調の錬金術師(偽)   作:キツネそば

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三人称慣れないとキツイですね

タイトル変更しました(11/5)




猜疑心sideS

「切ちゃん、ご飯できたよ」

 

「調…今日のご飯は何デスか?」

 

「メルクリア特性ソースのサンドイッチだよ」

 

「ごちそうデース!」

 

神獣鏡を使った第一回フロンティア浮上作戦失敗から数日、マリアとナスターシャは更なる資金援助や作戦遂行のための交渉に出かけた。

 

そのため今エアキャリアにいるのは月読調と暁切歌だけである。

 

「そういえばドクターはどうしたデスか?」

 

「多分部屋か研究室にいるはずだよ」

 

「丁度いいデス、いないほうが気が楽デスよ」

 

その点に関しては誰もが納得できた。ドクターは偏食が激しくてせっかく作ったご飯もしょっちゅう残す。そしてお菓子ばかり食べるからいつしかドクターの食事は作らず代わりにお菓子を並べるようになった。はっきり言ってあれは見ているだけで食欲がなくなる。正直いない方がありがたいのだ。

 

そんなことより調には気がかりなことがあった。そう、メルクリアの事である。

 

秋桜祭が終わって自分の気持ちの気づいて以来、調はメルクリアの事ばかり考えていた。どこにいるのか、何をしているのか、そのことが気になって仕方ない。もしかして他の女と、あの敵奏者達と話していないかと思うとむしゃくしゃした。

 

だがいざ一緒に暮らすようになるとメルクリアを見るだけで鼓動が高鳴り身体が熱くなった。そして得も言えぬ恥ずかしさに襲われるのだ。最近は何とかなったが始めの頃はまともに会話もできず顔を見るだけでも一苦労だったのだ。

 

そして今はドクターに話があると言ってここにはいない。遅くなるかもしれないから先に食べていてくれと言って出て行ったのだ。だが調は心配だった。何か変なことをされてはいないだろうか…と。

 

勿論彼に限ってそんな心配は必要ないかもしれない。だがもしものことがあったらと先ほどからそのことで頭がいっぱいであった。

 

「ふふふ、調~?またメルクリアのこと考えてたデスね?」

 

「え!?…また顔に出てた?」

 

「もうばっちり書いてあったデスよ」

 

などど考えていたら切歌がニヤケ顔でそう指摘してきた。最近調はこのことでみんなにからかわれてばかりだ。彼女からしてみれば普通にしているつもりだったがとても分かりやすい顔をしていると言われた。

 

なので一度その時の顔を写真に撮ってもらったが確かにすぐに分かる顔をしていた。自分でもびっくりだった。それ以来気をつけてはいるのだが未だに成功したためしはない。

 

「調は本当にメルクリアが好きなんデスね」

 

「うん、大好き。彼とずっと一緒にいたいと思えるくらい好きだよ」

 

いつもなら照れてしまうような発言だったがこの時は自分でも驚くほど素直に言葉が出た。それだけ調はこの気持ちにだけは嘘をつきたくなかったのだ。

 

例え彼が人間じゃなくても、不老不死だとしてもそばにいたいと思えた。誰に何と言われようと関係ない、偽善と言われても構わない。これは誰のものでもない私だけの想い、私が心の底から思えた本当の想いだという自信があったからだ。

 

「誰のものでもない、調だけの想いデスか…なら私が私じゃなくなったとしてもそのためなら…」

 

「切ちゃん?どうかしたの?」

 

「なっなんでもないデスよっ!?それよりメルクリアの正体にはびっくりしちゃったデスよ!」

 

最近調は「本当の私…」や「私が私じゃなくなる…」と切歌がつぶやいているのを耳にする。その事を聞こうとすると今回のように決まって話題を逸らすのだ。

 

前々から何かあったのか聞いていたが中々話してくれずそのせいで一度怒らせてしまったのだ。それ以来調は切歌が自分から話してくれるまで待とうと決めたのだ。

 

「この間の戦いの時だよね、見るのは二回目だけど私もびっくりしたよ」

 

「そうデスね…って二回目!?前にも見たことあるんデスか!?」

 

「あれ?言ってなかったっけ?初めて見たのはライブ会場だったんだけどね…」

 

あの時は驚いた。自分たちが制御していると思っているノイズが突然襲ってきたのだ。そのノイズたちもメルクリアが片手で撃退してくれたのだがノイズの流れ弾が柱を直撃し天井が崩落してきたのだ。

 

だがそれ以上に驚いたのはその後だった。メルクリアに突然鈍く光る白銀の翼と鱗のある尻尾が生えそれらで調を覆い隠すことで彼女を無事に守り切ったのだ。

 

