PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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8月15日──【異界:蒼醒めた廃墟】異界攻略2

 

 

『なんかよォ、最近つまんねえよな』

 

 声が、聴こえた。

 

『分かるわー、なんつーか、やりがいねえっつうか』

 

 戌井さんの異界の中だが、戌井さんの声ではない。

 

『……やっぱあれだな、頭が“あの人たち”じゃねえと締らねえってか』

 

 これは多分、戌井さんの印象に残っている声だ。

 

『ぶっちゃけ、アキヒロさんじゃ頼りねえしな』

 

 戌井さんの心に、こびり付いた呪いだ。

 

 

 

 異界攻略を中間地点から再開した自分たちは、またしても彼の心の声を聴いていた。

 

「……盗み聞きしたのか、面と向かって聞いたのかは分からないけどよ、これは辛いな」

「そうだな」

 

 頼られないということは、自分の価値を認めてもらえないということだ。

 自分が居場所だと思っているところでそんなことをされたら、居場所がなくなったように感じてしまうだろう。

 

「……」

「高幡先輩、その……」

「分かってる。追い詰めたのは俺と……いや、俺ってことだろ」

 

 噛み締めるように呟く高幡先輩。

 今、掛けられる言葉はない。

 

「先に進みましょう。自分たちが先導するので、思考を整理しながら付いて来てください」

「……悪いな」

「いいえ」

 

 お互い同意の上で同行しているのだ。謝られる必要はない。

 それなら自分だって、そんな言葉を彼に聞かせて、悩ませていることを謝らなければいけないだろう。いや謝ること自体は全然良いのだが、それではきっとキリがないから。

 終わったら、謝って、感謝する。

 それを目指して、今は頑張るべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変化があったのは、体感で1時間が経過した頃。

 

「たぁっ!」

「おらぁ!」

 

 行く手を塞ぐように待ち構えていたシャドウに、先頭を歩いていた洸と空が、シャドウを物理攻撃を仕掛ける。

 敵2体。そのうちの片方に綺麗な連携攻撃を加えたが、倒しきることが出来なかった。

 攻撃が止んだことを察したシャドウがすぐさま反撃。1体は火炎攻撃を。もう1体は攻撃をするシャドウを少しばかり回復させた。

 火炎攻撃が空に当たる。ダメージは入ったみたいだが、体勢を崩すほどのことではない。

 しかし、味方を回復できるシャドウか。優先的に排除するか、先に補助される側を倒しきるか、どちらかの対策をとるべきだろう。

 ……よし。

 

「祐騎」

「ま、当たり前だよね!」

 

 祐騎と自分、それから空と洸で再度、攻撃を放ってきた方のシャドウを殲滅する。中途半端にダメージが残っているなら、先に倒してしまった方が早い。数では元よりこちらが上。相手が少なくなればなるほど有利になるから。

 残されたシャドウは1体になると、自分に殴りかかってきた。防御が間に合わず受けてしまったが、大したダメージでもない。

 それより再度4人で畳みかけるように攻撃する。

 シャドウは漸く跡形もなく消えた。

 

 

「“ネイト”」

「“バステト”」

 

 後ろから聴こえてきた声に振り向く。

 自動的に殿を務めていた柊と璃音が、背後から奇襲を仕掛けようとしてきたシャドウを機械的にペルソナで葬った所を視界に収めた。

 ……随分あっさり倒したみたいだ。

 まあ何にせよ、取り敢えず視界に入る領域にシャドウはいなくなったらしい。

 

「クリア、かな。ここら一帯のシャドウは殲滅できたっぽいね」

「だな。あまり疲れてねえし、休まず進むか」

「高幡先輩は大丈夫ですか?」

「ああ、お陰様でな。ところで、今どれくらいだ? 前回よりは進み良いだろ」

 

 体感だが1時間は歩いたのだ。戦闘を何度か挟んだものの、トラップのような悪質な遅滞理由はない。高幡先輩の言う通り、前回の進み具合よりは幾らかマシなはずだ。

 ……あれ、返事がないな。いつもならすぐに答えてくれるのに。聞いていないのか?

