悲鳴を上げた。
タスクが捨てた牌を鳴いて、俺が完成させた役は四暗刻。マージャンにおける最高クラスの役名で、それに応じて点数も達成難易度も高くなり、当然のよう成立しにくくなる。
だが、俺はその役を作り上げた。
断言しよう。
一発逆転できる、それだけの威力を持つ役だ。
タスクはこの一撃で降参を余儀なくされる。
「くそぉー、キョウスケさん、今日はバカつきっすね……悪いんスけど、今手持ちが2万円しかなくって……残りの金は付けにしてもらえませんかね?」
タスクがふざけた提案を持ちかけてきた。
タスクは頭に巻いた緑のバンダナがトレード-マークの男……ジェネ高2年の俺の後輩だ。俺のギャンブル友人であり、「ラッキースケベ」の異名を取る異常に運の良い男である。
俺は良くタスクとギャンブルをするが、よくタスクにカモられているのが実情だ。
だが俺は……土壇場に滅法強い。
たった今もタスクから一発逆転の手を成功させ、賭け金が足りないタスクから交渉を受けている所だ。
「バカを言うな。お前が今まで付けを許した事があったか?」
「ちぇー、痛いところをつくなーキョウスケさんは……」
都合の良い提案をするタスクに、俺は冷たく言い放ってやった。
俺がタスクに負けた際、俺は速攻で賭け金の徴収を受けて来た。もちろん借金してでも払って来たさ。それがギャンブラーに求められる最低限のモラルってもんだ。
しかしタスクはモラルを無視するような事を言ってきている。
許せるわけない。
そうは思わないか?
「わ、分かった、分かったよキョウスケさん!」
タスクもそれは理解してくたようだ。
今日のタスクの負けは3万円、残りの1万円分に値する情報を教えるから、納金をしばらく待ってくれとの話を持ちかけて来た。
「言っておくが、そんなに長くは待たんからな」
「分かってるってキョウスケさん」
知り合いのよしみだ。
普通のギャンブルでこんなことはあり得ないが、タスクの持ちかけた1万円に相当する情報というのが、俺は妙に気になって仕方なかったので了承することにした。
「なんでも、『エリア』内にある公園に、チーカマをあげると願いごとを叶えてくれる神様がいるらしいぜ?」
「早く残りの1万円を寄こせ」
「嘘じゃねえよ!?」
タスクが反論していたがどうでもいい。
神様なんている訳ないだろう?
信仰心のない俺には、神なんかより紙幣の方が数100倍信仰の価値がある。それは間違いないだろう……
しかし、今催促しても無いモノは俺の手元に届かない。
知り合いのよしみで、ここは許してやる事にした。
次回のギャンブル開催までに支払いをしてもらいたいものだ……だが神様ね……。
── そんなモノ、居たら俺の前に連れて来て貰いたいものだ。
でも暇なので、タスクの情報を元にエリアをぶらつく ── 俺、キョウスケ・ナンブなのだった。
スパロボ学院 ~OGだよ、全員集合!~
鋼鉄の駄狼 ~やったぜウルフ! 誰がために鐘は鳴る?~
俺はタスクから得た情報を元に、「エリア」の住宅街の中にある公園に足を運んでいた。
昼時の住宅街は喧騒と呼ぶには程遠く、その公園も人影一つ見ることはできなかった。
まるで世界から刳り抜かれたように公園内は静まり返っている。
ぽつん……と、言った具合にだ。
「タスクの奴め。やはり情報はガセだったようだな」
誰にではなく、俺は呟いていた。
タスクの話を鵜呑みにしていたわけではないが、奇妙な好奇心に駆られて足を運んでしまった。だが眼前には人っ子一人いない公園の風景……まさに無駄足だったようだな。
── 願い事を叶えてくれる神様がいる。
胡散臭い話だ。
分かりきって来た事だが、賭け金の上納を引きのばすための方便だったのだろう。
明日にでもタスクから残り1万円を徴収するとしよう。
俺はチーカマの入ったコンビニ袋をさげ、公園から引き上げることにした。
チーカマは今日の晩飯ででも食べてしまおうと考えていると、
「にょ」
来た時には居なかった青髪の奇妙な生物が……俺の前に立ちふさがっていた。
いや、立ちふさがるという表現は適切ではない。眼下に全長20cm程の、明らかに頭身のオカシイ奇妙な2頭身の生物がおり、俺の顔を見上げていたのだ。
…………なんだ、コイツは?
「わたちのなまえはおーちゃむ・ふぉー」
謎生物が勝手に自己紹介を始めた。
「この『エリア』のかみにょ!」
「…………」
この時の俺はどんな表情をしていたのだろうな?
俺は一人で公園に来た為、俺の顔色を窺うのはオータムと名乗った謎生物だけなのだが、おそらく唖然とした表情をしていたに違いない。
神を語る謎生物は、黒豆のように円らな瞳で俺を見つめてくる。
吸い込まれそうになる程澄み渡り、淀み一つない純粋な輝きを宿した瞳だった。
取り込まれそうになる……ぐうううぅぅぅぅ……、しかし唐突な音が聞こえて来た。
発生源はオータムの腹だった。
「腹が減っているのか?」
「にょー、チーカマ食いたいにょ」
オータムは腹を押さえてしょげている。
タスクの話では、この公園にチーカマを献上すると願い事を叶えてくれる神がいるらしいが……まさかな?
コンビニ袋にはチーカマが入っている。特別俺の好物というわけでもないし、オータムに分け与えない程やぶさかではない。
「ほら、食うといい」
俺が包装を解いて、チーカマを差し出すと、
「にょー!」
オータムに素早い動きでチーカマをかすめ取られた。
ω(こんな)な口で一生懸命食事する姿はどこか愛玩動物に似ているな。最も、食べているのはチーカマというオッサンが好きそうな酒の抓みなのだが。
「ふう、特になにもなかったな」
オータムという変な生物以外には、な。
「さて、どうするか?」
俺は餌付けに来た訳ではないし、タスクの話を真に受けていた訳でもない。
しかしこの後どうするかな?
