「んじゃちょっくらネフィリム倒してくるわ」
「「「「「いや、ちょっと待て」」」」」
奏者とはいえ未だ子供の域を出ない子たちばかり。にもかかわらず俺なんかのためにボロボロになってまで時間を稼いでくれた。ならばそれくらいは俺が…と思ったのだがなぜか調以外の全員に止められてしまった。
「え?なに、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないわよ!何考えてるのよ!?あんなのと一人で戦おうとするなんて自殺行為よ!!」
「そうデスよ!奏者五人でも無理だったんデスよ、いくらメルクリアでも無理デスよ!」
「ここはみんなで力を合わせて乗り切りましょうよ!」
上から順にマリアちゃん、切歌ちゃん、立花ちゃんが俺に詰め寄ってきた。が、そんな一度に言われても分からない。だれが代表して言ってくれ。
「なら私が言わせてもらうわ、はっきり言って無謀よ。相手は『暴食』の二つ名を持つ完全聖遺物ネフィリムよ。いくらあなたでも勝てないわ」
流石マリア、こうゆう時は頼りになる。的確に、それでいて簡潔に全体の意見をまとめてくれる。ちょっと見ない間にオカンレベルがさらにあがったな。だが…。
「それなら問題ないよ、完全聖遺物の相手も何度かしたことあるし。確かデュランダルとかネフシュタンとかその辺のやつ」
「…はあ!?」
あの辺はとにかく頑丈で厄介だったな、最終的に持ち主狙いで倒したんだっけか。
「それに二つ名だっけ?どうせ『不滅不朽』とか『無限再生』とかだろ?なら大丈夫だって。俺も持ってるから、二つ名」
二つ名なんて所詮その聖遺物の特徴をまとめただけに過ぎない。時々大袈裟に言われたり厨二っぽくなったりするがそんなびっくりするもんじゃないだろう。
「あのねメルクリア、今までは担い手が必要な完全聖遺物だったから勝てたかもしれない。でもネフィリムは違うわ、フロンティアを飲み込み、暴走し続ける独立型完全聖遺物よ」
マリアちゃんは頭を押さえながらあきれ顔で、まるで子供に言い含めるようにそう続ける。
「確かにあなたは凄腕の錬金術師よ。二つ名があったって不思議じゃないわ。でもそれだけなの。限定解除状態の奏者五人でも抑えるのがやっとなのよ、ただの人間一人でどうこうできる相手じゃないわ」
この発言には他の奏者達も首を縦に振った。そのことにマリアちゃん、切歌ちゃんはなんとなく理解できた。だが意外だったのは正規組までその意見に賛同したことだった。てっきり時間稼ぎに使えれば儲けもの程度にしか思われてないと思っていたんだが…優しい子たちなんだな。
「なら猶更俺がやるべきだろ。その状態の奏者五人でもどうにもならないんだ、他に適任はいないだろう?」
「だから無理だって言ってるでしょう!それとも死にたいのっ!?」
「いや、死ぬ気は無いよ。せっかく調と恋人になれたんだし」
「「「「「…は?」」」」」
調律って心まで通わせられるのかな…本日二度目の奏者斉唱にそんな感想を抱いた。
「そういえば言ってなかったっけ。調と俺はお互いの想いを伝えあい恋人同士になったんだよ」
「…そう、やっとくっついたのね。これでもうもどかしい思いをしなくて済むわ…。でもそれなら尚の事よ、絶対に死なせられないわ」
「いや、だから死なないって。勝てるって、多分」
「あのね、あれ相手に勝とうと思ったら吸収しきれないほどのフォニックゲインか聖遺物に依らないエネルギーを叩きこむしかないの。どちらを選ぶにしても莫大なエネルギーが必要よ。しかも時間もない、あと少しでネフィリムは自爆するわ」
なるほど、さっきからネフィリムがでかくなってる気がしてたが目の錯覚ってわけじゃ無かったってことか。
「おまけに地球への扉はあいつの向こう側よ。調が揃った今、奏者六人のユニゾンで一点突破する。それが私たちが出した結論よ。これ以上の案があるのかしら?」
「あ~、悪くはないよ。でもさ、そのための時間稼ぎは必要だろ?」
「だけどそれ以外に…」