 

「サクラ、進捗確認を。…………サクラ?」

 

 ポケットに入れていたサイフォンに呼びかけるも、反応がない。

 画面を見てみるが、確かに彼女は映っている。

 だが、何かのデータを必死に閲覧しているようだ。背を向けている彼女の先には、夥しい数のプログラミング言語が顕れては消えて行っていた。

 

『……これは!?』

 

 洸や祐樹が何だ何だと寄って来て、全員でディスプレイを眺め初めてから数秒。

 彼女は、驚愕の叫びをあげた。

 

『先輩、このエリアの先に生体反応複数! 巻き込まれた人たちと推測できます!』

「「「!!」」」

 

 弾かれたように全員が駆け出し、移動の中で各々の戦闘準備を済ませる。

 

 

 

 

 

 少し走ると、シャドウが集まっている空間が見えた。

 その集まったシャドウの中心には、確かに人影がある。

 足音に反応したのか、彼らと周囲のシャドウは一斉にこちらを向いた。

 中心にいる1人が、恐怖に足を震わせながら叫ぶ。

 

「何だ! 誰だテメエら! ……って、ぁ」

「アンタはまさか……シオさん!?」

 

 黒いパーカーを着た、5人の男性がそこには居た。

 戌井さんの姿はないが、戌井さん以外の全員がここに居ることになる。

 無事、とは言い難かった。立っている者と座っている者に分かれているが、どちらも顔に疲れが色濃く見える。

 

 ……急いで助けなくては。

 

 戦闘態勢に移行した自分たちを脅威と認識したのか、彼らを取り囲んでいたシャドウたちが包囲を解き、こちらに詰め寄ってきた。

 

「テメエら下ってろ!」

「高幡先輩、アンタもだぜ」

「ちっ、分かってる。アイツらを頼む!」

「「「「応!」」」」

 

 とはいえ、数が多い。何とかなると良いが。

 

 

「全員全力。最速で突破しよう! ──来てくれ、“タマモ”」

「おう──来やがれ、“ラー”!」

「うなれ──“セクメト”!」

「視透せ──“ウトゥ”!」

「“ネイト”」

「“バステト”」

 

 数が多い以上、範囲攻撃である程度数を削るしかない。

 ペルソナの持つそれぞれの全体攻撃を使って行けば、減っていくはず。

 

 だが。

 

「やはり数が多い……!」

「【マハラギ】!」

「【マハジオ】!!……ちょっと多すぎるでしょ。作業ゲーはノーサンキューなんだけど……!」

「ああもう、まどろっこしいです! 【金剛発破】!」

 

 こっちの被害は軽微だが、疲れは溜まるものだ。ロスは少なく、最低限の攻撃で終わらせたいと試行錯誤はしている。

 かといって、この大多数の敵を分析して、ペルソナを切り替えながら弱点を突き続けるというのも至難の業。

 だとしたらいっそのこと、全体に均一なダメージを与えられるのが理想か。

 

「チェンジ。“ネコショウグン”【マハタルカジャ】」

「【メディア】」

「力が……助かるぜ白野! 柊も!」

「ありがとうございます! これでもっと戦える! もう一回【金剛発破】ァ!」

「チェンジ。“トート”【メギド】」

 

 攻撃力を底上げされた空のペルソナによる全体物理攻撃と、チェンジした自分のペルソナによる万能属性の全体攻撃。

 攻撃が弾け、残っているのは数えられる程度の数のシャドウのみだった。

 命の危機に激昂したのか、シャドウたちは1体を除いて圧を増してこちらへ襲い掛かってくる。

 ……そう、1体を除いて。

 

『──!!』

 

 その1体は、怯えていた。

 怯えていたから、逃げて行った。

 

 その他のシャドウの対応に追われることになった自分は、そのシャドウの身体の向きしか分からなかった。だから対応が一瞬だけ遅れた。

 一拍遅れて、気付く。

 シャドウの進路の先に、何があるのか。

 

 ……ま、ずい!

