シンデレラのぶかぶかなガラスの靴   作:結城 理

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episode10:己のDRE@M

ついただいまなんて言ってしまったけど、どう考えてもウチではないよな…。

病院……それも都内の大型病院か?

そして目の前の包帯ぐるぐる巻き野郎が、親父、か。

どう考えても俺のせいだよな。

 

「あ、えっと……頭、大丈夫か?」

 

視線を思わず下にそらしながら、怪我の程度を問う。

 

「は?グラスぶん投げて俺を病院送りにしたやつが何を言ってる」

 

「あーいや、頭の怪我のことだって!

言葉足らずで悪かったよ!」

 

案外親父はいつも通りだった。

もう一度ミイラ頭を覗いてみ

 

「ぶふっ、あははは!」

 

黄色い笑い声が割り込んで来て。

どうやら親父の隣のベッドに女性がいるっぽい。

 

「えーと、誰ですか?」

 

ベッドから裸足で立ち上がり、姿を確認する。

格好こそ患者のそれではあるが、どこかギャルのような雰囲気が見て取れた。

 

「アタシ、加蓮。北条加蓮。

346プロダクションのシ………カリスマJKアイドルの城ヶ崎美嘉さんの後輩アイドルです!」

 

この少女も346プロのアイドルか!

道理で可愛い訳だ。

 

「俺もちょっと前に346プロに入社してるんだ!

まだ、新米のプロデューサーだけどね」

 

あ、名刺まだ作ってないんだった。

それにふと見ると、自分も患者が着る服になってるし。

 

「えっ、そうなんだ!

今日は部署がお休みだったの?」

 

………あ。

 

「………や、休み、ダヨ?」

 

346プロ内の謎の女性に眠らされたなんて言っても絶対信じてくれない!

その上亡霊に取り憑かれたなんて言ったらそのまま脳を手術されるかもしれない………。

 

「それで健康診断でこの部屋で横になっていたとか?」

 

な、なんとか誤魔化せそうだ。

 

「そ、そうそう!入社したてだし!」

 

「昨日入ったばかりの青二才に休みなんかないぞ」

 

んん親父ィ!横槍刺すんじゃねぇええ…!!

 

「親父は黙ってろ!」

 

…バタっ、

 

……叫んだ拍子にベッドに座り込んでしまった。

それに頭がなんだかグラグラする…。

まだ憑代化とかいうよく分からない現象のダメージが残っているのか?

 

「…大丈夫?コールしようか?」

 

カレンちゃんが心配してくれている。

 

「大丈夫大丈夫………多分」

 

一つ深呼吸。

 

………良し、少し落ち着いた。

そしてカレンちゃんの心配の元を作った親父を睨む。

 

「この馬鹿息子はちょっとあがり症でな、時々訳の分からん挙動を起こす。

北条は心配しなくていい」

 

俺から目線を逸らしたついでにカレンちゃんに都合の良い言い訳を話してくれた。

………そう言えば、俺のコミュ症が少しマシになっている?

カレンちゃんも美世さんに劣らないくらいの美人だ。

それでもそれなりに話せたじゃないか。

何故だろう………。

 

「それって、コミュ症って言うやつじゃないかな?」

 

「はうううううッ!」

 

グァッ、刺されたァ!

俺の弱点抉られてるよぉぉ〜!

 

「フッ」

 

親父も笑うなぁ………。

恥ずかしいよぉぉ…。

 

「結構仕事に差し支えるんじゃない?

色んな人と打ち合わせするだろうし」

 

北条さん前言撤回です、ナースコール押して下さい。

一体誰がこの病室に運んだんだよ………。

 

「それに休みじゃないんだったら、連絡とかちゃんとしていないとマズいんじゃ」

 

「うわぁああやべぇえそうじゃん!!!」

 

全力で辺りを見回して携帯を探す。

…ない!

……ないない!

………ないないない!

 

「ほら、貸してやる。

先ずはちひろさんに連絡しよう」

 

親父に言われるまま電話帳から掛ける。

………なんでまだ346プロ内の人の電話番号使ってるんだろう。

 

 

『…はい部長、どうなさいましたか?』

 

「あの、いや、その部長の息子が掛けています!

昨日お話した新人のプロデューサーです!」

 

『え?あ、はい?』

 

「だから、仁奈ちゃんをプロデュースすることになった僕です!」

 

『あゝ!あの時の!

………異例の中途縁故採用の』

 

急に小声だ、よく聞こえない。

 

「あの、よろしいですか?」

 

『は、はい!どうなさいましたか?

……出社が確認出来ていませんが?』

 

「そ、その事なんですが!

