PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 誤字報告いただきました。本当に助かります。
 スクカジャ……スカクジャ……スクガシャ……すごいぜんぶ違和感ない。



 


4月24日──【空き教室】型に嵌まらず奔放に行きたい

 

 

 放課後になり、本日の予定を果たそうと移動を開始する。

 ただ、行き先が璃音と同じなので、少し時間をズラす必要があった。これ以上波を荒立てたくないし。

 世界史の教科書を使って、少し時間を潰してから移動。

 空き教室に着いた時には、時坂と柊さん、璃音と全員揃っていた。

 

「すまない、遅くなった」

「いいえ、別に時間の指定はしていないし、集まったのはついさっきだから気にしなくていいわ」

 

 柊さんが応える。

 時坂も璃音も、頷いてくれた。

 それじゃあ、席に座ろう、と思ったところで、悩みが発生。

 どこの席に座ろうか?

 

 現状、時坂と向かい合う形で柊さんが座っていて、時坂の隣にリオンが座っている。

 つまり何も気にせず座るなら、柊さんの隣になるのだ。

 ここで気にしなければいけないのは、柊さんの感情。彼女は自分を善く思っていない。さすがに声を上げて隣に座ることを嗜めはしないだろうが、快くも思わないだろう。

 しかし、時坂・璃音の隣に座るというのもおかしい。柊さん側が一人でこちら側は三人。そのつもりはなくとも露骨に避けているみたいだ。

 あと残っているとしたら、議長席のように1つ出っ張った席になるが……それはしたくない。

 さて、どうするか。

 

──Select──

  柊さんの隣。

  璃音の隣。

 >一人席。

──────

 

 悩むまでもない。柊さんを不快にさせない為には、この選択肢しかないのだ。

 

「岸波お前……すげえな」

 

 何故か時坂に尊敬するような眼差しを向けられた。

 何を凄いと思ったのかは分からない。前後の動作をみれば、この選択を驚いたのかもしれないが。

 もしかしたら彼は、この席配置が酷いことに気付いていたのかも。

 結局、どれを選んでも角が立つだろうし。

 

「さて、岸波君も来たことだし、話を始めましょうか」

 

 柊さんが仕切り、話し合いが始まる。

 時間を掛けすぎない為に心がけるべきは、議題・議論の細かい整理だろうか。

 備え付けの黒板に寄り、チョークの有無を確認する。

 なかった。

 

「……」

「岸波君、どうかしたの?」

「話を分かりやすく纏めるものが必要かと思って。黒板に書いておけばいつでも見返せるから」

「……それはそうだけど、書く単語には配慮して頂戴。空き教室とはいえ誰かが見る可能性がある以上、痕跡は残さない方が望ましいわ」

 

 確かに、黒板の跡を読み取った時、「異界」だの「ペルソナ」だの書いてあれば、どんな人間が落書きしたのかと思われるだろう。

 しかし今の返事は、その点さえ気を付ければ実行して良いということだろう。

 テーマを正しく共有する、というのは大事だ。論点の異なる議論ほど不毛なことはなく、主題を見失った討論ほど無意味なこともない。

 歴史などを勉強していると、どうしてもそういうことを考える。互いの国、領土が必要としている物をどれだけ擦り合わせるか。一致しなければ戦争。勝った方の言い分が通る。

 それ自体は日常生活でもさかんに行われているだろう。尤も国規模の話が個人規模の話まで落とされれば、戦争は喧嘩へとランク下げされるが。

 複数人で話し合う際、最も大切なのことは、話すべき事柄から逸れないことだと思う。

 すべて教科書知識だが。

 大勢での話し合いなんて経験ないし。

 

「当事者以外が見ても分からないように書いていこう」

「まあ、視覚情報は記憶に残りやすいし、何より話が逸れても軌道に戻せる。複数人で話すからには、試みるのも有意義かしらね」

「……おお、柊が認めた」

「その発言はどういう意味かしら、時坂君」

「……いや、別に」

「ただ話すよりは分かりやすくなると思っただけよ。ところで、特定の先生と仲の良い時坂くんには、是非職員室へ行ってチョークを借りてきてもらいたいのだけれど」

「要らんこと言うんじゃなかったぜ……仕方ねえ。そんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

 口は災いのもと。よく分かった。

 昨日の時坂の発言も合わせれば、言えることがある。

 柊さんには余計なことを言わない方が良いらしい。

 

