調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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お久しぶりです。ようやく試験が終わりました。やはりテストは悪い文明…。


初めてのデート

その日、月読調の様子はどこかおかしかった。しかしそれに気が付けたのは長い付き合いであり、かつ実際に手合わせした切歌だけであった。そしてその事実に気が付いたのも完全なる偶然出会った。

 

いつもと同じ時間に起き、食事をとり、もうすぐ始まる高校生活に向けての課題をこなし、二課の仕事と日課である潜水艦内のシミュレーションルームで訓練を行う。二人がそれに気が付いたのはそんな時だった。

 

「今日の調はいつもより攻撃が重かった気がするデス」

 

「そうだった?モニターで見てるだけじゃ分からなかったけど…」

 

「私もいつも通りだと思ったよ」

 

同じ時間を過ごしてきたマリアに尋ねてもモニター越しででは分からなかったようだ。同じ事を響たちにも尋ねたが返ってきた回答は同じだった。

 

「でもやっぱり、いつもと違う感じがするデスよ」

 

「ふむ…私たちには分からないが月読のどのあたりが違うのだ?」

 

「それは…私にも上手く言葉には出来ないデス。でも何かが違う気がするデス」

 

調と最も付き合いの長い切歌がそう言うのだ。ならば間違いないのだろう。そう思い各々が調のいつもと違う点を探すのだが全くっと言っていいほどに見つからない。

 

「ん?なんだお前たち、まだそんなところにいたのか」

 

「おっさんか。って随分と時間が経ってやがる」

 

気付けば訓練が終わってからすでに三十分以上が経過していた。弦十郎が来なければこのままシミュレーションルームで延々と頭を悩ませることになっていただろう。

 

「反省会もいいが先にシャワーを浴びてきたらどうだ?身体が冷えて風邪をひくぞ」

 

「了解、ンじゃさっさと汗を流してくるか」

 

会話を適当なところで切り上げぞろぞろと乙女たちが移動を開始する。そんな後姿を見ながら弦十郎は安堵していた。それは先ほど調にとあるお願いと関係あり、もっと言えばメルクリアに頼みという脅迫をされていたからだ。

 

弦十郎は調の違和感の正体を知っていた。それ故に切歌たちが調の違和感を突き止める前に話題を逸らすべくあの場に現れたのだ。

 

しかしながら、乙女の嗅覚は男の想像もつかない程に鋭く、なおかつそれが色恋に関するものであればそれ以上であるわけで。結局のところ弦十郎の努力は翌日には水の泡になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺はとある用事があり駅前で人を待っていた。相手はもちろん調である。今日は土曜日、世間一般は一応の休日である。そのため街には学生で溢れている。普段ならこんな日の外出は控えるのだが今日の用事にはその学生が大手を振って出歩ける日である必要があった。

 

「お待たせ、ソウ君。待った?」

 

「いや、俺も今来たところだよ」

 

人込みの中から出てきた調はいつもより大人っぽい装いだった。チェックのスカートに今流行のピンクのコートを羽織り、ブーツを合わせた調は周りの男たちの視線を釘付けにするほどだ。他の男にジロジロみられることにいい気はしないがそれだけ俺の彼女が可愛いという証拠でもある。今回はぐっとこらえてやろう。ただし次は無い。

 

「今日も可愛いな。それに似合ってるぞ」

 

「そうかな…ありがとう」

 

ありきたりな言葉しか出てこない自分が情けないがそれでも調が喜んでくれるのならば何よりだ。そんな調をこのまま眺めているのも悪くは無いが今日は予定が詰まっている。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「そうだね」

 

喜んでいる調の写真を空間念写で撮影し保存する。それから調と手を繋ぎ目的地へ移動しよう。そう思った時だ。とある一角にやけに目立つ集団がいることに気が付いた。

 

せっかくだと近づいてみると日本人離れした赤髪の大男が職質を受けている。誰であろう弦十郎だった。国家権力相手におろおろする弦十郎の背後には切歌ちゃんを筆頭の奏者全員と小川、藤尭がいた。

 

おい、何やってんだよ特異災害機動部二課。

 

「調、あれってさ…」

 

「うん、気付かれちゃったみたい」

 

