艦これ?ありませんよ   作:apride

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帰郷

艦娘聯合艦隊司令部が発足した日、俺とハルナは本来の任務に就く予定が急遽変更された。切っ掛けは訓練間際に呟いたハルナのひと言だ。

 

「私が艦娘なら…もしかしたら…ユウナちゃんが?」

 

 

 

 

 

 

 

おかげで休む暇すら与えられず、ハルナの故郷広島県へ向かうべく俺は新横浜駅にやってきていた。これから新幹線に乗り広島へ向かうのだが、乗車予定の時刻には大分余裕がある。腕時計の針はまだ2時間近く時間があることを示している。

 

「少し早く着きすぎたな? 」

 

駅前に着いて驚いたのだが、こっちの新横浜駅周辺が随分と賑わいを感じると思ったら駅構内も人が大勢だ。自家用車の数が少ないことから、きっと新幹線以外の鉄道も未だ廃れてはいないのだろうな? ふと目に留まった路線図を取り…

 

「すげぇ… 」

 

そこには全国地図に新幹線路線図が記載されているのだが、この世界の日本全国とは北海道から沖縄に加え樺太と千島列島に準じて満洲国まで載っているのだ。新幹線は北は稚内と根室、南は鹿児島と長崎が終点で、更に博多からは海路には線が引かれ釜山から新京を経て満洲国各地へ路線が延びている。

 

「新幹線の路線図が‥違っ!? 」

 

代わりに本州の路線図に違いがあることに気づいた。北陸新幹線が松本経由で北陸を通り新大阪まで完成しているが、上越新幹線が存在すらしていない‥

 

「まあ‥いいか。今から乗るのは… あれ? 」

 

東海道・山陽の両新幹線も主要駅だけなのに戸惑う。どおりで広島駅到着時刻が早い筈だ。即ち【こだま】が存在して無かった…

まだ時間に余裕があり、珈琲でもと向かいに見えた喫茶店に脚を向けようとした時に人混みを歩いてくるハルナを見つけた。大きなキャリーバッグを引いてる姿は南の島にバカンスにでも出掛けるのかと…

 

「なんだありゃ? 完璧にお出掛けスタイルじゃねぇか… 」

 

一応は上官としてビシッと公私混同を諌めとかないといかんな。俺の姿にまだ気づいていないであろうハルナを呼ぶべく手を挙げ…ようとしたら、一瞬早く向うが気づいたらしく一目散に駆け寄って… なんか怒ってない? 頭に変なマークが浮かんで見えるような…

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

昨日手に入れた⚫⚫⚫万円のバッグを手にしてご機嫌な顔が一瞬にして般若の形相となったハルナ嬢がカツカツと靴音響かせ迫ってくる。角が生えてきそうな勢いです…怖えぇよ…やっぱこいつ深海棲艦じゃないの?

 

「ちょっと! なんて恰好してるのよ!」

 

恰好? 俺は此れから任務に赴くべく軍服姿でピシッと決めているぞ? 夜間は冷え込むだろうから官給品であるが外套を着ている。

 

「何か変か? ちゃんと制帽も被ってるぞ? 」

 

「あのね‥ 行き先は軍施設じゃないのよ? TPOはご配慮いだだきたいですわ! 中佐殿! 」

 

TPOとは時間と場所と場合を考えた…この場は場所と場合を考えろと彼女は言っているのだ。

 

「むぅ、言われてみれば… そうかも…なっ、なにすんだっ!? 」

「そんな姿で同伴されちゃ迷惑です! これ持って! 」

 

そういい放つとハルナはキャリーバッグのハンドルを押し付け、俺の腕に自らの腕をガシッとくの字に組み引っ張って行く。周囲の視線が痛い…あと、腕に柔かな乳の感触がヤバいっ! ちょっと嬉しい!

 

『なに? 痴話喧嘩?』

『同伴て‥キャバクラかしら?』

『軍人が明るいうちからなんと破廉恥な! 』

 

喧騒の中で周囲のひそひそ話がやけに鮮明だ…

 

 

ハルナに連れて来られたのは紳士服売場。上着を脱がされた俺は何着かのスーツを試着させられ、シャツとネクタイを合わせて購入する羽目になった。俺がビシッと決まったぜぃ!

