今回はドイツ編で出た謎が少し解明されるかも。
「全治一か月ですか?」
俺が聞き返すと軍医の人が頷く。
「むしろこの怪我が一か月で治るほうがおかしいんですけどね」
そう呆れ気味に言ってくれるが俺も同じ気持ちだ。戦闘中は気にならなかったのだが俺の怪我は右腕はひびが入り肋骨が四本に全身打撲に体の筋のいくつかは断裂と酷かった。そう酷かったのだ。何故過去形なのかというとその殆どが既に治り始めているのだ。普通ならそんなありえない体の異常に恐怖とか感じるのだろうが俺が思ったのは。
「(なんとかクラス対抗戦には間に合いそうでよかった。間に合わなかったら賭けに負けちまう)」
怪我が理由の棄権とかありえないし、それで鈴に負けるとか最悪だ。負けるとは思っていないが戦わずに負けるのは俺が許せない。
それからもし痛みが酷くなった時のためにと痛み止めを処方して貰い、お礼を言って医務室から出る。
あの偽者野郎と決着をつけてから既に二日が経過していた。あの後、孤狼が解除された俺は血を吐きながら意識を失った。ピットに待機していた医療班たちが直ぐに駆けつけ軍の医療施設に搬送され治療を受けた。そしてほんの一時間前まで病院のベッドの上にいたのだが、謎の驚異的な回復力のおかげで退院許可が下りたのだった。
「まったくヒヤヒヤさせてくれるな」
「いや、だったらあんな馬鹿みたいなIS作らないでよ。ハウ姉」
医務室前で待っていたのは言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべているのはハウ・マオ。俺と一夏共通の第三の幼馴染“メイ・マオ”の姉で姉貴の同級生。元中国代表で現在はマオ・インダストリー社の社長をしている。ちなみにそれを知ったのは意識を取り戻した病院のベッドでいきなり現れた本人から聞かされた。もちろん驚いた。何故最初に気付かなかったと思わず突っ込むくらいに驚いた。
「お前なら使いこなせると信じているからこそ孤狼を託したんだ」
「ていうか・・・・・・ハウ姉そんなクールな性格じゃなかったよね?何?ハウ姉も姉貴の真似してんの?」
ジト目でハウ姉を見る。昔のハウ姉はあっけらかんとした天真爛漫といった人物なのだが・・・・・・。
「も~いいじゃん。人前くらいは出来る女を演じたってさ。あの千冬だって家に居るときはズボラなんだし~」
頬を膨らませながら怒り出すハウ姉。やっぱりキャラを作ってたか。開き直ったのか言い訳を始めるこの人を見てため息しか出来ない。別に悪い人じゃないんだけどな。どうして俺の周りの人は性格に難ありの女性が多いんだろう?
「コホン。まあいい。それよりお前の孤狼なんだがな……」
あ、戻した。
「そこからは私が話しましてよ」
そこには白衣を着た赤い髪の女性。って誰?
「貴方が織斑秋ですわね。私はマリオン・ラドム。孤狼の開発者でしてよ」
「あんたが?」
「貴方の孤狼の可動データを見ましたがまだまだ動きが荒いですわね」
「はい?」
「全身のスラスターをうまく使えば加速中でももっと細かな制御が効くはずです。確かに孤狼の加速は扱いにくいとは思いますが私も考えなしであのような設計をしたわけではありません」
そういうラドム博士だったが俺は思いっきり疑いの眼差しを向ける。
「なんですか?その眼は?」
「いや、どう考えてもアレは考えなしの機体でしょ?」
思わずそう答えてしまった時、博士の目が鋭くなる。
「なら本当の考えなしの機体に乗せて差し上げましょうか?」
「いえ、遠慮します」
あの眼は本気だ。本気で俺をとんでもない機体に乗せそうだ。
「さて、おしゃべりはここまでにしましょう。孤狼はこちらで回収させてもらいました。ですが正直に言えばしばらく貴方に返せません」
「はい?」
「私たちの想定以上に今回の戦闘で孤狼の損耗が激しいのとアルトに想定外の負荷がかかっています。このさいですので孤狼のオーバーホールもかねようと思っています」