今日、エクセレンは友人と外出すると聞いているし、ラミアやタスクを暇つぶしに呼び出すのは先輩風を吹かせているみたいで気分が悪い。
タスクから撒き上げた2万円で暇でも潰すか……と考えていると、
「おまえ、いいやつにょ!」
チーカマを食べ終えたオータムが叫んでいた。余談だがチーカマを食す速度はかなり早い。体積から考えれば異常だな、オータムを俺に例えてみると数キロの食べ物をぺロリと食べた……といった所か?
「いいやつだから、ねがいごとかなえてやるにょ! いってみるがいいにょ!」
「なんだと?」
オータムの言葉に俺は眉をしかめた。
「なんでも願い事を叶えられるのか?」
「にょ! それくらい、あたりまえだのくらっかーにょ」
「それは古いぞ」
「にょ、にょー」
俺の突っ込みに困惑した表情 ── ヾ(・ω・`;)ノ(こんな顔)を浮かべるオータム。
突っ込まれることに慣れていないのかもしれないな。だが俺の周りはボケだらけだからな、自然と俺の突っ込みレベルは上昇してしまうと言うものだ。
『チーカマを上げると願いごとを叶えてくれる神様がいるらしいぜ?』
タスクの言葉が蘇る。
火のないところに煙は立たない。
この【(;ω; ))オロオロ (( ;ω;)オロオロ】としている謎生物が、噂の発生源だとすれば……俺は試しに願い事をしてみることにした。
「オータム、願い事はなんでもいいのか?」
「まかせるにょ!」
オータムはどこが胸だが分からない胴体を張り、誇らしげに答える。
「ではな、お金を拾いたい。できるか?」
「そんなの、あさめしまえをこしてやしょくまえにょ!」
意味不明だな。
突っ込みにもエネルギーが必要だから下らないジョークには突っ込まん、スルーする。
オータムは俺からトテトテと離れると、奇妙な呪文を口ずさみながらクルクルと回転し始めた。なにかの宴舞のつもりだろうか?
オータムは舞うことをやめると、両手を高らかに上げる。
「シーズンフォー!!」
「くっ、バリアか?」
目の前がチカチカするぜ。
突然オータムの体から放たれた閃光に俺は目を覆った。
直視すれば眼潰しになりそうな光が収まると、なんのことはない、オータムが立っているだけだった。
「……おい、願い事はどうした?」
「にょ!」
元気に手を上げるオータム。
ここが幼稚園なら大変よろしいと言う所だが、生憎俺が欲しいのは金だ。あぶく銭でも種銭でもなんでもいい、とりあえず金だ。金がなくてはなにも始まらん。金、金、金だ! 金がなければ勝負もできんし、生活も出来ん。その辺のことをオータムは……分かってはいないだろう、まことに残念なことだ。
「やはり、無駄足か」
付き合いきれないので、俺は公園の外に向けて足を踏み出した ──
── チャリッ
と、俺の足になにか当たる感触と音が耳に届く。
「これは……小銭か?」
俺が拾い上げたのは、500と大きく書かれた銀色のコイン。
500円玉である。安い弁当1個とお茶くらいは買える程度の金銭的価値があるコインだった。
「ささやかだな。金を拾いたいと言ったら、お札ではなく硬貨か?」
「しょぼいにょ?」
「お前が言うな」
「にょ、にょー」
いかん、脊髄反射のように突っ込んでしまっていた。
オータムは漫画のような汗を飛ばして動揺している。突っ込みどころしかない謎生物の分際で、突っ込まれることへの耐性はかなり未熟なようだ。
オータムは置いておくとして……俺は手の中で500円玉を遊びながら考える。
雀の涙程ではあったが、俺の願いごとは確かに叶えられた。
このオータムという謎生物は自称神……いや、ともすればその自称が外れる可能性があるのではないだろうか?
拾った金が500円玉だったのも、俺が具体的な願い事をしなかったからではないだろうか?
「む、そうだ」
良い考えを思いついた。
神、というモノは人の作りだした偶像だろう? 宗教というものは突きつめるといわゆる偶像崇拝であり、神というものは天にではなく信者の頭の中にいるものだ。
偶像、理想、幻想……脳内で美化された理想こそが、神の正体だというのが俺の考えだ。神頼みするギャンブラーなど終わっているからな。ギャンブルも所詮はゲーム、自力で運を引き寄せることも可能なはずだ。
脱線したが、俺がなにを言いたいのかいうと、神に実体など存在しないはず。そういうことだ。
「おいオータム、こっち向け」
「にょ?」
── パシャリ!
