スパロボ学院 ~ OGだよ、全員集合! ~   作:北洋

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<注・意・事・項>

絶賛、キャラ崩壊中!
仮面パパがキャラ崩壊しております!
キャラのイメージが崩れるのが嫌な方は閲覧を避けてください。
それでも良いと言う方は、是非どうぞ!

ちなみに今回も正月ネタ。
作者の実家での大晦日はすき焼きと決まっております。

本編は短編としては長めです。


俺たちゃヴァルストークファミリー3 ~叔父、襲来~

 俺の名前はカズマ・アーディガン。

 何故か高校が密集する地域で「エリア」で、運び屋をしているヴァルストークファミリーの長男坊だ。

 

 

── 唐突だが、俺たちには母親がいない。

 

 

 もちろん、今はいない、という意味だ。

 俺には姉が2人に、妹が2人いるので母親がいなかったという事はありえない。俺を合わせて総勢6名にもなるヴァルストークファミリーは、世間一般で言う父子家庭ということになる。

 親父 ── ブレスフィールド・アーディガンは男手一つで俺たち兄弟を育て上げてくれた。

 凄い事だと思う。

 そりゃ、シホミ姉ちゃんやチイ姉の協力は不可欠だっただろうけど、全員をしっかり学校に通わせてまっすぐに育て上げるのは並大抵のことではないだろう。少なくとも、今の俺には無理だと思うね。親父は文字通り、俺たちファミリーの大黒柱なのさ。

 

 ……でも時々思う。

 

 贅沢だとは分かっている。

 母ちゃんがいてくれたら……と。

 

 母ちゃんが亡くなったのは俺とアリアが7歳の頃だ。

 死因は事故死。命日は1月4日。車に撥ねられて死んだ。

 幼いながらに絶望を知った気がした。みんな泣いていた。母ちゃんの死に顔は忘れられたくても忘れられねえ。

 この頃、ミヒロはまだ生まれたばかりだったので、母ちゃんの顔を覚えてはいなかっただろう。

 ある日幼稚園でなにか言われたのか……泣きながら俺に尋ねてきたことがあった。

 

「……お兄ちゃん……どうして、うちにはおかあさんいないの……?」

 

 重い、重い言葉だった。

 俺はまだ子どもで、答えをミヒロにあげることはできず、腸煮え繰り返る怒りに駆られて幼稚園に乗り込もうとしたもんさ。止めようとするミヒロとアリアを振り払った俺を止めたのは、他でもない、親父の強烈な拳骨だった。

 

「カズマ、暴力ではなにも解決しないぞ」

 

 普段の親父はお茶らけて、バカなことばかりして俺たちを笑わせてくれる。親父の周りにはいつも家族の笑顔があった。そんな親父の見せた凍りつきそうな程の無表情に、俺は恐怖を抱いたのを覚えている。

 

「お前のミヒロを大切に思う気持ちはとても尊い。だからこそ、軽率な行動をするのはよしなさい」

「でも……!」

 

 親父の言葉の意味が分からなかった。

 やられたらやり返す。当たり前のことじゃないかとこの頃の俺は本気で思っていたんだ。

 でも言い返す言葉が見つからなくて顔をうつ向ける俺に、親父は暑苦しいぐらいのファーザースマイルを向けて言ったんだ。

 

「なーに、後は父ちゃんに任せとけ!」

 

 八重歯が覗くぐらいに口を開いてウィンクし、右手の親指を立てていた。

 30後半のオッサンの暑苦しいけど頼りがいのあるスマイル。

 ファーザースマイルを終えた親父は背を向けて、幼稚園へと足を運んだのを覚えている。

 

「……ごめんな、カズマ……」

「なに、父ちゃん?」

 

 小さく親父が呟いたのも覚えている。

 なにを謝ったのか……分かる訳がない。俺は小さかったんだ。今でもバカだけど、この頃はそれに輪をかけてバカだった俺に、親父の言葉の意味を探ることなんてできやしない……

 

「なに、ただの独り言だよ」

 

 振り返ることなく、親父は幼稚園へと足を運んだ。デカイ背中だった。

 次の日から、ミヒロが母ちゃんのことを口することはなくなったし、泣きながら帰って来ることはなくなった。

 親父がなにかしたのだと思う。

 凄いと思った。

 子ども心に思ったモノだ。

 

── 父ちゃんみたいに、家族を守れる男になるんだ!

 

 シホミ姉ちゃんもチイ姉も、ミヒロも……あとついでにアリアも守れるぐらい強くなる! 男の中の男になってやる。俺は親父だって守れるくらいの男を目指しているのさ。

 その思いは今も変わらない。

 うちの家族に手を出す野郎は神さんだろうと容赦はしねえ!

 

── 俺の家族は俺が守ってみせる!!

 

 これだけは絶対に曲げらんねえ、俺の信念なのさ。

 

 

 

 スパロボ学院 ~OGだよ、全員集合!~

 俺たちゃヴァルストークファミリー3 ~叔父、襲来~

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 12月31日】

 

 前言撤回!!

 いきなりだが、前言を撤回させてもらおうと俺は思う。

 

「アリア! てめえ、肉取り過ぎだぞ!」

 

 魂の叫び声は俺の腹の底から食卓に響き渡った。

 時は年末。空気が凍てつき、寒さが心までも蝕む季節。

 人類の心は冷え切っていたが、それでも人類は死滅していなかった!

 我ら人類の最後の希望が、今、俺の目の前に広がっているからだ。

 

 

 

──── 年末救世料理《ねんまつきゅうせいしゅ》 すき焼き ────

 

 

 

 ふぅふぅ、少し興奮して強調しすぎたかな。

 だがコレで俺の心の内を察してもらえたかと思う。

 貧乏ジリ貧のヴァルストークファミリーにおいて、すき焼きとは年に1度の贅沢料理なのだ!

 ニンジン、ゴボウ、白菜、シラタキ……そして牛肉! ビーフ! ナイスビーフ!

 それが妹様に蹂躙されていく。

 

「野菜も食えよ! また太るぞ!」

「うっさいわねバカカズマ! 早い者勝ちだよ!」

「そうだよお兄ちゃん。悲しいけど、これ、戦争なんだよ」

 

 おのれ、ミヒロ裏切ったな! ミヒロの取り皿にはしっかりお肉様がキープされている。

 

「まいうーまいうー、あカズマ、マヨネーズ取って」

 

 そう言ったのはチイ姉。すき焼きにつけるとき卵にマヨネーズがこれでもかと盛られている。色は卵の黄色ではなくマヨネーズの白だ。

 

「全国のすき焼きファンに謝れ!」

「なにキレてんの? あ、この肉煮えてる。もーらい」

「あーー、俺が狙ってたのに!!」

「遅いよ、お兄ちゃん」

 

 チイ姉に続いて、ミヒロが俺の目をつけていたお肉様を掠め取る。そしてとき卵につけてお肉様は口の中へ。もにゅもにゅ、と噛むたびに肉汁とタレが浸み出し、それをとき卵がマイルドに包み込んで至福のハーモニーを奏で始めている……ような気がする。

 まだお肉様を食せていないため味を想像するしかない。あぁ、涎が……

 え? 味をイメージしてないで食ってみろって?

 ウルセエ!! 食えるもんなら食っとるわい!!

 アリアを筆頭に、ミヒロ、チイ姉のカシマシ3連星が俺の狙っていたお肉様を集中攻撃してくるのだ。姉妹ならでは連携プレーに俺は白旗を上げっぱなし……切ねぇ。

 

「カズマちゃん、食べないの?」

 

 独り優雅に食事をしていたシホミ姉ちゃんが言った。

 シホミ姉ちゃんはファミリーの長女だ。食卓の誰もシホミ姉ちゃんの狙った肉には手を出さない、しわ寄せは全て俺の所に押し付けられる。俺には、すき焼き鍋の中が小さな社会の縮図に見えたね。

 

「だってよう……」

 

 俺が唇を尖らせると、シホミ姉ちゃんは笑顔で手を差し伸べてきた。

 

「カズマちゃん、お姉ちゃんがよそってあげるから取り皿を頂戴」

「ね、姉ちゃん!」

 

 救世主(メシア)現る!!

