「これはこれは親父殿。今頃何用ですかな?」
流石に1ヶ月以上も音沙汰無しだったのは腹が立つ。嫌みのひとつも吐きたくなる…
「そう拗ねるな、なにかと面倒事が多くてな。今日は退院とその後の話だ。ここを出たら呉鎮守府へ行け」
「で‥出られるのか!? 」
「ああ、既に院長とも話がついておる。原隊復帰は無理だが、呉鎮守府に広報官の席を用意できた。暫く陸でリハビリに専念するんだな‥」
この世界に来て半年が過ぎていた…。漸く外の世界に出ることが出来る…。感極まる想いに身体が震えた。
「あ‥ありがとう。…父さん」
「なんだ‥泣いてるのか? まあ、半ば囚人扱いだからな…さぞ辛かったろう。しかし、広報の仕事は楽ではないぞ!ちびっこ達の相手など色々と大変だそうだからな!」
ちびっこ? 親父殿…最近はちびっこよりもミリオタの方が恐ろしいんですよ?リハビリどころか精神的ストレスで廃人になるかも……
「しかし、呉とはな…。懐かしいな」
高校卒業まで母の実家がある呉に住んでいた…はずだが? …不味ったか?
「…そうだな。向こうに着いたら母さんに顔を見せてやれ。それからお前に渡すものがある」
どうやら呉に住んでいたのは間違いで無いみたいだ。何やら親父は懐から封筒を取り出した。
「封筒? 小遣いくれるのか?」
「阿呆か! 娘ならまだしも愚息にやる小遣いはないわ! これを預けておく」
娘ならやるのか‥とブツブツ言いながら渡された封筒の中を覗くと一束の髪の毛が入っていた。
「‥これって!?」
「出撃命令が下った。まあ、あまり深く考えるな…戦に赴く武人の嗜みだ。万が一‥戻らないなら? 判っているな?」
「…預かっておく。ところで…その…」
「これから話すことは機密情報だ。他言無用だ‥」
親父の話すことは…
現時点では潜水艦による通商破壊と軍令部は考えている。そうなると、潜水艦を運用する周辺敵性国家が疑わしいのだが、相手は限られる。さらには当該海域が公海上であるだけに非常に難しい対応が求められる。
今回の艦隊派遣は敵性勢力の見極めにある。その為、発見しても先制攻撃は堅く禁じられての行動になるという。
つまり相手が撃つまでは撃ってはならん!ということだ…
「専守防衛かよ!!」
自衛隊が掲げていた錦の御旗…『専守防衛』
現代戦に於いてのそれは…死ねと言っているようなものだ。
「専守防衛‥か、上手いこと言う。相手に関しては不確定情報だが‥砲撃を受けたとも聞く。潜水艦が砲撃とは少々時代遅れな話だがな…」
沈んだ船から僅かながら確認されたのは、魚雷による吃水線下部破口の他に砲撃若しくは銃撃の痕跡が有ったそうだ。水中だけでなく、海上や上空から攻撃を受けているようなそれは‥潜水艦からの攻撃にしては辻褄が合わない。生存者の証言では付近に艦艇の姿は見えず、海から攻撃を受けたと…しかし、それでは目視できない程の小型船から受けた攻撃にしては威力が有りすぎるのだ。
「親父! 聞いてくれ! その敵は‥深海棲艦という化け物なんだ!」
「しんかい‥なんだ? 」
「深海棲艦…人外の化け物なんだよ!」
「…その化け物が敵の正体だとして。何故お前が知っているのだ?」
俺は堰を切ったように話した。
深海棲艦のこと
艦娘のこと
妖精のこと
俺が別の世界からやってきたことまでも…
「……そうか。深海棲艦という化け物が現れ、倒すためには艦娘と妖精の助けが必要だというのだな? そして…それを知るお前はこことは違う戦後を歩んだ日本から来たのだというのだな?」
「そうだ…。そして俺は狂ってなんていない!」
最初は困惑顔だった父は話を聞き終えると真剣な眼差しを向けて俺の両肩を掴む。
「お前の言うことを信じる!…しかし、命令は下った。俺はその化け物の正体を掴むべく最大限の努力をする。行ってくる‥後を頼んだぞ!」
「親父…死ぬなよ」
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暫く経ったある日、俺のもとに父の戦死告知書が届いた…
「遺髪になっちまった…」
父から預かっていた封筒を眺めて呟いていた…
それからいつまで待っても呉鎮守府への転属命令どころか退院の話すらなかった…
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――さらに時は過ぎ――
「もう冬かぁ… 1年が過ぎるのは早いものだねぇ。…ん?」
窓の外に繁っていた木々はすっかり葉が落ちて冬景色を醸している。ぼんやりと眺めていた先に動くものを見つける。
「セーラー服? なんで中学生がここに?」
中庭に走り込んできた少女に目をやる‥
髪が青い…コスプレ? しかし、この世界ではまだお目にかかったことはない。
次の瞬間、すぐ後ろから大勢の憲兵が追い縋ってきた。程無くして少女は憲兵に捕まっ‥らず!? 彼女は身の丈が倍近い憲兵を投げ飛ばした。
「ありゃっ!? すげぇな!?」
しかし多勢に無勢‥少女は憲兵達に取り囲まれて取り押さえられて組伏せられた。
目が合った!
