巻物語   作:さゑら

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001-A

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「どうも。

「と、改めて前置くというのは、少々馴れ馴れしいのかしら? けれど、私、ツンツン気を張りすぎるには不幸ではないし、そもそも相談って畏まってするものではないはずよね。『親しき中にも礼儀あり』っていうなら『親しくないからこそ礼儀を忘れるべき』ことってあるでしょう? ……そうね、だから、奇を衒わず言ってみようかしら。

 

「──戦場ヶ原ひたぎ、17歳です。武装探偵を目指しています。とういうのも、ほら、私ってば、ファザコンだから。

「私のお父さん、武装探偵なのよね。だから、ゆくゆくはお父さんのお手伝いがしたいっていうか──ま、女子の武偵生にはそこそこよくある話ね。阿良々木くんが聞いたことあるかは──まあ、聞かないほうが良さそうだから、聞かないでおいてあげるわ。

「……ともかく、私は上手くやっていた方だという自信があるのよ。

「平均卒業率が100%を切ってしまう異常な高校の中で、比較的、皆でお手手をつないで卒業できる情報科に所属して、異常過ぎず優秀なBランクの評価を受ける。交友は浅過ぎず狭過ぎず、深過ぎず広過ぎない、そこそこ私の手の届く範囲で築いていたし、友達はみんな私のことを少なからず好意的に見ていてくれている。人間関係に気を割いてストレスフルになることもなく、気さくで野暮ったい人間関係もない。

「能動的孤独でも精神的マッチョ論者でもない。

「なんでもない、けれど人知れず、人並み以上な人生を歩んでいた──はずだったのよ。

 

「あの──【蟹】と出遭うまでは。

 

「……まあ、そういえば、蟹って一言に行ってしまったけれど、その一言のことを阿良々木君は知っているかしら。あの、生で良し焼いて良し茹でても良し炊いたなら尚良しって感じの甲殻類なのだけれど。私、食べ物といては蟹って生き物は好きなのだけれど、生物としては食べにくいから嫌いなのよね。

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いみたいに、素直に直進しない小生意気な生き様も専用のカラトリーが用意されてしまうような困っしゃくれた死に様もなんだか、嫌になってしまう位、嫌いなの

「だからね今となって思うのだけれど、私がそんな自分の生き様にに使わない非中庸的感情を高々、矮小な一生物に向けてしまったから、きっと出遭ってしまった思うのよね。あの蟹に、あの、怪異に──。

 

「怪異の専門家であるあなたには、分かったような口をきくなって言われてしまうかしら。けど、許してほしいわ、悟り世代だから、なんて。

「……悟りついでに言ってしまうけれど、おかしい、なんてこと、私がよく分かっているのよ。『──あれ、そもそも私、そんなに蟹のこと嫌いだったかしら?』なんて振り返りは散々したけれど、しょうがないのよ。気付いた時にはあんまりにも偏見は築かれていて、傷つけられていたのだから。

 

「そう、傷が、付いていたの。だから……。いえ。

 

「──前置きが長くなってしまったわね。常々回りくどい言い回しと展開を唾棄してきたのだけれど、いざ自分の身に不幸が起きてしまうと自分可愛さに冗長になってしまうのは新しい発見だわ、反省反省。戦場ヶ原ひたぎが、戦場ヶ原浸りになってしまっていたわ。

「……けどね、どうか阿良々木君には分かってほしいのよ? この婉曲が私を辛うじて人語を解せる程度の冷静さを保たせているってことにね。例えるなら、私のこの慇懃無礼な語り部な有様は、拷問時に数を数えているようなものってことなの。幾分か回りくどい言い回しも、嘘偽りなく、本心を曝け出しているってだけなの……。

「──あら、そう? ありがとう。彼氏みたいに優しい言葉をくれるじゃない。

「……折角だし、もうちょっと甘えてみようかしら。きっと、私の相談事を聞いてくれた後に、今の私の我慢強さと理性を分かってもらえるって信じて、本題に入らせてもらうとしようかしら。

 

「ええと……何から話せば良いのかしら。正直な話、何にもかも分からないから、何にも理解していなくてなんとも言えないのだけれど、気付いたのは身体検査の翌日だったわ。私は都合があってバスジャックの起きたあの日に一年生と混じって身体検査を受けたの。

