『速さ』だけを求めたゲーマー   作:Re:クロバ

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第4話:『劣等感』

──特攻装備入手イベントクエスト。

 

この情報が漏れ、ゲーマーたちを賑わすのには時間がかからなかった。

我先にと言わんばかりに今日も妖精たちは広大なフィールドへ赴いたり、Extra Questで経験値稼ぎをしている。

 

そんな中、周囲に習わず、相も変わらず快晴の青空を見上げるインプが一人。──ゼノンだ。

 

草地に腰を下ろし、こののどかな場に不似合いな高ランクの漆黒の剣を携え、怠惰な時間を過ごしていた。そしてそんな彼の元に飛来する風妖精がまた一人。

 

当然、リーファである。

 

「……よく飽きないね」

 

「リーファ。うん、飽きない」

 

「はぁ。こんな時こそ強くなろうと思わないの?」

 

「どうせ俺が頑張ったって……」

 

「弱音は吐かないのッ!ホラッ!」

 

「ちょっ。乱暴はNGだって!」

 

装備の襟袖を掴む彼女の勢いに、俺は我慢出来ずに空へ躍り出た。弾丸のようにとは言わないまでも、高スピードで射出された自らの身体を翅を広げ、なんとか静止。

 

「あぶねっ……」

 

「さぁ!特訓開始だよ!」

 

イベントが近いというのは分かるが、やる気が超過しているのではないだろうか。リーファの張り切り様を見て、そう思わずにはいられない。

 

「……寝ていたい」

 

俺は首を傾げ、本音を漏らした。

そんなことなら現実へ戻れと多くの人々は思うのだろうが、俺はこの青空の下で眠りたいのだ。

 

だが、しかし。

 

「じゃあ、まずは東の方へ行こう!そこでMob狩りだよっ!」

 

「いや、だから──」

 

「しゅっぱーつ!」

 

この風妖精がいる限り、俺の平安な眠りは訪れないのかもしれない。それならばいっそのこと──。

 

「リアルへ戻りたい……」

 

けれど、そんな願いは叶うはずも無く。娯楽であるゲームの世界で俺は、『眠れない』という苦痛と草原エリアの敵Mobと戦うことになるのだった。

 

 

 

──三日後。

 

クエストカウンターに広がる妖精たちは、例のイベントクエストを受注した瞬間テキトーにパーティを組み合わせ草原エリアへと向かった。

 

どうやら是が非でもその特攻装備とやらが欲しいらしい。

その為には、関わりが無かった完全なる赤の他人とチームを組むことも厭わないようだ。

 

そんな欲望塗れるクエストカウンターには、『刹那の英雄』もいた。

 

金髪シルフを探す彼は人の波に押され、とうとうクエストカウンターの最前列へと到達。NPCの応答に答えざるを得ず、リーファを見つけることの出来ないまま……彼はクエストを受注してしまった。

 

「……まぁ、混んでたし仕方ないな。のんびりとリーファを待ってみよう」

 

相変わらずのその呑気っぷりには脱帽してしまいそうになるが、当然彼の元には多くのフリーの妖精たちが押しかけた。

そしてその人数が彼だけ異常に多かった。

 

それもそのはず。

 

何せこのイベント。特攻装備は確定ドロップではあるが……『先着1000人限定』という残酷なルールとなっていたのだ。

 

よって、非常に低燃費なこと極まりないが、ALO史上最速を誇るOSS《セツナドライブ》は注目の的となり、結果的に多くの妖精たちが押しかけてきているのだ。

 

「お、俺と!」「私と!」「頼むよ!『刹那の英雄』!」

 

「え、えっと……」

 

もちろんゼノンは困り果てた。

だが、それと同時に笑顔で絡んでくるプレイヤーたちに怒りという醜い感情も抱いた。

 

──俺を除け者にしていたクセに……こういう時だけ……!なんて、都合の良いヤツらなんだッ!!

 

しかし、そんなことは口が腐ったとしても言えるはずがなく。

ゼノンはただ狼狽するばかりだった。

 

と、そんな時。

 

「いいじゃない減るもんじゃないし!」「そうよ?私たちに手を貸してくれないかしら?」「報酬はちゃんと山分けにするからさ!」

 

集る群衆を押しのけ、一際目立つ女妖精アバターたちがゼノンの元へと駆け寄った。

ウンディーネ、シルフ、ケットシーと種族はバラバラだったが、良く言って『魅力的』、悪く言って『派手すぎ』という風貌だった。

 

──口調、勢い、外見。どれを取っても、ゼノンが苦手な部類の人たちだった。

 

「だ、だから……──」

 

まさに絶体絶命のピンチ。

こんな言葉を実際に使うことがあるのだなと、ゼノンは己の現状を呪った。

 

 

「──ゼノン?」

 

 

しかし、女神は彼を見捨てていなかった。

 

緑が基調の服、大きな髪留め、流麗な金髪、翡翠色の双眸に可愛らしい鼻と口。豊かな胸は歩くたびに左右に揺れ、グラマーな体とは正反対な幼さが残る顔は戸惑いの色で塗りつぶされていた。

 

「どうしたの……?」

 

「り、リーファ!」

 

ゼノンは謎を解明することができた探偵のように喜んだ。

だが、すぐに苦虫を噛み潰したような顔になり、俯いた。

 

ゼノンの表情の変化に訝しんだリーファだが、すぐに彼の置かれている状況を察したようで、人の弾幕をかき分け、彼を連れ出し、

 

「走るよ!」

 

