「さ…さて、そろそろ行くとするか…」
「そ、そうだね…」
あれから数分、途端に今までのやり取りが恥ずかしくなってきた俺たちはお互いの顔をまともに見れないでいた。
顔を見れば全身が熱くなり、ついつい視線が唇に向かい、顔から火が出そうになる。
そんなやり取りを何度か繰り返していると殺気と生暖かの入り交じった視線を感じた。そのお相手はノイズさんたちであった。
そりゃそうか、自分の家にいきなり上がり込んできて目の前でイチャつかれたら誰でもキレるわな。
さらになんとも言えない気まずそうな視線も感じた。遠目だが赤くて山ほどある何かがこちらを見つめている気がする。
その時俺たちは思い出したのだ。
あ、ネフィリム忘れてた…と。
ラスボスっぽい奴をほっといて二人だけの空間創ってたらそりゃ気まずくもなるわな。
そんなことがありなんとか平静を保てるようになった俺たちは奏者達が戦っているであろう場所に向けて飛び立とうとしているところだ。
「ソウ君、もう大丈夫?」
「もちろんだ。俺は調と生きると決めた。だからどんな手を使ってでも生き残る。そして調を守ってみせるよ」
「ソウ君…」
「調…おっと、続きはまた後でな」
いかん、またしても変な世界を創ってしまった。先ほどまで寛容な態度だったノイズさんたちも流石にこれにはお怒りの様子だ。
「うん、そうだね。また後で…ね」
調も名残惜しそうに会話を切り上げ右手でペンダントを胸に抱く。そして左手を俺に差し出した。
今度こそ離さない、絶対に。決意を込めてその手を掴む。するとそれに応えるように調も握り返してくれた。そこから伝わってくる調の想い。それが聖詠となって響き渡る。
「行くよ、ソウ君。『Various Shul Shagana tron』」
調が光に包まれ、繋がる腕を介して旋律が温もりとなって伝わってくる。
なるほど、立花ちゃんが言っていたのはこういうことか。確かに悪くはないかもな。
…そういえば立花ちゃんが繋いだ手を介して出力を増幅してたな。
なら試しにと体内を流れる賢者の石を再錬成し、俺も紡いだ手を介して調にフォニックゲインを流し込んでみた。
すると何かが抜け落ちたかのような激しい虚脱感に襲われる。と同時に光が弾け、中から先ほどと同じ、いやそれ以上の出力でギアを纏う調が表れた。
先ほどとは違い翼はヘッドパーツだけでなく背中からも生え、ヘッドパーツの翼も巨大化した。またアームドギアにも錬成陣のような模様が追加されている。半信半疑だったが成功したようでなによりだ。
前もすごかったが今回のでより戦女神の聖遺物に相応しい風格になったな。名付けて『アルケミック・エンジェルモード』ってところだろうか。
「すごい…さっきよりパワーアップしてる…ってソウ君大丈夫!?顔真っ青だよっ!?」
調もギアの変化に驚いていたが突然血相を変えて俺に駆け寄ってきた。そんなに酷い顔をしているのだろうか。
「大丈夫大丈夫、ちょっと石使い過ぎて貧血気味なだけだから」
「…それって私のパワーアップと関係あるの?」
おっと、これは不味い。調に気を使わせてしまいそうだ。なんとか誤魔化さねば…。
「いや、大丈夫大丈夫。その…あれだ、あれ。ちょっとあれしただけだから…」
「…ソウ君?」
「えっと…その…」
「…じーっ」
「…すみません、ちょっと無茶しました…」
うわ~、俺誤魔化すの下手過ぎだろ。いや、この場合は調が相手だから上手くいかないだけで他の相手だったらもっとスムーズに、それこそ暗示とかも…。
「ソウ君?」
「はい、すみません」
いかん、調はなぜか俺の考えを見通す力があったのだ。その前では俺は何をしても無駄だということを忘れてた。
「それで?」
「…へ?それで…とは?」
「どんな無茶したの?」
「どんなって…そんな大した事じゃ…」
「…ソウ君?」
「血管を流れる賢者の石をフォニックゲインに再錬成しました。その時にちょっとごっそり持ってかれちゃって貧血気味です」
「うん、それで良い」
なぜだろう、恋人になったばかりだというのにもう調の尻に敷かれる。これが惚れた弱みというやつだろうか。
「いや、そんな調が心配することじゃないぞ。すぐに回復するし。それにほら、俺人間じゃないし」
「そういうところだよ」
「ん?何が?」
「私が心配なのは。ソウ君そうやってなんでも一人で片づけようとするところだよ」
