しらきりの「ORBITAL BEAT」好きです。
「見ててメルクリア、私の方があなたを虜にできるから」
「デ、デース」
そう言い残すと調と切歌ちゃんはステージへ上って行った。
あれ、なんかドキッとすること言い残して行ったけどなんで急にやる気になってんの?さっきまで調この作戦に反対してなかったっけ?というか主旨忘れてないよね?聖遺物の奪取だよね?どっちが歌上手いかじゃないよね!?
だがいざ始まってしまえば作戦など些末なことに思える程に調たちの歌は上手かった。あまりの上手さに思わず聞き惚れてしまうほどだ。先ほどの子も上手かったが俺は調たちの方が聞いてて心に染み渡ってくるような感じがして好きだった。
二人が歌い終わるとコンサート会場は鳴り止まない拍手でいっぱいだった。中にはアンコールを求める観客もおり切歌ちゃんは手を振って答えている。
調はどうしているかなと視線を移すとこちらをまっすぐ見つめており目が合うと小さく手を振ってくれた。それに俺も手を振って答える。たったそれだけのことなのに気づけば笑みがこぼれていた。
そしていよいよ結果発表、となったところで突然二人がステージから下り会場から飛び出していった。急な慌てように何かあったのかと急いで会場を後にして二人の後を追うと幸運にも山車によって道が塞がれていたおかげですぐに見つかった。
「調、切歌ちゃん、何があった?」
「メルクリア、マムから連絡があって基地がアメリカ軍に襲撃された」
「おかげで聖遺物を取りそこなったデス」
それは穏やかではないな。それに思っていたより早く居場所を嗅ぎつけられた。あの病院にはかなりの偽装工作を施しておいたはずなんだがな。
「浜崎病院なら三日前に敵に襲撃されて放棄したよ」
「そうか…ん?俺口に出してたっけ?」
「ううん、でも顔を見れば分かるよ」
すごい、エスパー調マジすごい。いや、俺が顔に出やすいだけか、それとも調だからこそ分かるのか非常に気になるところだが今はそんな場合でない。
現状聖遺物の奪取は失敗、敵の本拠地から逃走しようにも足止めをくらい本拠地も抑えられた。おまけに敵が尾行している可能性も捨てきれない。中々ハードモードな展開だな。
だがこっちも無策じゃない。いざとなった時のための交渉カード位は揃えてある。今なら敵の目もまだない、とりあえず聖遺物の件は解決しておくか。
「調、これを持っていけ」
「これは…赤い石?」
「一応それも聖遺物だ。数日はしのげるはずだ」
これで敵の本拠地に乗り込んだものの何の手柄もありませんで調たちが怒られることはないだろう。後はどうやって撒くかだが…と考えていると山車の列が終わるのと同時に前後を三人の少女に挟まれてしまった。
正面に青髪ロングが、背面をさっき歌ってた白髪ロングと知らない茶発ショートの二人が道を塞ぐように立っている。
というかよく見れば正面にいるのアイドルの風鳴翼じゃね?シンフォギア奏者とは聞いてたけどここで出てくるのかよ。
「なあ調、もしかしてこの状況かなり不味い?」
「うん、かなり…っていうか物凄く不味い」
数の上では三対三。とはいっても向こうは正規適合者三人なのに対してこっちは時間制限付きの適合者が二人に錬金術師が一人、それが撤退戦となると確かに不味いわな。
「分かった、この場は俺が何とかする。その間に調たちはマリア達と合流しろ」
「でっでも…」
「安心しろ、俺はお前たちから世界征服の計画について何も聞いてはいないし直接的には手も貸してない。もっと言えば俺はまだフィーネに所属していない。いわば一緒にいるだけの一般人だ。いくらでも誤魔化しはきくさ」
まあ実際は何するか知ってるし間接的になら仕事の一環で散々手を貸したが今は関係ない。サービスでかなり色々な事も手伝ったけどそれも関係ない。
それにこういう交渉は知らない奴の方が相手が警戒して上手くいく。それが得体の知れない相手ならなおさらだ。
「とりあえずお嬢さん方、ここは退いてくれないかな?」
「そう言われて素直に通すと思ったか」
「そりゃそうだわな…」
敵対勢力の主力二人を捕らえれる絶好の機会だ、これを逃がす奴はまずいない。俺でも確実に抑えようとするだろう。
「でもさ、ここで戦うのは不味いんじゃない?人がいっぱいいるけどさ…いいの?」
だが仕掛けた相手も場所も悪かったな。袖口から白銀の蛇を見せつけ交戦の意思を見せると三人の顔が一斉に青くなった。ここで戦うということは無関係の人間を戦いに巻き込むだけでなく日本政府が頑なに秘匿し続けたシンフォギア奏者の情報を公開することにもなる。そんなことになったら彼女たちもただではすまないだろう。
「くそっ汚えぞっ!」
「いやいや、汚いなんて酷いな白髪ちゃん。俺はただ本当の事を言っただけだぜ。何なら今すぐやり合ってもいいくらいだ」
「…分かった。そちらの言い分に従おう」
今度は俺の周りに地面から銀色の針を剣山のように生やすと大人しく退いてくれた。物わかりの良い人たちで助かったよ。
その後調達が決闘の申しつけをしてひと悶着あったがなんとか二人を無事に帰すことができそうだ。
おっと、そういえば一つ言い忘れていたことがあった。
「調、マムに伝えといてくれ。この件、俺も本格的に関わる。詳しくは追って連絡すると」
「…分かった。気を付けてね」
そう言って調たちはリディアン音楽院を後にした。
「さて、んじゃ行こうか。案内よろしくね」
