巻物語   作:さゑら

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 大学に入って知ったことの一つに『梵我一如』の考えがある。

 これは『世界の根源とはつまり自分の根源と同一』という紀元前千五百年くらいの古代インドにおける伝統的な論調だ。東洋哲学の祖とも言えるかもしれない考えだ。

 

 『緑』という色が見える原理を説明できても『緑』がなにかを説明できないように、人は何かの現象が発生するまでの過程は説明できても現象の発生の正体は説明できない。けれど、人はその正体を感じ取っている。だから人を人たらしめるものとは『現象の正体を感じ取ること』と言い換えられるし、また、世界は『現象の正体』を最小要素として成り立っていると言い換えられる。だからつまり『人は世界だ』といえるだろう。というのが梵我一如の簡単な内容だ。

 

 そしてこれは1994年に西洋哲学によって提示された問題に酷似している。

 別に僕は東洋哲学が西洋哲学より3500年分優れているなんていうつもりもないし、ましてや、この話を理解して悟りに至ったなんていうつもりもない。

 しかし、この論理の根本的な自覚は東洋哲学における『悟り』と言われているのは事実だし、その悟りは人に概念的な全能感を与えていると言われている。

 その証拠に梵我一如を整えて主張したヤージュニャヴァルキヤはこの論理を以って『人とは元来不死である』と妻を諭した。

 だからこそ考えてしまう。

 

 概念的な不死。

 怪異的な不死。

 

 そこに一体なんの違いがあるのだろうか。

 もっと言えば『吸血鬼』の不死のメカニズムとはなんなのか。

 

 僕は忍に血を吸わせる度にそんな思考の海に嵌っていく。いくら逃げ出そうとしてもその海は僕を引っ張って捉えて離さない。

 

 まるで底なし沼だ。

 

 忍野メメはかつて怪異を『舞台裏の存在』と評した。

 その時の言葉を僕はただ単に、人間の住む場所が表舞台だとしてその逆にいるモノだと捉えていたが、今ならそれは全くの勘違いだと断言できる。

 なぜなら忍は怪異を『概念的な存在』と言ったから。概念ということはつまり、『世界の根幹』と同義だ。

 なら、舞台裏が表舞台を支えるように怪異は人間の世界を支えるナニカなのだと言える。怪異は認識されなくては消えてしまう儚いものらしいが、そんなのどんな概念にだって当てはまることだ。

 事実、人間が科学を発達させるまでは『化学』なんて概念はなかったし、取って代わって『錬金術』という概念が世界には存在していた。

 逆を返せば、逆を介したならば。『怪異』とは既に認識されないものになっており、それは『認識するものは認識できない』という梵我一如のメカニズムに繋がっていくのではないだろうか。

 

 つまり、概念が現象として現れるのが怪異なら、概念的な不死が現象となるのが吸血鬼と言えるのではないか。

 

 不死殺しの専門家は不死鳥の怪異を殺す術を持っていた。その手札が明らかになることは無かったが、それが斧乃木余接という使い魔に依存しないことは想像に難くない。

 専門家は人である。

 人であるからには怪異に対して行う対処の術はただ一つ。

 

 十字架で吸血鬼を欠損する。

 改心して神を不必要にする。

 行動で地縛霊を曖昧にする。

 改善で悪魔を不必要にする。

 御札で呪いを根絶しにする。

 憂いを断って猫を退治する。

 

 怪異を否定して現象を殺す。

 

 その方法や程度に差はあれど本質的に行なっているのはどれも同じで、残酷だ。

 赤の概念を吹き消すように、否定して。

 赤の他人を搔き消すように、拒絶する。

 

 不死の専門家がどんな方法でそれを行うのかは分からない。

 ただ、その方法は確実に怪異から『不死』の概念を奪い去っていくだろう。吸血鬼にとっての太陽光のように。

 勿論、専門家以外にも概念を喪失させあるもの。

 ──『概念の喪失の概念(くらやみ)』だってある。

 

