閲覧ありがとうございます。
長らく投稿期間が空いたことを深くお詫び申し上げます。
仕事の都合でなかなか書く時間が取れなかったのですが、色々と環境が変わり、また少しずつ書けそうになってきたので、低浮上ですが更新を再開したいと思います。
お付き合いいただけますと幸いです。
(間が空いてしまったので)
ここまでの簡単な7章のあらすじ
北都 美月の婚約者“御厨 智明”との会食を終え、改めて北都グループの巨大さを肌で感じた岸波 白野。長らく休止状態だったアイドル活動を再開する目途がたった玖我山 璃音。それぞれが4月から続く怒涛の半年間を乗り越え、固めた足場から踏み出し始めた。
学生にとっての一大イベント、文化祭も無事に終了。
打ち上げの予定も決め、各々帰路につく中、白野と璃音も共に帰ることに。胸の中に溜め込んだものを話した別れ際、これから病院に行くと言った璃音に、アイドル活動への復帰前最後の通院だと理解した白野は、過去の責任と友情から付き添いで行くことに。
結果としてそれは、最大の悲劇を回避することに繋がった。
病院内で突然の異界化。付き添いをしたことで最速で現場に近づけた白野がそこに乗り込むと、異界の内部に倒れる璃音と医師の姿が。
後ろから駆けつけてきた仲間と共に話を聞くに、どうやら御厨が最奥に居るらしいことと、その彼が何か知っていそうな態度だったことを知る。
ひとまず医師を連れての脱出を試みる白野たちだったが、そこで璃音が目を覚ます。
だが、どうにも彼女の様子がおかしい。
目覚めた彼女はまるで、異界も、白野のことも何もしらないかの如き振る舞いで――
11月3~4日──【杜宮総合病院】失ったもの、戻らないもの 1
「──み君……岸波君?」
「おい! 大丈夫か!? ハクノ!!」
名前を呼ばれた。
気づけば周囲の景色は変わり、四方八方を電子機器に囲まれた部屋にいる。
先ほどまで、異界に居た医師の話を聞いていたはずだが……
「……洸? いつの間に」
「いつの間にって……大丈夫じゃなさそうだな、これは」
洸だけではない。気づけば明日香も、空も、志緒さんの姿もある。
事態を呑み込むのに時間を要したが、ここは、治療室。いつの間にか、異界を脱出していたようだ。
……飛び飛びの記憶の最後は医師の話の途中なので、そこから記憶がどうにも定かではない。どうやら話の途中で彼らとは合流したらしく、そのまま全員で一旦脱出したらしかった。
強いて覚えていることと言えば──玖我山 璃音が自分たちのことを、ここ数か月の記憶をなくしている、ということ。
それだけは、どうしても頭から離れない。
「北都先輩」
「ええ。ひとまず今日は解散しましょう。私たちも、少し……整理する時間が必要だと思うので」
珍しく伏し目がちな美月の発言に、全員が一拍黙り込んだ。
確かに、今話し合うには状況も、心境も芳しくないだろう。
とはいえ時間はそこまで空けたくない。日程を最短で取りなおすとして……と頭の中にある予定を振り返っていると、洸が口を開いた。
「集まり直すなら……明日か?」
明日。
本当ならば、文化祭の打ち上げの約束をしていたはずの日。
璃音も確か、午前は事務所で打ち合わせをし、その後に打ち上げに参加すると言っていた。
……彼女はそのことを……いや。
「……幸いと言っていいのか、明日であれば全員都合がつく、でしょうね」
「だね。13時で良い?」
祐騎の問いに、全員が頷く。
「アスカさん、リオンさんをお願いしても?」
「ええ。任せてください。……代わりに」
「はい。こちらは私が」
「お願いします」
美月と明日香が頷き合う。そして明日香はそのまま、璃音の手を聞いた。
一方の美月はといえば、祐騎と一度目を合わせた後、こちらに向かってくる。
「キョウカさんが車を回してくれていますので、私たちは一緒に帰りましょうか」
「……いや、歩いても帰れるし、そこまでしてもらう訳には」
「いいえ。私の送迎のついでですので、せっかくなので乗っていってください。席は十分に余裕がありますので」
「正直僕も疲れたしさ。ココから家まで歩くの地味にめんどくさいじゃん。渡りに船だと思おうよ、センパイ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
病院を出ると、美月の言葉通り、車の前に立つ京香さんに迎えられた。
