スパロボ学院 ~ OGだよ、全員集合! ~   作:北洋

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<注・意・事・項>

 絶賛、キャラ崩壊中!
 オデコちゃんとか王様が激しくキャラ崩壊しております!
 見る方によっては不快感を覚える可能性があります!
 それでも良いという方はどうぞ!



リョートのパン2 ~カルロス社長のプロデュース大作戦!~

 ここはなぜか高校が密集する地域、エリア。

 

 エリアには高校だけではなく、商店街や繁華街も存在し、住民相手の商売を生業としている者たちも多く生活している。

 ちっぽけなパン屋でほそぼぞとパンを売る者もいれば、大企業の協力を得て大々的に商売をしている者もいる。

 ここはエリア。

 高校が密集し、それなりに商売も盛んなこの地域の一室で、誰かが言った。

 

「ある地域には、ホートーという美味なる鍋料理があるらしい」

 

 赤い絨毯が引かれた広い一室で彼は腰かけていた。艶のある木製のワーキングデスク、それとセットになっている豪奢なリクライニングチェアの上で、彼は悠々と呟く。

 

「誰かが言った。

 またある地域にはメン・タイコーという特産品があり、ほかの地域の海岸線にはボルテッカ丼という丼料理を出す店があるらしい。いったい、誰が言ったのか? まぁ、そこにたいした興味は沸かないんだけどねぇ」

「はぁ」

 

 彼の言葉に美人秘書のシオニーちゃんが生返事を返していた。

 社長室らしき一室でシオニーちゃんは彼に訊くことにした。

 

「でもカルロス……社長、それが一体全体どうしたというのですか?」

「おやおや、僕の言いたいことが分からないのかいシオニーちゃん? 誰かが言ったんだ。要するに、エリアではない他の地域にはそれはそれは美味しい料理や特産品が存在する、とね。

 でも、エリアにはそれがない。これはチャンスだとは思わないかい?」

「はぁ……」

 

 カルロスの戯言がまた始まった。反射的にシオニーちゃんは生返事を返してしまう。

 シオニーちゃんの目の前にいる若者 ── カルロス・アクシオン・Jr.は巨大財閥「アクシオン財閥」を取り仕切る頭取、いや若社長だ。天才的な経営手腕で「アクシオン財閥」を巨大企業にまでのし上げた、いわば時代の寵児のような存在だった。

 カルロスが椅子から勢いよく立ち上がる。

 

「そう! まさに、今こそが、大事な大事なアタックチャ~スッ!」

「さ、さすがにそれは古いんじゃ ──

 

 

── ズバンッ!(机をたたく音)

「ひぃぃ!」

 

 突然耳に届いた鋭い音に、シオニーちゃんは思わず悲鳴をあげた。頭を抱えてしゃがみ込んだシオニーちゃんを、カルロスが机に手を押し付けたままで見下ろしている。

 あはっ、と擬音が聞こえてきそうな程にカルロスの顔は緩んでいて、シオニーちゃんは強い憤りを覚えた。

 

「いいかい、とってもビビリな美人秘書のシオニーちゃん。僕はね、とってもとっても暇なんだ」

「ま、またですか?」

「うん。だから、ハイ、これ」

 

 カルロスが1枚の写真をシオニーちゃんに差し出してきた。

 シオニーちゃんは猛烈に嫌な予感しかしなかったので、写真を見たくはないと思ったのだが、カルロスが両手を高く持ちあげるのを見て観念した。カルロスが手を下ろせば、そこには机があるからだ。台パン怖い……シオニーちゃんは恐怖に負けて写真を受け取った。

 写真には小さなパン屋が写っていた。古びた看板には「ヒカワ屋」と名前が書かれていた。

 

「シオニーちゃん。君はこれからこのパン屋に行き、エリアの特産品になりそうなパンを創作するように。あ、折角だから、秋の味覚的なものをふんだんに使った創作パンがいいなぁ」

「そ、そんな無茶な ──

 

 

── パンパァンッ!!(机をたたく音)

「ヒッ」

 

 カルロスが机を2連打した音に、シオニーちゃんの肩が震えた。

 カルロスは微笑を浮かべながら言う。

 

「シオニーちゃん、僕は誰か言ってごらん?」

「カ、カルロス……社長」

「そう! 僕は社長さ! 偉いのさ! 

 お客様は神様ですか? 

 答えはNO! 神様は社長ですぅ!! テラダ ── いいや、社長、イズ、ゴッド!!

 君はこれから『ヒカワ屋』で創作パンを作り、ついでに売上を3倍に増やすこと。それが今回のミッションさ!」

「も、もし……失敗したら……?」

 

 シオニーちゃんの不安に、カルロスは笑顔で親指を立てて応えた。

 首に押し付け、笑みのまま立てた親指を横に引いた。

 

「ヒトラーとリストラって似てるよね?」

 

 似てねえよ! シオニーちゃんは口が動きそうになるのを必死に堪えた。ここでカルロスの機嫌を損ねることは、もし消えれば死んでしまう蝋燭の炎を自分で吹き消すような行為だからだ。

 カルロスの言葉を意訳すれば「アドルフに告ぐ。失敗すれば君はクビ」ということらしい。

 カルロスは意気揚々と手を突き上げ、宣言した。

 

「エリアの特産品創作計画! 名付けて ──

 

 

 

 スパロボ学院 ~OGだよ、全員集合!~

 リョートのパン2 ~カルロス社長のプロデュース大作戦!~

 

 

 

 シオニーちゃんのため息が、社長室にむなしく漏れたのは言うまでもない。

 

 

 

      ●

 

 

 

 僕の名前は氷川(ヒカワ) 諒斗(リョウト)。

 

 なぜか高校の密集する地域『エリア』の寂れた商店街で、小さなパン屋を経営している。

 店の名前は「ヒカワ屋」、まぁ少し安直な気もするけど、店の名前は分かり易い方がいいと思いこうなった。洒落た名前よりは覚えやすいし、この方が僕にはしっくりくる。それに大仰な名前を付けても、評判が付いてきてくれるとは限らないことを僕は知っている。

 評判って、毎日の頑張りの繰り返しによって作られていくものだと思うんだ。

 

 だから僕はパンを焼く。

 毎日粉からタネを作り、練って、焼き上げてお客さんに食べてもらう。

 バイトのミナキさんやトウマ君の協力もあって、僕の店「ヒカワ屋」の評判はそれなりに良かった。

 幼馴染のリオ・メイロンが大企業「マオ・インダストリー」の営業店「マオ屋」というおにぎり屋を開いた時は、さすがに屋台骨が折れかけたけど……リオが展開するおにぎりの格安販売キャンペーンが、実は僕の店を潰すために行われているという裏事情がなぜかお客さんたちにばれていて、それが話題になったのか店の客足は途絶えることはなかった。