 もう一歩、思考を進める。

 

 概念の否定とは、つまり条件の否定だ。

 

 不死の概念の条件は有様。

 思しの概念の条件は願い。

 迷子の概念の条件は記憶。

 成就の概念の条件も願い。

 呪いの概念の条件は成功。

 構成の概念の条件は要求。

 

 ある意味では前提とも言えるかもしれない。

 原因と結果。

 目的と手段。

 表裏一体で表裏逆転しやすいこの関係を崩すことが怪異の否定に繋がることを僕はこれまでの経験から学んでいた。

 

 文字に書き起こすとまるで簡単そうに見えなくもないが、その為に要求されるのは、怪異に対する豊富な知識を始めとした途方も無い数の能力であることは言うまでもない。

 忍の話を聞く限り、数ヶ月間延々とそれについて講演会できるくらいの知識は最低限、要求されるだろう。

 

 なぜこんなことをタラタラと詭弁たらしく述べたのか。

 

 それはひとえに僕の存在に疑問を持ったから他ならない。

 当たり前だが、ここでの疑問は『僕は怪異なのか人間なのか』などというものではない。

 それはもっと素朴な疑問──、

 

『僕は存在は道理に反しているのか否か』という単純なイエス・ノークエスチョンだ。

 

 条件を満たせば概念が生じる。

 それはなにも怪異だけじゃない。

 

『くらやみ』だって同様だ。

 

『くらやみ』の発生条件は僕の疑問と同じく極めて単純明解で『道理に反しているか否か』。

 ここまで言えば(ここまで言わなくても)察しはつくというものだろう。

 去年の夏、タイムスリップした時、そしてバタフライエフェクトによって世界を滅ぼしてしまった時に『くらやみ』は起きなかった。

 

 同じ世界に僕と忍が2人存在していたにも関わらず、だ。

 

 扇ちゃんの存在ですら裁かれたのだ。

 ましてや、同一人物の存在が放って置かれるはずがない。

 だというのに『くらやみ』は現れなかった。結果、一つの世界が滅ぼされることになった。

 これはつまり、『阿良々木暦』という人間と『忍野忍』という怪異が世界に二重に存在することが『道理に反していない』ことを表している──否。そうではない。

 忍野の手紙によれば、あの時の荒廃した世界は元の世界とは違う世界線……つまり、今と同じような状況だったという。

 

 ならば考えられる可能性はそう多くない。

 

 世界にとって別の世界線の同一人物は別の人としてみなされるという可能性。

 去年のタイムスリップも実の所、世界線移動だったのではないかという可能性。

 

 そう考えてみれば、去年であったショタ阿良々木暦と僕は別人であるし、死にかけたキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと忍野忍は別の怪異といえる。だから、『同じ世界に同じ人が2人いる』という明らかに理に反する事態にはならない。

 だから、あの時の『くらやみ』が出現することはなかったといえよう。

 

 ならば、この世界でも『くらやみ』の心配はいらないのではないか。

 

 その答えも、否だ。

 残念ながら、それを是とする考えはこの世界の『阿良々木暦』の死によって捨てざるを得なくなってしまった。

 忍野扇の例を考えてみてほしい。

 彼女は『くらやみ』から忍野メメによる『承認』によって逃れることに成功したのだ。あの場面に専門家らしい技術や知識は介入することなく、ただ『忍野扇』という『存在の承認』によってことは為された。

 

 為されてしまった。

 名付けられたのだ。

 

 つまりそれは、『存在の成立』が専門家であろうが全くの素人であろうが然るべき誰かが認めて名付けてしまえば為されてしまうということだ。

 

 今回僕は平賀文と話した。

 名前を呼ばれた。

 

 そう──『阿良々木君』と()()()()()()のだ。

 元の世界の阿良々木暦としてではなく。

 この世界の阿良々木暦として。

『阿良々木暦』が『阿良々木暦』になってしまったのだ。

 

