ガンプラの画像は少々お待ちを。
«そろそろめんどくさくなってきた登場人物紹介»
遠野 紅衣;トオノ クレイ...主人公。東京に上京してきた際に、訳あって椿家に居候することになる。ガンプラバトルに置いて異常なまでの戦闘能力を持っている。腕に赤い宝石の装飾が施された腕輪をはめている。身元不明17才。
椿 ヒロ;ツバキ ヒロ...主人公。椿家の次男。物心ついた時に両親を亡くし、姉の椿アキと二人で椿模型店を経営している。名を馳せる天才ビルダーだったが、とある理由から5年前から表舞台から姿を消している。聖鳳学園高等部2年、16才。
椿 アキ;ツバキ アキ...ヒロの実の姉で椿家の長女。同じく両親を亡くし、今ではヒロにとって母親の用な存在となっている。店番は基本ヒロに任せ、大学が休日の時はぐったりとくつろいでいるが家事全般は全てこなしている。大学生で、21才。
八坂 薊;ヤサカ アザミ...ヒロに接触を図ろうとする正体不明の少女。話す時に関西弁特有の訛りがあるた
め、関西弁そのものを知らない紅衣に出会った時に人間かどうか疑われる。
さて、三話始まります。
「お姉ちゃん。お母さんはどこに行っちゃったの?」
頭の中に響くような声、その声はまだ幼くどこか呆けている。
私はこの声が誰のものか知っている。
「シャル、お母さんはきっと忙しいんだよ。でもきっとすぐに帰ってきてくれるはずだから、もう少しだけ待とう?」
「うん。」
そうだ。私は嘘をついたんだ。隠し通せるはずないのに。
その虚ろな瞳に、嘘を、ついた。
「お母さん、まだ帰って来ないの?シャル、お腹空いちゃった。」
「うん...もう少しだけだからね。...そうだ、チョコがある。これを食べていいよ。」
「良いの?ありがとうお姉ちゃん。お姉ちゃん、大好き。」
大好き。言われて嫌なはずないのに、心が締め付けられる。まるで鷲掴みにされているような気分。そのチョコレートは少し溶けていた。ずっと懐にしまっていたからだろう。
私がシャル、というその子は美味しそうにチョコを頬張っている。
「美味しい。ありがとう。」
礼を言いながらシャルはチョコレートを全て食べきらないまま袋に閉じた。
「...もう、いいの?」
「うん。残りはね、お姉ちゃんとお母さんの分に取っておくの!」
私と、お母さん。
もう、帰ってくるはずもないのに。
まただ。またあの記憶が頭に浮かんでくる。ここ最近ずっと、際限なく続く。何かの出来事がきっかけとなり、唐突にフラッシュバックしてくるのだ。
どれだけ忘れようとしても忘れられないのだ、この記憶は。
「...衣...紅....紅衣!」
自分を呼ぶ声に揺さぶられ目を覚ます。だがそこはベッドの上でも布団の上でもない。ガンプラバトルシステムの中だった。目の前にはプラフスキー粒子で生成されたフィールドが広がっている。
砂漠、というよりはやや赤錆びた色合い。火星フィールドだ。いつも風が強く、常に砂吹雪が舞っている。
「紅衣?大丈夫?ボーッとしてたみたいだけど...」
「え?...あぁ、すまない。気にしないでくれ。」
「?...、無理しないでね。それともうすぐ接敵するよ、備えて。」
ふと、紅衣が腕にはめている腕輪の中にあるガラス玉のような物が光っているのが見えたが、些細な事だと自分に言い聞かせすぐに目の前の戦場に意識を戻す。
目が覚めてやっと思考能力が回復してきた。機体の姿勢制御スラスターを吹かし、火星の表面に着地する。続いてレーダーを確認し、接近してくる機影を三機捉える。目視できる距離まで接近するとその機体の全貌が明らかになる。機体色は深緑、まるでモンスターのようなデザインをしている。
「あの機体はダナジンだよ。MA形態への変形能力を有する機体、油断しないでね。」
