浅井初と記憶喪失少年が幻想入り   作:門矢心夜

10 / 10
第十話「最終決戦 VS悪霊・博麗霊夢」  最終回

 ――――私も、元々は人間だった。

 最初から、霊として生まれたわけではない。

 

 何故、自分の肉体を捨ててまで霊になりたかったか。

 自分より強い人間が、憎かったんだ。

 人間の里で、寺子屋で文武を習い、友人と語り遊ぶ日々。

 それが自分の求めていた理想の生活だった。

 だが、自分の周りの人間は。

 子供はおろか、親や大人までもが生まれつき超能力を持つ自分を差別した。

 

 超能力で、一人残らず殺してやろう。

 そう思ったこともあったが。

 自分の超能力は、とても他人を殺せるようなものではなく。

 強い能力を持つ人物の肉体に憑りつき、その者の力を強制的に分けてもらうことで、絶大な力を手に入れることが出来るというものだった。

 つまり、『他人に憑りつき、その他人の力で無限に強くなれる程度の能力』。

 だがそれは、自分の肉体を捨て、霊体にならなければ全く意味を成さない能力である。

 

 幻想郷では、霊になる為に必要なものが一つある。

 死ぬ前に、強い憎しみと怒りを感じること。

 だから、わざと殺してもらった。

 いずれそいつらに、復讐する為に。

 

 こうして霊となった自分は、人間の里を出て、各地を回り。

 様々な人間や妖怪、吸血鬼に憑りついては、その者の力を奪わずに自分の物にし、憑りついた人物を自分の配下にしていった。

 博麗神社で、博麗の巫女と出会う頃には、本来見えない筈の霊体が、博麗の巫女に見え、しかも触れられる程強大な力を手にした自分。

 博麗の巫女を倒し、その巫女の体を乗っ取った今も、自分は満足していない。

 

 自分は思うのだ。

 この復讐に、意味はあるのだろうか。

 いつまで続ける?

 気が済むまでか? いや、何人殺そうと気は済まないだろう。

 自分が配下にした人間も含めて殺すまでか? 自分ひとりになるまでか?

 

 本当に、望んだのは。

 そんなことじゃ無い筈だが。

 もう、自分に戻ることなど出来なかった。

 

◇◇◇

 

 ――――知っている。

 だから呼んだ。

 貴方を救う為に。

 あの人をこの幻想郷に連れて来たのは、他でもない貴方を救う為。

 あの人にしか出来ないと、自分は知っていたから。

 

 悪霊の心を知り、そして外の世界の人間を幻想郷に呼ぶ力を持つ唯一の人間は。

 そう、心で呟いた。

 

◇◇◇

 

「れ、霊夢ッ!」

「我ハ霊夢ニ非ズ。悪霊、ソレガ我の名ダ」

 魔理沙の問いに、悪霊はそう答える。

「悪霊ッ! 何故こんな事をしたんだッ!」

 赤い瞳を輝かせ、魔理沙を睨んで神の如く告げた。

「人間ヲ滅ボス、ソレ以外ノ目的ガイルノカ?

