「な、なんなんですの・・・・・・」
セシリアは先ほどの試合を見て唖然としていた。最初はたかが男の操るISだから自分には敵わないと思っていた。現に織斑秋がピットに出てきたかと思ったら壁にぶつかり、その後もまともな機動が出来なかったところを見れば、ああやはり期待はずれと思ってしまった。
しかし、試合も中盤に入りお互いに慣れてきたのであろう頃には少しずつではあるが試合の内容に驚愕するようになっていた。専用機持ちのセシリアから見ても明らかな欠陥品だと思わざるを得ない通常のISでは考えられない加速を持つISを秋は少しずつではあるが自身のものにし始めたからだ。
数少ない兵装であるステークを構え、加速力を生かした突撃。
「(さすがにあの馬鹿みたいな加速で突撃されてはやりづらいですわね。でもわたくしとブルー・ティアーズなら・・・・・・)」
第三世代兵器であるBT兵器を持つ自身のISとそれを扱ってきた自分の腕ならばあの男を捉えられる。
「優雅に舞ってみせますわ。どんな相手でも」」
そう考えて試合をみていたら二体のISが突然、光を放ちその形状が変わったところを見てまた驚愕した。
「ま、まさか初期設定で戦っていたというんですの!?」
それからはさらに激変した。明らかに動きがよくなった二体の演舞。片方は大型のウイングスラスターがまるで天使の翼のように閃き、白く輝く騎士甲冑は見る者を魅了する美しさを持ち、輝く刀身を持つ近接ブレードが合わさりとても輝いていた。片方は今のISでは珍しい全身装甲。しかしそこから感じられるのはまるで炎のような鼓動。挙動の一つ一つが古の巨人を思わせる力強さ。二つのISは互いに接近戦を行いながら徐々に、だが確実にシールドを削りあっていく。白い流星と赤い衝撃。二体のISを例えるならこれが一番適した言葉ではないだろうか?気付けば二人の戦いに魅せられている自分に気がつく。
そして互いに決着をつけようと宣言。それぞれの得物を構え、向かっていく。ここでもさらに驚かせられた。代表候補生として訓練をつんできた自分ならいざ知らず、男のそれもIS初心者の筈の秋が瞬時加速を使い、爆発的な加速力を持って一夏の懐に飛び込み、右腕のパイルバンカーを叩き込む。その轟音はアリーナ中に響き、空中を二転三転と回転しながら地面に落ちた一夏を尻目にグラウンドにかなりの速度を持ったまま地面を抉りながらも着地し、その赤き鋼鉄は威風堂々と力強く立ち上がる。赤き鋼鉄の持つ武装の威力に顔が青ざめる。
「(あの右腕の武装は絶対に受けてはなりませんわね)」
心に刻みこむ最後の一撃。ISには絶対防御というものがあるのは常識。しかしあの赤き鋼鉄の放つ一撃に果たして絶対防御は本当に己の身を守ってくれるのか。そう思わせるほどだった。それはセシリアがISに係って、否、人生で初めて感じた圧倒的な暴力だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一先ず地面に激突した一夏を送り届け、自分のピットに戻った俺を待っていたのは。
「この大馬鹿者」
何故か不機嫌な姉貴と。
「まあ、初起動のMk-Ⅲでの戦闘という事を考えれば頑張ったほうだね」
ニコニコと笑みを浮かべたスーツ姿のブロウニングだった。
「なんでブロウニングがここに?」