俺は携帯のカメラでオータムの写真を取った。
実像がないなら、写真に写るはずがないからな。
電子音と共に撮影した画像が表示された……公園の寂れた風景が映っている。
オータムの姿は……ない。
「オータム、こっちに来るんだ」
「にょにょ」
言うとおりにオータムが俺の傍に寄って来る。
俺はかがんで、オータムの頭を撫でてみた。
「にょー」
オータムは気持ち良さそうに目を細め、その姿は目に見えるし、俺の掌にも撫でているという実感は伝わって来る。
しかし写真には映らない……これは本物かもしれん。
「オータム、願い事は1つだけか?」
「にょ! おまえはあたまなでてくれるいいやつだから、チーカマくれればかなえてあげるにょ!」
「そうか……」
これは検証の価値ありだな。
暇を持て余していた所に転がり込んできた幸運だ。もし本物なら逃がしてなるものか。そのためにも試してみなければな……
「オータム、ちょっと遊びにいかないか?」
「いいにょ? どこにいくにょ?」
「なーに。ただの銀球弾きだ」
オータムに言いながら、俺は500円玉を指で弾く。
俺がこれから足を運ぶ場所は、空中で回転するコイン1枚で検証できる、単純なゲームが置かれている店だ。
オータムを頭に乗せて、俺はパチンコ屋へと足を運んだ。
●
ここで「パチンコ」という遊戯について説明しておこうと思う。
パチンコというのは、台と呼ばれる筐体内にプレイヤーが店から借りた球を飛ばし、特定の入賞口に入れるという遊びだ。
ほら、小学校とかで木製の盤に釘を打ち、特定の場所に入ったら何点もらえるなんて台を作ったりしなかったか? 輪ゴムで作った発射台からビーダマを発射したりしてな、昔は、よく獲得した点数を友達と競ったものだ。
パチンコというものはそれに似ている。
大きく違うのは金を賭けるギャンブルの一種だということに加え、入賞口に球を入れた=勝利ではないということ。
入賞口に球が入ってから内部のコンピューターが抽選を開始し、それに当選して初めて大当たりとなる。
ちなみに抽選確立は台の種類それぞれなんだが、大体300-400分の1の確率となっているのが多い。しかも球は釘の調整具合によって入賞口に入りにくくされていたりするので、実質はそれ以上に当たりづらい仕組みとなっている。
しかしそこは所詮機械。データを収集し、分析すればその日当たりやすい台を導き出す事ができるらしい。
パチプロ、という人種がいるくらいだからな。
釘が入賞口に入りやすいように調整された台を見抜き、大当たりしやすい台を分析うする労力さえあれば、パチンコは勝てるギャンブルなのだ。
無論、俺はパチプロではない。
直感に任せた1発勝負にこそ賭け事の本質だと言ってもいいからな。しかし最近ではゲームセンターにパチンコ台があるらしい。それはどうかと思ったりもするがな……
「オータム、願いごとだ」
「なんだにょ?」
俺は適当に台に座り、膝の上に乗せたオータムにチーカマを渡しながら呟いた。
余談だが俺の座った台は「新世紀 ○ヴァンゲリオン 使徒再び」だ。原作など知らん。確立は350-370分の1ぐらいで確率変動継続率は65%。ミドルスペックと言うやつだな……専門用語が分からない人は適当に調べてくれ。
「1回転目から全回転で大当たり。その後、1回転目で突当たり。次回は1回転目でインパクトフラッシュからのビタ止まりだ。その後20連チャン……できるか?」
「おやすいごようにょ!」
チーカマを齧りながら安請け合いするオータム。
あの呪文を膝の上で唱えて閃光が走る。しかし周囲は誰も気が付かない。どうやら、オータムが俺にしか見えていないのは間違いないようだ。
「……勝負だ」
俺が500円玉を投入口に入れると、銀色の球が上皿流れでてくる。蛇足だが貸し玉は1球4円である。安いと思うか? 思う奴はやってみるといい、泣きをみるからな。500円で125玉の貸し、しかしこれで入賞口に入る保障はどこにもない。
俺はハンドルを調整して球を打ち出す。カコンカコン、と釘に弾かれて不規則に球が落下して行く。入賞口に近づいて行くように、ハンドルを調整する作業をしなくてはいけない。
だがこれでオータムが本物かどうか判明するだろう。
最近のパチンコには様々な演出があってだな、ちなみに全回転というのは ── その時、球が入賞口に入った。途端に画面が暗転する。
『おめでとう』
突然液晶の中に青空が広がったと思うや否や、○ヴァンゲリオンのキャラたちが勢ぞろいし、俺に向かって賛辞を送って来た。
『おめでとうッ』
『おめでとう』
『おめでとうさん』
「チッ」
最後のは隣の台のオッサンの舌打ちだ。
全回転という演出は、出現しただけで確率変動大当たりが確定する最強の演出だ。出現率はなんと10000分の1以下……それを1回転目から引いてしまったのだ!
はっきり言おう。
イカサマを疑われる程の強運と言っていい。通常は考えられないレベルだ。
主人公らしき少年が「僕はここに居てもいいんだ!」と言っている。どうやらキャラたちの賛辞はこの少年に向けられてのモノらしい……まったく、理解しがたい状況だが。
「ありがとう」
取り合えず言い返してみた。意味のない行為は両隣りのオッサンの視線を険しくしただけだ。
全回転が終わり、ラウンドを消化して、確立変動画面に突入した。
面倒なので説明しないが、スルーを球が通過し電チュウが開き、球が入賞しやすくなる。1個目の保留玉を消化した瞬間 ──
── バキャアアアアン!!
轟音を響かせて、趣味の悪い紫色のロボットが画面を引き裂いた!
実際には引き裂いていない。引き裂いたような演出の後、確立変動図柄が停止して大当たりとなった。突当たりという、この台特有の演出で出現率はこれまた10000分の1以下である。
「わるものみたいなろぼっとだにょ」
「ああ、まったくだ」
他愛ない会話に、周りのオッサンの視線がロンギヌスのように鋭くなる。負け犬共が、黙って見ていろ。
ラウンドを消化して、ドル箱を交換し、再び1回転目。
今度は台のてっぺんに設置されたパトランプが、けたたましい音と共に光り出した。インパクトフラッシュと呼ばれる確率変動確定を知らせる役モノである。あまりの騒音に隣どころか、周辺全てのパチンカーの視線を集めてしまっている。
そしてスーパーリーチにすら発展せずにノーマルリーチで図柄が揃う。
大当たりである。
「ふふふふ」
笑いがこみ上げて来て止まらない。
本物だ! オータムは本物だ!
僥倖!! こんな幸運があっていいのだろうか!? 俺は最強の切り札を手に入れてしまったようだな!!
確信するに十分な証拠が揃っているからな。10000×10000=100000000だ。しかも全回転は10000分の1より少ない発生確率なので、実質1億分の1以上の幸運である。
宝くじで1等だって余裕で取れる確率ではないだろうか?
