スパロボ学院 ~ OGだよ、全員集合! ~   作:北洋

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暑苦しい思いをするかもしれませんが、それでも良いという方はどうぞ!



俺たちゃヴァルストークファミリー4 ~燃える闘魂 ザ・ヒート登場!~

【ヴァルストークファミリー営業日誌 1月13日】

 

 俺の名前はカズマ・アーディガン。

 

 何故か高校の密集する地域「エリア」で運び屋家業を営む「ヴァルストークファミリー」の長男坊さ。

 

 いりなりだが、俺の朝は優雅なモーニングコーヒーから始まる。

 

 愛妹ミヒロの焼いてくれたサニーサイドアップ(目玉焼き)をナイフで切り分け口に運び、トースト、サラダと食卓に並ぶ料理を頂くのだ。

 優雅な朝食を終えたのちに、口に広がるコーヒーの苦味は実に気持の良い朝のスパイスだ。カフェインで目が覚め、俺の灰色の脳細胞が冴え渡る。

 そして俺の周りには美人、美少女と呼ぶに相応しい容貌の姉妹たちがいてくれる。

 ふふ、実にいい……実にナイスな展開じゃないか。

 親父が ──

 

「虎だアァァ!」

 

 タイガー?

 

「お前はァ、虎になるのだアァ!!」

 

 ── と、朝のひと時をぶち壊さなければ、だが。

 昨日、親父は知り合った友人の家に外泊していたため、本日は朝帰りである。

 先ほどの台詞は帰ってきて開口一番の言葉なのだ。

 

「カズマ! 男の中の男になりたいとは思わんかね!」

 

 親父 ── ブレスフィールド・アーディガンが暑苦しく俺を指差してきた。

 男の中の男、ね。

 確かに俺は目指してるよ。

 俺は家族を守れるような強い、男の中の男を目指しているんだ。

 それは誰に誓ったものでもなく、俺が心の中に刻んだ理想像というものだ。

 しかし今日の親父はどこかおかしい……親父の顔は暑苦しい方だが、こんなに熱血するタイプではない。

 いや熱い男なのだが表面上にそれを表さないだけで……しかし、まぁ、どちらかと言えば、したたかに策を練るタイプの男だと思う。

 

「どうしたんだよ親父? 朝からやけに熱血しているな」

「そんなことはどうでもいい! 答えろカズマ! 男の中の男になりたいのか、否か!?」

 

 まただ。叫びながら体仰け反らせて、大げさに俺の方を指差してくる。「お父さん、うるさい!」と娘たちにどやされているはご愛嬌だ。

 仕方ないので俺は答えてやる。

 

「そりゃあなりたいけど……?」

「そうか! ならばここへ行くがいい!」

 

 親父が地図と住所を書いた紙切れを俺に押し付けてきた。

 

「私の新しい友人の家だ! そこへ赴き、男の中の男とは何たるかを学んでくるのだ、カズマよぉ!!」

「暑苦しいな、後で行くよ」

「今すぐだ!」

 

 俺は、親父に食卓から引き起されると背中を押して玄関先に追いやられた。お、おい、まだコーヒー飲みかけなんだぞ。

 

「だまらっしゃい! 漢の流儀を学んでくるまで帰ってくるな!! 最近のヘタれっぷりをきっちり修理してもらって来なさい!!」

「ちょ、ちょっと待てよ親父。こんなの唐突すぎるぜ」

「ふん、人生などそんなもんだ!!」

 

 意味深な台詞を吐かれ、俺は玄関から外へと蹴り出された。

 辛うじて靴は履けたものの他に手荷物は一切なしだ。

 

「漢を学べ、カズマ!!」

 

 親父が親指を立てて、ウィンクしニカッと笑う。無精髭も相まってファーザースマイルの暑苦しさは倍増だ。俺はこの笑顔は嫌いではないが、今だけはひじょーにムカつく!

 親父はそのまま顔を引っ込め、玄関口を閉じてしまった。

 カチリッ、と鍵のかかる音が……親父め、どうやら本気らしいな?

 いいだろう、なってやろうじゃねえか! 男の中の男って奴にな!

 俺は渡された紙に目を通す。

 

「なになに?

何処でも出張 何でも修理! 壊れたテレビだろうが曲がった性根だろうが、なんでも修理いたします。修理の依頼は『スマイル一番! ビーターサービス!』までだって? なんだこりゃ?」

 

 運び屋が修理屋でなにを学べってんだ? ……まったくナイスじゃない展開になってしまった。

 しかしつっ立っていても仕方ないので、俺は着の身着のまま地図の示す場所へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 スパロボ学院 ~OGだよ、全員集合!~

 俺たちゃヴァルストークファミリー4 ~燃える闘魂 ザ・ヒート登場!~ 

 

 

 

 地図に従って行くと、辿り着いたのは、ジェネ高の裏山にある汚らしい掘っ立て小屋であった。

 OG高等学院は「エリア」一のマンモス高校で非常に広い敷地を有している。

 その裏山も居に及ばす「エリア」で一番大きな山だった。

 俺も小さい頃はダチと一緒に山の中に秘密基地でも作ろうとしたもんだ。振り返ればそこにある。「エリア」の住民にとって裏山は日常の風景なのさ。

 

 俺はその裏山の奥深くにある掘っ立て小屋に来ている。

 

 周りには木々が溢れ、鳥たちのさえずりが聞こえてくる。掘っ立て小屋はその中で悠然と佇んでおり、黄色い軽トラも駐車されているので人がいるのは間違いないだろう。

 電気が通っているのかは疑わしい掘っ立て小屋に近づくと、乱暴に地面に突き刺された木製の看板に「ビーターサービス」と書かれていた。

 

「……ここか」

 

 俺は息を飲んだ。

 

「親父め……こんな所で何を学べってんだよ? 電気通ってんのか? つーか、注文来なくて潰れてんじゃないのか? それよりこんな山奥だと野生動物が出てきそうで怖いんだけどよぉ……」

 

 俺が呟いていると、掘っ立て小屋に隣接する林の中から叫び声が聞こえてきた。

 

「な、なんだ?」

 

 多分、野生動物の鳴き声だろう。

 その鳴き声はすぐに止まった。そして今度はなにかと草が摺れる音が聞こえ、林の木々を縫ってその音源が俺の方に近づいてきてくる。

 

「も、もしかして、本当に動物さんですか……? い、イノシシやクマじゃあないだろうな?」

 

 今は1月だ。冬だから、クマは冬眠していると思うんだけど……でも、最近ニュースで山に餌がなくって住宅街にクマが下りてくるって話を見た事があるぞ。

 ま、まさか、本当に腹を空かせたクマ……? 

 恐怖が俺の脳裏をかすめ……。

 その直後だった。林の木の後ろから大きな(・・・)影が姿を現したのは。

 

「ク、クマだぁー! し、死んだふりしなくちゃ!!」

 

 俺は慌ててぶっ倒れた。

 地面に横たわり、クマが俺に興味を失うのを待つ! クマに遭遇したときに死んだふりするのは常識なのだ。

 気配で、大きな影が目の前で足を止めるのが分かった。くっ、は、はやくどっか行け! 普段から肉はアリアに横取りされてるからな、俺なんか食っても旨くもなんともないぞ! 

 だがクマは俺の頬を触ってきた。まるで人の指先で頬を突かれているような感触だ。

 

「おーい、兄さん。なにやってんだ?」

「…………」

 

 返事がない、ただの屍のようだ。

 俺は死体だから返事できねえんだよ! だから早くあっちいけよ、クマ!

 ……って、あれ? クマってしゃべったっけ?

