PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。

 区切りが良いので、短いですが。



11月6日──【杜宮総合病院】異界化の真相 2

 

 

「それにしても、言ってくれて良かったです」

「え?」

「前までの岸波君なら、1人で抱え込んでしまっていたでしょうから」

 

 そうだろうか。

 いや、そうかもしれない。

 素直に頼れたのは、そう。

 

「美月を、X.R.C(みんな)を、信頼しているから」

「弱音を吐いて良い、と、そう思ってくれたことに、まずは感謝を」

 

 ……少し、恥ずかしい気がする。

 でも、恐らく、その通りなのだ。

 自分だけではない。みんなが、そうしてきた。弱い部分を曝け出して、補い合って、ここまでやってきた。

 だから、それで良いのだと、思えるようになったのだと思う。

 

「それから、岸波君が気にされているリオンさんのサポートの件については、こちらにお任せを」

「そうは言っても」

「“普段のハクノだったら、こうすんだろ”、って時坂君や高幡君が、張り切ってましたよ。もちろん、他の皆もですが」

 

 

 曰く、様子がおかしい自分に代わって、なんとかしようと皆で手を回してくれていたらしい。

 

 明日香と空が、璃音の補助に。祐騎と美月が自分の補助。洸と志緒さんが異界関係の確認など。

 異界が発生した日、解散したと思われながらも、裏では色々なやり取りをしてくれていたのだとか。

 

「岸波君が立ち直った時には取返しがつかない状況だった、なんてことがないように、全力で一次対応にあたりました。先ほどの私の報告も、アスカさんやソラさんがリオンさんのサポートに入ってくれたおかげで、集中して調べ上げることができたからお伝えできたことです」

「……本当に、自分が何もできていない間に、色々してくれたんだな」

「たった数日ですが、それでもここで力を入れているのと入れていないのでは差が出ますから。それにまだ、全員ができることをしているだけですので。感謝は、岸波君の、そしてX.R.Cとしての方針を定めてから、頂戴しましょう」

 

 なんてことないように言っているが、それが簡単なことでないことくらい、数回の異界攻略を経た自分にだって分かっている。

 本当に、良い友人たちを持った。

 

「とはいえ、各自ができることをしているに限りますので、前回の話し合いのように、見据えている元々のビジョンが少し違ったりはしているかと思います」

「……明日香の意見と、洸の意見がすれ違ったように、か」

 

 見据えているものの違い。

 前提にある想いの違い。立場の違い。

 それらが複雑に絡んだ食い違いだ。

 どちらの主張が正しいのか、自分にはまだ決め切れていない。

 

「ちなみに、美月個人は璃音についてどう思ってるんだ?」

「……一切の気持ちを無視して言うのであれば、彼女は記憶を取り戻さないべきであるとは、思います。友人としてはその決断をするのは、少々悲しいですけれど」

「……明日香と同じか」

「長く異界に関わる者から言わせてもらえば、異界は関わらない方が良い領域であるとは思います。あくまで、私たちの活動は“裏”のものですので」

 

 裏。

 確かに普通に過ごしている分には気づけない話。関わることのない世界だろう。

 危険と隣り合わせで、日の当たる道では決してない。仮に大けがをしようと、その責任などはすべて自分に降りかかるような、法の守ってくれない領域だ。

 常に危険と隣り合わせ。明日香や美月の言っているように、離れられるなら、離れた方が良いに決まっている。

 ……そして明日香が言っていたように、今の璃音は、完全にそこへと戻れているのだ。

 

「そう思うと、運がよかったのかもしれないな」

「運、ですか?」

「璃音の記憶すべてが消えなかったのは、運が良かったからって言ってただろう? 異界関連以外が残っていただけで、今の彼女はまだ、夢に向かって歩くことを辞めないでいられている」

 

 アイドルであった記憶。

 アイドルを志した記憶。

 それは間違いなく、玖我山璃音の誇りであり、原動力である。

 自分たちと関わってきた中でも、彼女はアイドルであろうとしていたし、アイドルに戻りたいからこそ、努力をしていた。

 その想いが抜け落ちていないのであれば、彼女はいつだって輝いていられる。

 

「……さきほどは一言で運が良かったと表しましたが、本当はもっと色々あったとは思います。きっとそこには、岸波君が関わっていることも」

「自分が?」

「岸波君が近くに居て、すぐに異界に飛び込めた。それが理由で十分な処置をしきる余裕が、御厨さんになかった。だから記憶の消去が不完全に終わった」

「……そうなのか?」

「あくまで推測ですが。でも、そうでもないと、途中で辞めるメリットが御厨さんにありませんから」

 