 なんだかんだで「ヒカワ屋」は潰れることなく、それなりに営業出来ていた。

 でもいつかは、僕の焼いたパンでリオをぎゃふんと言わせ、見返してやりたいと思う。あの紙(・・・)に名前を書くためにも、僕はパン屋という職業で一人前になりたいと思うんだ。

 

 ── そんなある日だった……

 

「店長! 大変です!」

 

 僕が奥の工房でパンを焼いていると、バイトとして雇っているトウマ君が大声を上げながら飛び込んできた。

 バイトの達人の異名を取るトウマ君は、貧乏経営を続けている「ヒカワ屋」には欠かせない人材だ。しかもなぜか日に日に筋肉質になっていく……同じ仕事量の僕は華奢なままなのに不思議な事もあるものだ。

 しかしトウマ君には材料の買い出しを頼んでいたはず。

 

「どうしたの? あ、もしかしてまたリオの嫌がらせ? 小麦粉が全部買い占められたとか、それともおにぎり1個50均一セールとかやっていたとか……嫌だなぁ、気が滅入るよ」

「違います! 悪い知らせじゃなくって朗報ですよ、朗報!」

「え、本当?」

 

 なんだろう? 僕はパンを練る手を止めて、トウマ君の報せを聞くことにした。

 

「お客さんが来てます! それもあの大企業『アクシオン財閥』から、さらに言うと『ヒカワ屋』に協力したいって言ってましたよ!」

「きょ、協力? 大企業が僕の店に……?」

 

 寝耳に水とはこのことだろう。

 大企業が個人経営の店に協力を申し出る……耳を疑う言葉をトウマ君は口走っていた。

 「アクシオン財閥」と言えば、最近台頭していた新参の財閥で、飲食店のフランチャイズも展開している。契約店から利益を吸い上げているので、何もしなくても、僕のような個人経営の店とは段違いの売り上げを叩きだしているはずだ。

 そんな「アクシオン財閥」が、僕の店に協力を申し出るメリットは無い……というか皆無のように思えるのだけど……。

 

「もしかしてあれかな? 店を畳んで、財閥とフランチャイズ契約しろって来てるんじゃないの? トウマ君、前にも言ったけど、僕はそういうのはあんまり好きじゃないんだ」

 

 以前にも「マオ・インダストリー」から、フランチャイズ契約の話が来たことがあったっけ。

 自分だけのパンを焼いて商売がしたかった僕は、その話を断り不意にしたことがある。

 おかげで「マオ・インダストリー」からリオが派遣されてきて、僕の店を潰しにかかってきたり……というか、まだ彼女の攻勢は続いていたりする。けど、まぁ、それは置いておこう。

 

「トウマ君、僕は契約店になれって話だったら断るからね」

「あはは、分かってますって。店長がフランチャイズが嫌いなのは。そういう話だったら、とっくに俺が玄関先で追い返してますよ」

 

 まぁ、確かに。トウマ君は僕よりも腕っぷしは強いしね、昔店を狙っていた地上げ屋レベルでなければ簡単に追い返してくれそうだ。もっとも彼が暴力的な手段に訴えることは、余程のことがない限りありえないのだけれど。

 でもフランチャイズの話でないとなると……なんだろう? 無条件で店を支援してくれる。そんなおいしい話が転がり込んでくるはずがない。棚から牡丹餅なんてそうそうないものだ。

 

「なんでも協力する代わりに、この店の工房で商品開発をしたいそうですよ。少し臆病そうな印象の美人のお姉さんが言っていました」

「商品開発……ねぇ。財閥にパン工房がない、とかかな? ……いやぁ、それはないよね」

「ですね。でも悪い話じゃなさそうだったんで、その女性には店内で入って待ってもらっていますよ」

 

 もう店内に来ているのでは、この店の責任者として合わない訳にはいかない。来客を許可なく入れるのは少し感心しなかったけど、話ぐらい聞いてみてもいいかもしれないな。

 

「トウマ君、少し話をしてくるよ。パン作りの引き継ぎよろしくね」

「了解です!」

 

 僕はパン練り途中で粘ついていた手を洗う。少し膨れた生地をトウマ君に任せると、財閥から来たという女性に合うために店内に向かった。

 

 

 

      ●

 

 

 

 お客のいない店内の片隅で。

 

「エリアの特産物になりそうなパンを作れ……?」

「は、はい」

 

 銀髪のスーツを着こなしたその女性 ── シオニー・レジスから、僕はことの顛末を聞かされた。せまい店内に飲食スペースはなく椅子も机もないため、申し訳ないが立ち話になっている。

 彼女の話を要約するとこうだ。

 

「エリアには特産品的な食べ物がないから、それを作って売り出そうと……地域の活性化にもつながるし、エリアと財閥の宣伝にもなる。成功すれば、この店の宣言にもなる……そういうことですよね?」

「はい。そ、創作するのはエリアの特産品なので、財閥が商品開発しても地域に密着したものにはならないもので……」

 

 シオニーさんは僕の目から視線を少し外して言った。

「アクシオン財閥」は巨大だ。財閥が特産品と称して商品開発するのは容易いことなのだろう。けど、地域の特色を反映させた商品を作るなら、その土地の住民に依頼をする方が良いと判断したのかもしれない。

 

「で、僕の店に白羽の矢が立った、と?」

「そ、そうなんです。そ、それにこの『ヒカワ屋』は評判はそれなり…………」

 

 やはりシオニーさんは僕の顔を見ずに小さな声で喋る。語尾の方はなんと言っているのか聞き取れない程の小ささだった。

 トウマ君の言うように臆病そうな印象を受ける女性だった。動物に例えるなら羊だろうか? 狼が皮を被っている……なんてことはさすがに無いだろう。強気なリオと足して2で割れば、丁度いい具合になるのかもしれないね。

 

「ど、どうでしょう? 仕事、受けていただけますか……?」

 

 伏せ目がちにシオニーさんが質問する。

 どうしよう……なんて、迷う必要なんてないように僕には思えた。

 シオニーさんの持ちかけた話はフランチャイズ契約ではなく、エリアの特産品になるような商品の開発だ。協力を申し出てくれているのだから、開発に必要な費用ぐらいは負担してくれるはず。

 それに特産品の開発が成功し、それがウケれば、エリアは活性化するし僕の店の宣伝の一翼を担ってくれる商品となるはずだ。

 良い事づくめ。僕のパンが人のためになり、自分の成功にもつながる。そう、悪いことなんて1つもない。

 内心で既に決断はできていたけど、すぐに返答すると儲け話に喰いついたみたいで嫌だった。

 