だが防御を調に全て回したためにメルクリアの下半身は瓦礫の直撃を受け下敷きになってしまったのだ。

 

だがすぐに瓦礫に挟まれ潰れたメルクリアの足はまばゆい閃光を放ち見る見るうちに再生してしまった。

 

その時だった、調がメルクリアの正体を知ったのは。

 

「え!?調知ってたんデスか?メルクリアが人間じゃないって!?」

 

「うん、知ってたよ」

 

「それが分かった上で…好きになったんデスね…すごいデス…」

 

「そんなことないよ。だって私も始めは怖かったもん。でもその後かな?彼の事を好きになったのは」

 

「そうなんデスか?一体何があったんデス?」

 

「う~ん、内緒。これは私とメルクリアだけの思い出だから。ゴメンね切ちゃん」

 

「はあ、しょうがないデスね。だったら二人が付き合い始めたら教えて欲しいデスよ」

 

「うん、じゃあその時に話すね」

 

「と言っても調が告白すればすぐにくっつきそうデスよね…」

 

「そ、そうかな…?」

 

「そうデスよ!この間も調の下着姿見た時顔がいやらしかったデスよ!」

 

そう言われ調は以前のメディカルチェック事件を思い出し別の意味で顔が熱くなった。見られたことで恥ずかしかったのもあるが子供っぽくなかっただろうか、もっと大人っぽいのを着てた方がよかっただろうかと今になっても思い出すと悩んでしまう。

 

「え~?大丈夫デスよ。あの時私やマリアも結構露出してたのに全く見られなかったデスし。寧ろ全く興味を示されなかったデスし」

 

「女としてはちょっと複雑な気分デスが…」と渋い顔で切歌は言うが心配なものは心配なのだ。

 

調はマリアや切歌のように豊満な胸がない事を自覚している。だからこそ他でカバーしようと努力していた。その一環としての大人っぽい下着なのだがあの日は偶然にもそれを着ていなかったのだ。調はそれを非常に悔やんでいた。

 

「だったらこの間の作戦も実行するべきだったデスよ」

 

「あ、あれは…その…いきなりで恥ずかしかったから…その…」

 

あの作戦、とは以前ドクター救出の時に立花響と交戦して帰る時の話である。地上には調、切歌、メルクリア、ついでに動かないドクターの四人である。にもかかわらず垂らされたロープは二本だけであった。

 

ドクターは切歌が抱えてくれていたから残るロープは一本、必然的に調かメルクリアのどちらかが掴まってもう一人を抱えることになる。だがそんな時、調にとんでもない連絡が入った。

 

「調、聞こえますか?」

 

「どうしたのマム?」

 

「諸事情によりロープは二本しか垂らせませんでした。ドクターは切歌に回収をお願いしたのであなたはメルクリアに抱えてもらいなさい」

 

「ちょっ、ちょっと何言ってるのマム!?」

 

「これはチャンスです。どさくさに紛れて密着するのです。そうすれば一発です」

 

そう言ってナスターシャは通信を切った。調はどうすればいいのか分からなくなり取り合えず切歌に助けを求ることにした。さっきの通信はオープンチャンネル、ならば切歌にも聞こえていたはずだ。そう思い彼女のいる方に顔を向けると…

 

さっさとドクターを抱えロープに掴まりいい笑顔でエアキャリアに戻っていった。しかも親指を立ててだ。

 

「あの時はまだ気持ちに気付いたばっかりで恥ずかしくなっちゃって」

 

「でもそのせいでメルクリアは調に嫌われてると思って落ち込んでたデスよ」

 

「えっそうなの!?どうしよう…」

 

「問題ないデスよ、早い段階で私とマリアが説明しておいたから心配しなくて大丈夫デス」

 

「そっか、ありがとう」

 

「全く…世話が焼けるカップルデスよ」

 

「うう…ゴメン…」

 

だが確かに切歌が、マリアが、ナスターシャがいつもサポートをしてくれた。もしそれがいなかったら調は今でも恥ずかしがってメルクリアと顔を合わせることもできなかっただろう。

 

だからこそ調は決めたのだ。もし無事に月の落下を食い止めることができたら告白しよう。自分の精一杯の想いを伝えて支えてくれたみんなへの恩返しをしようと。

 

「切ちゃん、私頑張るよ」

 

「その意気デスよ調!押して押して押しまくるデス!まずは帰ったら手作り料理でアピールデスよ!」

 

「うん、おさんどんしなきゃね」

 

だがその日、いつまでたってもメルクリアは帰ってこなかった。

 