 

「あー、ちなみにな、クマは死体も平気で襲うから死んだふりしても無駄だぞ」

「な、なんだってー!?」

 

 俺は『クマ』からのアドバイスで慌てて飛び上がった。

 こうしてはいられない。急いで逃げなくては。俺が全力疾走の準備をしていると『クマ』が言った。

 

「あと、クマの走力は時速30kmだから走って逃げても無駄だぞ」

「くっ、じゃあ木の上だ!」

「クマは木登りが大得意だぜ」

 

 なんてこった! 万事休す、絶体絶命とはこのことか?

 チッ、こうなりゃ破れかぶれだ。どっかのボクシング漫画のチャンピオンみたいにパンチで『クマ』をKOしてやるぜ!

 振り返りざまに一発いれてやる。狙うは鼻っ面だ。自転車便で鍛え上げた俺の鉄拳が『クマ』の体(多分ボディ)に突き刺さった!

 

── グキィ!

 

 拳に奔ったのは『クマ』をヤッつけた手ごたえではなく鉄板を殴ったような硬い衝撃と勢いよく手首を捻ってしまったことによる激痛だった。

 

「痛えぇぇぇぇっ!!」

「おいおい兄さん、なにやってんだ?」

 

 そこに居たのはクマではなかった。

 立っていたのはクマ並みに筋骨隆々の大男で、俺のパンチはどうやら男の腹に命中したらしい。しかし男はまるで意に介していないかのように笑顔を浮かべいた。

 

「兄さん、もしかしてお客さんかい? いらっしゃい! ようこそ、いつもニコニコ、信頼と実績のビーターサービスへ!!」

 

 笑顔だった……とても笑顔だった。

 男は口を大きく歪め白く手入れの行き届いた歯をのぞかせて、体の大きさに比例して大きな顔をグイっと俺の方に近づけ、片目を閉じながら、右手の親指を立てて豪快すぎる笑顔を俺に向けてくる。

 

 

── あ、暑苦しいぜ!!

 

 

 くぅ、気の弱い人間が見たら失神しそうなぐらいに暑苦しい。

 この笑顔に比べれば、親父のファーザースマイルなんてコタツのようなものだ。ホット程度のレベルなのだ。

 だがこの男は違う。まるで波動が迸り、燃え尽きるほどにヒートな太陽の光のようだぜ! ヒートスマイル! そう呼ぶに相応しい暑苦しさだ。

 

「なぁ……もう顔を離してくんねえか?」

「おっと、悪い悪い」

 

 男の顔がやっと遠ざかった。

 同時に男の全貌が見えてきた。ボディビルダーとは違う魅せるではない使うための筋肉の鎧の上にはタンクトップ1枚、ズボンは作業着のようなラフな服装をしている。色も日に焼けて褐色で、なんとも力強い大人の男と言った印象だ。

 親父と違うワイルドさが体全体から滲み出ていた。

 だが、一番印象的なのは片手に持っているモノである……。

 

「な、なぁ、それなに?」

「なんだぁ、最近の若い奴はイノシシも知らねえのか?」

「知っとるわ! そうじゃなくて、なんでイノシシが死んでるのかって訊いてんだよ!」

 

 男の片手には、頭から血を流して死んでいるイノシシが無造作に掴まれていた。眉間のあたりがパックリ割れて血まみれになっており、体もかなり大きく、成長しきったイノシシのように見える。

 男の手に武器は見当たらない。まさか……素手で狩ったのか?

 男はそのイノシシを軽々と持ち上げると、ヒートスマイルを俺に向けてくる。暑苦しい……。

 

「さっき見つけたから狩ったんだだよ。猪鍋や燻製にしたら美味しいぞ。そうだお客さん、折角だから食っていきな!」

「い、いやちょっと……」

「そんなに遠慮すんなって!!」

 

 男は笑い声を上げながら俺の肩を叩いてきた。かなり痛い。

 

「そうそう、自己紹介が遅れたな! 俺はビーター・サービスのランド・トラビス! 師匠が留守の間、修理屋ビーター・サービスを任されてんだ! よろしくなァ!!」

 

 三度目の正直のヒートスマイルが俺に炸裂した。暑苦しい……実に暑苦しい出会いだった……そう、これが俺とランド・トラビスとの出会いとなったのだった。

 

 

 

      ●

  

 

 ジェネ高の裏山に存在する修理屋「ビーターサービス」の本社(?)と思しき、掘っ立て小屋の中に俺は案内された。

 内装は豪華とは言えない。外見どおりに質素な造りの仕事場に、ロフト形式の生活空間が2階部分があり、無理やり後付された印象を俺に与える。

 ボロいなぁ……電気は通っているみたいだけど、よくこんな所で生活できると思うぜ。

 貧困に喘ぐ「ヴァルストークファミリー」でさえ暖かく快適な居住空間を持っている。だが小屋には暖房器具など存在せず、かなり肌寒かった。俺は、軽くカルチャーショックを受けてたさ……こんな生活している人たちもいるんだ、ってな。

 ……でもさ、一番ショックだったのはさ……

 

「ダーリン、お帰りなさい!」

「おうメール。今日は猪鍋だぞ」

「本当? やったぁ!」

 

 と、ランドさんの腰にしがみ付いて、喜んでいる幼女の姿を目にした時だったと断言できるね。

 しかもこの幼女は「ダーリン」と言ったよな? 

 

「ダーリン、ご飯にする? お風呂にする? そ・れ・と・も ── 」

 

 ま、まさか……その後に続くのは、俺が人生で一度は言われてみたい台詞で上位5位に食い込んでいる、あの台詞じゃあるまいな!?

 幼女が甘えるような声で言った。

 

「── わ・た・し?」

 

 言った! 言いおったぞ、この幼女! 

 羨ましい ── 間違った、幼女に抱きつかれたランドさんが急に恨めしく思えてくる。

 

「このロリコンめえぇっ!! 幼な妻どころじゃないでしょ! 犯罪っすよ、コレ!?」

「おいおい兄さん、何か勘違いしちゃいないか?」

 

 ランドはイノシシを降ろすと幼女の頭に手を置いていた。

 

「こいつはメール。俺の師匠の娘で、師匠が留守の間は世話してやってんだ」

「でもダーリンの夜のお世話は私がしてるのよ!」

「見てのとおりマセたガキだけど仲良くしてやってくれよ、なっ、兄さん」

「あーん、ダーリンのいけずー」

 

 ランドさんはヒートスマイルを向けて、腰に絡みつくメールを意に介さずイノシシを解体にかかった。メールはズルズル引きずられてもランドさんにくっ付いて離れない。イノシシの解体中も背中におぶさっていた。

 あっ、という間に解体されたイノシシを使った猪鍋が瞬く間に出来上がり、おそらく作業用と思われる机で鍋を囲むことになった。猪鍋に臭みはまったくない。ちなみにどんな魔法を使ったのかは不明だ。

 

「なんだ、兄さんはブレスの旦那の息子さんだったのか」

「ランドさん、その兄さんってやめてくれません。カズマって呼び捨てで良いですよ」

「そうかい? じゃあ、カズマ」

 

 ランドさんはメールに鍋をよそってあげながら訊いてきた。

 

「カズマはビーターサービスに何をしに来たんだ? 修理依頼か?」

 

 そうそう、忘れかけていたけどランドさんは修理屋なのだった。

 イノシシを素手で狩ってしまう肢体は筋肉の鎧と呼ぶに相応しく、修理屋よりも壊し屋と言った方が雰囲気的にはしっくりくる。

 

「あァ? おいカズマ、なんか変なこと考えなかったか?」

「い、いや、してねえよ」

「そうかい、ならいいけどよ。俺ってさ、『壊す』って単語が大っ嫌いなんだ。いやな、俺ってさ、ほら、見るからに修理屋じゃん?」

 

 え? どこが?