ナルホド。我ノ最後ノ敵ハ最モ憎ンデイル者カ。

ナア、異世界ノ雌猿」

 一瞬で私の能力を見抜き、大した力を持たないと判断したのか。

 私を異世界出身のただの雌猿として扱う悪霊に対し、言う。

「おいおい、最後の敵ってどういう意味だ?」

 悪霊は霊夢の右腕を掲げ、再び目を輝かせる。

 同時に、自分達が吹き飛ばされるくらいの膨大な気が、霊夢の体から放たれた。

 その気の一部は、空で収束し。

 それは一つの闇色の剣と化し、ゆっくりと、霊夢の袂に降りていく。

 悪霊は右腕を高く上げ、剣の柄を握る。

 先まではノイズが混じっていた声。

 だが、次の瞬間鮮明な、少年の声で悪霊は言う。

「私の力は絶対的。今や世界を滅ぼすなど容易いことなのだ

故に私の敵は貴女方が最後」

「随分と強そうな奴が最後に来たなあおい。

魔理沙、江代。頼むぞッ!」

「行くのぜッ!」「承知ッ!」

 博麗神社の石畳を踏みしめ、私はそのまま前に地を蹴った。

 魔理沙は箒で天を翔け、江代は死神の如く悪霊に近付く。

 悪霊は動かない。

 ただ冷徹な瞳を、此方に向けるのみ。

 相手の技は分からない。悪霊、自分の住んでいた世界のデータには無い。

 故に、先読みなども出来ない。

 出来ればシャイニングバレットなども使った方が倒しやすいのかも知れないが、今は霊夢の体を借りている状態。

 もし運が悪ければ、霊夢を殺してしまう。

 だから、霊夢を殺さずに倒すには一つ。

 どうにかして、霊夢と悪霊を分離させる。

 その為には、まず霊夢に気絶級のダメージを与えなければならない。

 

 私は両手のエアガンの引き金を、幾度も引く。

 星の弾丸が、複雑な軌道を描き、霊夢へと飛んでいく。

 霊夢――いや悪霊は眼を閉じ。

 開くと同時に言う。

「夢想封印ッ!」

 七色の光の弾が、霊夢から放たれる。

 星の弾丸はそれと衝突し、霧散した。

 

「はァァァァッ!!」

 江代は雄叫びを上げながら、木刀を悪霊の顔面に叩きつけようとした。

 悪霊はそれを、剣で受け止め、はじき返し。

 江代の腹に、蹴りを放つ。

「ぐおあッ!」

 鈍い音を響かせて、江代は真っすぐ吹き飛ばされた。

「江代ッ!」

「マスタースパークッ!」

 空から七色に輝く雷を放射する魔理沙。

 マスタースパークは、悪霊の剣によって弾かれる。

 

「くくく・・・・・・。満足したか?

次は私の番だッ!

断罪剣!」

 紫の剣を空に投げ、悪霊は剣を持っていた手を掲げる。

 紫の気が、剣に集まり。

 剣は音を立てながら、徐々に巨大化していく。

 

 巨大化が完了した剣は、紫の気弾を生成し。

 巨大な気弾が、私達に向かって投下された。

 それは地面に激突すると同時に、私達を包み、身動きを取れなくした。

 まともに動けない・・・・・・。

 

 そして大剣が、旋回を開始し。

 私の心臓目掛けて、その剣は勢いよく放たれた。

 あの攻撃は、確実に私に大きなダメージを与えるだろう。

 私は直観的にそう思った。

 もう動けない。もうダメだ。

 

 そんな時。

 遠方から一つの光が飛んでくるのが見えた。

 私の前を横切り、光は私達の前で、私達を庇おうとするように止まり。

 大剣はその光に触れて消滅し、光も同様に破砕した。

「もうやめてッ!」

 博麗神社の入口から、少女の声が聞こえた。

 黒髪黒目の、和服を着た美少女。

 東方のキャラの誰でもない。

「誰だ・・・・・・」

「私よッ! 蓮(れん)花(か)だよッ!

貴方の友達だったッ! 忘れちゃったのッ!」

「覚えておるわけ無かろう。邪魔だ、去れッ!」

 再び夢想封印。

 蓮花と名乗る少女に向かって放たれる。

 私は迎撃しに入ろうとしたが、まだあの紫の光の効果が続いており、満足に動けず。

 だが少女は、悪霊の闇の剣とは対照的な光の剣を作り、それを全て斬った。

 夢想封印は、蓮花の後方で爆散した。

「お、お前は?」

「私は蓮花。あの悪霊を名乗る人物の友人です。

最初で、最後の」

 悪霊の、友人?

「ちょっと待て。お前は人間だよな、それってどういう・・・・・・」

「あの人は元々人間なんです。だけど、生まれつき超能力を持ってしまった故に、彼は周りの人や親にまで見捨てられてしまった。

だから、わざと自分を殺してもらってまで、悪霊になろうとしたんです」

 

「よく知ってるな、人間。

そうだ。私はこの世で一番人間を憎む。

自分を傷付ける人間という下らない存在をやめ、ここまでやるのに私がどれほど苦労したと思っている?」

「だから私は、そんな彼の友人であろうとした。

孤独を癒す為に。彼の力になってあげたかった。

だけど、それは叶わない望みだった」

 

 かつては人間だったという悪霊と、少女がそう言う中。

 私は重い空気を壊すように呟く。

 

