ピカチュウは、宝石[ボール]に入れられるのが嫌いだ。
だから外に出ている。また宝石に入れられそうになると、電気を放ってしまう。
「うぐぐ……」
「ピカッ」
ぷいっとそっぽを向かれる。
上条は博士からもらった特殊な電気タイプ用のロープを使って、無理やりにでも引きずっていく。
「あのさぁ、ビリビリ。お前、俺の事がほんとに嫌いなんだな」
「ピカ」
頷く。それに項垂れる上条。
嫌いなのは察していたようだ。
「でも、俺はお前の事、好きだぜ?」
「ピカ?ピ……ピカ……」
するとピカチュウは、その言葉が意外なように見えた。
だが隣にいるインデックスから、なつき度は非常に低いことを告げられる。
「なつき度は旅をしていき、その最中の試練により上がっていきます。ハプニングこそ、もっとも超えられるものでしょう」
「ハプ……簡単にお願いします」
「バトルです。野生のポケモンに、勝負を仕掛けて勝利することで経験値を貰えます。また野生ではなくトレーナーのポケモンであれば、更に良い経験となります」
ここらへんのシステムは、ゲームと同じ仕様な事に安心する彼。おかげで旧来からの記憶や知識が、無駄にならないことが分かった。
そしてこの時、ちょうど目の前にポケモンがいた。
「あ、あいつか!よしっ。ビリビリ、あのポケモンに攻撃だ!『電気ショック』!」
「ピッ」
「えーと、御坂美琴さん?いう事聞いてくれませんかね?」
目の前のポケモンへの攻撃指示に従わない様子を見て、上条は自分で戦って捕まえる意思を示す。
「あれはビリリダマです。非常に素早く……」
「よし!仲間ゲットだ!」
インデックスの忠告を聞くまでもなく、ビリリダマに向けて腕輪を向ける。
腕輪についている宝石から、赤い光線が伸びる。
その光線が当たる。しかし、ビリリダマは何の反応もせず、その場できょろきょろしている。
「げっ、なんだこれ」
「ボールじゃないので、捕まえられる状態であれば宝石に収納されます。
できなければ何も起きません」
「そのために弱らせろって事だろ?なら、簡単だ!」
上条はビリビリの無関心ぶりに苛立っているのか、少々大きめの石を拾い上げて全力で投擲する。
ゴスッ
「あ」
盛大な打撲音が聞こえる。上条は音よりも、狙いから大きく外れてしまったことに意識が向いてしまう。
そしてそいつは叢から身をのぞかせる。
「へ、あ、あの、インデックスさん?あれもポケモンでせうか?」
「はい。オニスズメです」
「いやいやいや、どうみても……」
オニスズメは怒っているようで、ぶつけた本人でなくピカチュウに向かって体当たりをする。
「ピカッ!?」
とっさの攻撃に体をのけぞらせて回避する。
ピカチュウは身に覚えのない攻撃に苛立ち、電気ショックをお見舞いする。
オニスズメは電撃を受けて、遠くにある大木へ飛んでいった。
大木の枝に隠れると、すぐに大量のオニスズメを率いて上条達へ襲い掛かろうと向かってきた。
「はあ!?」
「攻撃力判定不能。退避を進言します」
「逃げるぞビリビリ、インデックス!」
しかし逃さないというように、オニスズメの一匹が『機関銃』をちらつかせて迫ってくる。
「くっそ!あれはなんだ!?どう見ても、ヘリコプターじゃねえか!」
「いいえ、オニスズメです」
「どうなってんだ、この世界!」
必死に逃げていると、逃げ道がこれ以上ない場所に来てしまう。
そう崖だ。
眼下には流れのはやい川が流れている。逃げるには、ここに身を投げるしかない。
だが考えてみれば、死を感じさせる光景だ。
「どうすれば……」
「迂回ルートはありません。飛び込むべきです」
「ちくしょうっ、いくぞビリビリっ」
「ピ…カ……」
弱弱しいピカチュウの声。何があったのか振り返ってみると、そこには遠方から機関銃で射撃され怪我を負っているピカチュウがいた。
上条はすぐに攻撃されているピカチュウの手を引いて抱き上げ、インデックスと共に眼下の川へ飛び降りる。
どぼんと飛び込み、流れに沿って川下へ。
水中で抵抗しないままインデックスの手を握って、場所を見極める。
ただ上条は先ほどすれ違った、長躯の龍のような何かがいる近辺は無理だと判断した。
(ここだ)
上条達は河原に這い上がり、こきゅうを整える。
だがそんな暇はない。
「オニスズメの大群をレーダーで感知。来ます」
「くそっ、早すぎだろ!」
上条はピカチュウをすぐに抱きなおし、インデックスと逃げる。
天候が徐々に悪化し、早急の退避が必要な時それはおこる。インデックスによる検索で、一番近くにあるポケモンセンターに向かって走っていると、インデックスがこけた。
いや、倒れた。
遠くには黒く動く塊が見える。
どさっという音に、先行している上条が振り返る。
「インデックス!」
「すみません、トウマ。足のモジュールが、極度の環境により摩耗。動きません」
「くそっ、お前も連れて行くから、ちょっと待ってろ」
「いえ。私は機械です。替えはいくらでもあります。命が一つしかない、マスタートウマとピカチュウが逃げ「ごちゃごちゃ、煩せぇっ!」……」