今日仕事を休むことは弦十郎にしか伝えてない。しかも絶対に言うなと脅しておいたから情報が漏れることも無いはずだ。調にも弦十郎に今日は訓練に参加できないことを前日まで伝えるなと言ってある。一体どこでばれたというのだ。

 

そうこう考えているとスマホの着信が入った。画面には弦十郎の文字が表示されている。顔を上げると電話をかけながら手で謝罪のポーズをとる弦十郎がいた。どうやら警察のご厄介になることだけは避けられたようだ。

 

「なにがあった」

 

『すまん、まさかここまで行動が早いとは』

 

「は?」

 

『その…今日の訓練で調君がいないことを聞かれてな…そこから芋づる式にだな…』

 

「なるほど、それで全て吐いたと」

 

『本当にすまん』

 

「気にするな、いずれはバレることだ」

 

それにあの弦十郎が経った数十分で情報を吐いたのだ。彼女たちの尋問は相当に恐ろしいものだったのだろう。

 

「それでどうするんだ?」

 

『そうだな…とりあえずみんなついて行くそうだ』

 

「だろうな。ちょっと待ってろ」

 

一度電話から耳を離し今までの会話を調に伝える。と言ってもここまでバレては致し方ない。それに今ここで返したら帰ってから根掘り葉掘り聞かれることも目に見えている。ならば適度なところまで尾行された方が得だろう。

 

「弦十郎、待たせたな」

 

『おお、どうだった?』

 

「尾行していいってよ。ただし邪魔はするなよ。あと小川に余計なことするなって言っとけ」

 

『ああ、分かった』

 

「…というわけだ。すまんな調、当初とは予定が変わりそうだが」

 

「いいよ。私はソウ君と出かけれるだけで楽しいから」

 

「そうか、そう言ってくれるなら嬉しいよ。んじゃ改めて行くか」

 

スマホをポケットに押し込み再び調と手を繋ぐ。その光景を見ていた背後の集団から歓声が上がるがもう無視だ。今日は調と楽しい一日を過ごすために計画してきたのだ。予想外の出来事がしょっぱなから起きたがこれからは調だけを見ていればいいだろう。そうでなければもったいない。

 

なぜなら今日は、付き合い始めて初めてのデートなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

集合場所から三十分、俺達は駅と隣接している大型ショッピングモールにやってきた。ありきたりだが初めてのデートならば無難なところだろう。それに調も数か月したら高校が始まる。そう、花の女子高生だ。言い方は古いが一生に一度の高校生活、周りもオシャレに気を遣うだろう。ならば今から服を見ておくのもいいだろう。

 

そんなわけで今俺達はモールで人気の洋服店に来ていた。

 

「どうかな?似合ってる?」

 

「ああ、似合ってるぞ。驚きの可愛さだ」

 

「じゃあこっちは?」

 

「素敵だぞ。調はフリルも似合うな」

 

「これは…ちょっと…」

 

「そうだな、少し露出が多いかな。それは家の中で来てくれるとありがたい。もちろん似合ってるぞ」

 

何がすごいってどの服を着ても調は全て着こなしてしまうことだ。これはもう惚れているとかどうとかいう問題じゃない。完全完璧美少女の域だ。現に店員が次々に服を持ってきてファッションショーが開かれるほどだ。おかげで店の外まで人込みが溢れちょっとした騒ぎになっている。

 

俺はそんな光景に満足しつつ、次々に着替える調を全て写真に収めている。一枚たりとも取り逃すものか。

 

「ソウ君、そろそろ行こうよ」

 

俺が写真撮影に熱心になっていると調が恥ずかしそうに袖を引いてきた。確かにこれはやり過ぎたかな。反省しつつ残りの写真を撮り終える。

 

「それじゃあこれよろしくお願いします」

 

「はっはい!承りました!」

 

店員に調が厳選した服と俺が個人的に調に着てほしいと思った服を渡し会計を済ませる。よくよく見るとこの店で売っていない、他店の服も交じっていたがどうせ店員が持ってきた奴だ。そこらへんは向こうに任せても問題ないだろう。

 

「さて、次だが…少し早いが昼ごはんにするか」

 

店をでて人目につかない所で買った荷物を転移で自宅に送りつつ時計を見ながらこれからを思案する。針は丁度正午前を指しており一番人でにぎわう時間帯であり、腹の虫も同様であった。

