彼は心優しい人だった。
他人の痛みを理解できる人だった。
いつだって努力し続けていた。
でもきっと、頑張りすぎてしまったんだ。
だから彼は休んでいるだけ。
少し、眠ってるだけなんだ。



___これはとあるカルデア職員の独り言。


※ただの一発ネタなのでだいぶ短いです。R-15は保険というかなんというか…。

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【一発ネタ】私たちが殺した優しい少年の話

よくよく考えたらおかしなところはいくつもあった。

魔術の魔もわからないようなただの一般人がたまたまカルデアのマスター候補になり、偶然人類最後のマスターになった。

死に逃げることも許されない彼は挫けたとしても立ち止まることなく、必ず前を向いていた。

特異点では何度も殺されかけたし、現地で親しくなった人を何人も亡くした。

どんな恐怖が立ち塞がっても世界を救うための努力を怠らなかった。

普通の人間には到底無理な話だ。

しかし彼は成し遂げた。

彼は世界を救って見せた。

だから勘違いしてしまったんだ。

彼は“特別”なのだと。

サーヴァントは世界を救うために自らの意思で召喚に応じた。

カルデアの職員は自らの意思でこの職を選択し、生きることに絶望した人間は早々に命を絶った。残った人間は人理焼却に立ち向かうことを選択した。

マシュは人間でありサーヴァントでもあるという特殊な立場であり、選択肢もなかった。しかし彼女を一人の人間とみる人も彼女を娘のように、息子のように想うサーヴァントもいた。彼女はマシュ・キリエライトという人間として、サーヴァントとして必要とされていた。

なら、彼は?

何も知らないうちにカルデアに訪れ、彼だけが残ってしまったため、彼は人類最後のマスターという一人の人間とみる者はいなかった。彼はいつだって、このカルデアにいる限り人類最後のマスターとしてでしか存在できなかった。存在することを許されなかった。

彼のバイタルは基本的に安定していた。安定していることの方が異常なのに。

一度だけ、彼に聞いたことがあった。

「人理を守ったあと、何がしたい?」と。

彼は答えた。

「なんだろうな……。特に浮かばないんだけど、あえて言うならみんながやりたいことができたらそれでいいかな」

マシュには青空を見せてあげる約束をしたから吹雪の吹いてない、一面の青空を見せてあげたい。それにずっとカルデアにいたんだから、普通の女の子みたいに街に出て買い物とか食事とかもさせてあげたいな。

サーヴァントのみんなには人理修復を手伝ってもらってなんだけど、俺ができることって全然なさそうだよな……。あ、現代社会の風景とか見せてみたいな。みんなが過去に存在したからこそ今があるわけだし。

職員さんもずっとカルデアに閉じこもってるし、人理修復できたら思いっきり寝て、食べて、遊んでほしいな。特にドクター。徹夜するし運動しないしネットアイドル追いかけてるし。

と、そう言ったのだ。

彼はもう、彼自身の望みも言えない。わからない。

心を偽り、身体を偽り、彼は彼自身が気づかないうちに彼という人間を壊した。

私たちが××××(藤丸立香)を殺したのだ。

 

 




藤丸立香をアナグラム化すると「はじまりつくる」になるって聞いたとき凄いなーって思いました(小並感)

藤丸立香は凄いですね。
魔術なんて知らない一般人が爆発巻き込まれて会ったばかりの女の子を助けようと逃げることもせず、急に人類最後のマスターなんて言われても逃げ出さない。
目の前で知り合いを亡くしても立ち止まらない。
オルレアン、ローマ、オケアノス、ロンドン、イ・プルーリバス・ウナム、キャメロット、バビロニア、そしてソロモン。
たくさんの人と出会い、別れ、死にかけるも生き延びる。
ただの人間が体験するには重すぎると思うんです。
でも藤丸立香という人間は逃げることなく立ち向かい、乗り越えたんです。
そんなの、普通に考えたらありえなくないですか?
普通の神経してたら殺気に当てられたらビビって逃げ出すと思いません?

ちなみに作者は好きなほど精神的に痛めつけてボロボロにして泣かせたい人種です。でも愛ゆえだから仕方ないですよね!


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