「いや、それは助かるんですけど。対抗戦に間に合います?」
「無理だな。ざっと見させてもらったが……」
「ええ。新しいパーツを馴染ませ、アルトや制御システム等のブラッシュアップ。それらを終えるのに最低でも二か月くらいかかると思いなさい」
「代わりのISをちゃんと用意する。だから安心しろ」
マジですか……
そう言われてしまうと俺には何も言えなくなってしまう。だけど今まで孤狼やアルトのおかげで戦えて来れたのだからしっかりと修理してもらおう。まあ代わりのISが気になるがそこはなんとかするしかない。
「分かりました。孤狼とアルトの事、お願いします」
「任されましてよ。それとまだ貴方には話したいことがあります」
ラドム博士がハウ姉を見ると。
「そうだな。お前には話しておいたほうが良いだろう」
ハウ姉が頷き、ついてこいと言われた。
「で?なんで俺は二人に挟まれているのかな?」
「気にするな。私も聞きたいことがあったからな」
「私はラウラちゃんが聞きたそうだったから付いてきただけだよ?」
連れてこられたのはドイツに来てからお世話になっている軍の食堂。その一角に腰かけ目の前にはハウ姉とラドム博士。その反対側に、ボーデヴィッヒとアリスに挟まれて座る俺。
「いや、ボーデヴィ「ラウラでいい」…ラウラは関係者じゃないだろ?」
俺がそういうとピシリという擬音が聞こえラウラが固まるとワナワナと震えながら
「そうか……一緒に、戦った、だけ……だものな……それだけ、だものな……」
「秋君?そういう言い方はないんじゃないかな?」
何故か瞳を滲ませるラウラとそれを慰めながら俺を睨むアリス。
痛い!なんか胸が痛い!?って、あれ?俺、何か間違っているか?
「そろそろ話しに入ってもいいかしら?」
呆れたようなマリオン博士に俺は頷く。ラドム博士っていったらマリオンでいいと言われたのでマリオン博士と呼ばせてもらっている。
「さてまずはデータを見させて頂いてシステム・ベーオウルフが起動したようですが……貴方に異常は出ていませんわね?」
「待って!異常が出るかもしれないシステムって何!?」
俺、そんな話聞いてないぞ!?
「落ち着け。それをこれから話す」
「簡単に言ってしまえばシステム・ベーオウルフ自体に問題はありませんの。あるのは貴方自身」
「俺?」
「ええ。データを見るとシステムが起動時に孤狼の装甲が変貌したと聞いていますが?」
「間違いない。あの時、孤狼は確かに形が変わっていた」
マリオン博士の問いに答えたのはラウラだった。彼女は端末でその時のデータを表示し見せるとそこには青色になり細部が変化した孤狼が移されていた。
「間違いありませんわね」
「ええ。これはゲシュペンストMk-Ⅲだ」
「Mk-Ⅲって孤狼の本来の名前だろ?」
「ふむ?それは聞いているか。そうだ。孤狼は本来ならこの姿で完成するはずだった」
俺の問いにハウ姉はそう返す。
「ですが、貴方に渡すことが決まってから計画は変更され今の姿に落ち着いた…というわけです。つまりシステムが起動したことによって在りえない姿に変化したということになりますわね。まさしく“幽霊”といったところですわ」
「それと俺が関係しているというのは?」
「それは貴方の持つ因子に係ってきます」
因子。そういえばあの時も因子を持つ者って呼ばれた。
「その因子ってなんなんだ?」
「簡単に言えば平行世界に存在する可能性」
「可能性?」
「可能性というのは希望的な言い方ですわね。たとえば平行世界の織斑秋は何かの影響で人間ではない存在となってしまったとします。その織斑秋と同じ存在である貴方にも変異した彼と同じ情報をその身に宿している。故に貴方も平行世界の織斑秋と同じ道を辿る可能性があるということです。それを便宜上“因子”と呼んでいます」
ちょっとまて。さっきから平行世界云々言っているけど、そういうのってマンガとかだけの話じゃないのか?