 腹筋が鋭角に割れてるのがタンクトップの上からでもしっかり分かる。太すぎる指は繊細な作業には向いていないように思える。とってもとってもパワフルかつヤバーンな感じがプンプンするぜ。

 やっぱり「壊し屋」だよなぁ……でも賢い俺は思ったことを口に出したりしないのさ。実家で思いの丈を述べすぎてチイ姉たちから酷い目に合わされているからな。

 ランドさんが「修理屋」でなく「壊し屋」に見えるのは俺の心の中にしまっておくことにする。これで問題なし(モーマンタイ)だ。

 

「そうだな」

 

 何故かランドさんが俺を睨んでいた。眉が釣り上がり、青筋が顔中に走っていてめっちゃ怖い。ど、どうしたのだろう?

 

「惜しかったな、カズマ。

お前が、考えている事を無意識の内に喋っていなければ、本当に問題なしだったのになァ!?」

「な、なんだってー!?」

 

 バ、バカな! そんな漫画みたいなこと ──

 

「誰が『ザ・クラッシャー』だ、コラ!!」

「お、俺はそんな事思ってねえよ! 『壊し屋』って思っただけだよ!」

「誰が『壊し屋』じゃい、クラァ!!」

 

 ランドさんが立ち上がり、座っていた椅子を蹴った。

 それだけで椅子の足は割り箸のようにへし折れ再起不能に……やっぱり「壊し屋」だった。

 

「小僧、口の中に手ぇ突っ込んで奥歯ぶち抜いてやろうか!」

「ヒィ、奥歯いや! 抜くのは親知らずだけにして?!」

「ダーリン、いい加減にしなさいよ」

 

 幼女 ── メールがランドさんを嗜めていた。

 

「カズマくん、怖がってるじゃない」

「……ああ、悪い、ついカッとなっちまった。悪かったな、カズマ」

「い、いや、俺も悪かったよ。もう思わないからさ」

「なにを?」

「な、なんでもないっす!」

 

 ランドさんが凄みを利かせたヒートスマイルを向けてきた。眉間にしわが寄っただけで雰囲気が一変するなぁ、笑顔って。暑苦しいぜ(炎天下で首を絞められてる感じ?)。

 

「話は戻るんだが、カズマはなにをしに来たんだ?」

「ああ……それなんだけどよ」

 

 俺は、親父に「ビーターサービス」で漢を学んで来いと言われた。

 くどいようだが男の中の男になるのが俺の目標だ。家族を守れるような男になることが俺の夢なのさ。

 漢を学ぶことはそれに一歩近づくことになるとは思う。

 ただ「修理屋」でそれを学べるかは甚だ疑問ではあるが……。

 俺はランドさんに事情を説明した。

 

「へぇー、ブレスの旦那がそんなことをねえ。俺のことを買って、息子を俺に預けてくれるなんてな。いやぁ、照れるぜ!!」

 

 ヒートスマイルを向けて照れるランドさん、暑苦しい。

 

「私のダーリンは最高です!」

 

 メールはメールで意味不明な言葉を吐きながら、猪鍋を食べていた。モフモフ食べて、時々食べこぼしてランドさんに拭取ってもらっている。幼いなぁ……。

 うーん、ここで本当に大丈夫だろうか?

 親父へ。俺は「ビーターサービス」で漢を知ることができるのか、はっきり言って不安です。

 こうして、俺の「ビーターサービス」での生活が始まったのだった ──……

 

 

 

 

【ビーターサービス営業日誌 1月14日】

 

 今日からの営業日誌は「ビーターサービス」の仕事っぷりを記していこう思う。

 

 「ビーターサービス」下働き1日目の今日、俺に任された仕事はまき割りだった。

 

「いいかカズマ、まきの中心をしっかり狙って斧を振り下ろすんだ。足を前に出しすぎるなよ。間違って切り落としても俺は修理できんからな」

「それは分かったけどよ……なぁ、ランドさん。ランドさんは修理屋だよな?」

「おうよ!」

 

 ランドさんは元気いっぱいに答え、本日1回目のヒートスマイル。……俺は朝からお腹いっぱいだ。

 

「壊れたテレビから曲がった性根まで、なんでも修理、いつもニコニコの『ビーターサービス』とは俺たちのことさ!」

「じゃあ何故まき割り?」

「カズマ、深く考えるな。考えるんじゃない、感じろ」

 

 なんでやねん。

 

「まき割りは後背筋によく効くぞ。これで鍛えれば、君もパーフェクトボディ!」

「いや、別に俺はマッチョになりに来たわけじゃないし。漢を学びに来たんだし!」

 

 するとランドさんは余程自信があるのか、ボディビルダーのようにポージングし肉体美を強調してきた。

 

「なにを言う。漢と筋肉とは切っても切り離せない関係だ。そうだな。喩えるなら、政治家と金の問題ぐらいに切り離すのは困難ものなのだ」

「なんだよ、その喩え! 嫌だよ、そんな漢になりたくないよ!」

「HAHAHAHAッ」

「笑って誤魔化すな! しかもアメリカン?」

 

 むしゃくしゃするので斧をまきに振り下ろしてみた。簡単に割れると思っていたが、斧がズレてまきの途中で刃が止まってしまう。まきにを引っ掛けて斧を抜こうとするも、以外に固くて思うようにいかなかった。

 

「貸してみ」

 

 ランドさんが斧を俺から借りる。

 すると斧は簡単にまきから取れ、ランドさんは片手で斧を軽々と振ってまきを真っ二つにしてしまった。断面がキレイだ。

 

「ざっとこんなもんだ」

「むー」

「ははは、むくれるな。自分で汗水垂らして作ったまきで風呂を沸かしてみ、きっと気持ちいいぞ!」

 

 ランドさんが指差したのはレンガの上に設置されたドラム缶だった。ドラム缶の下には隙間があり、まきを燃やせばドラム缶の中でお湯を沸かせそうではある……。

 

「まさか、あれで風呂に入れと?」

「おうよ!」

 

 ランドさんが歯切れのよく答える……マジっすか?

 

「カズマ、俺とメールは少し街に行ってくるからな。悪いけど、その間お前はまき割りしててくれ。教えられることもないしな」

「分かったっすけど、街になにかあるんですか?」

「廃品回収さ。最近の奴らときたら、まだまだ使えそうなモノを平気でポンポン捨てるからな。俺たちが拾って修理してやるのさ」

 

 おお、なんだかランドさんが「修理屋」に見えるぞ。

 所謂、リサイクルやエコロジーという奴だな。確かに、使えるものでも新しいモノを買い、用済みになれば捨ててしまうことはある。ランドさんたちはそういった不要になった品を回収・修理するらしい。

 ……その修理依頼は何処から来ているのだろうか?