 

「別にスーツじゃなくて良かったんじゃないか? 」

 

「履いてる革靴に合わせたからスーツが無難だっただけよ? 靴まで買うのは勿体無いでしょ!我ながら巧くコーディネートできたわ」

 

ハルナは如何にも節約してのお買い物をドヤ顔で主張するのだが、スーツ一式に15万円も払ったのは勿体無くはないのか? …払ったの俺だけどさ?

 

 

 

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「やっぱりグリーン車にして良かったわね! 広くてフカフカで座り心地も良いしね! これはさっきのご褒美よね? ウフフ」

 

既に用意されていた切符をグリーン車へグレードアップを半ば強要されたのは言うまでもない…

公衆の面前で腕にしがみつき上目遣いでおねだりするとはな… どうして拒絶出来よう? 看護婦よりキャバクラ嬢の方があってるよお前!

親父もこうやって籠絡したに違いない…

 

なにより…またも腕に押し付けられた肉感的誘惑に負けてしまった自分が情けない…

 

 

「と、ところで‥倉橋ユウナってどんな女だ? 」

 

これから訪問する相手である倉橋ユウナは広島県呉市に住んでいる。職業は中学を卒業後に弟子入りして地元で筆職人と聞いた。

若い娘にしては渋好みな職業である。

それよりも気になることは、彼女の艦種なんだよな…

『ユウナ』って、そのまんま女の子の名前じゃないか。推測であるが、ハルナの例に倣えば幼い子が名乗った発音が本来の艦名から訛ってしまったのではないかと思う。俺の予想ではまず『夕立』は除外だ… 横須賀で『…ぽい!』と言ってる声が聞こえたからな。

そこで次は『夕張』だな、職人気質といった艦娘であるしな…今のとこ第1候補だ。

第2候補は『夕凪』だが…【艦これ】で見た覚えがないので不確定だ。他は思いつかんなぁ? まさかのレア艦か?

 

 

「見た感じのこと? う~ん‥一言で表現するとクールビューティかな? 」

クールビューティと聞いて浮かぶのは…やはりあれかな?

写真でもあれば良かったのだが、無いものは致し方無い。そうこうしている間に広島に到着した俺達は呉市へと向かうのだが、既に時刻は18時を過ぎており本日は呉市内で泊まりにする。

 

 

 

 

「民宿…ですか? 」

 

今夜の宿が民宿と知り、あからさまに不満そうな顔するハルナは俺の予想通りだ。

 

「ここは海軍ご用達の宿でな。まあ、丁度良い機会だから泊まってゆけ」

 

タクシーを下りた前の建物は民宿とは言ってもコンクリート3階建てのビジネスホテル風である。入口脇には海軍認可のステッカーが貼ってある。自動ドアを通りフロントへ向かうと既にお待ちかねの様子だ。呉市は俺の第二の故郷で、この民宿兼叔父宅に高校卒業まで暮らした。

 

 

「おかえり美晴! あら? まあ‥そういうことだったの? 」

 

出迎えた女将らしき女性の言動に首を傾げるハルナだが、なんとなく察した様子だ。ご近所様が見れば俺達二人の姿は『婚約者を連れて帰郷しました』状態だ。

 

「ただいま母さん…こちらは‥」

「まあまあ! お嫁さん連れて帰るなんて驚いたよ母さん! 」

「おい! ‥連絡してただろ? 仕事ついでに部下を連れて行くとね。で、こちらがその江田島大尉だ」

「あらそうだったの? あたしったら早とちりでごめんなさい。‥それにしても、美晴が随分とセンスの良いスーツ姿だからてっきりね?」

 

誤解されそうかもとは思ってたが、予想通りの展開なので俺は至って冷静にハルナを紹介した。センスが良い以前にイタリアンブランドのスーツ着て遊び人の金さんじゃねぇか?

 

「江田島ハルナと申します。このスーツ‥私が選んだんです。ウフ」

 

「ハルナさんと言うの? 貴女にぴったりな素敵なお名前ね! あなたの見立て? やっぱりそういうことね…不束な息子ですがよろしく頼みますね」

 

不束な息子って‥普通言わねぇよな? 意味は当たってるので反論しませんけどね。

 

「はい! おまかせくださいお母様」

 

ハルナお前…全然意味わかってないだろ? 安易に返事して知らねぇぞ…

 

 

 

 

 

部屋に案内されたが、連絡しておいた通り二部屋に別れていてホッとした。暫くして食事の支度が出来たからと呼出しが入る。今夜は俺が帰ってくるからと、業務は従業員さん達に任せての夕食だ。宿の主人である叔父と母が顔を揃えている席に俺とハルナが向かい合う形で座る。席が一つ多い? あ‥そうか!

