「正直、この集まりを定例にしたくはないオレがいる」
「気持ちは分からなくもない。楽しいけれど、眠いしな」
「まあ今も前回も夏休みだから良いが、これ普通の土日にはできないぞ」
朝。
窓の外で鳴く鳥に起こされる形で、自分と洸は揃って目を覚ました。
意識が落ちていたのは……2時間ほどか。3時頃までの記憶はあるから、それ以降眠っていたとしたらそんなものだろう。
「何さ、2人とも体力ないなぁ」
どうやら寝ずにゲームを続けていたらしい祐樹が、呆れたような表情を自分たちへと向けてきた。
確かにその根気には目を見張るものがある。が、それは体力とは別問題なのではないだろうか。
「まあ、面白くて癖になるのは分かるんだ。けど、続けちまうといつか駄目になっちまいそうで」
「なに、コウセンパイ、『ゲームは人を駄目にする』理論の人? やれやれ。居るんだよねそうやって都合のよくゲームをスケープゴートにして逃れようとする人。駄目なのはゲームじゃなくてアンタらでしょって」
「ナチュラルに喧嘩売られてねえか、オレ」
「ゲーム業界に喧嘩を売ったのはコウセンパイだよ」
そんなつもりはねえんだが。と頭を掻く洸。
だが、反論はできなかったらしい。そう取られるような発言をしてしまった洸にも落ち度はある。
そんなこんなで彼らが雑談を続けている間に席を立ち、眠気覚まし用の飲み物の用意をする。
飲み物を持っていくと、彼らは一見雑談のような口論を中止し、喉を潤わせ始めた。
「……ふぅ。サンキュなハクノ」
「どういたしまして」
「……どうも」
「いえいえ」
一瞬だけ、全員が話の種を探すような停止をした。
沈黙の後、洸が口を開く。
「戌井さん、入院だって言ってたよな? 期間とかは決まってるのか?」
「いいや、そういった連絡は受けてない。でも、今回は葵さんの時の用にはいかないみたいだ」
「ま、形はどうあれクスリに手を染めたんだしね。その部分もきちんと調査しておかないといけないってわけでしょ」
自分が以前お世話になり、今でもたまにバイトをしている杜宮総合病院で、戌井彰浩さんは現在入院中。
という話を昨日の晩、美月からの通話で聞いた。
何でもあの病院は北都が口添えできるとかで、異界関連に巻き込まれた人たちも何人か治療した経験を持つとのことだ。
それでも、過去に例のない程に、戌井さんは衰弱していたらしい。
それもまた、考えてみれば当然とも言って良い話だった。
クスリでおかしくなっていた身体。その上で負荷などを一切合切無視して力を引き出し、シャドウと合体などという事象まで引き起こしてしまったのだから。疲れないはずがないのだ。
「今は何、ICUにでも入ってんの?」
「いいや、そういう話は聞いていないけれど」
「まあ、命に危険がある、とは言ってなかったんだよな? なら、最悪の状態は脱していると考えていいだろ」
「だね。命があればどうとでもなるでしょ。……ただまあ、気掛かりなことがあるとすれば」
「シオ先輩、だよな。今も病院に?」
「美月の話では、そうだな」
志緒さんは、今現在も、そんな戌井さんに付きっ切りでいる。
現状はすべて美月から自分と璃音へ送られた定期連絡みたいなものから得た情報。
「しかし意外だな」
洸が呟く。
「何がだ?」
「祐樹が、シオ先輩のことを気にしていたことがだ」
「……なにそれむかつくんだけど。コウセンパイのくせに」
「いやオレのくせにってなんだよ」
その反応に少しだけ笑った後、祐騎は真面目な顔をした。
「ただ僕は、待つだけっていうのは辛いな、と思っただけだよ」
「……そうか」
祐騎も、葵さんが病院で検査入院していた時は足しげく通っていたのだったか。
気持ちが分かるも何も、同じ体験をしていたのだ。共感するところはあったのだろう。
その点、洸の時は空が覚醒した関係で、入院とかがなかったので、その共感を得られていないのだろう。自分に関しては逆に入院していた側なので、もっと何とも言えない。
「早く、良くなると良いな」
