巻物語   作:さゑら

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026-B

 前置きが随分と長くなってしまったが、ここからが真相編。

 名探偵登場というやつである。

 今度こそカクシンテキな話だ。

 埃の被った机に腰をかけた遠江さんはシニカルに笑って居る。

 

「そもそも、あのドッペルゲンガーは君のドッペルゲンガーじゃない。この世界の阿良々木暦のドッペルゲンガーなのさ」

 

 僕が武偵のみんなに振舞った推理は、この時点で既に破綻してしまったのだが、それ以上に、この発言は、この世界が怪異とは縁のない世界であるという定説を覆すものだった。

 

「……やっぱり、そうなんですね」

 

 とはいえ、僕は既にその事実に気付いていたし、だからこそ、ドッペルゲンガーに前髪を掴まれたあの時に、臥煙遠江さんとのコンタクトの時間稼ぎにあのような事を言ったのだ。

 

 

『もしかして、今、この世界の阿良々木暦にとって替わったドッペルゲンガー。それはもしかして、この僕──武偵世界に移り来てしまった【阿良々木暦】なんじゃないのか』

『なぜなら、君は短髪だ! つまり、僕が初めてあったあの肢体と同じ髪型、同じ服装をしている! そして、先程いった【僕のドッペルゲンガーである】という推察に対する冷静すぎる態度。つまり、君は』

 

 

 あの時のセリフに繋がる言葉こそが、遠江さんの『あのドッペルゲンガーは君のドッペルゲンガーじゃない。この世界の阿良々木暦のドッペルゲンガーなのだ』であり、これこそがあのドッペルゲンガーが消滅寸前であった理由だった。

 なぜなら、怪異は存在理由を持たなければならないし。

 彼の存在理由であった『武偵世界の阿良々木暦に取って替わる』というモノは既に僕が達成してしまったのだから。

 

 遠江さんは含みをもたせた表情で続ける。

 

「そして、勿論、あのドッペルゲンガーは君達のいう【怪異】でもある。つまり、この世界にとっての不純物であることは間違いない。だから、あのドッペルゲンガーという【怪異】が発生しちゃったせいで、息を潜めていた異形のもの達がざわめきを立て始めちゃっている」

「この世界の異形……っていうのは、その、怪異とは違うんですか?」

「違うねー、全然違う。忍ちゃんをはじめとする怪異ってのはいわゆる現象としての怪異で、性質としては怪異譚や怪談そのものだよ。それに比べて私達の世界の異形ってのは説話の中の登場人物なの。要は怪異譚を媒介にしない怪物──大きくいっちゃえば、生物だ」

「せ、生物」

「そ。だから息もするし、生きもする。噂立たなくても存在するし、ポッと私たちの前に現れたりもする」

「じゃあ、括りとしてはUMAみたいなものってことですか?」

「改めてカテゴライズする意味はあまりないけど、そうだね。そういうことになる……けれどね、だからこそ、彼らを殺すことだって可能なのさ──そういう意味では阿良々木くんに近いのかもしれねーな。知らんけど」

「……僕は人間です」

「くくく、そんなことは至ってどうでもいいことだよ、私にとってはね。──ともかく推理、もとい整理を続けさせてもらうと、君達の出会ったドッペルゲンガーはいわばこの世界の産物だったのさ」

 

 だから、血も通い、息をし、動き回ってたし、なにより殺すことだって可能だった。あのドッペルゲンガーは僕たちの世界の【怪異現象】でありつつも、この世界の【異形】としての性能を持ち合わせたいた、ということなのか。

 

「……ん? あれ? 待ってください、遠江さん。自分で同じような推測を立てておいてなんですが、あのドッペルゲンガーが僕の世界の産物じゃないなら、話がおかしなことになるんじゃないんですか? もし、この世界の異形が生物だと言うなら、あのドッペルゲンガーが生物だっていうなら【系譜】がなければいけないですし」

 

 系譜、とはつまり歴史。人の歴史はつまり、僕の父母。

 ドッペルゲンガーに親がいたら、それはもう僕じゃない。

 別の親を持ち、別の境遇にあり、僕と同じ(たち)の、別人だ。

 それに、彼の発生が直近だったとしたら、その時点で系譜が有るなんてことはあり得ない。

 鶏が先か卵が先かなんて問題は怪異でなくちゃあ起こらない問題だ。

 

「んー? そんなの決まってるじゃん。阿良々木暦のドッペルゲンガーなんだろ? だったら、その親は勿論ドッペルゲンガーに決まっているじゃん」

「いやいや……えっと、それじゃあつまり」

「阿良々木暦のドッペルゲンガーの親は、阿良々木暦の親のドッペルゲンガーってことだよ」

 

