ええ、一人称は無理でした。シリアスなんてもっと無理です。
それといつも誤字報告ありがとうございます。
窓が割れ、崩れ落ちる建築物。地面は陥没し砂埃が舞う。そんな空間を大小様々な紅い丸鋸が触れるもの全てを切り刻まんとせんばかりの勢いで放たれる。だがそれは相対者の前では無意味だった。割られ、弾かれ、砕かれる。
それでも調は攻撃の手を緩めなかった。すでにギアを破壊され変身が解除された切歌を守るために、延命装置に繋がれた響に少しでも多くの電力を送るために、そしてメルクリアとエルフナインが進める新型ギアの改修のため時間稼ぎをするために。
近づきすぎず、離れすぎず。攻め過ぎず、それでいて逃がさず。そんな絶妙な距離を保ちつつ戦闘を継続していた。一本目のリンカーの効果はすでに切れている。過剰投与の二本目も少しずつだが効力を失いつつある。
「またその攻撃か、もう飽きたぞ」
永い時を生きる錬金術師キャロルが作り上げたオートスコアラー、その中で最も高い戦闘能力を誇るミカを相手にその戦法は悪手だった。
それに加え敵はそれ以外にもいた。
水の鞭が跳ね、氷柱が地面からせり上がる。風の刃が地面を抉り、触れるもの全てを切り刻む。金のコインが弾丸の如く飛び交い空を切る。ガリィ、ファラ、レイア。各地の発電所を襲撃し終えた四体のオートスコアラー全てがここに集結していた。
それでも調が戦い続けることが出来たのはメルクリアの特訓のおかげであろう。三人の中で最も適合係数が低く、それ故最も伸びしろがあった。更に高速機動ができる、遠距離攻撃ができる、多様な技を持ち合わせている。
そんな調だからこそここまで持ち堪えることが出来た要因の一つであろう。マリアや切歌、クリスにも翼にも、もちろん響にもできない。調だからできることだった。
だがそれも限界を迎えつつある。時間の経過と共にじりじりと、まるで詰将棋のように追い詰められていく。始めは避けることが出来ていた攻撃が身体を掠るようになり、防御しなければならなくなり、そして防ぎきれなくなった。
それでもメルクリアの式神が楯となり何度かしのぐことは出来た。だがそれも四人のオートスコアラーの猛攻には耐えきれず今は調の足元に魔力が抜けた紙切れとなってしまっている。
それでも調は諦めない。自分にできることをやり遂げるため。罪を償うため。
「ふむ、よく我ら相手にここまで耐えた。だが月読調、そこまでして守る価値がお前の後ろにはあるのか?」
「…どういう意味?」
次攻撃を受ければ間違いなく変身が解除される。それどころかギアも破壊されかねない。相手もそれを理解しているのか攻撃の手を止め一か所に集まる。
その中からファラが調に賞賛と問いを投げかけてきた。その問いかけ方に調は違和感を感じた。
「では言い方を変えようか。メルクリアの益にならない奴らの元にあの方をこれ以上縛り付けることをどう思っているのだ?」
「それは…」
「貴女は知っているはずだ、彼の悲願を。ならば、貴女が真にあの方を愛するのであれば今すぐ彼の願いを叶えるためにその組織を抜けるべきではないのか?」
調は何も答えられなかった。ファラの言うことは最もだったからだ。
調はメルクリアの願いを知っていた。そしてそれは未だ叶わず今後も叶うかどうか、手が届くかどうかも分からない状況であることを。
そしてその願いを調以外は知らない。そのため二課の面々はメルクリアの願望のために協力するどころかそんなものがあることすら知らなかったのだ。
だが調はそれを言うことが出来なかった。メルクリアが望まなかったからだ。それは己の罪でもあるから。自分一人で解決しなければならないことだから、と。
「だんまりか、それも一つの答えだろう。今は目的を果たさせてもらおう」
沈黙を貫く調に落としどころを見つけたファラは調のギアを破壊するべく攻撃態勢をとる。それにならい他の三人も同様に狙いを定める。