ヒロの忠告を聞き、コクりと頷く。ガンプラバトルを始めてからまだまもなく、こういう機体知識には疎い。アドバイスはしっかりと聞き入れた方がいいだろう。そしてなにより、あの三機のガンプラはヒロが店の展示サンプルとして製作したガンプラ。これといった特殊改造は施されていなくても、その性能はかなり高い。ただのCPU機体とは違い、普通に戦えば勝つのはそれなりに難しい。
「だが、こちらとてヒロが作ったガンプラだ。これぐらい勝ってみせる!」
コントロールスフィアを握り締め、その
右手に持ったソードメイスを両手で握り、大きく振りかぶる。互いにかなり接近し、三機のダナジンが散開しようする...がそれよりも速くメイスを中央のダナジンの頭頂部に叩きつけた。メシメシと無機質な装甲が歪み、強靭な鉄塊がダナジンのボディにそのままめり込む。まずは一機撃墜。残った二機にも狙いをつけようとすると、一機のダナジンがマニュピレーター内部から黄色いビームサーベルを展開し斬りかかってきた。メイスで防ごうとしたが、思ったよりも深く装甲にめり込んでしまったため、咄嗟に引き抜くことができず、左腕で受け止める。
「ぐっ...!」
「大丈夫だ紅衣、ルプスの装甲にはナノラミネート塗装が施されてる。多少のビーム兵器なんて気にせず戦うんだ!」
確かに普通の機体ならば、ビームサーベルを直接受け止めなどしたらすぐに装甲が溶断されてしまうだろうが、この機体、というより鉄血キットは全ての機体が総じてその装甲に対ビーム塗料、ナノラミネートアーマーが施されている。
「ほぉ...それはいいな!」
メイスを握っていた右手を離し、まるで獣のように研ぎ澄まされた鋭利な爪でダナジンの腹部を突き刺す。爆風が機体を包み込む。
「残りは一機!」
最後のダナジンは腹部ビーム砲を連射しながら白兵戦を仕掛けてくる。紅衣もバックパックにマウントされた二振りの小型メイス、ツインメイスを両手に持ち正面から接近していく。
ビームを乱射しつつ接近してくるダナジンに対し、こちらも負けじと両腕部に接続された200mm砲を前方に展開しながらダナジンに向けて連射する。
互いに近接攻撃の間合いに入る。だが先に攻撃が届いたのはルプスのツインメイスだった。ダナジンの頭部センサーを保護するバイザーが弾けとび、ヴェイガン機特有の頭部があらわになる。そのまま頭部を叩き潰そうとしたが、不意にダナジンの顎からビームダガーが突き出てくる。黄色い粒子の刄がルプスのメインカメラをかすめ、特徴的なV字アンテナの左側が欠けた。
「やってくれる!」
お返しにと言わんばかりに、ダナジンの顔面を殴り付ける。
「ふふ、なんだかんだ楽しそうにやってるわね紅衣ちゃん。なーんか良いなぁ。」
紅衣はバトルシステムの外から眺めるアキに気づいたのか、軽く笑みを浮かべ踵を返した。
「あと一押しだ紅衣!」
勢いよく殴り付けられた深緑の機体、ダナジンは空中で姿勢を崩し落下、そこに更なる追撃が加わる。ルプスは位置関係を逆手に取り、機体の重量をフルで乗せた蹴りを見舞いする。砂ぼこりがフィールド一面に広がり、メインモニターの視界が霞む。やっと視界が回復すると、そこには機体の駆動系を破壊され動くに動けないダナジンの姿があった。バーニアノズルを動かしながらゆっくりと、弱った獲物の息を止める捕食者のように降下する。その胴体を踏みつけ、両手のツインメイスを肩部稼働範囲ギリギリまで振り上げる。
「これで...終わりだ!」
ピロピロと唸る頭にツインメイスを無慈悲に振り下ろし、叩き潰してその息の根を止めた。
« バトル終了。 »
「お疲れ、紅衣」
バトルを終え、周囲を囲んでいた粒子の壁が消えていく。手に握っていたコントロールスフィアも気付くと消えている、この技術をもっと多様化すれば便利だろうに、何故この粒子はプラモデルにしか反応しないのだろうか。
先ほどまで激闘を演じていたガンプラも粒子が消え、バトル台の上で静かに制止していた。こうして見ると簡易的なジオラマもこれで再現できるのだろうか。
「凄いね、軽く操作方法を教えただけなのに...」