そう気づいた時、廊下を駆けてくる足音が響いた。

 

「ただいまっ! ハルちゃん帰ってきてるっ? …誰この女?

 

忙しなく襖を開けて登場したのは従妹の玲奈で、高校が一緒だったクラスメイトでもある。またもハルナが部下であることを手短に説明して晩飯を戴くことに…

 

「へぇ、江田島さんて大尉なんだ!? 凄いね? ‥部下がそれ? じゃ‥あんたは? 」

「中佐だ」

玲奈は鍋料理の牡蠣を箸からポトッと落として驚いた。

「……!? やっと退院したと思ったら何? いきなり中佐って! なにやったのよ? 」

「特別任務に就いた。軍機で言えんが特殊能力が認められてな… 」

艦娘や妖精については軍の機密事項なので話せないからな。

「特殊能力? まさか…入院してる間に改造手術とかされたの? 」

「されてねぇーよ! 」

改造手術て‥俺は仮⚫ライダーかよ!

 

「なぁんだ…変身しないのかぁ~ガッカリ」

玲奈は女のくせして変身ヒーローが大好きなのだ。俺が軍の病院に措置入院と聞いて即、人体実験されているとか宇宙人と遭遇して隔離されたんじゃないかって騒いでたそうだ。似たようなもんか‥妖精と宇宙人なら?

横で会話を聞いているハルナが黙りこんでいることに気づく… そうだった。本物の変身ヒーローが俺の横で飯食ってることを忘れてたよ!?

 

「…ハルナ? 」

 

心配になって小声で呼んでみた。すると思い詰めたような顔で呟く…

 

 

「やっぱり変身ポーズ考えるべきかしら…」

 

 

 

 

 

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翌朝、倉橋ユウナ宅を訪問した。

自宅兼工房といった趣の日本家屋である。彼女は仕事を始めるところなのか作務衣姿で我々を出迎えた。

 

 

「久しいなハルナ!? …成る程、そちらはご主人か? 」

 

「違うわよ、こちらは私の上官よ! 」

「倉橋ユウナさんですね? 海軍の瓜生と申します」

 

ひと目見て確信した… この女も艦娘だ。

俺の三匹の子豚‥じゃなく妖精達も同様みたいだ。

 

「な‥なんだそれは? 小人か? 」

 

ひょっこり現れた妖精達の姿を見た倉橋ユウナは有り得ない現象に目をパチクリして動揺している。

 

「貴女もこの妖精達が見えるようだ… ならば尋ねる! 汝の名は? 」

調子に乗って其れっぽく言ってみました!

意を解した妖精がユウナに向けて手を…

 

「ストーップ!! 待ちなさい‥ コラコラ」

妖精がユウナの艤装を強制展開しようとした寸前にハルナが待ったをかけた!?

 

「何故止める? 」

「当たり前です! ユウナも丸裸にするつもり? 」

 

そうだった……。艦娘専用装束以外の着衣は吹き飛ぶんだ。以前ハルナをスッポンポンの丸裸にひん剥いたのを思いだしたよ…… そう考えると良いところで邪魔しやがったな? ‥チッ!

 

 

 

 

ハルナが件の服を着てくるように促すとユウナは渋々言われた通りに着替えに席を外した。暫くの後、戻ったユウナの姿を見て確信した。やはり艦娘…しかも戦艦だ!

 

「まあ…こうなる‥な。恥ずかしいから…あまり見るな」

 

金剛型戦艦の榛名と似ている…。これまでに出現した巡洋艦や駆逐艦の様なユニフォームタイプと異なる古風なスタイルだ。そして、やはりというか何故か…ミニスカだ。さらに目に留まったのは腰に差してるのは日本刀だな?

 

「腰の刀は? 」

 

「これか? 覚えてはいないが、最初から身に付けていたそうだ。専門家に見てもらったら日向正宗と云う国宝級の代物だそうだ」

 

「日向正宗!? そうか! ヒュウガがユウナに聞こえたか‥納得だ」

 

幼子の発音が聞き間違えることは有り得る話だ。

 

「どうしたのだ? 」

「いや、こちらの話だ。ハルナ、構わんな? 」

「ええ、着替えは済んだから大丈夫よ。ユウナ、驚くと思うけど動かないでね」

「何をするつもりだ? 」

ユウナは二人の話が理解出来ないが、ハルナの言葉から察して身構える。妖精が何かを唱えるように手をかざした!