「……シオニーさん」

「は、はい」

 

 なので、少し間を置いてからシオニーさんに声をかけると、彼女の肩がビクンと跳ねた。驚かせるつもりはなかったけど……まぁ、いいや。

 

「依頼、ぜひ受けさせてください。エリアのためになるなら、精一杯頑張らせてもらいます」

「あ、ありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとうございます。これからよろしくお願いします」

 

 僕は綺麗に洗った右手をシオニーさんに差し出した。

 これから一緒に特産品を開発していくのだ。挨拶し握手するのは、互いの関係のために当然の礼儀だと思った。

 シオニーさんは僕の手と顔を交互に見比べたあと、

 

「えっと、こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 声が少し引きつっていた。でもそこは流石社会人。浮かべられた微笑に嫌味さは感じられず、手を差し出して、迷うことなく僕の手を握り返してきた。

 蛇足だけれど、僕の手は無駄に温かい。パン作りをするには最適な血流豊富な温かい手には、シオニーさんの手は冷たく小さく感じられた。

 これからシオニーさんと協力して、特産品になるような商品を考えなくっちゃな ──

 

 

── ドカーンッ!!

「ヒッ!」

 

 

 僕の決意を揺らがせたいのか、店の扉が大きな音と共に蹴り開けられた。

 あぁ、またか……僕にとっては慣れたシュチュエーション。でも慣れないシオニーさんは大いに体を強張らせて、扉を蹴り開けた女の子の方を凝視する。

 

「おーほっほっほ、久しぶりねリョウト君!」

「リオ……はぁ、また君か」

 

 扉を蹴り開け、店の中に侵入してきたのは僕の幼馴染にして、道路を挟んだ向かいに立っているおにぎり専門店「マオ屋」の店長 ── リオ・メイロンだった。

 リオは艶のある黒髪に強気な釣り目、チャーミングなおでこが可愛らしい女の子。でも少し変わった性癖の持ち主のため、事あるごとに「ヒカワ屋」を潰そうと突っかかってくる。

 意気揚々な彼女の手には1枚のチラシが握られていた。見るまでもない。どうせまた会社の金に物を言わせた、僕の店を困らせるためのキャンペーンに違いないのだから。

 

「はぁはぁ、リョウト君の困った顔が見たいから、今回はおにぎり全種類50円均一アンド次回来店時に使える50円引きチケット配布キャンペーンを行うわよ! どう? 困るでしょ、ハァハァ」

 

 暴挙だ。なんというか、もう、暴挙だ。

 50円引きチケットってことは、次回来店時に使えばおにぎり無料ってことじゃないか。キャンペーンの内容が書かれているチラシを握り締めたリオは、顔を紅潮させて荒い息をしていた。

 なんて言おう。僕の幼馴染は変態なんです。

 超ドS、それも僕に対してだけ。昔から僕の困ることをするのが大好きで、年々その性癖は悪化の一途をたどり、今では僕の困った顔を見て恍惚する始末。

 勘弁してほしい……無意識なのか条件反射なのか、僕は表情は困っていたらしく……

 

「ああ、いいわぁ! リョウト君の困った顔はやっぱり最高ね ── ん?」

「……はぁ、今度はなに?」

 

 リオの言葉尻が途切れたので不思議に思い、どうせまたロクでもないことだろうと決めつけ、ため息交じりに彼女を見た。

 紅潮していたリオの顔が一変して青ざめていた。プルプルと体を震わせ、手に持っていたチラシが地面に落ちる。視線は僕の方、それも手の方に注がれていた。

 僕とシオニーさんの手が繋がっている。もちろん、握手的な意味で。

 

「だ、誰よ! その女はぁ!!!」

「ヒ、ヒィ ──── ッ!?」

 

 今度は噴火したマグマの如く顔を紅潮させ、リオが絶叫した。その剣幕にシオニーさんが手を離して尻もちをつく。あわあわ言いながら、壁際に逃げていく。

 僕はと言うと、リオに襟首を掴まれて締め上げられた。

 

「どういうこと!? ねぇ、どういうこと!? リョウト君の婚約者は私でしょ!? それなのに、私の知らない女と仲良さそうに手を繋いで……! 説明してよ!!」

「ギ、ギブ……! と、とりあえず落ち着くんじゃリオ……!」

 

 つい方便が出てしまった。説明しろと詰め寄るリオだったが、僕のクビを締めたまま広いおでこに血管を浮き上がらせていた。話を聞いてくれる雰囲気ではない。あと、僕はリオの婚約者でもなんでもない。

 

「分かったわ! 可愛そうなリョウト君、きっとあの女に騙されているのね! きっと私の知らない弱みを握られているに違いないわ!」

 

 聞き捨てならないセリフを吐いて、リオはシオニーさんを睨みつけた。

 

「この……泥棒猫!」

「ごめんなさい! ごめんさない!」

「あ、謝っちゃダメ……余計に誤解される……!」

 

 頭を下げるシオニーさん、今にも噛みつきそうなリオ、そして首を絞められ意識が遠のいてきた僕。

 まずい。血が流れそうな状況になってきた……なんとかしないと……と、そのときだった。

 

 

── ドバーンッ!!(扉が開く音)

「ひぃぃ」

 

 店の扉が勢いよく開かれ、シオニーさんをビビらせながら新たな闖入者が現れた。

 

「御機嫌よう、貧乏人の諸君! 話は全部聞かせてもらったよ!」

「誰よ、あなた!?」

 

 店に入ってきたスーツ姿の男性に、リオが猛犬注意よろしく噛みついた。しかし男性は顔の面が厚いのか、リオの矢のような視線を物ともせず応える。

 

「僕の名前はカルロス・アクシオン・Jr.、金持ちさ!」

 

 男の名前はカルロスと言うらしい。それにしてもファミリーネームがアクシオンといおうことは、もしかして……?