その後、すべて1回転目で大当たりを繰り返し、20連チャンして俺はパチンコ屋を後にした。
ちなみに「○ヴァンゲリオン」の確変継続率は65%、だいたい5分の3程度だ。数回確変が継続するのはよくあることだが、全て1回転目で確変を引き続けるなど不可能に近い。
だが、それを可能にする切り札は、今も俺の頭の上に乗っている。
「オータム、次に行くぞ」
「らじゃーにょ」
チーカマを食べながらオータムが答えた……。
この後、俺たちは「エリア」にあるパチンコ屋というパチンコ屋を廻り、荒稼ぎしてやった。パチンコ屋など善良な市民の射幸心を煽り、金を貪る愚劣な奴らである。良心は痛まなかったが、出入り禁止にされてしまった……
この日、俺の勝ち金は100万円を超えた。
●
ジェネ高の屋上。
「ロイヤルストレートフラッシュだ」
「げえ、マジかよぉ!!」
俺の提示した手札に、「スクール」から俺の主催する賭けポーカーに参加するアラド・バランガが叫んでいた。
手札を放り投げて白旗を示す。
「くそぉ、キョウスケさん最近マジでパねえっすね」
タスクが手札を開示しながら負け惜しみを言った。役はフラッシュ。俺の手には遠く及ばない。
点数表には正の字で持ち点が書かれている。タスクが10、アラドが4、俺は30……俺の圧勝であった。
「もうそろそろ昼休みだな」
「そっすね、じゃあこれでお開きってことで」
「クソー、ただ飯食えると思ってたのにぃ!」
ドベのアラドが吼えていた。
俺たちの賭けポーカーでの賭け金は1点食事1回分だ。もしくは1食を500円換算するので、今回の俺の価値分は単純に1万円以上となった。
普段、タスクにはカモられまくっていたからな。
たまにはこういう展開も悪くない。
「きょうすけ、チーカマちょうだいにょ」
「ああ、すまんなオータム。ほら」
「わーい」
俺がチーカマをやると、オータムは喜んで食べ始める。
「それにしてもキョウスケさん?」
タスクが尋ねてきた。
「最近、チーカマ買い占めてますね。コンビニ袋の中全部チーカマでしょ?」
俺の傍らにあるコンビニ袋を指して言う。中身は勿論オータム用のチーカマである。
だがタスクやアラドにはオータムは見えていないようだ。オータムは今も俺の隣でチーカマを頬張っているというのに、食べ始めた途端にそのチーカマすら見えなくなっているらしい。
「そんなに好きでしたっけ?」
「ふ、どうも味覚が変わったようでな」
「あーあー、腹減ったぞー!」
大負けし昼食を取る余裕すらなくなったアラドが空に吠えていた。まさしく負け犬の遠吠えである。
…………しかし……勝ったと言うのに……何だろう……物足りない。
俺の勝ち点は30。これ以上はない程の大勝だが、まだまだ足りない。もっと勝ちたい。もっと大きな勝負で勝ちたい。
俺の苛立ちを余所に、タスクが訊いてきた。
「キョウスケさん、次の賭けポーカーはいつにしましょうね?」
「近いうちにしようぜ! 今度こそ勝ってやる!」
アラドは再戦を心に誓っているようだった。
だが俺にはもう、こんなチッポケな勝負をする気にはどうにもなれなかった。
「なしだ」
「え?」
「今後、賭けポーカーの開催はなしだ」
俺の言葉に2人はポカンッとした表情を浮かべていたが、やがて口を開く。
「なんだよそれ! 勝ち逃げかよ、キョウスケさん!」
「そうだ、俺の飯返せ!」
「ふっ、小物め」
「「なんだとぉ!?」」
ステレオで二人の怒号が響く。
負け犬の遠吠え、まさにそれだ。きっと負け分を取り返そうと考えること事態がツキを離しているに違いない。
タスクたちの訴えを俺は理解できる。俺も負ければ再戦を申し込むだろうし、この賭けポーカーは貧乏学生の俺らにできる数少ないギャンブルだからな。
だがもう違う。
俺はオータムを手に入れた。こんなチッポケな勝負を続ける理由など存在しない。
── 分の悪い賭けは嫌いじゃない……
こんなものは、分の悪い賭けをせざるを得ない人間の言葉だ。
生まれ変わった俺には相応しくない。
「俺はもっとデカイ勝負がしたくてな。賭けポーカーなんて子どもの遊びはお前たちだけでやるといい」
「そ、そんな……」
俺は屋上にタスクたちを置き、階段を下りた。
「どうしたってんだよ、キョウスケさん?」
タスクの呟きが聞こえた気がした。
だがもうどうでもいい。
俺はもっと大きな勝負をするためにジェネ高を早退し、賭場へと向かった。
俺が向かったのは金を賭けて行われる賭博麻雀をしている店だった。
賭けられる金額が半端ではない、無論、非合法に属する部類のギャンブルである。
麻雀は多数ある牌を取り合い、如何に相手より早く、大きな役を作るかを競うゲームだ。互いにフェアに競い合うなら大人から子どもまで真っ当な勝負を楽しめる、非常に奥の深いものである。
しかし、
金が賭かると、
人はその本性が剥き出しにするものだ。
「兄ちゃん、勝たせてもらうで」
酒臭いオッサンが俺に絡んできた。
オッサンは、俺が足を運んだ店で一番の勝ち頭だという。下らないプライドだ。自慢してくるぐらいだ……絶対に勝つ自信がある……要するに、イカサマでもしているのだろう。
「オータム」
「わかったにょ」
俺の勝ちは揺るがなかった。
幸運の女神オータムの加護を受け、勝ち頭のオッサンを完膚無きにまで粉砕する。他の追随を許さない圧倒的なツキ ── オータムを手に入れた俺に敵はいなかった。
この日も俺の一人勝ち。
勝ち続け、財布の中身が増えていく感覚に酔いしれ、顔や耳まで熱く火照っている。
「兄ちゃん、強いなあ」
最高の気分の俺に、対面のオッサンが声をかけてきた。
「どうや? ワシが紹介したるさかい、代打ちやってみいひんか?」
「代打ち?」
代打ちとは、麻雀や他のギャンブルにおいてある人間の代わりにギャンブルを行う行為のことを指す。
だが俺には分かる。
対面のオッサンの代打ちとは言葉通りのモノではない。
多額の金額を賭けて行う勝負などにおいて、ギャンブルを代行し、生活を立てている人種がいるという風の噂を耳にした事がある……そういった賭け事の裏にいるのは大概ヤクザだろう。
対面のオッサンは俺をそう言った世界に引きずり込もうとしているわけか。冗談じゃない、お断りだ……しかし……
「代打ちをすれば、大きな勝負をできるのか?」
「おう、やりたい放題じゃ」
オッサンの言葉に足元を見下ろした。
チーカマを齧るオータムの姿が目に入る。コイツが手の内に居る限り、俺に負けはないだろう。
俺はもっと、もっと大きな勝負がしたい……!