 

「うん、いいよ。でもどこ行く?」

 

調も同じことを思ったのだろう。どこの店に行ったとしても少なくとも三十分は待たねばなるまい。そういった意味を含んだ問いかけだった。だが今日の俺に抜かりはない。そこについてもばっちり準備してある。

 

 

 

 

「う~ん、おいしい」

 

おいしそうにパンケーキを頬張る調を眺めながらコーヒーを飲む。うん、幸せ。

 

俺達がいるのは最近話題のカフェだった。ここは軽食とコーヒーを売りにしているのだが最近は別の理由で爆発的な人気を誇っている。その訳が今調が食べているパンケーキだ。

 

綺麗に盛り付けられ、生クリームで飾られたとても写真映えするパンケーキ。これがその理由だ。勿論味も折り紙付きである。

 

「でもいつの間に予約なんてしてたの?」

 

口コミでパンケーキが広がって以来、雑誌やテレビで事あるごとに取り上げられるこのカフェは通常二時間待ちが常識となりつつある。今現在午後一時過ぎ、だというのに未だ店の外には若い女性が長蛇の列をなしている。あまりの行列に警備員が出動するほどだ。

 

俺達が店に着いたのが正午過ぎ、にも関わらず俺達はすんなりと店に入ることが出来た。来店時に予約した者だと告げたからすんなり通してくれたのだが…。

 

「ああ、あれはちょっとした裏技だ」

 

「裏技?」

 

「ああ、こいつを使った」

 

俺は予約に使ったものを懐から取り出し調に手渡す。それは奇妙な文様が描かれた一枚の紙だった。

 

「何これ?…人…式?」

 

「式神、名前くらいは聞いたことあるだろう?」

 

調は目を細めて描かれた文様を解読しようとしている。だが式神を知らない者がいきなり理解できるわけないだろう。そう高をくくっていたらあっさりと二文字まで解読してしまった。もしかしたら調は巫女やそっち方面の才能があるのかもしれないな。

 

「それは人の形になるタイプの式神でな。モールに来た時に並ぶように放っておいたんだ」

 

「そうだったんだ。でも大丈夫?」

 

「ん?何がだ?」

 

「ここ、あんまり量ないけどお腹いっぱいになった?」

 

「大丈夫だよ、結構パスタボリュームあったし」

 

正直に言えばあまり膨れたとは言えない。元々が軽食も扱うカフェだからということもあるが、パンケーキが広まってからは女性客が圧倒的に増え、男性客は減った。今も店の外に並んでいるのは女性ばかりだし、何なら店内も男性客は俺だけという状況だ。

 

そのためメニューの量も女性向けのものがほとんどで俺が注文したパスタもサイズを大きくしてもらった。だがそれでも少々食い足りない感はある。

 

だが腹が鳴って仕方がないというほどでもない。それにコーヒーもお代わり自由だ。もう一杯程飲めば大丈夫だろう。

 

「よかったら食べる?」

 

そう言って調はパンケーキを切って差し出してくれた。まるで俺の心中を察してくれたかのようなその優しさがありがたい。ならばありがたくいただくとしよう。

 

「じゃあもらおうかな」

 

「分かった。じゃあはい、あーん」

 

え、ここでやるの?調の「あーん」で店内は水を打ったかのような静けさとなり、店外に並んでいる客までも俺達を凝視している。

 

「し、調。ここでそれは…」

 

「あーん」

 

どうやら拒否権は無いらしい。それに客全員からのいつやるのだオーラが身に染みる。それと店員、その構えた一眼レフはなんだ。まさか店に飾るつもりではないだろうな。ネガごと没収してやる。

 

「あーん」

 

三度目の「あーん」に俺も腹をくくる。いいだろう、俺も不老不死とは言え男だ。それくらい覚悟を決めてやってやろう。

 

「あ、あーん」

 

『おおーー!!』

 

「どう、おいしい?」

 

「…おいしい」

 

羞恥で味など分からなかったよ。分かるのは頬の熱さと、謎の歓声と、店員がシャッターを切る音だけだった。ここ数百年で一番恥ずかしいかもしれない思い出が出来上がってしまった。

 

「ねえねえソウ君」

 

あまりの恥ずかしさに悶えていると調に呼ばれる。今度はなんだと顔を向けると不意に柔らかい感触が唇に触れた。

 