「ひとまずはそのギア、破壊させて貰う」
「しまったっ!?」
集中を切らした一瞬の隙を狙って放たれた攻撃、調が気づいた時にはすでに目前まで迫ってきていた。
もうここまでか。ギアを展開する猶予もなく、数秒もしないうちに訪れるであろう衝撃。それでも調は恐怖を意思でねじ伏せ瞳を見開く。
ここで目を逸らせば逃げたことになる。必ず守ると言った彼を疑うことになる。それだけは許せなかった。
景色がスローモーションのように流れていく。今ならどの攻撃が一番に当たるのかまで分かりそうだ。そんな限界状態の調の視界に、突如割り込んでくる白があった。その白は調と迫る攻撃との間に盾のように身体を滑り込ませる。
そして一言、
『落ちろ』
それだけでオートスコアラー達の放った攻撃が全て地面へと叩きつけられた。
弦十郎のように気合の入った一喝ではない。だが耳にした者をゾクリとさせる静かで冷徹な声だった。
調はその声の主を見上げる。それはずっと待ち望んでいた優しくて、温かい白だった。
「ソウ君…来てくれたんだ」
「ああ、来るのが遅くなってすまない。よく耐えたな」
攻撃を防いだ衝撃で白衣をたなびかせながらもメルクリアはオートスコアラー達から視線を外さず会話を交わす。調のそれを見て緩みかけた緊張を再度張り詰め状況を思案する。
メルクリアは強い、そのことは調が一番よく知っている。だがいくら強くても現状必要なのは人数だ。
今この場にはオートスコアラーが四人、対してこちらは三人。しかも切歌はギアを破壊され自分もそう長くは戦えない。
そして周りを取り囲むように展開されたアルカノイズ。奏者が後二人は欲しいところだ。
「調、まずは周りを一掃する。俺の側から離れるな」
「…うんっ!」
それでも彼ならなんとかしてくれるかもしれない。メルクリアの言葉で調の顔は知らず知らずのうちに綻んでいた。
「凶刃よ、刃持ちて眼前の敵を切り払え!」
調が自分の側まで寄ってきたところでメルクリアは袖口から四枚の札を投擲する。それは黄色い輝きを放った後巨大な剣となり、旋回しながらアルカノイズたちを切り刻んでいく。
そして最後のアルカノイズを切り伏せたところで今度は中央のオートスコアラー達に磁石で引き合うかのように四方から剣が弧を描きながら向かっていく。
だがオートスコアラー達もただではやられない。突然の攻撃にも関わらず各々の武器を手に一人一本確実に防いでいく。
メルクリアは更に魔力を込め剣を加速させる。オートスコアラー達もそれに反応し火花が勢いよく散る。
調だけでなく、モニター越しに見ている弦十郎達もその速さに驚愕している中、メルクリアは再び袖口から札を五枚投擲する。
四枚が青色に輝き水流を発生させ一直線にオートスコアラー達に襲い掛かる。
水には水を。そう思ったガリィが剣を他の三人に任せ水流を防ごうと自信も水を操り楯を作る。
水流と楯がぶつかる。始めは拮抗していた両者だったが、メルクリアが放った剣を水流を飲み込ませた途端水流が勢いを増し一回り大きくなる。勢いを増した水流は意図も容易くガリィの楯を打ち破りオートスコアラーを押し流した。
「すごい…これが錬金術なんだ」
自分たちが今まで散々手こずってきた相手を一瞬であしらって見せたメルクリアに調は驚きを隠せなかった。以前彼が言っていた錬金術師の相手は錬金術師が、という意味を改めて実感させられる。
そんな羨望と期待の籠った眼差しで見つめる調にメルクリアはどこか申し訳なさそうに顔を掻きながら弁明する。
「いや、実はこれ錬金術じゃなくて呪術とか陰陽術とかそっち方面なんだわ」
「えっと…つまり?」
「前使った式神と同系統の術式だな。それより切歌ちゃんに服着せて連れてきてくれ。その間に俺はあいつらの相手をしておくから」
「うん、分かった」
メルクリアは魔法陣から布を取り出し、それを受け取った調は切歌の元へ走っていった。
「んで、そろそろ起きたらどうだ」