 シホミ姉ちゃん、あなたは女神です。例えるなら砂漠で行き倒れそうなときに現れるオアシス、足をツッて溺れているときに現れる巨大な空気の泡(バブル)、広がり続け山火事に絶望していたときに降ってくる天の恵み(スコール)。とにかく、シホミ姉ちゃんは最高だぜッ!

 まったく、他の女性陣にもこの気づかいを見習って欲しいもんだね。でないと嫁の貰い手なくなるぞ?

 

「はい、どうぞカズマちゃん」

「すまねえシホミねえちゃん、恩に着るぜ!」

 

 シホミ姉ちゃんから受け取った取り皿の中身を確認する。

 まず白菜。これはすき焼きでは外せませんね。流石シホミ姉ちゃん、分かっておられる。さらにニンジンにゴボウ、そして豆腐にシラタキ。最後にトリを務めるのは我らがおにく……あれ?

 ウェア イズ マイ ビーフ?

 気のせいかお肉様の姿が見当たらないのだけれど……。

 

「野菜もしっかり食べないと駄目よ」

 

 俺の健康を気遣ってくれるありがたいお言葉を頂いた。しかしそんなシホミ姉ちゃんの取り皿にはお肉様が山のように積まれている。説得力皆無だ!

 オ・ノーレ!

 女狐め、やりやがったな? 天使の様な笑顔を浮かべておきながら、やっていることは他の女性陣と変わらなかった。シホミ姉ちゃんの顔に浮かべていたのは天使のような悪魔の笑顔でした。くそ、策士め。シホミ姉ちゃんのあだ名は今日から「ギンロー」だ。

 

「あ、この肉食べれるよチイ姉ちゃん!」

「ありがとうアリア、こっちもいけるよミヒロ」

「アリ姉ちゃん、あっちのも大丈夫そう」

 

 こうしている間に、3連星が脅威の連係プレーでお肉様を迎撃していった。3人を結んだ3角形がまるでバミューダトライアングルのようだぜ! お肉様がドンドン胃袋に沈んでいく。

 しかし、一度取り皿にとった食べ物は食べきらないとシホミ姉ちゃんに怒られるので、俺は急いで白菜たちの始末に取りかかった。

 1分程かかって敵機(白菜)を殲滅し戦場(すき焼き鍋)に戻ると、そこには希望の船(お肉様)の残骸しか残されていなかった。

 

「絶望した! 優しさの欠片もない家族に絶望した ──── ッ!!」

「あ、買って来たお肉はさっきので最後みたい」

「ちくしょーー!!」

 

 ミヒロの宣告に俺は崩れ落ちた。

 結局、お肉様を一切れも口に出来ず、ヴァルストークファミリーのスキヤキウォーズの幕は降りた。惨敗である。

 余談だが親父は開戦早々、シホミ姉ちゃんから晩酌攻撃(日本酒)を受け、ヘベレケになって倒れた。

 顔を真っ赤にして、千鳥足になり、居間の壁に張っている超巨大な母ちゃんの遺影に泣きつき

 

「おおーー、ユウミー、なんで死んでしまったんだー? 子どもたちは元気に育っているよユウミー。今日もシホミにお酌してもらったぞー、どうだー、羨ましいだろー?」

 

 その直後に顔を真っ青にしてトイレに駆け込み、ぶっ倒れていたので俺たちで自室のベッドへと寝かせてきた。

 ……情けねえなあ……年月はこうも人を変えるモノなのか。幼少時代にカッコいいと思っていた親父の面影を微塵も感じさせずにバカ親父は早々にリタイアした。子どもとお酒を飲むのが夢という親もいるらしいが、そんなに嬉しいもんかね? 分からん。

 どの道、親父がいてもスキヤキウォーズの戦績は変わらなかっただろうしな ──

 

── ピンポーン

 

 我が家のチャイムが鳴った。今日は大晦日の夜……こんな時刻に来客なんて珍しい事もあるもんだ。

 

「おい、出ろよ」

「嫌よ、アンタが出なさいよバカカズマ」

「早く行かないとパロスペシャルかけるよー」

 

 アリアに続いてチイ姉が邪悪に笑いながら脅してきた。

 年末に必殺技をおみまいされたくないのでシブシブ席を立つ俺。ちなみに誰も席を立とうとはせず、遠巻きにテレビを見ている。どんだけモノグサなんだよ、うちの女性陣?

 廊下に出ると暖房が効いていないのでかなり肌寒かった。

 

「くそ、誰だよ、こんな時間に?」

 

 舌打ちしながらドアノブを捻る。

 玄関を開けると、見覚えのある人物が立っていた。親父並みにガッシリと体格が良く、茶髪と髪の色も同じ……そして、一番特徴的だったのは顔に被った仮面だった。

 

「久しぶりだな、カズマ君」

「アプリカントの叔父さん!」

 

 親父にそっくりな仮面の男性 ── 彼の名前はアプリカント。

 親父の双子の弟で、俺たちの叔父だった。

 

 

 

 アプリカントの叔父さん ── 叔父さんと記していく ── を連れて居間に戻ると、銘々に好きな事をしていた女性陣の視線が集中して向けられてきた。

 予想外の訪問者に驚いていたが、それはすぐに歓喜に変わる。

 

「アプリカントの叔父さま!」

 

 中でもアリアの喜びようは凄かった。叔父さんに向かって飛びつく。……おい、胸が当たってんぞ。

 

「どうしてどうして? 来るんだったら連絡してくれればいいのに」

「ハハハ、アリちゃんはいつも元気だねぇ」

 

 叔父さんは口元を歪ませている。マスクで表情は見えないが少し困っているように思えた。

 アリアの奴は叔父さんが来るといつもテンションが上がる。理由は分からないんだけど異常なぐらいに叔父さんに懐いているんだ。……女子高生になったのに、興奮して叔父さんにハグするなんて……見てるこっちが恥ずかしい。

 

「おいアリア、やめろよ。叔父さんが困ってんじゃないかよ」

「ウザ。さっさと部屋に帰りなさいよ、バカカズマ」

 

 俺が話しかけた途端に射殺すると言わんがばかりの視線を向けて来た。

 ケッ、可愛くねえ。だがな、俺だっていつまでも引きさがってばかりじゃねえよ。年末ぐらい居間でゆっくりテレビ見る権利があるはずだ。

 

「やだね。俺は今から紅白歌合戦を見るんだ。トイレの俺様を聞くんだからな」

「ハァ? 意味不明。年末はK-1(ケーイチ)でしょ?」

「なに言ってんだ? 紅白を見るのは国民の義務だろうが。K-1なんて邪道だね」

「あーあー、可哀想に。毎回マンネリ的に繰り返されるだけの歌番組が面白いなんて……やっぱり、思考停止したバカな脳味噌してるのね?」

「ハァ、喧嘩売ってんのか? 紅白は風物詩って奴なんだよ。それとお前は全国の紅白ファンに謝れ!」

「アンタがなんと言おうとテレビはK-1よ。ねぇ、チイ姉?」

 

 アリアがチイ姉を引き込もうとしている。汚い。流石アリア、汚い。

 

「当たり前じゃーん? 年末はやっぱりマッチョだよ! それともなぁに、カズマは他の番組みたいわけ?」

 

 ニカッ、と太陽のようにチイ姉が破顔した。

 

「別にいいよ、あたしを倒せたらね」

「K-1でいいです」

 

 即答でした。

 勝負してもタワーブリッジで背骨を痛めつけられるのがオチだ。男の中の男は無駄な勝負はしないのだ。

 

「ハハハ、みんな、元気そうでなによりだよ」

 

 叔父さんがアリアの頭を撫でながら言った。アリアは猫のように気持ち良さそうに目を閉じていた。……チッ、ムカつくので後で頭を叩いてやろうと思う。

 叔父さんは手に持っていた袋をシホミ姉ちゃんに差し出した。

 

「はい、これお土産」

「まぁまぁ、わざわざありがとうございます」

「中身肉だから早く食べるんだよ。どうせすき焼きだろうと思ってOGビーフ買って来たから」

「「「「OG(オリジェネ)ビーフ!?」」」」

 

 シホミ姉ちゃん以外の声がシンクロした。

 無理もないだろう。

 OGビーフは牛肉の中でも味も値段も最高級の代物だからだ。もちろん、俺たちみたいな庶民は口にする機会が事がない。さっそくシホミ姉ちゃん開封した袋の中身は、薄桃色……いや桜色と言っていい色で適度に霜が入った実に美味しそうなお肉様だった。