「アリスでいいよ。秋くん」
「そして何故ここにいるかはお前の孤狼を開発したのがマオ・インダストリー社だからな。彼女はデータ収集もかねている」
ブロウ・・・アリスに続き説明してくれる姉貴に俺は納得しながらISを待機状態にする。さすがに連戦するわけにはいかないので間に休憩を挟んで次の試合が行われるらしい。
「マオ・インダストリー社ね。じゃあやっぱりアリスは・・・・・・」
「うん!私はマオ・インダストリー社の専属操縦者なんだよ!専用機がゲシュペンストタイプなのもそれが理由だね」
なるほどだからMk-Ⅱを借りられたのか。と今更な納得をする。そういえば最初にそんなことを言っていたな。
「うん?Mk-Ⅲ?」
先ほどからアリスが孤狼を違う名前で呼んでいる事に気がつき首を捻る。
「そ。孤狼のことだよ。ゲシュペンストMk-Ⅲ。それがこの子の本当の名前。まあ従来のゲシュペンストシリーズとは明らかに異なる設計をされちゃったから正式な記録には残されない名前になっちゃったけどね」
何故か悲しそうに俺の右手首に付けられた赤いリストバンドを見る。
「かなり扱いづらいISに仕上がったみたいだけど頑張って使いこなしてね」
「ああ。必ずものにしてみせるさ」
「うん。よろしくね。あとコレ・・・・・・」
「何これ?」
アリスから手渡された分厚いマニュアル本が二冊。一つはIS起動におけるルールブックでもう一つが孤狼についてのマニュアルだった。
「しっかり頭に叩き込んでおけ。一夏のIS“白式”もそうだがお前のIS“孤狼”も特別製だ。暇な時間があれば起動し使いこなせるようになっておけ」
「了解。織斑先生」
姉貴に返すと姉貴は時計を確認しながら。
「後五分したらオルコットとの試合だ。準備しろ」
「はい」
いよいよ、アイツと戦う時がきた。今度はさっきのような無様な姿は見せられない。軽く自身の手を見つめ握り締める。
「よっ!秋」
「いよいよだな」
ISスーツを着たままの一夏と一夏のピットに居た箒がやってくる。どうやら俺の応援に来たらしい。
「なんだ?もう動けるのか?」
「当たりまえだ。それにしてもやっぱ負けちまったな」
「まったくだ。情けない」
一夏の呟きに箒がジト目で睨む。
「しかし箒は一夏に何を教えてやったんだ?俺と同じように訓練機使ったんだろ?」
ふと一夏は箒にISを習っていたのを思い出し尋ねると何故か固まる二人。
「お、おい?どうした?」
「・・・・・・お前は訓練機使ったのか?」
何やら鬼気迫る勢いで顔を近づけてくる一夏に若干ビビりつつ俺は答える。
「あ、ああ・・・・・・量産型Mk-Ⅱを借りてたぞ?実際に孤狼動かしたらまったく役に立たなかったけど」
いくらゲシュペンストが元になったとはいえ、あそこまで加速度が違えばそれはまったくの別物だと思うのは俺だけじゃないと思う。
「・・・・・・箒さん?」
「・・・・・・知らん」
どうやら一夏と箒はISを使った訓練はしなかったようで・・・・・・。
「くそっ!もう箒には頼らない!秋!今度使い方を教えろ!!」
「な、なんだと!?一夏!!その言い草はなんだ!!貴様がもっとしっかり鍛錬を積んでいれば秋に遅れは取らなかったんだぞ!!」
あ~・・・・・・こいつらは人の邪魔をしに来たんじゃなかろうか?