「悪霊。お前は間違っている。

確かに、人間はお前を認めなかったかも知れない。

だけど、それでもお前を認めてくれる人がいる。

お前がいなくなって、寂しいと思う人がいる。

お前が人を脅かす存在になって、悲しいと思う人がいる。

そんな人間の心を考えずに、バカな事やってんじゃねえよ」

 

「私は正しい。私の意思こそ正しい。

人間と妖怪と霊と吸血鬼(きさまら)は、私に殺されるべきなんだッ!」

 気を最大まで解放し、片手を掲げ。

 悪霊は気を集め始めた。

「見よ。私の最大最後の力を。

私のこの技はもう、スペルカードなどという低次元のものではない

貴様らに、我を止めるなど出来ん。

この技の闇に飲み込まれ、消えてしまえ」

 地面が揺れる程の力が、空に集まっていく。

「滅符『グングニル』」

 なるほど。

 その技にグングニルと名付けた意味を、私は悟った。

 当たれば無事で済まない攻撃なのだろう。グングニルとはそういうものなのだから。

 やがて、空に赤黒い静脈血のような色をした槍が出現した。

 槍はパチパチと、音を立てながら完成し。

 私に向かって放たれる前、悪霊は言う。

「避けられるものなら避けてみろ。

貴様もこの世界も助かりはしない」

 あの攻撃を防ぐ術はない。

 悪霊は言った。

 スペルカード技などという低次元のものではなく、世を滅ぼし、万物を殺す為の奥義なのだと。

 

 だが。

「初さん。私を、私を使って下さい」

「え?」

 蓮花の台詞に対し、疑問を抱いたが。

 次の瞬間、その意味が分かった。

 蓮花は私の両手に握るエアガンに触れると同時。

 一つの光となって、両方の銃に吸い込まれていく。

 銃は、黄金の光を帯び。

 私の心に語り掛けるように、蓮花は言う。

「一つ謝罪します。私や江代さん、そしてヒロさんをここに呼んだのは私です。

本当に申し訳ございません。

そして、あとは私をあの槍と、あの人に向けて放って下さい」

「ああ、分かった」

 私はまず、左手の銃を槍に向ける。

 槍は旋回しながら私に向かって、断罪撃より速く襲い掛って来た。

 それに向かって引き金を引く。

 金に光る星の弾丸が、槍に衝突し。

 槍を消し飛ばす。

 

 悪霊は驚いた顔をするが、それに構わず。

 次は右手の銃で、悪霊の心臓を狙う。

 再び金に光る星の弾丸が、一直線に放たれ。

 驚く悪霊を貫き。

 

 爆散した。

 

 悪霊は胸を押さえ、地面に崩れた。

「何故だ・・・・・・何故貴様らただの人間に、私をやれる・・・・・?」

 そのまま悪霊は、消えたのか死んだのかは不明だが。

 何も言わなかった。

 

 ・・・・・・。

 

◇◇◇

 

「あ、あれ?

私は何を・・・・・・?」

「霊夢!」

 魔理沙は霊夢にそう言いながら抱き付いた。

「霊夢ぅ・・・・・・」

「ま、魔理沙どうしたのよ?

あの二人は?」

 私と江代を見て、そう聞いた。

「私は浅井初。異世界人。

ここに来れば、外の世界に帰れるって聞いたから来たぞ」

「そっか。まだ混乱しっぱなしだけど、一応私のお仕事だし、やるわよッ!」

 

 ――――。

 そして外の世界に戻る為の儀式が始まった。

 始まって数分で、私は青い光に包まれた。

 この世界から消えてしまう前に。

 そう思って、私は魔理沙に言う。

「魔理沙、今までありがとな。

元気で暮らせよ」

「ああ。お前も体に気を付けるのぜ!」

 私は笑った。

 そのまま青い光は濃くなり。

 私を覆い、そして視界は黒く染まった。

 

◇◇◇

 

 私達が帰って来たのは、一月二日。

 もう正月に入っていた。

 誰もいない、夜の公園で私と江代は眼を覚まし。

 そのまま家に向かって駆け出す。

 

 家の門に手を掛け。

 私は、ゆっくりと開けていく。

 

 果てしなくリアルな、長い夢が終わった気分だった。

 

 終わり

 




松野心夜です! 浅井初の幻想入りシリーズ、これにて完結にございます!
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。