 

「ありがとう、叔父さま!」とアリアが礼を言う。

「じゃあ、準備するね」とミヒロ。「マヨネーズまだあったかなぁ?」はチイ姉。「一度食器洗って綺麗にしましょうか?」はシホミ姉ちゃんだ。

 

「ありがとう叔父さん。俺、実はまだ肉食べれてなかったんだ」

「そんなことだろうと思ったよ。大方、アリちゃんたちとまた喧嘩してたんだろ?」

「そ、そんなんじゃねよ」

 

 だって喧嘩というモノは、ある程度力関係が拮抗している場合に言うモノだろう? 俺の場合は弾圧とか虐殺に違いない。

 

「とにかく、第2次スキヤキウォーズ開幕だぜ!」

「ハハハ、よかったねぇ」

 

 こうして闘いの火蓋は切って落とされた。

 結果から言うと、惨敗した……3連星恐るべし。しかも片付けを押しつけてくる始末。誰か、この狂ったパワーバランスをどうにかしてくれ……。

 

 食後は叔父さんと一緒にテレビを見ながら、雑談をした。テレビの内容は当然のようにK-1。これまた当然のように、俺は観戦していてテンションの上がったチイ姉にプロレス技をかけられた……堪んねえよ、本当に。

 叔父さんはその様子を見て笑っていた。

 そうしてカウントダウンTVにチャンネルを変え、0時を跨いで、新しい年を迎える。初詣に行こうという意見も出たが、寒いので日が上がってからにしようと言うことになった。年越し蕎麦をみんなで食べて、各々床につき、俺たちの家から明かりは落ちる。

 ちなみに叔父さんは親父の部屋で寝るらしい。むさ苦しいが、兄弟だからいいのだろうか。

 

 ……それにしても、叔父さんはなにをしに来たんだろうな?

 

 

 

      ●

  

 

 

 ここでアプリカントの叔父さんについて紹介しておこうと思う。

 

 アプリカントの叔父さんは、親父 ── ブレスフィールド・アーディガンの双子の弟らしい。俺とアリアのとは違い一卵性双生児らしく、外見はほぼ同一人物と言ってよいぐらいに瓜二つだ。区別するために仮面を着けていたりするが、親父と一緒にいる叔父さんを見たことはない。

 性格はお調子者の親父と違って冷静で紳士的。

 たしか10年前ぐらいから俺たちの家に時々現れるようになった。

 ……しかし、存外俺は叔父さんのことを知らない。

 叔父さんが何処に住んでいるのか。結婚はしているのか。仕事は何をしているのか……叔父さんは話をしてくれないので俺が知る由もない。

 でも、まぁ、親戚の事をあまり知らないなんてのは割と普通なのかね?

 なにがあっても叔父さんは叔父さんなんだし、俺は特筆気にする事もなく今日を迎えている訳だ ──

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 1月1日】

 

 俺が目覚めたのはお天と様が頭上に差し掛かる頃だった。時刻にして12時越え。ジェネ高が休みだからできる贅沢。朝寝坊っていいよね?

 俺以外のメンツは既に活動を始めており、おせち料理を摂った後の予定は初詣だ。一年の計は元旦にあり。神様にお祈りして今年こそ家族内での俺の待遇改善を願うのだ。

 

「カズマちゃん、アリアちゃんとミヒロちゃんをよろしくね」

 

 シホミ姉ちゃんは初詣には行かず、家でゆっくりするそうだ。

 

「あたしもホリスと出かける約束あるから」

 

 チイ姉も年始の家族行事をボイコットするようだ。マッチョ好きのくせに、あんな青瓢箪(あおびょうたん)と出かけるのかよ? とヤジを入れると、テキサス・トゥ・ホールドでお仕置きされた……年始から痛い。

 ちなみに親父は、叔父さんによると二日酔いでダウンしているらしい。情けねえなぁ……

 と言う訳で ──

 

「初詣には俺とアリア、ミヒロと叔父さんでやってまいりました」

「バカカズマ、誰に向かって言ってんのよ?」

「もちろん神様さ」

 

 近所の神社に参拝に来た俺たち。アリアが俺に突っかかってきたが適当にあしらった。嘘は言ってないからな。

 

「思ったより人が少ないんだねえ?」

 

 叔父さんの言うように神社に人気は少ない。昼過ぎだから、神社参拝はとっくにピークアウトしているようだった。人混みは好きではないから、俺にはこの位が丁度いいけどね。

 

「ねえねえお兄ちゃん、くじ引きしようよ」

「いや、先に参拝すませちまおうぜ」

「えー、くじ引きがいいのにー」

 

 珍しくミヒロが我ままを言ってきた。ま、くじ引きが初詣の楽しみの一つというのは、分からんでもないけどな。

 テレビで見た事のある都会の深夜過ぎの参拝映像のように……ゴミゴミした人の群れなど存在しない「エリア」内のチッポケな神社では、賽銭箱の前まで辿り着くのは実に容易であった。

 

「一年の計は元旦にありと言う。さぁみんな、しっかり願い事をするんだよ。願い事というのはイメージだからね。想像できない事は実現できないぞ」

 

 いやぁ、流石に叔父さんの言う事は一味違うね。

 ありがたい叔父さんの言葉に素直にアリアとミヒロは従い、賽銭を投げて、ぶっとい縄のついた鈴をミヒロが楽しそうに鳴らす。ガランガランッ、と鈍い鈴の音が響いたら俺たちは目を閉じて合掌した。

 妹たちは何を願っているのだろうな?

 俺の幸せを願ってくれているに違いない……訳がないわな。一度、こいつらの頭の中を覗いてみたいもんだ。

 余談だが、俺が投げ入れた硬貨は5円玉である。

 理由は……分かるだろう? 御縁(・・)がありますように、ってな。

 

「今年こそ、美人で優しくて巨乳の彼女ができますように! 今年こそ、美人で優しくて巨乳の彼女ができますように! なんなら、貧乳でも構いません! 彼女彼女彼女彼女ォ、彼女が出来る、出来れば、出来るなら ──」

「心の内を吐露してんじゃないわよ!」

 

 スパーン、と快音を響かせて後頭部が軽く叩かれた。

 俺の高尚な願い事を妨害したのは当然のようにアリアで、何処からともなく取り出したハリセンを片手に、眉を歪めて舌打ちしていた……どうやら想いが強すぎて、無意識の内に言葉になっていたらしいが、何故にこの妹様は不機嫌そうなんだ?

 

「お兄ちゃんのバカ!」

「うぁ、ミヒロまで……!?」

 

 軽いけど、鋭い蹴りが膝の裏を直撃し、下半身が崩れて膝をついてしまった。悔しいが、ナイスな膝カックンだぜミヒロ。

 しかしなんでお前まで、顔を紅潮させて不機嫌な様子で頬を膨らませているんだ?

 

「お兄ちゃんなんて知らない、死ぬまで独身で過ごせばいいんだ!」

「ちょっ、それは酷くねえ?!」

「お兄ちゃんのあほーー!」

 

 ミヒロは脱兎の如く駆け出してしまった。その瞳には一筋の涙が……特には無かったんだけどさ、なんか俺、悪い事言った?

