調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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遅くなってすみません。師走の忙しさを甘く見てました…。
それと「VS融合症例」を一部修正しました。


明日のために

「ソウ君、この本持っていっていい?」

 

「ああ、それとあっちの本棚も同じ段ボールに入れておいてもらえるか?」

 

十一月下旬、最近はすっかり寒くなり防寒着が手放せなくなった。朝晩は吐く息も白くなりいよいよ冬到来といったある日のことである。

 

俺達は引っ越しの準備をしていた。今住んでいるこの部屋はナスターシャの依頼を受けた時に浜崎医院に近いからと借りた部屋だ。そのため住んだ期間は三ヶ月ちょっとだ。だが詰まっている思い出は三ヶ月とは到底思えないほど濃密だ。

 

調が遊びに来て、調が食事を作ってくれて、調と過ごすうちに色々なことを感じるようになって。

 

テーブルの傷を見るだけでも何があったか思い出せる、そんな大切な場所だ。

 

さて、ではなぜそんな部屋を引っ越すことになったのか、それは数日前に遡る。

 

 

 

 

「ホテルを出ていけだと?」

 

昼下がり、調達とのんびりとお茶をしていると斯波田さんが申し訳なさそうな顔でやって来た。

 

だがそれはおかしな話だ。国連の予算は搾り取れば後二週間は滞在できるはずだ。最悪予算が降りなくなってもその時は請求先を俺に切り替えるよう指示してある。

 

一体何があったのか、そう尋ねると原因は思わぬところにあった。

 

しばらく前、とある富豪一家がこのホテルに滞在しようとしたらしい。だがホテルはそれを断った。

 

何故か?それは俺が他の客を入れないように指示したからだ。何かあってマリアちゃんの居場所がバレたらメディアがここに押し掛けてくる。それを避けるための指示だったのだか今回はそれが裏目に出てしまったらしい。

 

ホテルはほぼ無人、だというのに満員だと言い張りそれが数週間も続いている。

 

そのことを不審に思った富豪は様々な手段でホテルを調べ上げた。

 

すると宿泊客は国連の重要人で、しかもたったの三人だということを突き止めてしまった。

 

そして運の悪いことにその富豪は金の流れに詳しく、無駄に正義感が強かったのだ。国連が予算を浪費してたった三人のために高級ホテルを貸し切りにするとは何事だ。そう言って情報を世界中にリークした。結果国連は民衆から非難の目を向けられ、今も昼夜問わずに抗議の電話が鳴り止まない日が三日も続いているらしい。

 

全く持ってめんどくさい、今時正義感だの公平だの何だの言って正論を振りかざすバカがいるとは。

 

「それで、国連は今後どう動くつもりなんです?」

 

「一番はそんな事実は無かったと突っぱねる事だが…明細や請求書も流れちまったから厳しいだろうな」

 

「なるほど、ではどうします?」

 

「…今の最有力は宿泊客はマリアちゃんで、国連に協力してもらった礼として国連が支払った事にさせる案だが…」

 

「もちろん却下です」

 

「はぁ…だよな…」

 

当然だ、そんな事をしたらマリアちゃんが国連に金を払わせて豪遊した女だと思われてしまう。

 

それに宿泊客は三名となっている。その場合調や切歌ちゃんの情報もバレるかもしれない。そうなったら彼女達のプライベートが侵害されかねない。

 

「分かりました、宿泊料は全て俺が受け持ちます。斯波田さんは国連に帳簿や予算の修正、それと請求書の始末をお願いします」

 

「ああ、だが宿泊客はどうする?」

 

「それは…架空の人物を作ってそいつに全部押し付ければいいでしょう。とりあえず国連創始者の知り合いとかでどうです?」

 

「分かった。直ぐに提案してくる」

 

話が纏まると斯波田さんは足早に部屋を出ていった。これで上手くいけばいいんだがな…。さて、じゃあこれからどうしようかな…。

 

と、思案していると袖をクイッと引かれ、そちらに顔を向けると調が申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「ソウ君、大丈夫なの?」

 

「何がだ?」

 

「その…お金とか高いんじゃないの?」

 

高い、確かに高い。単純計算で宿泊料だけで数億はいっているだろう。

 

だがそれがなんだ、たったそれだけだ。

 

「心配することは無いよ。伊達に長生きしていない、多少の貯えはあるさ」

 

三人は世界を救うという大役をやり切ってくれたのだ。その礼だと思えば妥当だ。おまけにそれで調達の安全が買えるのならば安いものだ。

 

何より惚れた女の前では格好つけたいのが男というものだ。

 

「…そっか、ありがとう」

 

「どういたしまして。それより調達はこれからどうするか考えないとな」

 

「そうだね、ここを出たらどこに住もうか?」

 

金銭面ではどうにでもなる。それこそ俺の職業は錬金術師だ。ちょっとした裏技を使えば金銭など簡単に錬成できる。

 