…そうか、気を使ったつもりだったがそれがかえって調を不安にさせてしまったのか。今までは誰かに頼るなんて発想は仕事ではあってもそれ以外は皆無だったからな。
「それに普通は賢者の石が血管流れてるなんてありえないからね。もしかしてソウ君の不老不死と関係あるの?」
「まあ…そうだな。俺の持つ聖遺物の効果というか呪いというか…」
「…分かった、じゃあこれからゆっくりソウ君の事を教えて?」
俺の事…か…。正直調には言いたくない話もある。先ほどの事でもぼかして伝えた部分もある。それを調に聞かせるのは正直抵抗がある。
頭では分かっている。それでも、どうしても拭いきれないのだ。調に嫌われないか、軽蔑されないか。そう思うと手が震えだし、最悪の想像ばかりが浮かんでくる。俺は…。
「だから私の事も知って?私が覚えていることを全て話すから。嬉しかったことも、辛かったことも、…ちょっと恥ずかしかったことも。そうやって…お互いを知っていこう?」
ああ、そうか、こういうところだ。何世紀も歳を重ねた俺が躊躇う事を調はあっさりやってのけるんだ。きっと俺は、調のそういうところにも惹かれたのだろう。憧れたのだろう。だがそれでも…。
「やっぱり…怖いんだ…。本当の俺を調に知られるのが…」
「…うん」
「だから時間がかかるかもしれない。それでも…待ってくれるか?」
「…うん、分かった。待つよ、少しずつでもいい、ソウ君が話せる時まで…」
「すまないな、調…」
「でも、ソウ君だけに辛い思いはさせない。私も一緒に背負うよ。ソウ君の過去も、想いも」
そう言って調は震える俺の手を握り締めてくれた。その手の温もりが、調の優しさが指先からじんわりと伝わってくる。おかげで先ほどまでの最悪の想像は消え去り、震えも次第に収まっていく。
「調…ありがとう…」
「どういたしまして。でも彼氏を支えるのも彼女の務めだよ」
「そうか…そうだな…。ならば俺は調の彼氏として何時いかなる時も調を守るよ」
「そ…そう…あ、ありがとう…」
ヤバい、自分で言っておいて死ぬほど恥ずかしい。それにこれって結婚式の誓いの言葉じゃなかっただろうか。
きっと今俺の顔は真っ赤になっているのだろう。またまともに顔が見れないな…なんて思っていたら調も同じだったようで顔を耳まで紅く染めていた。
その後、俺たちが移動を始めるまでもう少し時間がかかったことは言うまでもないだろう。
因みに照れた調も可愛かったことをここに記しておこう。
「見えてきたな、あれがネフィリムか…」
調と飛翔すること暫く、眼前にフロンティアを取り込んだネフィリムがはっきりと見えるようになってきた。少し前から蠢く何かは確認できたが近くで見ると想像以上の巨躯だった。始めは山程度のサイズかと思っていたが実物はそれ以上だ。
だがそれ以上に厄介なのは内包するエネルギーが規格外なところだ。あれならば地球程度容易く破壊して見せるだろう。
「調、いくつか確認しておきたい。あれは聖遺物、基フォニックゲインを喰らい成長する。間違いないな?」
「うん、そうだよ」
「んでもって俺の渡した賢者の石も喰わせたと…」
「うっ…ゴメン…」
「いや、別に責めてるわけじゃないだ。ただあれを喰ってあの姿なら納得だな~と思ってな」
「…どうゆうこと?」
「俺の身体からできる賢者の石はそのままだと火の属性を持つんだよ。だから何も術式を組まないとただ火を放つだけの高エネルギー体だ。それを取り込んだならネフィリムの溶岩みたいな身体は納得って話だよ」
「そうだったんだ…だからあの時マムは炎を…」
調が何を思い出しているのかは分からないが納得してくれたのならそれでいいか。
さて、どうするかな…これといった準備もないし時間もない、おまけに回復したとはいえ使える賢者の石は現状八割…となると手段は二つ、だがどちらにしてもあれの解放は必須だな…。
「調、あいつをどうにかする算段だが…」
「あ!調ちゃんだ!おーい、メルクリアさんに会えた~?」
今のうちに今後の算段を調に伝えておこうとしたところで最近聞いたことのある声が聞こえた。声の主を探せば遠くから急速に近づいてくる人影が五つ、FIS組+リディアン組だった。
次第にその姿がはっきり見えてくる。が、俺は思わず面食らってしまった。なんせ奏者全員が羽を生やして飛んできたのだ。もしかして今奏者間で羽が流行ってるのだろうか?