「──詳細に? 解決に必要? ……そうね、阿良々木君が女子の体型と数値の関連性にメンヘルな理想を持っているなら即刻改めてもらうけれど、本来の私の身長は165cm、体重が55kgよ。世の女性が羨むナイスバディな数値ってことなの。ある程度の衣服を着用しての数値だったし、女子的な嗜みからその昨晩に測っていた時もそうだったから間違いはないわ。だから、私はその時も特に何を思うこともなく、少し体重計を軋ませつつ、右足……左足、と全身をはかりに掛けたわ。

「そして、左右に振れながら収束した針が差し示したのは──5kg、なんて非常識なことはなく──、

 

「端的に言いましょう──57.00kgだったわ。

 

「言い訳ではないけれど、身体測定は昼食後だったから、賞味1~2キログラムの体重さなんてその時は気にしなかったわ。けれど、体重を気にするほど私は乙女じゃないけれど、なんとなく57.00という数値が気にくわなかったから、私は家に帰ってもう一度体重を測ることにしたの。57.00でなかったらなんでもよかったわ。それより多くとも、少なくとも、ね。

「あ、そうそう、話が前後するけれど、その日は、情報科の先輩から譲ってもらった依頼を行っていたわ。古典をベースにした暗号の解析。強襲科の阿良々木君には門外漢でしょうから詳細は省くけれど、結局、とある能の動作と組み合わせて解くタイプの物だったわね。ちなみにその戯曲は能にしては派手な演出が入っていたりもして、思わず楽しんでしまったわ。

「それで結局、家に着いたのは午後10時頃かしら。身体測定から何も食べていなかったせいでお腹は空いていたけれど、それ以上に頭脳労働で疲れてしまっていた私は、這う這うの体でシャワーを浴びるなり迂闊にもドライヤーをすることもなく寝てしまったわ。

「起きれば朝。まあ、頭はボサボサだし、お腹は空いているしであまり良くはないコンディションだったけれど私は体を起こしたの。

 

「……そう、気付いたのはこの時よ

 

「この時私は蟹について考えることもなく寝ぼけ眼でこう思ったのよ。『──ああ、今なら体重計は57kgを指し示すはずがない』と。当然よね、消費行動こそすれ何も取り込んでいないのだから。武偵とはいえ、あの時ばかりは中学時代の気持ちを思い出して低体重を望んでいたかも──っていうもは明け透け過ぎ、かしら? 

「それで、測り、に……体重をは、か──ッ」

 

 と、ここで、戦場ヶ原は言葉を止めた。

 ここまでの話で突っ込みたい所はたくさんあったが、僕は何も言わなかった。

 というのも、数時間、僕は忍から吸血行為を行われており、最も吸血鬼に近い状態だったし、そのせいで、今戦場ヶ原がどんな怪異に遭ってしまっていたのかが、あらかた見当ついていた、ついてしまったのだから。

 だから、僕は静かに促す。

 動揺しないように、動揺がばれていませんように。

 

「……ごめんなさい。計ったの。そしたら……」

「……そしたら? そしたら、どうしたんだ?」

「そしたら──私の、お腹が……」

 

 そう言って、さめざめと彼女は泣き出した。お話をお聞きの諸君には、彼女が急に泣き出したように感じたのかもしれないが、そんなことはない。話し始めた当初より彼女は泣いていた。ただ、涙を流していなかっただけに過ぎない。

 彼女は確かに、悲鳴を上げ続けていた。

 だから僕はもう、彼女に話を促そうとはしなかった。

 いわんや、あの忍野でも聞き出すまい。悪趣味だ。

 僕の吸血鬼もどきの目ん玉は実のところ、彼女の話が始まる前から一点に釘付けだった。

 一点、というか、八点。点、というか目。

 ──そう、僕の目にはずっと彼女の腹に刺さる八つの目と、その奥で蠢く怪異の姿が映っていたのだった。

 

 戦場ヶ原ひたぎのその細い腰の上。

 本来、引き締まった腹筋が見えるはずのそこには、ボコボコと蠢くまん丸い腹があった。

 ボコボコと、コポコポと赤子が腹を蹴っているとは思えない活発さのその奥に見える8つの目。

 泣きながら孕んだ素肌を見せようとする彼女を止め、僕は表情を隠した。

 腹の底から腹が煮えくり返るような激情を辺りに八つ当たらなかったのは、ただひたすらに、僕の成長の証左に他ならなかった。

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