PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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9月15日──【マイルーム】濃い霧の日 3

 

 

 早朝、サイフォンが電話のコール音を響かせた。

 チャットなどの通知ならともかく、朝から通話の通知など珍しい。

 送信者は、と確認すると、洸の名前が表示されていた。

 

「もしも──」

『大変だハクノ! 柊のヤツが居なくなった!』

「──どういうことだ?」

 

 慌てた様子の洸が、早口に捲し立てる。

 昨日結局反応が無かった為、念のため早朝に、壱七珈琲店の方へ連絡を入れた所、店主のヤマオカさんから柊が昨日から帰って来ていないことを教えてくれたらしい。

 

「分かった。探しに行こう」

 

 迷っている暇はない。柊ほどの手練れに万が一のことがあったとは思いたくないが、1人で勝てない相手に挑んでいるというのならば、一刻も早く手助けに行く必要がある。

 例え彼女自身がそれを望んでいなかったとしても。

 だが、少しばかり救助に動くとすると、少しばかり問題がある。

 

「洸は今どこに居る?」

『レンガ小路に向かってる所だ』

「分かった。なら、壱七珈琲店で璃音と合流してくれ。彼女に連絡が付かなければ、自分か祐騎がそっちに行く」

『? どういうことだ?』

「状況がまったく分からない以上、油断はしない方が良い。基本的方針として、行動する時は2人以上。それも極力移動を避ける形で行いたい」

 

 まさかこちらの世界に異界の影響が出てくるとは思いたくないけど、噂のこともある。

 もしシャドウがこちらの世界に現界していて、人を連れ去っているのならば、戦闘になる可能性だって十分にあるだろう。

 何にせよ、警戒をすることに損はないだろう。

 そもそも洸に関しては家が離れていることもあり、どこかで誰かと合流してもらう必要があった。もう動き始めているとなれば、後は無事にレンガ小路へ着くことを願うだけだ。

 レンガ小路には璃音の家があり、彼女と合流することは楽だろう。

 仮に彼女が何らかの用事で出れなかったとしたら、次に近い自分や祐騎がそちらへ合流した方が良い。

 

「璃音への連絡は任せていいか?」

『ああ。分かった。店で合流すれば良いんだな?』

「合流できたら、ヤマオカさんと話をする前に一応連絡してくれ。自分は他のみんなに話をしておく」

『分かった!』

 

 通話を切る。次いで連絡を取るのは、祐騎。

 詳しい事情は調査中だが、緊急事態だからとにかく自分の部屋に来て欲しい。という旨だけ伝えて、次に志緒さんへ電話。

 

「──ということだから、面倒を掛けてすまないが、【蕎麦屋≪玄≫】で空と合流して欲しい。その後、【倶々楽屋】へ向かって2人で話を聞いてくれるか?」

『面倒だなんて思わねえ。取り敢えず、待っていれば良いんだな?』

「ああ。もしも空に連絡が付かなければ、また連絡する」

『了解だ』

 

 という話をしている間に、祐騎が自分の部屋を訪れてくれた。

 何度も同じ説明をするのも時間が勿体ないので、空へと通話を繋ぎ、一緒に事態を説明する。

 

『そんな……アスカ先輩が……』

「……つまり僕らは、連絡係ってこと?」

「そうなる。自分が洸と璃音と連絡を取って、祐騎が空と志緒さんと連絡を取る。情報はここで擦り合わせていく」

「オッケー。そういうワケだから、郁島は次から僕に連絡して」

『うん! それじゃあさっそく、高幡先輩と合流してきます!』

「頼んだ」

 

 取り敢えず、全員合流できそうだ。

 こういう時、人数が多くて本当に助かったと思う。

 

「それじゃあ祐騎、今後のことを擦り合わせよう」

「大事なのは、柊センパイがどこで行方不明になったか。だね。この霧の中じゃ、行き当たりばったりで異界が何処にあるかの調査は出来ない」

「それに、もし異界へ辿り着いても、そこが柊の居る異界で無かった場合は時間のロスになるから」

「うーん、GPSでも追えれば良いんだケド、ま、柊センパイ相手じゃムリかな。異界に入ってるんじゃ、反応も途絶えてるだろうし」

「ああ。だから必要な情報は」

 

 

──Select──

  動機。

 >時間。

  探索。

──────

 

 

「柊が何時に何処を訪れたか、っていう目撃情報だな」

「タイムスタンプってこと?」

「逆にタイムスタンプって何だ」

「簡単に言えば、“この日この時にこの結果が表れた”っていう記録。誰も嘘を吐かないなら、最後に訪れた場所も分かるってことで目撃情報を欲してるんでしょ」

「ああ、だいたいそういうことだな」

 

 西に用事があれば、東から順番に店々を廻り、決して東に引き返すことをしない。そんなことをするならば無駄な移動時間が出来るからだ。一度通った道を再度歩むなど言語道断。求めるべきは最高効率。

 自分の思う柊 明日香という人間は、目的の為に最短経路を見据えることができる人間だった。

 

「恐らく、危険なことが分かっている異界へ1人で挑む上で、準備には最善を尽くしたはずだ」

「となると、異界関連の施設を全部回って最終確認した可能性があるってことだね。憶測でしかない推測だけど、そういうことなら行き当たりばったりよりやる価値はありそうだ」

「そう言ってくれると助かる。候補地を上げるなら、そうだな……」

 

 候補としては、レンガ小路の【壱七珈琲店】、【ルクルト】。商店街の【倶々楽屋】。七星モールのジャンク屋 【城嶋無線】、駅前広場の【さくらドラッグ】、念のため【スターカメラ】も行ってもらうか。

