「うわぁっ!」
突然目の前に突きつけられた砲口に驚きひっくり返った! 妖精から聞いてはいたが、眼前に銃口を突きつけられたら驚くぞ!
少女自身も驚き戸惑っている様子だが、その後ろでは床を濡らして腰を抜かしている女性憲兵の姿がある。
「君! これはマジックだ! いいね? …君はマジックに驚いただけだ!…私の言っている意味はわかるよな?」
大佐は失禁して腰を抜かしている憲兵を諭すように言い含める。
「…は、はい! 私は押田天功やマジー二郎も真っ青なマジックを見て感動しました! アハハ…ハハ」
「…そこまで言わんでもいいが、それよりも君‥着替えてきたらどうだ? 今起きたことは内緒にしておこう‥お互いのためにな? そのついでに彼女にも着替えを頼む」
彼女はパンツがびしょ濡れになっていることに慌てふためき退出していった。
ついでに頼んだ着替えのほうが早く欲しい。それと言うのも… 艤装を展開した瞬間、少女が着ていたジャージは吹き飛んでいたのだ。いや、よく見ると下着も吹き飛んでいる!
「‥しかしまぁ、その姿はちょっとな? 元に戻せるか? 」
妖精が再び手を翳すと艤装は消え失せた。しかし吹き飛んだ服は元には戻らず、艤装が消えたあとには素っ裸の少女が残る…。
「エッ? ‥い!? きゃぁ!」
自身の姿に気づいた少女は胸と股間を手で隠してその場に蹲る。流石に素っ裸になるのは恥ずかしいようだ……
「武装を纏ったら素っ裸になるのか? これでは毎回着替えを用意しないといかんな? おい‥なんとかならんのか?」
その後、妖精との会話で… 艤装展開する際には最初に身に着けていた衣服しか対応しないことが判明した。艤装は艦娘の体内から発生するために、着衣を破壊してしまうのだ! 無論‥下着もだから…素っ裸になってしまう。
「着衣も全て装備ということなんだな。しかし、替えの服が無いのは不便じゃないか? 」
大佐が妖精に向かって疑問を投げると、妖精は『任せておけ!』という素振りだ。どうやら着替えを用意できるようだ。いつの間に現れたのか、数人の妖精が少女の足下に散らばる端切れを集めて作業している。時折、淡い光があがると何やら形になった。なんとそれはブラジャーとパンツの下着二点セットであった!
「何々… 素材が足りなくて下着しか作れなかった? 」
艦娘とやらの衣類も装備品として妖精が製作するのだそうだ。原材料と大気中に存在する元素を混合し、仕上げに妖精が『気』とか『精』と呼ばれるオカルト的なものを注入することで完成だ。
衣服には防護力も備わり、それ自体が『戦装束』なのだそうだ。
「ふうむ…ってことは下着も所謂『勝負下着』というやつか! 」
大佐が納得しながら呟くが… 勝負下着の意味それじゃありませんから!
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暫くすると先程の女性憲兵が着替えて戻ってきた。勿論、頼んでいた少女の着替えもある。
「二人とも着替えたところで本題に入ろう。あ、君はさっきのことは他言無用にな? 漏らしたことも内緒にしとくからね」
「は、はい! 絶対に喋りません! ‥謂わないで下さいね大佐」
憲兵は余程恥ずかしいのだろう… 顔が赤い。
職務より羞恥が勝る女性で助かった。
「今日の用件はだな…。君の身柄を引き取りに来たのだよ。一通りの調べも終わったが、依然として君の身元は判明していない…が、犯罪者でもないのに拘束し続けるというのもな? 」
思いがけない話に少女は眼を丸くして驚いた。
「ここから出られるの? 」
「そうだ、私が今日から君の身元保証人となる」
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海軍病院で事務手続きを終え、少女は大佐の自家用車ヲッサンレッドバードの助手席に促され座る。今日は公用ではないために自家用車を自ら運転してやって来たので、2ドアセダンの車という都合上から助手席に座らせた。少女が物珍しそうに乗り込んだ様子を見て大佐は…
「車を見るのは初めてなのか?」
『 コクッ 』
少女は緊張からか、無言で頷き肯定した。
「シートは少し前に…シートベルトをして‥これでよし! ドア閉めるぞ? 」
『 バンッ 』
助手席の少女にシートベルトを着用してやりながら考えた…
「…(まず一般常識から教えないといかんな)じゃ、出発するぞ」
イグニッションキーを回しエンジンを始動、クラッチペダルを踏み込みギアをローに入れる。軽くアクセルペダルを踏み込みながらクラッチペダルをリリースして繋ぐと車はスルスルと動きだした。大佐の愛車『レッドバード』は操作の流れからしてMT(マニュアルトランスミッション)車だ。
「おー凄い! 動いた!」
助手席で少女は驚きと感動を手を叩いて顕した! 道路に出て速度を上げて走ると窓の外を流れる景色にキョロキョロしだす。何もかも珍しいようだ…気がつくと少女は先程までの暗い表情から一転していた。まるで子犬のように窓に手をかけて景色を凝視している…尻尾があれば振っていたこだろう(笑)
「街へでるのは…初めてなのか?」
「…多分初めて。なんでヒトになったのかもわからないんです」
少女は自分を駆逐艦だと名乗ったが、気がついた時に記憶にあったのはそのことだけだそうだ。艦娘というヒトの姿になる直前までの記憶は朧気にしかないらしい。
「そうか、今日から君は人間として生活してゆくんだ。私は君の保護者として身柄を預かることになった。わからないことだらけで不安だろうが…」
大佐は軍上層部に掛合い、少女を保護観察処置として身柄を預かることにした。妖精によると、艦娘はヒトの姿となり現れたままでは戦闘艦だった時の記憶が殆ど喪失している。勿論、ヒトだったわけではないために人間としての常識もあまり持ち合わせてはいないのだ。現状での艦娘は戦闘艦とも人間とも言えない半端な存在でしかなく、生れたての状態では戦い方もわからない。教え導く指揮官が必要なのだそうだ。
「指揮官というより… 保護者だよなぁ」
第三者から見れば…この二人の関係は父娘だ。
先ずは人間の少女としての生活を教えてゆかねばならない。大佐は艦娘の戦闘など知らないので、戦闘に関しては妖精に任せておくしかないのだ。
「あの… 保護者というと? なんて呼べばいいですか? 」
「うぅむ、、お父さん…かな? うん、人前ではお父さんと呼びなさい」
大佐は少し照れがあるが、やはり他人から見て違和感がない呼び方は『お父さん』だろう。パパは…ちょっとな? 淫らな関係を連想してしまいそうだ…
「お父さん…かぁ」
父親というものがピンとこないようだ。元が
では父親は…設計者かな? 兎に角、人間の感覚ではないのかもしれない… 見た目は普通の人間… 否! 普通以上に整った姿をしている。何というか…『作られた美しさ』だ! それもそうか、人によって造られた軍艦の生れ変わりなのだから『造形美』ということか?
そうしている間に車は住宅街に入っており、大佐の自宅へと到着した。大佐の自宅は横浜郊外の閑静な住宅街にある。貿易商だった祖父の代からの邸宅で、敷地も建物も大きい。
車を玄関前に停めて少女と一緒に降りると玄関の引戸を開くと和服姿の女性が出迎えた。彼女は大佐の妻だ。
「おかえりなさいませ。その
「うん、今日から家の
大佐による『艦娘育成計画』が始動した。