一瞬眩い光が部屋を照した途端、ユウナの背には大型連装砲が姿を見せた!

 

「ひゃっ!! あぁ? …なんだこれ‥は? 」

 

自身の周りに突如突きだした物体に驚きの表情をするユウナ…だが、その前に少しばかり様子が‥変だな?

顔を赤く染めて心細そうな…所謂、羞恥心を顕しているように見える。

 

「驚いたでしょ? 心配はいらないわ‥私も同じだから。…どうしたの? 」

 

異形の姿を見て驚いたであろうユウナに声をかけたハルナも異変に気づいたようだ。

俺はふと足元に布切れが落ちていることに気づき手にして見る……小さな札が付いている? 何か文字が書いてあるぞ?

 

「E75‥ なんだこれ? 」

「みっ、見るなぁっ! 」

書いてある文字を読み上げた途端にユウナが血相を変えて叫んだ。ハルナはその意味を理解したらしく…

 

「ユウナ… インナーは何を? まさか普通の‥ 」

 

「下着はそのままだったが… 突然締めつけが消えた… 今、服の中はノーブラ&ノーパンになってるようなのだが… これはいったい?」

 

彼女は伊勢型戦艦二番艦日向に違いない。金剛型に続き二隻目の戦艦も同タイプの装束で……下着は晒木綿と褌というアンティークな品が標準装備されている。

 

 

「下着がこれってあんまりよね? 」

「そうだな、時代錯誤も甚だしい。ところで、最近姉がいることが判明してな…この流れでいくと、やはりそうなる…な? 」

 

今、なんと…

姉がいると聞こえたような……

 

 

 

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宿に戻った俺は永倉長官に報告の電話をする。この世界には携帯電話が普及しておらず、部屋に備え付けの黒電話から外線接続して掛けるのだ。中々こういうのも新鮮だよ…

 

「倉橋ユウナは艦娘であることを確認しました。艦種は戦艦、伊勢型二番艦の日向でありました。‥はい。それとですね…彼女には最近になり姉がいることが判明… はっ! それはこれから確認しますが‥恐らく。では、後の手続きはお願いします」

 

黒電話の受話器の向うで歓喜にうち震える永倉長官の姿が浮かぶようだ。戦艦の艦娘が一挙に三隻も増えたのだから当然なのだが、これまでとは違った課題が山積みになりそうな予感がする。江田島ハルナの発見により生じた『日本国籍を有する艦娘』への対応を如何様にするのか? 彼女は初の特例処置として海軍特務士官の待遇で迎え、特別監査室附の大尉として陸上勤務で艦娘艦隊への配属は暫時延期中だ。さらに二人増えることになる…日向と恐らく‥いや、間違いなく伊勢の二人だ。

 

「国の一大事に際して、本身を捧げると云うのは吝かでないが…姉がどう答えるかな… 」

 

此のようにユウナ(日向)は事情を聞いた上で、国の存亡を賭けた戦いに赴くことには肯定的な考えだが、伊勢には何やら事情があるような言い方である。

 

既に先方には連絡を取ってあり、我々三人は広島市内にある戦艦伊勢と目される彼女の自宅を訪問しようとしている。

 

 

 

 

 

 

新興住宅地に建つ真新しい一軒屋の前に着いた。見た感じ4LDK位のインナーガレージ付き住宅で自家用車を所有している様子から裕福な家庭といった風情が漂う…

表札には『SUZUKI(鈴木)』とある。艦娘の姓としてはあまりに普通なのは…

 

《 ピンポーン 》

ユウナが呼出しのドアホンを鳴らす。

 

『はーい! ユウナ? 』

 

暫くして明るい口調の声がスピーカーから聞こえた。

 

 

「いらっしゃい! 待ってたわよ~ユウナ叔母さんにごあいさつでしゅよ」

「アー キャッ キャッ 」

 

ユウナと良く似た女性が赤ちゃんを抱いて現れた…

 

まあ、そういうことなのだ……

 

 

鈴木チセ(旧姓 坪井チセ)戦艦伊勢。主婦一児の母である…

 

 

 

 

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