「私はヒロの言われた通りに動かしただけだ。ヒロの指示が良かったのだろう」
図々しく自慢をしてくるのではなく、あくまで謙虚に返してくる紅衣にどこか申し訳なくなる。指示とは言っても機体の特徴や、システムの概要を軽く説明しただけで特にはなにもしていない。紅衣の操作技術が常人よりも明らかに秀でてるのは確かだ。
「そんなことないわよぉ、紅衣ちゃんが動かすのも上手いからよ!」
何処か居たたまれない気持ちのヒロの代わりにアキがフォローに入る。こういうのは助かるのだが、余計な事されることのが多くてどうにもありがたみが薄れてしまう。
「でさ、一戦終わった後で申し訳ないんだけどもう二戦お願いしていいかな?紅衣専用のガンプラを作る上で、紅衣にどういう戦闘スタイルが合うのか他のガンプラでも試してみたくて。」
「私は問題ない。...がその前に昼飯だな!腹が減っては何もできない!」
「あ、うん。分かった...って紅衣朝結構食べてたよね?ご飯7杯ぐらいおかわり申し込んでたよね?」
そう、紅衣はというと朝誰よりも早く起きてきて、誰よりも早くテーブルに食器を並べ、誰よりも早くご飯を食べる準備を済ませている。おかわりの量も尋常じゃなく、自分が早く食べ終わるとヒロの分のおかずをじっと見つめてよだれを垂らしている。結局紅衣の視線に耐えきれず、少し分けてしまうのだが...
「朝と昼は別腹だ。アキ!昼飯を頼む!」
「はーい♪任務りょーかーい!アキ少佐、お昼御飯の準備に取りかかりまーす!」
アキも紅衣の食べっぷりは嬉しいらしく、ついつい沢山作って冷蔵庫の中の食材を使いきりそうになっている。
「アキ姉...ご飯炊くなら二合ぐらいにしといてね...」
紅衣も紅衣で、その細身の体のどこにそんなに入るのだろうか...
「胸か...」
「何か言ったかヒロ」
「何でもありませぬ。」
「あの様子やとこないだの連中は失敗したみたいやな...せっかくウチがくれてやったガンプラを無駄にしおって...しかし、あの黒髪の子知らん奴やな...まさかチームメイト?」
椿模型店内部でのやり取りを外から偵察するがの如く、見ている人影が一人。それはダイア一味に三機のドムを渡した張本人であった。
「ママー、何か変な人がいるよー?」
「あんなの何処にでもいるわよ、いいから黙って歩きなさい。」
...そう言われるのも無理もない、店の窓にべったりと張り付いて中を見ながらボソボソと呟いていれば誰でもそう思う。
「フッフッフッ。まぁ今に見とれ、今度はもっと面白い物を用意したるでぇ。椿ヒロ...」
「あのぉ、すみません。そこの方、ちょっといいかな?私達、警察の者だけど」
「ふぇっ?」
「ああいや、ここら辺に不審人物がいるって通報を受けてね。お嬢ちゃん、ちょっと職務質問いいかな?」
「ちゃ、ちゃいます!ウチは何もやっとらんです!」
「大丈夫大丈夫。最悪の場合ちょっと署まで来てもらうだけだから。」
「ほ、本当にウチはなんもしとらんってー!!」
「...ふぅ。少し、休憩かな...」
店の奥の個人用作業スペースで一人、必死にパーツとにらめっこしながら作業を進めていた。
一度集中すると作業に没頭しやすくなるのだが、その分たまった疲れが後からドッとくる。
体も定期的に伸ばさないとすぐに痛くなってくるのだ。
「ぐううぅぅぅぅ~、ん?アキ姉?入っていいよー。」
休憩に入ろうとした丁度のタイミングで扉からノック音が聞こえてくる。入る事を許可すると、おぼん皿を手に持ったアキが現れた。
「ごめんねー作業中に。軽く夜食を作ってきたから良かったら食べてね」
おにぎり4つに漬物、コーヒーと軽いという割にはかなり量が多いような気もするが。
それでも空腹の今はとてもありがたい。
「ありがとう、そこに置いといて良いよ。」
「うん。それとどう?そのガンプラ地区予選までに完成しそう?」
アキはおぼんを置くと、作業デスクの上に置かれた物を指差して質問する。