 街の偉い手の人たちなのかね? でも俺にはボランティアのように思えてならない……。

 

 ランドさんたちは黄色い軽トラ「ガンレオン号」で街へと繰り出した。

 

 俺はしばらくまきを割り続け、やがて上手に割れるようになっていた。

 ランドさんのような切り口ほどは無理だけど、それなりに真っ直ぐ切れるようになったぞ。

 カズマ・アーディガンはまき割りのレベルが1上がった! ……虚しい。

 しかしまき割りというのは結構な重労働で汗だくになってしまった。

 結局、俺はまきで火を起し、ドラム缶風呂に入ることにした。

 

「いー湯だぜぇ」

 

 自然の中で入る風呂も良いものですね? 浴槽はヒノキとかでなくドラム缶だけどな。

 平和だ。実に平和だ。

 俺はなにをし来たのだったか。

 忘れてしまいそうになる。

 

「おーい、帰ったぞ」

 

 ランドさんたちが帰ってきた。

 軽トラには壊れたテレビや自転車などが積まれている。家電製品以外にも超合金製のロボットのおもちゃなども見られる。ずいぶんと節操なく色々集めてきたらしい。

 

「さー、修理するかぁ」

「おいおい、これ全部直すのか?」

「そうだぜ」

 

 ランドさんは実に生き生きとした表情をしていた。

 

「カズマ、聞こえないか。こいつ等は泣いてるんだ。まだ大丈夫、まだ働ける……でも捨てられてしまった。男として、『修理屋』として、こいつ等の叫びを見過ごすわけにはいかないだろう?」

「そういうもんすか?」

「そういうもんだ」

 

 少しだけ、ほんの少しだけランドさんの言っていることが理解できた。

 俺は「エリア」で「運び屋」として自転車便で荷物を配達している。「運び屋」として預かった荷物を届けるのは責務であり、最低限のモラルだ。だから、なんとなく理解できた。

 「修理屋」であるランドさんは、まだ使えるモノたちを放っては置けないのだろう。

 しかし軽トラの荷台に山のように積まれた修理対象 ── 俗に言う、粗大ゴミを小屋の中に運び込むには骨が折れた。

 その後は、作業用の机に腰掛け、黙々と作業を続けるだけ……なんていうか、「修理屋」って地味だな。

 という俺の先入観は、モノの見事にぶち壊された。

 

「さあ、蘇れお前たち!!」

「あ、熱いぜ。ランドさんが燃えている」

 

 チュィィィン、ガガガ、ガリガリ、ドカーン。

 レンチにスパナ、さらにはチェーンソーを使ったランドさんの修理(破壊?)が炸裂する。後には、使用不能だった家電製品が……気持ちいい位に、バラバラに分解されて横たわっているだけだった……。

 ちなみに分解されたのは冷蔵庫で、転がっているモノたちは原型を留めていない。

 

「ってコラー! ランドさん、修理せずにぶっ壊してどうすんの!」

「元気ですか!」

「イノキ?!」

 

 反射的な俺の突っ込みに、ランドさんの平手打ちが飛んだ。

 バチコーン。痛い。打ったね、親父にも打たれたことないのに(叔父さんには経験あり)!

 

「元気があれば何でもできる! カズマ、パーツを選別しろ。この中から故障の原因を見つけ出して交換し、元通りに組み直すぞ!」

「えーー、無理無理。だってコレ全壊してんじゃないすか?」

「漢が弱音を吐くな! それとも……」

 

 作業の手を休め、拳をバキバキ鳴らしながら俺に近づいてきた。

 体格差もあり、俺は完全に見下ろされている。眉を吊り上げているランドさんの顔がちょー怖かった。

 この時、俺は初めて気づいたんだ。

 俺が足を踏み入れたのは「ビーターサービス」という名のライオンの折の中だった、とな。フッ、後悔先立たずとはまさにこのこと ──

 

「お前のフヌケっぷりを先に『修理』してやろうかァ!!」

「ラジャー了解! 全力で取りかかるであります!」

「元気が足りんぞォ!!」

「シャーコラッ! 出てきやがれ、諸悪の根源めコラ!!」

 

 俺はバラされた部品の中に飛び込んだ。

 畜生、なんで俺がこんな目に合わなきゃならないんだ? 理不尽だ。部品を漁る手も乱暴になるというものだぜ。

 コレも違うな。

 目当てのモノでないパーツを俺が投げ出すと、ランドさんの蹴りが尻に降ってきた。腰骨直撃でめっちゃ痛い!

 

「馬鹿野郎ォ! 部品はもっと丁寧に扱え。喩えるなら、女の肌を愛でる時のように優しく、それでいて求め合う時のように荒々しくだ!」

「無茶言うなよ! 俺、○貞だぞ!」

「あっ、そうなの、ごめん」

 

 キィー、ムカつく。素で謝罪しやがって。しかも哀れむような目で俺を見るじゃねえ。ランドさんの喩えは的を得ていないなぁ、ホント。

 

「見ろ。メールなんて立派に修理しているぞ。あの手つきを真似るんだ」

 

 なんだって?

 メールは作業用の机に座り、超合金ロボットなどの子供のおもちゃの類を修理していた。滑らかな動きでおもちゃをバラして、また元通りにしていく。冷蔵庫と違い小さなおもちゃたちは必要時間も少ないのだ。

 くそ、あんなジャリンコメールにできて俺にできないはずは……ふと、メールの呟きが耳に入ってくる。

 

「ふふふ、ダーリンはここが感じるのよね? ここよね、この裏が○感帯ね。あぁ、なんだか私も興奮してきちゃったぁ。こうなったらメールスペシャルで一気にイカせてあげるわ!」

 

 幼女が顔を上気させて、手を動かしていた。

 

「変態だ! マセガキってレベルじゃねえぞ、これ!」

「気にするな。既に手は尽くした……修理は不可能だ」

「さじ投げちゃったよ、コレ!」

 

 だめだコイツラら、なんとかしないと……。

 でも俺は「運び屋」。長年培って形成された人格を修正なんてできないぜ。「そんな大人、修正してやるー!」と殴りかかっても、ランドさんに一蹴されるのがオチだしな……。

 

「うおりゃあああああああああぁぁっ!!!」

 

 ちゅぃぃぃん、ガリガリ、どぎゃどぎゃどぎゃ。

 俺が雑念に走っている間に、ランドさんは次々と家電製品を解体していく。急がないと部品の山に埋められることになりそうだ ──……

 

 

 こうして「ビーターサービス」1日目は、回収物の修理でふけていった。

 バラしたモノもパーツを取替え、(信じられないことに)キレイに復活した。

 本当に元に戻せるとはなぁ……「修理屋」ランド・トラビス、恐るべしである。

 作業が終わったのは深夜だったため2階のロフト部分で休むことになった。3人で川の字になり、死んだように重い体を横たえまぶたを閉じる。

 あぁ、疲れた ──……

 

 

 

【ビーターサービス営業日誌 1月15日】

 

 ビーターサービス、下働き2日目。

 

「来たぞ、出張修理依頼だぜェ!!」

 

 俺の朝は、暑苦しいランドさんの笑顔から始まった。

 目覚めの1発「ヒートスマイル」。

 このスマイルの値段はプライスレス。皆さんもどうですか? 寝起きの俺の眠気は無尽の果てに吹き飛んで行ってしまったぜ。

 

「ランドさん、顔近いっすよ」

「お、悪い悪い。ガハハハハハッ」

 

 朝から上機嫌に笑うランドさんは低血圧とは無縁に見えた。

 その手には一通の手紙が持たれていた。なんでも、時々出張修理の依頼の手紙がポストに届くのだそうだ。

 誰だ、ランドさんに修理を依頼する猛者は? 妖怪ポストに手紙を出すよりも勇気が要るぞ。

 ランドさんが手紙を読み上げる。

 

「拝啓、ビーターサービス様。

突然ですが性根の捻じ曲がった男がおります。この男はプロレスを嗜んでおり、この歪んだ男のために多くのプロレスラーが犠牲になっております。

この男の性根を修理していただきたい。ご多忙かとは思いますが、是非、今すぐにお願いいたします」

 

 手紙には地図が同封されていた。

 手にとって見ると、目印には「地下プロレス界」と書かれている。なんだこりゃ?