 いや、やはりそれはおかしいだろ。疑いの目で遠江さんの顔をみる。

 彼女は有無を言わさない態度で僕を見下していた。

 そこにはこれ以上の踏み込みを許さないようなオーラがあった。

 

「阿良々木くん。ここは君のいた世界とは別の世界だよ。別の摂理があり、別の法則があって、別の生態系が蠢いている。表面上の理解だけで否定してもらっちゃー困る。それに、その否定は私が言いたい真相を曇らせる。……まさか、あれで本当に解いた気分になってるんじゃないんだろーね。正体不明の【阿良々木くん】はまだ沢山いたはずだよ?」

「……たしかに、先のドッペルゲンガーでも誰かの変装でもないという阿良々木暦はまだいます。けれど、そんなこと言ってこのドッペル騒動がこれ以上こんがらがったら、本当に、伴わなくなっちゃうんじゃあ……」

「伴わない? なにが」

「阿良々木暦がです」

 

 どんな僕が何人、いつ、どこにいたのか。

 この数日で何回考えたのか、数えるのも億劫になる謎。

 僕は結局、なるがままに即興的(アドリブ)な答えしか導き出せなかった。それも、残った謎を全てドッペルゲンガーに押し付けるような形でしか。

 

「……君がこれまでと違って誰かを頼らなかったことは認めるよ。成長という意味でね。けど、けどね。阿良々木くん。それじゃー、知るも知らないも分かるも分からないもない。分かるもんだってわからなくなる」

「……はぁ」

「だから、この件に関しては運がなかったとしか言えない。阿良々木くんのそのスタンスっていうの? その、【成長した自立】という意識、それが君を謎の答えから遠ざけちゃってたね。……つまり。あっちがたてばこっちがたたないというか。一度できるようになった事を深めたくなるのは人のサガだけど、往々にして現実はそれを否定したくなるらしい。──阿良々木くん、今回ばっかりは君は他の人を頼るべきだった」

「他の人……」

「たとえばさ、私。携帯電話で私の名前を見つけたその時点でなんで連絡を取らなかったんだい? 」

「だって、僕はあなたを知らないし、それにもし、あなたが僕たちを知らなかった時の言い訳が立たない」

「ふうん? ──それでこうやって助けられてちゃー、立つ瀬がないね」

「まあ、それはそうなんですけど……」

 

 後悔する時って、大体そんな感じだよな。なんて、言い訳じみたことを思った。

 僕の釈然としない態度を察したようで、遠江さんは「ふむ」と顎に手をやり暫く考える素振りを見せた。……そして、しばらくして、遠江さんは一つ、質問をした。

 

「阿良々木くん。頼るべき時ってのは、どんな時だと思う?」

「それは、自力じゃどうにもなんない時なんじゃないんですか?」

「そりゃそうだ。私が聞きたいのはそんな毒にも薬にもならないような事じゃないよ」

「うーん、なら、自分の手を汚したくない時とかでしょうか?」

「だからって、毒の方に考えを振ってほしいわけじゃない。……他人を頼るべき時は他人の『目』が必要な時さ」

「他人の目……」

「そ。今の君はいわば記憶喪失した状態に似ている。この世界の普通が偏向して見えてしまうだけでも大変だっていうのに、加えてここにくる前までの歴史がまるっきり分かっていない」

「ああ、そういうことですか」

「歴史って言ったって、日本史とか世界史の話じゃないぜ?」

「はい、要はここに来る前のコト──文脈(コンテクスト)ってのとですよね」

「まさしくねー。ってところまで言えば、もう分かるよね?」

「ええ。……僕は知る必要があった、僕が知りようもない過去を、知識を、そして、アイデアを」

 

