スパロボ学院 ~ OGだよ、全員集合! ~   作:北洋

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<注・意・事・項>
絶賛、キャラ崩壊中です。
バイト君のイメージが崩れるのが嫌な方は、見ない方がいいかもしれません。
それでも良いというかたは、どうぞ


史上最強のフリーター ~あの子のハートをゲットせよ!~

── 好きな人が出来ました。

 

 俺の名前はトウマ・カノウ。

 去年、OG高等学院を卒業したばかりのピチピチの19歳だ。

 俺の夢はごく普通。

 ごく普通に恋をして、ごく普通に家庭を築き、ごく普通に死んでいく。

 特別なものなんていらないね。

 人間、普通が一番さ。

 

 そんな俺にも好きな人が出来ました。

 俺は定職には付かずフリーターをしています。

 今までに108のバイトを経験し、「バイトの達人」の異名を取る俺はその日宅配便のバイトをしていました。

 大型トラックの免許も持っているので、バイト先ではそれなりに重宝され得意先への配達も任されるぐらいです。

 その日、俺は宅配先のパン屋「ヒカワ屋」で彼女に出会ったのです。

 

「いらっしゃいませ!」

 

 栗色の毛を纏めた可愛らしい女の子だった。

 

「あ、注文してた小麦だ。ありがとうございます、運送屋さん」

「あ、あの……」

 

 店の奥から印鑑を持ってきた彼女に見とれていた俺だったが、受け取りの印を受け取るときに、勇気を振り絞って聞いた。

 

「お、お名前は……?」

「え? ミナキ、ミナキ・トオミネです」

 

 天使のような笑顔で女性 ── ミナキさんは応えてくれた。

 それは、もしかしたらただの営業スマイルだったのかもしれない。

 だが俺はその笑顔に両手を上げて降参してしまっていた。

 

── ミナキさん、貴女のためなら死ねる!!

 

 配達が終了したら、俺はバイトを辞めた。

 俺のもう一つの異名、それは「転職の達人」だ。

 目指すは「ヒカワ屋」、待っていてくれミナキさん!

 

 

 

 スパロボ学院 ~OGだよ、全員集合!~

 史上最強のフリーター ~あの子のハートをゲットせよ!~ 

 

 

 

 なぜか高校が密集する地域『エリア』。

 そんな地域にも商店街はあり、手作りの焼き立てパンを売り物にしている小さなパン屋はどこにでもあるものだろう。

 「太陽のパン ヒカワ屋」はそんな個人経営の小さなパン屋だった。

 

「お願いします、雇ってください!」

 

 俺は三つ指ついて、店長のリョウト・ヒカワに願い出た。

 場所は店の奥にある応接室だ。

 リョウト店長は腕を組みながら、困ったなあ、と呟いていた。

 

「雇ってあげたいのは山々なんだけど、うちの店も経営が苦しいんだ。

看板娘のミナキさん一人で精いっぱいなんですよ」

「そこをなんとかお願いします、店長!」

 

 俺は応接室の机に額をぶつける勢いで頭を下げた。

 伊達に「転職の達人」と呼ばれている訳ではない。

 今までリョウト店長よりも態度が頑なだったオーナーにも、自分を売り込むことに成功してきた俺だ。

 それに今回は、ミナキさんと一緒に居られる権利が掛かっている。

 相手に自分が魅力的だと思わせなければ……

 

「給料なんて雀の涙程で構いません! 

俺、パン職人になりたいんです! 店長の元で修業出来れば、それで俺は本望です!!」

 

 別にパン職人になんてなりたくない。

 取り合えず嘘八百を並べて、リョウトの人情に訴えかけてみた。

 リョウトはお人よしそうだから、これで簡単に折れるはずだ。

 案の定、

 

「そこまで言われては仕方ないですね」

 

 とリョウトはあっさり答えた。

 よし、やった! 言質を得て、俺は心の中でガッツポーズを取る。

 ミナキさんのハートをゲットするための第一関門突破ぁ!

 

「でも、僕の指導は厳しいですよ」

 

 まだリョウトは、少し踏ん切りが付いていないような表情を浮かべていた。

 ここはリョウトを持ち上げて、いい気分にさせておかなくては。

 俺は目を輝かせながら言った。

 

「望むところです、先生!」

「せ、先生か」

 

 イヤー照れるなー、とリョウトは頭を掻きながら頬を染めていた。

 よし、これで店員には確実になれるはずだ。

 あとは地道に修業して技術を身につけ、その過程でミナキさんと親密になってやるぞ。

 そう俺が考えていた矢先だった。

 

「きゃああああっ!!」

── ガシャーーーン!