と、そのまま大通りを疾駆し始めた。その進行方向から、目的地が転送ポートだということが推測できる。

 

風を切り、『速さ』を求めるゼノンへの人々の声や手を跳ね除け、彼らは足を前へ前へと出し続けた──。

 

 

 

 

仮想世界の中では息切れはしないはず。しかし、何度目になるのだろうか。俺は肩で息をし、膝をいつもの草地につけていた。

 

隣には俺を助けてくれたシルフのリーファがいた。彼女の顔は周囲を警戒する故に強ばっていた。

 

現在、俺たちはとある小さな浮島へと避難していた。

かなり、高度はあったし、風も吹き荒れている。

リーファの飛行技術が無ければ、俺はこんなところへ到達することは不可能だったはずだ。

 

そして、こんな惨めな状況で、今までの醜態が俺の脳裏に泡沫のように浮かんでは消え始めていた。

迷惑をかけている自分、弱い自分、笑われるだけの自分……。

なんて、半端なんだろう。

いや、半端という言葉すら使うことは許されないほどの痴態だ。

 

そして、それは今も継続中だ。

 

「──リーファ」

 

「どうしたの?」

 

だから。強風に流されるように、俺はポツリと本音を漏らしてしまった。

 

「ゴメン、本当にゴメン。……俺ってさ、ホント邪魔者だよな」

 

「え?」

 

この瞬間だけ、耳元で轟々と唸っている風の音が遠のいたような気がした。

 

「迷惑かけてばっかだし、オマケに雑魚。リーファもこんなヤツと関わらなかったら、今頃は──」

 

「嘘でもそんなこと言っちゃダメだよッ!」

 

悲観的な俺の自身への評価にリーファは語気を荒げた。

俺は強風の中、顔を上げた。

そこには、凜然とした風の妖精がいた。

 

「自分を卑下する発言だけは絶対ダメ!もっと自信を持って!」

 

「迷惑かけてるのが実情だ!そんなこと言われても……自信なんて……」

 

「──この前の巨神。攻略不可能だと囁かれてたアイツを倒したのって……どこの誰?」

 

「それ……は……」

 

「ゼノンでしょ!?自分がどれだけ凄いことしたか分かってるでしょ!?誇っていいんだよ!誰にもできなかったことを一人でやってのけたんだから!」

 

俺はまばたきをすることさえ忘れ、目を見張った。

草地に視線を落とし、ゆっくりとリーファの言葉、一言一句を頭の中で反芻(はんすう)した。

 

「ゼノンは強くはない。それにご都合主義の人たちからもてはやされてもいる。そこから生まれる劣等感は悪いけど、私にはわからない。

 

けれど!そんな自分へのマイナスな思いも跳ね除けることができる偉業があるじゃん!

だから、胸を張って!そして、それでも辛い時は──」

 

サクサクと草を踏む音。

風の轟音でかき消されるはずの足音が何故か明瞭に捉えることができた。

 

 

「私を頼って」

 

 

項垂れる俺にリーファが手を差し伸べた。ゆっくりと頭を持ち上げると、笑顔のリーファがいた。

 

ドクンと大きく心臓が跳ねた。

芝生を掻き毟る左手は一度硬直してから、暗闇の中をかき分けるように宙へと伸びていった。

 

依然として、微笑みながらリーファは僕の弱々しい手を優しくとった。

 

「見返してやろう?ゼノン!まだ間に合うよ!」

 

「まだ……?だって、今回のイベントは先着制で……」

 

「ゼノンは──誰よりも『速い』じゃん」

 

──速い、か。

 

誰よりも、俺が。

 

この時、リーファの言葉は俺のOSSの使用を促していた。つまり、こいつの出番だと。そう、言っているようなものだった。

 

しかし、街のプレイヤーたちに求められた時に感じた不快感は一切生じず、体に流れる血液がだんだんと温かくなっていくのを感じた。

 

彼女の期待に応えたい……!

 

そんな欲望が俺に活力を与えた。

俺は強風に抗い、立ち上がる。

そして、眼前の妖精の宝石のような瞳を見つめた。

 

そこには──信頼の情が灯っていた。

 

「……やってやる」

 

また、本音を漏らしてしまった。

だが、さっきのようなマイナスな内容じゃない。

自らを鼓舞する、至って前向きな本音だ。

 

「掴まって、リーファ」

 

俺は手を差し伸べた。

試すように笑ったリーファは逡巡することなく俺の手をとった。

 

「俺はやってやる。絶対に……やってやるッ!!」

 

そして、俺は今までの劣等感を全てこの浮島に置いていくかのように、空中へと瞬発した。

 

──イベントのターゲットはこの草原フィールドにポップする特定エネミーの討伐。

 

だが、今の俺にとっては何がターゲットだろうと関係なかった。

大切なのは、何がなんでもクリアすること。それだったらダンジョン探索だろうと、NPCの依頼だろうとなんでもいい。

 

「見返す!ご都合主義のクソったれたちを……!俺が、俺がッ!!」

 

俺は絶対的な信頼を置ける風妖精の手を引き、この世界の常識を超えた『速さ』で、飛翔した。

もう俺の目には、この時既に『自信』というものが宿っていた。

 

「ゼノン!前方に敵が!」

「ターゲット!?」

 

「そうだよ!」

 

「よしっ。それじゃあ始めよう!俺は絶対このクエストを……攻略してみせるッッ──!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※只今、諸事情により投稿が遅延しております。
誠に申し訳ございません。
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