『!? ‥! …!!』
こちらに気がつき、何か叫んでいる。
「助けろってか?…すまんなぁ。俺も囚われの身だからねぇ」
視線を外すと窓際から離れた…
横で妖精達が何やら叫んでいるようだが…
怠惰を貪る日々を過ごしてきた俺の耳には届くたはずもなく…
そうして今日も退屈な1日が過ぎて行く……
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―親父 side―
病室を出て足早に院長室へ向かった。
「院長! すまんが前言撤回だ!」
「…どうされました?」
「やはり息子は狂ってしまった……。化け物が襲撃してくるとか、妖精が語りかけてくるとか……終いには自分自身が別の世界からやってきたなどと世迷言を言う始末……アレは正気の沙汰ではない! 思わず嘘をついてしまった…信じるなどと」
病室内では辛うじて平静を装っていたが、ここへきて抑えが効かなくなり狼狽して頭を抱えていた。
「それは…お辛いですな。幻覚や妄想を然も本当のことと信じて語るのでは致し方ありませんな」
「彼奴が…息子が不憫でなりません。…狂ってしまっても私の掛け替えの無い一人息子なんです」
「…御子息は責任を持ってお預かりします。御心配いりませんよ」
「何卒‥宜しくお願い致します」
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―⚫⚫side―
『君の名前を教えてもらえるかな?』
正面に座るおじさんが微笑みながら‥目は怖いけど
「・・型駆逐・・・・番艦・・・・」
名前は言える…
『……なんだねそれは? 私が聞いているのは君の名前だよ? 』
あたしの名前はそれしかないよ?
『まぁいいか、じゃ身体検査を始めようか」
身体検査!? あたしの身体をどうするつもり?
逃げなきゃ…
『キャアッ!』
女の人が入ってきた瞬間、咄嗟に逃げ出していた。ぶつかった拍子に尻もちをつく女の人が悲鳴をあげた。
『おいっ! 逃がすな!』
逃げなきゃ! 外へ!‥ 扉を開いて飛び出した。
「えっ! 行き止まり!?」
周りは建物に囲まれていて、出入りはさっきの扉だけだ。躊躇した瞬間‥
後ろから腕を掴まれた。
「イヤ!離してっ!」
『うあぁっ!』
振り解くつもりが投げ飛ばしていた。
そんなに強くしてな‥
『一斉に飛びかかれっ!』
「ぎゃふぅっ!」
数人の男の人があたしに乗り掛かり押さえ込む。
なんでこんな…
その時‥上の方から視線を感じて見上げ…
目が合った!
妖精を肩に乗せた男の人がこちらを見ていた。
「あっ!?助けてっ!司令官!!」
どうしてそう思ったのだろう? 司令官?
でも、その人は一瞥すると窓の奥へ消え去った…
見捨てられた…の?
酷く悲しい感情がこみ上げた。
『世話焼かせやがって!このガキっ!』
グーでおもいっきり殴られた……
口のなかに鉄の味が溢れた…
これからどうなるんだろう…