「え…どこ行くんですか?とゆうか帰らないんですか?」
「どこって君らのアジトだよ茶髪ちゃん。捕まえて情報吐かせる予定だったんでしょ?あの子たちほどじゃないけど俺にも捕まえろって命令出てそうだし君らも手ぶらでは帰れないでしょ?後は時間稼ぎかな、あの子たちが無事家に着くまでの…ね」
「…分かった。貴様を拘束する」
これで調たちの尾行が付くこともないだろう。敵は未知の能力を使う。それ故どのような手段で自分たちを監視しているか分からない。その上手段も選ばない、卑怯な手段も迷わず使う。そう思ってくれていれば幸いだ。
だからこそ俺は暗に言ったのだ。尾行が発覚し次第戦闘になるぞ、と。
これで相手の組織にそこそこ頭の切れる人間がいることや敵奏者との会話から風鳴ちゃんがリーダーを務めていることも分かった。まずまずの収穫だ、敵に捕まってもお釣りがくるほどだ。それにいざとなったら逃げればいいし。
こうして俺も少女三人に連れられながらリディアン音楽院を後にした。
ここだけ見ると中々に犯罪臭のする光景であったとだけ記しておこう。
「ってまたここかーい」
とある港に連れてこられた俺の目の前には数日前に見た潜水艦が停泊していた。何を隠そう調に言っていた臨時収入とはこの潜水艦の修理なのだ。錬金術師にとって地形破壊や修理修復など朝飯前だ。その上報酬もかなりの量を貰える。金は錬成するものではなく稼ぐものだとはよくいったものだ。
そんな訳で見慣れた潜水艦の見慣れた通路を進み見慣れた管制室に向かうとこれまた見慣れた筋骨隆々の男が待っていた。怒りの形相で。
「やっほー弦十郎、三日ぶり。元気してた?」
「なぜ敵対勢力と目される彼女たちと行動を共にしていた」
「何?シンフォギア奏者の上司ってお前なの?」
「なぜ民間人を巻き込むような真似をした」
「潜水艦の調子どうよ?ちゃんと直ってた?」
「今回の一件、お前が絡んでいるのか」
酷い、これは酷い。全く会話がかみ合ってない。キャッチボール以前にドッジボールにもなってない。これじゃただの壁打ちだよ。会話の壁打ちだよ。見てごらん、さっきから茶髪ちゃんがポカンとしてるよ。
「つーかあれだよ、いっぺんに質問するなよ。答えられる所と答えられない所があるんだから一つづつ聞けよ」
「…一つ目だ、なぜ彼女たちといた」
「学園祭に行かないかって誘われたから」
嘘はついてない。本当の事の半分しか話してないだけで決して嘘ではない。
「奏者達からは聖遺物の強奪が狙いだと聞いたが?」
「さあ?でも結果的に強奪できてないんだからいいんじゃねえの?」
「次だ、なぜ民間人を巻き込むような真似をした」
「だってそうでもしないとお前ら逃がしてくれないじゃん」
勿論口にはしないが巻き込む気はさらさらない。あくまでその素振りを見せることが重要なのだ。それに実際に巻き込んだら相手に交戦の口実を与えてしまう。それは俺達も望むところではない。
「ライブ会場の宣戦布告、あれはお前の仕業か」
「答えられないな」
「とある聖遺物が強奪された。知っているか」
「答えられないな」
「町はずれの病院が敵の拠点になっていた。お前の手引きか」
「答えられないな」
「病院に性格の悪いトラップを仕掛けたのはお前だな」
「答えられないな」
「雇い主は誰だ」
「答えられないな」
「今回の一件、お前はどこまで関わっている」
「答えられないな」
「…分かった。もういい」
やれやれ、やっと終わったか。思ったよりも長かったな。それに依頼に関することばかり聞いてくるもんだから答えられない連発も疲れた。
仕事として依頼を受けた以上依頼主から依頼内容、ありとあらゆるものは秘匿せねばならない。だから依頼内容に少しでも抵触する場合俺は一貫して「答えられない」と答えるようにしている。そうすることで依頼主との信頼関係が築かれそこから長い付き合いが生まれる。
逆に情報を引き出そうとした側も絶対に情報を吐かないから自分が雇うときの信用に繋がる。そして俺は報酬次第で誰の依頼でも受けるから今度はそういった連中からの依頼も来るようになる。
それもある程度の付き合いになれば俺が答えられる範囲と答えられない範囲から依頼に関する情報を割り出そうとするからなんとも言えないが…
とりあえず俺の「答えられない」は知ってる、関わっている。だが程度に関しては伝える気はないから諦めてくれ。と言った意味合いで捉えてくれればいい。
「あの、師匠。その人と知り合いなんですか?」
さて帰ろうか、と腰を上げたところで茶髪ちゃんが声をかけてきた。風鳴ちゃんや職員の人たちがビビるこの空気の中声をかけてこれたことにも驚いたが弦十郎が師匠と呼ばれていることの方が驚きだわ。
「そうか、まだ響君達には言ってなかったな。こいつは…」
「いいよ弦十郎、自分で言うから」
こういった商業柄第一印象は大切だ。最も彼女達に取り返しのつかない危険人物認定されている事実は変えようがないがもしかしたらこれから依頼があるかもしれない。少しでも認識が変わってくれれば幸いだ。
「俺の名前はメルクリア、何でも屋を営んでるしがない錬金術師だ。学校の宿題から世界征服までなんでもござれ。報酬は応相談だがお電話一本ですぐ参上。因みに後払いも可だよ。よろしくね」
潜入美人捜査官眼鏡の完成も近い…かもしれない。
今回も読んでいただきありがとうございました。