今、自分、病院にいまして、それで」

 

『どの様な理由ででしょうか?』

 

どう説明しよう………。

美城常務の仕事については多分他言無用だ。

それを伏せても、憑依の話も昏睡された事も話せる話じゃない。

 

「スクエアエコーの事務室を整理中に、持病が出てしまいまして。

常備薬を忘れてしまった自分の落ち度です。

すみませんでした」

 

急にスムーズに適当な言い訳が喋れた。

まさか、またスクエアエコーのプロデューサーの仕業か?

 

『そうなんですか…。

分かりました、仁奈ちゃんのことは今日だけ特別に私が面倒見ますね』

 

「あ、ありがとうございます…。

多分明日には普通に出勤出来ますので………」

 

 

 

 

 

電話が向こうから切られ、携帯を親父に返した。

 

「仁奈ちゃん…は、あのスクエアエコーのアイドルか?」

 

「プロデューサーさんもしかして、まだアシスタントみたいな立場なの?」

 

あまり話したくはない。

恐らく二人ともまだスクエアエコーが今どうなっているか知らない筈だ。

 

「昨日から、市原仁奈は俺が担当することになったアイドルだ」

 

でも、このことだけは間違いないし、譲る気はもう無い。

仁奈ちゃんをプロデュースする。

だから、もうこんなベッドで寝てる場合じゃない!

 

「………よっと」

 

まだふらふらするが、何とか立ち上が

 

バタっ、

 

れない。

今度は床に倒れてしまった。

 

「…クソッ!俺は、こんな所で……」

 

ぶっ倒れてる場合じゃない!

仁奈ちゃんを守るんだ!

スクエアエコーを託児所にしたクソネグレクト両親。

その二人に宣戦布告をするんだ!

仁奈ちゃんを両親のことを忘れるくらいに幸せにしてやる!

 

ガンッ! 脚を叩く。

 

だから動け、俺の両脚!

 

ガンッ!! 胸を叩く。

 

だからアドレナリン分泌しろ、俺の内臓!!

 

バチッ!!! 両頬を叩く。

 

だから上を向け、俺!!!

 

「俺だけに仕事の準備を押し付けるクソガキはどっか行ったようだな」

 

こちらに手を差し伸べる親父がいた。

…クソネグレクトをどうにかする前に、先ずはこっちの親子事情にケリをつけろってことか。

 

バシッ、

 

昨日渾身の怒りをぶつけた相手の手をがっしりと掴み、立ち上がった。

 

「言うタイミングめっちゃ逃したけど、昨日はごめんな」

 

「まぁ、いいさ。

お陰さんで頭皮が抉れて、ちょっとダイエットが出来た」

 

 

 

 

「アタシ、全然状況理解出来ないんですけど?」

 

「北条は知らなくてもいい」

 

「ごめん、急ぎたいから」

 

「つまんないの〜」

 

看護婦から預けられた荷物を返してもらい、身支度を整える。

父さんはまだ傷が完治しておらず、もう2日程入院するそうで。

俺は自宅に一度帰って346プロに持ち込む仕事用具を用意する。

あと、加蓮ちゃんは只の検査入院らしい。

 

「なぁ、お前の夢ってなんだ?」

 

身支度が終わった途端、父さんからクサいことを聞かれた。

………でも、そんなに深く考えたことがないのであまり分からない。

 

いや、あるか。

 

「仁奈ちゃんをトップのアイドルにする。

それが夢、かな」

 

うん、これしか今は考えられないな。

 

「そうか。

んじゃ、下の母さんに伝えないとな」

 

………………え。

 

「いつもと変わらない地下二階の5号室だ。

………気が向いたら、お前の夢のこと、話してやれ」

 

………………………………

 

……………もう、逃げてばかりってわけにもいかないってことか。

 

 

………でも、後一回逃げることを許して欲しい。

 

 

ごめんな、父さん、母さん。

 

夢を見つけたからこそ、また、親離れしたいんだよ。

 

 

 

「……………父さんが足のイボ完全に治したら行くよ」

 

「………そうか。

…まぁ、頑張れよ、プロデューサー」

 

 

「うん。

行ってきます」

 




………やっと、父親としての役割も終わりかな。
長いようで、案外短かったか?

「さっきの、下の母さんに伝えるって、どう言う意味?」

北条が興味ありげに聞いてくる。
さっきからずっと話題から置いてけぼりにされてるもんな。
そりゃあ気になるだろう。

「教えないさ、また頭痛がしてきたんだ。
んじゃ、もう寝るから」

「あっ、ちょっと〜、ケチ〜」


馬鹿息子が追い詰めた俺の妻がこの病院の地下で植物人間になっている話なんて、聞きたくないだろう。
その話をしてアイドルの気分を悪くさせる人になるより、ケチな人になった方がよっぽどマシだ。
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