「それにしても君は精霊だそうだな?元素精霊界に戻らないのか?」
「いや・・・お恥ずかしながら俺も扉をくぐらないと戻れないんだ・・・」
今カミトとミカドの前を歩く制服に甲冑をつけたような少女。エリス。ファーレンガルドは現在二人の学校案内中である
カミトは男の精霊使いということで快く思われていない様子である。ちなみにミカドは精霊ということで幾分マシな扱いだったのだが精霊らしからぬ発現などからカミト同様の扱いを受けるようになるだろうということは目に見えて明らかだ
そもそも精霊とはこの世界。つまり人間のいる世界とはまた別の世界『元素精霊』に存在する生物である。必然的にこの世界にとどまるにはそれ相応の負荷がかかるのだがシノミヤ・ミカドこと、レイ・サルヴァトーレはその常識を無視してこの世界に顕現している
元は封印精霊だったとらしいが開放された当初の記憶は残っていないのだ。らしい、というのも昔教導院という施設で教えられた情報で真実かどうかも不明である
精霊であるという自覚じたいも曖昧で元素精霊界に帰らないのか?と、聞かれても帰り方がわからないとしか答えられないのだ
つまりは精霊でありながら人と大差ないのがレイ・サルヴァトーレなのだ。人のように感情を持ち人のように考え行動する。最初は自身が精霊だと言われた時も理解できていなかったが訓練を積むにつれてソレが次第に事実であるということを知った
三年前のあの時。ミカドは人になりたくて、その願いを叶えたく精霊剣舞祭に出場したのだがソレは失敗に終わった
一人で回想にふけっているといつの間にか説明は自分たちが暮らしていく寝床の話になっていたらしい。状況だけ確認するとエリスがカミトに向かって馬同様の生活を強いており、さらにそこにミカドも加えられるという状況である
「おい!ちょっと待ってくれ!いくらなんでもソレはないだろう・・・・」
「何か文句でも?」
「いえ。ありません」
睨まれ、そう即答するのだった
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講堂のような教室を覗くとそこにはまだ誰もいなかった
おそらく野外訓練などで出払っているのだろう。この時間帯は人が少ないようだ
「わざわざ、ありがとう。大体の構造は把握できたよ」
「ここまでで大丈夫だ、あとはクラスメイトに聞くよ。案内ありがとな」
「ふん、れ、礼など不要だ。きちんと案内をしておかないと君たちはわざと間違えてトイレに侵入するかもしれないからな」
「カミトはへんた・・・って、ハァ!?俺もか!!」
わりとひどいセリフを受け二人で盛大に溜息をついた
初日からコレではクラスに馴染めるかが不安になってくるものだろう。カミトもミカドと同様のことを考えているのか似たようなことをぼやいていた
カミトに続き教室に入ろうとした刹那
ヒュッと空気を裂くような音と共に後方から鞭が飛び上手くカミトの首を縛り上げる
背中に冷たいものがつたり本能的に関わるべきではないと察すると、何も見てなかったと言わんばかりに教室の中へと入った
どうやら鞭を振るった人物はミカドへの関心は薄いらしくこちらまで飛び火してくることはなかった
振り返ると色々とヤバイ構図になっていたので、ミカドは固く目を閉じそのしばしの流れが過ぎるのを待つのだった
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カミトとミカドが教壇にあがると、教室には静かなざわめきが起こった
どうやら二人の噂はすでにひろまっていたようだが、めったに触れ合う機会のない少年たちに不安と好奇心を隠しきれないようだ
「あれが男の精霊使い・・・」
「あの黒いマフラー巻いてるのが精霊なんだっけ、本当に契約者無しで・・」
「二人とも目つき悪いわ」
「私・・・契約頼んでみようかしら・・・」
「でも、噂では精霊もやっぱり男。えっちなことばかりしてるから契約者が見つからないそうよ」
(なんか全く身に覚えのない噂が・・・・)
カミトは筋金入りのフラグメーカーであるからそのような噂が立つのも納得がいく
しかし、ミカドとしてはあえて精霊使いを避けていたのにも関わらずこのような噂が立っていることに少し落ち込んだ
契約者を持たず街中をウロウロしている精霊なんて少ないだろう。それも今回は契約者募集の張り紙をつけられている状態だ
興味を持つ者が現れるのもおかしい話ではない
カミトはというと一番前の席の少女に目をやっては青い顔をしている。少女はというと燃やすだとか消し炭だとかをブツブツ言っている状態だ。これにはあまり触れない方がいいのだろう
「あー、さえずるな。静かにしろ、単位減らすぞ貴様ら」
担任講師が机を叩くと教室はしんと静まった
