調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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お久しぶりです。ちょっと入院してました。感覚が戻ってなくて拙いところもありますがご容赦ください。では、GX編スタートです。


GX編
厄災、始動


「調、掃除はこんなもんでいいか?」

 

「うん、完璧」

 

とある昼下がり、俺と調は大掃除に明け暮れていた。と言っても別に今日が大晦日とかそういう訳ではない。だからと言って日常的に大掃除をするほどきれい好きというわけでもない。

 

調はこまめに掃除をするタイプだ。だからそこまでがっつり掃除をする必要性が無い。だが今日はお客さんが来て、その上一大イベントの日だ。

 

今日はマリアちゃんと風鳴ちゃんのライブの日だ。それで大きなテレビのある家に調の友達を呼んでみんなで見ることになったのだ。と言っても来るのはいつもの奏者メンバーと立花ちゃんの友人らしいが。

 

そんな訳で調はいつも以上に掃除に余念がない。因みに切歌ちゃんは掃除が苦手なので早々に調に命じられて買い出しに出かけていった。少し多めに持たせていたからどこかで遊んで時間を潰してこいという事だろう。

 

「それにしても早かったな」

 

「そうだね。一年前はこんな生活ができるなんて思って無かったよ」

 

「俺もだよ。…学校は楽しいか?」

 

「うん、まだちょっと噂されることはあるけど」

 

「それは…すまん」

 

早いものでフロンティア事変から随分時間が経った。仕事面ではナスターシャ救出作戦が決行されたりその副産物で山が削れたり二課が国連所属になったりしたくらいだろうか。

 

そういえば藤尭が給料が上がったとかなんとか言ってたのが記憶に新しいな。

 

プライベートで言えば調と何度かデートした。そして調と切歌ちゃんがリディアンに入学した。入学式の時に藤尭と一緒にフラッシュをたきまくったのはいい思い出だ。

 

そのせいで調達は未だに学校で時々噂されているらしい。その点については反省である。

 

「大丈夫か?そのせいでいじめられたりしてないか?」

 

「それは大丈夫だよ。噂されてるのはそれとは別の事だから」

 

「別?あれ、俺他にも何かやらかしたっけか?」

 

ヤバい、本当に心当たりがない。無自覚に調がいじめられるような原因を作ってしまったのだろうか…。

 

「ううん、あの後入学式の事でからかわれたから『彼氏が迷惑かけてゴメンね』って言ったの。そしたらそれが学校中に広まっちゃって…」

 

違った。俺じゃないけど原因俺だった。

 

でもそっか…彼氏か…。

 

「なんかいい響きだな」

 

「でも私が何も言わなくても噂が広がっちゃうんだよね…主に二年生から…」

 

「そうか…それは悪い響だな…」

 

だがこんな会話ができることも幸せだ。いつまでもこんな日々が続けばいいのにな…。時々切歌ちゃんやマリアちゃんに怒られることはあるが。

 

だがマリアちゃんはともかく切歌ちゃんは人の事を言えないだろう。最近帰りが遅い時があるからな。何がとは言わないが心配だ。もういっそのこと藤尭も家に住まわせるべきだろうか…。

 

「っとすまん、電話だ」

 

ポケットに入れていたスマホが振動し着信を告げる。調に断りを入れ画面を見るとしばらく見ることもなく、できれば見たくなかった同僚の名前が表示されていた。

 

出るべきか、出ないべきか。たっぷり迷った挙句俺は渋々通話ボタンをタップした。

 

「…もしもし」

 

「ふっ、やけに嫌そうな声だな。そんなに私からの電話は嫌か?」

 

「切っていいか?」

 

「そう言うなよ。せっかくの同僚との会話を楽しむ心の余裕は無いのかい?」

 

「心に余裕はあるがお前に向ける余裕はない」

 

「おや、お取込み中だったかい?最近噂の彼女とイチャイチャしているところに電話があってイラついているとか」

 

「その通りだよ。おまけにその相手がお前だから余計イラついてるんだよ。てか要件なんだよ、早く言えよ万年黒電話」

 

「そうだね…では簡潔に言うとしよう。今夜暇かい?」

 

「忙しい、超忙しい。それじゃ」

 

有無を言わさず電話を切ると少しすっきりした。が、電話を終えて振り返ると調が意外な物を見るような目で俺を見ていた。

 

「ソウ君ああいう喋り方もするんだね。ちょっとびっくりした」

 

「あ~すまん。そういえば調の前では初めてだったか。仕事仲間相手だと大体あんな感じだな。永い付き合いでな、いい奴なんだが面倒事ばっかり押し付けてくるから気づけばあんな感じになってた。これからは気をつけるよ」

 

女性は乱暴な言葉遣いを好まない人が多い。調もそうだろう。これはあまり見られたくない姿を見られてしまったな。

 

「ううん、大丈夫だよ。寧ろ今まで知らなかったソウ君を知れてちょっと得した気分かも」

 

「そ、そうか?」

 