 なるほどなぁ……と思いそうになったが、違和感に気付く。

 

「いや、自分があそこに居たことを、御厨さんは知っていたはずだ。十分な処置をしきる時間がないことなんて、分かっていたはずじゃないか?」

 

 だって、待合室で会ったのだから。

 

「……確かに。ですが、そうすると……どうも辻褄が合わなくなってしまいます。異界の発生は絶対に考慮に入っていたのであれば、岸波君乗り込んでくることも分かるはず。では、なぜそのことを計算にいれなかったのか」

「計算した結果の最善が、あれだったとか? 自分が到着するぎりぎりまで消去を粘り、確実性を上げたかった、とか」

「……では、たまたまリオンさんの記憶は、異界に関わる直前から抜け落ちている、と?」

 

 確かに、たまたまだと断定するには、少々無理がある状況だ。

 それこそ何か、トラブルがあったとかなら、どうだろう。

 

「記憶を消去した結果、天使が暴走して抑えられなかった?」

「いえ、それにしてはリオンさんも居合わせた医師も傷が少なかった。暴走というより、逃げた? ……何のため、に──」

 

 言葉を途切らせた美月が、目を見開いてこちらを見ている。

 ……自分?

 

「岸波君、異界に入った際、天使と遭遇はしていないんですよね?」

「ああ。……あ、けれど異界に入った時といえば」

 

 そういえば、すごい鳴き声のようなものを聞いたような気が。

 そのことを、美月に伝えてみる。

 

「鳴き声……反応を示した? であれば、もしかして……」

「……何か、分かったのか?」

「……あくまで、推測ですが」

 

 じっと、自分のことを見つめる美月。

 目に力が入っている。

 

「その鳴き声が天使の、天使の実体化が出したものだったと仮定した場合の話です」

「ああ」

「岸波君が異界に入った瞬間、呼応するかのように天使──今後は天使型シャドウと呼びましょう。天使型シャドウの声が上がった。岸波君に、反応するかのように。そして、岸波君の方へ向かわないのであれば、どこへ行ったのか。入口の逆。最奥へと“逃げて行った”」

「シャドウが、逃げた……?」

「実際にそれが逃亡なのかは分かりませんが、恐らくタイミングから考えても、岸波君の存在に呼応したであろうことが推測ができます」

 

 自分に天使型シャドウが反応した?

 まったくもって見当がつかない。

 嘘だと言われたら、信じるほどには。

 

「確かにこれだけでは荒唐無稽かと思いますが、もう1つ、この仮説を裏付ける話があるとしたら?」

 

 裏付ける話。

 つまり、天使型シャドウが自分を嫌っていた例があった、ということか?

 

 いや、あるのだろう。

 美月がそこまで言うのだから。

 

「天使の最初の覚醒。リオンさんの異変は、何がきっかけだったのか。どうして今年の4月に急に力が暴走したのか。今年の4月の、何がトリガーとなり得たのか」

「……」

 

 そこまで言われてしまえば、分かる。

 自分だ。

 4月に引っ越してきたのも。

 喫茶店で璃音に会って、“言いようのない悪寒”が走ったのも。

 

 思い出せ。

 璃音は確かに以前、異変について話した。最初も最初。ほぼほぼ初対面で、確か廃工場の中でのことだ。

 彼女を案じて追いかけた末、話してくれた内容は。

 

 

────

 

 

「始まりは、ほんの些細な違和感だったの」

「違和感?」

「キミに会ったときに感じたやつ。違和感、不快感? そこはどっちでも良いんだけどね」

 

 

────

 

 

「…………っ。自分と、出会って」

「リオンさんの中の天使が活性化し、異変が起き始めた。そう考えると、春先と今回の事象は類似点が生まれます」

 

 璃音の症状が急に悪化したのは、自分と出会って天使が反応したから。

 今回顕現した天使型シャドウも、自分が異界に入った瞬間に、大きな声を上げていた。

 確かに、結び付く。

 

「ですが、岸波君のせいではありません。そこだけは勘違いなさらないよう」

「……少し、整理する時間が欲しい」

「はい。……一旦休憩にしましょう。私も少し、考えたいことがありますので」

 

 

 一旦、立ち上がる。美月はそのままこの部屋で考え事とやらに耽るつもりみたいだ。

 ……少し、外の空気でも吸いに行こう。

 

 

 

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