「ほら、お前らもとっとと自己紹介しろ」
手始めにカミトが自己紹介を済ませる。案の定クラスの反応はすごくカミトも色々戸惑っている様子であった。それから紅髪の生徒・・・クレア・ルージュとの関係性は自己紹介に伴った二人のやり取りで大体掴めて来た
カミトは奴隷でその主人がクレアらしい
(それで鞭で叩かれまくってるのか・・・納得だ)
※致命的な勘違いである
「俺はシノミヤ・ミカド。歳は記憶と外部からの情報の一致で16歳だと思う、個人的にはその・・・フレンドリーに接してくれると嬉しい・・・」
何しろこれだけ多くの精霊使いの前に出るのは久々すぎて少々緊張してしまった。もう少し堂々としとくべきだったかと内心で反省をしていると
「なんかクールかと思ってたけど以外に可愛いかも・・・」
「身長高いのに・・・こいうのギャップっていうのかな?」
以外にウケは悪くないようであった
「さて、お前らも好きなとこ座れ」
カミトに続いて後ろを歩く。やはりここは昔のよしみでもあるカミトの近くへ座るのが無難だろう
しかし、再びどこかで聞いたような音と共にカミトの首へ鞭が巻き付くと、あろうことかコチラに向かって引き戻されてきた。ドミノのように二人して倒れこむと例の紅髪の少女が目に入る
「ちょっと、カミトは私の隣の席よ」
「おい。俺は関係ないだろ俺は」
「え?アナタも奴隷になりたい?ま、ちゃんと精霊なんだもんね。それに人型ってことは結構上位クラスだったりするのかしら・・・?」
雲行きが怪しくなってきたところで急いで立ち上がり一番後ろの席へと避難しようとして今度はミカド自身が鞭によって引っ張られる
「うおあぐっ!」
よもや初日からこのような目にあうとは思ってもみなかった。カミトが今度は締め上げられているらしい。カミトが本気で死にそうな顔になってきて止めようとした時
ヒュッと風鳴り音がして、氷の矢が突き刺さる。
「はしたないですわよ、クレア・ルージュ」
気品あるその声は教室の一番上から聞こえてきた
高貴なお姫様を絵に描いたような顔立ち。豪奢なプラチナブロンドに処女雪のような白い肌。瞳の色は淡い光彩を閉じ込めたエメラルドグリーン
あでやかな微笑を浮かべるその美少女は紛れもなくいいとこのお嬢様なのだろう。このクラスでも一際目立つ存在だった
「・・・っ!なんのつもり、リンスレット・ローレンフロスト!」
「そちらの彼、私の隣に座りたがっているのがわからないんですの?」
こちらを指差し何かを言う少女
「なんですって・・・カミトもミカドも私の奴隷よ!!勝手に手を出すのは許さないわ」
「ちょっと待て。カミトはいいよ。俺は奴隷にはならない」
「ホラ、彼はわたくしの下僕にと自ら願っているようですし」
こうなっては止まらないのだろう。おそらくクレアとしては封印精霊を手懐けたカミトが欲しい。しかし、自分自身も協力な精霊と契約したい、そういうことだろう
対するリンスレットはクレアの対抗心ゆえかカミトもミカドも自分の下僕にすると言い張る
溜息をこらえて事の行き先を眺めている
「あわわわっ、お、お嬢様。編入生さんたちが困ってますから!」
教室のうえからメイドがだーっと駆け下りてくる
((・・・は?メイド?))
今カミトとミカドは同じことを心のなかで言ったのだろう。何しろメイドが学院にいるのだから驚くのも仕方がないだろう
この状況を打開できそうな何かを少女に期待した。その時だった
「お嬢さ・・・きゃっ」
それもう、ド派手に転んだ
「キャロル!?」
リンスレットの顔が青ざめる
ミカドは予備動作無しでその場を跳び、転び落ちそうになったメイドを抱きとめ、メイドの体に負担がかからないように自分に勢いの負荷をかけ後方へと跳ぶ
一瞬精霊としての力を開放したので黒いコートに黒いマフラー。少し長い黒髪にはっきりとし赤い瞳。無口な印象をより際立たせる風貌へと変わりメイドを抱きかかえたまま静かにリンスレットの近くへと着地する
「大丈夫か?怪我はないか?」
「ふわああっ、すみません。すみません」
瞳に涙をためて謝る彼女を見る限り何とか無事そうだ
「あ、あの・・・キャロルを助けてくださって・・その、ありがとうございます」
「いいよ。俺としては彼女が無事でなによりだ」
そう言って笑うと、何故か顔を赤くしてリンスレットは俯いてしまった
力を再び封印すると黒いマフラーを残して元の制服へと戻る
「で、でも。アナタは下僕で主人はこのわたくしですのよ!」
「いや・・・だから俺は・・・」
「カミトはダメ!そっちの精霊も私が調教するの、手を出さないで」
「なっ、ミカドさんはわたくしの下僕です。あなたこそ手を引くべきではなくて?」
どうやらこの方たちは話を聞かないらしい
今日何回目になるかもわからない溜息をつき、カミトへ同情の視線を向けるのであった