そしてその夜、ドクターによって衝撃の事実が告げられた。ナスターシャが今日行おうとしていた交渉はアメリカ政府に自分たちを売り渡そうとしていたことを。

 

それだけではない、今までの敵による襲撃の全てがメルクリアによって仕組まれていたことを、全てはメルクリアの計算通りだったことを。

 

それを察知したドクターがソロモンの杖を使いメルクリアを撃退、同じくアメリア政府の手によって殺されかけていたマムたちをノイズを使って助けたことを。

 

今頃メルクリアは敵の本部に戻っているかどこかに雲隠れしているだろうと。

 

このことがきっかけでナスターシャは指揮権を剥奪、メルクリアは裏切り者の烙印を押された。そのため全指揮権はドクターウェルに渡りここにフィーネの完全独裁体制が完成してしまったのだ。

 

いつにも増して高笑いをするドクターウェル、その顔は自信の思惑が成功した時のものだった。だがメルクリアという精神的支柱を失った彼女らにそれを察知する心理的余裕は無かった。

 

ただ一人を除いては…。

 

その日の夜、調は荷支度をしていた。といっても持っていくものはほどんどない。着替えと非常食、予備のリンカー数本。

 

そしてナスターシャ、マリア、切歌、調、そしてメルクリアと撮った集合写真。調が家族と思える人たちと撮ったそれを鞄に詰めれば準備完了だ。

 

そして最後にあの眼鏡をかけ部屋をでる。もうこれでここには戻ってこれないだろう、だが調には行かねばならない理由がある。知らなければならない真実がある。そのために向かうは…

 

「リディアン音楽院。そこに私の知りたい全てがあるはず」

 

「やはり行くのですね調」

 

エアキャリア出口、そこにはナスターシャがいた。いや、まるで調がこうするのを理解していたような口ぶりからするに待っていたという表現の方が正しいだろうか。

 

「マム…私を止めるの?」

 

「いいえ、止めません。あなたが選んだ道です。だから調、あなたがやりたいようにやってきなさい。後のことは私が何とかしておきますから。それからこれを持っていきなさい」

 

「これは…USBメモリ?」

 

「月の落下予測及びフロンティアについての情報を入れてあります。後は向こうがどうにかしてくれるでしょう」

 

「そんな貴重なデータを私に渡して大丈夫なの?」

 

「かまいませんよ。大切なあなたと友のためなら安いものです。それに昔私も言われました。『悩んだら自分が一番したいことをしろ。周りの目とか体裁とかは気にせずに、欲望のままに動け。それが一番後悔しない…はずだ』とね」

 

「それって…」

 

「ええ、あの人の言葉ですよ。長い時間を生きてきただけあって彼は本質を付いた発言をしますから。そのせいで大分擦れた性格をしてますけどね」

 

「そうだね、でもそこがメルクリアのいいところでもあるよね」

 

「そうですね、擦れているからこそ彼は今まで本質を見抜いてこれたのかもしれませんね」

 

本人は否定するでしょうけどね、そう付け加えるとナスターシャは車いすを動かし道を調に譲った。これで話すことは終わりという合図だろう。調もそれを理解し出口へと足を向ける。

 

調がハッチをくぐり外に出ようとした瞬間、ナスターシャが背中越しに声をかけてきた。

 

「調、メルクリアの事をお願いします。私たちがアメリカ政府と交渉しようとしたのは事実ですが彼は最後まで反対していました。きっと今もどこかで戦っているのでしょう。どうか彼を救ってあげてください。私にはできませんでした。ですがあなたならできると信じてますよ」

 

「うん、分かった。頑張るね」

 

「それと身体に気をつけてくださいね。最近はとても冷えますから」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「それと…私にこんなことを言う資格はありませんが今まであなたたちを娘のように思って育ててきました。例え道は違えようと私は母として、あなたをいつまでも愛していますよ」

 

「…今までありがとう。それじゃあいってきます、お母さん」

 

そう言って調は夜の闇へと消えていった。残されたナスターシャは一人、いつまでもその後を見送っていたが次第にその視界はぼやけていく。

 

「礼を言うのはこちらです。あなたと過ごした時間、とても楽しかったですよ」

 

ナスターシャの呟きは風の音で儚くも消えていったが、その想いは確かに調に伝わっていた。

 

調の瞳からも確かに雫が滴っていたのだから。




ちょっとシリアス回でした。それと初めて5000字越えしましたよ。やっぱり三人称すごいな…。

調ちゃん原作よりも早くフィーネ抜けました。ここからちょっとづつオリジナル展開になっていきます。楽しみにしていただければ幸いです。

今回も読んでいただきありがとうございました。
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