 だとしたらこれは、道理に反してしまうのではないだろうか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()という、非道に相当してしまうのではないだろうか。

 八九寺の成仏するはずが現実にとどまっているという矛盾に対応されるまでに4ヶ月足らず。

 だとしたら、僕があのくらやみに再会するのはそう遠くない未来のはず。

 

 果たして僕は、来るべきその時のためにどんな条件を否定すればいいのか。あるいは元の世界に戻るのか。

 

 考えることは、山積みだった。

 その山は僕に崩されるのが先か、くらやみに消されるのが先か。

 

 どちらにせよ、山の先に見える景色が禄でもないことは想像に難くなかった。

 

 そんな思い詰める1日の夜。

 平賀さんとの商談で歴史的大敗を期した後。

 

「引き続き依頼の顧客管理を行うこと、賃金は日当千円。ファイブセブンとやらは平賀某特製の改造銃と数日後交換。記憶喪失については雇用関係が切れるまで黙秘する。そして、この世界について聞き出せたのは峰理子とやらの性癖と平賀某が話題の転入生に身長を抜かされたことという究極的にどうでも良い私的情報のみ……」

 

 腕を組んで深く頷く金髪の美幼女を前に、僕はそれは綺麗な正座の姿勢を取っていた。

 本来S字を描かなくてはならない背骨も今ばかりは見事なI(アイ)の字を描いている。

 

「『装備科には商談のための能力も要求されるのだ!Aランク試験には大企業の営業さんから利益をふんだんにもぎ取れるようでなければならないのだ!』……か。──のう、お前様。即堕ち2コマって知っておるか?記憶喪失という秘密を盾に有利な条件を強要される結果に終わってしまったのはまあ良い。ただ、何故初対面の女子から他人の性癖とプライベートを聞き出せるくせに、なぜこの世界の常識は一つも聞き出せなかったのじゃ」

「ゆ、油断してた」

「ゆたにしとる場合か。情けない」

「いやでも忍。ブロンド髪のロリ巨乳がいると知れただけ良かったと言えるんじゃないのか?」

「……ほう?何故じゃ?」

「僕のモチベーションが頗る上がる」

「死ね」

 

 端的な罵倒。

 そして蹴り踏まれた。

 某の上半身は床と協力して45度を作る。

 上から数えて三番目の肋骨の下あたりを忍の右足の親指でグリグリされた。

 ギコギコと音は鳴らなかった。

 

「お前様がロリと巨乳が合わさって最強に見えると非常に興奮していることは誰よりも分かっておる。それこそ言葉にせんでも良いくらいにな」

「やめろよ、恥ずかしい」

「恥ずかしいのは儂じゃ。この際言っておくが、お前様のロリに対する情熱は、お前様が高校生だったからこそ許されていたところがあるんじゃからな。大学生になった今、ただの犯罪者予備軍にしか思えんわ。ついでに言えばこれからについても嗚呼、心配じゃ。貧相ロリとの商談があと少し遅れておったら危うく儂らは野宿するところじゃったんだぞ」

 

 念のため、平賀さん=貧相ロリ、らしい。

 僕からすれば正にどんぐりの背比べである。

 しかし、忍の言うことは否定しようがないくらいに事実だ。ホイホイと平賀さんについて行き彼女の工房でさらに数十分会話を重ねたが、いつのまにか彼女の都合に合わせて話がまとまっていた。

 アンパンマンについて話し始めた筈が、いつの間にかしまじろうについて話し終えていた気分だ。

 例えにしては意味が分からないしそれはただ単に時間が経って番組が変わっただけに思えるかもしれないが、その通り、僕の感覚として、彼女との会話は訳がわからないまま時間が過ぎた感じだった。

『なのだ!』という彼女の口癖は彼女にとって会話の整理を行うための栞のようなものなのではないか、と邪推したくなるくらいには見事な会話運びなのだった。

 

 なのだ!