 

「カルロス……アクシオン財閥の社長……?」

 

 僕の考えはリオが代弁してくれていた。

 

「あなたがリン社長が言っていた、金持ちを鼻にかけた嫌味なすっとこどっこいね!」

「世の中の99.9999%は金で解決できると思っています。そのつもりで接してください」

「すっとこどっこいで間違いないようね! 『マオ・インダストリー』の敵が、いったい何の用よ!?」

 

 リオはカルロスが財閥のトップだと分かっても、一歩も引かずに捲し立てた。

 

「おぉ、怖い。お嬢さん、頼むからそんなに怒らないでくれよ。僕はこの状況を収集するために、とびきりにいいアイデアを持ってきただけなんだから」

 

 カルロスの口の端を上がっていた。カルロスはリオの誤解を解いてくれるらしい。僕はシオニーさんとただ握手をしていただけなんだ。リオの誤解を解いてくれるのなら願ってもない話だ。

 僕を指さして、カルロスは続けた。

 

「勝負さ、料理勝負。この店長くんはオデコちゃんのものなのか、それともシオニーちゃんのものなのか、それで争っているのだから勝負して決めればいい。エリアの特産品になるような料理を作って勝負すればいい。勝負に勝った方が彼の所有者という寸法さ」

「え? ちょっま ──」

「いいわ! 受けて立とうじゃないの!!」

 

 瞳に炎を滾らせたリオの咆哮に僕の言葉は遮られた。

 

「つまり、よりエリアの特産品になりそうな商品を作った方が勝ちってことね!」

「オデコちゃん、理解が早くて助かるよ。

 試合会場は我が『アクシオン財閥』が責任を持って用意しよう。審査員も僕の知り合いで最強の美食屋を呼ぼうじゃないか。さらに勝った方の商品を特産品として、我が財閥が販売することを約束しよう」

 

 料理勝負はカルロスが取り仕切るつもりらしい。勝利の特典は作った特産品の商品化、ここだけ聞けば願ってもない提案に聞こえる。

 聞こえるのだけど……

 

「望むところよ! 待っててねリョウト君、もちろん婚姻届と印鑑持ってね!」

「ちょ、ちょっと待って、リオ ──」

「さぁ、グズグズしていられないわ! 早く商品を開発しなくっしゃ!」

 

 誤解の解こうとする僕の言葉は、またリオの大声によって掻き消された。彼女は意気揚々とおにぎりキャンペーンのチラシを投げ捨てると、店を飛び出していった。

 僕の所有権がどうたらと、カルロスは料理勝負の提案時に言っていた。

 リオは僕にとってはドSのいじめっ子だけど、根は素直で真っ直ぐな良い女の子なんだ。所有権の話が、カルロスが冗談半分で言った言葉だとしても、絶対に真に受けたに違いない。

 つまり……この料理勝負に負けてしまうと……僕は ──

 

 

── 人生の墓場に埋葬決定!?

 

 

 い、嫌だ。嫌すぎる。

 

「じゃ、勝負は1週間後ということで!」

 

 カルロスが手を立てて挨拶し、颯爽と去ろうとする。

 

「待って! カルロス……さん、社長! 今のはなにかの冗談ですよね!?」

「冗談? あっはっはっは、店長くん、君こそなにを言っているんだい。これはミリオネアジョークではないよ。それに ──」

 

 カルロスはバチンッとウィンクを決めて、僕に言った。

 

「こんな面白そうな話、見逃す手はないよね!」

「待って! お願い! 待て! 待てと言っとるんじゃ、このすっとこどっこい!」

「あっはっはっは、Bye!」

 

 カルロスは僕の手をすり抜けて店の外に飛び出した。慌てて後を追う僕。

 見慣れた店前の道路にカルロスの姿はなく、買い物帰りの奥様方や買い食いしている学生の姿しか見当たらなかった。

 カルロスはあっという間に姿を消していた。金持ち恐るべし……

 

「あ、あの」

「店長、どうしたんすかぁ?」

 

 店前で棒立ちになっていた僕を、シオニーさんとトウマ君が眺めていた。

 さ、最悪だ。カルロスは状況を掻き回すだけ掻き回して、姿をくらました。

 リオは事情を説明しても、おそらく聞き入れてはくれないだろう。

 以前リオに渡されて、押入れの中に封印したままのあの紙(・・・) ── 婚姻届が脳裏にかすめた。しかも未記入欄は1つもなく、あとは僕の印鑑を押すだけという墓場への片道キップだ。

 訳も分からぬ内に、僕の精神は崖っぷちへと追いやられていた。

 

「や、やるしかない……! シオニーさん、トウマ君、急いで特産品パンの創作を始めよう!」

「は、はい」

 

 僕の大声にシオニーさんはビビリ、

 

「お、流石は店長。やる気満々ですね!」

 

 トウマ君は歯を見せて笑っていた。おそらく、今の状況を「やぁぁぁってやるぜ!」的な熱血展開だと勘違いしている。……違うんだよ、トウマ君。僕の今の心情は、自暴自棄気味に「やぁってやるわ!」と叫びたい気持ちなんだよ。

 店内に戻ると、リオが投げ捨てたおにぎりキャンペーンのチラシが目に入る。

 

【超お得! おにぎり全種類50円均一セール実施中! さらに次回から使える割引券もプレゼント!】

 

 なぜだろう? 涙がでちゃう。だって、いつも崖っぷちなんだもん。

 工房に戻り、特産品パンの創作に取り掛かることにした。

 

 

 

       ●

 

 

 

 料理試合までの1週間、僕はシオニーさんとトウマ君と一緒にアイデアを出し合った。

 

「ねぇ、エリアの特徴ってなんだと思う?」

 

 僕の言葉にトウマ君が応える。

 

「高校が多いとかですかねぇ?」

「特産品に使えそうな食材ってあったっけ?」

「うーん、ないような気がします」

「というより、統計ではエリアで農業は行われてません。畜産も漁業もです」

 

 シオニーさんが社長秘書らしく資料を読み上げて教えてくれた。とても様になっていると思う。

 しかし農業が行われていないというのは初耳だ。商店街に並んでいる商品は、全てエリア外から入手しているのだろうか? 入手先の土地名も知らないし、イメージも沸かなかった。なぜだろう?

 

「じゃあ特色を出せる食材はないってことですね。店長、こうなったらインパクトですよ。理由なんてこじ付けで、無理やり特産品にしてしまえばいいっすよ」

「高校が多いだけに、コーコーパンとか?」

「それだけだと、インパクトが今一つですね」

「エ、エリアには商店街とか繁華街、住宅街に企業と色々ありますし、いろいろ混ぜてみたらどうでしょう?」

 

 シオニーさんからの意見。エリアってなんだか「ごちゃ混ぜ」な印象が強いし、まぁ、納得できる意見だった。

 と言うわけで採用。

 

「どうせ地元の食材はないんだから、秋の味覚を取り寄せて沢山使ったらどうでしょう?」

 

 これはトウマ君の意見。

 秋の味覚と言えば、サンマにマツタケ……あとはクリなどだろか……? 