「平行世界等の概念は実際に研究されているテーマでもあります。私の夫がその手の…いわゆるオカルトをも研究していますし」
「で?なんでシステムが起動したら、俺の因子が孤狼を変貌させることになるんだ?」
「さあ?それが分かれば苦労はしません。ですが肝心なところは因子が活性化しISを変貌させたにもかかわらず貴方が無事な理由。そこなのです」
そこでマリオン博士は紅茶をすする。
「……私は嘗て因子を活性化したことにより異形になった子供を見たことがあります」
「異形って?」
「植物に近い生命体。というのが表現的には正しいでしょうかね」
「その子供はどうして?」
「その子供は予知能力などの超能力を持つ子供でした。その手の研究を行われている研究所に居たのですがある日、叫び、苦しんだ果てに変貌しました。ISを三機用いて漸くしとめられたようですが……とにかく因子が活性化したという表現はあくまでその子の研究によって結論付けられた言葉なのです」
「なおこのことを知っているのはほんの一握りの人間だ。口外はするなよ?」
ハウ姉の言葉に頷く俺たち。
「それで?貴方はどうして無事なのか心当たりはありませんの?」
マリオン博士の言葉に俺は少し考え。
「確か、不完全な俺では勝てないから完全にしてやるって言われて……」
「…不完全?」
俺の言葉にアリスが聞き返す。
「ああ、そう言われた。で、いらねって答えたら後悔するぞって言われたんで」
軽く拳を握って持ち上げて見せる。
「じゃあてめぇはいらねぇから力だけおいてけってぶん殴った」
そう答えるとハウ姉とマリオン博士は目をぱちくりとさせると。
「「あははははははははは!!!!」」
盛大に爆笑された。
「なるほど。どうやら貴方はそれで変貌しなかったようですわね」
「ないない!ぶん殴ってフラグ回避なんて!!」
素に戻って爆笑し続けるハウ姉。そんな中アリスが手を上げる。
「あの、その時なんですけどαパルスという脳波が異常値を出していたんですけど……」
「「αパルス!!」」
さっきとは打って変わって乗り出すようにアリスに詰め寄る二人。
「まさか……T-LINKシステムが起動していたのか?」
「ありえませんわ。事前調査でも織斑秋のαリンク係数は一般人と同等でしたもの」
本人を無視して談義し始める二人。また変なシステムが俺に係ってるんか?
「あの~説明を求めます」
「む?そうだな……アリスが言ったαパルス…正式にはテレキネシスαパルスといってな。脳波の一種なのだがその数値が高いと念動力というものを持つとされる。念動力とは簡単に言えば、まあ超能力みたいなものだと思え」
「ですが、織斑秋は一定の数値に達していなかったはずです」
「ええ。私もそう聞いています」
「そのT-LINKシステムも孤狼についてんの?」
俺の問いにハウ姉は首を振る。
「いや、このシステムはISコアに搭載されている。束の奴が必要だと言って取り付けていたんだ。ついでに世界でこのシステムを起動したとされる人間は五人もいない。ちなみに千冬はその中の一人だ」
「「「ええ!!」」」
うちの姉貴がまさかの超能力者だった件。俺たちが驚いているとマリオン博士は端末で孤狼のデータを見直していた。
「……確かに一時的に高い数値が出ていますが、これでは判断できませんわね。少なくとも念動力者とするならばある程度安定した数値を出さなければ」
「引き続きこの件は調査するとして…そろそろいくとしよう。秋。お前に孤狼を預かる間に使ってもらうISを渡す」
ラウラとアリスと別れ、ハウ姉とマリオン博士に連れてこられた場所はドイツ軍のIS部隊の格納庫。
「実はな。ラーズアングリフ以外に持ってきた新型が一機あってな。コイツもこの後テストするつもりだったんだが・・・・・・事情が事情だからな。お前が使え。孤狼の代わりは勤められるはずだ」
そう言いながら格納庫へと入っていくと一体のISが鎮座していた。
「これって・・・ゲシュペンスト?」
鎮座しているISは量産型ゲシュペンストMk-Ⅱと酷似していたが所々が違う。疑問に思っているとハウ姉が説明してくれた。
「今、世界中では第三世代のISを開発中なのは知っているな?」
「ああ。でもゲシュペンストは二世代機だよな?」
「そうだ。わが社でももちろん第三世代機を開発しているのだが・・・・・・嬉しいことにゲシュペンストを使用し続けたいという声もあってな。結果、ゲシュペンストを強化改造しそのスペックを第三世代にまで引き上げようということになった」
その試作機がこれだ。と教えてくれた。