答えなんて初めから決まっている。
「その話、受けよう」
「よっしゃ、付いて来な兄ちゃん」
俺はオッサンに連れられ店を出る。
連れて来られたのは「ミザル組」の看板の掛かった日本家屋。
顔を合わせる面々全てが黒服で、見るからに堅気ではない雰囲気が醸し出されていた。
今晩の勝負は「ミザル組」の存亡を賭けた麻雀勝負だそうだ。負ければ首が飛ぶ。「ミザル組」だけでなく、俺もだ。
だからどうした?
その夜、俺は人生初めての代打ちを経験し、華々しくデビューを飾った。
圧勝! 俺に贈られる為に存在する言葉だろう。
「先生、ありがとうございます!」
当主らしい紫髪の男が頭を下げて来た。
「報酬は幾らでも払いましょう。是非、我が家お抱えの代打ちになっていただきたい!」
「その話、乗った!」
即答さ。当たり前だろう?
誰も俺に勝てないのだからな。
勝負の都合で数日間、ジェネ高を無断欠勤し「ミザル組」の世話になることとなった。しかも携帯の電池も切れてしまい外界と遮断されてしまった。エクセレンはどうしているだろうな?
まあ、アイツのことだ。
数日俺と会わなくても、呑気な笑顔を浮かべて生活していることだろう。
待たされた末の勝負も圧倒的な強さを締めくくった。
「最高だな」
代打ち生活は続き、自宅に帰ったのは実に2週間後のことであった ── ……
●
2週間ぶりに投稿したジェネ高は新鮮だった。
制服を着こみ、友人と他愛ない話を交わしながら登校する生徒たち。平穏な日常、見間違えようのない俺の日常だ。
……しかし、違和感がある。
温い……まるで、ジェネ高の雰囲気がぬるま湯のように感じる。俺の感覚とズレている。そう、感じた。
校門を潜った辺りで見慣れた後姿を見つけた。
「ん、おい、タスク」
「キョ、キョウスケさん!?」
タスクは俺の声に驚いた様子だった。
「最近のツキはどうだ? 俺はもちろん絶好調だ」
「え……っと……」
「どうだ、久しぶりに賭けポーカーでも開催しないか?」
「か、勘弁してくれ!]
いつも二言返事のタスクが、俺の提案を蹴ったかと思うと、
「アンタみたいな不良 ── いや、ワルとは付き合いきれねえぜ! 頼むから、もう俺に関わらないでくれ!」
暴言を残して、俺を置いて走り去ってしまった。
「……? なんだと言うのだ?」
ふと周囲を見渡すと俺を見る多くの視線に気が付いた。
別段有名でもない俺を道行く生徒たちがチラチラっと見て、俺が目を向けると慌てて顔を逸らして去っていく……歩いてく道は誰ひとり邪魔になることなく、歩を進めていける。
……理解しがたい。
ジェネ高に来なかった2週間の間なにかあったのだろうか?
「キョウスケ」
そんな中で声をかけてくる人物がいた……エクセレン・ブロウニング、俺の恋人だ。
「ねえ……キョウスケ……」
「どうした、エクセレン?」
エクセレンの表情には影が差している。普段から明朗活発というか、能天気に何事も笑い飛ばしている彼女からは想像できない顔だった。
……む、もしかすると、俺に借金の招集を迫りたいのかもしてないな。
無理もない、今まで借りた金額は積り積もって50万円以上だからな……それを返せと言うのは流石のエクセレンも忍びないのだろう。
しかし彼女にはそれを言う権利がある。
俺にも、今、金がある。なら返そうじゃないか。
「エクセレン、今まで迷惑をかけて済まなかったな。借りた金ならスグにでも返せるだけの額が手に入った、だからそんな顔はするな」
「……違うのキョウスケ、そんな事はどうでもいいの……」
「なに……?」
どういうことだ?
「知ってるキョウスケ? 今ジェネ高であなたがなんて言われているか……」
「……いや」
「ヤクザの廻し者……外道……人外、なんだっていいわ……とにかく、今のあなたの評判は最悪なのよ?」
……先ほどのタスクの態度はそう言う事か。
何処からか、俺が「ミザル組」で代打ちをしていたという情報が漏れてしまったようだな。
社会もそうだが、学生も異端を嫌うものだ。たった一度だけでも裏社会に触れた者はつまはじきにされるということか……。
ふん……
別に構わないさ、エクセレンさえ傍に居てくれればな。
「お願いキョウスケ、もうこんな事は止めて……前みたいに、みんなで楽しく遊びましょうよ……」
「なにを言っているんだ、エクセレン」
エクセレンは今にも泣き出しそうな顔で言う。
「キョウスケがこんな事続けるのなら、私、もうキョウスケと一緒に居られないわ……」
「エ、エクセレン!」
「……さようなら」
「待ってくれ!」
背を向けて足を進めるエクセレンに手を伸ばしたが、彼女は俺の手を避けてジェネ高校舎へと向かった。
空を切った手にはなんの感触も残っていない。
「今のは……別れ話なのか……?」
何故、こんなことになってしまったのだろうか?
確かにジェネ高を2週間も無断欠勤したことに非はあると思うが……いや、それよりも「代打ち」の件か?
ヤクザの「代打ち」なんて学校生活において異分子でしかない。集団というものは残酷で、違う者は極力排除しようとする傾向があるのだろうが……俺が、ジェネ高から、いやエクセレンからも切り捨てられたということか?