 まぁ、採用。

 

「でも、サンマもマツタケも冷えると美味しくない食材ばっかりだね」

「じゃあアツアツで食べられるように、肉まんみたいにその場で蒸すタイプにしたら?」

「はい、採用」

 

 何だかんだで、あっと言う間に1週間は過ぎてしまった。

 こうして、僕とシオニーさんとトウマ君のアイデアを詰め込んだ特産品パンは出来上がった。

 ふわふわの肉まん生地で、サンマとマツタケさらにクリと秋の味覚をふんだんに「ごちゃ混ぜ」にした餡を包み、蒸し上げた……その名も「カオスまん」……。真っ黒な餡(・・・・・・)を白い生地が包み込み、美しい白と黒のコントラストがまるでパンダを連想させ……って、

 

「こ、こんなパンで大丈夫かな……?」

「大丈夫だ、問題ない!」

 

 トウマ君は自信満々だけど……本当に?

 僕は時を巻き戻せないので、完成させた「カオスまん」を片手に、カルロスの用意した試合場へと向かうしかなかった……不安だ。

 

 

 

      ●

 

 

 

 僕たちはシオニーさんに案内されて「アクシオン財閥」の本社ビルへと案内された。

 エリアの繁華街にあるビル街、その中でも一際高い高層ビルが「アクシオン財閥」の本社のようだ。巨大企業にありがちな美人の受付嬢に「アポは取ってますか?」と聞かれたりもした。巨大企業の本社に足を運んだ経験はないので、僕の方はひたすら低姿勢。その受付嬢は後でシオニーさんの一声で青ざめていたけど、少し申し訳ないことをしてしまったかもしれない。

 僕らは案内されるままに、本社ビルの一室へと向かった。

 装飾の施された大きな扉を開け、中に入る。

 

「誰かが言ったぁ! 私の記憶が確かなら ──」

 

 スピーカーからカルロスの声が聞こえてきた。

 室内ではカルロスがマイクを持って立つステージが見えた。ステージの前には食材が山のように積まれた円卓があり、その両サイドには鏡のように磨き上げられた調理台。まるで一昔前にテレビ放送されていた「料理の超人」のようなスタジオが、僕の眼前には広がっていた。

 高いテンションのままカルロスがマイクを握り締めて言う。

 

「── 一口飲めば即昇天ものの味の、脅威の健康ドリンクを自作する女子高生がエリアにはいる! 名前は、なんだったか……?」

「待っていたわよ、リョウト君!」

「リオ!」

 

 対面の調理場には既にリオがいた。腕を組んだまま僕たちの方を睨んでくる。

 

「観念するのねリョウト君! 今日こそ決着をつけてあげるわ! そして、あなたはここに印鑑を押すのよ!」

 

 リオが1枚の紙きれを突き出して言う。

 薄い1枚の紙に、僕とリオの名前、そして色々なことが書き込まれている。用紙の一番上には、少し太い大きめの文字で「婚姻届」と書かれていた。

 

「リ、リオ! まさか、それは2枚目の……!」

「安心してリョウト君! その女の魔の手からすぐに解放してあげるからね!」

「ひっ……!」

 

 ナイフのようなリオの視線に、シオニーさんが怯えて肩を震わせた。助手として付いてきたトウマ君はやる気満々といった具合で鼻息が荒い。カルロスはこの状況を面白がっている様子だし、僕の周りに普通の人はいないんじゃないかとさえ思えてしまう。

 どうせ聞いちゃくれないだろうけど、弁明ぐらいしてみようと思う。

 

「聞いてくれリオ。僕とシオニーさんは、君が思っているような関係じゃないんだよ」

「大丈夫よ! ほら、ここにリョウト君の印鑑は用意してあるわ! 心配無用よ!」

「心配だよ! なんでリオが僕の印鑑持っているの!?」

「もちろん愛の力よ!」

 

 くっ、物怖じせずに言い切るなぁ。言われているこっちが恥ずかしくなるけど、印鑑の入手法が気になってそれどころじゃない。誰かリオに「愛するがゆえに見守る愛もある」と教えてやってくれないだろうか?

 

「さぁ! 結婚を賭けて、いざ尋常に勝負よ!」

 

 試合の趣旨は「エリアの特産品」を作ることなのに、副賞が前面にしゃしゃり出すぎな気がするなぁ。

 

「あっはっは、オデコちゃんは準備万端のようだね。店長くんは準備は大丈夫かな?」

「ま、まだ心の準備が ──」

「よっしゃあ、いつでも行けるぜ!!」

 

 勝負とか対決といった展開が好きそうなトウマ君が、先走って吠えた。

 実に活き活きとした表情をしている。彼の好物は「努力・友情・勝利」で間違いないだろう。

 

「こ、困るよトウマ君。僕には印鑑を押すかどうかが掛かっているんだよ。まだ心の準備が ──」

「あぁん、いいわぁ。リョウト君、今の困った顔、とってもそそるわ!」

 

 ド畜生! 僕から困ったオーラが出ていたらしく、リオが頬を染めて身をよじっていた。僕の周りには変人しか集まらない定めなのだろうか……?

 

「OK。では早速勝負を始めようじゃないか!」

「あの、カルロス……社長、僕の話聞いてました?」

「もちろんさ! でも僕は暇なんだ。貧乏暇なしの逆バージョンだよね。審査員の先生ももう呼んであるし、面白そうなことは早く始めようじゃないか!」

 

 スピーカーで拡張されたカルロスの叫びが、激しく僕の鼓膜を震わせた。あーあ、何となく察しは付いていた事だけど、カルロスは人の言葉に耳を傾けるような人じゃないようだ。

 僕は観念して、持ってきた「カオスまん」と調理器具を台の上に広げた。

 

「では、先行はおにぎり専門店『マオ屋』にしようかな! 準備はいいかな、オデコちゃん?」

「いつでもいいわよ!」

 

 カルロスの声に応えて、リオが調理台の上にランチパックを取り出した。

 僕もそうだけど、店の方で粗方の調理工程を済ませてきえてあるようだ。リオはランシパックから三角おむすびを取り出すと、調理台に併設されていたコンロでに金属製の網を敷き、その上で焼き始めた。

 おにぎりの色は茶色 ──── 焼き上がるにつれて食欲を刺激するスパイシーな香りが会場に漂い出す。馴染みのある匂い。リオのおにぎりが茶色なのは、おそらく素材にカレーを使っているからだろう。

 焼き上がったおにぎりをリオが皿に盛った。

 

「できたわ! 特製焼きドライマーボーカレーおにぎり!」

 

 リオが勝ち誇った笑顔を浮かべている。

 白いお皿の上に乗った茶色いおにぎりも、いい匂いがして正直かなり美味しそうに見えた……けど。

 

「マーボーカレーって……ねぇトウマ君、どこかで聞いたことない?」

「そう言われると……聞いたことがあるような、ないような……版権的に問題ないんでしょうかね?」

「なに言っているの! このおにぎりは私のオリジナルよ!」

 