 となれば位置的に、七星モールへはレンガ小路に居る2人、洸と璃音に向かってもらい、駅前広場には空と志緒さんで行ってもらうのが一番速いか。

 終わったら集めた情報で方角を割り出して、近い方に合流してもらおう。

 

「それが良いかもね。それなら僕は志緒センパイたちにそう伝えるよ」

「頼む」

 

 さて、自分はと言えば勿論、洸や璃音にその旨を伝えなくてはいけないのだが……なかなか洸から合流に成功したことを伝える連絡がない。

 洸に電話を掛けてみるか。

 

「……」

 

 コール音が鳴り続ける。

 どうやら出れない“何か”があったらしい。

 嫌な予感がして、璃音にも掛けてみることに。

 

「…………」

 

 こちらも繋がらない。

 もう既に合流を果たしていて、何かを話し込んでいて気付かなかったという可能性もあるけど、この状況でそこまで無責任なこともしないだろう。

 事情を知らないはずの璃音はともかくとして、洸の方は特に、だ。

 だとしたらレンガ小路で何かが起きている可能性が高い。

 ……どうすべきか。

 

 

──Select──

  行く。

 >行かない。

──────

 

 

 ……いや、信じて待とう。

 それに、空や志緒さんの元にも何かが起こらないとも限らないのだ。

 その警戒を促せるのも、自分たちだけだ。

 

 祐騎に、洸や璃音と連絡がつかないことを報告してもらってから数分。

 突如、自分のサイフォンが通話を要求されていることを報せた。

 相手は、待ちに待った(コウ)

 

「無事か!?」

『うおっ!? ……悪い、心配掛けたか。こっちは2人とも何とか無事だったぜ』

「そうか良かった。……けれど、なんとかってことは何かあったんだな?」

『ああ。突然シャドウに囲まれてな。その対処をしてた』

「シャドウが」

 

 一瞬、ああやっぱり、と思った。

 危惧した通りになったと言っても良い。詰まる所噂は本当だったのだ。

 化け物の泣き声がする。手が現れて人を連れていく。女性の声がする。

 どれも、シャドウが現実世界に現れたから起こった事実。根も葉もない噂ではない。

 

「璃音が一緒ってことは、レンガ小路に着いてからか」

『おう、珈琲店のすぐ前だ。異変を察して久我山が外に出て来てくれて助かったぜ』

「そうか。合流してくれて良かった」

『まあ、そんなこんなで遅くなっちまったが、そっちは今何してるんだ?』

「ああ──」

 

 現状を説明する。自分と祐騎のこと、空と志緒さんのこと。推論に推察。取り敢えず彼らに取って欲しい行動も含めて。

 

『つまりオレらはヤマオカさんに話を聞いた後、【ルクルト】でユキノさんに話を聞いて、最後に七星モールの【城嶋無線】でテツオさんに話を聞けば良いんだな?』

「そういうことだ。報告はこまめに頼む。あと、仮に異界を見つけても踏み込まないように」

『分かった。だが、念のため周辺のサーチはしながら歩くぜ。せっかく2人いるんだし、片方が調べて片方が警戒でも良いだろ』

 

 確かに。

 仮に柊が最後に訪れたのが駅前広場だということが分かっても、駅前広場のどこに異界があるかは分からない。もしも話を聞いて回っている段階で候補の異界が見つかっていれば、その手間も省けるだろう。

 

「ああ。だけど、探索に集中し過ぎないよう気を付けてくれ。……危険な役を押し付けてすまない」

『気にすんなよリーダー。じゃあ、また後でな』

 

 通話を終える。

 隣では、祐騎がサイフォンを耳に当てて話していた。

 自分たちがやりとりしている内容を聞いて、空たちへ注意を促してくれているらしい。

 やがて通話を終えると、祐騎は深刻な表情でこちらへ向いた。

 

「現実世界にシャドウとか……流石に笑えなさすぎるでしょ」

「ペルソナやソウルデヴァイスが扱えないとしても、普通なら知りもしない状況だ。混乱の末、対処すら出来ないかもしれない」

「……ちょっと電話してくる」

「お姉さんか?」

「……さてね」

 

 自分も、藁にも縋るつもりでテレビを付けた。

 地方局ではちょうど、情報番組をやっている。

 ……ちょうど、杜宮のことが特集されていた。

 

 なんでも霧は杜宮市を覆う形で発生しており、市外には“蔓延していない”らしい。

 それはどういうことか。

 杜宮にだけ、異界の影響が起こっている? しかし、何故ここだけなのか。

 現象の核となる異界が杜宮にあるから。と推測すれば、杜宮で霧が異常発生したことについて一応の理解を示せる。しかし杜宮の外に霧が漏れない理由になるかと言われると、素直に頷けない。

 “場所が杜宮市であることに意味がある”? もしくは、“意図的に杜宮市が攻撃されている”?

 ……この辺りは、考えていても仕方がない。結論は出ないのだ。

 あくまで自分たちは素人。いくつかの事例に精通しているらしいプロである柊のような視点があって初めて、推理に結論が付けられる。

 なればこそ、一刻も早く柊を助け出して、現状について話し合いたいのだけど。

 

 ……?

 

 なんだ、考えておいて何かしらの違和感を感じる。

 その違和感を探るように考え込んでいると、1つの発言に行きついた。

 ……いや、でも……まあ自分で言ったことだしな。

 今がのっぴきならない緊急事態であることは明らか。だとしたら手札にある切り札を今切らずして、いつ切るというのか。

 

 

「ただいま。って、出かけんの?」

「ああ。……祐騎も来るか?」

「いってらっしゃーい。と言いたい所だけど、こんな状況だし離れる訳にもいかないでしょ。で、目的地は?」

「このマンションの上の方に住む友人のところ」

 

 

 なんだか露骨に嫌そうな顔をされた。

 

 




 

 知識  +1。
 度胸  +1。


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