 

「なぁ、ランドさん。これって悪戯じゃ ──」

「うおっしゃあっ、来たぜ来たぜぇ!!」

 

 ランドさんは俺の言葉を聞いていなかった。背景に炎を立ち上がりそうな位に熱血している。

 

「壊れたテレビでも曲がった性根でも、なんでも修理致します! いつもニコニコ『ビーターサービス』、いざ、出陣ダァ!!」

「ま、待ってくれランドさん!」

 

 俺は手をつかまれてランドさんに引きずられる。

 

「なんで俺まで?」

「これを見ろ!」

 

 ランドさんは読み上げていた手紙を俺に見せつけて来た。

 なになに……手紙の末尾には勝負の日取りが書かれていた。1月15日。今日だ。

 修理依頼の手紙に試合の日程が書かれている理由は分かりかねるな。

 しかし気になる単語がもう一つ書かれている事に気づいた。

 「タッグバトル」 ── と書かれている。

 猛烈に嫌な予感が俺を支配した。

 

「まさか……俺に試合に出ろと?」

「おうよ!!」

 

 やはりそうか! 確かに「ビーターサービス」に残る社員はメールだけだ。試合に出られるはずもないが、部外者の俺を巻き込むのか? 

 技をかけられるのは慣れているが、かける方はズブの素人だぞ。

 

「気にするな。俺も素人だ!」

「駄目じゃん! どうするだよっ?」

「元気があれば試合もできる!!」

「負けるだろうが!」

「ワハハハハハハッ!!」

 

 俺の泣き言はランドさんの轟笑に一蹴され、なす術なく軽トラに乗せられて連行された。

 

「あきらめなよ。こうなったら、ダーリン止まらないから」

 

 悟りを開いたかのような一言をメールに言われた。

 俺の目指すのは、家族を守れるような男の中の男になることだ……プロレスラーじゃない。

 

「お家に帰してー!」

 

 こうして、俺は「裏プロレス界」の試合に出場する羽目になったのだった。

 

 

 

      ●

 

 

 

 地下にある広いスペースに熱気が篭っている。

 

 座っている観衆たちの視線は中央のリングに釘付けだ。正方形のリングはまるで白いキャンパス。しかしマットには点々と赤いシミがついており、頭上のライトがそれを浮き上がらせる。

 

『さぁ、本日のメインイベントの開催だぁー!!』

 

 司会者が高いテンションで叫び声を上げると、観客席から歓声が上がっていた。「殺せ!」「ぶち壊せぇー!」と、異様な熱気の視線が俺たちに突き刺さってきて痛い。試合を楽しみに来たという雰囲気じゃあない……観客の瞳に宿るのは狂気のように思えた。

 

「ランドさん、やっぱり止めましょうよ……もう完全に処刑ムードですって」

「そうかぁ?」

 

 俺の恐怖をよそに、ランドさんは耳を穿って指についたミミクソを息で吹く。のん気な……殺されるかもしれないんですよ、俺たち!?

 

『さぁ、赤コーナー、本日の犠せ ── 挑戦者ァー、『燃える闘魂 ザ・ヒート』だ ──ッ!!』

「ダアァァ ────ッッ!!」

 

 司会者の煽りと共にスポットライトが俺たちを照らし、同時にランドさんが拳を高く掲げて絶叫していた。

 観衆たちからはブーイングが巻き上がった。俺たちには完全にアウェーらしい。

 

『対する青コーナー、来るなら来い! 裏プロレス界のチャンピオン『鮮血の獅子王 レーベン・ゲネラールゥ』!!』

「血だ、今日も血の雨を降らせてやるわあああぁ!!」

 

 対面のコーナーポストにスポットライトが当たり、金髪の青年の姿が露になった。

 ランドさんとは違い無駄なく絞り込まれた筋肉が凛々しい。戦化粧を施し、完全に臨戦態勢のレーベンに観客席からレーベンコールが嵐のように巻き上がっていた。

 

「今日もぶっ壊してやるぜ」

「おいおい、アイツメリケンサック握ってんぞ! いいのかよ、審判?」

 

 審判に訴えるが無視される。

 

『さぁ、チャンピオンのパートナーはお馴染みぃ、『あぁレーベン シュラン・オペル』だぁ!!』

「あぁ、レーベン。あぁ、レーベン、今日も君の活躍を見せておくれ」

「シュラン。お前は後ろで見てるがいい。この俺の活躍を!」

 

 メガネを掛けた痩身の男がリング外に待機していた。

 チャンピオン、レーベンのパートナーということは、ランドさんに対する俺のようなものか。

 

「なぁ、ランドさん。出張修理依頼って言ってたけど、一体なにを修理するんだ?」

「分からないか、カズマ。あいつだよ」

 

 レーベンを指差しながらランドさんは不適に微笑んだ。

 

「俺たちは『ビーターサービス』、壊れたテレビだろうがなんだろうが修理する。

性根が曲がってんなら、熱して叩いて伸ばして、まっすぐにしてやりゃいいのさ」

「んな無茶な!」

 

 言っていることが無茶苦茶だ。荒唐無稽にも程がある。

 俺とランドさんが出会ってからまだ2日しかたっていない。たったの2日だ。でもランドさんのハチャメチャっぷりを理解するには十分過ぎた。

 人格は育った環境に左右されるものだ。それをどうこうできる訳がない……そう思っている俺に触れる者がいた。

 今、俺はリングユフォームのためパンツ一枚だが、その裾を引っ張っている。

 

「ほらカズマ君。危ないからリングから降りて」

 

 セコンドとして同行したメールだった。

 

「ダーリンなら大丈夫だから」

「で、でもよぅ……」

「いいから」

 

 俺はメールに手を引かれて、しぶしぶリングから降りる。リング上にいてもできることはない。居残っても仕方ないことだが後ろ髪を引かれる気分だ。

 

「大丈夫だって。言ったでしょ? 私のダーリンは最高だって!」

「さーて、と……一つ、思いっきり修理するとしようか」

 

 首に手を置き、左右に振ってゴキッゴキッと骨を鳴らしながら、ランドさんが一歩前に出た。

 リング中央へ。「裏プロレス界」のチャンピオン、レーベンの待つ場所へと足を運び睨み合う。

 

「まず、逃げなかったことを褒めてやろう」

 

 戦化粧で整った顔を歪めてレーベンが笑っていた。

 

「だがお前はこれから俺に壊される。血と肉が詰まっただけの皮袋に成り果てるのだ」

「……どうやら、聞いていた以上に歪んだ野郎みたいだな。多くのレスラーをそうやって再起不能にしてきたのか?」

「ほぉ、誰かに俺を倒すよう依頼でもされたようだな。だが無駄なこと。俺に勝てる男などこの世には存在せん」

「どうかな?」

 

 レーベンの挑発にランドさんは笑顔で返していた。

 不適な笑み、ではなく、とびきりのヒートスマイルでだ。

 

「安心しろ。お前は俺が修理してやる」

「あ、暑苦しい奴め! 離れろ、ゴングと共に貴様をマットに静めてやる!」

 

 二人ともリング中央から離れた。

 距離を保ち、試合開始のゴングが鳴るのを待つ。

 

『皆様、お待たせいたしました! 『鮮血の獅子王 レーベン・ゲネラール』対『燃える闘魂 ザ・ヒート』、只今より試合開始です!」

 

 

── カーンッ

 

 

 決戦の火蓋が切って落とされた。

 「裏プロレス界」のチャンピオンVS「修理屋」の試合だ。

 ランドさんよりも先にレーベンが動いた。

 

「血だ! 俺は血が見たい!」

 

 レーベンは手に持っていたメリケンサックを握りこみ、ランドさんに突撃してきた。

 メリケンサックが風を切り、ランドさんの顔面に直撃する。

 

「ランドさん!」

 

 空中に赤い血液が吹き上がる。ランドさんの口から流れ出たものだ。

 顎周辺にレーベンの一撃はヒットしていたが、それでもランドさんは倒れなかった。

 

「カズマァ、よく見とけ」

「き、貴様、離せ!」

 

 殴りかかったレーベンの腕を掴み、ランドさんは背中越しに俺に語りかけていた。

 

「これが『修理屋』ランド・トラビスの戦い方ダァ!」

 

 ランドさんの叫びが会場に響き渡る。

 同時に。

 鈍い音が俺の耳に届いた。なにかが砕ける音だった。

 

── レーベンの腕があらぬ方向に曲がっていた。

 

 悲鳴をあげ、レーベンはマット上に崩れ落ちる。レーベンの腕は前腕部でくの字に折れ曲がっていた。

 人間の骨を握り折るなんて……ランドさん、アンタ本当に人間ですか?