 人が少ないからすぐには見失わないが、はぐれてしまう前に追いかけないといけないな。

 

「サイッテー、バカカズマってホント最低よねー。ミヒロがかわいそう。アンタはそんなだから恋人できないんだよ」

 

 アリアにとても冷やかな瞳で見下されました。

 なんだよ、ただ願い事が声に出ただけじゃねえかよ……。

 

「ハハハ、カズマ君は相変わらず人気者だね」

「叔父さん。仮面外して、目薬さした方がイイっすよ?」

 

 遂には叔父さんまでトンチンカンなことを言いだす始末……このまま弄られ続けても堪ったものではないので、俺は早々にミヒロの後を追う事にした。

 子どもって体は小さい癖に走るのが早いよな。ミヒロも全エネルギーを使って俺から逃げてる感じだね。まぁ、向かってたのは、くじ引きとか絵馬の販売しているエリアだったんだけど。

 

 

 それにしてもハリセンでシバかれた御蔭で、頭の中でイマジネイションできていた超絶美人彼女の姿が吹き飛んでしまった。追走している間にもう一度想像するも、アリアとミヒロの姿しか頭に浮かんでこなない。

 ……刷り込みってやつかな? ほら、彼女の姿(?)が消し飛んだ直後だったからさ。

 何度もイメージするも出来上がるのは妹様たちの姿で、叔父さんの言葉に当てはめると、彼女の姿を想像できない俺には彼女はできないってことなのかな……? それとも……。

 恐ろしい……頭に過った恐怖を振り払っていると、あっという間に、ミヒロに追いついていた。

 

 

 ミヒロを捕まえたのはくじ引きの券売機の真正面だった。

 

「ねぇお兄ちゃん、くじ引きしようよ」

「……はいはい」

 

 券売機の前でピョンピョン跳ねながら小銭をねだってきた。本当にチッポケな神社なので、券売機も100円玉を投入するとくじが出てくるだけの年季の入った簡単な代物だ。

 さっきまで怒っていたのも忘れたのか、ミヒロは手に取ったくじを開いて眺める。

 

「あ、小吉だ。金銭運は……無駄遣いしなけば徐々に増えて行くでしょう、だって」

「速攻で金銭運チェックかよ。嫌な小学生だな」

「なにか言ったお兄ちゃん?」

「うんにゃ、なんにも」

 

 黒いオーラがミヒロから立ち上りそうだったので適当に誤魔化して、俺もくじ引きをする事にした。

 100円入れると音もなくくじが吐き出される。さーて、今年の運勢は? 大吉が出て、恋愛運も上々だと良いな ──……

 

 

── 大凶 ──

 

 

 …… ── ふぅ、まずは落ちつこうか、カズマ・アーディガン。

 大凶……凶ではなく、よりによって大凶……

 

「あー、ミヒロ見て見て、バカカズマが大凶引いてるよ。キモイよねー、ホント」

 

 くじ引きしただけでキモいと言われた。ヘコむ。ちなみにアリアは中吉。

 

「確か大凶は与えるショックが強いから廃止になったはずなんだけどなぁ。いやぁ、カズマ君は逆に運がいいよ。ラッキーラッキー」

 

 末吉の叔父さんがフォロー(?)してくれた。

 そうなのか……大凶ってもう廃止されているんだ……俺たちが訪れた神社は小さいから、比例して参拝客も少なくくじ引きの補給頻度も少ないんだろうな。そして、券売機の中で「大凶」は出待ちしながら、密かに生き残り続け、俺と出会った。

 数奇な廻り合わせである……まったく嬉しくないけど。

 

「なになに? 家族運。家族円満だがトラブル続出、死なない様に注意? なんじゃこりゃ、舐めてんのか。金銭運。運勢調べる暇があったらシャカキリに働け? ……なあ、くじ引きってこんな書き方だったか?」

「さぁ? 大凶だからじゃない。アタシのは普通よ」

 

 見せて貰ったアリアのくじには、「恋愛運。想い人は傍にあり、今を満喫しましょう」と書いてあった。確かに俺のに比べたら普通だな。

 

「くそ、じゃあ恋愛運だ。…………高望みするべからず。その考えは身を滅ぼす……」

「言い得て妙だねぇ」

 

 くじを覗き込んだ叔父さんの感想だ。

 

「うがあぁあ!!」

 

 俺は大凶のくじを破り捨ててしまった。衝動的な行動ってやつ? もう辛抱堪らん、みたいな。

 八つ裂きにしてしまったので、くじは原形を残していなかった。

 

「あーあー、破っちゃったね。悪いくじは神社内に奉納しないといけないのに」

「でも叔父さん、こんなくじ見たら普通は我慢なんてできないッスよ」

「……まぁいいさ。そうだ、折角だから絵馬に願い事でも書いていこうじゃないか? 叔父さんが絵馬買ってあげるよ」

「本当? 流石叔父さま、大好き!」

 

 アリアが叔父さんにまた抱き付いた。……だから胸が当たってるっつってんだろ……!

 叔父さんは神社内にある絵馬や破魔矢を置いてある販売所に行き、人数分の絵馬を買ってきてくれてた。絵馬ってのは五角形の小さな木の板に願い事を書きこみ、神社の絵馬掛けに奉納するためのアイテムだ。

 祈願した願い事が叶った時の謝礼として奉納するパターンもあるそうだ。

 俺たちの場合は前者で、願い事や今年の意気込みを書くことになった。

 

「お兄ちゃんに恋人ができませんように、っと」

「流石だなミヒロ。お兄ちゃんは嬉しくて、涙がチョチョ切れそうだよ」

 

 ミヒロは一片の迷いもなく記入していた。参拝の時の仕返しかね? この子の行く末が恐ろしくて仕方ない時があるぜ。

 

「コミケに受かって同人誌がバカ売れしますように、っと」

「流石だなアリア。欲望に忠実で分かりやすいぜ……てか、まだやってたのかよ、妹凌辱のクソ小説……?」

「なんか言った?」

「日本の夜明けは近いぜよ」

 

 竜馬伝の真似をして誤魔化してみた。竜馬いいよね? 高○良い所、みんなでおいで。日本3大ガッカリ名所、はりまや橋が君を待っているぜよ……さて。

 俺はなにを書こうかな?

 

「カズマ君、大分悩んでいるみたいだね」

「叔父さん。そうだ、叔父さんはなにを書いたんだ?」

 

 叔父さんの絵馬を覗き込んで見た。

 「我が宝に 出藍の誉れが あらんことを」……叔父さん、流石だぜ。バカな俺には、なにを願っているのかサッパリだ。

 俺の願いごとはどうしようかな? ……やっぱり、あれにしておくか。

 

「男の中の男に俺はなる、っと」

「へぇ、男の中の男に、ね」

 

 叔父さんに絵馬を覗かれてしまった。なんか恥ずかしいな、と思ったとき。

 

「でもカズマ君にとって、男の中の男ってなんなのかな?」

「え……?」

「君は具体的なイメージを想像できるのかな?」

 

 どういう意味?

 

「想像することは大切だよ。人間は想像できないことを実現することはない。想像する事は夢と言ってもいいからね」

「お、叔父さん……?」

「だからカズマ君に聞きたい。君の頭の中にある、男の中の男のイメージは一体どんなモノなんだい?」

 

 叔父さんの声色は優しくいつもと変わらなかった。

 けど悪戯っぽく笑う事もなく真剣な問いのように感じられ、俺の腰は引けてしまう。叔父さんの真意が俺には分からない。俺の頭の中にあるイメージ……。

 俺の目指す男の中の男……それは、

 

「か、家族を守れるような男……かな?」

「ふーん」

 

 意味深な笑みを浮かべる叔父さん。

 

「ま、いいさ。さあみんな! 絵馬を早く飾ろう。その後ご飯を奢るから一緒に行こう」

「やったあ、叔父さま大好き!」

 

 一足先に絵馬掛けを済ませたアリアが3度目のハグ。だからー、胸が……ってもういい。

 俺たちは絵馬を奉納して、叔父さんに連れられて食事に出かけた。外食なんてどの位ぶりだろうか。本当に久しぶりだぜ。

 でも……叔父さんは、本当に何をしに来たんだろうな? 後ろ髪を引かれる思いだったけど、ご飯が美味しかったから、まぁいいか……。

 

 

 

      ●

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 1月2日】

 

 新年を迎えて2日目。

 昨日家に戻ると、親父は「旅に出ます 探さないで下さい」と書き置きを残し、シホミ姉ちゃんは友人と一緒に温泉へ小旅行に向かい、チイ姉は外泊してくるとの電話を寄こして帰って来なかった。

 要約すると、今、実家に居るのは俺、アリア、ミヒロ……そして叔父さんの4人ということになる。新年から未成年を放置して出かけるなんて……ファミリーの社会人組の無責任ぶりを少しは理解してもらえるかと思う。

 

「どうだい、アリちゃん?」

 

 叔父さんが居間でアリアに尋ねていた。

 

「……コイツを、どう思う?」

「すごく……大きいです……」

 

 アリアがテレビ画面に映る巨大ロボットを見て感想を述べていた。

 アリアたちは去年に俺が買ってきた巨大ロボット対戦ゲーム「超絶合体 ヴァルザガード」をプレイしている。このゲームは機体のサイズまで正確に再現しているらしく、アリアの選択機体「アルムアルクス」に比べて、叔父さんの機体「ヴァルアルム」は約6倍の大きさを誇っている。

