妖精
「なんで長門が?」
戦艦長門は敗戦により米軍の原爆実験で沈んだ筈だぞ?何故それが記念艦として存在しているのだ? いや、そもそも…海軍が存在している日本というのは??
「軍医殿…質問よろしいですか?」
「…なんだ?」
「日本は第二次大戦で負けましたよね?」
「…それがどうかしたかね?」
どうやら日本が敗戦したのは同じか?
「では、海軍が存続しているのは何故ですか?」
「…おかしなことを聞くのだな?」
「すみません…どうも打ち所が悪かったのか…記憶が混乱しておりましてね? 」
取り繕いましたが、これで誤魔化せないかな?
「…そうか、事故の影響で一時的な記憶喪失かもしれんな? ならば多少おかしな質問にも答えてやるべきかのう…」
軍医殿は俺の質問に対して、第二次大戦の敗戦から順を追って話してくれた。
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1945年(昭和20年)8月‥日本は敗色濃厚になっていた。帝国海軍は既に戦艦大和も失い、迫り来る米軍艦隊に対抗する術がなかった。9月に入り九州に米軍が上陸作戦を決行して本土決戦が始まってから風向きが変わった。米軍上陸部隊は本土決戦に向け温存されていた内地陸海軍部隊の激しい抵抗に予想を上回る損害を出したのと、民間人も動員したゲリラによる神出鬼没な襲撃に悩まされた。内陸部へ進軍するにつれ戦況は泥沼化していったのだ。そこへきてアメリカ国内の厭戦気分が高まったことが大きく…戦争継続が困難な情況に追い込まれて一気に講和へと流れが変わった。
「ちょっと待って下さい! 米軍が九州に上陸作戦?本土決戦が行われたのですか!?」
話の出だしから既に食い違いがある。史実で日本は昭和20年8月で敗戦だぞ? 9月に米軍の上陸作戦?
「…ふう、まあよい。説明しよう」
軍医殿はやや呆れ顔で話の続きを始めた。
「戦後明らかになったのだが、当時の米軍の戦略計画では開発に成功したばかりの新型爆弾を日本本土に落として一気に畳み掛けるつもりだった…」
新型爆弾…原爆だ!
「原子爆弾ですね? やはり広島に? 」
「そうだ‥原爆だ。‥何故広島なんだ?」
「あ‥いえ、どこに落とされたんですか? 」
「どこにも落ちておらん」
「え? それは‥」
日本本土爆撃の為に極秘輸送中の重巡洋艦インディアナポリスは目的地テニアン島への航行中に伊58潜水艦の雷撃を受け轟沈…積荷も沈んだ。人類史上初の原爆実戦使用は成されず…それにより米軍の戦略計画は頓挫したのだ。
広島・長崎に落ちる筈の原爆は海の底へ沈んだことにより、日本は降伏へ向けた機運は高まることなく徹底抗戦の姿勢を固めた。
「そうなのか…。日本は孤立無援で連合国を相手に…」
「…孤立無援? 欧州戦線ではドイツ・イタリアが同盟国として参戦していたが?」
軍医殿はまたも呆れ顔で答えて、君は日独伊三国同盟を知らんのか?…と真顔で睨む。
「イタリアに続いてドイツも降伏…ヒトラー総統は自殺したんじゃ? 違う‥ので?」
「ドイツは降伏しなかったし、ヒトラー総統も自殺しとらん。頭を打ったにしても呆けすぎだな?」
ドイツは連合国軍のノルマンディ上陸作戦にて奇跡的大勝利を挙げていた。また日本も硫黄島・沖縄で持久戦を行ない米軍将兵に多数の犠牲を強いた。その結果、主にアメリカ国内世論において戦争継続に否定的な空気が流れた。そして1945年12月25日…停戦。
その後の講和条約により日本は朝鮮半島を放棄し、朝鮮は独立した。また満洲国に関してはアメリカの介入を認めるに留まる。これは戦時中に発見された油田の存在があったからだ。石油メジャーが戦時中から暗躍し、利権獲得とソ連・中国の介入を阻むために日本の影響下に留め置くことが都合良いとの思惑が働いた結果だ。
その他、樺太・千島列島は侵攻してきたソ連軍に一歩も退かず国境線はそのまま残った。台湾は史実通り中国国民党政府の施政下に移った。
「…それで海軍が存続しているのか」
実質的には負け戦ではあるが、史実のような進駐軍による占領も受けておらず…戦後日本の姿は随分と違いがある。
「軍医殿…有難うございます。お陰様で少し落ち着きました」
「…そうか。なら、ひと安心だな。記憶喪失は一時的なことかもしれんが、何かあれば遠慮なく相談してくれ」
「はい…あ、近くに図書館はありませんか?」
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教えて貰った図書館は鎮守府の敷地内にあった。この日本を知るために近代日本・世界史関連を中心に読み漁っているところだ。
「日が傾いてきたな? 目が疲れた…」
気づくと外は薄暗くなり、壁の時計は5時をまわっていた。
「ん?」
視界の端を何かが横切った。疲れ目を擦りながら視線を移動する… 何も居なかった。
「虫でも飛んでたか?それにしても疲れた…」
6時には病院に戻らねば…と、急いで机の上に重ね積んでいた本を片付け……持ち上げた後ろにそれは居た。
「!? ………………」
驚きのあまり身動ぎも出来ずに固まる。
一呼吸於いて深呼吸…落ち着いた。
「…なんだお前は?」
それは本にちょこんと腰掛けこちらを見つめていたが、問い掛けに反応し可愛く首を傾げた。
「アタシガミエテルノカ?」
その小人?はシゲシゲと此方を窺いながら質問に質問を返してきた。
「…見えてるから聞いている!お前はなんなんだ?」
小人はスクッと立ち上がるとトテトテと歩み寄り……
「ブレイモノ!」
鼻っ面にパンチをくれた。…全然痛くも痒くもない。
「質問に答えろ! 握り潰すぞチビスケ!?」
右手に小人を捕まえ睨み付ける。
「フギャ!ヤメテヤメテ!」
握った手を緩めてやるとへたり込んだそいつは話した。
「アタシハグンカンノヨウセイ アタシノスガタガミエルニンゲンニカゴヲアタエル」
「軍艦の妖精? 篭など貰ってどうする?」
妖精の篭なら御利益が有りそうだが…買い物にでも使う?
「ソノカゴジャナイヨー!バカ!アタマダイジョーブカ?妖精の加護ダ!」
口の悪い妖精だ… その加護か!
「おお?やれば出来るじゃん!漢字変換されたら理解した」
「アリガタクウケトルガヨイ!」
「断る!」
「…イヤーン!!」
そのような得体の知れないものはお断りだ!