 

 店内の方からミナキさんの悲鳴と、なにかが割れる音が響いてきた。

 

「な、なんだ!?」

「くそッ、またあいつらか! トウマ君はそこで待っていてくれ」

 

 リョウトが血相を変えて応接室から飛び出して行った。

 待っていろ、と言われたからにはここで待機しているべきだろう。

 就職前から店のトップの指示に逆らっていては悪い印象が定着してしまうからな。

 そう、いつもの俺なら、そうしていただろう。

 

「ミナキさん!」

 

 だがミナキさんの悲鳴が聞こえてきた以上、素直に待機してなんかいられない。

 俺はソファから立ち上がり、取り合えず応接室の扉から店内の様子を窺うことにした。

 そこにはショーケースを破壊して、焼き立てのケーキ類を数個まとめて口に頬り込んでいる漢がいた。

 超肥満体 ── そう言って差し支えない程、腹が前と横に飛び出している。

 

「ぐふふふ、いい加減に店を『ミザル組』に明け渡せ、店長よ!」

 

 肥満体の男がリョウトに脅しをかける。

 その横にいた痩身の男が舌を出して吼えた。

 

「ひゃっはー、『ミザル組』に逆らってタダで済むと思ってんのか? この変震のアルコと ──」

「── 重震のマグナス様に敵うと思っているのか、ぐふふふ」

 

 痩身の男、アルコはショーケースをさらに蹴り砕き、肥満体の男、マグナスは店内のケーキとパンを喰い荒している。

 

「お願いだ、止めてくれ!」

 

 店長のリョウトの悲鳴が店内に木霊するが、2人の暴徒は店内を荒らし回る。

 ミナキさんは店の隅でうずくまり、震えていた。

 

── 野郎、許せねえ!!

 

 外道どもめ、ミナキさんを怖がらせるとは神が許しても、俺が許さん!

 学生時代に空手部で鳴らした腕をここで披露してやろうか。

 そうも思ったが、俺は今はまだ店員ではない。

 店員でもない俺が、店のゴタゴタに手を出すわけにはいかなかった。

 ものの数分で、店内のパンを全て喰らい尽くしたマグナスが高笑いを上げる。

 

「ぐふふふ、これに懲りたらさっさと『土地の権利書』を差し出すんだな」

 

 土地の権利書……どうやら、マグナスたちは地上げ屋のようだ。

 地上げとはなにか、分かりやすく説明しようと思う。

 

 もしある地域に巨大なデパートを作る計画が立ち上がったとしよう。

 資金も施行業者決定し、あとは工事に着工するのみ。

 そう言った時に邪魔になるのが、「ヒカワ屋」のような小規模経営の店が着工予定地に店や家を構えていることだ。

 工事はしたいが、店が邪魔。

 ならばその店の権利書を取り上げて、潰してしまえばいい……それが地上げだ。

 

 つまりマグナスたちは地上げを請け負っている業者、否、組と言っていた以上はヤクザなのだろう。

 巨大な暴力にリョウトは顔をうつ向け、拳を震わして耐えていた。

 

「んーー、その拳はなにかなー、リョウトちゃーーん」

 

 マグナスがぎょろりと眼を見開き、リョウトを見た。

 

「殴りたかったら殴っていいんだぜぇー。

ただし、俺たち修羅に手を上げることがどういう意味を持つかは分かってるよねぇーー?」

「うう……」

 

 巨大なタラコ唇を醜く歪ませて、マグナスがリョウトに顔を近づける。

 リョウトは目を閉じて、それに耐えていた。

 

「……ちっ、つまらん」

 

 マグナスが舌うちした。

 

「こんな店、俺様の巨霊奔烈(きょれいほんれつ)で一撃だってのによ! 殴ってくれなきゃ正当防衛になりゃしねえぜ、ぐふふふ」

「根性無しめ!」

 

 取り巻きのアルコまで吐き捨てるように言った。

 ……外道め、許せねえ……!