「うん、それに言ったでしょ?私からソウ君の事を知れるようにもっと近づくって。あれから色々教えてもらったけどまだ隠していること結構あるでしょ?」

 

「それは…まあ…」

 

それにどうしても調にはまだ見せられないような内容もあるわけだしな。

 

「でも少し成長したね。前ならそんなことないって隠してたけど今日は素直に認めてくれた。えらいえらい」

 

そう言って調は俺の頭を撫でてくれた。ヤバい、超うれしい。何がヤバいって語彙力がなくなるくらいうれしい。俺今日から素直に生きよう、そうしよう。

 

俺マジチョロイわ。

 

「ってまたかよ」

 

調に甘やかされているとまたしても電話が鳴った。相手はまたしても奴だ。調もそれに気が付いたのか手を止めてくれた。これはもう出るしかないだろう。

 

だが今の俺は機嫌がいい。少しくらいならこいつにも優しく接してやってもいいだろう。

俺は努めて優しい声で電話に応じた。

 

「もしもし?」

 

「おや、やけに機嫌がいいな。彼女に甘やかしてもらったのかい?」

 

訂正、やっぱりこいつに優しさはいらない。後無駄に勘がいいから嫌いだ。

 

「うるさい、それで要件は何だよ?」

 

「ふむ…先ほどより言葉のチョイスが優しめだな。だがこれ以上は言わないでおこう。また電話を切られても大変だ」

 

「おい、声に出てるぞ」

 

「先ほどの件だが実は続きがあるんだ」

 

こいつ、何事も無かったかのように続けやがった。

 

「唐突に呼び出したのは他でもない。局長が動く可能性がある」

 

「…続けてくれ」

 

先ほどとは打って変わって真剣な声になったのが自分でも分かった。あいつが動くかもしれない。それだけで話を聞くには十分な情報だ。

 

「ここだと盗聴の可能性がある。できれば専用の空間で話したんだが…」

 

さて、どうするべきだろうか。今日は前々から楽しみにしていたライブだ。調も楽しみにしている。それをいきなり仕事が入ったと言ってすっぽかすのは憚られる。

 

だが今回は相手が相手だ。もし出遅れたりすればそれだけで甚大な被害が出ることは目に見えている。

 

どうするべきか。電話越しに悩んでいると不意に袖を引っ張られる。顔を向けると調がメモ帳を手渡してきた。

 

内容を確認するとそこには、行ってきていいよ。でもできるだけ早く帰ってきてね、と書かれていた。

 

「…分かった。ただしなるべく手短に頼む」

 

「…すまないな。では座標だが…」

 

その後転移先を伝えられて俺は電話を切った。

 

「すまない調。楽しみにしていたのに」

 

「いいよ、大変なお仕事なんでしょ?」

 

「まあ…そうだな…」

 

「なら気にしなくていいよ。でもなるべく早く帰ってきてね」

 

「すまない。じゃあ行ってくるよ」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

一秒でも早く話を終わらせよう。そして早く調の元に帰ってこよう。その想いを胸に俺は指定された座標へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

転移光が晴れ、最初に目に入ってきたのはその歪ともいえる空間だった。不確かな足場、捻じ曲がった空、そして見ているだけで不安になってくる彩色、それら全てがこの空間が錬金術で作られたものだと物語っていた。

 

「にしてももう少しどうにかなっただろう」

 

と言ってもいくら錬金術で空間を錬成したとしてもここまで酷い空間はそうそうない。まだ技術が出来上がっていなかった数百年前ならまだしも体系化された現代にこんな空間を作る奴なんでよっぽど性格が悪いか初心者のどちらかだ。

 

後は別の術式が干渉している場合もあるが今回は性格の問題だろう。

 

さて、それで待ち合わせの相手は何処だろうか。だが辺りを見渡してみるもそれらしい人影は何処にもいない。あるとすればテーブルと椅子が四脚あるだけだ。

 

とりあえずそこに行ってみると紅茶が入ったカップとしばらくお待ちくださいと書かれたメモがあるだけだった。

 

椅子が四脚の段階でなんとなく察してはいたが呼び出したんなら客を待たせるなよ。

 

だが文句を言ってどうにかなるものでない。俺は渋々椅子に掛け紅茶に口を付けた。

 

 

 

 

「お前ら遅すぎだろ」

 

「そうか?」

 

あれから同僚がやってきたのは俺の体感時間で三十分以上経ってからだった。因みにやってきた内訳は黒電話一人、気怠げ一人、ハイテンション一人だ。結局予想道理だった。

 

「んでさっそく情報頼むわ。俺も急いでるんでな」

 

「ああ、例の彼女さん?あなた変わったわね」

 

「長い間生きてると色々あるんだよ。後男は女一人でコロッと変わるもんなんだよ。それより早く本題入れよ」

 

「あのメルクリアが小娘一人で変わるとは、人生何があるか分からないわけだ。聞いたぞ?相当デレデレらしいじゃないか」

 