指した先にあったのは今製作中の物であろうガンプラだ。
「そうだね...多分。サフを吹いて、塗装も済ませて明日には完成するかな」
「もうそんなに進んでるんだ!じゃあ明日には紅衣ちゃんにも見せるの?」
「うん、そうだけど...」
ガンプラについてはもう解決した...が、まだ重要な問題が残っている...チームメンバーだ。
「そっかぁ...楽しみだなぁ。またヒロくんがステージの上で頑張ってるとこが見れるんだもん!」
アキは以前にも、参加した予選大会の応援に度々来ていた。ヒロとしてはもう一度、アキをあの場所へ連れていきたいと思っていた。しかし、そうするにはまだ課題がいくつか残ってるしまっている状況なのだ。
「そうだね...必ず、今度は紅衣と一緒に世界大会まで連れてってあげるからね。」
「ヒロくん...ふふっ、楽しみにしてる」
まだ参加できるかどうかすら危ういのに、つい期待に胸を膨らませてしまう。
でも、今度こそは行ける。いや、行かなくてはいけないのだ。
「あ、そういえば紅衣は?もう寝ちゃった?」
「それがさっき、少し用があるって言って出ていっちゃったの。」
またか。紅衣はよく一人で外出することがあるのだが、行き先や、いつ戻ってくるかは言わずに行ってしまう。
「まぁいいや、アキ姉ももう先に寝て良いよ。ご飯ありがとう。」
「うん。じゃあヒロくんも作業するのはいいけど、程々にね。」
アキが部屋から出ていき、再び作業を再開する。こちらもそろそろラストスパートだ。
「これが完成したら、紅衣は上手く戦えるかな...」
昼間の戦闘の後も、様々な種類のガンプラを用いて紅衣に戦闘してもらったのだが、紅衣はほぼ様々なタイプの機体を何不得意なく扱ってみせたのだ。遠距離支援タイプ、軽装タイプ、可変タイプ、はたまたファンネル装備機体など...。
当初の見立てでは紅衣は敵の懐に斬り込む近接特化かと思っていたのだが、この結果を受けて急遽製作中のガンプラの運用スタイルを見直す事となった。
「...思えば、これは元々トオル兄の為に作ったガンプラだったっけ...11番目のガンプラか、こんなに作ってたんだっけ。グリムモデルだなんて不名誉なもん付けられてたけど...」
だが、今は違う。これは紅衣の為のガンプラだ。過去の事は割りきるしかない。
「...elfか。」
日がすっかり沈み、月が上がり、そして後もう数時間もすればその月もまた見えなくなる。夜空に浮かぶ月が夜の町を照らす。今日は満月だ。あちこちで虫の鳴き声が聴こえてくる。いったい鳴いている虫は何処にいるのかといつも思う。今日は夜の温度も少し高く、下着に薄手のシャツしか来てなくてもかなりじめじめする。
「...夏か。思えばこっちに来てからしばらく経つが、やはり季節というのは不思議なものだ。」
同じ場所であっても、夏と冬では感じる世界が違う。当たり前のことなのだが、紅衣にとっては少し普通の人が感じるそれとは違うものだった。
「シャル...」
ふと、夢の中に出てきた少女の名前が口からこぼれる。ヒロにあんなことを言っておきながら、自分も全く同じような事をしていると、頭を抱えたくなる。
「いやーっ、しかしほんま嫌になるなー、夏場の夜は。」
「っ?」
ふと後ろから聞き覚えのない声が聞こえてくる。独り言か、もしくは他の人に語りかけたのか、しかしこの周辺にいたのは自分とその者だけである。語りかけからしておそらくこちらに話しかけてきたのであろう。
「じめじめして服は引っ付くし、汗で体は痒くなるしで、ほんまめんどいわー。な、あんたもそう思わへん?」
「...えぇ、そうですね。」
見覚えのない顔だった。何処かで会った記憶もない。整った顔立ちに青髪のロング、綺麗な蒼眼、見ていたらきっと覚えているであろう。
「ウチな、東京に来てからまだ時間経ってなくて、ここの周りの事あんま知らんけどここは物静かでエエなぁ。な、あんたはよくここに来とるん?」