 僕とトウマ君の会話が聞こえたのか、リオが凄い剣幕で怒っていた。

 

「似た名前の料理があるかもしれないけど、それは単なる偶然よ! …………分かったわ! 私がチャイニースだからバカにしてるんでしょう!? チャイニースはすぐに真似するからって……酷いわ! 風評被害よ!」

 

 リオは目じりに涙を浮かべ、肩を震わせていた。

 な、なんだか悪いこと言っちゃったかな……? 苦労して作った料理をパクり的な言い方されれば、誰だって腹が立つだろうし……マーボーカレーだって耳に覚えがある程度のうろ覚えの料理だし。

 

「ご、ごめんよリオ。風評被害は少し違う気がするけど、そのおにぎりは、間違いなくリオのオリジナルだよね」

「そうよ! この焼きドライマーボーカレーおにぎりは私のオリジナルなんだから!」

「あ、あれ?」

 

 リオは元気よく宣言していた。その目には涙なんて浮かんでいない……まさか嘘泣き? まさか、ね。

 しかしリオのおにぎりは美味しそうだ。パクリ云々は置いといて、あのおにぎり相手に僕らの「カオスまん」に勝ち目はあるのだろうか?

 僕の杞憂を余所に、カルロスは楽しそうにマイクを振るう。

 

「さぁ、次は店長くんの番だよ。2人の料理が出そろってから、審査員の美食屋の王様(・・)には入ってきてもらうからね」

「王様? ……ま、まぁいいや。トウマ君、蒸し器出してくれないかな」

「はい、店長!」

 

 トウマ君に運んでもらっていたコンロで使えるタイプの蒸し器に、水を注いで火にかけた。蒸し器から湯気が上がり始めた頃に、持ってきていた「カオスまん」を中に入れて蓋をした。

 蓋をして数分待つ。いい具合に蒸し上がった頃合いに取り出して、皿に盛りつける。

 

「これが『ヒカワ屋』特製、特産品パン『カオスまん』じゃあ!」

「店長、口調戻ってますよ」

「おっといけない」

 

 蒸し上がった興奮で地方の方便が出てしまっていた。

 でも蒸し上がりは完璧だ。これならリオのおにぎりにも対抗できる……かな?

 

「よぉし、2人とも料理は出来上がったようだね。じゃあそろそろ、審査員の美食屋に来てもらおうかな」

 

 僕らの料理が出そろったのを見て、カルロスは携帯電話を取り出した。ボタンを押すと誰かに電話をかけ始める。

 数回コールした後に相手が出たらしく、「あ、もしもし僕だけど ──」とにこやかに会話をしていた。

 ふとそのとき、僕の頭に疑問符が沸き上がる。

 

「ねぇ、トウマ君」

「なんすか、店長?」

「美食屋って聞いたことある? 僕、聞いたことがないんだけど」

 

 トウマ君は少し考えてから返事をしてくれた。

 

「俺もないですね。大方、美食家の間違いじゃないですか? 美味い物食べて料理を批評する人ですよ、きっと」

「だよねー。きっとフードファイターみたいなものだよねー。ご飯食べてお金貰えるなんて職業が、そうそうあるわけないもの ──」

「──オウ様、早く来てよ。……え? お土産? 狩って(・・・)たら遅くなったって? 僕が金持ちだからって、そんなに気を遣わなくてもいいのに ──」

 

 あれ? なんだか嫌な予感がするぞ。

 狩る……ってなんだろう? 背中をしゃくとりむしが這っているような悪寒が走る。鳥肌が立つ。僕らがこの勝負会場に入ってきた扉の向こうから、凄いものが近づいてきているような錯覚を覚えた。

 ズン、ズン、と大男が地面を踏みしめる音が近づいてくる。

 

「もう着いたって? あはは、じゃあ早く入りなよ ──」

 

 カルロスが朗らかに電話に応えた刹那。

 

 

── ドガァアアアァンッ!!

「ヒィィッ?!」

 

 会場入り口の扉が吹き飛んで、試合を黙って見ていたシオニーさんが悲鳴を上げた。

 扉を固定していた留め金が千切れていた。大きな足跡が付いた扉は空中高く飛ばされ、全体に細かな亀裂が走る。扉は地面に落下することなく、無数の木片に砕かれパラパラと床に降り注いだ。

 な、何事だろうか……? 

 恐る恐る扉がなくなった入り口を振り返ると、そこには山のような大男が立っていた。

 大男の顔は、見上げなければ僕の視界に捉えることもできない程……優に2mは超える巨躯の大男の肩には何か持たれていた ── トカゲの尻尾の先のようなもの……良く見れば肉だ。3m程の長さで切り取られた尻尾を引きずって、炎のような赤い髪を掻き毟りながら大男は会場内に入ってくる。

 筋骨隆々で、金棒でも持たせれば赤鬼にだって見えなくもない……

 

「よおっ、久しぶりだなあカルロス!!」

 

 大男がカルロスに挨拶した。

 

「やぁ、久しぶりだねガイオウ様」

 

 カルロスも旧友にでも会ったかのように朗らかに挨拶をする。

 

「そのトカゲの尻尾みたいなのがお土産かい? それが君の探していた幻の食材【ゲールティラン】なのかな?」

「いいや違うぜ。【ゲールティラン】も俺の記憶も、まだ見つかってねえ。こいつは【ディノダモン】って言うオオトカゲよ! 捕獲レベル98ぐらいだったかなぁ、まぁ、俺のナイフで1撃だったがな。がはははっ!!」

 

 大男 ── ガイオウが【ディノダモン】とか言うトカゲの尻尾の先を離すと、ずずぅんと音を立てて床に落ちた。

 3m程ある尻尾の根元の部分は、巨大で鋭利な刃物で切り落とされたような断面をしていた。尻尾部分でこの大きさなのだから、本体はもっと巨大に違いない。

 

「て、店長……なんなんですか、この人?」

「ぼ、僕が聞きたいよ……でも普通ではないよね……?」

 

 少なくとも、ガイオウは美食家には見えない。

 赤い髪の毛も手入れされず、無造作に伸びているし……やはり赤鬼という表現が一番しっくりくる。ちなみにシオニーさんは、調理台の下に隠れてハムスターみたいに震えていた。

 

「よお! で、どこだ! 俺に喰ってもらいたい食材ってのはよぉ!!」

「そこだよ、ガイオウ様。そこの2人だよ」

 

 カルロスが僕とリオを指さしてくる。……え? まさか僕たち食べられちゃうの?