 しかし俺がここで出て行っても奴らに直接的な暴力を振るう切っ掛けを与えるだけだ。

 歯を噛みしめて耐えると、歯の擦れる音が俺の頭に響いてくる。

 できることなら俺の空手で殴り倒してやりたい。

 

「次のときまでに権利書を用意しておくんだぞ、ぐふふふ」

 

 マグナスはそう言って、アルコと共にドアを蹴り開けて去って行った。

 後に残されたのは、無惨に破壊されたショーケースとマグナスが喰い尽くしたパンの残りカスぐらいだった。

 

「リョウト店長……」

「ああ、よかった、無事だったんだねミナキさん」

 

 リョウトが店の隅にへたり込んでいたミナキさんを助け起こした。

 

「ごめんよ、怖い思いをさせて……」

「いいえ、私は大丈夫です。悪いのは皆、あいつら『ミザル組』です!」

「その通りだ!」

 

 ミナキさんの声に俺は思わず応接室から店内に飛び出していた。

 突然の俺の登場にミナキさんは、

 

「貴方は……」

 

 と驚いた表情を浮かべていた。

 そして俺のことを、

 

「誰、だったかしら?」

「ズコッ!」

 

 覚えていなかった。

 俺はドリフよろしく、盛大にずっこけてしまったがすぐに気を持ち直した。

 まあ、覚えていなくて当然だろう。

 以前に会った時、俺はただの運送屋の兄ちゃんだった訳だからな。

 これからだ、これから俺の事を知っていってもらえばいいのだ!

 

「初めまして、俺の名前はトウマ・カノウと言います! 今日からここで働かせてもらいます、以後よろしく!」

「あートウマ君、そのことなんだけど……」

 

 店長のリョウトが言いにくそうに口を開いた。

 

「見ての通り、僕の店はヤクザの地上げのターゲットにされているんだ……小さいながら、一生懸命頑張って来たつもりなんだけど、最近嫌がらせが酷くなってきてね……」

 

 それは先ほど見ていたので知っている。

 確かにあれは酷い。

 店長やミナキさんに直接的暴力は加えていないが、店の営業が立ちかなく程の妨害を加えている。

 おそらく今日見たものなど氷山の一角だろう。

 リョートの顔色がそれを証明していた。

 

「いいんだよ、別に。やっぱり働くのを辞めたいと言うんなら、僕は止めはしないよ……ミナキさんも、辞めるのなら今が辞め時かもしれないよ……」

「店長……」

「なに言ってるんですか!!」

 

 弱気なリョートの言葉に俺は思わず声を荒げた。

 ここをミナキさんが辞めてしまったら、働く意味が無くなってしまうじゃないか!

 あ、勿論、悪党の嫌がらせに屈してはいけないという意味も込めての言葉である。

 

「店長、俺を雇ってください! 

俺、学生時代に空手やってました! 全国経験者です!」

「トウマ君……」

「今度、あいつらが来たら俺が返り討ちにしてやりますよ!」

 

 俺の言葉に感銘を受けたのか、リョウトは目頭を押さえてしまった。

 ……しかし、学生時代に空手をやっていたのは本当だが、全国に行ったというのは嘘だ。

 嘘も方便ではないが、こう言っておけば店長やミナキさんも少しは安心するだろう。

 ま、俺は普通の19歳だからな。

 普通に空手やっているだけ全国行けたら苦労しない。

 リョウトは目じりを拭いながら顔を上げた。

 

「ありがとうトウマ君、僕に○パンマンを焼ける技術があれば……」

「店長、それは言わない約束ですよ」

 

 約束なんてしてないけど、調子よく俺は言った。

 

「これからは俺が、この店も、ミナキも護ってみせます!」

「ありがとう、これからよろしく頼むよトウマ君」

 

 リョウトが差し出してきた手を俺は握り返した。

 しかしそんな事は余所に、俺は横目でミナキさんの様子を窺う。

 ミナキさんは笑っていてくれた。

 どさくさに紛れて名前を呼び捨てにしたが、気づいていないのか、それとも気にしていないのか……とにかく作戦の第二段階、彼女の名前を呼び捨てにするは成功だな。

 これからミナキと呼び捨てで関わり、親密度上げていくことにしよう。

 

「よろしくね、トウマ」

「こちらこそ、ミナキ!」

 

 名前で呼ばれた俺は満面の笑みでミナキに答えた。

 実に問題なく、二人の仲を深めていけてる気がするぞ。

 我が人生、順風満帆かな。

 普通の恋人同士になれるよう普通に頑張っていこうと思う。

 

