PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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11月4日──【マイルーム】失ったもの、戻らないもの 3

 

 

「お待たせしました、皆さん」

「ごめんみんな、お待たせ!」

 

 

 やがて。

 席を外していた九重先生と、合流できていなかった美月が着席し、X.R.C全員がそろった。

 話し合うのは当然、これまでのことと、これからのこと。

 自分たちが、どうするべきかだ。

 

「まず、いつもの確認から始めましょう。異界の発生タイミングはいつ?」

「昨日。夕方……というか、ほとんど夜だな。多分、みんなにメッセージを送る直前だと思う」

「ハクノ君は異界の発生時すぐそばに居たの?」

「いや、少し離れていた。待合いのロビーに居たからな」

「よく気づきましたね。ナビを起動させてたんですか?」

『いえ、あの時センパイは“echo”を起動させていませんでした』

「ああ。……あの時はなんというか、悪寒を感じたというか……うまく表現できなくてすまないが」

「悪寒……?」

 

 首を傾げる美月に肯頷する。

 悪寒。異様な寒気。表現の仕方は多岐に渡るだろうけれども、そのどれもが的を射ない。日常で感じることのない、嫌な気分。

 そう。あのときの自分は、初めて璃音と出会ったときに感じたような、そんなとても嫌な感覚を得たのだ。覚えている。

 それをそのまま伝えると、美月はしばらく考え込むように口元を隠した。

 

「ひとまず、連絡が来たのが20時手前……だいたいその前あたりということね。そして発生した場所は、“杜宮総合病院”」

「正確に言えば“脳波検査室”だね。……脳か。嫌な符号だけど」

「その辺は一旦後にしましょう。今は取り敢えず、前提情報を共有するだけ」

「りょーかい」

 

 祐騎が頭の後ろで手を組んで背中を伸ばす。

 いつ、どこで異界が発生したのかは、共有できた。

 次に確認しておきたいのは。

 

「だれが異界主なのか、についてだけれども」

「今も異界に残っているのは、1人」

「……トモアキさん……いえ、御厨 智明。御厨グループの跡取り、私の婚約者であり、“ゾディアック”の時期幹部候補とされている方ですね」

 

 美月が浮かべる表情は、読めない。

 冷笑かと思ったが、そうでもなさそうだ。ただ、笑みを浮かべるようにほほはやや上がっている。とはいえ感情は籠っていないに近い。薄ら笑い、が近そうだ。

 そんな、不安定な表情で告げられた言葉に、みんながぽかんと口を開ける。

 

「……いや、婚約者がいることは知ってたけど、まさかそんな渦中の人だなんて」

「この前、ハクノが会ったって人だよな?」

「ああ。……ついでに言えば、異界が発生したであろうタイミングの少し前に、院内で会っている」

「そいつは……」

 

 言いかけて、志緒さんは美月の方を見た。

 彼女に遠慮して言うのを止めたのだろうが、隠した言葉は、彼女自身が引き継いでいく。

 

「ええ。現状最も怪しいのが、彼になります」

「良いのか? 婚約者なんだろ?」

「決定的、とまではいきませんが、あまりにも状況証拠が揃い過ぎているので、仕方のないことかと。とはいえ、動機も含めてこれから探る形にはなりますが。寧ろ判断材料を提示できずに申し訳ないくらいです。わたしがもっと彼と親密であれば……」

「いや、そんな所を悔いたって仕方がないんじゃないっすか。最初からこんなことが起こるなんて分かりっこないんですし」

「……ありがとうございます、時坂君。ですが今回は、身内の犯行の線がある以上、私としても、引けない部分がございまして」

 

 そう言うと、美月は立ち上がり、頭を下げた。

 

「この度は、本当に申し訳ございません」

「……いや、いやいや、その人が犯人って決まった訳じゃないんですよね!?」

「ですがリオンさんが杜宮総合病院に通院していたのは、私の紹介です。安全性はしっかりと確保したつもりで、私たち自身が、最も気に掛けるべきところから目を離してしまっていた。それこそが北都の、ゾディアックの……私の落ち度でなくて、なんと言えるでしょう」