オートスコアラーを押し流した方向を見つめそう言い放つメルクリア。すると倒れていた四人がムクりと起き上がった。
「…やはりバレていましたか」
「当たり前だ。衝撃の瞬間に威力落としたからな」
「流石、見事な手腕ですね」
そう言ってレイアは片膝をつく。他の三人もそれに習うように膝をついた。
「お久しぶりです。またこうしてお会いできたことに胸が張り裂けんばかりでございます、兄貴」
「お兄様」
「お兄ちゃん」
「兄ちゃん」
「…ああ、久しぶりだな。元気そうで何よりだよ」
上から順番にレイア、ファラ、ガリィ、ミカ。それぞれが思い思いの呼び方でメルクリアを呼んでくる。
オートスコアラーやホムンクルスはキャロルの記憶を複写して造られる。そのためメルクリアを兄と呼ぶことは理解できるのだがなぜ人によってこうも呼び方に違いが出るのか、メルクリアにもそれは未だに理解できていない。
とはいえ今は戦闘中だ。思考を切り替えできる限りの情報を引き出し時間を稼ごうとする。
「キャロルは元気か?」
「ええ、最近は特に元気ですよ」
「へぇ、ならお前たちが出張ってくるのも納得だな」
「そうですね。特に私に地味は似合わないのでね」
「ああ、映像で見たぞ。派手だったよ」
「よしっ!兄貴に褒められた」
「あ!ちょっとズルいですよ!お兄ちゃん、私も褒めて褒めて!」
「ズルいぞガリィ、私も兄ちゃんに褒めて欲しいぞ!」
「あらあら」
褒められて嬉しそうにガッツポーズをするレイア、自分もとねだるガリィとミカ。そしてそんな三人を見て笑みをこぼすファラ。旗から見れば完全に年相応の少女達。
だがそれでも緊張の糸だけは切らさないようにしているのをメルクリアは感じ取っていた。それは彼女達の目的も自分と同様に時間稼ぎだということを意味している。
「ソウ君、お待たせ」
「待たせたな、メルクリア」
調が切歌ちゃんを連れてくるのとキャロルが転移してくるのは同時だった。それを合図に先ほどまで繰り広げられていた姦しい雰囲気は霧散し再度戦闘態勢をとる。
だがそんな彼女達をキャロルは手で制し、
「お前たちは下がれ。奴が札を使うということは本気だ。今お前たちを失うわけにはいかないからな」
「…分かりました。ご武運を、マスター」
オートスコアラー達は転移結晶を使い消えた。
戦場に残された四人。敵の頭数は減った。だがメルクリアは更に意識を集中し魔力を練り上げる。今二人を守りながらキャロルと刃を交えるのは不利だからだ。
「久しぶりだな、キャロル。元気か?」
「ああ、元気だとも。今日も憎きお前を殺せるかと思うとうずうずして抑えが効かないくらいにはな」
「そうか、それは何よりだ」
「そういうお前はどうなんだ、随分調子が悪そうだな。しかも後ろの娘を常に気に賭けながら戦うとは、余程その娘が大事なようだな」
「そうだな。彼女は俺の大切な人だよ」
「ふん、俺の時は我欲を優先し父親諸共見殺しにしたのにか」
「そうだな。それはすまなかったと思ってるよ」
「ならばあれか?その女で罪滅ぼしのつもりか?偽善者め」
「いや~、そこを突かれると痛いな」
衝撃的なワードにより通信機越しに二課の面々が驚きの声を上げる。だがメルクリアはまるで他人事のようにどこ吹く風だ。むしろキャロルの発言により先ほどまで張り詰めていた緊張を解き自然体になる。
「相変わらずお前のそういうところは見ていて虫唾が走るわ」
「悪いな、必要な時は私情を排する。それが俺の強みらしいからな」
「そうか、ならば今日ここでその強みも終わりにしてくれるっ!」
それを皮切りにキャロルの魔力が爆発的に上昇する。メルクリアも魔力を練り上げるがその様はキャロルと真逆だ。
キャロルが荒れ狂う嵐とするならばメルクリアは静かな湖面。必要な時に必要な分だけ使う。徹底的に合理性を追求するように魔力を練り上げる。
