Deleted Witches~デュッセルドルフの人狼 ~ 作:シン・琴乃
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「武装親衛隊の『視えない盾中隊』? さあ、わらわは知らんが……ああ、『人狼部隊』の事か?知っているかって? 勿論。あの部隊は悪い意味で有名じゃからな。『ネウロイと化したウィッチを片っ端から狩って回るならず者達の寄せ集め部隊』、悪い噂が立たない筈も無い。斯く言うわらわもあの部隊は好かん。理由? 簡単じゃよ……わらわ達もいつあの人狼共に狩られるか分からん」
―――ハインリーケ・P・Z・ザイン・ウィトゲンシュタイン少佐へのインタビューより(1946/9/22)
「人狼部隊?ああ、有名だよ。知らないのかい? ……そうか、まだ来たばっかりだから新入りは知らないのも無理ないか―――人殺しのイカレ共、祖国の恥さ!」
―――とあるカールスラント軍のウィッチ(年月日不明)
「……そうです。あの日、私達は夜間哨戒飛行の為にビンゲン・アム・ライン基地から出撃しました。はい、そうです。ネウロイとの接敵に備えて実弾装備で出撃しました。―――任務は途中まで完璧に遂行されていました。『あれ』が起こったのは日付を周って少しした頃でした。私達の担当空域の哨戒が終わって、基地に帰ろうとした頃です。皆、『帰った後のココアが楽しみだね』なんて話をしてたんです。その時でした。突然、みんなが、苦しみ出して……!! あんな事に……!グスッ、ヒッグ……! (以下聞き取り不能)」
―――あるカールスラント軍所属ナイトウィッチの取り調べ記録より(1945/6/14)
梟の鳴き声も聞こえなくなり、森の木々が一層昏さを増す深夜。ラインラントの何処かに存在するカールスラント武装親衛隊航空基地のある一室で、内線電話のベルが鳴り響いた。けたたましい呼び声を聞いて、一人の女性がもぞもぞと気だるそうに布団をどけ、ベッドから立ち上がる。
「糞っ、こんな時間に、何処の阿呆だ! 私の快眠を邪魔しやがって!」
そう言って女性は忌々しげに舌打ちをし、豊満な裸体を月光に晒しながら受話器を取る。
「私だ。一体こんな時間に……何!? そうか。四体か……多いな。ああ、了解した。ブリーフィングの準備をしろ。すぐにでも出るぞ。今抑えている面子では長くは持たんだろうからな。補充のウィッチ? ああ、今日だったか。間に合えば良かったんだがなァ……」
受話器越しに報告を聞いた瞬間、不機嫌そうだった女性の眼差しが鋭く光る。その整った顔立ちから眠たげで不機嫌そうな表情は一瞬にして消え去り、顔には険しい面持ちが浮かんだ。その時の彼女の視線を見た者がいたならば、闇夜に獲物を探す梟に例えただろう。
彼女が親衛隊の制服に着替えて部屋を出る頃には、基地中にサイレンが鳴り響き、多くのスタッフが出撃準備の報を受けて慌ただしく駆けまわっていた。
彼女の名はヴィンフリーデ・シュトライプ。多くの人々は、歴史の闇に葬られた彼女の存在とその功績を知る事は無い。
「傾注!!」
ヴィンフリーデがブリーフィングルームの台に立った瞬間、総勢十九名のウィッチ達が彼女に立ち上がって敬礼した。それらは完璧に統制の取れた、一分の隙の無い動作だった。
「諸君、
ヴィンフリーデは返礼をして、満足げに微笑んだ。
「さて、諸君もここに集っているからには気付いていると思うが……恒例の楽しい楽しい『ヒトモドキ狩り』の時間だ。乱暴に纏めれば、向かってくるヒトモドキ共を分断包囲し袋叩きにするだけの単純な作戦だ。マライ、後はよろしく」
「了解しました、中佐。今回の獲物はビンゲン・アム・ライン基地の夜間哨戒部隊から『発生』した元航空ウィッチ四体です。奴らは原隊の同僚達を撃墜、そのままラインラント上空を突っ切ってガリアに向かおうとしているわ。現在我が基地からスクランブル発進した第四小隊が何とか抑えていますが、突破されるのは時間の問題でしょうね。そこで速やかに彼女らと合流、奴らを狩るのが我々の任務となります。交戦時間の制限は設定されていませんが、深追いのあまり交戦空域を出て他の部隊とかち合う事の無い様に、との通達が来ていますので注意して下さい。敵侵攻ルートと隊の編成はこの通りです」
そう言って副官のマライ・アッカーマン少佐が机上に進行予想図と編成表を表示した。そこにはラインラント州の地図の上に敵の侵攻ルート、そしてその両翼から襲いかかる自隊のルートが映し出されていた。
「これって……!」
隊員の一人が思わず声を漏らし、ブリーフィングルーム内が俄かにざわめき出す。その予想図には彼女らの基地が敵の侵攻ルートの文字通り真上にあったのだ。
「我が隊はこれより出撃後、現在交戦中の第四小隊と合流。その後、奴らを包囲分断し、各個撃破に移ります。何か質問は?」