 

 けれど僕だって、忍の言葉の最後から分かるように、平賀さんにただ敗北しただけじゃない。

 七転び八起き、一つの情報をつかんだのだ。

 それは今僕が忍に肋骨を動かされている場所。

 それは都会の冷たい石畳の上なんかじゃない。

 床暖房に防弾加工が施された武偵高自慢の施設、男子寮の一室。そのフローリングの上なのだ。

 僕はこの世界の僕が住んでいたという部屋にたどり着くことができていたのだ。

 起きたのに寝る為の場所を探し当てたとはなんとも皮肉的で吉凶的な何かを感じるが、マストな情報なのは確か。こうして僕が少女に言い負けることに命燃やす系お兄さんなだけではないことを証明したのだ。

 

「けどお前様は側にこうして幼女に踏まれつつ別の幼女にこき使われとる訳じゃろう?どう言い繕ってもロリ奴隷がいいところじゃ」

「言葉通りに捉えたらそれはお前を指す言葉だけどな」

 

 そうなると僕はロリマスターなわけだけどそれはそれで、いや、どれもこれも嫌だった。

 忍の柔足を掴んで引っ張るようにして、彼女を僕の膝に乗っける。ご機嫌をとるように忠誠を示し(頭を撫で)ながら僕は一つ、提案をした。

 

「よし、過去の話はもうよそう。予想がつかない未来を僕達は考えるべきだ」

「明日のミスタードーナツの開店は昼前じゃ」

「いかないよ?この事態でのうのうと菓子食って美味いなんて言える訳ないだろうが」

 

 そもそも金がない。

 現在使えるお金は平賀さんから貰った千円だけだ。

 これじゃあロリ奴隷どころかロリ寄生だよ。

 

「いや、ここはお前様の部屋なんじゃからその辺に通帳なりなんなりあるはずじゃろう。携帯のパスワードがお前様と同じだったのじゃ。引き下ろしにさして手間取るまい」

「よくやった、忍!」

「まあ、単位がギリギリなお前様の通帳に大した金額は期待できないじゃろ」

「やめろ。この世界の僕だって頑張ってるに決まってるだろうが。十七歳の僕は正義感だけで生きていたような男だぞ。例え成績は酷くても依頼は狂ったようにこなしているはずだ」

 

 脳内に浮かんでは消える、平賀さんの僕に対する評価を必死に振り払っての言葉だった。

 依頼の報酬に対する税金は学生の内は免除されるらしい。そして掲示板を見たところ、猫探しにですら五千円近くの懸賞がかけられていた。

 つまりこの世界の僕が余程金遣いが荒くない限り明日の夜ご飯が忍の血液なんてなことにはならないはず。

 僕は僕を信じるぞ!

 

「おっ、お前様。通帳と貯金箱発見したぞ」

「中身はどうだ?」

 

 いつのまにか膝を降りた忍が目当てのものを見つけたようだ。貯金箱の音を立てないようにそろりそろりと忍び寄ってくる。

 無意識に僕の喉が鳴った。

 

「うむ!貯金は23円じゃ」

「……」

「貯金箱の方は音すらしないな!」

「……」

 

 失望や絶望、呆れといったあらゆるネガティブな言葉を用いようとも僕の心境は測れるまい。

 月初で全財産が1023円、しかもそれで一人暮らしをする学生なんて聞いたことない。イジメやカツアゲを疑うレベルだ。

 単純計算で平賀さんから月三万円支給されているというのに、なんでこんな生活に陥るんだ……。

 

「……待てよ?もしかして、この世界の阿良々木暦が依頼で無茶な役回りをさせられたのって、金欲しさに無理矢理繋がりのないチームに参加したからじゃないのか?」

「よくある話じゃがその線は薄いじゃろ。昨日今日で金が必要になるような状況じゃなかったことは、こやつのメールで分かっておる。きっと単位欲しさじゃろ」

「いや、目的が金が単位かはどうでもいいんだけどな」

 

