と、とにかくどうぞ~!
あの無人機戦から数日が立った五月下旬の日曜日。俺はマリオン博士から呼び出しを受けた。
「ふむ。ここがマオ・インダストリーか」
「で、箒さんや?一体何でついてきたん?」
そう、何故か俺の隣には箒がいた。
「ああ、ハウさんから試作機で良かったらISを貸し出すと言われてな。お前がマオ・インダストリーに行くというのでついてきたというわけだ」
「いや、それって専用機じゃないのか?」
「私もそう思った。だがあくまでレンタルだそうだぞ?現に私以外にも二名声をかけたそうだ」
箒が言うには貸し出す条件は二つ。IS適性値B+~Aを持っていること。期間内に一定時間の操縦及び戦闘データを取ることが出来ること。らしい。
「あれ?お前、前に適性値はCって言ってなかったか?」
「一夏の特訓で打鉄に乗り続けていたら先日B+になった。そして運がいいことに私の周りには専用機持ちがたくさんいるからデータ取りには困らないというわけだ」
「なるほどね」
マオ社の受付で自分とマリオン博士の名前を出した途端、「ああ…この子が…」と何故か憐みの目を向けられてしまった。
「よく来ましたわね。秋」
と、そこで現れたのはマリオン博士。博士は箒を一瞥すると。
「貴方は社長から試作機を受領する為に来たのでしたわね。秋と一緒についてきなさい」
俺と箒は顔を見合わせ、先を行くマリオン博士の後を追いかけて行った。
「試作機というのはどういうものがあるんですか?」
「色々ですわね。まぁ、私が係った物もあれば夫が係った物もあります。良く見て選びなさいな」
着きましたわ。と博士に言われて俺たちが入ったのはマオ社のIS整備室。その中にはもちろんIS専用のハンガーがありその中の一台に一か月ぶりに見る孤狼の姿が。だがその前に一人の金髪の少女がいた。その少女はIS学園の制服を着ていたからきっと箒と同じく試作機の貸し出しを受けたひとりなんだろう。
「気に入った。あたしはこいつを選ぶぜ」
「いや、孤狼は俺の相棒なんで」
少女の言葉に思わず突っ込むと少女は振り返り。
「ああ?お前のだ?」
金髪の少女は紫と緑のオッドアイで俺を睨みつけるように見てくる。リボンの色からして二年だと思うが。
「カチーナ。その孤狼は織斑秋の専用機でしてよ」
「そうかい……おい、後輩。こいつをあたしに譲れ」
「いやだね」
「いい度胸じゃねぇか…」
「そっちこそ…俺を舐めてんじゃねぇぞ」
互いににらみ合うことしばし、箒はため息をつきマリオン博士は興味を無くしたのか孤狼のハンガーへ向かってしまった。
「ハン。言うじゃねぇか…悪かったな。あたしはカチーナ・タラスク。IS学園の二年生だ。よろしくな。後輩」
「いえ、こちらこそすいませんでした。タラスク先輩。俺は織斑秋です」
「いいぜ。カチーナで。あたしも秋って呼ばせてもらうからよ」
「了解。カチーナ…先輩」
「はは、まあそれでいいぜ?」
口調は荒いが話してみるといい先輩だった。本人の話では試作機の貸し出しを受けたのは試作機というフレーズに魅力を感じ受けたのだとか。
「あたしがISに乗るのはISに可能性を感じたからだな。いつかISで宇宙へ行って見たいもんだぜ。まぁ、ラッセルにはいつも心配かけちまうが…お前が乗れたんだからアイツも乗れればなぁ。あたしの相棒にすんだけどな…」
「ラッセル?」
「ああ。……その、なんだ……あたしの恋人だよ」
頬を赤く染め照れながら言うカチーナ先輩には悪いが俺の心中はマジか…の一言だった。隣で話を聞いていた箒も似たような心境だったらしい。
「あ?なんだよ?その面?あたしに男が居ちゃいけないのか?」
「「まったくもって…」」
「まあ、いいや。あたしにはもったいない男だってのは自分でもわかってるしな」
「「(ラッセルって言う人にものすごくあってみたい)」」
いつか絶対合わせてもらおうと心に誓った。
「さて、カチーナ、箒はもう少しお待ちなさいな。もう一人来てから話をしますから。秋はこちらに来なさい。現在の孤狼の状態を説明します」
マリオン博士の言葉に俺たちは頷き、孤狼の元へと向かう。カチーナ先輩に箒も興味があるのか傍に来ている。
「さて、貴方から引き取って孤狼のオーバーホールを行いました。関節部や駆動系のパーツは馴染みが速かったのはうれしい誤算でしたわね。アルトと制御システムの方もテスラ研から来ていたロバートに手伝わせてこちらも早くに終わりました。後は実際に貴方に起動させてもらって調整ですわね。次に変更点を説明します」