「機械が何だ、図鑑がなんだ、替えが効くだそんなの関係ねえ!インデックスはインデックスだろ!この世界でたった一人の女の子だろうが!消耗品みたいに言うんじゃねえ!まだ物語の序章にすぎねぇところで、くたばっちまうんじゃねえよ!俺が連れてってやる……。
こんなところで、意味不明な奴らに俺たちの物語を壊されてたまるかっ!!」
上条は二人を脇に抱え逃げる。機械というわりには、本当に軽いインデックスの体に一瞬驚いた。しかしそんな猶予はない。
天候は悪化。雨が降り出し、土砂降りの様相を見せる。
暗雲は雷雨を生み出し、ここら一帯を雷撃で埋め尽くす。
ちかよる悪魔のプロペラ音。
チュンッ
「っ!?」
機関銃である『タネマシンガン』は、運悪く上条の左足を打ち抜く。
あまりの激痛に苦悶の表情を浮かべながら、地面に倒れこむ。
更に『不運』にも段差があり、三人の体が強く打ち付けられる。
だが上条の受け身もあって、ピカチュウとインデックスの負傷は比較的軽微だ。
「クソがっ、やってやる。俺が全部終わらせてやる!こうなったのも、俺が変な欲を張っちまったからだ。落とし前はつけてやる」
体中泥だらけ。痛む左足を圧倒的精神力で耐え、右足に力を入れて立ち上がる。
そして二人に攻撃が行かないように、手を広げオニスズメと対峙する。
「オニスズメ!石をぶつけちまったのは、俺だ!何も関係ないところで、攻撃しちまったのはすまなかった!何も悪気があったわけじゃない!だが許される訳じゃねえ!俺がすべての元凶だ!ピカチュウたちは関係ない!文句あるなら俺に向かってこい、オニスズメ!」
『機関銃』で攻撃しようにも、火花だけが飛び散る。
結果オニスズメは、その大群をもってして上条に襲い掛かる。
まるでクライマックスかのように、落雷が降り注ぐ。
上条は来る衝撃に、歯を食いしばって耐ショック防御をする。
しかしその思惑は外れ、脇からピカチュウが前に飛び出る。
そしてできないはずの跳躍をやってのけ、その体に落雷が落ちる――!
「ピィィイイカァァアアアチュウウウウウウ!!!!」
世界が雷撃と共に光で満たされる。
これには当事者全てが巻き込まれてしまうほど大規模で、結果的にこの雷雨も回復することになる。
上条はこの雷撃を目を腕で覆い防御したうえで、にげようとするオニスズメに地面にある泥をぶつけ地面に落としたうえで宝石で捕まえる。
捕獲の感傷に浸ることはできず、そのまま後ろに崩れ落ちるピカチュウを支え自身も気絶し倒れる。
彼らが目を覚ますのは、太陽が西日になるころだ。
「ぐっ……ピカチュウ……」
「ピカ……」
地面にお互い向き合って寝そべっていた。
二人は二人を認識し、無事を確認する。怪我や火傷など色々負ったが、大丈夫なようだ。
「っ!そうだ、インデックス!」
「叫ばないでよ、とーま。ちゃんと、聞こえてるよ」
上条はその声質に、びっくりする。しゃべり方等、色々―――違っていた。
むしろそれは聞いたことがある。あの子のしゃべり方だ。
「インデックス!?記憶が戻ったのか!?」
上条はこの世界がおかしいのか、自分がおかしいのかと一応思案していた。
だが皆が皆この世界に適応していること、雷撃をまともに受けてしまったこと等。
確実に前とは違う場所だと思っていた。
そんな中機械的なしゃべり方が、聞こえのあるなじみ深いしゃべり方に戻れば?
上条は寝返ってインデックスを探した。彼女は寝返った目の前にいる。
「申し訳ありません。ショックにより、記憶媒体が暴走しました。修復中です」
「いやいや、修復しなくていいから!むしろ、そっちな感じでお願いします!」
「……修復中―――失敗。もう!とーまのせいで、失敗ばっかしちゃってるじゃないの!
しかもこの失敗は、後ろの短髪の雷撃のせいなんだからね!――言語システムに致命的エラー、再起動します――失敗。この問題は、正常なものとして一時的放置を措置として行います」
直ったのかわからないが、インデックスが半分戻ってきたことに手を合わせた上条は嬉しくなった。
三人はお互いの無事を確認して立ち上がる。
「よし。まずはポケモンセンターに行こうぜ!」
「ピカッ!」
「うん!」
三人が歩き出そうとしたとき、空から聞いたことのない鳴き声が聞こえる。
三人は見上げ、ソレを見る。紅の疾駆。翼は虹色。だが鳥というには、いささか異形だ。
その異形から、きれいな羽が落ちる。
その羽は上条の手元に落ちてくる。
「なんだこれ」
「ピカァ」
「きれいですね」
虹色の羽を、上条は手に入れた。
その異形は巨大な虹をくぐってどこかへ行ってしまった。
三人は突然の事、光景に心打たれ少しの時間棒立ち。
「……この幻想[こっちの世界]はクソッたれかと思ったけど、なんだ現実[あっちの世界]よりきれいじゃねぇか」
上条はそう呟いて、二人と共にポケモンセンターへ向かった。
4000字近くなりました。残念極まりない。
もっと短く、2000字を目途に頑張ります。