 

 

      ●

 

 

 

 俺が「ヒカワ屋」雇われて3日が過ぎた。

 マグナスたちは他にも地上げ中の店でもあるのか、それとも単に忘れているだけなのか、「ヒカワ屋」にはやって来なかった。

 その間、俺がやっていたことと言えば、リョウトの手伝いである。

 要するにパン焼き。やってみるとこれが意外と難しいんだ。

 

「材料を計量して、しっかり手で捏ねるんだ」

「はい、先生」

 

 小麦粉に水と塩、それにイースト菌と無塩バターを混ぜ合わせて捏ねる。

 この捏ねる時間の長さによってパンの固さが変わって来るそうだ。

 軟らかくしたいときは長く、固くしたいときは短く。

 小麦粉に含まれるタンパク質のグリアジン・グルテニンが水分を加えてこねることによって粘りと弾力に富む物質になり、これをグルテンとなるそうだ。

 グルテンの膜がイーストの発生する炭酸ガスを包み込むことでパン生地はふくらむ……。

 ……まあ、要するに気合いをこめてパンを練れって言うことだな。

 努力と根性も加えて練りまくってやろうと、足を使おうとしたら怒られた。

 うどんは足で練るのになにが違うというのだろうか?

 ちなみに隠し調味料はミナキへの愛さ。

 

「そしたら一次発酵させて、その後ガス抜きだ」

「はい、先生」

 

 ガス抜きとは、パンの中に発生した炭酸ガスを抜く作業のことらしい。

 ガス抜きした生地を成形し、あとは焼けば完成だ。

 ホントはベンチタイムっていう時間を置かないと生地が扱いにくくなるそうだが、どうせ俺は素人だから関係ないね。

 普通に気合いを込めて、食パンを焼く型に生地を入れて焼成した。

 

── チーンッ

 

 オーブンのタイマーが鳴り、中から茶色の食パンが誕生する。

 一つ千切って食べてみる。

 市販の物とは歯ごたえも、香りも違う。それに自分で作れば思い入れもあって美味しい。

 こんな素晴らしい店を潰そうとは、許せんな「ミザル組」!

 

「トウマ君筋がいいよ! 

もっと練習すれば、一人前のパン職人になる日も遠くないね!」

「ありがとうございます、先生」

 

 リョウトには申し訳ないが、俺はパン職人になる気などさらさらない。

 ミナキと交際できれば、それでいいのだ。

 俺とリョウトは焼きあげた食パンたちを店先に並べるためにトレイへと並べ始めた。

 そのときだった。

 

「きゃあああっ!!」

「ミナキ!?」

 

 店先から耳を劈くような悲鳴が聞こえてきたのは。

 俺とリョウトは急いで店内の様子を見に行くと、そこにはマグナスとアルコがおり、店内のパンに暴食の限りを尽くしていた。

 

「ぐふふふ、やはりここのパンは旨いのう。権利書を見ながら喰えば、さぞかしもっと旨いことだろう」

「げへへ、その通りですなマグナス様」

 

 下衆な笑みを浮かべ、パンを握り潰しながら口に運ぶマグナスに俺は怒りを覚えた。

 焼いてみて分かる。

 パン焼きは大変だ。苦労して作ったパンをあんな風に食べられては、パンたちが可哀想だ!

 

「待て、外道!!」

「ああーん」

 

 巨漢マグナスが俺の方を向き直った。

 

「なんだ小憎?」

「ミナキとパン、あとリョウトの店に悪さをする悪党め! 

このバイトの達人、トウマ・カノウが成敗してくれる!!」

 

 俺は厨房から店内に飛び出し、マグナスの真正面に立った。

 ジェネ高時代に俺が修業した空手、その必殺の正拳突きを俺は放った。

 下手な小細工などない、ただ相手をぶっ飛ばすためだけの技だ。

 

── ズブゥゥゥッ

 

 俺の正拳はマグナスの腹に命中し、見事な快音を……響かせなかった。

 それどころか手ごたえがない。

 まるで軟らかいクッションの中に拳を突き込んだみたいに衝撃が分散され、マグナスの体に拳が到達することは叶わなかった。

 マグナスはさも当然と言った表情でパンを一口含み、そのまま呑み込んで俺を見下ろしていた。

 

「ぐふふふ、このマグナス様は拳法殺しの体ぁー」

「なにを!?」

 

 俺は慌てて拳を引き抜いて、連続で正拳突きをお見舞いしたがマグナスは顔色一つ変えなかった。

 ならば、と胴回し回転蹴りを放つ。

 

── ポヨンッ

 

 しかし弾力のあるマグナスの腹の肉に、俺の攻撃は全て無効化されてしまった。

 拳法殺しの体……肥え太った贅肉で拳撃の威力を全て殺してしまうのか!