 

「痛ぇか、レーベン?」

 

 激痛に見舞われているだろうレーベンにランドさんが言葉を投げかける。

 

「その痛みをよく覚えておけ。その痛みは、お前がレスラーたちに与えてきたものだ」

「ザ・ヒート、貴様ああああぁあぁ!!」

「血が見たいためだけに相手を傷つける、その曲がった性根を修理してやるぜ!」

 

 ランドさんはレーベンを頭を掴み、軽々と持ち上げた。

 指がレーベンの頭に食い込んでいる。アイアンクローという技だった(俺もチイ姉にやられたことがある)。レーベンは当然悲鳴をあげながら、蹴りを放つ。

 しかしランドさんの強靭な腹直筋の前には無力であった。

 

「あぁ、レーベン! 今、君の元へ行くよ!」 

 

 リングサイドで待機していたシュランが乱入してきた。

 あの野郎、パイプ椅子を持ってやがる。

 タッグバトルって2対1はOKなのか? 知らないけどランドさんを助けに行かないと!

 俺がリングサイドに手をかけた時には、シュランの持っていたパイプ椅子が、ランドさんの頭に直撃していた。

 額から血が伝い落ちる。

 

「あぁ、レーベン! 君を救うことに全てをかけよう!」

「シュ、シュラン! 済まない、心の友よ!」

 

 そのままパイプ椅子で強打強打強打。

 そ、そんなに叩きつけたら危ないんじゃないか? 頭が割れて死んでしまうのではないだろうか。

 俺の血の気は引いていたが、会場は逆に盛り上がっていた。コイツラ……そんなに血が見たいのか? 狂ってやがる、レーベンも、シュランも、会場の観客たちも全部だ。

 

『さぁ、レーベンのピンチにシュランが飛び出したぁ! 美しき友情かな! ザ・ヒートは滅多打ちです、このまま終わってしまうのかぁ!?』

「もう我慢できねえ!」

 

 俺もリング内に乱入しようとした。

 しかしメールが再び俺を止める。

 

「大丈夫だよ。ダーリンはこの程度じゃへこたれないから!」

「うがあああああぁぁっ!!」

 

 メールの言葉通り、ランドさんは倒れなかった。

 シュランの振るってきたパイプ椅子を殴り飛ばすと、その手で顔面を鷲掴みにする。

 みしみしみし、とレーベンたちの骨が軋む。大の大人が2人、頭を掴まれて空中に持ち上がられている様は圧巻だった。

 

「馬鹿野郎め、凶器使ってまで勝って嬉しいのか? 俺に勝ちたきゃ、みそ汁ででも顔を洗って出直して来るんだな!」

 

 言っている意味は分からないけど、とにかく凄い気迫だ。

 顔面血まみれ、傷だらけになったランドさんだけど弱った気配は微塵も感じられない。むしろ雄々しくリングに立つ姿は心に熱いモノを湧き上がらせてくれるぜ。

 

「離せ、ザ・ヒート!」

「黙れ、そして聞け!」

 

 この後、ランドさんは掴んでいた2人を投げ飛ばした。

 レーベンはマットに、シュランはロープに叩きつけられるがダメージは殆どない。ランドさん、何故2人を解放したんだ? そのままケリをつけてしまえば良かったのに!

 レーベンたちが立ち上がる。

 

「闘魂とは ──」

 

 ランドさんが天高く拳を掲げる。

 

「── 闘魂とは、己に打ち勝つことッ!! 

故に、お前たちは俺には勝てない。己の性分に屈し、武器を用いる戦いをするお前たちではな!!」

 

 ランドさんはレーベンたちに指を突きつけた。

 ……カ、カッコいい……熱い、熱すぎるぜランドさん! カッコ良すぎて背中を電気が奔ったようだ。感銘を受けて鳥肌がたってしまっていた。

 対するレーベンたちは、互いにメリケンサックを装着しランドさんを強襲する準備を整えていた。

 

「黙れザ・ヒート! 俺は血さえ見られればいいんだよ! 血だ! 血液だ! テメエの鮮血で俺は化粧をしたい!!」

「あぁレーベン。あぁぁレーベン! そんな君が大好きだ! さぁレーベン、殺ってしまおう!」

「応、心の友よ!」

 

 野郎、また2人がかりか?

 卑怯なのも大概にしておけよ。

 やはり俺もリングに上がって戦うべきだろう。

 しかしランドさんは首を振り、俺のリングインを拒むとこう言った。

 

「カズマ、馬鹿になれ」

「ランドさん……」

「とことん馬鹿になれ。とことん恥をかけ。恥をかいて裸になった時、初めて本当の自分が見えてくるもんだ。本当の自分が笑っていられるように、まっすぐに生きて行け。

振り返ってもいい、後ずさってもいい、ただ、少しずつ前へ進むんだ。

それが漢の生きる道! それが俺の闘魂だぜ!!」

 

 口の端を上げ、ウィンクして破顔し、親指を立てて俺に向けていた。

 見慣れたヒートスマイルだ。

 暑苦しくなんてない。むしろ熱い! 熱すぎるぜランドさん!!

 あんたこそ「ザ・ヒート」の異名に相応しすぎる漢だぜ!!

 

「隙だらけだぞ!」

 

 俺の方を振り返っていたランドさんにレーベンたちが背後から襲い掛かった。危ねえ!

 

「とった! 死ねい!!」

 

 2人のメリケンサックがランドさんに迫る。

 後頭部に直撃した。

 常人なら昏倒してもおかしくない一撃がランドさんに入っていた。

 しかしランドさんは倒れない。

 

「ふざけやがって。やはりその性根は、叩かないと真っ直ぐにならねえみたいだな」

 

 大きな拳が握りしめられる。

 そして岩みたいに固そうな鉄拳が振るわれた。

 

「あぁレーベン、君をやらせは ── ブフゥ!!」

 

 レーベンの前に飛び出してきたシュランの体が空中にかち上げられた。猛スピードで回転し、マットに叩きつけられる。

 白目を剥いて動かなくなった。

 

「シュラン! ザ・ヒート、貴様よくもシュランをやってくれたな!」

「闘魂注入!」

 

 ランドさんの平手打ちがレーベンに炸裂した。

 会場に快音を響かせて、レーベンの首が明後日の方向を向き、動かなくなる。立ったまま気絶していた。

 

「しゃああぁぁっ!!」

 

 ざわめき立つ会場にランドさんの咆哮が轟いた。

 

『な、なんということでしょう! 新チャンピオン誕生です! その名も『燃える闘魂 ザ・ヒート』だぁ!!』

「ご唱和ください!!」

 

 勝ったランドさんが会場に向かって叫ぶ。

 

「いちっ」

 

 絶叫に近い声に観客たちは驚いている様子だが、

 

「にいっ」

 

 ランドさんに感化されたのか、カウントに便乗し始めた。

 俺も叫ばずにはいられず、

 

「「「さぁん ── ッッ」」」

 

 

 3本目の指が立った時、俺の興奮は最高潮に達していた。

 ランドさんの勝利の雄たけびに、会場が一つになり、

 

『── ダアアアアアァァァァッ!!!』

 

 ランドコールが沸きあがった!