 ガイオウと目が合う。

 威圧感がハンパじゃない。現に調理台の下に隠れているシオニーさんは、目もあってないのに気に当てられて、泡を吹いて気絶していた。

 

「なんだい、あまり喰いではなさそうだな」

「ひ、ひぃぃ……!」

 

 こ、怖い。対してガイオウは僕の方を見て舌なめずり。も……もう駄目だ。僕はこのまま食べられてしまうんだ……と。

 僕とガイオウの間に、トウマ君が立ち塞がった。

 

「て、店長を喰おうってのか! この化け物め! 『教導隊』の一番弟子、このトウマ・カノウが成敗してくれる!!」

 

 トウマ君が愛用しているリストバンドを外した。

 金属音を響かせて落下し、バンドは床にめり込んでいた。前々から思っていたけどどれだけ重いの、このリストバンド……?

 

「なんだお前?」

「問答無用! ミナキ、俺に力を貸してくれ! 師匠たちとの長く辛い修行で会得した、バイト神拳の奥義『バイト獄兎け ──』

「てい」

 

 ガイオウがトウマ君の額にデコピンを1発。

 

「ぐはぁ!!」

 

 トウマ君は悶絶して倒れ、気絶した。

 無様に崩れ落ちる。ガイオウは「なんだ、こいつ?」と呟いたあと、視線を僕の方に……いや、冷静になってよく見ると、視線は僕にではなく調理台の上にある「カオスまん」の方に向けられていることに気付く。

 ガイオウが「カオスまん」を指先でつまみ上げた。

 

「おい、これは普通に喰えばいいのか?」

「え……? は、はい。普通の肉まんと同じように食べてもらえば……」

「そうか。では、いただきます」

 

 礼儀正しく手を合わせた後、ガイオウは「カオスまん」を大きな口の中に放りこんだ。むしゃむしゃと咀嚼する。信じられないことだけど、カルロスの言っていた通り、ガイオウは勝負の審査をしに来たようだ。

 

「う……」

 

 食べ終わったあと、ガイオウの口からうめき声が上がった。ふるふると体を震わせている……ど、どうしよう……口に合わなかったのかもしれない。

 

「だ、大丈夫ですか? マズイのだったら吐き出してもらっても ──」

「う、美味い! 美味いぞおおおおおおおおおぉぉっ!!!」

「── びぃやああっ!!」

 

 突然、ガイオウが大声を上げた。叫び声が衝撃派になり、目に見える光線のようになってガイオウの口から噴き上がった。

 会場内を衝撃派が襲う。ガイオウの一番近くにあった料理台がひっくり返り、下に隠れていたシオニーさん共々、僕は吹き飛ばされた。

 壁にしこたま背中を打ちつけられ、シオニーさん、僕の順で気絶しているトウマ君の上に折り重なった。

 

「なんだ、この喰い物は! サンマの油分、マツタケの香り、クリの甘さが餡という形で混然一体となり、俺の口の中を駆け抜けて行ったぞ! この小さな饅頭の中に秋の味覚が詰め込まれている。

 一見、まったく絶対合いそうにない素材でこれだけの味を生み出すとは……あまりの美味さに、俺のリヴァイブ・セルも喜びに打ち震えているぜ!! やるな、小僧!!」

「げほげほ……あ、ありがとうございます」

 

 自信なかったのだけど、ガイオウは「カオスまん」を絶賛してくれていた。背中を強打したためムセて、呼吸がしにくい。

 喜んでくれるのはいいのだけど、毎回こんなリアクションを取られたのでは体が持たない。

 

「ごちそうさまでした ── さて、対戦相手の品を喰うとするか……む」

 

 ガイオウの声に顔を上げると、向かい側のリオの調理台も僕のと同じようにひっくり返っていた。疑いようもなく、ガイオウの「うまいぞぉ」衝撃派のせいだ。

 リオは目を回していて、彼女のおにぎりは……かわいそうに、調理台の下敷きになっていた。

 

「あちゃあ、やっちまった。対戦相手の料理がダメになっちまったんだ、今回の勝負の判定は無理だな」

 

 ガイオウが申し訳なさそうに眉をひそめていた。

 

「まったく、ガイオウ様はしょうがないなぁ」

「すまねえな、カルロス! あんまり美味かったもんでつい興奮しちまったぜ! 許せ、がはははは!!」

「いいよいいよ、良い暇つぶしになったから。あっはっはっは!」

 

 カルロスとガイオウの笑い声が会場内に木霊した。調理台も吹っ飛び、立っているのは彼ら2人だけだ。倒れている面々で気を失っていないのも僕だけだろう。

 死屍累々な会場内でひとしきり笑いあった後、ガイオウが言った。

 

「しかしどうすんだ? 今回の勝負は、特産品を決めるためのものなんだろう。決着つかず仕舞いじゃあなぁ」

「そうだねぇ。僕としては、あの2人の料理のどちらでもいいと思っているんだけど。ガイオウ様はどうなの? 店長くんの料理を食べただろう?」

「あの饅頭な。あぁ、美味かったなぁ。

 だがあの味は俺みたいな上級者向けだな。一般人にゃ、味が複雑すぎてウケねえんじゃねえかなぁ」

 

 うぐ……ガイオウが痛い所を突いてきた。

 あのパンは色々な旨みを「混ぜて」詰め込んだだけのパンだ。旨みがごちゃごちゃだから名前は「カオスまん」……商品としては売り出せないだろう。

 ガイオウの言葉は続く。

 

「それに素材も良くない。その辺で手に入る粗悪品で調理したんだろうな。もっといい素材を使えば、小僧のパンはもっと美味くなる」

「でもガイオウ様、仮にいい素材で作っても、あの饅頭だとウケないんだろう?」

「まぁな」

「じゃあ、どうすんの?」

「俺に考えがある」

 

 ガイオウは凶悪に顔を歪めると、床に投げ捨てていた【ディノダモン】の尻尾を持ち上げた。そして視線を僕の方に向けてくる。し、死んだふり死んだふり……。

 

「あの小僧、腕は確かだな。饅頭の生地も美味かった。問題は具だな。もっといい素材でシンプルな味のパンを作れば、小僧のパンはきっとウケるはずだ」

「ふーん……で?」

「分かんねえかなぁ、カルロス。この【ディノダモン】の肉を使って、小僧にパンを作らせるんだよ。きっと美味いぞぉ。

 【ディノダモン】なんて食材、どこも卸してねえからな。特産品にしても問題ねえだろう」

「いいねそれ! よし、それで行こう! 決定!」

 

 死んだふり死んだふり……。

 なんだか僕の意志を無視して、話が進行していっている気がする。それも、取り返しのつかない方向に……。

 目を閉じて死んだふりをしている僕の方へ、足音が2つ近づいてきた。大きい方はガイオウ、小さい方はカルロスだろう。

 