「だね。……高幡センパイがいれば、4人でゲームできるし」
「4人でゲームなら昨日久我山を入れて散々やっただろうが」
「あー、まあね。けどほら、あの人一応あんなのでもアイドルだし、流石に夜遅くまで拘束はできないじゃん?」
「オレ達なら拘束して良いみたいな良い方止めろ」
「そもそも璃音をあんなの呼ばわりするのも止めてあげてくれ」
「結局、男だけで徹夜ゲームの方が燃えるかなって」
璃音が居るというのも盛り上がって良かったが。
地味に呑み込みが良いので、最終的な戦績こそ自分らに及ばなかったものの、差は詰まっていた。徹夜でやっていればどうなったかは分からない。
だけれど、祐騎の言う通り、流石に休業中とはいえアイドルに徹夜でゲームをやらせるわけにも、そもそも男子たちの中で寝泊まりさせるわけにもいかず、タクシーを呼んで帰ってもらうことになった。
祐騎的には、それが不満なのだろう。
「……って言うか、ツッコミを待ってるわけじゃないんだけどさ、久我山センパイのことにはツッコミ入れたのに、高幡センパイをゲームに誘うことにはツッコミ入れないの?」
「「だってそれ照れ隠しだろ」」
「……う、うっざ……」
大方、心配しているという本音を語ったのが恥ずかしくなって冗談めかそうとしたんだと思ったが。洸も同じ考えだったみたいだし。
まさか祐騎から触れてくるとは。自分たちもそれなりに長い時間祐騎と一緒に居るのだ。空ほどではないにせよ、祐騎の言動に対して、それくらいの理解はしている、
3人でゆったりとした朝を過ごし、解散した。
──昼──
────>旅館【神山温泉】。
日曜日。……今日も温泉は繁忙期。ということで、バイトに来た。
客間がいっぱいになるほどの客数で、眠気を感じる余裕もない。
常に動き回っても戦力が不足している。腕がもう2本欲しいほどだ。
だが、どれだけ願えど手足が増えることはない。
できることを全力でやり、またできることを増やしていくしかない。
そんなことを、すべてが終わったあとの湯船で考えていた。
「ああ、岸波さん。ちょうどよかった」
帰ろうとしていた所を、後ろから呼び止められる。
女将さんだ。
「突然ですみませんが、“24日から29日まで”は空いていますか?」
「恐らくは大丈夫ですけれど、何かトラブルでも?」
「1人急用で出られなくなったこともあるのですが、加えて台風により以前お越しいただけなかった玖州地方の団体のお客様が、その日程でのお振り替えをご希望だったので」
急な欠員と、団体客。悪いタイミングで重なったということか。
「自分に手伝えることがあるなら、喜んで」
「助かります。連勤になりますので、もし何でしたら、今は使っていない離れの方をお部屋として使っても構いませんので」
「それは……でも良いのですか?」
離れは改修中で、秋ごろに開放予定だと聞いていたけれど。
「ええ。一部のお部屋は改修が済んでいますので。ただ外装などの関係でお客様を入れることはできないのですが、せめて従業員くらいには、と。他数名も使う予定ですし、宜しければ」
「……ぜひ、お願いします」
帰らなくて良いのは、楽だ。それに、より十分な休養が取れることだし。
提案に乗らせてもらおう。その代わり、よりしっかりと仕事に励まなければ。
「それではまた24日に。お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
……さて、帰ろうか。
──夜──
────>【マイルーム】。
……流石に眠いな。寝よう。
……保健室を訪れると、フウカ先輩が編み物をしているところに遭遇する夢を見た。
……もう少し上達したら、何かを共に作ったりできるかもしれない。
今はもっと技術を習得しなくては。
──8月19日(月) 昼──
────>【マイルーム】。
さて、今日は何をしようか。
…………そういえば、果たしていない約束が1つ残っていたな。