 そんな、俺は空手しかやっていなかったのに……どうすりゃいい!?

 

「ぐふふ小憎、修羅に歯向かった以上、覚悟はできているんだろうな?」

「うっ、ぐ ── ッ!!」

 

 マグナスが張り手をかましてきた。

 もの凄い衝撃と共に俺は弾き飛ばされ、受け身も取れずに壁に激突した。

 声にならない悲鳴が俺の肺から絞り出され、壁に陳列されていたパンが俺の上になだれ落ちてくる。

 リョウトと一緒に焼いたパンが……畜生……!

 

「トウマ!」

「ミ、ミナキ……!」

 

 倒れた俺にミナキが駆け寄って来てくれる。

 こんな状況でなければ、諸手を上げて喜んでいるのに……。

 張り手一発で体仲が痛んで動けない。

 くそ情けない、俺は……無力だ……。

 

「ぐふふふ、俺様に手を上げた以上この店もお終いだ。

小憎、まずは貴様から血祭りにあげてやろう」

「止めて!」

 

 ノッシノッシ、と俺に近づいてくるマグナスの前にミナキが立ちふさがった。

 

「トウマはやらせないわ!」

「や、止めろ、ミナキ……!」

 

 危ないぞ、と声を出そうとした瞬間に俺はむせ込んでしまう。

 駄目だ、マグナスは相手が女の子でも情けを掛けたりするような男じゃない。

 このままでは、

 

「ならば小娘、貴様から始末してやるわ、ぐふふ」

「やめろおおおおおぉっっ!!」

 

 ミナキが危ない!

 動け俺の体よ、今動かないでいつ動く!?

 痛みがなんだ! 敵の強さがなんだ! 俺はミナキを護ると決めたんだ!

 こんな馬鹿げた非日常的な存在はさっさと倒して、俺は普通にミナキと恋愛をするんだ……しかし、俺の想いも空しく、膝が笑っていて立つこともままならない。

 

「くそお!」

 

 なんて無力なんだ、俺は。

 力が……敵を倒す力が欲しい!

 もう普通でなくったっていい。ミナキさえ護れればそれでいい!

 

「あ、そぉーれ」

「やめろおおおお!!」

 

 マグナスが巨大な掌を振り上げた。

 ミナキの頭めがけてそれが打ちおろされそうになった、そのときだった。

 

── カラーン、カラーン……

 

 店の入り口の扉についた鐘がなった。

 誰か店に来たようだ。

 銀髪の厳つい表情をした男性だった。

 銀髪男が言う。

 

「すまんが、栄養価の高いパンは置いているか? 

妻が妊娠中でな、栄養があって旨いパンを土産に買って帰りたいのだ」

「ゼンガーさん!!」

 

 マグナスの前に立っていたミナキが、まるで救世主でも現れたかのような視線を銀髪男に向けていた。

 ゼンガー……そう呼ばれた男がミナキを見る。

 

「おお、ミナキ、バイトしているパン屋とはここだったのか? 

そうだ、乳の出が良くなるパンなどはこの店に置いてないだろうか?」

「ゼンガーさん、お子さんまだ生まれてないでしょう!?」

「む、そうだった」

 

 ミナキの言葉に頭をポリポリと掻くゼンガー。

 なんだ、このゼンガーという男は……平和なご時世に腰に帯刀し、まるでタイムスリップして来た侍のように見える。

 

「なんだー、貴様は? 俺様を無視して話をしてんじゃあねえぞ」

 

 マグナスがゼンガーの方を振り向いた。

 ゼンガーがマグナスを一目見て、呟いた。

 

「なんだ、このデブは?」

「デッ……!」

 

 マグナスの声が詰まり、表情に影が注した。

 こめかみのピクつくマグナスを尻目にゼンガーは、

 

「それよりミナキ、栄養価のあるパンをだな……」

「ゼンガーさん、危ない!」

 

── ズバゴォォン!!

