PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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第7話 その光を、ずっと忘れない(S P i K A)
10月25日──【車内】会食


 

 北都グループ。

 日本でも有数の大企業。昔は分からなかったその大きさも、今では嫌というほどによく分かる。

 右を向いても左を向いても、多くの人が使っている携帯端末“サイフォン”を作り上げた会社。何か新作が出れば大々的に特集を受け、店頭には大きく告知が出るほど。

 当然テレビなどではCMが流れているし、駅前を歩いていても、どこかしらからの宣伝で、“北都のサイフォン”というフレーズはよく耳に入ってくるほどだ。

 

 そんな、日本を代表する企業の、現総帥の孫娘。北都 美月。

 色々なしがらみなどを抱えた友人だとは思っていたけれど、どうやら自分の想像以上だったらしい。

 

「それにしても許嫁、か」

「正しくは、縁談相手ですけれど。とはいえ家同士の話し合いの結果組まれている以上、問題が起きない限りは正式に結ばれることでしょう」

 

 雪村 京香さんが運転する車の中、美月と話をする。

 許嫁。結婚を約束した相手。

 昨今ではあまり耳なじみがないというか、物語の中のものだけかと思っていたけれど、まさかこんな身近に例があるとは思わなかった。

 

「昔から決まっていたのか?」

「決まっていたというか、話自体はかなり以前からありました。父と母が亡くなって、暫く経った頃ですかね」

「ということは、10年近く前ってこと?」

「ええ。……両親を亡くした私が、若輩ながらも“北都”として動くには、そういった“縁”も必要だった、という話です」

 

 お家騒動。

 今まで踏み込んでこなかった、というか、立ち入らせてもらえなかった領域の話だ。

 どうしてか、今日はそれをすらすらと打ち明けてくれる。

 

「……不思議ですか?」

「え?」

「私が急に、内情を明かすのが」

 

 ……顔に出ていたのだろうか。

 眉をハの字にした美月が、こちらの反応を伺っていた。

 

「何と言うか、美月はあまり自分を巻き込もうとしていないような気がしていたから」

「そうですね。その通りです。……ただでさえ、なにも知らない岸波君を異界の問題に巻き込んでいるのに、それ以上、グループの事情へ巻き込まれてほしくなかったというのもありますし、何よりも、道を、将来の選択肢を狭めてほしくなかったので」

 

 この前、小旅行の時にされた謝罪を思い出す。

 異界の関係で自分を巻き込んだことを、彼女はひどく悔いていた。

 彼女が気にすることなど殆どないはずなのに。

 いま語ってくれた想いも、きっと彼女にとっては、譲れないものだったのだろう。

 

「……ありがとう」

 

 複雑な状況で、複雑な想いを抱えながらも、自分の将来を、気にかけてくれて。

 本当に、感謝しかない。

 

「最初の予定では、高校卒業くらいまでは明かさないつもりでした」

「つもりだった? ということは、考えが変わったのか?」

「ええ。岸波君が将来、私を支えることを選んだ場合、どのような環境に置かれるかを、知っておいてもらった方が良いかと思いまして」

 

 それは、正式に北都グループの一員となった場合、ということか。

 一応自分の今の立場は、美月の秘書見習いということになっている。

 そのまま行けば正式に彼女の秘書として働くことになるし、道を違えることになった場合でも、役職自体は残る、らしい。幽霊社員、みたいな。

 

「なので、今回の話は渡りに船かと」

「今回って、つまり、縁談相手との会食が?」

「ええ。先方も一度、岸波君と会って話をしてみたいとのことですので。彼としては、婚約者の部下との対面と考えているのでしょうが」

「なるほど」

 

 美月は、自分に北都グループ──彼女の所属する会社の裏の顔を少しでも感じ取ってほしい。

 美月のお相手は、将来つながりが生まれるであろう相手の顔や素性を知っておきたい。

 両者の望みが合致した結果が、今この状況ということか。

 

「けれども、制服で良かったのか? 自分も美月も」

「学生の正装は制服ですので、何も恥じ入ることはないかと」

「そういうものか」

「ええ。それに今回は正式に招待を受けていることですし、畏まった場、というわけでもありません。自然体で過ごしていただいて大丈夫です」

「……そういうものか」

 

 許可がないと一緒のテーブルについてはいけない、とか、そういう使用人の作法的なものが必要かと思っていたけれど、どうやら不要らしい。

 しかし、考えてみるとそれはそうかも。一緒に食事がしたいと呼んでおいて、同じテーブルには付かせない、ということもないだろう。多分。

 

「相手の方は、どんな人なんだ?」

「それは……」

 

 と彼女が口を開く前に、車が減速し、建物の駐車場へと入っていった。

 

「どうやら着いたみたいですね。どのような人柄なのかは、岸波君が会ってみてからご自分で判断してください」

 

 車が駐車位置で停止し、エンジン音が止まる。

 先に雪村さんが降り、美月の座席の扉を開けた。

 逆側に座る自分もドアを開け、彼女が降りるのとほぼ同時に出る。

 