「はいはい。夫婦喧嘩はピットの外でやってくれ」
「違うわ!」
「そ、そうだぞ?だ、誰が一夏と・・・・・・そ、その・・・・・・夫婦・・・・・・」
どうやら箒のデレ期は当分来なさそうだ。頑張れ。一夏。こいつらの漫才は見ていて飽きないが俺に被害が来ると厄介なので俺はさっさと孤狼を展開すると各武装をチェックしピットゲートまで移動する。
「秋!」
「ん?」
一夏に呼ばれ振り返ると一夏と箒は揃ってサムズアップし。
「「頑張れ!!お前なら勝てる!!」」
「ああ!この勝負貰うぜ!」
二人にサムズアップを返し、俺はアリーナへと飛び出す。さて、いっちょやりますか。と気合を入れたときだった。
《始めましてマスター》
女性の電子音声が響く。
「なんだ?これ?」
《私は当機“孤狼”の制御AI“アルト”と申します》
「は?AI??」
《はい。マスターの戦闘をサポートする為に私は存在します》
「・・・・・・今のISはこんなAIが付くのか?」
《いえ。私のようなAIは試験的に搭載されただけです。もしマスターが不快でしたら後で申請していただければ外せますが?》
「いや・・・・・・頼りにさせてもらう」
《了解です》
「ところでなんで今なんだ?さっきの戦闘では出てこなかったよな?」
《はい。戦闘中でしたので機体設定のほうを優先しました。今後はマスターの経験を元にサポートをさせていただきます》
「なるほど。んじゃ行くぞ!アルト!!」
《了解。前方に戦闘待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコット。ISネームは『ブルー・ティアーズ』です。戦闘タイプは中距離射撃型。どうやら特殊装備を搭載しているようです》
アルトの報告に頷きながら、孤狼を走らせピットゲートから飛び出す。
「引き続き、敵ISの情報を頼む」
《了解。検索完了。ブルー・ティアーズはBT兵器を搭載したイギリスの第三世代ISのようですね》
「BT兵器?」
《はい。装着者の意識で操作する独立稼動の移動砲台と認識してもらえればいいかと思います》
「・・・・・・厄介そうだな」
《そうでもありません。現行のBT兵器はコントロールに適性を要します。よってその扱いは難しいようです。私のような補助AIがあれば別ですが・・・・・・》
どうやらアルトはかなり優秀らしい。次々と情報を伝えてくれる。その相棒におんぶに抱っこでは俺があまりにも情けないじゃないか。
「なら孤狼の加速で振り切る!」
《はい。私もサポートさせていただきます》
「お待ちしていましたわ」
アルトとの会話を打ち切り、空中で待機していたオルコットとそのIS『ブルー・ティアーズ』を見る。特徴的なフィン・アーマーを背に従え、明るい青を基調としたカラーリング。手に持つ巨大なレーザーライフル『スターライトMk-Ⅲ』が槍を連想させ、その姿から王立騎士を連想させる。ちなみにISの武装は基本大型なものが多い。理由は大抵のISが空中に浮いているというのがある。まあ、俺の孤狼のような固定武装で大型なのは少ないが。
「待たせたようで悪かったな」
「いえ・・・・・・さあ、始めましょうか。精々優雅に舞ってわたくしを楽しませてくださいな」
《マスター。敵IS操縦者が狙撃モードに移行したようです。お気をつけください》
アルトの報告に内心で頷き、右腕のリボルビングステークを構える。
「いいぜ。伊達や酔狂でこんな武装をしてないってところを見せてやるよ」
「そう?なら―――」
《マスター!来ます!!》
「踊りなさい!!」
孤狼のサイドスラスターを吹かし、横に回避するのとオルコットのスターライトMk-Ⅲの砲撃は同時だった。
独特の甲高い音の後に続く閃光。しかしその閃光が俺の体に当たることはなかった。
「後、一拍でも遅かったら当たってたな」
《ですが、当機にはビームコートがあります。少なくとも集中砲火を受けなければダメージは少ないかと》
「けどシールドエネルギーは削られる」
《通常値に比べれば軽微です》
「受けないことに越したことはない!」
冷静に話すアルトに返しながら俺は脚部スラスターを小刻みに使いながら連射される砲撃をかわす。