 

 ミナキの忠告とほぼ同時に、マグナスの強烈な張り手がゼンガーを叩き飛ばしていた。

 俺と同様に壁に衝突し、パンが散乱する。

 空手経験者の俺が立ち上がれないぐらいだから、この男ももう動くこともできないはずだ。

 一方、マグナスは顔をタコのようにして怒っていた。

 

「俺様はデブじゃねえ! ポッチャリ系だ!」

「痛いではないか」

 

 マグナスの一撃を受けたはずのゼンガーは肩の埃を払い除けると、何事もなかったかのようにパンを拾い集めだした。

 ウソだろ……あの張り手を受けてケロっとしてやがる。

 こいつ、本当に人間か?

 そう思っていたのはマグナスも同じだったようで、

 

「なんだ、テメエは!?」

 

 狭い店内に響き渡る声で吼えた。

 

「こうなれば、俺様の奥義巨霊奔烈(きょれいほんれつ)をお見舞いしてくれるわ!」

 

 マグナスの周囲にピンク色の煙のようなモノが立ち上がり始める。同時に元々の巨体がさらに大きく見える程に、威圧感が俺にも分かる程に膨れ上がっていった。

 

「ゼンガーさん!」

「ん?」

 

 落ちたパンをトレイの載せているゼンガーにミナキが言った。

 

「あの人、悪者です!」

「悪、だと?」

 

 なににも動じなかったゼンガーの目つきが変わった。

 

「悪は斬る」

 

 マグナスとは別の刃のような威圧感が俺の背中をすり抜けた。

 ゼンガー……こいつ、何者だ……そんな、俺の思考の隅に、

 

── チンッ

 

 と言う、鍔鳴り音がわずかに耳に残った。

 

「それよりミナキ、母体に良いような健康素材を使ったパンはないか?」

「俺様を無視してんじゃねえ!!」

 

 自分を無視して、健康談議を始めようとするゼンガーにマグナスが激怒した。

 もはや苦笑いを浮かべているミナキに話しかけるゼンガー、彼は振り返りもせずに言った。

 

「ふむ、気づぬか。見かけどおり鈍い奴のようだ」

「なんだ、と ──」

 

 突然マグナスの語気が途絶えた。

 なにごと、と俺がマグナスの体を見ると左肩と右腰骨を繋ぐようなラインで、マグナスの肉に一本の線が奔っていた。

 文字通り目にも留らぬ神速の抜刀、そして逆袈裟切り。

 マグナスは目を大きく開いて、小刻みに震えていた。

 

「テ、テメエ、いつの間に……!?」

「安心しろ、竹光だ」

「お、オ ・ ノーレ!」

 

 妙な断末魔を上げ、マグナスは白眼を剥いて気絶した。

 ひい、とアルコは悲鳴を上げ、マグナスを引きずって退却していった。

 

「生まれてくる子どもが可愛らしくなるようなパンはないか?」

「ありません!」

 

 しつこいゼンガーにミナキが声を荒げていた。

 なんなんだ、コイツ、等……普通じゃねえ……そこで俺の意識は遠のいていく。

 

「トウマ!」

 

 ミナキの声が聞こえた気がした。

 

 

 

      ●

 

 

 

 結局あの後、俺は「ヒカワ屋」の営業時間終了まで気絶していた。

 既にゼンガーの姿はなく、その場に居づらくなった俺は早々に店を引け、『エリア』にある公園の滑り台で空を見上げて黄昏ていた。

 青髪の小さい謎生物と3つ目の仮面をつけた変なおっさんがいたが、特に話しかけられることはなかった。

 

「あー、俺って駄目だなー」

 

 本当にそう思う。

 俺の夢は普通に恋愛して、普通に家庭を持って、普通に死ぬことだ。

 特別なことなど必要ない。

 そう思っていた。

 でも大切な人を護れない普通になんの意味があるだろうか?

 あの時自分は力を求めていた。

 結局、普通のままじゃ大切な人を護る力なんて手に入らないのかもしれない。

 

「トウマ」

「ミナキ?」

 

 声に誘われて視線を下げると、滑り台の下にミナキがいた。

 

「今日はありがとうございました」

「え、なにを……?」

 

 俺はミナキの言葉に耳を疑った。

 自分は礼を言われたのか? なにもできなかった自分が?