だが住む場所となると話は別だ。今現在マリアちゃんの顔は世界中の人間が知っていると言っても過言ではないだろう。そのため世間が落ち着くか、もしくは他の話題で気が逸れるの待ちたかったのだがそうもいかなくなってしまった。

 

もし今マリアちゃんが街中を歩いたら大パニックだろう。その上記者やカメラも集まってきてストーカーも出てくるかもしれない。

 

となると人の少ない場所に身を隠す必要があるがそう言った場所は決まって治安が悪いかはぐれ者ばかりが流れ着く。一時たりとも気を休めることが出来ない。

 

もちろん安全で人の少ない場所が無いわけではない。ヨーロッパの片田舎にでも行けばそんな場所は数えきれないほどあるだろう。

 

だが同時にヨーロッパには厄介な連中が大量に生息している。そう、錬金術師どもだ。あの人格破綻者や人でなしに顔を知られるのは今後にも精神的にもよろしくない。

 

俺のアジトに連れていくという手もあるがいずれにしても場所を知られているためニアミスする可能性が捨てきれない。かといって今からアジトに張っている結界の術式を切り替えても間に合わないだろう。最悪無理矢理突破してきそうだ。

 

さて、どうしたものか…と再び頭をひねる。すると以外にも答えはあっさりと調の口から出てきた。

 

「ねえ、ソウ君の家に泊めてくれない?」

 

 

 

 

 

そんなことがあり調達は俺の家に転がり込んできた。幸いにも、元々長期滞在する予定は無かったので誰にもここを教えておらず、結界も最低限のものと認識阻害しか張っていなかった。これなら気づかれることはまずないだろう。

 

だがその後も大変だった。借りた部屋が2DKなのもさることながら、一部屋を資料室、もう一部屋を錬金実験室として使っており、更に入りきらない本や資料をダイニングにも置いていた。

 

はっきり言ってしまうと人が複数人寝泊まりできるだけのスペースが無い、そんな汚部屋なのだ。

 

その日は資料室の中身を全て他のアジトに転送してなんとかやり過ごしたがそれからも大変だった。

 

狭い部屋に男が一人と少女が三人、何かと気まずい瞬間が多々あった。風呂場でだったり、洗濯物だったり、寝起きだったり、着替え中だったりetc…。

 

そんなことがあり俺は引っ越しを決意したのだ。差し当たって弦十郎に電話して二課の社宅を用意してもらい、信用できる一部の部下に連絡を取り錬金術で様々な補強を施し守りを固めてもらった。

 

そして先日それが完成したとの連絡が入ったので俺達はこうして荷物をまとめているというわけだ。

 

それにしてもこうして荷物をまとめていると懐かしいものがいっぱい出てくる。こっちに来た頃に読んだ建築関連の錬金術書やトラップ・防衛装置の術式大全、果てには錬金術で今日のお料理なんてタイトルの本まででてきた。

 

と、山を崩して仕分けをしているとこれまた懐かしいものが出てきた。

 

「へえ、これこんなところにあったのか」

 

「ソウ君、それ何?」

 

「これか?これは錬金すごろくだ」

 

昔仲間内で悪乗りと悪意とゲスい成分百パーセントを酔った勢いで作り上げた逸品、それがこの錬金すごろくである。しかもその使用目的が非常にゲスいのだ。作った奴もゲスいが使う奴もゲスい、そう太鼓判が押された品だ。

 

「これは錬金術を応用して作ったすごろくでな。実は…」

 

そう続けようとした矢先、隣の部屋からマリアちゃんと切歌ちゃんの悲鳴が聞こえた。隣の部屋は確か錬金実験室、もしや実験器具の暴走や危険な術式を発動してしまったのでは!?

 

慌てて話を切り上げ部屋を飛び出しドアを蹴り破る。するとそこにはある一点を見つめ固まる二人がいた。そしてその表情は恐怖で満ちていた。

 

二人の見つめる方向を目を向けると俺と調も二人と同じように固まってしまった。いや、正確には俺だけは別の理由で固まっていた。

 

そこには暴走した実験器具も危険な術式も発動していなかった。あるのは写真だけだった。

 

だがその数が尋常ではない。部屋の壁一面を埋め尽くさんばかりの写真だった。

 

思わず頬を冷や汗が流れる。なにせそこに映っていたのは…。

 

「これって…私?」

 

全て調なのだから。

 

ヤベえ、なんて言えばいいんだろう。

 

「ソウ君?これってどういうこと?」

 

「あ~そのだな…」

 

不味い、ここでなんかいい感じの言い訳を考えなければこのお宝写真が捨てられてしまうかもしれない。現に調の瞳から光が消えている。それに意識を取り戻したマリアちゃんと切歌ちゃんがゆっくりと俺から距離を取りながら写真の方へ向かっている。これは早急に手を打たねば!