 確か30m対200mだな。そりゃあ、すごく大きいですわな。

 ちなみに2機ともゲーム中の敵側の機体で、俺が頑張って出現条件を整えて使用可能にしたものだ。勝手に使わないでもらいたい。

 ミヒロも混じって3人で楽しそうにゲームに興じている様を、俺は熱いお茶を啜りながら眺めていた。ビバ、平和。

 

「そうだ、カズマ君」

「ん? なに、叔父さん?」

 

 サイズ差に関わらず、あっさりアリアに敗北を喫した叔父さんがこっちを向いていた。

 

「男の中の男のイメージ、想像できたかな?」

「……またその話か……叔父さん、一体なにが言いたいんだよ?」

 

 昨日と同じ質問が叔父さんの口から出てきた。

 想像できるか? ……か。俺の目指している男の中の男像は、昨日叔父さんに伝えてあるはずだ。俺は家族を守れるような強い男になりたい……それが理想さ。

 

「想像も何も、俺の中のイメージは昨日言った通りだぜ? それ以上どうしろってんだよ?」

「ふむ、そうだな。では一言だけ」

 

 叔父さんは咳払いをして、言った。

 

「足りないよ、色々とね。中でも想像力と危機感が足りない。想像できても危機感がなければ行動は起こさないだろうし、危機感ばかり先走っても想像できなければ物事への対処を考える事はできない」

「な、なんだよそれ? 分かんねえ……分かんねえよ、叔父さん……」

 

 叔父さんの言うことはいつも難しい。

 いや……もしかしたら簡単な事なのかもしれないけど、故意に難解な表現を使っているような節がある。どちらにせよ、俺はバカだから、叔父さんの言いたい事を理解する事が出来なかった。

 

「想像しなさい、カズマ君。想像できなければ人はなにもできはしない……誰もす ──」

 

 叔父さんは小さく口を動かして呟いていたが、俺と叔父さんの距離は離れていたので聞きとることは出来なかった。なんと言ったのだろう? 分からない。

 ただ言えるのは、叔父さんは俺に「想像」してもらいたいらしい。

 ……一体、なにをだ?

 叔父さんはアリアとミヒロにせがまれて、またテレビゲームを再開していた。叔父さんの周りにはいつもアリアとミヒロの笑顔がある。俺もいつも笑っていたさ。

 ……でも、今は理解できない。

 ……叔父さん。

 本当に、なにをしに来たんだよ……?

 

 

 

【ヴァルストークファミリー営業日誌 1月3日】

 

 その日、事件は起きた。

 

 アリアは友人との約束あるらしく家を空けており、社会人組も帰って来ていない。

 家には俺とミヒロ、そして叔父さんの3人しかいない……

 

「助けて、お兄ちゃん!!」

 

 居間にミヒロの悲鳴が木霊していた。

 声を荒げるミヒロの背後には叔父さんの姿がある。叔父さんは小さなミヒロの腕を掴んで背中にまわし、残った手を肩にかけている。2人共立っているが、警察官が強盗犯などを現行犯逮捕するときに見せる体勢に似ていた。

 少しでも力が加われば、ミヒロには激痛が奔るだろう。

 しかしミヒロの声に悲壮感は籠っておらず、顔には満面の笑み……俺をからかって遊んでいるようだ。

 

「お兄ちゃん、痛いよ、助けてよ!」

「あー、はいはい、痛い痛い」

 

 付き合いきれんので、無視してテレビでも見ることにした。アリアの居ぬ間にお笑いの正月特番を見たい。確かこの時間はお笑い界期待の新人、ミオ・サスガによる24時間笑わない西遊記が ──

 

「カズマ君、想像できたかい?」

「へ? なにを?」

 

 お笑いのネタか? ネタを当てる事が出来てたら、お笑い番組なんて見やしないぞ……とチャンネルを握った俺に叔父さんが声を掛けてきた。

 

「この状況を想像できたかい?」

 

 叔父さんがミヒロを拘束している絵をか?

 唐突過ぎて、想像できる訳がない。

 首を横に振る俺に、叔父さんは言葉を紡ぐ。

 

「想像しろ、カズマ君」

 

 声が冷たい。

 

「これからミヒロちゃんに降りかかる不幸を、想像するんだ。想像できれば、きっとどんな不幸も防ぐ事が出来る。想像できれば人は何にだってなれるし、何だってできるからね……しかし、想像できなければ ──」

「ア、アプリカントの叔父ちゃん……?」

「ごめんね、ミヒロちゃん」

 

 声色が変わった事に不安になったのか顔を上げるミヒロに、叔父さんは俺を見据えたままで答えた。……叔父さんの言っていることが分からない、とそのとき。

 ミヒロの表情が歪む。

 

「痛い! 痛い痛いよ、止めてよ叔父ちゃん!!」

「ミヒロ! なにすんだ叔父さん!?」

 

 掴んでいたミヒロの後ろでを捻りでもしたのだろうか。

 突然の痛みに叔父さんの手から逃れようとしていたが、逃れるなんて無理で、ミヒロの目尻は涙が滲み始めている……野郎ッ!!

 

「こんな状況を想像できたかな、家族を守る男の中の男君?」

「うるせえ! ごたくはいいから、ミヒロを離しやがれ!!」

「運び屋心得その28『待てと言われて待つ者はいない 叫ぶ暇があったら追え』……離せと言われて離す奴などいないよ」

 

 さらに力を込めたのか、ミヒロが声にならない嗚咽を上げ出した。

 

「救ってみたらどうだね? 君の大事な家族を」

「野郎!!」

 

 もう我慢ならねえ。

 叔父さんがなにを考えているのか、なにをしに来たのか……尋ねて来た時から分からない。だが、もういい。俺の大切な家族に手を上げる奴は誰だろうと容赦しねえ!

 それが神さんだろうと、叔父さんだろうとだ。

 俺は拳を振り上げる。

 

「ミヒロを離しやがれ!」

 

 俺の拳が、叔父さんの仮面にヒットして鈍い音を立てた。

 自転車便で鍛え上げた身体能力はかなり高い。以前アリアを誘拐したクリティックは一撃で沈んだもんだ。

 だが、叔父さんの体は揺らぎもしなかった。

 

「……ふぅ」

 

 さらにため息。直後に前蹴り。抉られるような衝撃が脳天を駆け抜けた。

 痛ぇ……声を上げる間もなく俺は膝をつかされる。「お兄ちゃん!」と大声を上げるミヒロの口を塞いで、叔父さんは俺を見下ろしていた。

 

「拳が軽いよ、カズマ君。なにも背負っていない軽さだ」

「くっ……!」

「男の中の男なのだろう? 想像できていなかったのかな、それとも、想像できていたが努力を怠っていたのかな?」

 

 叔父さんの言葉が頭上から降ってくる。

 男の中の男……家族を守れる強い男……それが俺の夢見ていたものさ……でも、男の中の男になる努力ってなんだよ? 知るか! イメージ出来ねえよ。

 なにが言いたいんだよ、叔父さん!? 叫びたいが声が出ない。

 

「ありがとう、ミヒロちゃん」

「あっ……!」

 

 叔父さんはミヒロを離すと、俺の襟を掴んで持ち上げた。

 いともあっさりと、足が付かない高さに釣りあげられる。俺かなり筋肉質なのに、嘘だろ?