「いえ、私もこっちに来てからまだ時間が経ってないのでよく分かりませんけど、確かにここは静かで良いですね。」
静かというのも、ここは東京都区内でも一番の敷地面積を持つ代々木公園であり、夜は意外と静かになる。
「へーそうなんか!ウチと同じやな!どっから来たのか聞いてもええ?」
「え?あ、えーと...」
「あ、あ、...秋田から」
咄嗟に言ってしまったが、名もしらぬ相手にこんなことを言ってしまって良かったのだろうかと考えこむ。
「秋田かーっちゅーことはウチとはかなり離れた所から来たんやな。ウチはちなみに京都からや!まぁ出身は京都ちゃうんやけどな。あぁ、それとわざわざ畏まって敬語使わんでもええで!あんたとは仲良くなりたいしな!」
急に仲良くなりたいとは言われても少し踏み込み過ぎではないかと思ったが、まぁ向こうが敬語を使うなと言うのであれば、といつも通りの男勝りな口調に戻る。
「その、なんだ。そもそもお前はなんだ?名前ぐらい名乗ったらどうだ?」
「ああ、そういえばまだ名前を言ってなかったわ。ウチは八坂薊。ヤサカアザミや。気軽にアザミちゃーん♪って言ってええよー」
薊、という名前がこっちの世界で珍しいのかどうかは知らないが聞いたことのない名前だったため、少し関心が沸いた。
「わ、私は遠野、遠野紅衣だ」
「紅衣ちゃんか!覚えたでーっ!!」
「そ、そうか...。では八坂、一つ聞いてもいいか?」
「八坂て...、ゴ、ゴホン!な、なんや?」
名字で呼ばれた事にやや距離を取られてるのを感じ取ったのか少し苦笑したが、無理やり話を切り替える。
「貴様...」
「...な、なんや...?」
「けやきヶ丘までの行き方を...知らないか?」
「へっ?」
かなり溜められたからてっきりこちらの行動に気づかれたかと思ったのだが、予想外の質問が来たため口からなにかがもれてしまった。
「いやぁ、ここまで来たはいいがすっかり来た道を忘れてしまって...周りもすっかり暗なってしまったし...駄目か?」
「あ、か、かまへんよ全然」
よくそんなんでここまで来たなとは思いつつ、紅衣を案内することを決める。電車に乗って帰る事も進めたが、ここまで徒歩で来たらしく一切の金銭を持っていなかった。
夜の景色というものは不思議なものである。昼間と見ているものは同じはずなのに、目に見える世界が変わったように見えてしまう。昼間はくっきりと見える人の姿も、夜は町の光に照らされてぼんやりとしか見えない。
あの後、八坂に模型店最寄りの駅前まで案内してもらったおかげで、無事ここまで戻ってこれた。八坂が椿模型店を知っていたというのも幸運だった。
店の前まで到着し、ふと自分の手にはめられた腕輪に目を見やる。
「...まだ応えないか、こいつめ」
腕輪に謎の悪態を吐きつつ、店の中を見やる。とっくに閉店時間を過ぎているため、中は見えない。
「これ、店が閉まっている時どこから入れば...」
すると、店の奥の方が光ったのがカーテン越しにわかった。数秒ほどして、扉が開きアキが顔を覗かせてきた。
「紅衣ちゃん!おかえりなさい!」
「ただいま。すまない遅くなって。待っててくれたのか」
「気にしないで、さっ早く入って!」
店の中を通って椿家の中に入る、すると微かに良い臭いが漂ってくる。わざわざ作って待っててくれたのだろう。家の中の照明はリビング以外はほとんど消えていた。
「ご飯出来てるけど、先にお風呂入ってくる?汗かいたでしょう?」
「いや、先に夕御飯...という時間でもないが、先に食べる。だが、その前に...」
「どうかした?」
「ヒロはまだ起きているか?」
「すまんな紅衣ちゃん...でも、ちょっとばかりウチからのサプライズや」
小脇に抱えたケースを開き、それを取り出す。その姿はまるで、鳥、いや...天使のようなものだった。
店の作業スペース兼、ヒロの私室である部屋の扉の前に立ち、ノックをする。
「ヒロー?入っていいか?というか起きているかー?ヒロ...」