「まあ、わが社の三世代機の特徴は二つ。ISのコアと連動することで装着者とISの仲介補助を行い、成長することで単一仕様とまでは行かないが独自の思考を形成し装着者の癖などを読み取り、装着者とISの性能を極限まで引き出すことが出きる様になるAIの搭載とISに搭載されているPICの発展強化を目指して作られた超高効率反動推進装置、通称“テスラドライブ”を搭載する。この二つだ。もちろんこのMk-Ⅱ改にもそれらは搭載されている」
ハウ姉の説明を聞きながらも俺は既に新型のゲシュペンストMk-Ⅱを触っていた。ぱっと見は改良前とあまり変わってないように見えるがハードポイントが各所に取り付けられている。でもこっちの方がなんかスタイリッシュになっていてかっこいいな。そんな俺を苦笑してみていたマリオン博士は。
「そのゲシュペンストシリーズの強化案『ハロウィン・プラン』と名づけているのですが・・・・・・孤狼もその計画で生み出されたISですのよ」
「マジですか?」
「ええ。貴方の可動データと戦闘の癖を見て決めました。オーバーホールのついでに孤狼を改良しテスラドライブも搭載します。幸いにも新型テスラドライブのデータはヴァイスリッターで取れていますからね。ふふふ…安心しなさい。貴方の孤狼はより強力な加速と凶悪な武装によってどんなISをも圧倒できるISに仕上げてみせますわ!!」
何かヤバい目をして高笑いするマリオン博士。なんだろう?凄い寒気を感じる。
「あ~……Mk-Ⅱ改はIS学園に送っておくからそこで調整してくれ」
「今回は格闘戦重視のパッケージに換装しておきますから」
ハウ姉とマリオン博士から簡単に説明を受け、最後にレポートを提出することと付け加えて格納庫を後にした。ハウ姉はこれからグレッグさんと色々話さなければならないんだそうでマリオン博士は「テスラドライブをバランサーに使用すればお蔵入りにしていたアレを取り付けられそうですね」などと笑っていた。アルトごめん。なんかとんでもないことになりそう。
「ってここからどうすればいいんだ?道なんか分からないぞ…」
幸いにもここの人たち(IS部隊の人や司令)は日本語が出来るがそれでもほんの一部の人たちだ。他の兵士さんたちは言葉が通じない。道を尋ねたくとも言葉が通じないと意味がない。さらにスマホも預けてしまっているのでアリスにも連絡は取れない。
「どうするか?」
思わず頭を抱えていると。
「こちらにおいででしたか。織斑秋殿」
「・・・・・・ハルフォーフ大尉?」
黒を基調とした軍服に左目の眼帯、右斜めにベレー帽を被った女性“クラリッサ・ハルフォーフ”が立っていた。
「クラリッサで構いませんよ。隊長を助けていただいた方ですから」
そう微笑むクラリッサさん。助けたと言ってもぶん殴っただけなんだが……
「わ、分かりました。俺も秋でいいですよ?クラリッサさん」
「そうですか。では秋・・・と、いい響きですね」
今までにない反応になぜか照れてしまう。顔が赤くなっていないか心配になりながらも付いてきて欲しいというクラリッサさんの後をついていくのだった。
「(うむ。やはりこういう場面で使うと効果的だな。流石は日本で人気の型月の作品だ。運命の夜の弓兵ルートと剣士ルートには涙が止まらなかったがアレはいいものだった)」
クラリッサ・ハルフォーフ。22歳。彼氏なし。趣味、日本の漫画やアニメ、ゲームなど・・・・・・所謂、オタクと呼ばれる分類だった。なお余談だが、ドイツのIS部隊『黒ウサギ隊』のメンバー全員が流暢な日本語ができる原因は彼女だったりする。そして彼女たちの間で流行っているのが恋愛系の漫画でそれを日本の常識と勘違いしているところがある。まあ彼女たちの大半が十代な訳で興味が湧くのも分かるが・・・・・・それを訂正できる人物がいないことが後に喜…もとい悲劇がうまれることになろうとは今は関係ないので割愛させていただく。
「(それにしても先ほどから顔を赤くしているようだが・・・・・・?なるほど。昨日の戦闘ですっかり忘れていたが彼も思春期なのだから女性に興味があるのは仕方がないか。それに彼がいるのは女子ばかりのIS学園。たとえ双子の兄が一緒でも欲求不満なのかもしれん。ん?ということは今、私は彼に女として認識されているのか?・・・・・・わ、悪くはないかもしれない。年下の彼氏というのも…)」
秋から見えないが今のクラリッサの顔はだらしなく緩んでいた。
クラリッサさんに連れてこられたのはドイツが誇るIS部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』通称『黒ウサギ隊』の詰め所だった。