 

 再度、本当にすみません。と絞り出し、頭を下げたまま起こすことのない美月に、なんて声が掛けられるだろうか。

 確かに、病院関連の事項は美月の手配で、安全性は保障されている前提だった。

 だが、それ以外に手がなかったというのも正しいだろう。自分たちに、その選択の良し悪しを図る術はない。

 恐らく、璃音だって、責めることはなかっただろう。寧ろその道筋をここまで整えてくれたことに感謝こそすれど、そのことで恨み辛みを言う性格ではない、と思う。

 ふと、美月から視線を外し、対面に座る璃音へと向ける。

 何人かが、同じように彼女へ視線を向け、視線を集めた彼女は困惑の表情を浮かべていた。

 

「いや、あの、ゴメンナサイ! 正直、よく分かってなくて……」

「……割って入って申し訳ないんだけど、それは違うんじゃないかな、北都さん」

「……九重、先生?」

 

 九重先生が、頭を下げたままの美月の横に立ち、背中を一撫で、二撫で。そのまま腰を手で押し、美月を流れるように座らせる。

 

「会長職をしている北都さんならこう言えば分かってくれるかな? 今回の責任の所在は、北都さんじゃないと思うんだ。でも、ここでそんな風に謝ったら、本来追及するべき他の責任まで、みんなは北緯さんに向けないといけなくなっちゃうよ?」

「でも、私は、私が手配したことで」

「それじゃあ、皆に聞いてみよっか。北都さんが間違えたのって、何だったのかな?」

「……なんも間違えてなんかないんじゃない?」

 

 呆れたような表情で言った祐騎は水を飲み、周りのみんなを見渡してから、再度口を開いた。

 

「言っちゃえばいつものカイチョーだからね。誰かに責任を追及されるようなヘマもしてないでしょ。婚約者が何かしたって? 婚約者なんてまだ他人じゃん」

「いや、他人は言い過ぎだろう……が、そうだな。病院の件も含めて、必要以上に抱え込むのもいつも通りだ」

「でも、そういうのは代表とか監督者とかの、大人の仕事だと思います! ミツキ先輩が責任を感じる必要はないし、わたし達も、先輩に責任を押し付けたくありません!」

「私は先輩の気持ちも分からなくはないですが……今回ばかりは、皆に同意しておきます。背負いすぎじゃないかと」

「……ま、みんな同じ意見ってことで。今は目先の問題について話し合うべきなんじゃないっすか? な、白野」

「ああ。今自分たちが話をするべきは、これからどうするのか、についてのはずだ」

 

 九重先生も含め、みんなで頷きあう。

 美月も言葉を受け止めてくれたのか、ゆっくりと頷き、瞳に力強さを戻した。

 ……気づかなかったが、全員飲み物が減ってきてるな。取ってくるか。

 

「って言ってもまずは現状把握の続きだが……あとは何か分かっていることってあるのか?」

「そうですね。それをするために、今回はリオンさんにも来てもらいました」

「へ? あたし?」

 

 飲み物を取りに離れたので、璃音の表情までは見えないが、少なくとも全く心あたりのなさそうな声は聞こえてきた。

 

「今回、最も解せないことは、なぜリオンさんが異界化の中心にいて、どうして記憶を失ったのか。この2点です」

「確かに。たまたま巻き込まれて、たまたま記憶を失ったってわけではない……だろうし……な?」

「ハハッ。やめてよ高幡センパイ。『玖我山センパイならもしかしたら……』みたいな間を作るの。僕もそう思うけど」

「否定はできないわね」

「……え、今のあたしってどんな風に思われてんの!? 先輩後輩同級生みんだ信じてくれないんですケド!?」

 

 まあ、猪突猛進な所とか、考えるより取り敢えず動いてみるところとか、あるしなぁ。

 大きなペットボトルを取り、座りながら考える。

 いや、事この状況に至っては不謹慎なような気もするけれども。

 