だが「代打ち」の勝負は楽しく、最高に充実した時間だった。
俺はそれを否定したくない……
「きょうすけ、だいじょうぶにょ?」
「オータム……」
足元のオータムが俺を不安気に見上げていた。
「……そうだオータム、願い事でエクセレンの心を繋ぎ止めることはできるのか?」
「らくしょうにょ」
オータムは即答した。
「そうか、では……」
俺はそこで言葉を濁してしまった。
……空しい……願い事で人の心を手に入れても空しいだけだ……
止めよう、そんな願いは。
しかし、それならどうすればいい?
エクセレンが俺から離れ、ジェネ高で敬遠されている理由はミザル組での「代打ち」が原因なのは明らかだろう。
俺はエクセレンに傍に居て欲しい……しかし、
「にょ?」
首を傾げ、俺を見上げるオータムを手放すのも惜しい……。
オータムの力で、圧倒的な勝利を得る快感を無くしてしまいたくはない。タスクにカモられるような弱いギャンブラーに戻りたくはない。
それに冷静に考えれば……もう、俺は引き返せない所にいた。
2週間前のあの時、感情のままに「代打ち」を引きうけてしまった相手はヤクザだった。俺が「代打ち」を降りると申し出ても、素直に手放すとは考えられない……ここでオータムがいなくなるのは正に死活問題……ということか。
「……願い事は止めだ」
「わかったにょ」
「……行くぞ、オータム」
「にょにょ」
ジェネ高にいても、エクセレンや他の生徒たちに迷惑をかけてしまうだけだろう。
俺はエクセレンが好きだ。愛している。
だから彼女をヤクザ絡みの面倒事に巻き込みたくはない……
「さらばだ、エクセレン」
俺はジェネ高を去った。
案の定、しばらく街を歩いていると「ミザル組」の者に見つかり、本家へと招集されてしまった。
大金を賭けた勝負らしい。
無論、その日の代打ちも圧勝だった。
「ミザル組」の当主や他の面々は嬉々とした様相だったし、俺も賭け事に勝った高揚感を感じていたが、どこか心が満たされない思いもあった。
まるで、胸に穴が空いたようだ…… ──
──……その日、郵送で退学届を送り付け、俺はジェネ高を辞めた ──
── 2年後
「ロン、役満国士無双(こくしむそう)だ」
その日も俺の圧勝だった ──
── 俺は今も「ミザル組」で代打ちの仕事を続けている。
オータムの力のおかげで俺は負け知らず。週1,2で開催される莫大な金を賭けた麻雀で相手の雀士たちを圧倒し、その恩恵を受けた「ミザル組」は『エリア』で一番巨大なヤクザへと変貌を遂げた。
莫大な資金力を活かして土地を買いあさり、巨大なレジャー施設を『エリア』に建設する予定らしい。第一のターゲットにされたのは商店街の「ヒカワ屋」。一瞬で潰されたそうだ。
それだけに留まらず『エリア』内のほとんどは「ミザル組」の手中に落ちたと言ってもいいだろう……「ミザル組」の成長はひとえに俺の……いや、オータムのおかげと言っても良いだろう……。
無論、俺にも大金が流れ込んでくる。
そして刺激的な勝負もだ……。
あまりに強く勝ち続ける俺に付いた二つ名は「坊やキョウスケ」。代打ちにしては異常に若い年齢の俺は、他の代打ちから見れば正しく坊やだろう……。
「坊やキョウスケ」は代打ち界では有名となり、群がる人間は後を絶たなかったが……俺の周りには……もう、誰もいない。
「ふふふ……」
俺は今日も、愛機 ── アルトアイゼン号の整備をしている。
余りある資金の殆んどをパーツにつぎ込み、アルトアイゼン号は変貌した。
高級パーツを身に纏い肥大化した車体はまるで巨人……今では、アルトアイゼン・リーゼ号と俺は呼称するようになっている。
「今日も素晴らしいなリーゼ号……明日は仕事がないから共に峠を走るとしよう」
俺がリーゼ号と走るようになってから、峠の走り屋の数はメッキリ減ってしまった。
圧倒的なのだ。
リーゼ号が現れればブチ抜かれる。追いつけない。興が削がれる……
そして、誰も俺の隣を走る事はない……2年前に、エクセレンが走っていたポジションに、今は誰もいない。
「……エクセレン……」
彼女はどうしているのだろうか?
2年前から彼女とは連絡を取れていない。こちらから連絡したこともあるが、着信拒否されてもはや音信不通の状態だった。
……今更、彼女を思っても仕方のない話だ……こうなった原因は俺が作りだしたようなものなのだからな。
俺はリーゼ号の整備を終えると、ジェネ高時代から住み続けている格安賃貸アパートへと戻った。
金は捨てる程あるので引っ越すことは容易だったが、エクセレンと過ごしたアパートから出ていく気にはなれなかった。
2年経ったが未だに住んでいる……きっと、俺はここから出ていくことはないのだろう……
「帰ったぞ、オータム」
「………………にょー……」
6畳一間の小さな部屋にオータムはいた。
部屋の隅にちょこんと座っている。その姿には活力がなく、大きさは……5cm程だ。
あれから2年……元々全長20cm程であったオータムだったが、ここ数日にかけて体が萎んでいっていた。原因は分からない。
「大丈夫かオータム? ほら、チーカマだぞ」
「……ありがとうにょ、きょうすけ」
好物を口にするがやはり以前のような活力は見られない。調子が悪いのかもしれないな。だがオータムは俺以外の人間には見ることはできない。俺にはどうすることもできなかった。
……休養が必要だろうか? いや、それで元に戻る保障は何処にもないのだが ──……
「オータム、すまないが願い事だ」
「……にょー……」
俺を見上げたオータムの瞳はどことなく虚ろだった。
「今晩も代打ちの仕事が入っている。いつものように頼むぞオータム」
「…………」
「今日の仕事が終わったら、暫く休みを貰えるように頼んでみるか ──」
「きょうすけ」
オータムが言葉を遮る。
「……いつまでこんなことつづけるきにょ?」
「なに? どういう意味だ?」
「……わからないのなら……もういいにょ」
小人のように縮んだオータムが小さなを腰を上げた。
開けっぱなしの玄関口に向かって歩いて行く。その小さな背中に、俺は言い様のない不安感を覚えた。
「お、おい、何処へ行くつもりだ?」
「…………」
「答えろ、オータム!」
もう、俺の周りには誰もいない。
エクセレンも、タスクもアラドも、あの腐れ縁のアクセルでさえも…………俺は孤独だ。
傍にいるのは俺にだけ見える小さな神様、オータム・フォーだけ。
「頼む、行かないでくれ! お前にまで去られてしまったら……俺は!」
「きょうすけ、おまえはいいやつにょ」
オータムが振り向いてくれた。
「だからわたちは、ちからをかそうとおもったにょ。わたちにできるのはねがいごとをかなえることだけにょ……きっと、それがよくなかったにょ」
「オータム……!」
「もうきづいてるはだにょ……きょうすけ、おまえがてにいれたものとなくしたもの……わかるはずだにょ……」
それ以上は言うな! 言わないでくれ!