「クリーム、ついてたよ」

 

再びの静寂。と、次の瞬間爆発したような黄色い歓声がフロア中を駆け巡る。その声量はあまりの大きさに一時パニックが起きる程だったとか。

 

そんな鼓膜が破れそうな爆音の中心にいる俺は耳はほどんど使い物にならなかった。爆音が原因ではない。

 

目の前で頬を赤らめ微笑む調を映し出す瞳、それと未だ柔らかな感覚が残る唇、それは体中の神経がそれだけになってしまったような感覚だった。

 

恋をすると心を奪われる、なんてよく言うが実際はそんな生易しいものでないことを俺はこの日初めて理解した。

 

心どころか神経も、感覚も、全て奪われてしまうのだ。そして質の悪い事に、これからもずっと奪ってほしいと願ってしまう。

 

恋とは本当に恐ろしいものだ。

 

 

 

 

 

 

「これからどうしようか」

 

本来の予定では午後からは雑貨などを見て回る予定だった。だが喫茶店でもちょっとした騒動を起こしてしまった俺達は流石にこれ以上居るのも不味いだろうということでショッピングモールを後にすることにした。

 

とは言えこんなことになるなど露程思っていなかったこともあり、せっかくのデートにも関わらずこれからの予定は真っ白だった。

 

随分前から二人で計画して休日を合わせたのだ。どうせなら思い出に残るような一日にしたかった。だが仮に他のモールやアウトレットに行ったとしても同じ事になるかもしれない。

 

「調はどこか行きたいところは無いか?」

 

最悪いつも通りになるがお家デートなんてのもいいかもしれない。普段と変わり映えはしないがゆっくりと二人で過ごすこともデートの醍醐味の一つではあるだろう。

 

「どこか静かでゆっくりできるところがいいかな」

 

調も同じことを思っていたようだ。ならば電車が込み入る前に早く自宅に帰ろう。そう思ったところで俺は厄介な尾行がいることを思い出した。

 

そういえば今までのやり取りの全部あいつらに見られてるんだよな、家や職場で会ったらなんて言われるやら。想像しただけで胃が痛くなってきた…。

 

それに今帰るってことはあいつらも着いてくる可能性がある。俺は二人っきりで静かに過ごしたいのだ。何か自宅以外にいい場所は無いだろうか。

 

「あ、いい場所あったわ」

 

そうだ、あそこがあるではないか。自宅と同じくらい静かで思い出が詰まった場所が一つだけあった。あそこなら結界も張ってあるしどうにかなるだろう。尾行はそれこそ式神にもう一度頑張ってもらえばいいだろう。

 

「調、最後にあそこへ行かないか?」

 

 

 

 

 

「綺麗だね」

 

「そうだな」

 

夕暮れ時、二人で地平線の向こうに沈んでいく太陽を眺める。ここは周りに建物もなく見晴らしがいい。少々壁に穴が開いてたり崩れているところに目を瞑れば中々のデートスポットだ。

 

とは言え元廃病院からこれ程綺麗な景色が見えるなんて誰も思わないだろう。なんせ外観が心霊スポットそのものなのだ。おまけに潰れた理由が理由だけにこんな廃病院には誰も近づかないだろう。

 

「まさかここからこんな綺麗な景色が見えるなんてあの時は気が付かなかったね」

 

「そうだな、あの時はみんな切羽詰まってたしな」

 

「私たち、こんな素敵なところに住んでたんだね」

 

「まあ案外一度離れたり無くしてみないと分からない物もあるからな」

 

それにあの時はまだ調と付き合ってなかったし自分の想いにも整理をつけることが出来ていなかった。だからこそ綺麗だと感じることが出来るのかもしれない。

 

「今度はこういうところに住みたいね」

 

「…あの家じゃ不満か?」

 

「ううん、楽しいよ。でもあの家だとほら…音漏れとか気にしないといけなさそうだし。外には良くても中には響くから」

 

「あ~、確かにな」

 

そっちの方の防音は考えていなかった。それに見た目がマンションとは言え中身は完全な一軒家だ。そのため基本各自の部屋に自由に行き来ができる。今はいいかもしれないがこれからはそうもいかない時がいずれ来るだろう。

 