「おい小僧。タヌキ寝入りなんてせずに良く聞け。お前にこの【ディノダモン】の肉を売ってやるよ、特別割引価格で1億円だ。それでこれからも仕入れをしてやる」

「…………は?」

 

 いけない。つい声が出てしまった。

 死んだふりがバレテしまったので、仕方なく顔を上げると、カルロスが満面の笑みを向けていた。

 

「代金は僕が肩割りしておくからね。無金利、ある時払いの催促なしだよ。僕はなんて良心的なんだろう、まさに金持ちの鏡だね!」

「ちょ、ちょっと待って……」

「俺はホットドックがいいなぁ」

「僕はやるなんて一言も……」

「俺は、ホットドックが喰いたいなぁ!」

 

 ガイオウ……様が凶悪な笑顔で注文してきた。

 ライオンのタテガミにも似た赤い髪をざわめかせ、上がった口端からは白く鋭い犬歯が覗いている。さらに槍のように鋭い眼光。加えて恐ろしいまでの気迫……果たして、ガイオウ様の注文を断れる人はこの世に居るのだろうか?

 居るのなら紹介してもらいたい……僕は黙って首を縦に振ることしかできなかった。

 

「どうだいガイオウ様、カルロス社長のプロデュース大作戦は大成功だね!」

「おうよ! 早くホットドックで1杯やりてえぜ!」

 

 散々たる状況の会場に2人の笑い声が響く。

 これにて大団円。めでたしめでたし……なら、どれだけ良かっただろう……こうして僕は取り立てはないものの、1億円という多額の借金を背負うことになったのだった……ド畜生……。

 

 

 僕の名前は氷川(ヒカワ) 諒斗(リョウト)。

 エリアの商店街にある小さなパン屋「ヒカワ屋」で、今日も僕はパンを焼く。

 あの子を見返し、借金を返すその日まで。

 いつかあの紙を彼女に渡せるその日まで。

 頑張れ、僕。負けるな、僕。

 粉骨砕身 ── 魂を込めたパンを、今日も僕は焼き続ける ──……

 

 

 

 

ここは高校がなぜか密集する土地『エリア』。

『エリア』には個性豊かな人間が沢山いる。

今日も、楽しく愉快な仲間達がアホな事件を巻き起こす。

次はどんな事件が起こるのだろう……それは誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 商店街にある小さなパン屋「ヒカワ屋」に、キョウスケ・ナンブは訪れていた。

 腹が減っては戦は出来ぬ。キョウスケは競馬場に出陣する前の腹ごしらえのため「ヒカワ屋」に足を運んでいた。

 焼き立てのパンの良い匂いが食欲をそそる。左手に取り皿、右手にトングを持ち、キョウスケは商品を物色する。

 

「む……一際、良い匂いのパンがあるな。あれか?」

 

 他のパンと桁違いの魅力で、そのパンはキョウスケの食欲を引き付けていた。

 見た目はただのホットドックだ。

 商品名は「ガイオウ様のホットドック」、キョウスケは迷うことなくトングを伸ばした。

 だが! そのとき!

 

「な、なんだ! この値段は!?」

 

 キョウスケの目がカッと見開かれた。

 商品の値段を表すタグ……そこに描かれたOの数が尋常ではなかったからだ!

 

「『ガイオウ様のホットドック』、1個10000円……」

 

 キョウスケはなにも買わずに「ヒカワ屋」を後にした。

 そして戦場へ ──── 黄金色に輝くパンに挟まれた赤く太いフランクフルト……「ガイオウ様のホットドック」は、まるで店内の主のように売れ残り続けていたと言う ──……。

 

 

 

 

 

 数時間後、キョウスケが討死したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 




<キャラ紹介>

リョウト・ヒカワ:「ヒカワ屋」店主、高校には通っていない。太陽の手を持つ。リオとは幼馴染で、いつも迷惑をかけられているが実は好き。最近になって、自分の周りには変人ばかりだと気づき始めるも時既に遅し、1億円の借金を負わされる。

リオ・メイロン:マオ社の社員、高校には通っていない。リョウトの困った顔に興奮する変態で、昔から将来はリョウトを養ってやろうと思っている。根が真っ直ぐのため、一度信じると誤解を解くのはとても大変。実はドSの変態。

トウマ・カノウ:「ヒカワ屋」で働く史上最強のフリーター。教導隊で毎日しごかれているためドンドンタフになっていく。最近、バイト真拳なる拳法を編み出してみたりしている。

カルロス・アクシオン・Jr.:「アクシオン財閥」の若社長。奇抜ば経営手腕で短期間でトップ企業の一員に上り詰めた。暇を持て余すと、シオニーちゃんに無茶ブリをしたり、彼女の前で机をバンする悪癖がある。金持ちを鼻にかけた嫌な奴のため、特定人物に「すっとこどっこい」と呼ばれている。

シオニー・レジス:中小企業「リモネシア」の社長だったが、「アクシオン」財閥に吸収され、今はカルロスの社長秘書をしている。あだ名のシオニーちゃんはカルロスが勝手に命名(実は25歳なのでちゃん付けされる歳ではない)。超が付くほどのビビリで、そのビビリっぷりはSたちの嗜虐性を刺激し、彼女の前で机をバンしたいというSなファンが地味に増えているという。

ガイオウ様:美食屋なる謎の仕事をしている謎の巨漢。威厳と威圧感はたっぷり。身体能力も高く、手刀(ナイフ)で巨大トカゲのしっぽも一刀両断できる。実は記憶喪失で、【ゲールティラン】という幻の食材を食べば記憶が戻ると思い込んでいる。好物はホットドック、某味オーみたいにそのうち巨大化もできるかもしれない。外見に見合わず実はいい人。彼を首相にすれば日本は世界を征服してくれるはずだ。



<次・回・予・告>

キョウスケ「もうすぐ2011年の秋アニメが始まるな」

エクセレン「そうねぇ」

キョウスケ「『僕は友達が少ない』もアニメ化するそうだぞ」

エクセレン「そういえば、以前の次回予告で『はがない』のパロをやるみたいなことを書いてあったわね」

キョウスケ「そうなんだ。だから、余裕があったら次回は『はがない』の話を書くかもしれないそうだ」

エクセレン「まぁ、また予告無視する可能性大だから、気長に待っててねん♪」

キョウスケ「というわけで、『僕は友達が少ない』と『トリコ』もよろしく!」



今回は提供いただいたネタ「リオが浮気と勘違いして猟奇的な彼女に」という一文が元ネタとなっております。
私の執筆速度が遅いので、今更書いた感はありますが、できるだけ提供されたネタを元に話を作っていきたいと思っています!
こんな拙作ですが、生暖かい目で見守ってもらえると嬉しいです。
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