「ソコ! そうだよなぁ……みたいなしみじみしたカオしないで!!」

「ああすまない」

「謝罪が軽い!?」

「……まあでも、いくら“リオン”とはいえ、そこまではしないでしょう。それに、もう少し情報が揃えば、皆もそう思うはずよ」

 

 緩みかけた雰囲気を、明日香が締め直す。

 すでに色々知っているのであろう彼女の目の前にあるグラスへ飲み物をそそぐが、彼女は視線を璃音の方に向けていた。

 

「じゃあ久我山さん、話してもらえるかしら。私に昨日教えてくれた、貴女が最後に覚えていることと、思いつく限りのすべてを」

「……う、うん。あたしが覚えていることっていうと、まだ新学期が始まって、少しくらいかな。色々考えてた時期で」

「……新学期? ってことは、去年までの記憶はあるってことか?」

「あ、ハイ。そーですね……あたしも詳しくは覚えてないんですけど、少なくとも何日かは学校に行った、と思います」

 

 ということは、4月の1週目がカレンダーでは春休みだったはずなので、2週目以降の日程か。

 ……これに、何か意味があると?

 

「それに意味があるってなると、4月2週目以降に、何か久我山センパイにとって、大事なナニカがあったってこと?」

「……覚醒か!」

 

 洸が思い出したかのように叫ぶ。

 言われて思い出した。確かに、璃音がソウルデヴァイスとペルソナを使用できるようになったのは、その頃だったと思う。

 

「つまり、何だ? 黒幕は玖我山が覚醒した事実をなかったことにしたかった、ってことか? 何のために?」

「言うまでもなく、覚醒しなかったらどうなっていたかを考えれば、分かりますよ。高幡先輩」

 

 璃音が力に目覚めなかった場合。

 つまり、己の現状に向き合う力を持たなかった場合のこと。

 彼女の悩みは大まかに言ってしまえば、『心を籠めたり意志を乗せたりすると、“災害”が起こる』というものだったはずだ。

 その問題が放置されるのであれば、起こるのは、璃音の言う“災害”だろう。

 

「けれどもそれは、首謀者が璃音が抱えている問題を知っていないと、それが狙いという説は成り立たないんじゃ?」

「ハクノ君、リオンがそれを克服するために、どこに通っていたと思っているの?」

「……杜宮、総合病院」

「そう。カルテなりなんなりを目を通す機会があれば、彼女の抱えている問題なんてすぐに気づくことができてしまう。だから、病院の関係者でありかつ一定以上の権力を持つ人間なら、候補には挙がるわ」

 

 故に、御厨さんが黒幕の場合は、その可能性もなくはないということになるのか。

 

「あとは、玖我山さんのその期間の記憶を消し去るだけで、よくなってしまった……はず、なのよね……」

「ちょっと待ってくれ、アスカ。そもそも人為的に、一定の記憶を抜き出すことなんてできるのか?」

「……? できるわ。前にも言ったはずだし、貴方たちにも何回か関係していたはずだけれど」

「は? オレたちが?」

「……異界に関わってしまった一般人の“記憶は消去する”」

 

 精神を護る為、整合性を取る為、そうやって異界のことは隠されてきた。

 確かに自分たちは、その対応ができることを知っている。

 

「なるほど。そういう意味でも病院は打って付けの場所ってことか。検査とかの無防備な所であれば、細工もしやすい、と」

「脳波検査室、だったっけ? 随分とまあ符牒があうじゃん」

 

 どういった検査をしているのかは分からないが、少なくとも脳波の確認をするのであれば、寝っ転がった状態だったり、リラックスした状態ではあるのだろう。

 そこを狙われた、というのが、現状の推測か。

 

「ちょっと待って。それだとおかしくないかな」

 

 まとまりかけた話に待ったをかけたのは、九重先生だった。

 

「何がおかしいんですか。九重先生」

「私の記憶が消されなかったのって、異界の適正値が高かったからだよね? 聞いた話だと、皆の数値も高かったはず。だとしたら、玖我山さんの記憶は消されないんじゃないの?」

 

 

