振り返ること無く全力で、私と魔理沙は紅魔館から逃げてきた。
霧雨魔法店をあとにして、一日以上が経つが、紅魔館での出来事のおかげで眠気は吹き飛んでいた。
今紅魔館では、ヒロがレミリアと戦闘している。
私はヒロに促され、ここまで逃げてきた所だ。
次の目的地は香霖堂。
紅魔館から南に位置する場所だ。
「てか、あいつは大丈夫なんだよな?」
「・・・・・・」
魔理沙の問いに、私は無言で頷く。
ここで喋ると体力を消費する。故に、走ることに全力を尽くし。
五時間後、玄武の沢付近に到達した。
「はぁ・・・・・・。ここまでくれば大丈夫だと思うのぜ・・・・・・」
「ああ・・・・・・」
岩に体を預け、私は眼を閉じた。
疲れた体は意識を容易く刈り取り、そのまま眠りにつく――――。
――――だが。
「寒いな・・・・・・」
寒さで意識が覚醒し、スマホの時計を見る。
幻想郷の時間は分からないが、日本は現在五時半のようだ。
今の幻想郷の季節は現代日本と同じく冬らしいので寒いのは承知の上だが、それにしては寒すぎる。
この気温で睡眠を取っていたら、最悪の場合死に至る。
「魔理沙!」
「ん・・・・・・?」
魔理沙も目を覚まし、再度周辺を確認する。
岩が凍っていた。それだけでは無い、辺りは気付けば雪一色で、かなりの雪が降っていた。
「これを誰が・・・・・・?」
「あたいだよー!!」
その声が聞こえた方へ振り向く。
水色の髪。青い服。そして氷の羽。
誰が見ても分かる、そいつの正体は――――。
「あ、バカか」
「ちょっちがっバカじゃないもん! あたいはチルノ!
最強で天才なのッ!!」
顔を見る。眼が紅く、悪霊に憑りつかれているのは分かるが、性格はそのままらしい。
「あたいが天才な証拠、見せてあげるッ!!」
氷の刃が私達に向かって降り注ぐ。
私は右手のエアガンの銃口を向け、照準を合わせ、引き金を五回引く。
――――霊符『銃弾之星(スター・バレット)』。
銀色に輝く星の弾丸が銃口から放たれ、氷の刃とぶつかり弾けた。
「や、やっぱりあたいは最強ねー・・・・・・」
無理あり過ぎだろッ!!
「まずはこの雪を何とかするのぜ。行くぜ! ブレイジングスター!!」
魔理沙のスペルカード技・彗星『ブレイジングスター』が放たれる。
雪が降り続ける空から、沢山の青い光が降り注ぐ。
光は凍る地面に激突し、地面ごと吹き飛んだ。
それはチルノも例外では無い。
「そ、そんなッ!!
ならッ!! 氷符『アイシクルフォール』!!」
氷の弾丸が私に向かって放たれる。
私も二丁のエアガンで応戦した。
全ての氷を破壊したが、次にチルノが行った攻撃。
「なら、これならどうよッ!!」
私の四方八方を囲う氷の弾丸。
思考を加速させ、氷の弾に向かって銃弾之星(スター・バレット)を連射。
しかし。流石に無理があったのか。
余った弾丸が、私に激突した。
「ぐおッ!!」
私は近くの岩に吹き飛ばされ、腰を思い切り打った。
それに構わず立ち上がり、二枚目のスペルカードを銃にスライドして認識させる。
「スペルカード発動・・・・・・ッ!!
光雷『光之雷撃(シャイン・スパーク)』!!」
銃口をチルノに向け、引き金を引く。金色の雷が銃口付近に出現し。
チルノに向かって、一直線に射出された。
それは躱されたが、再び『銃弾之星(スター・バレット)』のスペルカードを準備。
応用技を脳内で編み、引き金を引く。
その瞬間、チルノの周辺に十六の星が出現する。
一回引き金を引き、八つと八つ――即ち十六もの星を出現させたのだ。
そのまま私は、某小説の主人公のように呟く。
「『十六星射撃(スターバースト・ストリーム)』ッ!!」
十六の星が、チルノに向かって放たれた。
星は槍状に変形し、チルノの体を穿つのではなく、激突と同時に爆破する。
チルノがそのまま気絶するのを確認し、私はエアガンを鞄にしまう。
「・・・・・・。終わった――――」
◇◇◇
「初!?」
チルノを倒した初がそのまま倒れたのを、魔理沙は見た。
近付いて揺する。意識は無い。
怪我はしていないようだが、永遠亭で見てもらった方が良いと判断した魔理沙。
そのまま初を背負い、駆け出そうとしたが――。
ヒュン、と進行方向に緑のローブ姿の――何かが立っていた。
「何者なのぜッ!?」
ローブ姿の奴は語らない。ただ刀を抜いて、魔理沙に襲い掛かった。
箒で攻撃を防ぎ、スペルカードの攻撃を放った。
「マスタースパーク!!」
七色に輝く雷が、ローブ目掛けて飛ぶ。
ローブは腰の鞘に収められた二本目の刀を――――真剣を抜き、マスタースパークを弾いた。
次いで魔理沙を襲ったのは、進むごとに巨大化し、威力も増大する風の刃。
スペルカードではない。初に説明した通り、スペルカードは『遊び』の為の道具で、多少痛みを感じたり、吹き飛ばされたり、攻撃による追加効果――例えば寒さや熱さなどを感じたりすることはあるが、服に傷を付けたりなどは出来ない。
その瞬間。
風でローブが揺らぎ、少しだけ顔を見る事が出来た。
若干緑掛った黒い髪――どことなく初と同じような感じの髪型。
悪霊に憑りつかれているせいか、赤い瞳の。
全体的に、美少年にも美少女にも見える中性的な容姿。
魔理沙も幻想郷の人間全員を知っているわけでは無いが、ここでは見ない顔だ。
すぐに顔は隠れ、眼前まで瞬間移動めいた速度で接近し。
真剣を、魔理沙の頭上に振り下ろす。
それを躱しきれず、左腕に傷を負うが。
「ブレイジングスターッ!!」
彗星『ブレイジングスター』をローブの人間に放つ。
それを次々と躱し、少し大きな岩の上に立ってからやっと口を開いた。
「傷を負ったみたいだが、よく躱したな魔法使い。
私を倒したたくば、そこの貧乳銃士を連れ、香霖堂に来い。
治療の時間はくれてやろう」
少し低い、女性の声。
それと、ヒュンという風の音のみを残し、忍びの如く緑ローブの女性は消えた。
◇◇◇
永遠亭に向かって初を背負い走りながら、魔理沙は考えた。
あの緑ローブの正体について。
まず彼女は、緑の柄の木刀と共に、刀を持っていた。
「妖夢の弟子か?」
いや、だが彼女は人間だった。
それに妖夢は、あんな攻撃はしない。その線は無しだ。
少女の髪型は初に似ていた。顔こそあまり似ていないが、もしかしたら・・・・・・。
「初の親戚か・・・・・・、じゃなくても初とヒロの世界からの来訪者か・・・・・・」
色々気になるが、今は初の体調が心配だ。
そのまま止まらずに、魔理沙は走り続け。
永遠亭に到達したのは、朝日が昇る頃だった。
さて問題です。緑ローブは誰でしょう?