魔法仕掛けの人造人間 作:あかいろ
ゆっくりと雁夜が目を開けると、穏やかな朝だった。
柔らかな布団から上半身を起こして寝ぼけ眼でぼんやりとあたりを見渡す。
昨日何があったかを未だに覚醒していない頭で考える。
ええと確か、俺は英霊の召喚を試みて、でも実際呼び出すことができたのは小柄な少年で、絶望に打ちひしがれていたら血を飲まされて、気がついたら体が元に戻ったんだ。
こうして出来事を振り返るとあまりに急で慌ただしかった。
そしてその後で俺はおそらく魔力が切れて眠ったのだろうか。
適当な推測をたてつつ、改めて部屋を見る。
そして気がついた。
ここはどこだ?
雁夜に臓硯が与えた部屋は薄暗く、ろくに物もないような生活感のない陰気な部屋だった。
照明は足りずに、日は差し込まず、日夜を問わずに薄暗い雰囲気な部屋で、部屋全体には少し埃がかぶっており、あるのは質素なベットと薄い毛布、ボロい木製の円卓が1つあっただけのはずである。
それがどうしたことだろうか、柔らかく上等なベットに温かい布団、優しげな光を灯す新たに増えた照明、新装したと思うような美しい床、そんな部屋に合うような綺麗な木製の机と椅子。
埃がかぶっていたどこか陰湿な雰囲気を放つ部屋の見る影などどこにもなかった。
どういうことだ?ここは一体どこだ?いや、でも間取りは元々の部屋と同じだし。
そう雁夜が混乱していると、これまた前とは異なる印象の小綺麗なドアが開かれて、ひょっこりと少年、バーサーカーが入ってきた。
バーサーカーは雁夜がベットの上で起き上がっている様子を見ると嬉しそうに目を輝かせて近づいてきた。
「やぁ、マスター。ようやくお目覚めかい?お寝坊さんだなぁ」
のほほんとした雰囲気で持ってきたお盆をベッド脇の机に載せる。
お盆からは良い匂いが漂い雁夜の空っぽの胃を刺激する。
「一日中眠ってたんだ、お腹空いただろう。これで足りなくてもまだ作ってあるからたーんとお食べよ」
そういって作りたてのおかゆとスプーンを渡してくるバーサーカー。
スプーンを手に取り、おかゆを口に運ぶ。
素朴な味が胃に染み渡る。……おいしい。
「うん、おいしいよ。バーサーカー」
「そうかい。そういってくれると嬉しいよ」
バーサーカーはにこにこと幼い笑顔を満面に浮かべる。
雁夜に料理を褒められて嬉しそうにしている。
「あ、あのさ、ところでバーサーカー?」
「なんだい、マスター?おかわりかい?まだいっぱいあるからちょっと待ってておくれよ」
「ちがう!そうじゃなくて…………ここは本当に俺の部屋なのか?」
そういって雁夜は再度自分の部屋(推定)を見渡す。
劇的ビフォーアフターと化しているのだ。
一体誰がどうやったのだろうか?