「要するにあの化け物並みのエネルギーに対抗できる何かがあればいいんだろ?だったら俺も持ってるから大丈夫だ」
ネフィリムが放つ重圧が一段と重くなった。これ以上は本当に時間が足りなくなる。何かを言おうとしたマリアちゃんを遮って、俺はとっておきの言葉を口にする。
「だから持ってるんだって、俺も完全聖遺物。そんなわけで調、頼むわ」
「うん、分かった」
このやり取りに口を挟まずにいてくれた調に手を差し出す。調も分かっていたかのようにすぐに俺の手を取ってくれた。
ここに着く前、調には俺の身体の秘密を少しだけ話した。その力を、呪いを。そして恐らくそれをこの場で使わなければならない瞬間が訪れるであろうことも。
もしもそうなったら何も言わずに手を繋いで欲しい。そう伝えると調は笑顔で頷いてくれた。
恐怖心はある。見られることに、怯えられることに。
それでも繋いだ手が、調の温もりが、俺に勇気をくれる。だから俺は、もう迷うことはない。
「顕現せよ!汝、己が暴威を誇示せんがためにっ!」
高らかに、解呪の文言を叫ぶ。次の瞬間、全身に張り巡らした術式が展開され、その一部が崩れ落ちる。
内側からこみ上げてくる破壊衝動、沸々と湧き上がってくる熱いなにかと同時に全身が乾いていく。
だがこの程度なら問題ない。
慣れ親しんだ殺意を、衝動を、手の上で転がすように支配する。そしてそれらに方向性を、思いに形を与えるかのように纏め、束ねていく。
感じる、額からは捩じれた双角が、口には鋭い牙が、指先には堅い爪が、背中からは蝙蝠のような翼が、腰下からは鱗に覆われた尻尾が生えていくのが。
分かる、柔らかかった皮膚は鋼のような体色に、表面は堅く、それでいてしなやかな鱗がうっすらと浮かび上がってくる。それらの一つ一つに神経が生えていくかのように、手に取るかのように分かる。
これが俺の完全聖遺物の力。鋼を、水を、あらゆるものを壊し造ったとされる蛇の力。その一端である。
これは何か?そう尋ねれば世界中の人が答えることができるほどに有名な異形へと。
国によって呼び方も扱われ方も違うだろう。だが、それでもすべてが等しく感じるのだ。全身にその畏怖を。
「ドラ…ゴン…」
誰が言ったかは分からない。誰もが唖然としている。だがそれでも良かった。こんな姿になっても俺の手には繋いでくれる手の温かさを感じることができるのだから。
「…調、怖くないか?」
あたり一面に俺の声が反響する。身じろぎ一つで地面が震える。
「うん、大丈夫だよ。それに思ってたよりカッコイイね」
それでも調は変わらず俺の手を握ってくれた。小さくて、柔らかくて、震えていて…それでも離さないでくれた、受け入れてくれた温かくて優しい手。それだけで俺は十分だった。
「さて、いきなりで悪いが時間がない。ユニゾンまでの時間は稼ぐから後は頼んだぞ。それと作戦の要は立花ちゃんで合ってるか?」
「え…あ、はい!私とマリアさんでみんなの力を調律します」
「だったらそのエネルギー、全部調に収束させな。今の最大戦力は調だ、いけるか?」
「うん、大丈夫だよ」
「よし、それとアームドギアの形状を変化できるか?」
「…うん、やってみる」
今回必要なのは相手を切り裂くことじゃない。まっすぐ、一点突破することだ。それにはいつもの無限軌道ではだめだ。薄く、鋭く、それこそ目に見えないような刃をもって突き進む必要がある。大分省いたがそれでも調は俺の意図を汲んでくれた。これは将来できる女になるな。
「ソウ君、気をつけてね」
「ああ、行ってくる」
調からのエールを背中に受けた俺は一気に飛翔してネフィリムに近づく。すると向こうも俺に気付いたのかマグマのような体の一部を切り離してこちらに飛ばしてきた。
単調な攻撃だ、よけることなど造作もないだろう。だが俺の後ろには調達がいる。躱せば間違いなく直撃だ。ならばとるべき道は一つだ。
俺は翼を使って急制動をかけ、おびただしい数の火球を身を楯にして受ける。腕を、翼を広げ少しでも広範囲を守れるように。