 ようは何か切羽詰まった状況だったのではないかということだ。追い詰められて、どうでもよくなって、ヤケになって……。

 まさか自殺したなんて過大評価を送るつもりは毛頭はないが、僕の死に誰かの陰謀が絡んでいるなら、明日学校に姿を見せるのはまずいのではないのか、そう思ったのだ。

 

「……ふむ。金欲しさじゃないことはこやつの財布に十万近く入っていたことからも分かるんじゃが、これもどうでもいいことなのかの?」

「は?財布?」

「学生証と一緒にしまってあった。ゴールデンリングを買おうと思ったのじゃが、この調子ではそもそもミスタードーナツに行ってくれなさそうだしの」

「忍、お前ったやつは……!揉むぞ?!」

「どこをじゃ?」

「おっぱい」

「ド直球か」

 

 呆れたように財布をテーブルに置いた忍。

 どうやらお金の問題はなんとか解決したようだった。

 通帳を見て分かったことだが、この世界の僕は振込だけのために銀行を利用していたようだ。預金額が定期的に大きい金額が入っては直ぐに小銭数枚程度の金額に変わっていた。

 貯金箱の方は大きく『伍拾萬』と書かれていてなおかつ目立たないように小さく穴が空いていることから三日坊主の類だと判断する。意志薄弱極まりない。

 

「あー、疲れた」

 

 金の無心する必要がなくなったことは僕に意外にも大きな安心感をもたらしたようで、近くにソファがあるにも関わらず僕は大の字に倒れ伏す。

 力が抜けた。

 

「あとは阿良々木暦の所属学科と武偵ランクと普段の生活と舞台に必要な知識がわかれば問題ないんだけどな」

「その大半が貧相ロリから得られていたと思うと涙がちょちょぎれるわ」

 

 申し訳ない。

 申し開きもない。

 

「……忍。当たり前だけど僕達、元の世界に戻れるんだろうな?」

「心配するでない。お前様が学校生活をエンジョイする傍らにエネルギーの高い場所を見つければ戻ることは容易じゃ」

「ならいいんだけど……」

 

 この世界の阿良々木暦に成り代わりつつある身としては、どんな風にこの世を去ったものかとも思うのだ。

 本当なら電話も何も無視して忍の言ったようにエネルギーの高い場所を探せば良かっただけの話が、いつのまにか大きな話になってしまった。

 いつだってどうでもいい話を大きく取り上げてきた僕ではあるが、今回は元々が大きな騒動なだけあって収束する未来がまるで見えない。

 月日ちゃんなら「うがー!」と喚いているところだ。

 もうなんというか、もう考えるのも億劫だ。

 なるようになれと思ってここまできたけれど、やはりここからもなるようになれで進んでいきそうだ。

 

 この現状に対する楽観的な考えは余りにも自分らしくないとは分かっていても止められない。

 なるように流されていく。

 最早河口は近く、事は海のように壮大だ。

 

「……まぁいっか」

「お前さ──!!」

 

 再び僕の膝に腰を下ろしかけていた忍。

 肩を震わせたと思ったら影に潜っていった。

 トイレか?

 そんなわけがない。

 この慌てようは見覚えがある。

 

 光。

 水。

 湿気。

 包丁。

 汗。

 自宅。

 小さい方の妹。

 僕と忍。

 

 そうだ、忍も風呂に浸かっている最中に月火ちゃんが入ってきたときの慌てようと同じだ。

 

 ……つまり。これは。

 

「お、阿良々木。もう帰ってきていたのか」

 

 呑気にそう言って部屋に入ってきたのは、目元が隠れそうなくらいに髪を伸ばした男。

 寮の共同生活の相手。

 

 なるほど今日という日はまだ続くようだった。

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