閲覧ありがとうございます。
土曜日。午前授業が終わり、さっそく自由時間となった午後。
特にこれといった予定はない。せっかくだし、空いてそうな人を探してみよう。
────>杜宮高校【生徒会室前】。
生徒会室の前の廊下。あまり来ることのない場所を通りかかると、予想通りとも言うべき人物の後姿を見掛けた。
腰のあたりまである水色の髪。すらっと伸びた背筋。ただ歩いているだけで視線を集める女子生徒。
間違いなく美月だ。これから生徒会の仕事だろうか。
声を掛けてみよう。
「美月」
後ろから声を掛けると、彼女はゆっくりとこちらへ振り向いた。
「岸波くん、こんにちは」
「ああ、こんにちは。これから生徒会か?」
「はい。とはいえ今日は活動日ではないので、あくまで個人作業をしに、ですけれど」
活動日ではない……ってことは、わざわざ規定日でない日にまでしなければならないほど、仕事が溜まっているということだろうか。
生徒会が休みなのであれば他の役員たちもいないだろうし、何かしら手伝えることがあると良いのだけれど。
「あ、良ければ岸波くんも寄っていきませんか?」
「え」
「今日でしたら他の方々もいないので、以前のようにお茶でも」
美月に先に声を掛けられるとは、思いもよらなかった。つい気の抜けた返事をしてしまったような気がする。
こちらから申し出をしようとしていたばかりに躓いてしまった感はあるものの、素直にこういった誘いを掛けてくれるようになったのかと嬉しくも思う。
「お邪魔でないのなら、ぜひ」
「お誘いしているのはこちらですし、邪魔だなんてことは。……では、行きましょう」
にこりと微笑む彼女は、懐から鍵を取り出した。
今更ながら、いくら非活動日だからといって、部外者が入って良いものなのだろうか。
……まあ、一室の主が良いと言うのだし、気にしないでおこう。
────>杜宮高校【生徒会室】。
「こうしてお招きするのも久しぶりですね」
「そうだな。誘ってくれてありがとう」
「いえいえ。……さて、何か飲みたいものなどはありますか?」
──Select──
前回飲んだものを。
まだ飲んだことのないものを。
>美月の今日のお勧めを。
──────
「ふふ、任せてください」
少し嬉しそうに言った彼女は、さっそく給湯器近くの棚に向かった。
その後ろ姿を見送りつつ、あまり見ることのない光景を眺める。
生徒会室に来た回数は、片手で数えられる程度だ。
それすらも結構前のことなので、初到来の場所のようにも感じる。
よく整理整頓された部屋だな、というのが、正直な感想だ。
そう。整理はされているのだけれど。
「美月」
「はい?」
「あの机は、美月のか?」
他の机からは若干離れた場所にあった大きな机を指差す。
その机には、きっちりと整理された大量の書類が山積みされていた。
「そうですね。会長職の方々が代々就いてきた机と聞いています」
その答えは、肯定なのか、それとも誤魔化しているのか。
恐らく後者だろう。自分が、彼女の仕事量について言いたいことを察した上で、そのような回りくどい回答をしたように思える。
彼女の思惑に乗るのであれば、机の立派さについて話を進めるべきだろう。大きさでも年季でも何でもいい。
勿論、乗らずに無視するという手もある。美月に不快な思いをさせてまで、彼女の仕事量について言及するか、もしくは他の生徒会役員の作業について問い詰めるか。
どうしようか。
──Select──
机を褒める。
>仕事が多すぎると言う。
仕事が1極集中するのはどうなのか問う。
──────
「会長職、相当な激務みたいだな」
「激務というほどではないですよ。私も、出来ることを出来る範囲で行っているだけなので」
「それにしては、まさに仕事の山、という感じだけれど」
「見た目だけですよ。すぐに終わります」
どれだけ仕事が積まれていようと、彼女が終わると言うのであれば本当に終わるのだろう。見通しも立たない状態で意地を張るような人間ではない……はず。
けれども、そんな未解決案件の束を見せられたら、手伝いたくなるのは当然と言って良いだろう。声を掛けるのは、決して間違いではない。
「何か手伝えることはあるか?」
「今は特にありませんね」
「本当に?」
「はい。……あ、いえ、そういうことなら……」
珍しい。手伝いを言い出したはいいものの、正直普通に断られると思っていた。
期待を持たせるような間が空く。
ただ、彼女も少し考え込んでいるらしく、視線を上げている。
「すみません。折り入って相談したいことはあるのですが、少し時間を置いてお願いしても良いですか?」
「全然大丈夫だ。いつでも歓迎する」
準備があるのだろうか。それともまた別の事情か。彼女は一旦相談事を打ち明けなかった。
それにしても、何なのだろう。美月から持ち込まれる相談事だなんて、想像が付かない。
けれども、頼ってくれるのであれば、ぜひとも応えたいところだ。
友人として、いつまでも助けてもらうばかりでは不甲斐ないし。
「それではその時は、お願いします。今日は取り敢えず、普通のお茶会ということで」
段々と良い香りが漂ってきた。
どこかで嗅いだことのあるような、けれども名前は思い浮かばないような、そんな香り。
匂いが変わることで一気に身体の力が抜けてきて、寛ぎたくなる欲が出てくるものの、長居をするわけにもいかない。彼女の仕事の邪魔はしたくないから。
だからまあ、彼女がそろそろ時間ですねと言い出すまでは、ゆっくりと話し合うとしよう。
お茶会を通じて、美月と距離が近付いた気がする。
「あ、もうこんな時間ですか。続きはまた今度ですね」
彼女の声に時計を見上げると、確かに結構な時間が経っていた。
話し足りないけれど、そろそろ帰るとしよう。
「じゃあまた」
「ええ、ありがとうございました。楽しかったです」
「それは良かった」
残って仕事をすると言う彼女と別れ、生徒会室を後にする。
……帰ろう。
──夜──
────>商店街【蕎麦屋≪玄≫】。
今日は志緒さんの様子を見るついでに、そばを食べに来た。
彼は目的の順序がおかしくないかと首を捻っていたけれども、そんなことはないとだけ断言し、美味しい風味の蕎麦に舌鼓みをうつ。
また新しい改良メニューがサービスとして出てくる。どうやら修行は順調らしい。
……そろそろ仲が深まる気がする。
お腹も膨れたし、今日は帰ろうか。
コミュ・女帝“北都 美月”のレベルが2に上がった。