キャロルは緑色の魔法陣を展開し竜巻を襲わせる。狙いはメルクリアではなくその後ろの調と切歌だ。
それを察知したメルクリアは袖口から札を取り出し投擲する。投擲するは先ほどと同じ黄色に光る札、それが剣となり竜巻と衝突する。
呪術の世界において五行思想というものが存在する。木火土金水、全てはこの五つの属性のどれかに属するというものだ。
風は木か金の属性。そしてそれを打ち破るには金か火の属性となる。だが今回キャロルが展開したのは緑色の魔法陣。そこからメルクリアは木の属性と判断し金の属性の剣を放ったのだ。
始めは拮抗していて両者、だが次第にメルクリアの放った剣がキャロルの竜巻に押され始めた。錬金術と呪術の違い、それは呪術には様々な組み合わせが可能な代わりに出力が錬金術と比べ若干低いということだ。
それでも呪術にはそれを補って余りある利点が存在する。
それが五行相生だ。ある属性に別の属性を重ねることでその威力を増幅する。先ほど行った剣を水流に呑ませたことで威力を上げたのもその一つだ。
五行相生、金生水。金属は水を生みその力を増大させる。
メルクリアは再び青く輝く札を投擲し水流を巻き起こし剣を呑みこむ。水流は竜巻を打ち破りキャロルに迫る。
「ちっ!だが今ので幾分かは威力が削がれた!これで押し返す!」
五行相生が威力を強めるようにその逆も存在する。五行相克、苦手とする属性をぶつけることでそれを打ち破る。
水には土の属性が強い。キャロルは土の錬金術をもって水流を防ごうとする。
だがメルクリアはそれも読んでいた。三度札を投擲する。それは緑色の光を放ちながら水流に呑みこまれ、水流は大樹へと姿を変える。大樹は根や枝を鞭のようにしならせ土の壁を粉砕し、キャロルまで打撃を届かせた。
五行相生水生木、メルクリアが放った木行符は木を操る。それに水流を吸わせて急成長させたのだ。そして五行相克、木克土。木は土を打ち破る。それにより木の鞭は水の力を得たのもあり意図も容易くキャロルの攻撃を打ち破ったのだ。
「全く、相変わらず厄介な事ばかりしてくる奴だ」
だがキャロルも凄腕の錬金術師、たった一度の直撃でやられてくれるほどやさしい敵ではない。とっさに防壁を張り攻撃をやり過ごし態勢を整える。
メルクリアも魔力を練り次の手を模索する。両者が動き出し衝突する。その時二人の間に無数の剣と銃弾が降り注いだ。
お互いに距離を取り攻撃が来た方向を睨みつける。そこにいたのは三人の奏者だった。
「メルクリアさん、お待たせしました!」
メルクリアの元に駆け寄ってくる奏者達、彼女たちの登場にどこか残念そうな顔をしつつも調達を守り切ることが出来たことにメルクリアは安堵する。
「叔父様から伝言です。月読、暁を連れて一時帰投せよとのことです」
「了解、なるべく早く戻ってくる」
「お願いします。それと後で詳しく聞かせてもらうぞ、とも言ってました」
「…気が向いたら話すわ」
翼から伝言を聞いてメルクリアはうんざりとした。人には誰しも知られたくない過去の一つや二つはあるものだ。メルクリアの場合それが人より多々少々多いのだが。
どうやって誤魔化そうかと思案しながら調と切歌を呼び寄せ転移の準備をする。
「気をつけろよ。キャロルもそうだがイグナイトもだ」
「分かりました」
「そういう訳でいったん帰るわ。すぐ戻ってくるから心配するなよ」
「だれが心配するか。お前は必ず俺が殺してやる」
「そうか、そいつは楽しみだな」
メルクリアはキャロルにそう言い残し転移光に包まれていった。
「さあ、この間のリベンジマッチといこうか!」
クリスがボウガンタイプのギアを展開しキャロルに向ける。翼も剣を構え響もファイティングポーズをとる。
「来い、奇跡の体現者共!呪われた旋律では何も救えないことを教えてやる!」
真面目な戦闘はこれが初めてな気がする…。
読みにくくてすみません。これが筆者の限界です。
今回も読んでいただきありがとうございました。