 

「失望させるな、ブレスの息子」

「な、にっ……?」

「『タカの目』の息子は、タカではではなくトンビなのか? それとも、男の中の男は妹をいたぶる小悪党も退治できないのか? どうかね?」

「くそぉ!!」

 

 踏ん張りの利かない体勢で、上半身の動きだけで繰り出したパンチが顔面に当たるが、先ほどの全力の一撃も通用しなかった叔父さんが堪える訳がなかった。

 叔父さんの俺への返答は報復。

 砲弾のような拳骨が左頬に触れ、すぐに視界が流れるような衝撃が襲う。

 同時に襟首を離された俺は勢いのまま壁に叩きつけられ、顔面と背中に激痛が廻る。

 

「……だから軽いんだよ、カズマ君」

 

 口の中が鉄臭い、切れてしまったようだ。

 

「その程度ではなにも守れやしないよ」

 

 口を押さえた手が赤く染まっている。床が汚れちまうじゃねえか。

 

「想像するんだカズマ君。起こりうる悲劇を想像しろ。でなければ ──」

 

 くそ……! 叔父さんは強い……俺じゃ勝てねえ……そもそも、なんでこんなことになってんだ? 分かんねえ。想像なんて出来やしねえ。

 拳の衝撃で視界が揺らいでいる俺に、叔父さんは声をかけ続けてくる。

 

「── 後悔するぞ」

「叔父さん……?」

 

 叔父さんの言葉には哀愁が漂っていた。だが叔父さんは構わず言葉を紡ぐ。

 

「男の中の男……いいじゃないか、なりなさい。だが、ブレスのようにはなるな」

「……な、なんで?」

 

 叔父さんの言葉はやはり理解できない。

 そりゃ俺の父親だから親父はバカさ。お茶らけて、バカなことばかりしている。でも親父の周りにはいつも家族の笑顔があり、ずっと俺たちのことを守ってくれてきた……言いたかないが、自慢の親父だ。

 家族を守ってきた力強い姿には、俺の目指す男の中の男に近いモノを感じていた。

 

「ブレスは違うぞ。男の中の男、なんかじゃあない」

 

 しかし叔父さんは親父を目指すなと言う。

 ……ふざけるな。俺たちの親父は確かにバカでお調子者さ……でもよ。

 

「バカにすんな……!」

 

 俺の呟きに、叔父さんは耳をかざしてきた。聞こえなかったようだな。いいさ、聞こえるように言ってやる。

 

「親父はバカさ! でもな、親父をバカにしていいのは俺たちだけだ! 例え双子の弟だろうと許さねえ!」

「ほぅ……ならどうするだい?」

「ぶん殴るッ!!」

 

 叔父さんだろうが、神さんだろうが、俺の家族をバカにする奴は許さない。敵が強かろうと立ち向かってやる。叔父さんは想像しろというが、そんなことは知った事か。

 俺はバカだからな。

 バカは真っ直ぐにしか進めねえんだ。

 俺は拳を強く握って立ち上がった。掌の血液がぬめったが構わず、叔父さんに向かって駆けて行き ──

 

「うらああああああぁぁっ!!」

 

 ── 真っ直ぐに殴った。避けようと思えば避けられる。ただ愚直なだけの軌道の拳を、叔父さんは躱すことはなかった。

 仮面にぶつかると同時に拳に痛みが奔る。

 渾身の一撃。しかし叔父さんは揺るがない……悲鳴を上げていたのは、叔父さんの被っていた仮面だけだった。鋭い破裂音が響いたかと思うと、仮面に亀裂が入り、左目の部分が割れる。

 金属製ではなかったのだろう破片がボロボロと床に零れ、親父と同じ色の瞳が俺に向けられた。

 反撃が来るか!

 身構える俺に対して、叔父さんは割れた仮面を押さえながら ──

 

「あはははははは!!」

 

 ── 笑っていた。

 え、なにごと? 殴られたに関わらず叔父さんは笑っている。それが理解できず、戸惑っていると……

 

「いやー、ごめんごめん、悪ふざけが過ぎたみたいだねカズマ君」

「わ、悪ふざけ……?」

 

 頭に沸く疑問符たち。

 

「ごめんね、お兄ちゃん!」

 

 ミヒロが愛くるしい笑顔を浮かべながら俺に謝罪してきた。その手にはポチ袋。つまり中身はお年玉?

 ……おいミヒロ、もしかしてお前……?

 

「お年玉で買収されちゃった☆ 見て見てー、諭吉さんだよお兄ちゃん♪」

 

 買収されちゃった(ほし)って、妹よ、兄を売ったのか?

 しかし中身を見せつけながらキャピキャピ喜ぶ姿に怒る気にもなれない。あははは、そっかー、よかったなーミヒロ。諭吉様かー、俺なんて野口×3だぜ。痛がっている様子も演技だったのだろうか……? 俺はこの子の行く末が時々怖い。

 俺の切り傷もそんな深くなかったのか、出血はあっさり止まっていた。でも掌は血のりでベッタリだ。

 

「結構血が出ちゃったねー」

 

 叔父さんは悪びれもせず見ると、俺の手を握ってきた。

 

「カズマ君、久しぶりに一緒に風呂でも入ろうか。背中を流してあげよう」

「ちょ、ちょっと叔父さん ──」

「さぁ、レッツバスロマン。あっはっはっは」

 

 俺は強引に風呂場に引き摺られて、結局一緒に入る事になった。

 風呂場で服を脱いでいる途中、ミヒロの声が聞こえてきた。

 

「………………盗聴器かおっかな……」

 

 怖いなぁ……気のせい気のせい、空耳空耳。しかしミヒロが諭吉を眺めて呟いている姿が容易に想像できるぜ。叔父さんじゃないが、想像できても実現はしないで欲しいもんだ……

 

 

 

 風呂場。

 我がファミリーは大人数だが風呂場はそれに見合った大きさではなく、浴槽も大人2人で寿司詰め状態になる程度の広さだ。

 

── カコーン

 

 

 背をお湯で流して、手桶を置く音が響く。

 叔父さんは言葉通りに俺の背を流してくれていた。使い古されたボディタオルに泡を立てて背中を洗ってくれる。強くもなく弱くもなく、良い具合の力加減だ。

 

「いやー、大きくなったねえカズマ君。昔はこんなに小さかったのに」

「叔父さん、いつの話してるんスか?」

「ははは、子どもは成長が早いもんだ。それとも私が歳をとったのかね?」

 

 風呂場ということもあり、微笑を浮かべる叔父さんの顔に仮面は付いていない。

 叔父さんは親父の双子の弟だ。その顔は親父に瓜二つ……というか親父そのもので、叔父さんが仮面を外したところを見た事がないため違和感というか、むず痒いような奇妙な感じだった。

 

「……そういや叔父さん……なんでこんな事したんだ?」

 

 痛む頬を押さえながら、俺は思いきって聞いてみた。

 

「カズマ君にはすまない事をしたと思っているよ。でもね、実はブレスに頼みごとをされていてね」

「それで、俺を殴ったと……?」

「それだけじゃないけどね。カズマ君の成長具合を見たかったのもある」

 

 俺の成長具合を見る……? どういう意味だろう。

 

「まぁ、実際のところ君はあまり変わってなかったけどね。本当にいい意味でも悪い意味でも子どものままだね」

「ちぇ、叔父さんまでガキ扱いかよ。俺だって成長してるんだぜ?」

「ははは、そうだねぇ。確かに中々のパンチだったよ」

「だろ? ってそうじゃねえよ。俺だってもう16だぜ。精神的に成長してるんだからよ、そこんところも評価してくれよ」

 

 俺だって高校生だし、体も心も大きくなってるんだぜ。男気だってあるつもりだ。まぁまだ彼女はいねえけどよ……。

 

「そうか……もう16歳か……」

 

 叔父さんはゆっくりと呟くと、背中を湯で流してくれた。どこか感慨深げな声に聞こえたのは聞き間違えだろうか? 背中越しだから顔は見えないが、眼をつむって言っているような気がする。

 

「あれからもう10年になるのか……確かにブレスの言うとおり、もう話してもいいのかもしれないな……」

「……どういうこと?」

 

 軽い沈黙が訪れたが、叔父さんはすぐに口を開く。

 

「カズマ君。ブレスからの頼みごとというのは伝言なんだ。私は君への伝言頼まれてここへ来た」

「伝言……?」

 

 叔父さんも奇妙なことを言うもんだ。親父から伝言を頼まれたというが二度手間もいいところだし、親父が俺に直接伝えれば万事解決するではないか。

 叔父さんはこんな七面倒くさいことを何故引き受けたのだろう……?