そんなことは2年前のあの日に理解している。
圧倒的強運と金を手に入れた俺が払った代償は、絆だ。恋人との、友人との、悪友との絆だ。
欲しいモノを手に入れた代わりに、本当に大切にしていた者たちを失った……だからオータム、お前にまで去られてしまったら……俺は……!
「……頼むオータム、独りは嫌なんだ……!」
「ひとはいつでもひとりだにょ」
「オータム!」
「チーカマ、いつもありがとうでしたにょ」
頭を下げて、玄関を潜るオータム。俺は慌てて立ち上がって彼女を追った。
彼女は一度だけ振り向いて言う。
「ばいばい、きょうすけ」
「待ってくれオータム!」
俺の手がオータムを掴むことはなかった。2年前と同じ様に空を切る。
玄関から外に飛び出したがオータムの姿は何処にも見えなかった。ほんの数秒前まで玄関口にいたはずなのに……霞のように消え失せてしまっていた。
「こんな……こんなことがあっていいはずがない!」
オータムは俺の傍にいるべきなのだ。いや違う……いて欲しい。もう願い事なんて叶えてくれなくてもいい。だから傍にいて欲しい。孤独は嫌なのだ……
しかし頬を撫でる風は冷たく、身が震える。声をかけてくれる者は誰もいない……。
「まだ……まだ近くにいるかもしれない!」
諦めきれず、アパートを飛び出してオータムを探しまわった。
何時間探しまわっただろうか?
結局、オータムを見つけることは出来なかった。既に日は落ちてしまっている。俺の足は自然とオータムと出会った公園に向けられていた。
しかし公園にもオータムはいない。
「……どこに行ってしまったんだ?」
「ねえ、お兄ちゃん ──」
背後から幼い声が聞こえて来た。
振り返ると、野球帽を深く被った12、3歳の少年だった。
「── ねえ、お兄ちゃんが『坊やキョウスケ』さんですか?」
「ああ、確かにそうだが……?」
目の前にいる少年に見覚えはない。
少年に尋ねられた「坊やキョウスケ」とは、俺の代打ち時の異名である。子どもが夜に出歩いていることにも違和感を覚えるが、裏世界の異名が口から出て来たことも何処か奇妙だ。
不審な少年だった。
「……そう」
少年は呟き、着ているジャンパーの中に手を入れると、
「死ねえ!!」
「ッ!? がはッ!!」
取り出してきた何かを俺の腹に突き刺してきた。
激痛が奔る。
体を密着させるようにしていた少年が離れると、その手には紅く染まった刃渡り20cm程のナイフが握られていた。月明かりにテラテラと生々しく照り返している……あれは、俺の血か……?
認識した途端、腹部は耐えがたい灼熱感にみまわれて膝をついてしまう。
「な、なにをする貴様……!?」
「うるさい、この人でなし!」
手を震わせながら少年は叫んでいた。
「お前が『代打ち』で父ちゃんを倒したせいだ! そのせいで父ちゃんは、父ちゃんはぁ……!? うわああぁぁ、許せない、絶対に許せないぞ!!」
「うぐっ!?」
再び、鋭利な刃物が俺の腹に侵入してくる。
そして続けざまに数回刺された……訳も分からないまま、俺は地面に崩れ落ちた。温かい液体が流れ出る感覚と共に、なぜか痛みが遠のいていく。
「うわああああぁぁ!!」
少年は奇声を上げながら去って行き……腹をめった刺しにされた俺だけが公園には残された……。
痛みや熱感がいつの間にか和らいでいる……いや、感覚が鈍くなっているようであるが、思うように体を動かすことはできなかった。
脳裏にエクセレンの姿がよぎる……
「くっ……う……!」
俺が倒れているのは夜で人通りも少なく視界も悪い公園だ。
発見してもらえる可能性は低い。助けを呼ぼうにも体の自由が利かない……こんな所で俺は死ぬのだろうか?
……嫌だ。
エクセレンに会いたい。独りは嫌だ。死にたくない……できることなら…… ──
「あの頃に……戻りたい……」
「わかったにょ」
── ……聞きなれた声が俺の耳をくすぐった。
力を振り絞り顔を上げると、探していた小さな神様が目の前にいた。
「さいごのおねがいをかなえてなかったにょ。おれいはしないといけないにょ」
「オ……タム……」
もう、力が入らず擦れた声しか出ない。視界も揺らぐ。オータムの声を聞くしか俺にできることはなかった。
「いままでにてにいれたものとひきかえに、もとにもどしてあげるにょ」
「…………」
「こんどは、こうかいしないようにするといいにょ」
オータムは呪文を唱えて踊る。
見慣れた儀式が終わると同時に閃光が視界を支配した。
俺の意識も同時に薄れていく…………その中で俺は聞いた。
「ばいばい、きょうすけ」
誰の声だっただろう?