 俺が目を白黒させていると、ミナキが笑って答えてくれた。

 

「今日、必死に戦ってくれたじゃない。勇気あったし、カッコよかったよ」

「ありがとう……ミナキ」

 

 君にそう言ってもらえるだけで、俺は救われるよ。

 

 

── 好きな人ができました。

 

 

 眼下で笑みを浮かべている栗毛の女性です。

 今日は無理だったけど、これからは俺がミナキを護っていきたいと思う。

 でもそれには力が必要で、俺は普通でいたいけど、ミナキを護るために普通を捨てなきゃダメだと言うのなら……。

 俺は喜んで普通を捨てようと思う。

 俺は思わず呟いていた。

 

「力、かぁ……」

「あら、短期間で強くなる方法なら、私知ってるわよ」

 

 なんとミナキから予想外の言葉が飛び出してきた。

 

「ただし、生き残れればですけどね」

 

 不吉なことをミナキが言う。

 正直俺は普通に生きたい。

 だからそう言った厄介事には関わりたくない。

 だが「ミザル組」の奴らはまた「ヒカワ屋」にやって来るだろう。

 ……ミナキを護るためには強さが要る。

 ならば俺は行こう、イバラの道を。

 

「俺行くよ、ミナキ」

「ふふ、それでこそ私の見込んだ男よ」

 

 ミナキが笑ってくれた。

 俺は滑り台を滑り降りる。

 

「こっちよ」

「ああ!」

 

 ミナキは俺の手を取ってくれた。

 彼女の温もりが俺に伝わって来る。 

 俺は君と一緒ならどこへだって行けそうだ。

 君と一緒なら、自分の限界だって超える事ができそうだ。

 

 俺たちは手を繋いで駆け出した。

 一体何処へ行くのだろう?

 それは彼女だけが知っている……ま、いいか、今幸せだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし世の中そんなに甘くない。

 俺が地獄を見るのは、まさにこれからであった。

 

 ── つづく ──

 

 




<登場キャラ紹介>
トウマ・カノウ:去年ジェネ高を卒業した19歳のバイトの達人。普通の一般人。虚言癖あり。惚れた女のために今日も頑張れ、トウマ君!
ミナキ・トオミネ:パン屋でバイトする女性。トウマの思い人。実家に秘密がある?
リョウト・ヒカワ:「太陽のパン ヒカワ屋」の店長。学校には行っていない。太陽の手を持つ。
ゼンガー・ゾンボルト:悪・即・斬の銀髪いぶし銀。何をしている人かは不明。愛妻家で嫁さんに良いものを探しては買ってきている。
マグナス:デブ修羅。拳法殺しの肉体を持つがかませ犬。
アルコ:雑子A。



<次・回・予・告>

エクセレン「イエーイ、とうとうOGsにまだ出ていないキャラまで出しちゃったわよん♪」

キョウスケ「むう、大丈夫なのか作者?」

エクセレン「大丈夫でしょ! その内OG3とかで登場するだろうし!」

キョウスケ「ならいいが……しかし俺たちの出番が全然ないな」

エクセレン「あらーキョウスケ、それは仕方ナッシングよん。スパロボってキャラが多いんだもん。もっとアニメで活躍すれば出番も増えるわよ」

キョウスケ「そういうものか?」

エクセレン「そういうもんなの。じゃあ、張り切って次回予告行ってみよう!」


キョウスケ
「俺の名前は ── 以下略 ── だ!
ミナキに連れられたトウマはある所に案内された!
なんと、そこはミナキの実家であった! まだ付き合ってもないのに、親に紹介なんて恥ずかしいといい気になるトウマ!
ところがどっこい、そうは問屋が卸さない!
次回、スパロボ学園「史上最強のフリーター ~その名は○○○、達人の集う場所!~」!
どんな相手だろうと、打ち貫くのみ!!」

エクセレン「焼き立て○ャパンもよろしく!」



ホントはマグナスを○斗奥義でトドメを刺したかった、北洋です。
sibugakiさん、暗黒ミカンさん、三国同盟さん、Disさん感想ありがとうございます!
次回もスパロボ史上一普通の一般人の話が続きます。
トウマの熱さはヤバいですね。
早くOG3に登場してほしいです!

それにしてマグナスの元ネタはどう考えてハート様ですね。
ではでは。
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