 目を閉じる。

 思い浮かぶのはこれまでのこと。

 神原駿河。ミスド。休店の看板。忍の駄々。黒い門。転移。黒いアスファルト。短髪阿良々木暦の死体。携帯電話と『任務』の言葉。訪れた武偵高。夕日。平賀文。異なる銃。名付け。宿舎。風邪を引いて衰弱した遠山金次。少ない私物。神崎アリアに『ホームズ』。強襲科。生徒呼び出しの張り出し。異常なまでの視線の集中。平賀文との話し合い。硝煙と数種類のタバコ、不思議な甘い香りが混ざり合う職員室で酒を飲む蘭豹先生。不敵な彼女の笑みと命じられたゴミ捨ての依頼。アドシアードの喧騒に浮ついた生徒。昼さがりの春風とは裏腹に寒々しい地下空間。ジャンヌ・ダルクの末裔。氷の異能。爆発。帰り際に聞いた怪異現象(ドッペルゲンガー)の発端。平賀文のラボでの試し撃ち。影法師と平賀文の会話。影法師の物だと思われる見覚えのないニューモデルアーミーレボルバー1061年プレミアムモデル。新宿に現れた阿良々木暦。峰リコとの会話。身バレの危機にラグジュアリー店の阿良々木暦。同時に現れた平賀文と話していた阿良々木暦。そこからの数日は特筆すべきことはなく今日、アドシアード当日。下らない会話に地下室。再び現れたジャンヌ・ダルクに吸血鬼『魔臓』の存在。ジャンヌ・ダルクの証言に、新たに現れた阿良々木暦。話し合い。探り合い、推理のし合い。存在の奪い合い。概念の制定に今までの整理。そして、例外の方が多い規則。臥煙遠江。

 これまでの間々に挟まれた戸惑いと、反省。そして少しの意地と【成長した】という驕りの文字は数え切れないほど。

 駆け巡る沸騰しそうなほどの思いは走馬灯のようだった。

 そして、それが終わって瞼の裏が真っ暗になって、やがて、僕はこれ以上ないまでに冷静になっていた。

 遠江さんが言ったこと。

『僕が頼るべきだった』ということ。

 それは、きっと。僕が孤立していたことを戒めた言葉ではない。むしろ、その孤立した中にあってようやく得られる客観性を求めるべきだったということ。

 何人も阿良々木先暦がいる。

 何人かは偽物で、何人かは本物。

 本物の人数は現時点で、足りていない。

 そういう客観性。

 だれが本物でだれが偽物でとかいう人称確認以前の問題──人数確認。

 

「つまり、遠江さん。この怪異。影法師(ドッペルゲンガー)は」

「そう、ドッペルゲンガーは」

「「一人ではなかった」」

 

 僕は勘違いしていた。

 今ある手札でレッテル貼をすることに必死になってしまって、そもそもの客観性、過去、知識にアイデアを──詰まる所の登場人物の確認を怠っていた。

『まだ、出てきていない登場人物がいるなんておかしい』──そうじゃなかった。まだ、出てきていない登場人物がいるのならばそれを推理するべきだったのだ。

 

「あのドッペルゲンガーは君の雑な総括を利用して、逆に自分を強大に脅威的に見せようとしてけどね、実際はそうじゃない。新宿に用事があった阿良々木くんは別にいるし、平賀文と三回密会していた輩は別にいる」

「だから、ドッペルゲンガーは少なくともあと一人。多ければ四人以上いなければいけない」

 

 そういう話だったのだ。

 

「いや、それはないでしょ、鬼いちゃん」

「……斧乃木ちゃん?」

「さっきから聞いてたら、遠江お姉ちゃんといい、鬼いちゃんといい、随分とまどろっこしい会話をしているじゃないか。見てろよ、その金髪老婆なんて既に疲れて寝ているじゃないか」

「え? ホントだ、寝てやがる……じゃなくて。なら、聞かせてくれよ。客観的に見て、ドッペルゲンガーは何人だったんだよ。ここから始まる分かりやすて壮大な推理パートを飛ばすってんなら、そのくらい教えてくれるってことでいいんだよな?」

「ふふふ、当たり前じゃないか。鬼いちゃん。……何人か、だって? おいおい、勘弁してくれよ。そんなの決まっているじゃないか──二人だよ。そうに決まっている」

 

 ビシッと横ピースを決めた斧乃木ちゃんは無表情で埃かぶった机に立ってセリフとポーズをキメる。

 

「『そうに決まっている』だって? いやいや、斧乃木ちゃん。客観という言葉を無責任という言葉と間違えているんじゃないのか? 確かに僕は多少周りを見る癖を見失っていたよ。けど、こうしてどんなに思い出をかき集めてもその証拠が見つからないんだ。なんで決まっているなんて言い切れるんだよ」

「喧嘩腰にいっても無駄だよ、鬼いちゃん。ドッペルゲンガーは二人。その事実は変わらない。もっといえば、鬼いちゃんがその結論に至れなかったという情けなさも変わらない。諸業無情というやつさ」

 

 それを言うなら諸行無常だ。

 それに所業無情というやつでもない。

 しかし斧乃木ちゃんの言うことがもしも本当ならば、僕はその理由を、証拠を尋ねざなくてはならないだろう。

 