そういうと博士から端末を渡され、データが表示される。ハンガーに置いてあった時点で気が付いていたがやはり細かな部分が変わっていた。いや、一つ大きく違う点があった。
「今回の改修で孤狼にはシステム・ベーオウルフで見られた変化を考慮に入れ、スラスターを増設しています。脚部に背部が主な変更点ですわね。特に背部には大型のフレキシブルスラスターにヴァイスリッターのデータと予備パーツで作ったスタビライザーを搭載したのでより運動性の向上に加えて柔軟な加速移動ができますわよ。肩のアヴァランチクレイモアはベアリング弾を最新型に変更し弾数を増やしました。これにより中近距離で十分猛威を振るってくれるでしょう。そして頭部はヒートホーンを大型、延長したプラズマホーン。これは貴方が思っていた以上にヒートホーンも使っていたので採用しました。頭部保護に追加バイザーも着けたので遠慮せず使いなさいな。最後にステークは外させてもらい代わりに私自身、いい作品だとは思っているのですが重量がありすぎてバランスが取れない為、お蔵入りになってしまったリボルビングバンカーをこの際につけてみました」
とてもいい笑顔で話してくださるのはいいのですが……これ、何と戦うのですか?
「秋。貴方が思っている以上に今の世の中は異常です。特に純正なISを動かせる男子の一人としてこれからどんな争いに放り込まれるかわかりません。力がなくては守るものも守れませんわよ?」
「…わかりました」
「よろしい。後、バンカーを装備したらやっぱりバランスが悪くなってしまったのでヴァイスリッターと同じようにテスラドライブを搭載しました。これにより推進力の向上とバランス補正が行われた結果、現存するISでこれ以上の火力と突破力を持ったISはいないと断言できますわ」
「ちなみに改修前の孤狼とどれくらい変わったんですか?」
「そうですわね。貴方に渡した新型のISスーツを着てもかかるGは相当なものでしょうね。もちろん一般的なISスーツで乗るなんて一瞬で死にますからおやめなさい」
お願いですからさらっと死亡前提な機体を渡さないでください。
「あぁ。やっぱあたしには荷が重いわ。そのIS…うし、頑張れ!後輩!」
「そうだな。お前なら使いこなせる!」
カチーナ先輩と箒の声が後ろからかかるが嬉しくない。
「装甲も最新技術で仕上げてありますから孤狼の時よりも二倍強度があがっていますしビームコートも強度を上げています。さらにISコアだけでは出力が不安だったので特機用に製作した新型のプラズマリアクターを搭載しました。おかげで出力も十分にスラスターに回せるようになりました。これら全てで孤狼は真の意味で完成したと言えるでしょう。秋、この孤狼と共にすべての障害を粉砕して見せなさい!」
「が、がんばります」
やべぇ…この人、マジでやべぇ……
「では、さっそく動かしましょうか」
「はい?」
「安心なさい。お昼までには終わりますわ」
現在時刻午前十時ちょっと……
「ア、ハイ」
そうとしか答えられなかった。俺、生きて帰れるかな?そんなことを考えていると。
「遅くなって申し訳ございません」
扉が開く音と声が聞こえそちらを向くと、腰まで届く長い白に近い銀髪に赤い大きなリボン、そして赤い瞳をもった少女。そんな少女が一礼し入ってくる。制服もロングスカートでカチーナ先輩とは正反対の印象を受ける。
「「!」」
しかし、彼女と目を合わせた瞬間、俺は臨戦態勢を取ろうとしていた。いや、箒も目が鋭くなっているし、カチーナ先輩は一瞬だけ反応したもののすぐに戻ったが、この人は外見とは裏腹にやばい人種なのかもしれない。
「あたし以外にこの話を受けたのはお前だったのか…セリア」
「はい。セリアもこの話はちょうど良かったと思いましたので…」
カチーナ先輩の知り合いのようなので俺と箒も自己紹介をする。
「フフフ……貴方様が秋様ですね。セリアも自己紹介させて頂きますね。セリア・グリムズと申します。出身国はイギリスで代表候補生の一人です。気軽にセリアとお呼びください」
「はい。よろしくお願いします。あと様なんてつけないでください。秋でかまいません」
上品にほほ笑むセリア先輩だがどうしても警戒心が取れない。箒も同じらしくセリア先輩の動きを気にしているのが分かる。
「(安心しな。後輩ども、アイツは味方には牙を向けねぇよ。ただ試合とかで敵対した時は要注意だけどな)」
「フフフ…カチーナも酷いですね。敵に情けをかける必要はありませんよ?」