そう言ってマライは全体を見渡した。ブリーフィングルームは重苦しい沈黙に包まれていた。自分達が抜かれることは、自分達の寝床が無くなる事、ひいてはガリアに再びネウロイの侵攻を許す事に繋がると同義だと知っていたからだ。
「我々はその任務の特性上、存在を秘匿されている部隊だ。今回もいつも通り過酷な任務だが、各員が死力を尽くせば任務遂行も全員の生還も達成される筈だと私は確信している。マライ、貴様からは何かあるか?」
マライは首を振った。ヴィンフリーデはそのまま胸を張って訓示を続ける。
「今回の作戦では、この基地がラインラントの最後方である事を常に意識しろ。我々の後背にあるガリアは人類の勝利の象徴だ。我々は、流血も厭わずここを死守せねばならない」
ヴィンフリーデはブリーフィングルームを睥睨する。揮下のウィッチ達の瞳に迷いや濁りは皆無だった。彼女らは皆、中隊指揮官であるヴィンフリーデに絶対の忠誠を誓っている。『汚れ仕事』を生業とする彼女達は、自らの手を汚す事を厭わないヴィンフリーデの指揮の下、鉄の結束で結ばれていた。
そして、彼女は皇帝から直々に叙勲を受けた者にのみ許された言葉を口にする。
「しかし、犬死には決して許さん! 帝政カールスラントの名誉と誇りにかけて任務を完遂しろ! 奴らに我々『視えざる盾』の実力を見せつけてやれ!」
ヴィンフリーデはさらに鋭く、斬り裂くような号令をかける。
「唾棄すべきヒトモドキ共に、断罪の鉄槌を下せ! 出撃!!」
「「「了解!!」」」
「進路、風向き確認――よし! 正面ハッチ開けろ!」
「一番機から四番機、発進準備よし! いつでも行けます!」
格納庫は正に修羅場だった。整備兵達が怒号を張りあげ、カートやトラックが慌ただしく駆け巡る。整備兵達は19機のハインツェルHe 219A-4/R3ストライカーユニットに傅き、ユニットと武装の最終確認を行っていた。カールスラント製エンジンで随一の出力を誇るユングフラウ ユマ222G魔導エンジンが低く唸り、整備員達の手によってユニットの固定ボルトが解除された。同時にゴガン!と大きな音を立てて格納庫の正面ハッチが全開放状態で固定され、一瞬だけ勢いよく流れ込んできた夜風がヴィンフリーデの顔を軽く打った。魔導エンジンは回転数を上げると共に低い唸りを雄叫びへと変え、その吐息を聞いたヴィンフリーデは発進時の加速を思い出して自身の胴体より長大なMk108機関砲を強く抱え直した。
『一番機から四番機、順次発進! 幸運を!! 続いて四番機から八番機、出撃スタンバイ! ユニット固定ボルトの解除確認を―――』
管制官から発進許可が下りた。闇に包まれた滑走路を、四つの魔力光が明るく照らし出す。機体の固定装備である魔導針が幽かに碧に光り、ググッと力強く機体が押し出される。
ヴィンフリーデは自身の脇で敬礼をする機付整備兵達に答礼し、管制塔の方向にちらりと目をやってからインカムに向かって叫んだ。
「武装よし、機体装備よし――一番機、シュトライプ出るぞ!」
『一番機、発進を許可する。幸運を!』
ヴィンフリーデは自身の両脚に魔法力を集中させ、最終固定ボルトを押し退ける様にしてユニットが生み出す推力を後ろに向けた。次の瞬間、ガコン、という音がしてヴィンフリーデの体はストライカーユニットの生み出す莫大な推力に押し出され、滑走路を力強く駆けあがり始めた。
同時刻の、ガリア領内カールスラント軍ウィッチ養成校。その滑走路では、カールスラント武装親衛隊のJu52輸送機の前で、二人のウィッチの卵達が一人のナイトウィッチの門出を見送っていた。少女達が今生の別れとばかりに抱き合う後ろで、漆黒に塗装されたJu52のエンジンが唸り、搭乗口に立っている武装親衛隊の士官が強い口調で急かすが、少女達は名残惜しそうにして中々離れない。
「じゃあね、みんな! 今までありがとう! 向こうに着いたらお手紙書くからね!」
「うん、まぁ……アンタも頑張んなさいよ。アンタはアタシの目標なんだから!アタシが追いつくまで、勝手に墜ちたりしたら許さないんだから!分かったら返事!」
そう言って一人の少女が拳を突き出す。まだあどけなさと涙の痕が残るその顔には、未来への希望があった。
「クラウディアならきっと大丈夫、一杯戦果をあげて、向こうでも仲良くできる。だから、頑張って! 私も、お手紙出すから!」
瞳に涙を溜めて、もう一人の少女が叫ぶ。その顔には親友との別離の悲しさや寂しさと、どこか誇らしげな表情が同居していた。
「うん! みんな……みんな……ホントに……グスッ、あ、ありがとう!! 私、向こうでも頑張るから!!」
見送られる少女、クラウディア・ヴェルターはつぶらな瞳から大粒の涙をぼろぼろと溢しながら震える声で親友達の激励に答え、敬礼した。
やがてクラウディアを乗せたJu52は爆音を響かせながら星が煌めく夜空の向こうに飛んでゆき、二人は滑走路の端に佇みながらいつまでもそれを見守っていた。
まだまだ先は長いですが、宜しくお願いします。