「すみません。私は少し外しますので、キョウカさんと岸波君は入り口で待っていてもらえますか?」

「畏まりました」

「分かった」

 

 入り口とは別の方向に歩いていく彼女の背を見送り、雪村さんの隣に立つ。

 

「それでは行きましょうか。岸波さん」

「はい」

 

 自分はこの建物の構造に詳しくないので、彼女の後を付いていく。

 確か、入り口で待っていろと美月は言っていた。

 許婚の人とはどこで待ち合わせているのだろう。

 

「その、相手方の……」

「御厨様ですか?」

「御厨様とは、どこで待ち合わせているんですか?」

「恐らく席でお待ちいただいていることかと」

 

 なるほど。

 だから入り口で待っていてと言われたのか。

 

「そういえば岸波様は、普段どのように移動をされているのですか?」

「移動って?」

「通学時は徒歩だったと記憶しております。普段町を歩く際は自転車などで?」

「ああ、基本徒歩ですね。場所によってはバスも──」

 

 軽い雑談を交えながら、雪村さんと2人、指示された場所へと向かう。

 入り口に着いた後も、彼女が来るまでの時間を潰すように話を続けた。

 雪村さん自身は結構寡黙な人、というか、仕事熱心な感じで私語を話さないイメージだけれども、どうしてか、今日は饒舌だ。よく話題を振ってくれる。

 

 ……なれない場所に来た自分に気を使ってくれているのかもしれない。

 

 その心遣いは、とても助かる。

 自然体で良いと言われたからか、逆に体に力が入るのを感じていたから。

 こうして普段友人たちと話しているような感覚にしてもらえると、自分を取り戻せるような気になってくる。

 

 そういえば、こうして2人きりで話すのは初めてではなかったか。

 いつぶりだろう。

 

「それにしても……ふふっ」

「? どうしました、雪村さん」

「いいえ。……仲良くしてくださっているのですね。お嬢様と」

「ああ、はい。お陰様で」

 

 そういえば、杜宮に来て最初に話をしたのは、雪村さんだったな。

 ああいや、タクシーの運転手が最初か。その次が雪村さん。

 確かあの時、お願いをされたのだ。

 美月と対等に接してほしい。友人になって欲しい。と。

 まあ紆余曲折あってけれども、今は掛け替えのない友人であり、仲間だ。彼女もきっとそう思ってくれている、はず。

 

「正直なところ、私が望んだ以上の仲を築いてくださったようで」

「そうですか?」

「先ほどお嬢様も仰っていましたが、本来、岸波様をこのような場にお招きするのはもっと後になってからの予定でした」

「ああ、そう言ってましたね」

「それを待っていられないほど、岸波様の存在が、お嬢様の中で大きくなった、ということですので」

 

 ……それは、つまり。

 

 と考えようとしたところで、曲がり角から美月が歩いてくるのが見えた。

 

「今の話をしたこと、お嬢様にはご内密に願います」

 

 ぼそりと小声で、自分にだけ届くような声で話す雪村さん。

 自分も、今は考えないようにしておこう。

 

「すみません。お待たせいたしました」

「いいえ。思いのほか話も弾み、そこまで時間の経過を感じておりませんので」

「ああ。別に気にしなくていい」

「ありがとうございます。……では、行きましょうか」

 

 

 先導者は美月に変わり、その後ろを自分、雪村さんと続く。

 美月は入り口横にいた店員に、席を予約している婚約者の名前を告げ、席まで案内してもらう。

 たどり着いたのは、少し奥に入った所にある個室だった。

 店員さんが中に声を掛け、お待ちのお客様が到着されましたと告げる。

 室内からは、通してくれと返事があった。

 扉が、開く。

 

「フフ、やあ、待っていたよ」

 

 美月の後を追って入ると、そこに居たのは、スーツを着た男性だった。

 座っているけれど、肩幅がやや広い。若干筋肉質かな。

 年齢は20代後半から30代前半といったところか。

 美月と随分年齢が離れていそうだ。

 

「ミツキ君は数日ぶりだね。、そしてキミが……ボクの麗しの婚約者(フィアンセ)に仕える秘書(アシスタント)の岸波 ハクノ君か」

 

 片仮名交じりの言い回しをするこの人が、美月の婚約者か。

 やや気取った感じはあるけれども、決して見下している訳ではなさそうだ。

 と、挨拶を忘れていた。

 

「初めまして。岸波 白野です。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「礼は不要さ。ボクは御厨(ミクリヤ) 智明(トモアキ)。見知り置き願うよ」

 

 さらっと前髪を掻き上げて、挨拶を返してくれた御厨さん。いや、様か。

 自己紹介はほどほどにしよう、と話を切り上げた彼は、腕を広げてウインクをする。

 

「さあ、席につき給え。ボクとミツキ君の良縁に、そして今日の良き出会いに、祝杯をあげようじゃないか」

 

 

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