「避けてばかりでは倒せませんわ」
「そうだな」
こちらの唯一の射撃武器である左腕の三連マシンキャノンをオルコットに向け撃つ。
「ふふ。当たりませんわね」
放たれる弾幕を冷静に回避するオルコット。しかし俺もマシンキャノンを撃ちながら移動をやめない。オルコットが回避していくがその動きは少しずつ固定されていく。
「悪いな。射撃は苦手なんだ!」
弾幕を張ったのはダメージを当たる為じゃない。動きを止める為だ。
「まずはその得物を切り落とす!!」
頭部バイザーに付けられている角『ヒートホーン』が赤く発光する。そしてブースト。俺とオルコットの間はざっと三十メートルほど開いていたが孤狼の加速力ならそんな距離は一瞬で詰まる。
「!?」
案の定、まさかといった顔をしたオルコット。そして一瞬で間合いを詰めると頭突きの要領で赤熱化したヒートホーンを振り下ろす。
《警告!敵ISのBT兵器にロックされています!》
「何?!くっ!」
アルトの警告に攻撃を中断。さらにブーストを使い、オルコットの脇からすり抜けるように加速し離れるがギリギリのところをレーザーが奔り装甲を掠める。
《被弾。ビームコートのおかげで損傷軽微。ダメージ15。シールドエネルギー残量585》
「驚きましたわ。そのISの加速力はやはり脅威ですわね・・・・・・先ほどの試合を見ていなければ迎撃が間に合いませんでしたわ」
まるで主を守らんとフィン状の砲撃兵器・・・・・・以下ビットが四つ。こちらを威嚇するように待機する。
「(ちっ・・・・・・よく考えればさっきの突撃でステーク打ち込めばよかった)」
そうすれば間違いなく絶対防御が働き、大幅にシールドエネルギーを削れたはずだ。内心で舌打ちしつつ相手を見る。
「さあ、わたくしセシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲で踊りなさい!」
オルコットの命令を受けてビットが動き出す。
《マスター!》
「言われなくても!!」
さっきから人の死角へと移動してはレーザーを撃ってくるビットを回避しながらマシンキャノンで迎撃を試みるが当たらない。孤狼の武装のリーチの短さが最大の弱点になっていた。
「ふふふ。足元がお留守でしてよ?」
そしてビットに注意をひきつけておいてからのオルコットの正確無比な射撃。
「当たるかっ!」
ビットやライフルのレーザーをギリギリまで引きつけかわす。しかしさっきから鳴り止まないアラートに俺の精神は削られていき、段々と被弾率が上がっていく。幸いにもビームコートのおかげで致命傷にはならないがシールドエネルギーは削られていく。
回避もきつくなってきたし、攻撃は当たらない。打つ手なしか?やはり普通の喧嘩レベルの勘は当てにならないか?そんな余計なことに思考が割かれ始め敗北の二文字が一瞬、頭を過ぎる。
「さあ、そろそろ閉幕としましょう!」
《警告!!ロックされています!マスター!》
優雅に指揮者のようにビットを操るオルコットは俺を見下ろすように勝利を確信した笑みを浮かべていた。その周りに配置されているビットの銃口にエネルギーが集まり、ロックされたことをアルトが告げる。
「まあ、よく持ったほうでしてよ?これまでの健闘を評して、貴方には明日からわたくしの従者として働いていただきますわ」
「は、よく喋る口だな?まだ俺は動けるんだぜ?勝利の余韻に浸るのは早いだろーが!」
「ッ!! なら墜ちなさい!!」
オルコットが命じ、四つのビットからレーザーが放たれようとした瞬間。俺はフェイスカバーの奥でニヤリと笑う。
「アルト!」
《了解!》
俺が何をしたいのかを瞬時に判断してくれたアルトは本当にいい相棒だと思う。いくつもあるスラスターを順番で瞬時加速を行う。一気にオルコットの元に上昇するのではなく瞬時加速で進みさらに瞬時加速で方向を変え、また瞬時加速を繰り返しオルコットの元へ向かう。
「そんなっ!バカなっ!?」
ビットからのレーザーを間一髪でかわし、オルコットが驚いている隙に脇を抜け、クイックターンで背後を取るとその周りに浮かぶビットとオルコットをソレの射程に収める。俺が切れる手札の中で温存していたカードを今ここで切らせてもらうぜ!