 俺は風呂場の座椅子から腰を上げ、叔父さんと交代して背中を洗う。当然、叔父さんの背中が目に入る。

 叔父さんの背中は大きく力強くて、子供時代に見慣れていた親父の背中を彷彿(ほうふつ)させた。浴槽から汲んだお湯を流しかける。

 

「カズマ君、明日が何の日か……覚えているかい?」

「当たり前だろ」

 

 1月4日 ── この日を、忘れられる訳がない。

 ユウミ・アーディガン。

 俺の母ちゃんが車に撥ねられて死んだ日だ。

 

「約10年前の明日、ユウミさんは車との接触事故で亡くなった。カズマ君や他の子たちも覚えているだろう」

「ああ……」

「悲しい事故だった……でもね、あの事故は運転手が悪いわけじゃないんだ。決して、運転手が脇見運転や飲酒運転をしていたわけではないんだよ」

 

 叔父さんの声には抑揚がなくなっていた。

 当時、俺は6歳だったから事故に関することは詳しく教えてもらえていなかった。例え教えられていたとしても覚えてはいなかったかもしれない。母ちゃんの死に顔はインパクトが強すぎたからな……。

 だけど今、叔父さんは事故について語っている。

 

「今だから言うが、事故の原因はユウミさんだったんだ」

「え……?」

 

 耳を疑った。

 

「赤信号での飛び出し、運転手は反応しきれずユウミさんに正面衝突した……3が日明けで正月ボケが抜け切っていなかったのか……仮にそうだったとしても運転手に全ての非がある訳ではない……ユウミさんの死因を作ったのは彼女自身だとったということになる」

 

 母ちゃんが車道に飛び出した?

 だから、車に撥ねられて死んだ?

 ……まるで自殺みたいな文面じゃないか……でも、それだけはありえないはずだ。幼いながらに覚えている。母ちゃんは恥かしがり屋で人前に出たりするのは苦手だったが、芯が強い女性だったはずだ。親父もそのことは自慢げに話していたっけ。

 だから母ちゃんが自殺したりするはずがない。

 

「もちろん、自殺じゃあないさ」

 

 沈黙する俺の意を汲んだのか、叔父さんが答えてくれた。

 

「でもね、殺されたようなものなんだよ。君の父親 ── ブレスフィールド・アーディガンにね」

「……どういうことだよ?」

「言葉どおりの意味さ。ブレス自身が言っていたことだからな」

 

 親父が……母ちゃんを殺した? そう言ったのか、あの親父が? 信じられない。ありえないことだと思った。

 

「あの日……ブレスとユウミさんは喧嘩していたそうだ」

 

 叔父さんが淡々とした語り口調で続ける。

 

「原因は本当に些細なことだったらしい。それが言い争っている内にこじれてしまってな、とうとうユウミさんは家を飛び出してしまったそうだ……」

「じゃあ、その時に母ちゃんは車に……?」

「ああ……撥ねられた」

 

 母ちゃんの死因は事故死。母ちゃんが事故に会ったのは外出していたからで、その原因を作ったのが親父との喧嘩ってか……けっ、馬鹿げてるぜ。

 そんなことで、たったそれだけの事で死んじまうなんてよ……母ちゃんは親父と喧嘩さえしていなければ生きていたのかもしれない ── なんて、考えている自分自身もまるで馬鹿のように思える。

 そんなの、誰のせいでもねえのによ……馬鹿だぜ、俺も、親父も。

 

「それで、母ちゃんを殺したのは親父だってのか? 馬鹿だぜ。本当に馬鹿だぜあのクソ親父」

「……そうだ、馬鹿だ。だが馬鹿でも悔いる。あの時、もっと想像していれば……起こりうる悲劇を想像していれば、結果は変わっていたかもしれないとな」

 

 ……親父?

 背中越しに聞こえる叔父さんの声が、何故か親父のモノのように思えてしまった。叔父さんと親父は瓜二つだ。顔も、声も……だからだろうか? 叔父さんの言葉がまるで親父の言葉のように感じられた。

 

「想像しろ、カズマ。運び屋心得『未来は誰のモノでもない お前のモノだ』……自分の未来を思い描き、起こりうる出来事を想像し、対処するべく努力しろ。……お前は、ブレスになっちゃいけない」

 

 想像しろ、か。

 叔父さんが家に来てから繰り返してきたフレーズだ。

 でもな、想像したからってそれが発生する確証は何処にもない。想像し努力しても起こらないかもしれないし、てんで見当違いのことだって起こるかもしれない。

 だから叔父さんの言っていることは、自身の経験に基づいた「ただの結果論」に過ぎないのだろう。

 だが、間違ってはいない。正しいことだと俺は思う。

 

「叔父さん」

 

 だから俺は言うのさ。腹の底から、めい一杯、声を上げてな。

 

「俺は親父じゃねえ、俺はカズマ・アーディガンだ! 男の中の男になる男だぜ!!」

 

 俺が俺であるために、そして愛する家族を守るために叫ぶんだ。風呂場で大声を上げればそれはもう喧しいこと限りないし、言っていることはガキ臭いし、十中八九聞いた人間に馬鹿にされるような言葉でも、俺は力の限りの大声で叫び続けてみせる。

 これだけは譲れねえ。

 母ちゃんは死んでしまってもういないからこそ、俺は生きている家族を守れるぐらいに強くなりたいんだ。世界中に定められたどんな記念日なんかよりも、世界中に建てられたどんな記念碑なんかよりも ── みんなが生きている今日がどんなに素晴らしく、意味があるに違いない。

 だから俺は叫ぶんだよ、精一杯デカイ声で。

 

「いつか叔父さんだって、親父だって……あとついでにアリアだって、守れるぐらい強くなってやるさ!!」

「……ありがとう、カズマ君」

 

 へへ、叔父さんから礼を言われる日が来るなんて夢にも思っていなかったぜ。殴られちまったけど、その甲斐があるってもんだ!

 

「大きく、なったなぁ」

 

 叔父さんはそう呟いて、俺たちは風呂を出た。

 たまには家族で風呂に入るのもいいもんだ。裸の付き合いっていうのか。普段言いにくいことも、背中越しなら言えたりするものなのかもしれない。今度、親父とでも入ってやるとしよう ──

 

 ── 叔父さんは、もう仮面で顔を隠すことはせず、俺たちの家を後にした。

 

 

 

 夕方にはシホミ姉ちゃん、チイ姉、アリアも帰ってきて、家族でミヒロの料理に舌鼓を打つ。食卓には笑顔が溢れていた。アリアはミヒロに一方的に話しかけ、俺は相変わらず無視される。見慣れたヴァルストークファミリーの風景だ。

 

「ただいまー」

 

 食事が終わり、みんながテレビに群がり始めた頃、親父は帰ってきた。

 外で食事は済ませてきたのか食卓には着かず、炊事場に直行し、慣れた手つきで熱燗を作る。そして、テレビに群がる女性陣に弄られるのが嫌で食卓からテレビを見ていた俺の対面に座った。

 その手にはお猪口(ちょこ)が1つ。

 

「なぁカズマ、たまには注いでくれないか?」

「珍しいな親父。シホミ姉ちゃんでなくて俺にか? なにか良いことでもあったのか?」

「少し、な」

 

 親父は口の端を上げ、お猪口を突き出し、豪快に笑っていた。俺は感性が狂ってんのかね? 俺は、この暑苦しいファーザースマイルが嫌いじゃないんだよ。

 徳利(とっくり)を受け取り、親父のお猪口に注いでやる。作法なんて知らないから、少し零れた。親父は特に咎めることもなく、お猪口の中身を一息にあおる。

 酒を飲んだ後特有の熱い息を、天井を見上げたまま吐き出しながら言った。

 

「……ごめんな、カズマ……」

「いいさ、分かってる」

 

 親父が俺に何を謝ったのか、親父が何を背負っていたのか、どれだけ俺たちのために我慢してきたのか……10年前よりも少しは理解できてるつもりだ。

 俺は確かにまだまだガキさ。この「ごめん」の裏には色々な意味が含まれている。でもな、それぐらいなら感じ取れる程度には大人なっているのさ。

 親父は飲み終わったお猪口をキレイに拭い、俺に差し出してきた。しかし手では持たず、俺の目の前に置く。

 

「ん」

 

 今度は親父が徳利を手にしていた。

 どうやら、どっかの地方にあるらしい「返杯」というモノらしい。元々「返杯」というのは一つの物を分け合って血縁関係になるという意味が込められているそうだ。要するに、気心の知れた者同士の魂の交流と言っていいのだろう。……って、なんで俺はこんなこと知っているんだろうな?

 俺のお猪口に親父から酒が注がれる。

 俺は未成年でアルコールなんて摂らないから、きっと不味く感じるに違いないだろう。

 でも、まぁ、たまには良いんじゃないか?