「簡単なことさ。この世界にいるのは、二種類の阿良々木暦。つまり、お前と、この世界の阿良々木暦しかいないからさ。本人が二人いるならば、ドッペルゲンガーは二人しか生まれない。表裏一体という言葉はあれど、表裏表一体という言葉ないだろ?」

「表裏表って」

 

 例えが分かりにくい。

 ドッペルゲンガーが三体いると、その元となる人物が3人いなければいかなあと言うことを端的にまとめたかったのだろうが。

 分かりにくい。

 

「ならば、分かりやすく、嬲一体と言いなおしてもいい」

「それは、言い直しちゃダメだ。いろんな意味で」

 

 つくづく、最後の一言が間違う童女だった。

 けれど、裏を返せば、それは最後の一言以外は正しい──そう思わざるを得ない。遠江さんを見ても、呆れるような表情はすれど、斧乃木ちゃんの言葉を否定するような素振りは見せていない。

 

「けどね、鬼いちゃん」

「……なんだよ?」

「けどね、鬼いちゃん。今、あなたがそんな事を知ったところで、だからなんだって話でもあるんだ」

「いや、そんなこと……」

「ないって、言い切れるのかい? ならボクは止めないけれど。けれど、ここには謎はあれど、ただそれだけなんだ。事件も、被害者も、加害者も──いや、鬼いちゃんは明確に加害者では在るけれど──そう、この謎には解いたところで何もないんだ。謎々本には解けばページをめくる作業があるし、推理小説には解けば犯人を逮捕できる土壌がある。ホラー小説なら危機を乗り越えることが可能かもしれないし、SFならば未来を良くすることができるかもしれない。けれど、今ここ、この時点において、鬼いちゃんがこの謎を解いたという現在において、殊更ストーリーが進むということはないんだ。むしろ、それによって虚無の時間に突入したといってもいい」

「……」

 

 もしも、僕が知りうる全ての阿良々木暦が明らかになった時、その時は、僕と忍は元いた世界に戻ることができるのかもしれない。心のどこかでそう思っていた自分がいた事を否定できないのは、確かに改めて自己分析するまでもない、明白な事実だった。

 だからこそ、僕は一連の騒動に率先して首を突っ込んでいったのだし、こうして『遠江さん』という元の世界との縁を引っ張り上げた時にはもう、ロスタイムに入った気分になっていた。

 

「じゃあ、僕はどうすればいいんだ?」

「知らないよ、そんなこと」

「……」

「知ってても、いう義理がない。縁がない。関係がない。鬼いちゃん、気付いてないのかもしれないけれど、ボクとあなたは会ってからまだ、数十分の仲なんだぜ?」

「急に突き放してくるじゃん……」

 

 けど、冷たい、とは言うまい。

 

「ボクは人形だからね。そりゃ冷たいよ」

 

 絶対に冷たいとは言ってやらねえ。

 未だに決めポーズを崩さないその姿勢と言葉にはイラっとするところはあるが、言っていることは理解できなくもない。

 忍は寝こけてズブズブと影に沈みかけているし(やはり度胸というか器が僕とは違う)、頼れるのは僕しか……って、あれ? 

 

『頼れる』? だって? 

 ぱち。と頭のパズルが音を立ててハマった気がした。

 ぱちぱち。ぱちぱちぱちと。

 

「どうしたんだい? 鬼いちゃん。そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

「遠江さん」

「私は斧乃木余接に煽りをやめるよう命令することはしないよ」

「いえ、そうではなくて。遠江さん、さっき『僕が他の人を頼るべきだった』って、いいましたよね?」

「言ったね」

「そして、ドッペルゲンガーは2人居たんですよね」

「らしいね」

「そして、この世界には、『二種類の』阿良々木暦が、いるんですよね」

「うん」

「それって、色々端折ますが。要するに、あの分からなかった阿良々木暦が僕のドッペルゲンガーだってこと──だと、限りませんよね?」

「……その通り」

 

 ──ああ、そういうことだったのか。

 分かったつもりになって、突き進んで人数合わせて人称合わせて、それで。その先にあるのは、やっぱり間違いだったのだ。

 目の前を見やれば、遠江さんは笑い、斧乃木ちゃんは無表情だ。

 変わらない。変わらない光景だ。

 それが、なんだか納得に拍車をかけた。

 

「……あの日。あの、忘れもしないこの世界にきた日。あの時に見たあの死体。あれを殺したのはドッペルゲンガーなんかじゃない」

「一応、聞かせて貰おうかな。なんで阿良々木くんはそう考えるのか」

「殺し方が違ったんです」

「殺し方?」

「ええ。あの死体は明らかに銃殺されていた。けど、それをドッペルゲンガーが、行ったというのはありえない。なぜなら、さっきドッペルゲンガーが僕を消そうとした時に銃は使っていなかった」