「これだけのベアリング弾・・・・・・かわせるものならかわしてみろ!!」
《スクエア・クレイモア全弾発射!》
両肩のハッチが開き、中から広範囲に大量のベアリング弾が打ち出され、ばら撒かれる。
「え?き、きゃああああああっ!?!?」
もし、これが一夏なら雪片弐型で斬りつけに行くのだろうが俺のIS“孤狼”は突撃殲滅が主体。両肩のスクエア・クレイモアを上手く使えば広範囲攻撃が可能だ。流石のオルコットもまだビットを操っている最中にこれだけのベアリング弾を回避できるはずがなく、いや回避できたとしても広範囲にばら撒かれたベアリング弾をかわし切れる筈はない。ビットの操作をやめ、慌てて回避しようとしたオルコットの身に大量のベアリング弾が降り注ぐ。
「最後のカードを切らせてもらうぜ!!」
《リボルビングステーク。セーフティー解除》
撃鉄が上がったリボルビングステークを振りかぶり、オルコット目掛けて突撃。スクエア・クレイモアを受け、自慢のブルー・ティアーズが破壊され、装甲も大量に抉られたオルコットとの間合いを一気に詰める。
「耐えて見せましたわよ!次は私のカードを御覧なさい!」
「!!!」
《マスター!敵ISにロックされています!》
ボロボロのはずのオルコットはまるで狙っていたかのようにスターライトMk-Ⅲとは違う中距離用のライフルを構え、俺を狙う。アルトの警告が耳を打つ。だが、ふと見るとオルコットの目はまだ諦めていない。その瞳は確かに勝利を狙っていた。決して彼女の言う優雅とはかけ離れた泥臭い勝利。それでも彼女はそれでも勝利を掴もうとしている。それを見て俺は思わずニヤリと笑みを浮かべる。
「(なんだ。いい顔するじゃねぇか。だけどこの勝負、俺が貰う!!)」
「(この勝負わたくしの勝ちで終わらせていただきますわ!!)」
だからこそ俺はさらに踏みこむ。それにあわせるようにオルコットも引き金に指をかけ。
「「勝負!!」」
フルオートで連射されるレーザーの弾幕をビームコートで弾く。しかし徐々にビームコートを貫通したレーザーが装甲表面を焼き始める。それでも孤狼なら耐え切れると信じ、自分の距離すなわちゼロ距離になる瞬間にオルコットの胸へ目掛けてステークを叩き込む。
「この距離取った!!」
「それでも!!」
とっさにライフルを間に挟み込むオルコット。でもその程度、障害にもならない!俺はためらわず引き金を引いた。
ドゴォォォォォンッ!!!
たった一発。それだけで十分だった。ライフルをあっさりと貫通したステークは胸部へと撃ち込まれ、絶対防御が発動。損壊が危険域に達したのか纏っていたISが強制解除されるオルコット。ステークが生み出した衝撃で気絶し落下していくオルコットを慌てて追いかけ受け止める。それと同時にアルトが全スラスターを逆噴射し、加速していた孤狼をゆっくりと減速させる。
「だ、大丈夫か?!オルコット!!」
《マスター、脈拍、心拍数ともに問題なさそうです》
アルトの言葉に一安心し、ゆっくりと地面に降り立つ。同時に決着が付いたことを知らせるブザーがアリーナに鳴り響いた。
『試合終了。勝者―――織斑秋』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
気絶したオルコットを山田先生に預け、ピットに戻ると姉貴が腕を組み立っていた。
「今回、オルコットに勝てたのは孤狼の性能とAIの補助があったことを忘れるな」
「・・・・・・・・・・・・」
それに返す言葉も出来ず俺は静かに孤狼を待機状態に戻す。
「……だが、代表候補性相手によく戦った。」
それだけ言って立ち去る姉貴の背中を見つめ、俺は拳を壁に叩きつけた。姉貴の言うとおり俺のISが孤狼でなくアルトもいなかったら?間違いなく負けていた。それをわかっているから情けなかった。
「絶対強くなる。俺は・・・・・・もう、あの時のような惨めな思いはしたくない」
強くなるんだ。姉貴に心配されないよう、姉貴が再び空に上がれるように・・・・・・。
「絶対に強くなる!そして俺は姉貴を追い抜く!!」