「うるせえよ。いいから早く本題入れよ」

 

全くもってめんどくさい連中だ。元男が二人とはいえ女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。

 

「では本題に入ろうか」

 

黒電話、基サンジェルマンが席に着く。それにならいカリオストロとプレラーティも腰を据えた。ようやく本題に入れるらしい。

 

「局長の件だが近いうちに動くことになるだろう。だがいつになるかは分からない」

 

「…随分と不確かな情報だな。まあ相手が相手だけに仕方ないが何か無いのか?」

 

「そうだな…では一つ。近いうちにとある錬金術師がとある計画を実行する。その結果次第で動くかどうかが変わってくる」

 

「いや、誰だよ。とあるとある言い過ぎだろ。具体名で言えよ」

 

「いいのか?聞いたらお前はもう引き返せないぞ」

 

「いいから言えよ。引き返せないかどうかは俺が決める」

 

「…キャロル。キャロル・マールス・ディーンハイム」

 

「そいつは…穏やかじゃねえな」

 

よりにもよってあいつか。確かあいつは世界を解剖し理解することを目的として錬金術の研究していたはずだ。となるとやるとすれば地球そのものの分解だろう。だがそれはおかしい、話が見えてこない。

 

「キャロルの目的と局長の目的は一致しない。それどころか正反対だろう。それはお前も同じはずだ、サンジェルマン。一体何を企んでいる」

 

「そうでもないさ。私が望むのは支配なき世界。世界が分解されるのならばそれはそれで支配なき世界だろう。それに私が望む世界にならなさそうなら止めればいい。私たちにはその力がある」

 

「…なるほど」

 

確かに理には適っている。そして言葉通りこいつらにはそれを実行するだけの力もある。もしそれで駄目でも最悪あの変態が出張ってきてどうにかするだろう。

 

最も、なぜキャロルの作戦があいつの作戦実行に関係するのかの答えにはなっていないが。

 

恐らくそれがこいつらの狙いだろう。そこらへんにも気を使わないとな。

 

「それで、他にはないのか?」

 

「ああ、これで全てだ」

 

「そうか、なら俺は帰るよ。待たせてる相手がいるんでな。情報感謝する」

 

「いや、感謝するのは我々の方だよ。まんまと罠に引っかかってくれて助かったよ」

 

「…何?」

 

「この空間、どう思う?」

 

「作った奴はさぞかし性格が悪いか腕の悪い奴だと思ったよ」

 

「これを作ったのはプレラーティだ。そしてこの空間にしたのはわざとだ」

 

「…だから何だよ」

 

「まだ分からないのか?この空間には仕掛けがしてある。と言ってもそんな質の悪いものじゃない。ちょっと時間の流れを変えるだけのものだ」

 

「だから…まさか!?」

 

「そう、私たちの狙いは始めからあなたの足止めだ。とある錬金術師に頼まれてね。それにしても弱くなったな、メルクリア。昔の君が嘘のようだ」

 

「そうね、昔のあんたなら真っ先に空間の異常に気付いて何かしらの対策を施したでしょうしね」

 

「全く、あのメルクリアが随分と甘くなったわけだ。平和ボケでもしたか?」

 

「それになんだその魔力は。まるで安定していない、完全聖遺物が聞いて呆れるぞ」

 

俺の全盛期を知る同僚からすれば今の俺は相当腑抜けて見えるらしい。言われたことのいくつかは自覚があるとはいえ実際に面と向かって言われると中々に堪えるものがあるな。

 

「…そのようだな。確かにそれは認めざるを得ない」

 

「ふん、多少は昔の面に戻ったか。今日はそれでよしとしてやろう。そろそろ時間だ、もうじきこの空間は解除される。そうすればすぐにでも愛しの彼女のところに迎えるぞ?」

 

全くもって腹立たしい。あいつらの喋り方も、話す内容も、この空間も、全てが忌々しい。

 

だがそれ以上に、そんな簡単なことにすら気が付けなかった自分自身が腹立たしい。気が緩んでいた、平和ボケしていた。その通りだ、言い返せない。今すぐにでもあいつらの顔面に一発ぶち込んでやりたい。

 

だがそれよりも調達が心配だ。俺の個人的な感情よりもそちらが先決だ。

 

大丈夫、今やるべきことはきちんと理解している。身体も抑えることが出来ている。緩んでいてもここは緩んでいないようだ。

 

最速で、最短に、調の元へ向かう。今はそれだけ考えればいい。

 

結界の端が綻び始めた。崩壊まであと少しだ。そうすれば転移が使える。いつでも発動できるように、魔力を常に循環させる。

 

そして遂に、結界の起点が崩れた。それと同時に転移魔法陣を展開する。転移光に包まれ、あいつらの姿が霞む。

その刹那、不意に奴が口にした言葉がやけに耳に残った。

 

「忘れるな、貴様の終わりは近いぞ」




暫く遅筆が続きますが温かい目で見守っていただければ幸いです。

今回も読んでいただきありがとうございました。
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