お待ちしておりました。という京香さんと一瞬目が合った気もしたが、彼女は特に自分へ何かを発言することなく、美月から順に車内へと誘導する。
……なんだかひどく頭が重い。
今日はそのまま家に帰ろう。
──11月4日(日) 昼──
────>【マイルーム】。
布団を被り、なかなか襲ってこない睡魔を明け方まで待っていたら、次の瞬間にはインターフォンが鳴っていた。
身体を起こし、サイフォンの起動画面を確認。12時28分。集合の約30分前だ。
準備も何もしていない。さて、何から取り掛かるべきかと悩んでいると、メッセージアプリに通知が入る。
洸から、『起きてるか?』と確認の連絡。
そういえばインターフォンの音で起きたんだった。
「すまない。今起きた……と」
家に上がるのは少し待っていて欲しいという旨を伝え、玄関のオートロックだけを解除してから、まずは簡単な身支度のために洗面所へ。
「……」
顔を洗って、洗面所を後に。部屋へと戻って寝間着から私服へと着替える。
……ごはんは……出迎えてからでも良いか。
リビングは若干乱雑なような気がするけれども……もう時間もない。
一瞬キッチンの前で次の行動を悩んだが、結局何をするわけでも無く素通りし、玄関へと直行。
ドアスコープを覗き、扉の前に洸が辿り着いていることを視認し……隣に祐騎の姿があるのも見てから、扉を開けた。
「すまない。遅くなった。祐騎も来てたんだな」
「エレベーターを降りたらコウセンパイが居たから合流したんだ。おはよう、ハクノセンパイ」
「早く着たのはこっちだ。謝る必要はないだろ。……それより大丈夫か?」
「ああ、もう入って大丈夫だ」
「そっちじゃないんだが……まあいいか」
洸が何かを言いかけていたが、取り敢えず2人を中へと通す。
居間に付き次第、彼らは適当なところに腰を下ろし、机と座布団を並べ始めた。取り敢えず、飲み物でも用意するか。
「あ。アスカはリオンを迎えに行っているらしい。トワ姉もそっちと一緒に来るって言ってた。大人がいたほうが良いんじゃないかなって。ソラはシオさんと何か買ってから来るらしいから、もう少ししたら来るんじゃねえか?」
「生徒会長は少し遅れるかもって昨日センパイと別れた後に言ってたよ。なんか、色々報告することがあるみたいだね」
「……まあ、それはそうだろうな」
美月に関しては今回、相当やることが多いはずだ。それでもこちらの約束を重視しようと動く姿勢には、感謝をしなければならない。
その後は特に会話が続くことなく、やがて空と志緒さんが来訪し、その後、明日香と璃音、九重先生がやってきた。
「ミツキさんは、まだ?」
「ああ、長引いているみたいだな」
「そう。……彼女のことだから、目途が立ったら連絡がくるはずでしょう。それまでの間、席を外しても良いかしら?」
「あ、ゴメンねみんな。私も出て良いかな? 済ませておきたい用事があって」
「良いんじゃないか。どうせ全員揃うまで、話は始められないんだし」
「ありがとう。それでは行きましょう、九重先生」
明日香はそう言うと、九重先生を伴って廊下へ向かって行く。程なくして靴を合わせるようなトントンという音が聞こえ、扉の開閉音がした。
「ハクノセンパイ、飲み物もらうけどいい?」
「そこはもらっていいか? だろ」
「ああ、別に構わない。というか、出すべきだった。すまない」
「いいって。勝手にやってるからお構いなく」
立ち上がり、冷蔵庫へと移動していく祐騎を目で追って──璃音が立ち呆けていることに気づく。
その表情は、居場所がなさそうな困惑、に見えた。
「あ、リ──玖我山の席は……」
「リオン先輩、こっちです!」
空が自身の隣をぽんぽんと叩く。
……こういう、暗黙の了解のように決まっていたことも、当然忘れてしまっているのか。
思い返せばだいたい明日香の隣、空がいる時は明日香と空の2人の間、そこが、璃音の定位置、“だった”場所。
「あ。そうなんだ。アリガト。……えっと、確かソラちゃん……だったよね?」
「……はい。郁島 ソラ、1年生です。よろしくお願いします。リオン先輩」
「うん、ヨロシク。いつもあたしはここに座ってたの?」
「ですね。いつも中央は、先輩たち2年生の皆さんでした」
確かに。