こんな人に何で声をかけたんだ?ハウ姉は……。
「では、秋は試験場へ。貴方たち三人は私から試作機の説明をします」
待機状態にした孤狼を渡されマリオン博士に促された俺は箒と別れ試験場へ。そこで久しぶりに孤狼を展開し昼になるまで調整を兼ねて動かした。
感想として言わせてもらえればこんなん人間が乗るもんじゃねぇよ!アルトからも『なんでマスターは耐えられるんですか?』って言われたよ!確かに耐えられるけどさ。代わりに朝食ったもん全部戻した……。それも一時間ほど動かしたら慣れたけど。武装も一通り使ってみた。もし今の孤狼が対抗戦の時に間に合っていたらあの三体相手に苦戦することもなく倒せたと思う。だからこそマリオン博士の言葉が頭に浮かぶ。大切なものを守るためには力が必要だ。俺の新しい力。必ず使いこなしてみせる!俺はそう決意した。
「では、孤狼は今回のデータから再調整をしておきます。確か次の学園行事は六月でしたわね?それまでには完璧に仕上がりますから安心なさい」
「はい。お願いします」
マリオン博士に礼をいい箒と共にマオ社を後にする。カチーナ先輩やセリア先輩はこの後、借りた試作機を動かしてみるらしい。セリア先輩に模擬戦を申し込まれたカチーナ先輩が真っ青な顔になっていたからやっぱりセリア先輩と戦う時は要注意だ。そして箒はというと。
「~♪」
とても機嫌が良かった。
「お前はどんな試作機を借りることにしたんだ?」
「ふふふ。秘密だ」
そういって笑う箒に俺は首をかしげるしかなかった。
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「秋、来てたんだ……顔位見せて行けばいいのに…」
箒と秋が歩いていくのを窓から見ていたのはIS学園の制服を身にまとったシャルロットだった。
「いいじゃない。シャルはIS学園に編入、いつでも会えるじゃないの」
シャルロットの呟きに答えたのはスーツ姿のメイ。二人はマオ社の社長室に来ていた。
「ごめんね~遅くなっちゃった」
そう言って入ってきたのはハウ。
「姉さま?珍しいですね?その口調?」
普段なら仕事の時、クールな振りをするハウがプライベートの時のしゃべり方をするのは珍しい。そう思ったメイだったが。
「まあ、今くらいはね。それでごめんね。急にIS学園に行くことになっちゃってシャルちゃん」
「いえ、社長がデュノア社を買収していなかったら僕は男として行くことになっていましたから…それに比べれば偽らずに学園に行けてうれしいです」
シャルロットは思い出す。母親が死に父親だという人物が現れてからの事を。父親の正妻からは愛人の娘の分際で!と罵りを受けたこともあった。デュノア家では誰も味方はいなかった。さらに自分に高いIS適性があることが分かってからは毎日がIS漬けだった。今はヴァイスリッターとなった元ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡはその時に与えられた物だ。ただ黙々と出される課題をこなしていたある日、ハウが現れ、こう言った。
『君は今、分岐点に居る。私と共に世界の真実と向き合い戦うか何も知らずただの少女として暮らすか…選びなさい』
その時は何を言っているのかよく分からなかったシャルロットだったが彼女はハウの手を取って。
『戦います。もう誰かの言うとおりに生きるのは嫌です』
そして日本に連れてこられマリオンやメイに出会い、ラファールはヴァイスリッターとなった。
「(あれから父さんには会っていないけど…)」
ハウからは解雇はしていないという風に聞いているので少なくとも路頭に迷ってはいないようだが。
「でも、デュノア社長はどうしてシャルを男として学園に入れられるなんて考えになるのかしら?」
メイの呟きにシャルロットは思考を戻した。
「それだけデュノア社長とデュノア社は追い詰められていたってわけ。まあ、私としてはおかげで予定以下の金額でデュノア社が買収出来て、そこの技術者に保有していたISコア、優秀なパイロットが手に入って万々歳だけどね」
「姉さま、ぶっちゃけすぎです」
「いいよ。メイ」
「では、シャルちゃんには引き続きヴァイスリッターを使ってもらうとして希望する武装は持って行っていいからね?その代り…」
「はい。秋と一夏の護衛ですね」
シャルロットの言葉にハウは苦笑し。
「まあ、あの二人生身なら十分強いみたいだけどISに関してはまだまだだからね。護衛というか傍で一緒に戦ってくれればいいよ。後何かあれば報告してくれれば」