 

「調、これは我儘なんだ」

 

「…我儘?」

 

「そうだ。知っての通り俺は人間じゃない、不老不死だ。つまり調達と同じ時間を生きることが出来ない。だから少しでも調との思い出を形にして残しておこうと写真を集めていたんだ」

 

「そ、そうだったんだ…」

 

「それに調と交際を始めてからしばらく会えない日が続いただろ?あの時は寂しくて寂しくて夜も碌に眠れなかったんだ。また自分が一人になってしまう気がしたんだ。そんな時調の写真を見ていると心が安らいだんだ。それ以来なるべく部屋を調の写真でいっぱいにして寝ているんだ…」

 

「そうだったんだ…ゴメンね、寂しい思いをさせちゃって」

 

「いいんだ、これからは一緒だろう?それに俺も人間に戻る研究を始めた。だからそれまでの励みになるように写真はあのまま飾っておいてこれからも集めていきたいんだが…いいだろうか?」

 

「うん、いいよ。思い出いっぱい作っていこうね」

 

「ありがとう、調」

 

良かった。なんとか危機を乗り切ることが出来た。ついでにこれからも調の写真を撮る許可も貰えたし飾ることも許してもらえた。これで罪悪感なく調の写真を収集できるな。

 

「マリア、なんかいい感じの話に纏まっているデスが傍から見たらかなりヤバいデスよね?」

 

「そうね…それにこれって白い孤児院の時の写真もあるわよ。データは全部消されたはずなのにどうやって手に入れたのかしら?」

 

「こっちはシンフォギアを纏っている時の写真もあるデスよ。それに私服姿も季節問わずいっぱいデスよ」

 

「…私たちには分からない世界ね。でも本人たちが幸せならいいんじゃないかしら?もう考えるのも疲れたわ」

 

「そうデスね…。ん、これって…」

 

二人が後ろで何か言っているが気にしてはいけない。今俺は調の手を取り見つめ合っているので忙しいのだから。

そんな俺達を尻目に部屋から出ていこうとする二人だったが、またしても何かを見つけたらしい。

 

「メルクリア、この地図って何デスか?」

 

切歌ちゃんがいつになく真剣な表情で差し出してきたのは写真やメモがびっしりと書き込まれた世界地図だった。全く、あれだけ危ないからこの部屋には入るな言っておいたのに…どのみちここまで見られたら変に誤魔化すよりも正直に言った方がいいだろう。

 

「切歌ちゃんが思っている通りだよ。FISに入らざるを得なかった子供達、その身元を割り出すために集めた情報がそれだ。と言ってもまだ全然足りないがな」

 

「そうだったんデスか…じゃあもしかして調の昔の写真を持っているのもそのために?」

 

「いや、そっちは俺の趣味だ」

 

「デスよね…知ってたデス…」

 

部下に電子系錬金術の得意な奴がいて助かった。頼んだ時は渋い顔をされたがそっちの目的も話したら快く引き受けてくれたから良かったよ。

 

「でもなんでこんな事を…」

 

「…あれだ、生きてるにしろ生きてないにしろ家族ならそれを知る権利がある。そして選ぶ権利もある。俺はその手助けをしてるに過ぎないよ」

 

「ソウ君…」

 

「それにこれを調べ始めたのも元々は俺と調のためだ。どのみち結婚するならきちんと報告しておきたいからな」

 

「「「…へ?」」」

 

あれ?言って無かったっけ?…そういえば予行演習は何度かしたが実際に調に言うのは初めてだったな。

 

「俺は調と結婚するつもりだったんだが…調は嫌か?」

 

「う、ううん。そんなことない、すごく嬉しいよ!でも急だったからびっくりしちゃって…それに心の準備もできてなかったし…」

 

そう言われればそうだな。それに調はまだ十四歳だ。これからの事はこれからゆっくりと考えていけばいいだろう。

 

「そうか、それはすまなかった。ならまた今度改めてプロポーズするよ」

 

「うん、お願いね」

 

「ああ。その時は俺は人間に戻ってて、みんなの身元を特定できてるといいな」

 

「そうだね、頑張ろうね」

 

人間に戻れる保証なんて全くない。それどころかいつ聖遺物の力が失われて機能が止まるかも分からない。もしかしたらそれは明日かもしれない。

 

でも調となら、そんな明日でも怖くないと思えた。そんな明日でも温かいと思わせてくれた。だから俺も明日を恐れず人間に戻ろうと思えた。

 

きっと、そう思わせてくれるから俺は調を好きになったのだろう。そしてこれからも、好きでいるんだろう。

 

だから、ありがとう。調のおかげで俺は優しくなれたよ。

 




もしかしたら一月ほど投稿ペースが落ちるかもしれません。ご容赦ください。
それでは遅くなりましたがメリークリスマス。
今回も読んでいただきありがとうございました。
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