自分のことはどうでもいい、俺には鱗がある。それで大概の攻撃は防げるはずだ。全ては調を守るために。
直撃の瞬間、火球が衝撃となって全身を襲う。こういう時、無駄にでかい身体は便利だ。これだけあれば調達に爆発の熱も衝撃も届かない。楯として十分に仕事をこなせる。
始めは無作為に、ただ出鱈目に打ち出されるだけの火球だった。だがそれでは効果が薄いと見たネフィリムは的を関節や顔など重症になりやすい部位を狙って放ってきた。
大したことの無い威力のそれも、ピンボールショットのように放たれると流石にキツイ。二十発を過ぎたあたりから鱗に罅が入りだし、五十発を超える頃には鱗は砕けてしまった。
それを見たネフィリムは更に攻撃の手を速めた。鱗の無い部分を集中砲火してくる。爆炎が弾け、肉が焦げる匂いがする。熱が痛みとなって全身を走る。
流石は完全聖遺物といったところか、竜の鱗にすらダメージを与えるとは少し侮っていたようだ。
だがネフィリム、お前も俺を侮ったな。その程度の攻撃で俺が怯むとでも思ったか。俺の後ろには調がいる。それが分かっていて、調が傷つくと分かっていて尻尾を巻いて逃げだすとでも思ったか。
後ろ目で見ると調達の準備も順調に進んでいる。このペースなら後少しといったところだろうか。ならばもうそろそろお返しをしても問題ないだろう。
そう判断した俺は全身から魔力を放出し、その余波で迫りくる火球を全て跳ね飛ばした。
今までなされるがままだった敵がいきなり攻撃を吹き飛ばした、そのことに動揺したのかネフィリムの動きが僅かに鈍る。
その隙をついて俺は放出した魔力を左腕に収束し、あいつを葬るための一撃を展開する。
フォニックゲインを際限なく吸収する、故に『暴食』を与えられた存在。だがいくら大罪の二つ名を持とうと肉体に由来するものならば限界は存在する。無限に喰おうとする意志はあれど、無限に食らい続けることなどできないのだから。
魔力の半分だけをフォニックゲインに変換、その後双方を水、風、土の属性に錬成。全六種、それらを束ね一つにする。これを一度に放てばいくらネフィリムといえど喰い尽くせないだろう。
「穿て」
解放の呪文を詠唱、すると溜め込まれていたエネルギーが行く当てを求めるかのように一直線に目標に向かって走る。
青、緑、黄色、各属性の象徴色と白色のフォニックゲイン、それに加え俺の魔力の黒を合わせた五色の閃光がネフィリムを貫く。
ネフィリムはそれすら食い尽くそうとするが、元来吸収できないエネルギーを取り込んだせいか消化不良を起こし、今まで取り込んだエネルギーも巻き込んだ大爆発を起こした。
そして残ったのは今まで何度か目にしたことのある黒くて堅い石のような身体の巨大ネフィリムだった。
「チッ!寸前で切り離したかっ!」
どうやら爆発の瞬間、フロンティアを切り離しそちらに爆発を押し付けたようだ。ならばもう一発と魔力を再充填する。だがそれを放つことはなかった。
「ソウ君、準備できたよ」
先に調達の調律が終わったのだ。六人が手を繋ぎ、中心には調が。そしてその頭上には巨大な紅く、所々に金と銀の宝石が埋め込まれた剣が顕現していた。これがシュルシャガナの新しい力か…。
「よし、行くぞ!」
「うん!」
調達が一直線にネフィリムに向かって、その向こうの地球に向かって剣を携え加速する。
触れるもの全てを散らし、原初の塵へと切り刻む紅の刃。刃は空気すら切り裂き、迫りくるノイズすら切り刻む。
そして残るはネフィリムのみ、しかしして、その幕引きはあまりにもあっけなかった。まるで豆腐を切るかのようにあっさりと、きれいな断面を残し調はネフィリムを一刀の元に両断した。
その切れ味は本体だけでなく、その核すらも真っ二つにするほどにだ。
まるで伝説の錬金術のようだ。そんな感想を抱きながら、俺は思っていた以上にあっさりと地球へと帰ることができたのであった。
調ちゃん強くしすぎたかな…。
次回は後日談と今回の補足(の予定)です。
今回も読んでいただきありがとうございました。