「分かりました」
そう答えたシャルロットにハウはニヤリと笑みを浮かべ。
「なんなら、秋とくっついちゃえば?大丈夫!シャルちゃんの可愛さとスタイルなら、夜ベッドに忍び込めば、後は「姉さま?」…ひぃ!?」
にっごり
そんな言葉が似合うような黒い笑顔を見せるメイ。その右腕には部分展開されたスタッグビートルクラッシャーが。
「お、落ち着いて?メイ?私が悪かったから…ね?」
「……後で挟み潰す」
「あ、秋のベッドに…?え、えへへへ、どうしよう?激しくされたら…でも、それはそれで…」
「シャル?」
「ひゃ、ひゃい!?」
わずか数秒で妄想にふけっていたシャルロットを冷たい眼差しと声色で引き戻したメイは部分展開を解除しソファーへ座りなおす。
「え、えっと……それでメイは良かったのかな?学園に転入しなくて?」
「姉さま。その話はもう何度もしたでしょう?私がいなくなったら“あの人たち”とどうやって接触を続けるつもりなんですか?」
「そうだね。メイは引き続き彼らとの接触をお願い。今日来た三名が選んだ試作機のほうの手続きも済ませるだけだし…よし!今日のお昼はお姉ちゃんが二人に奢っちゃうよ!」
そうハウが言った瞬間。
「あ、松葉江寿司さんですか?特上寿司を五人前お願いします。はい。最高のネタを使ってください」
「メイ!?」
「早いな~メイは…」
スマホで出前を取っているメイにシャルロットは苦笑していた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一夏とデートの約束があると言う箒と別れた俺は折角なので新しく出来たというショッピングモールへ買い物に来た。それにしても何時の間に二人は付き合ってたんだ?これは寮に戻ったら聞き出すしかあるまい。ひそかに拳を握りしめた所で隣から声がかかる。
「で、あっきーは何を買うの?」
「無くしたピアスの代わり」
何故か、ばったりと出くわした布仏と一緒に買い物をすることになった俺は自分の左耳を触って見せる。
「あ~ほんとだ」
「まあ、つけてなくてもいいかと思ったんだけどな…姉貴の奴、朝、あったら俺と一夏の区別がつかなかったからな」
箒と鈴、そして布仏は分かったのに……解せぬ。
「ん~……ならあそこのお店がいいよ」
布仏に案内されるまま着いたお店で物色する事、三十分。
「これがいいな」
選んだのは赤と黒の無骨な物。穴を開けなくてもいいタイプなので問題はないだろう。さっそく購入し、店の外で左耳につけてみる。
「お~あっきー似合うね!」
ぱちぱちと手を叩いて褒める布仏。しかし俺に向かって手をだすと笑顔で言った。
「もう一つ残ってるよね?それちょーだい?」
「なんでだよ?これは予備にする予定なんだよ」
「ちょーだい?」
「いやだ」
「ちょーだい?」
「しつこい」
「……くれなかったら、あっきーの机から二番目の引き出しの二重底に閉まってあるDVDをりっちゃんに持っていくから」
「なんで知ってる?!」
声のトーンを落としてボソリと言った布仏の内容に俺はゾッとなった。それのことは一夏も知らないんだぞ!?ヤダ、ちょっとこの子コワい…
「くっ…ほら」
「わーい!」
決して屈したわけじゃないと言い訳を自分にしておく。いや、ホント…アレヲリンニミラレタラ、オレハコロサレル。思わずカタコトになってしまったが今度、家に戻ったら処分しよう。
「どう?」
「ん?お、意外と似合ってるな」
右耳に着けた布仏が見せてくる。見かけによらず似合っていて素直に褒める。
「やった~」
「はいはい。で?お前は何を買いに来たんだ?」
「お菓子」
さっきまでのテンションとは打って変わって真面目に言う布仏に呆れる。
「いや、そんな真面目に言うほどの物か?」
「部屋のお菓子ボックスがからっぽになっちゃったの。だから補充しに」
「荷物持ちくらいしてやるよ」
「お?あっきーが優しい」
「さらっと脅す子に言われたくないけどな!」
「えへへ~じゃあ行くのだ~あっきー号!」
「おい!こらっ!!」
そういって人の背に飛び乗ってきた布仏を落とさないようにし、俺は早まったかな?と後悔しながら布仏の買い物に付き合った。
そのお菓子の量は凄まじく持って帰ると騒ぐ布仏を他所に宅配を頼んだ。お前、段ボール三箱分っておかしいだろうよ?
今回はちょっと短め。
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