丁度いい、全員の予定が空いているか、確認してみよう。
────
「それでこれ、何の集まり?」
璃音が集まったメンバーを見渡して尋ねる。
自分、璃音、祐騎、そして、空。
2年生2人、1年生2人。それぞれ男女。
とはいえ特に関係はない。
単に洸を誘ったらバイト中だと言い、柊には連絡が付かなかっただけのこと。
同好会メンバーから2人を抜いた4人が、ここにいる、というだけだ。
そのメンバーを集めて、何をするのかと言えば。
「お菓子パーティだ」
「です!」
「「……は?」」
すごい怪訝そうな顔で見られた。
空の相談事について、できることを考えてみる。
彼女は、恩返しがしたいと言った。しかし、その方法としてお菓子作りを模索してみるも、うまくいかない。味や出来は前回の時点で相当良くなっていた。ただ量が多すぎるという欠点があっただけで。
なら、各自がどれだけの量を食べるか、知っておけばいいじゃないか。という趣旨の集まり。
このことを空に話すと、『敵を知り己を知れば、百戦危うからず。ですね』と言われた。だいたい同じだ。己の弱点は知った。あとは敵を知れば対策も立てられる。
今回はただのお菓子パーティ。
後日、恩返しとしてそれぞれに配れば良い。
洸と柊はいないが、その分自分や祐樹、璃音を参考に、適正な量を見極められれば今回は良いだろう。
というわけで、お菓子パーティだ。
「あの、岸波先輩」
「どうした空」
「お菓子パーティって、何をするんですか?」
「ああ、お菓子パーティといえば──」
──Select──
>お菓子を食べる。
恋バナ……
ゲームだ。
──────
「──お菓子を食べて、雑談?」
「なるほど、雑談……」
雑談? と首を傾げる空。
まあ自分も未体験のことだ。本などで仕入れた情報としては、まさに雑談。個々が好きなお菓子を持ち込んでは好きに食べ、好き勝手話し、自由に帰る。そんなものだと思っていたが。
初めは怪訝そうにしていた空だったが、いざ始まってみれば結構楽しそうに話していた。
祐樹は雑談半分、ゲーム半分という形だったが、時々手の汚れないお菓子を食べている。お菓子を渡してもあまり食べなさそうだ。
璃音は……最初こそ『こんなに食べて良いのかな』と葛藤していたものの、別腹だと割り切ってもぐもぐ食べている。結構な量だ。ただ、一度食べ始めると止まらない性格みたいなので、多く渡すのは止めた方が良さそう。
自分はといえば、祐騎より少し多いくらいか。璃音には遠く及ばない。空よりも少し少ないだろう。
特に大きな事件が起きることなく、時間は過ぎて夕刻。
用事が入ったという璃音が最初に去り、次に祐樹が帰宅。手伝ってくれるという空と2人で後片付けをする。
「今日は楽しかったですね」
「ああ」
話す内容自体はいつもと変わらない。
ただ、他に何も用事がなく雑談し、不意に真面目な話が出たり、ばかばかしい話が出るというのは、実際面白いものだった。いや、目的はあったけれども。
「好みとか、量とか、そういう情報は掴めた?」
「はい! それでその、ご相談なんですが」
「?」
何だろうか。また何か疑問でもある、とか。
「わたしのお礼も、今回みたいなパーティとして開いて良いですか?」
「それは……良いんじゃないか?」
別に、悪いということはないだろう。
空のお礼だ。やりたいようにやって良いんだし、わざわざ自分に確認を取る必要なんてない。
「あ、いえ、その……お菓子はわたしが勿論用意するんですが、今日みたいにお部屋を使わせてもらえないかなって」
「……寧ろ良いのか? 自分の部屋で」
「はい。わたし達の集まりといえば、空き教室か岸波先輩のお部屋ですし! わたしの部屋とかだと全員は入れないので……ごめんなさい」
「いや、構わない」
にぎやかなのは嬉しい。
空の性格上、今回のように後片付けを他人任せにはしないだろうし。
乗り掛かった舟だ。最後まで彼女の思うがままにやってもらいたい。その為の手伝いは惜しまないと以前から決めている。