思い出せず、俺の意識はそこで途切れた……
●
目が覚めると、俺は夜の公園で横たわっていた。
「……夢か?」
酷い悪夢を見ていた気がする。
大切なモノを全て失ってしまうような……そんな夢だ。
俺の右手には固い感触があった。
「……? 500円玉? 何故こんなものを持っている……いや、そもそも何故俺は公園で寝ていたんだ?」
……思い出せない。
しかし一つだけ確かなことがあった。
エクセレンに会いたい。無性に強い衝動に駆られ、俺は携帯電話に登録した番号を呼び出す。
数拍の呼び出し音の後、彼女の声が返ってきた。
「ハロハロ、あなたのエクセレンたんですよー♪ どちら様かしらん?」
どうやら相手の名前も確認せずに電話を取ったらしい。
「エクセレン、俺だ」
「あららキョウスケ? こんな時間にどったの?」
「いやな……」
一瞬返答に困ったが、素直に心の内を明かす事にした。
「急に会いたくなってな。声も聞きたかったので電話をした。迷惑だったか?」
「まっさかー、でも変なキョウスケェー。もしかして変なモノで拾い食いしたのかしら?」
「ふっ、そうかもしれん」
エクセレンとは昨日もジェネ高で会っているはずだった。しかしとても懐かしく感じている自分がいる……どうしてだろうな? 自分でもよく分からない。
エクセレンの声を聞けて安心した。
自分の居場所に帰って来たような感覚だ。
俺は右手の中の500円玉を見ながら言う。
「エクセレン、今から会わないか? 缶コーヒーぐらいなら奢ってやるぞ」
「え? 嘘! キョウスケが奢ってくれるなんて凄い久しぶりねー。もちろん行くわよ。待ち合わせはジェネ高の前でいいかしらん?」
「ああ、待ってるぞ」
「はいはーい、今から準備するわね」
電話はそこで終わった。
起きた時握っていた500円玉を眺める。誰かが落としたのを拾ったのだろう。落とし主には申し訳ないが、俺とエクセレンの仲を取り持つための役に立ってもらおうと思う。
たまには、こういう小さな幸せがあってもいいんじゃないかと思う。
「さて、行くか」
500円玉片手に、俺はエクセレンと待ち合わせ場所へと急ぐのだった ──
ここはOG高等学院。
『エリア』にある地域最大のマンモス高校だ。
今日も、楽しく愉快な仲間達がアホな事件を巻き起こす。
次はどんな事件が起こるのだろう……それは誰も知らない。
おまけ
ジェネ高の屋上で、
「ロイヤルストレートフラッシュだぜ!」
タスクが手札を開示して勝ち誇っていた。
恒例となった賭けポーカー、俺を置いてタスクとアラドはバカつきである。
勝ち誇った笑みでタスクが俺に訊いてくる。
「キョウスケさんはどうっスか?」
「……ブタだ」
俺はワンペアにもならない手札を放り出した。
今日はついていない。
勝利の確定したタスクとアラドが意地悪く笑う。
「巨星、乙! 今日の昼飯はキョウスケさんの奢りっすよ!」
「ひひひ、キョウスケさん、御馳になります!!」
「……仕方あるまい」
俺が言うとほぼ同時に、昼休みを告げるチャイムが響いてきた。
使い古したカードを片づけて、俺たちは食堂に向かう。
今日は何円負けたのだろうな?
兎にも角にも、今日の昼飯は俺の奢りである事に変わりはない。
次回こそは必ず勝ちたいと思う。
しかしなんて言うのかな? ギャンブル仲間がいて、集まって勝負をするのはやはり悪くない。
そう ──
「ふっ、こういうのも悪くない」
── これが俺、キョウスケ・ナンブの日常なのだと噛みしめながら、次回へのリベンジを心に誓うのだった。
<キャラ紹介>
キョウスケ・ナンブ:ジェネ高3年のギャンブル大好き主人公。分の悪い賭けが大好き。口には出さないが、恋人のエクセレンのことを何よりも大切に思っている。タスクからの情報で公園に赴くが……?
タスク・シングウジ:ジェネ高2年のラッキースケベ。キョウスケのギャンブル仲間だが異常に運が強く、よく彼をカモっている。今回は珍しく負け、代金分の情報を提供するが……?
エクセレン・ブロウニング:ジェネ高3年の高校生に見えない高校生。よく周りから姉さんと呼ばれている。
オータム・フォー:公園に住む「エリア」の神様。チーカマ大好き。
<次・回・予・告>
エクセレン「私とキョウスケが結婚したらー、子供は双子の女の子で名前はアルフィミィとレモンにするの」
キョウスケ「…………」
エクセレン「キョウスケは改心して賭け事を止めて、有名会社に勤める敏腕サラリーマンで、キョウスケと結婚している私は近所の奥様方から羨望のまなざしで見られているのよん♪」
キョウスケ「…………」
エクセレン「キョウスケは私の事を凄く愛してくれていて、いつもお土産やプレゼントを買ってきてくれるのー」
キョウスケ「それはきっと『夢オチ』だな」
エクセレン「夢ぐらい見たっていいじゃない!?」
キョウスケ「ふん、今回は久しぶりの主役だったのに刺殺されたりして災難だ……俺は夢オチで助かったよ。では次回予告にいこう」
キョウスケ
「俺の名前はキョウスケ・ナンブ。
さあ次回はリクエストにあったスパロボJの話でもしてみようかと思う。
ついでにもう終わってしまったが、クリスマスネタでも入れてみよう。
次回スパロボ学院、『企業戦士カルヴィナ?(タイトル未定)』!
どんな相手だろうと、打ち貫くのみ!!」
エクセレン「スパロボJもよろしく!」
ザ・夢オチ!
一度やってみたかったのです。後悔はしていない。
あんまり使うと辟易されるので、もうあまり使わないと思います。
sibugakiさん、暗黒ミカンさん、ケルンバイターさん感想ありがとうございます!
年賀状書かなければいけないのに、現実逃避して小説書いてる北洋です……次回の話は年内には書きあげたいと思っています。
ではでは、次回もよければ読んでくださいね。