 大人の飲んでいる苦さや辛さを知ることも大切なんじゃないかと、今の俺には思えるんだ。 

 多分、今だけだとは思う。でも親父の注いでくれた酒なら、今なら、俺は飲めそうな気がするんだ。

 意を決して口に一気に流し込んだ。

 不味い。ひたすらに不味い。大人はなんでこんなモノが飲めるのだろう? 不思議で仕方ないが、俺の口からは不思議な言葉が零れていた。

 

「ありがとな、親父」

「気にするな。運び屋心得『未来は誰のモノでもない お前のモノだ』だ。お前は自分のなりたいようになればいい」

「言われなくたってそうしてやらあ」

 

 叔父さんと親父の姿が重なって見えた。一口で酔っちゃったのかね? ま、いいや。

 シホミ姉ちゃんにチイ姉、ミヒロに親父に叔父さん……あと、ついでにアリアも、みんなまとめて守れるようになってやるぜ! 

 俺は席を立って大声で叫んだ。

 

「男の中の男に俺はなるッ!!」

 

 ……それが不味かった。

 

「あー、チイ姉ちゃん、お兄ちゃんがお酒飲んでるよ!」

「なんだとー!」

「ヒィ、すいません……!」

 

 ミヒロの密告により、俺はチイ姉の必殺技「四の字固め」の餌食となりました。

 悲鳴をあげる俺を親父は大声で笑いながら酒を飲んでいた。人を酒の肴にしやがって! いい根性だぜ!

 いつか大人になったら、飲み負かしてやるから覚えてろ!

 

 アリアまで俺を足蹴にし始め、俺たちファミリーの夜は更けていく……

 

 

 

【ヴァルストーク営業日誌 1月4日】

 

 俺たちの母親 ── ユウミ・アーディガンの命日は穏やかに時間が流れていた。

 

 家族総出での墓参り。誰も涙を流すことはなかったが、全員揃って黙祷していた姿はきっと壮観だったに違いない。

 親父は長い間目を瞑っていた。

 そして、しばらくの時間そこから動こうとはしなかった。親父に言われて、俺たちは先に家路に着くことになる。いいさ、ゆっくりしてくるといい。

 母ちゃんだって、きっともう許してくれているはずさ。

 親父ももう自分の人生を歩み始めてもいい頃だと思うぜ。

 それでも親父は愚直に母ちゃんを愛し続けるんだろう。

 バカさ。本当にバカな親父だ。

 だから俺はこの言葉を送ろうと思う。

 

── 俺たちのバカ親父に乾杯 ──

 

 酒は飲めねえし、口にも出していねえけどな。

 

 親父、俺たちはいつまでも一緒だぜ ──……

 

 

 

 

ここは高校がなぜか密集する土地『エリア』。

『エリア』には個性豊かな人間が沢山いる。

今日も、楽しく愉快な仲間達がアホな事件を巻き起こす。

次はどんな事件が起こるのだろう……それは誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 「エリア」内にあるとある小さな神社に、キョウスケ・ナンブは訪れていた。

 恋人エクセレン・ブロウニングには内緒で、絵馬を購入し、願い事を書いている。

 

「必中 奇跡 起死回生……と。よし、これで次回の勝負の勝ちは揺るがんな」

 

 次回の賭けポーカーでの勝利を祈願した絵馬を絵馬掛けにつるそうとした。そのとき、ある1枚の絵馬が彼の目に飛び込んできた。

 他の絵馬と違い特徴的なのが、左目部分が砕けた仮面が一緒に供えられているところだった。

 

「我が宝に 出藍の誉れが あらんことを……か。深い言葉だ。『私の宝が、私を越えていくことを願う』という意味だろう」

 

 その言葉を見てキョウスケは自分の絵馬に目を落とした。

 この絵馬に比べて彼の書いた言葉は実に他力本願だった。

 

「……ふ、やはり俺も自分で運をつかむことにしよう」

 

 キョウスケは絵馬を掛けずに神社を後にした。

 

 神社の絵馬掛けには、彼の読み上げた絵馬が今も残されている。しかし、砕かれた仮面の下には文字が隠れていた。強い風が吹いたとき、仮面がめくれ上がり文字が顕になる。

 

── ブレスフィールド・アーディガン ──

 

 そう、人の名前が書かれていたという。

 

 

 

 

 

 

 




<キャラ紹介>

カズマ・アーディガン:ジェネ高2年生、思春期真っ盛りの男の子。幼いころ母と死別しており、その経験から家族を非常に大切に思っている。ただしアリアとは犬猿の仲。男の中の男を目指しているが、女系家族のファミリー内では虐げられている。

アプリカント:叔父、らしい男。ブレスの双子の弟(自己申告)で仮面を常に着用している。しかしブレスと並んでいるところは誰も見たことがない。今回、肉を手土産にファミリー家へ遊びにきた。アリアに超懐かれており、ファミリー内での評判は上々である。

ブレスフィールド・アーディガン:ファミリーを男手ひとつで育て上げた大黒柱。正月はどこかに行っていたらしい。かなりダンディでモテるが、現在も亡き妻ユウミ一筋である。居間に巨大なユウミの遺影を張って、家族からの顰蹙を買っている。

ミヒロ・アーディガン:若干10歳のファミリー末っ子。しっかり者で家事全般を一任されているが、密かに発信機などをカズマ・アリアに仕掛けているらしい。カズマに将来を心配されている。お兄ちゃん大好き。

アリア・アーディガン:ジェネ高2年のファミリーの三女。妹大好きで官能小説を書いて儲けようとした前科がある。しかし学校では滅茶苦茶ハイスペックで人気者である。ミヒロ大好き、カズマ泣け思っている。

アカネ・アーディガン:ファミリーの次女でカズマの天敵。プロレス好きで事あるごとにカズマに技を掛けて楽しんでいる。マッチョが好きと公言しているが、休日はホリスと遊びに行ったりしている。

シホミ・アーディガン:ファミリー長女でヒエラルキーの頂点。彼女の言うことにはブレスですら逆らわない。その理由は切れるとやばいため。普段はやさしいが、切れると目が開かれるらしい。

ホリス・ライアン:名前だけ登場のファミリー一員。地味戦隊ジミーズのジミレッド(嘘)



<次・回・予・告>

ホリス「次回予告コーナーは私が乗っ取りました! 次回予告を進行させたければ、私に出番をよこしなさい!」

エクセレン「……(チャキっと拳銃を構える)」

ホリス「嘘です、申し訳ありませんでした(五身投地の構え)」

エクセレン「わーお、ディスイズ土下座ね。はじめて見たわん♪ ねえ、ジミーさん、キョウスケを何処に隠したのかしらん?」

ホリス「あ、キョウスケさんなら勝負に負けて、あそこイスで燃え尽きてますよ」

キョウスケ「…………燃え尽きたぜ、真っ白にな」

── パンッ(エクセレンが発砲する音)

キョウスケ「うぐっ……!」

ホリス「キョ、キョウスケさーーーーーん!! なんてことするんですか貴女は!? この人でなし!!」

エクセレン「大丈夫よ、このぐらいじゃ死なないから」

キョウスケ「……さて、次回予告に行くか」

ホリス「ヒィ、人外どもめ! こんな所二度と来ませんよ! 助けて、アカネさーーん!!」

エクセレン「あらあら、失礼な子ね ── パンッ!」
キョウスケ「なんだったと言うのだ?」


キョウスケ
「年が明けても、俺の名前はキョウスケ・ナンブだ! 覚えてなかった奴にはラカンゲキをお見舞いしてやるからな!
次回はLだぜ! 
見た目は子供、中身も子供! その名は迷探偵南雲 一鷹!
次回、スパロボ学院『迷探偵南雲 一鷹シリーズ ~そのとき、家政婦は見た!~』に、空飛ぶ地雷だ、スクエアクレイモア!!」

エクセレン
「題名だけで中身を一切考えていないわよん☆」







改めて、あけましておめでとうございます!

今回のテーマは「父と子」でございます。
本当は1日に更新しようと思ったのですが、アプリカントとの殴り合いがしっくりこず時間がかかってしまいました。

でも、久しぶりに書きたいことを全部突っ込んだ短編になったかと思います。
ちなみに冒頭のミヒロの言葉は、自分が弟に聞かれた言葉だったりします。小僧にぁ、なんにも答えられちや。
……少しは成長したんだろうか?
年齢だけを重ねたくはないものです。

今回から小説形式の文を再開するつもりです!
ネタ・感想は随時募集中!
今年も書きたい放題書いてやるぜよ!


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