 

 目を合わせ、帳尻を合わせることで僕を消そうとしてきた。

 それは『くらやみ』のような、概念的な殺人だった。

 

「それはどーかな。たまたま君を殺す時は概念的に消滅させようとしただけかもしれないじゃないか」

「いえ、にしてもおかしいんですよ。……だって、僕が見たのは死体だったんですよ。ビーイングデッドでもリビングデッドでもない。すでに事切れた、阿良々木暦の亡骸だったんです。ドッペルゲンガーが殺したとして、死体が『残る』はずがないのに、そこには、死体が転がっていたんです」

 

 ドッペルゲンガーの話の終わり方は、本人の消滅、そして入れ替わりだ。

 

「つまり、あの死体そのものが、ドッペルゲンガーのアリバイを証明するものだと言いたいのかい?」

「はい。それに、気になることはまだあります。あの死体はには銃痕はあれど、血溜まりが存在しなかった。真昼間の高層ビルの下、ただ死体が存在するなんてそれも『ありえない』。死因を隠すために血溜まりを消し、人払いをしていたにしても、あまりにもお粗末すぎる。これじゃあまるで、誰かが『僕とあの死体を引き合わせたいとでも意図した』かのようだ」

「……」

「おかしいのはここからです。もし僕のドッペルゲンガーがいたとしたなら、なぜ、僕の下に訪れないのか」

「それは君がこの世界の阿良々木暦と置き換わったからさ。だから、君のドッペルゲンガーは君の従来の行動原理に基づいて平賀文と会話を重ねていった」

「そんな椅子取りゲームみたいな……」

「けど、実際そうなってる」

「にしては、色々おかしいでしょう。例えばニューモデルアーミーレボルバー1061年プレミアムモデルの出所。僕のドッペルゲンガーが出現した時が僕と同じだったとして、そいつが数日であんな高価なものを入手できるとは思えない。それに、銃の改造の依頼とか平賀さんに対する僕のアプローチは、僕にしてはあまりにも周到すぎる」

「あ、低い方向の信頼はあるんだ」

「今でさえ、このザマですからね」

「くくく。……じゃあ、君のドッペルゲンガーはどこにいるんだい?」

「……さあ?」

 

 そこまでは、分かんない。

 やっぱり僕は名探偵にはなれないらしい。けど、その辺の手がかりもなんとなく見えてはいる。

 

「斧乃木ちゃん、君は『二種類の阿良々木暦』とは言った。『2人の阿良々木暦』ではなく、『二種類の阿良々木暦』と。まるで、僕という阿良々木暦がまとめて数えられる人数いるかのように」

「……あれ、 ボク、そんなこと言ったっけ? 聞き間違いじゃないの(笑)」

「確かに言ってたぜ。横ピースにキメ顔で」

 

 だから、それが多分、最後の鍵だ。

 この謎を締めくくり、解き明かし、そして、次に進むための。

 残念ながら、僕はそれを創造し使用する名探偵にはなれなかったけれど。どうやらここには名探偵がいるという。

 

「だから、聞かせて下さい。遠江さん、『この世界の僕を殺し』『平賀文さんにニューモデルアーミーレボルバー1061年プレミアムモデルを渡し』『新宿に予定があり』そして、『今まで正体の見えなかったドッペルゲンガーではない阿良々木暦』それは誰ですか!?」

 

 遠江さんが答える寸前。ある出来事が頭をよぎった。

 思い出したのは、タイムスリップした時のこと。

 一種類の阿良々木暦が2人いた、あの時のこと。

 年齢の違う。ショタ時代の僕と、そして、高校生の僕が。

 

「その阿良々木暦は、勿論、君さ。

「君の、長くとも数ヶ月後の姿。

「つまり。君の知りたかった最後の阿良々木暦は近い将来『この世界の君を殺し』『平賀文に銃を渡し』『新宿に行き』そして、『君のドッペルゲンガーを殺し、君をこの世界のドッペルゲンガーにしようとする──そんな君だ。

「そして私は、そんな未来の君を、止めて、大人しく元いた世界に帰って欲しい。

「おねーさんはこの世界の住人としてごく当たり前にそう、思っちゃったりしちゃってるのさ」

 

 つまり。

 ここが結論。

 だから要するに。

 僕こそがあらゆる阿良々木暦を殺そうとするドッペルゲンガーだった。らしい。

 ゆえの暦ドッペル。

なんて。

なんて、笑えない冗談だろうか。

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