 熱いぜ! 体も心も熱すぎるぜ! 熱すぎるぜ、ザ・ヒート ── ランド・トラビス!!

 

「いつ、何時、誰の挑戦でも受ける!!」

「ランドさん ── いや、兄貴! アンタ、最高だぜ!!」

 

 歓声に包まれながら、「ザ・ヒート」のデビュー戦は終わった。

 俺は、なんにもしてないけどね ──……

 

 

 

      ●

 

 

 

 所変わって、「ビーターサービス」事務所である掘っ立て小屋。

 

 小屋に戻った頃には日は落ちていた。

 月が木々の間から顔を覗かせ、神秘的な光が裏山を照らしており、虫や鳥たちのざわめきも昼とは趣きを変えていた。

 「裏プロレス界」で1試合してきただけなのに、帰宅時間が夜になったのには理由がある。

 

 「裏プロレス界」は健全な組織ではない。

 アントキノイノキが活躍するのが表とするなら、ランドの兄貴(以下兄貴とする)が活躍したのが裏なのだ。

 残虐非道、極楽往生(?)。これまでに死人が何人も出ている「裏プロレス界」のファイトマネーは結構な額だった。俺の家族を数ヶ月養えるだけの額だ。これは危険に見合った報酬と考えればいいのだろうかね?

 

 多額の報奨金を得た兄貴が足を運んだのは、学校に文房具などを卸している小さな卸売り業者の店だった。

 

 小さな店で、年老いた老夫婦が経営していた。

 その店で兄貴は ──

 

「この金で買えるだけのランドセルをくれ」

 

 ── と分厚い札束を老夫婦に押し付けて仰天させていた。

 老夫婦が驚くのも無理のないことだろう。あれだけの額を躊躇せず差し出し、注文したのがランドセル……申し訳ないが、兄貴の風貌だとランドセルなんて頼むなんて想像もできやしないぜ。

 番長御用達のボロボロの長ランがお似合いだ。

 それとも、ランドだからランドセル頼んだのかな?

 ププッ、相変わらず、俺のギャグセンスは壊滅的だぜ! もし笑ってくれた人がいたらありがとう。貴女にはカズマ・アーディガンと交際できる権利を差し上げます。

 ……しかし理解できない。

 コレだけの額、ランドセルに変えたりせずに設備投資に回せばいいのに。

 「ビーターサービス」もそれで潤うというものだ。

 

「カズマ」

 

 俺の問いに兄貴はこう答えた。

 

「金は生きていくのに必要だ。それは間違いない。でもな、必要以上には要らないと俺は思っているんだ」

 

 分からない。兄貴の考えが理解できなかった。

 必要なくても貯蓄すればいいじゃないか?

 いざ必要になったときにお金が無いの辛いぜ。倒産の危機を繰り返す、家のファミリーが言うんだ。間違いない。

 

「そうだな。お前の言うことが正しいと俺も思うよ」

「じゃあ、なんで?」

「喩えるなら、拾われた赤子が優しくしてくれた人たちにお返しをする、ようなものかな」

「いや、分からねえよ兄貴。兄貴の比喩はいつも分かりにくすぎるぜ」

「そうか、ガハハハハハハッ」

 

 豪快に笑って誤魔化され、俺たちは両手で持ちきれないくらいのランドセルを購入し、今先ほど「ビーターサービス」に戻ってきた所なのだ。

 

「よーし、じゃあガンレオン号にランドセルと昨日修理したモノを載せるぞー」

「えー、マジかよ? 夜だぜ。商売なんてできっこないって」

 

 はっきり言って、今日は疲れた。俺の不満に兄貴は飛び切りのヒートスマイルを向けてくる。暑苦しいけど、嫌いじゃない兄貴の笑顔だ。

 

「いいか、カズマ」

 

 兄貴が俺の頭を撫でてきた。子供扱いされているような気がするが、嫌な気分ではない。

 

「今日はお前が虎になるのだ」

「虎?」

「イエス、タイガー!」

 

 文法的にも明らかに間違っている兄貴の答えに、俺の頭には疑問符の嵐が駆け巡っていた。

 そういや、親父も言っていたな。

 虎になるのだぁ、とな。なにか関係あるのだろうか?

 しかし思う。兄貴は虎というよりもライオンだけどな。

 

「さぁ、『ビーターサービス』、夜の仕事にいざ出陣!」

 

 荷物を積み終わったガンレオン号を兄貴は勢いよく発進させた。

 自慢じゃないが状況に流されるのは得意だぜ。

 俺は訳も分からぬまま、兄貴たちと夜の街に繰り出したのだった。

 

 

 

      ●

 

 

 

 ガンレオン号が到着したのは夜の学校だった。

 

 その学校の名前は「スクール」。

 

 何故か高校が密集する地域「エリア」で経営される、親のいない子どもたちを無償で通わせてくれる学校だ。経営者のアギラ・セトメは近所では聖母と名高い老女らしい。

 初等部から高等部まで存在し、高等部には俺のダチのアラド・バランガも通っている学校だった。

 兄貴はガンレオン号を「スクール」内に侵入させ、校庭を横切って、玄関口に停車させる。

 

「さぁ、荷物を降ろすぞ。カズマも手伝ってくれ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ兄貴。どういうことか説明してくれよ」

 

 巡る状況に俺は着いていけない。

 俺は兄貴に説明を要求した。すると ──

 

「修理したモノを寄付するんだよ」

「寄付?」

「そうだ。元々、拾っただけのタダみたいなモノだしな」

 

 兄貴は満面の笑みを浮かべながら、俺たちが修理した冷蔵庫を玄関口に下ろしていた。

 スクール内で冷蔵庫を使わなくても、親のいない子どもたちの家に運べば立派に使用できそうだった。

 それを俺たちが修理したというのは誇らしくもあり、それを売却せず提供するというのは残念でもある。俺の感性は曲がってんのかね? でも貧乏ジリ貧で嘆く「ヴァルストークファミリー」としては金になるモノをタダであげるというのは、身を摺りきられるような苦痛でもあるんだ。

 兄貴はランドセルも玄関口に下ろしていた。

 自分で勝ち取ったファイトマネーで買ったランドセルを、だ。

 

「カズマ君」

 

 メールが話しかけてきた。兄貴に聞こえないように、小声で、俺の耳に手を当てて、だ。

 

「ここだけの話、ダーリンって昔孤児だったらしいの」

「兄貴が……」

 

 孤児。

 兄貴が、孤児。

 どんな生活をしていたのだろう? 俺には想像もつかない。

 メールが話を続けてくれる。

 

「それで昔相当荒れてたらしいわ。でも私のお父さんに出会ってから変わったらしいの。人生観を変えてくれた恩人だって、今でも酔ったときに口走ったりしてるのよ」

 

 ふふ、とメールは微笑んだ。

 その様子は何処か艶やかで、幼女には不相応な大人の女性の雰囲気を纏っている。

 

「その時に聞かせてくれたの。ダーリンね、孤児だったから勉強もろくにできなかったんだって。だから、せめて今の子どもたちにはしっかり勉強して欲しいって……時々入るなけなしのお金をこうして使ってるんだ」

「で、でもよ、それだと困らねえか? 生活、とかさ……?」

「ふふ、懐かしい。私もカズマ君と同じことをダーリンに言ったよ。その時、ダーリンはなんて言ったと思う?」

 

 メールは苦笑しながら訊いてきた。

 ……正直、俺には想像もつかない。

 嬉しそうに荷物を運ぶ兄貴……なにも考えていなさそうな、馬鹿みたいな笑顔を振りまいている兄貴。

 兄貴がなにを考えているのか、俺には理解もできない。

 メールが兄貴に注意を向け、バレないように教えてくれた。

 

「ダーリンはこう言ったの。

貧乏でも、金が無くても生きてはいける。けど心の貧乏人にはなりたくない……ってね。だから、私のダーリンは最高なの」

「心の貧乏人……?」

「お金を持ちすぎると人は堕落するものよ。だからダーリンは必要以上にお金を持ちたがらないの。今の『ビーターサービス』を見れば分かるでしょう?」

 

 確かに「ビーターサービス」本社の掘っ立て小屋は、お世辞にも立派とは言えない。

 手に入れた木材を組み合わせて作り上げた手作り感満載の建物だ。暖房も無い。電気は通っているがテレビもない。あるのは工具と生活空間、そして運搬用の軽トラのみ。

 それでも兄貴たちは生きている。生活している。

 そして残ったお金をモノとしてこうして「スクール」に提供している……兄貴、俺は兄貴に惚れました。

 カッコよぎる。

 アンタこそ漢だ! 漢の中の漢だぜ!