拳を握り締め、強く決意する。俺は絶対に負けない!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「社長。本当によろしかったのですか?」
物陰から秋の様子を見ていたアリスはISのプライベートチャンネルを開きその先にいる人物に問いかける。
『何がだ?』
返ってくる声は女性にしてはやや低めの声だった。
「孤狼のことですよ。態々リミッターをかけた状態で渡して」
『ああ。それは大丈夫だ。あのリミッターは必要となれば勝手に解除される。現にアルトから送られているデータにも問題はないだろ?』
「そうですが・・・・・・」
『問題はあのシステムに彼が飲み込まれなければいいが・・・・・・』
「“システム・ベーオウルフ”ですね」
『そうだ。千冬には既に話は通してある。後はフォローを頼むぞ。アリス』
「はい。お任せください。私にとっても彼には興味がありますから」
『ハハハ。千冬の言葉ではないが近づきすぎて惚れるなよ?あの双子はそろって天然のたらしだからな』
「もう!社長!!そんなこといって知りませんよ?妹さんに斬りかかられても」
『そうだな。気をつけるよ』
楽しそうに笑う声の主にアリスは頬を膨らませ通話を終える。
しかし、アリスの顔には朱がさしていた。誰もいないか確認してからアリスはポツリと呟いた。
「敵は一杯いそうだけど頑張れ!私!!」
小さくファイトといいながら拳を握る。彼女の戦いが今始まる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
セシリアが目を覚ましたのは秋との試合が終わってから一時間後のことだった。目を覚ましたのはIS学園の保健室。セシリアが意識を取り戻したことに気が付いた保険医が織斑先生に伝えてくると出て行ってから、試合の事を思い返していた。正直、あの一撃は本当に効いた。思い出すだけで体が震える。
「わたくし、負けてしまったんですわね」
油断があったとは思わない。二人の戦いを見た後、気持ちを切り替えた上で自身の全力を出した。だけどあの男は自分の読みを上回って自身を敗北させた。全身装甲に頭部を覆うフルフェイス。しかし不思議とあのフルフェイスの奥で瞳を輝かす秋の顔が見えていた。
「私は間違っていたんでしょうね……男性は弱いなんて決めつけて……それに独りよがりでしたわ……」
思えば母は父に対して情けないと罵倒していただろうか?確かに父はいつも母に対して弱弱しい態度だった。でも自分が父の事を悪く言った時、母は自分を叩いてまで叱った。
『貴方は…貴方だけはそんなことは言わないで!』
「なんで忘れていたんでしょうね」
それにもし本当に母が父を嫌っていたのなら仕事とはいえ共に列車に乗って行かないだろう。
「本当に……わたくしは何も知らなかったのかもしれませんね。クラスの皆さんにもひどいことを言ってしまいましたし…」
謝らないと例え許してもらえなくてもしっかりと謝りたい。そう思い目じりに熱い物が込み上げてきたときだった。
「「「「「オルコットさん!!」」」」」
「へ?」
扉が勢いよく開いて、中に入ってきたのはクラスメイト達。それも自分が馬鹿にしてしまった日本人の女子たちも一緒にいた。
「よかったよ~目を覚ましたって聞いて」
「うん。私たちオルコットさんが死んじゃわないかって心配してたんだよ?」
口ぐちに自分を心配してくれる彼女たちにセシリアは恐る恐る……。
「あ、あの……すいません。わたくし、貴方たちのことを……」
申し訳ありませんと言うと彼女たちは笑った。
「いいよ。正直最初は嫌な気持ちもしたけど……ね?」
「うん。秋君がバシッと決めてくれたし!」
「正直、あのクレイモアとステークを叩き込まれた後じゃね」
「そうそう。流石に可哀想に……」
「せっし~?怖くなかったの?」
最後にそう言われたセシリアはピシッと固まった後下を向き、肩を震わせた後。
「どでづもなぐごわがっだでずわよ~~~~!!」
淑女がどうとか関係なく大泣きしたことによりクラスメイトたちはセシリア・オルコットを受け入れ、彼女もまた他人を受け入れるようになった。
セシリアをチョロインさんにしたくなかったけど……まだ惚れたわけじゃないからセーフですかね?