だが、少し待っても返事が返ってこなく、作業に集中してるかもしれないとも思ったが、体が先に扉を開けてしまっていた。部屋の照明は消されており、作業デスクの上の蛍光灯だけが点いていた。そして、ヒロはデスクの上で力尽きたようにすやすやと眠りについていた。
「遅くまでやっていたとは聞いていたが、とうとう睡魔に負けてしまったか。ふふっ、気持ちよさそうに寝ているな。こいつめ、ウリウリ」
起こさないように声を抑えつつ、ヒロの頬を突っつく。その肌触りはとても柔らかく、触ってる側すらもふわふわ...といった感触だ。
「お疲れ様...ん?...そうか、もう出来たんだな。」
デスクの上に、一機のガンプラがその凛々しい姿を誇るように立っていた。
まるで、空に溶け込んでしまいそうな空色の装甲に、左肩と左膝の前面にはXIの文字が赤く刻まれていた。
「...これが、ヒロのガンプラか...私もこいつに愛想を尽かされないような活躍をしなければな」
ヒロにタオルケットを掛け、リビングに戻る。そこには、疲れ果てたように寝息をたてながらテーブルの上で眠り込んだアキがいた。
「...そういえば、アキも待っていてくれてたんだったな。...ご飯ありがとう。さて!では一足早く朝飯を頂く!いただきます!」
「ふぁ~い...いっぱい食べてねぇ...」
既に、町を照らす日が昇り始めていた。
「よし!やるか!」
「待って待ってもうちょい待って。もう少し準備を...」
バトル台の前で準備をするヒロを急かす紅衣。そう、とうとう待ちに待った起動テストの時間がきたのだ。
「...そろそろ待ち飽きたぞ」
戦闘衝動を抑えられず、さっきまではずっと腹筋していたのだが、そろそろ待ち飽きてしまったらしい。
「バトルシステムのダメージレベル確認、粒子供給量正常、フィールド形成率99.7%...うん、問題ない。」
周囲を囲むように蒼い粒子が放出され始める。
「行けるよ紅衣!」
「あぁ...行くぞ」
«エラー。障害が発生しました»
突如、アラートが鳴り始める。まだ、ガンプラはセットしていない。フィールドが形成され、バトル開始を告げる音声が鳴り響く。
「えっ!?なに!?どういうこと!?」
「...敵だ。」
「...えっ?」
そしてまた、紅衣の腕輪が赤く光る。瞳が赤く染まっていく。
「ヒロ!ガンプラをセットしろ!このままだと好き勝手に暴れられるぞ!」
背中に悪寒が走る。慌ててモニターを覗くと、そこにそれはいた。
白き翼、無機質で荒々しい鉤爪、耳を打つような駆動音、いやそれはまるで鳴き声。
見るものを圧倒するそれは、そこにいた。
「ハ...ハシュマル!?なんで...あんなものNPCに設定出来ないし、そもそも完成済みのキットなんてここには...」
「ヒロっ!」
「っ!...わかってる!紅衣、GP ベースを!」
«ガンプラをセットしてください»
これが何の始まりであるかはわからない
«システムエンゲージ»
ただ一つ言えるのは、
«発進、可能»
私たちにとって、
「行くぞ...」
これからの全てを決める、
「ガンダム、ストライク...エルフ!」
選択肢の先駆けだったのかもしれない
1ヶ月過ぎました...いやー流石にこれは...と自分でも思います。
なるべく早く更新したいものです。
しかしこの1ヶ月は無駄ではなかった!悩んでたキャラクターの原案もとある方の寄稿のおかげで大分進みましたし、次回からはもっとハイペースで進みたい!(願望)
なるべく本編を長くしたくないとは思っても、結局こんくらいまで長くなっちゃいました。
ガンプラの画像は前書きでも言った通り、もう少々お待ちください。出来たら三話の本文にでも貼っておきます。後はガンプラ紹介回にでも。
あと、一話と二話を少し編集しました。
それではまた四話で会いましょう!
あーフルメタIV早く見たいっす。
あとキャラ案の寄稿など、バシバシお待ちしております!