っとそういえばなんか調律してエクスドライブモードになったとか調が言ってたな、すっかり忘れてたわ。
「調、おかえりデス!どうだった…て何デスかそのギアはっ!?さっきまでと比べ物にならない程出力上がってるデスよ!?」
だがこればっかりはどうしようもないだろう。なんせ調を一番に見たんだ、その後に彼女たちを見てもどうしてもインパクトは薄くなってしまう。
具体的には今の調は切歌ちゃんたちと比べ二倍から三倍の出力を維持している。やろうと思えばもっと上げることもできるだろう。あれだけ石を使ったからか、それとも調との相性が良かったからなのかは分からない。俺的には後者であって欲しいが…まあそれだけ今の調が纏うギアは規格外だということだ。
「久しぶりだな、元気してたか?」
「メルクリア!?…バカ、心配したんだから…」
「そうデスよ…調も勝手にどっか行っちゃうデスし…」
「すまない、心配かけたな」
懐かしさから何気なくマリアちゃんと切歌ちゃんに声をかけると二人は目に涙を浮かべて駆け寄ってきてくれた。が、普通に返事をしただけなのになぜか二人は急に固まってしまった。どうかしたのだろうか?
「メルクリア?なんだか…変わったわね…」
「そうデスね…こう…大胆というか…柔らかくなったというか…別人かと思ったデスよ…」
二人は顔をヒクつかせながらそう言った。そんなに変わっただろうか?自分ではよく分からないな。だがしばらく会ってなかった彼女たちが言うのだ、きっとそうなのだろう。
「いや、それを言うなら俺もだわ。みんな結構印象変わったな、羽とかさ…羽とか…羽とか?」
「羽ばっかりデスよ、メルクリア…」
「まあインパクト抜群だからな。でも一番衝撃的だったのはマリアちゃんだな。イメチェン?」
そりゃ知り合いがいきなり羽生やして飛んでたら誰でも驚くわな。でもそれ以上にマリアちゃんの変わりようにはびっくりだわ。今まで黒かったギアがいつの間にか真っ白に。それに出力も安定してるな。
「これはセレナの遺したギアよ。ガングニールは響に託したの」
「なるほどね…んで今更だがなんでみんなそんなにボロボロなんだ?」
近づいて初めて分かったが皆翼やギアに細かな亀裂が走っている。調との出力に差についてこのことも起因しているのだろう。まるで何かにエネルギーを吸われたかのような…
「そ・れ・は・な、どっかの誰かさんが見つからないからネフィリムやノイズとドンパチやって時間稼いでたんだよ!」
「んん?ああ、白髪ちゃんか。元気?」
「雪音クリスだ!いい加減名前覚えろっ!」
白髪ちゃん…基雪音ちゃんに怒られてしまった。それにしても俺のせいでみんなボロボロになったのか、それはなんというか申し訳ないな…よし。
「んじゃお詫びも兼ねてネフィリムの相手はするわ」
次回はネフィリム戦ですよ~。
今回も読んでいただきありがとうございました。