「どうぞ。中にお入りください」
「は、はぁ・・・・・・」
カシュンっという音を立てて開かれたドアの向こうにいたのは黒を基調とした軍服(なのに下がミニスカでガータが見えますが?)に全員が左目に眼帯をしているという異様な光景だった。
「お前たち!我らの隊長を救ってくれた恩人、織斑秋殿に敬意を表し敬礼!!」
クラリッサさんの号令に一糸乱れぬ敬礼をする黒ウサギ隊。その迫力に思わず一歩後ろに下がろうとしてしまう。
「貴方には本当に感謝しています・・・・・・お怪我のほうは大丈夫ですか?」
「あ、問題ないです」
怪我は問題ないがこの空間に圧倒されているだけだ。IS学園より居づらい。
「そうですか・・・・・・ではこれから簡単にですがこのシュヴァルツェ・ハーゼのことを説明してもよろしいでしょうか?」
「お願いします」
まあ、どうせもう学校には間に合わないのだ。せめて少しでもIS技術を学んで帰ろう。こうして開き直った俺はクラリッサさんによる見学ツアーを始めたのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「それで今回の事件ですが・・・・・・」
「ええ。完全にドイツ軍にはIS委員会からの査察が入るでしょうな」
司令部の一室でハウとグレッグが対談をしていた。
「場合によってですが、私は更迭されるでしょう。しかし、それは仕方がないと考えています。部下を抑えられなかった私が悪いのですから」
「それなのですが・・・・・・今朝、ノーマン委員長から書状が送られてきました。貴方に渡すようにと」
ハウが懐から出した書状を受け取り、グレッグは眉間に皺を寄せる。
「やけに対応が早いですな?」
「どうやら既に誰かが情報をリークしていたようです」
「一体誰が・・・・・・!?まさか篠ノ乃博士か?!」
「私と千冬はそう考えています。束は昔から自分の邪魔をする者には容赦がありませんでしたから」
ハウの言葉に唸りつつもグレッグは封を切り、中の書類に目を通す。
「委員長はなんと?」
「今回のことは不問にすると・・・・・・そして少佐をIS学園に転入させるようにと書かれていますな」
「それはそれは・・・・・・」
「こちらにしては軽い処置に驚きですがね。それに少佐に関しては既に手続きが終わっているようですしな」
本当に驚きだとグレッグはソファーに背を預ける。
「では本題ですが・・・・・・わが社のラーズアングリフはいかがでしたか?」
「ふむ・・・・・・ハルフォーフ大尉からは扱いやすく性能も素晴らしいと報告は受けている。しかしドイツ国内で保有しているISは全部で十機。シュヴァルツェ・ハーゼにはその中で三機も与えられている。しかし、シュヴェルツェア・レーゲン、シュヴァルツェア・ツヴァイクとの連携を考えるとラーズアングリフを導入したいとは思うがね」
「ありがとうございます・・・・・・それとボーデヴィッヒ少佐のISですがこちらで預からせてはいただけませんかね?」
「ん?どういう意味だ」
「大破したシュヴァルツェア・レーゲンをわが社で強化改修。少佐をこちらに出向という形にしてその際の稼動データ及び得た技術をそちらに提供する。ということです」
「なるほど・・・・・・技術提供を名目に人材を引き抜くか」
「もともとラーズアングリフはドイツとの共同開発ですからね。どちらにしてもそちらへお渡しする予定でした。それにドイツでも第三世代開発には手間取っているのではありませんか?」
「確かに・・・・・・我が国はレーゲン型を出す予定とはいえ、少し決め手に欠けると思っていたところではある」
「わが社は既にハロウィン・プランを立ち上げています。まだわが社の独占技術であるテスラドライブにサポート用AIも成果が出始めています。そのデータももちろんお渡ししましょう。いかがでしょうか?悪い話ではないと思いますが?」
グレッグは暫し目を閉じ思考すると目を開け、ハウを睨むように見据える。
「確かにマオ・インダストリーのIS技術は評価しよう。しかし、そこまでするのは何故だ?態々、自身の手の内を明かさなくてもいいのではないかね?」
稼動データと得た技術の提供・・・・・・確かに世界条約の中にIS技術の提供を義務付けてはいるが、マオ・インダストリー社は積極的にその技術情報を提供している。現に量産型ゲシュペンストMk-Ⅱの性能は高く、それをコンセプトに第三世代開発を行っている国もある。それにしてもマオ・インダストリー社はあまりにもその技術を提供しすぎている気がしてならない。グレッグは目の前の女性が何を考えているのかが分からなかった。企業と言う以上は利益がなければならないというのに。