最初は自分、洸、璃音、明日香の4人のなんとなくいつも座るポジションがあって。やがて璃音の隣に空が座るようになり、自分の隣に祐騎が、洸の隣に志緒さんが、明日香の隣に美月が座り。
部室以外では、気づけばだいたいそんな感じの位置関係を築いていた。
「2年生のミンナって言うと……えっと、あたしと柊サン……と、そこの男子2人だよね?」
柊さん。
その呼び方で、埋めようのない距離が離れてしまった実感が沸く。
「あ、自己紹介とかはダイジョウブ! 柊サンにみんなのことは聞いてるし。えっと確か、キミが同じクラスの岸波クン……だったかな? で、隣が確か、時坂クン」
「……ああ」
「……おう。よろしくな」
やっぱり、他人行儀だな。と思いつつも、彼女の問いかけに首肯を返す。
順に自分と洸へと目線を合わせた彼女は、続いて残り2人に目を向けた。
「えっと、アナタは確か……そうだ! 高幡センパイ、ですよね? となると消去法だけど、キミが四宮クンかな」
「ああ、よろしくな。久我山」
「どうも。……僕らはともかくとして、久我山センパイがハクノセンパイやコウセンパイを苗字で呼ぶの、違和感あるね」
祐騎の発言で、少し、部屋の空気が、温度が変わる。
おそらく全員が思っていて、誰も口に出さなかったこと。
その発言は、自分たちの関係性を、何も知らない押し付けてしまうことに他ならないのだから。
「……オイ、四宮」
「いや、いつまでも気を遣い合ってても何も変わらないじゃん。逆にみんな無難に話し過ぎて、久我山センパイだって会話続けづらいでしょ」
僕なら気分悪いなって帰ってるね。と肩をすくめる祐騎。
しかし祐騎の言うことは、間違っていない。
これでは自分たちから、壁を作りに行っているだけだ。
「……確かに、肩ひじ張り過ぎてたのかもしれねえ。悪いな、久我山」
「え、ううん、アタシは全然。むしろ、なんかゴメン?」
「そっちが謝ることなんて、何もない。なんて言うか、気楽に、とはいかないだろうけれど、まあ……ゆっくりしていってくれ」
何を伝えるべきか分からず、なんとか絞り出した言葉がそれだった。
声を掛けられた璃音はといえば、きょとんと目を丸くした後、なにそれ、と小さく笑ってくれる。
少しだけ、この部屋の空気が明るくなった気がした。
「……あ、ちなみにあたしってミンナのことどう呼んでた?」
少しだけ、身体を前に出した璃音が、自分たちに問い掛ける。
「いや、そこまで合わせる必要はないだろ」
「良いから良いから。あたしは別に呼び方に拘りがある方でもないし。あ、ミンナもあたしのことを今まで通りの呼び方で呼んでくれてダイジョウーブだから。仕事でもプライベートでも、そういうの慣れてるし」
「あー……忘れてたけど玖我山センパイって、
「え、どういうコト?」
「別に。まあ合わせてくれるっていうなら、遠慮する必要もないんじゃない? だよね、センパイたち」
周りのみんなの表情を探る。
概ね、拒否感のある反応をしている人間はいなかった。
それを見た洸は腕を組んで何かを考え始める。話の流れからすれば、璃音がどのようにみんなを呼んでいたかを思い返しているのだろう。
「えっと、基本的に女性陣は名前呼びだったよな。あと、オレたち2年生組も。ユウキは……どうだった?」
「四宮クンだったよ。シオセンパイも、高幡センパイ呼びだったよね?」
「だな。今ので合ってたと思うぞ」
「そうなんだ。じゃあ名前で呼んでたのはソラちゃんに、アスカさん、ミツキさんかな、男子はえっと……ゴメン、岸波クンと時坂クンって、名前なんて言うんだっけ」
「コウだ。時坂コウ」
「岸波白野」
「ふんふん……じゃあ時坂クンはコウ君、で良いのかな?」
問いかけに、コクンと頷く洸。
「あーでも、呼びづらければ別に無理に呼ばなくても良いぞ」
「え? いや別に、名前で呼ぶくらいなんともないけど」
「そうなのか? でも……ああいや、あれは別なのか」
「……え、ナニ? 前のあたし、なんかやってた?」
「いや悪い、気のせいだった」
何かに納得したような洸。とはいえその導いた結論を話す気はないらしい。
訝しげに見ていた璃音だったが、その続く言葉を得られないと判断したのか、洸から自分へと視線を動かした。
「で」
璃音と目が合う。
それと同時、その横で、「──ぁ」という空の呟きが零れた。
「岸波クンは、ハ「待って!!」ッ!?」
首を傾げていた空が、急に立ち上がり、璃音の言葉を遮った。