「切ちゃんももしかしたら彼氏を呼ぶかもしれないし…」

 

「藤尭か…実際どうなんだ?」

 

「切ちゃん曰く順調らしい。でも相手はヘタレだからって嘆いてた」

 

高校生にヘタレ呼ばわりされる藤尭、俺が言うのもなんだがあいつもヘタレだ。同じ人間なんだから何を迷う必要があるのだろうか。最悪もう一度例のすごろくをやらせてみるか。

 

「とりあえず近いうちに改装するか」

 

「そうだね、その方がいいよ」

 

今度は防音と耐震をしっかりした造りにしておこう。

 

「ソウ君、今日はありがとうね」

 

太陽は彼方に沈み、代わりに月と星たちが空を彩る。波の音だけが響き、あたりが静寂に包まれたころ、調は先ほどまでの感じとは打って変わり落ち着いた声色でそう言った。

 

「今日の事もだけど今までもありがとう。ソウ君がいなかったこんなにも幸せな生活なんて手に入らなかったと思うんだ。だから、ありがとう。いつか言おうと思ってたんだけどせっかくここに来たなら今言おうと思って」

 

「それを言うなら俺の方だ。調がいなかったら今の俺はいない。一生過去に囚われたまま永遠に生きていくことになってた。それを変えてくれたのは調だ、本当にありがとう」

 

この場所で、俺達は変わった、変われた。もしあの時出会わなかったきっと今感じている幸福感は一生得られなかっただろう。

 

もし出逢わなかったら、そんなもしもの世界だけど今の俺はそれが怖い。だからこそ今の俺はこの出会いに感謝している。例えそれが偶然でも、奇跡でも。

 

「調、これを受け取ってほしい」

 

「これは…綺麗、ネックレスだ」

 

だからこそ、その想いをせめてもの形にしようと思った。調が小さなケースを開ける。中に入っていたのはルビーのような宝石が目に埋め込まれた兎を模したネックレスだった。

 

「給料三か月分とまではいかないが初めて真っ当な仕事で稼いだ金で買ったんだ。どうだろうか」

 

「すごい素敵だよ。ありがとう。もしかしてこれのために最近家にいることが少なかったの?」

 

「まあそんなところだ」

 

交際を始めて思ったのがこれからの生き方だった。俺一人の頃なら全く問題は無かった。だが調の事を思うのならこれからの生き方は帰るべきだろう。錬金術やあくどい商売からは手を引くべきだと思った。

 

幸い貯えはまだあるがそれでもそんな手で稼いだ金で贈り物をするのはなんだか気が引けた。だから弦十郎に頼み込んで二課のスタッフとして雇ってもらったのだ。

 

勿論機密や奏者の事に関しては教えてもらっていない。そもそもこの間まで世界に敵対していた奴をいきなり組織の中枢に入れるのはまともな司令官のすることではないだろう。俺もそれに同意して雇ってもらっている。

 

それ故今の俺の立ち位置は弦十郎が個人的に知り合っている外注業者といったところだ。依頼一つで国中を駆け回ると注釈が入るが俺にはそれくらいで十分だ。

 

さて、プレゼントも渡した。これでもう後には退けない。この日に合わせて計画してきた一世一代の告白を目前に心臓が今にも張り裂けそうだ。前は流れで言うことが出来たが今回は雰囲気も相まってなぜか緊張してしまう。

 

手汗がすごい事になっている。喉が鳴る。だが今言わねばこれからも言うことは叶わないだろう。それにこれだけのシチュエーションだ、今言わずしていつ言うのだ。

 

「…調、俺はこれからの人生全てを君に捧げよう、だから…ずっと俺と一緒にいてほしい」

 

「…はいっ!」

 

一瞬の静寂の後、調の声が聞こえた。瞳には涙を浮かべている。良かった、受け入れてもらえた。頭が理解したところで俺も涙があふれ出てくる。

 

どちらからだったか、気づけば俺達はお互いを抱きしめ合っていた。夜の海辺ということもありお互いの体温と鼓動がこれでもかというほど伝わってくる。

 

こんな幸せがずっと続いていきますように。その夜、二人きりで星を眺めながら二人で願った。

 

切なく、淡い、そんな願いはいつか叶う気がした。




次回から多分GXに入ると思います。
それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。
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