「グレッグ司令は“亡国機業〈ファントム・タスク〉”はご存知ですか?」
ハウの突然の話題転換にグレッグは疑問を浮かべるが続きを促す。
「これは極秘情報なのですが、つい先日イギリスの試作型第三世代機が一機盗まれました」
「なんだと!」
「そしてわが社にもデータハッキングの形跡がありまして・・・・・・現在追跡中ですが、多分犯人は同一犯かと思われます」
息を吐き頷くグレッグ。ハウも佇まいを正し言葉を続ける。
「亡国機業の目的は今だ不明ですが、戦力として世界各国のISを強奪しているのは事実。わが社が技術提供を頻繁に行っているのは技術の差を少しでも埋める為・・・・・・そして、剣なき者の剣となる者たちを作り上げる為なのです」
「ボーデヴィッヒ少佐はその計画に必要と判断されたか?」
「はい。わが社ではISによる犯罪が起きた場合に備えての部隊を設立しようと思っています」
「・・・・・・できるのかね?」
「ノーマン委員長には許可を得ています。そしてその為の第三世代機であり、ハロウィン・プランでもあります」
「いいだろう。我がドイツ軍IS部隊もそれに全力で協力しよう」
グレッグは肯き笑みを浮かべ、ハウを見る。
「よろしいのですか?」
「今更ではないのかね?それに白騎士、黒騎士が再び剣を取ろうとしているのに我々が黙ってみているわけにも行くまい?」
そうだろ?黒騎士?そうグレッグが言うのを見てハウは驚きに目を見開く。
「お気づきでしたか?」
「知っているのは一部の人間だ。安心したまえ。誰にも言う気はない。それにあの事件は私たち軍人にとっては強烈だったからな・・・・・・だが、今となっては気にはしていない。ただ、若い者が戦場に出るようになるかと思うと情けなくはあるがな」
悲しそうな目を見てハウはすまなそうに謝罪する。
「いえ・・・・・・世界を変えてしまった責任は私たちにありますから・・・・・・」
「責任を取るつもりかね?」
「はい。ですがそれは全てをやり終えてからだと思っています」
「それでいい。何、君達だけに苦労はさせんよ。裏方は任せたまえ」
「ありがとうございます。グレッグ司令」
それから細かい打ち合わせを終わらせ、ハウが退室した後、静かにデスクの電話を取る。しばらくのコールの後。
「・・・・・・私だ。久しぶりだな。レイカー」
『そうだな。グレッグ。それよりどうした?無駄話をするために掛けてきたのではないのだろう?』
電話越しから聞こえる声にグレッグは頷き。
「お前の言うとおり、黒騎士は信頼に足る人物だった。こちらも当初の予定通りに彼女たちのバックアップをしようと思う」
『そうか・・・・・・こちらも轡木と共に動いている。更識君にも彼を鍛えてもらうように頼んでおいた』
「なるほど。織斑一夏か?」
『そうだ。彼は白騎士を超える存在になりそうだよ』
「情けないものだな。ISの登場で私たち、軍人はただ椅子に座っていることしかできない」
『だからこそ、彼らが良き方向に成長できるように裏方を勤めることにしたのではないか?』
「そうだったな・・・・・・それにしてもいい男だったぞ?織斑秋は。彼さえ良ければ自慢の娘たちを預けてもいいと思った」
『ハハハ。彼も災難だな。君に気に入られるとは』
「ハハハ。何、あそこまで芯が通っていて鍛え甲斐のある男だとは思っていなかったのでな。出来れば早く酒をかわしてみたいものだ」
『そうかそうか。その時はぜひ私も呼んでくれ』
「そうだな。・・・・・・では私からブライアンに話を通しておこう」
『うむ。フランス政府にはこちらから話を通しておく。それではな。グレッグ』
「ああ」
電話が切れると受話器を置き、グレッグは静かに息を吐く。
「・・・・・・篠ノ乃博士。貴方が何を考えてISを発表したのかは知らないが・・・・・・全部が全部貴方の思うとおりになるとは思わないで欲しい」
世界は回る。それが天才の思い描いた通りなのか、それとも別の意思が介入しているのかはわからない。それでも世界は回り続ける。
マリオン博士の口調、こんな感じだったと思うんですが……
あと因子などについてはこんな説明ですいません。頭ではなんとなく纏まっているんですが言葉で説明しようとすると表現が難しいですね。解りにくかったら申し訳ありません。
もしかしたら後で直すかもしれません。
ご意見、ご感想をお待ちしています!