 

 逃げた先には、同じく戦いから避難していたBLAZEの5人の姿が脳裏を過る。

 

「柊、前に出てくれ!」

 

 返事はしないが自分の声に応じて前線に加わった柊に代わり、2歩大きく後退。戦線を維持する為の戦力から強引に抜け出した自分のソウルデヴァイスを、彼らのもとへ走らせた。

 

 間に合え……!

 

「ちょっ」

 

 祐騎が戸惑いの声を上げる。

 彼の視線を追って、気づいた。

 自分がソウルデヴァイスを投射するのとほぼ同時、いや、それよりももしかしたら先に突出していた人影があったことに。

 

 

「うぉおおおおお──」

 

 力強いダッシュを駆使し、身体に見合わぬ俊敏さで自分のソウルデヴァイスより早く辿り着いた大男。高幡先輩。

 彼はそのまま、大きく拳を振り被り。

 

「──らァっ!」

 

 生身の拳を、シャドウに叩き付けた。

 

「高幡先輩、離れて!」

 

 声を上げる。

 高幡先輩があそこまで距離を詰めている以上、自分の大きなソウルデヴァイスでは的確な援護ができない。せめて空のように呼吸が読めれば良いのだが、戦う姿を始めて見せた高幡先輩相手ではそれも難しい。

 

 だが彼は離れなかった。

 

「らああああ!」

 

 ラッシュに次ぐラッシュ。怒涛の8連撃。

 力強い殴打を繰り返すものの、しかしシャドウにはほとんど効いた様子が無かった。

 せめて押し返すのが精いっぱい。

 

「ちょっ、あれ効いてないんじゃ!?」

「そんな! ……くっ、近付けない。退いて、ください!」

「……ずっと前、確か柊が言ってた。『心を具現化した世界である異界の生き物、シャドウは精神的存在よ。精神的存在に物理的な力は効かない。同じく心の武器であるソウルデヴァイスか、精神の具現化であるペルソナくらいね』って」

「そんな……」

「チートアーマー、って程じゃないにしても耐性持ちってわけ。つくづくクソゲーっぽいねこれ……!」

 

 自分も初めて聞く話だ。

 しかし、だとしたら尚更まずい。最悪、怪我させることを覚悟で強引に割って入るしかないのか……!

 

「……いや、その理論は、ええい邪魔、【ジオ】! ……おかしくない?」

「何がだ、よ! 祐騎!」

「まったく効かないなら、なんでシャドウが、仰け反るの、さ!」

 

 全員が攻撃の手を一瞬緩め、高幡先輩を見る。

 確かにシャドウは攻撃の衝撃を受けているような反応をしていた。

 ……いや、それどころか。

 

「だんだん、効いてきてねえか?」

「うっそでしょ。どこまで脳筋……ってワケでもなさそう、だね」

 

 理解できないものを見る目を一瞬だけ高幡先輩に向けた祐騎だったが、すぐにその視線を撤回する。

 どちらかと言えば、既視感。どこか懐かしさを含む優しい目になった。

 その理由は、自分にも分かる。

 

 高幡先輩の拳から徐々に零れ出始めた、“光”。

 とても見覚えのある、“魂の輝き”だ。

 

 

 

 

 

 

「邪魔だ」

 

 高幡先輩が、殴る。

 始めてシャドウが、足を後退させた。

 

「誓ったんだよ!」

 

 殴る。

 1歩、また1歩と、シャドウの後退は止まらない。

 

「例え何があっても!」

 

 彼の拳の光が、強固なものになる。

 初めて拳がクリーンヒット。大きなダメージが、シャドウに入った。

 

「例えどう思われようが!」

 

 そして、その光が、“焔”へと変わる。

 その“焔”を恐れたシャドウが、攻撃に転じ、高幡先輩へ襲い掛かった。

 

「オレは、“あの日の後悔”を!」

 

 その姿を、冷静に。

 いや、確かな“焔”を宿した瞳で見つめた彼は。

 

「無かったことには、しねえってなァッ!」

 

 

 拳の“焔”を、力に変えて。

 

 

「吼えろ──“ヴォーパルウェポン”!」

 

 

 矮小な敵を、文字通り一蹴した。

 

 

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