 

「おーいカズマ、手伝ってくれよ」

「はい、喜んで!」

 

 俺は兄貴と一緒に修理したモノやランドセルを玄関口に下ろした。

 見れば、結構な量だった。

 これだけのモノがあれば、親のいない子どもたちの生活も少しはマシになるのではないだろうか?

 ……マシ、ね。

 もしかしたら、俺はとんでもないクソ野郎なのではあるまいか?

 マシ、なんて明らかに上から目線の言葉だ。俺が孤児を見下しているから出てくるに違いない、深層心理からの言葉だろう。

 マシ、という言葉は表現するのにちょうど良いのかもしれないが、あまり使ってはいけない言葉なのかもしれないな……でも、兄貴は違う。

 

 兄貴は純粋な善意から行動しているのだ!

 

 兄貴、アンタこそ漢だぜ!

 俺は兄貴に出会えてよかった! 

 俺も兄貴みたいになれるよう、男の中の男になれるよう努力するぜ。

 

 荷物を運び終わった後、兄貴は一枚の手紙を置いて「スクール」を後にした。

 

 

── 傷だらけの虎より、子どもたちへ。

 

 

 手紙がどうなったのか、ランドセルがどうなったのかは知らない。

 知る必要はないのだろう。

 知ろうとすれば、それは単なる偽善になってしまうのだから ──……

 

 こうして、俺の「ビーターサービス」での下働きの日々は終わった。

 たった2日だったけど、兄貴と出会えて良かったと思っている。

 蛇足だが、兄貴は虎というよりライオンだと思うけど、俺は兄貴の生き様を見習って生きていくと誓うのだった ──……

 

 

 

 

 

 

 

ここは高校がなぜか密集する土地『エリア』。

『エリア』には個性豊かな人間が沢山いる。

今日も、楽しく愉快な仲間達がアホな事件を巻き起こす。

次はどんな事件が起こるのだろう……それは誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

【ヴァルストークファミリー営業日誌 1月16日】

 

 「ビーターサービス」から帰ってきたカズマ。

 居間の扉を開けると、愛すべき姉妹たちの視線がカズマに集中した。

 なにか言え。

 そんな視線だ。

 

「待たせたな、みんな ──」

 

 カズマはランド譲りの笑顔をお見舞いすることにした。

 口の端を上げ、片目を瞑り、親指を立てて豪快に笑う。

 そう、ヒートスマイルだ!

 

「── カズマ・アーディガン、只今帰ったぜ!」

「暑苦しい!」

 

 アカネが顔を覆ってカズマから顔を背けた。

 

「キモ」

 

 アリアは見向きもせずに言い放った。

 

「あーん、お兄ちゃんが暑苦しくなっちゃったよー!」

 

 ミヒロに至っては泣き出し、

 

「毒ね」

 

 シホミはぼそりと呟いた。

 しっかりカズマの耳に届いた姉妹の反応に、彼の迸るハートは見るも無残に切り捨てられた。

 ガクリっ、と項垂れるカズマ。

 

 頑張れ、カズマ・アーディガン!

 負けるな、カズマ・アーディガン!

 いつかきっと、君の思いが姉妹に届く日が来るさ……多分。

 

 あと、彼女もそのうちできるさ……多分。

 

「うるせえ!!」

「黙れ、コラ!!」

 

 アカネに卍固めを掛けられ、今日も「ヴァルストークファミリー」にはカズマの絶叫がこだまするのだった……。

 

 

 

 




<キャラ紹介>

カズマ・アーディガン:ジェネ高2年、「ヴァルストークファミリー」の長男坊。男の中の男を目指してる。今回、漢を学ぶため「ビーターサービス」に下働きに出される。絶賛、彼女募集中!

ランド・トラビス:「ビーターサービス」を任される漢。暑苦しいと評判の「ヒートスマイル」を看板に、今日も直すぜ、社会の色々。ちなみに「壊し屋」や「ザ・クラッシャー」と呼ぶと切れるので注意。

メール・ビーター:絶賛、失踪中のシエロ・ビーターの一人娘。外見はロリっ娘だが、実は高校生レベルの年齢。ランドをダーリンと呼び心底ほれ込んでいる。だがランドからはマセガキ扱いされている。

レーベン・ゲネラール:「裏プロレス界」のチャンピオンとして君臨していた男。血を見るのが大好きという特殊な性癖の持ち主。本職はMEらしい。ちなみに極度の女性恐怖症で、シュランとは心の友である。

シュラン・オペル:レーベンの心の友。彼に心酔しており、彼の行くところ全てに付きまとう。本職はMEらしい。



<次・回・予・告>

ランド「1・2・3、ダァァァァ!!」

キョウスケ「な、なんだ、この暑苦しい男は?」

ランド「元気ですか!?」

キョウスケ「うっ……この手合いの奴は苦手だ。頼む、エクセレン」

エクセレン「はいはい。わお、今日も私は元気よん♪」

ランド「元気があればなんでもできる!! さぁ、お嬢さんもご一緒に!!」

エクセレン「元気があれば、ギャンブルも辞められる!!」

キョウスケ「ちょ、ちょっと待て! なんでそうなる!?」

ランド「元気ですか!? ギャンブルやってますか!?」

キョウスケ「ま、まぁ、少々……」

ランド「闘・魂・注・入ッ(平手打ちを加える)!!」

キョウスケ「ぎゃあ!!」

ランド「そろそろ潮時でしょうね(凄く物悲しそうな表情)」

キョウスケ「何の!? カン政権? それともギャンブル?」

エクセレン「はいはい、その辺にしておいて、次回予告に行きましょうね」


キョウスケ
「俺の名前はキョウスケ・ナンブ! アニメでの出番がちょっと少ないな? 忘れないでくれよ!
次回も第2次スパロボZ発売決定記念でスパロボZネタをやろうかと思う。
しかしネタはまだ決まっていない。
次回の更新は少し遅めになるかもしれないが、みんな、よろしく読んでやってくれ!
次回もスパロボ学院にリボルビングステェェク!!」

セツコ
「ス、スーパーロボット大戦Zもよろしくお願いします」

エクセレン
「私の台詞とられたッ?!」





どうも、北洋です。
今回はランド回にしてみました。
熱い展開にしてやろう、熱い展開にしてやろうと考えていたら、プロレスになりました(笑)。
しかもプロレスの辺りの展開は若干無理がある気がします……。
でも後悔はしていない。
イノキさんも言ってました。
元気があれば何でもできる! 電気があれば小説も書ける!
次回も頑張ろうかと思いますので、皆さんご唱和ください!

1・2・3、ダァァァァァァァ!!

失礼しました。
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