「そうだよ、マスター。あまりに雰囲気が良くなかったからちょっと改装させてもらったんだ。お気に召さなかったか?」
「お、お前がやったのか!?この部屋の改装を?!」
「うん、こっちの方が前よりいいと思うんだけど、マスターは嫌かい?」
予想はしていたがあまりの出来事に呆然としている雁夜を見て、クスクスと楽しそうに笑うバーサーカー。
「お、お前、本当に英霊なんだな……」
「あれ、ちゃんと自己紹介したんだけど信じてくれなかったのかい。悲しいなぁ、ぼくは正真正銘サーヴァント、君の召喚に応えたバーサーカーさ!!」
そういってパッチリと大きな瞳をウインクさせるバーサーカー。
そう言われてもその仕草や容姿からは微塵も英霊という雰囲気を感じさせない。
最初に感じた通りまるでどこにでもいる子供のようにしな見えない。
「……とりあえずお前が英霊なのは信じた。信じ難いけど信じよう」
「まぁ、それも仕方ないよ、ぼくのスキルが原因だと思うし」
『認識阻害』と『変身』のスキル。
物語が指し示した通りに彼はどこにでといる容姿が設定されていた。彼を簡単に頼りにすることがないように、本当に必要な人間にだけ手助けをするためのものであった。
そのため彼は召喚された地域の一般的な少年の容姿で現界し、他者からは英霊だと認識されにくく、一度正体が露わになるまではステータスすら見えない。
「そんなスキルがあるのか」
「それ以外にもちょこっと宝具とかスキルを持っているよ。ところでマスター」
「ん?どうしたんだ?」
「君の願いはなんだんだい?」
真剣な顔をしてバーサーカーが雁夜を見つめる。
大きな黒い目に覗き込まれて少し雁夜はたじろぐ。
「俺の願いは桜ちゃんを幸せにすることだ」
そう雁夜がいうと目をパチクリとして、驚いた顔をするバーサーカー。
それから困ったような表情をしてから、天井を見上げた。
「君はいい人だね、マスター。自分ではなくて他人のために願うなんて。でも困ったな、桜ちゃんの幸せって具体的には何なんだい?恋人でも見つけて幸せに暮らすことかい?」
そう言われて答えに詰まる雁夜。
桜ちゃんの幸せとは何か、彼女をどうすれば幸せになれるのか。
今まで考えていないことに思考を停止する。
「ん?マスターが幸福の定義をどうするかは少し気になるけど、とりあえず健康は幸せなことだよね?桜ちゃんの体を君と同じように治しておいたよ」
「な!?え?そういえば俺の体って今どうなってるんだ?」
「健康な状態に戻したし、異物だった虫は取り除いたよ。あと魔術回路ってやつはそのままになってるけどね。君が望むと思ったから」
そういわれて左半身を動かしてみるが、神経から動きが遅れて到達することもなく、すぐに体が反応した。
魔術回路も蟲による擬似的なものではなく、ちゃんとした回路が開閉される感覚があった。
それに先ほどから当然のように食事をしているがこれも本来であったならば出来ていないはずである。
久方ぶりの食事や不自由のない体に感動していると、ふと疑問に思った。
「こんな勝手なことをして臓硯はなにか言ってこなかったのか?」
ここまで好き勝手バーサーカーが動いていて、あの妖怪が何もしてこないはずがない。
そう思った雁夜はバーサーカーに質問した。
「臓硯?あぁあのお爺さんのことかな?おそらくマスターの邪魔者だろうと思って殺しちゃった。別にいいよね?マスターも馬鹿にされてたから好きじゃないと思って」
「こ、殺した?」
てへっと可愛らしく嗤うバーサーカー。
雁夜はそんな様子を見て背中に冷や汗を感じ、顔を青くした。
そんな変化にも気づかずにバーサーカーは話し続ける。
「うん、桜ちゃんが少し嫌がってたしマスターとのパスを通じて見た過去でもひどい目合ってたから。あんな人いらないでしょ。それにしてもびっくりしたよ、最初剣で切っても虫になってバラバラに逃げちゃうんだもん。咄嗟に炎の魔術使っちゃったから少し家が焦げちゃった。ごめんね、マスター」
そう話す悪戯がバレた子供のように申し訳なさそうにする少年の様子は先ほど自分を治療したことや部屋を改装したことを告げる様子と変わりがなかった。
そんな少年を見て雁夜は本当にこの少年が英霊だと感じ、同様に何故彼がバーサーカーのクラスで召喚できた理由の一端を垣間見た気がした。
一方でバーサーカーは黙って思案している雁夜の様子を見て何を感じたのかしゅんとし始める。
「ダメだったかい?えと、それなら生き返らせるよ……ちょっと間に合わないかもしれないけど……」
トボトボと歩き部屋を出て行こうとするバーサーカー。
というか生き返らすことができるのか?!
雁夜はそれを慌てて引き止める。
「待ってくれ、バーサーカー!いや、ありがとう、助かったよ」
そう雁夜が言うとピタリと足を止めてさっきとは打って変わって全身から喜びを露わにしてバーサーカーが雁夜に詰め寄る。
雁夜の視界にバーサーカーのあどけない顔が広がる。
「本当かい?!喜んでくれて嬉しいよマスター!そうだ、桜ちゃんもリビングでマスターが回復するのを待ってたんだ、今呼んでくるね」
そういって楽しげな雰囲気を滲み出してバーサーカーは部屋を去っていった。