 確かに、尤もだ。

 九重先生がX.R.Cの顧問を務めるきっかけとなったのは、サクラの異界で巻き込まれた後処理をしている際、適性が高くて記憶が消せないことが分かったから。

 そのあと色々な話し合いを経て、自分たちを見守ってくれることになった。

 先生が疑問を抱くのは当然だろう。自分たちもそうやって教わってきたのだから、前提が覆ってしまう。

 

「流石、よく覚えていらっしゃいますね」

「アスカ、お前、何か隠して……?」

「これを話すともっとややこしいことになるから黙っていたのよ。他意はないわ。……話しましょうか、ミツキさん」

「そうですね。もしかしたら、わたし達にはない視点での意見が聞けるかもしれませんし」

 

 美月と明日香の目線がかみ合う。

 

「もしかしたら昨日と今日で結果が違うかもしれない。もう1度、しっかりとしましょう。……ハクノ君、サイフォンを出してくれるかしら」

「……はい」

「サクラ、玖我山さんの異界適正を測定してくれる?」

『は、はい! 測定を開始します! 少々お待ちくださいね』

 

 サイフォンの画面が切り替わり、何かグラフやメーターのようなものが出てくる。

 これが測定画面なのだろう。

 終わるまで、他のことを話し合うとしようか。

 

「そういえば、あの時一緒に巻き込まれたお医者さんはどうなったんだ?」

「リオンさんと一緒に異界へ巻き込まれた医師のことでしたら、どうやら彼は長い時間気絶していたみたいで、何が起こっていたのか分からないまま異界に巻き込まれたそうです」

「……それは、何と言うか」

「一応半日ほど、追い詰──いえ、最新技術を使い色々な確認をしたのですが、嘘を言っている様子ではなかったです。何らかの拍子に施術中の医師の意識を奪い、璃音さんの記憶を奪った、と見ていいかもしれません」

「……ボクとしては、その医師の方がかわいそうになってきたんだけど」

「容疑が晴れて良かったと、そう勝手に思うしかねえな」

 

 つまり、医師は白、ということか。

 ますます以て、現状の消去法では、御厨さんくらいしか残らないのではないか、という考えになってきた。

 決めつけはまだ良くないとは思うけれども。

 どこか、自分の気が急いているのかもしれない。

 

『検査が終了しました!』

 

 そんな自己分析をし始めた所で、サイフォンが軽く1度振動し、サクラの声が鳴り響く。

 

『ですが……その』

「構わないわ。出たままを読み上げて頂戴」

 

 結果をすでに聞いたという明日香が、言い淀むサクラを急かす。

 態度からして、良くはない結果なのだろうが。

 

『玖我山 リオンさんの異界適正値、Dー。著しいダウン症状です』

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

 まあ、話の内容からして下がっているのだろう、とは思った。

 記憶が事実上、抜かれるくらいだし。

 でも、これは下がりすぎというものではないだろうか。

 

「ちなみに、もう1つ、4月時点の玖我山さんと今とでは大きな差異があるわ」

「もう聞きたくねえが……それは?」

「“例の症状”がなくなったことよ」

 

 例の症状。

 つまり、発する言葉や意思などが影響を与えてしまう、謎の現象が?

 ということは、異界適正か記憶に、現象が関係あった?

 いや、記憶を端とすると4月より前のことに説明がつかない。

 ……だとしたら。

 

「それにしても、Dー。昨日よりも下がっているとはね」

「そうなのか?」

「ええ。昨日はC+だったから……時間が経って正確な数値が出た? 前回のは高かった時の名残……?」

 

 考え込む明日香。

 しかし、D-か。

 初めて聞いた気がするな。

 

「美月、D-ってどれほどの程度なんだ?」

「……」

「美月?」

「……すみません。考え事をしていて」

『D-は、異界などを全く検知できず、危機感知などもできない。俗に言う、嫌な予感なども働かない状況になります』

 

 異界を検知できない。

 仮に大規模な異界化が起きたとしても、どう転ぶか。

 詰まるところ、彼女が今後、異界に関わることはない、ということだろう。

 

 

 

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