「それで、どうしてお菓子パーティを?」
「最初は個々にお渡しする予定だったんですけど、皆さんと一緒に食べた方がきっと美味しいですし。それにやっぱりお菓子を食べて頂く姿は見たいかなって」
「……うん、そうだな」
誰かと一緒に食べる。それはとても良いことだ。美味しいし、楽しい。
それに、感想を求めるのも当然だろう。こんなにも頑張って準備しているのだ。直接食べた姿を見て報われるくらいのことはあって欲しい。
尤も、空としては報われたいとかではなく、喜んでもらえているというのを確認したいだけなのだろうが。
「それに、皆さんで食べるなら人によって多い少ないを分けずに済みますから」
「あー……すまない。その点は考慮していなかった」
「わわっ、良いんです! わたしの我が侭なので! 岸波先輩にはいっぱい助けてもらってますし、寧ろわたしの方が謝ることがいっぱいで!」
例えば柊に、実際少なく食べるからといって少量を。大量に食べると思って洸には多めに渡したとする。お菓子の量が感謝の度合い、ということは決してないが、事情を知らない第三者が見れば、そう捉えられる可能性がある。
自分たちの中にそういった反応をする人はきっといない。少なくとも事情を話せば納得するだろう。
だが逆に、一般論とはいえそういった反応が返ってくる可能性を予想できるということは、渡す側にも同様の反応をされる覚悟が必要ということだ。
言われるまで気付かなかった。その点は自分の至らなさだろう。反省しなくては。
「なら、またお菓子パーティだな。作る量は莫大になりそうだけれど、大丈夫か?」
「はい! 寧ろまた作り過ぎちゃうかもしれません。……あの、ご迷惑かと思いますが」
「うん?」
「余ったら、岸波先輩に貰って頂いても良いですか?」
──Select──
嬉しいくらいだ。
お土産として配るのは?
>寧ろ大量に頼む。
──────
「え!? あ、あの……ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことは言っていないけれど」
まあでも、嬉しそうだし、良いか。
「……ふふ、本当にありがとうございます、岸波先輩。いろいろ付き合ってもらっちゃって」
「自分はただ食べていただけだ」
「こんなこと言うのはなんですけど、岸波先輩に相談して良かったです。当日は今までのお礼も兼ねて、より腕に撚りをかけて準備してきます! 楽しみにしていてください!」
ああ、その日が楽しみだ。
「それではまた!」
軽く運動して帰るという空をロビー先で見送って、自分は家の中に引き返した。
──夜──
……そろそろ夏休みも終わる。
宿題はコツコツやって終わらせたが、今の内に一学期の復習をしておこう。
コミュ・戦車“郁島 空”のレベルが4に上がった。
────
知識 +2。
優しさ +2。
魅力 +1。
────
人格パラが全然あがらないので、各ランク必要数を下げようか検討中。
下げたら報告します。
別選択肢
──Select──
お菓子を食べる。
>恋バナ……
ゲームだ。
──────
「こ、恋……!?」
「ああ。人数が集まって、お菓子を囲んだら、やることは1つだろう」
……いや、パジャマパーティが恋バナだっけ?
どちらでも良いか。
「そ、その、岸波先輩は、そういう話題が豊富に?」
「ない」
「断言!?」
豊富にあったら良くないだろう。逆に。
「そういう空は?」
「わたしは……わ、わたしはほら、空手一筋なので!」
顔を真っ赤にして手を胸の前で振る彼女。
なんとも可愛らしい。追及はしないでおくか。
「……2人とも話題がないと、企画倒れじゃないですか?」
「……普通に雑談するか」
「そうですね」
まあ、そういうのもアリだろう。
→♪は2個くらい出るかなって。
今回はこれだけ。
誤字脱字報告、ご意見ご感想等お待ちしております。
追記:ちょっと#FEやるため更新止めます。p5sまでには返ってきます。すみません。