「さて、それじゃあ時坂君がお使いをしている間に、彼に関係のない分の話を進めましょうか」

 

 どうやら、計算尽くで彼を追い出したらしかった。

 ただ厳しいだけではないらしい。侮れない。

 

「岸波君、それと玖我山さん。端的に言って、貴方たち二人には強くなってもらう必要がある」

「? あたしはともかく……」

「自分も?」

 

 璃音は力を抑えるために、使いこなす術を学ばなければいけない。それは美月との会話で分かっていたことだ。しかし自分については関わるかどうかを決めただけで、その必要性は聞いていない。

 

「あらゆる状況に対して万全の策を取れるのが、タイプ・ワイルドの特性。時坂君だけならまだしも、玖我山さんにも経験を積んでもらう以上、サポートに回せる力は多い方が良い。単純に、埋もれさせるには正直惜しい力なのも理由の1つ」

 

 複数のペルソナを使役できる能力(タイプ・ワイルド)

 せっかくの対応力も、実践を積んでいなければ発揮しきれない。相性というものが存在する世界において、確かに重要性の高い能力だ。それは話を聞いていて分かる。

 

「それは分かった。だけど、それだけか?」

 

 彼女の言葉を使うなら自分は、後ろ暗い背景のないタイプ・ワイルドというだけの存在。

 先程説明された理由だけなら、きっと彼女は昨日の場で結論を出せていただろう。

 背景確認の為、美月を訪ねた。確かに必要な行為だろうが、それだけでなにかが劇的に変わるとも思えない。彼女がその決断に踏み入った理由は何なのか。

 

「……」

「……」

「……はあ、あまり言いたくはなかったのだけれど」

 

 無言で視線を重ねること約1分。

 諦めたように、彼女は口を割る。

 

「正直時坂君と同じで、監視下に置いておかないと不安だからよ。玖我山さんの一件は聞いたわ。随分と無茶をしたそうね」

「うっ」

「挙げ句入院までする大ケガを負ったとか」

「……ま、まあまあそのくらいで! あたしも悪かったんだから、ね!」

 

 璃音が仲裁に入る。

 後悔していないとはいえ、その判断は経験者から見るに早計で短慮で無鉄砲なのだろう。

 そこを突かれると痛い。

 

「そういうこともあっって、岸波君は時坂君と同じタイプのバカだと判断したわ」

「オイ、誰がバカだ。誰が」

 

 ちょうど、時坂が帰って来る。

 右手にはチョークが2本。誰かが使用したかのように丸みを帯びたものを持ってきた。

 

「あれだけ言い含めても、勝手に異界へと飛び込んでしまう貴方のことよ、時坂君」

「うっ」

「返答に詰まった時の反応も同じなのね」

 

 これは分が悪い。

 時坂は早々に自分へチョークを渡して席に戻った。

 

 

 ……柊さんが自分と、自分の後ろの黒板をみている。

 

 書け、というのか。書けと。

 

 彼女の視線は、雄弁に強要していた。

 貴方が言い出したことでしょう、と。

 

 黒板に、『時坂・岸波 同類(バカ)』と書く。

 

「オイ!」

「「ふふっ」」

「分かっている。言うんじゃない」

 

 こんなことの為にチョークを用意してもらったんじゃない……!

 だが、柊さんの圧には勝てなかった。

 

「……さて、全員揃った所で話を進めましょう。異界攻略についてよ」

 

 ここから本題。取り敢えず黒板には『本題:』と書いておく。

 和やかな雰囲気は冷え、緊張の糸が張り始めた。

 

「今回の異界についての情報を整理しましょう。異界の種類は人的異界。その形成者は?」

「相沢だな。空手部の2年生」

 

 時坂が答える。一昨日、現場から走って去っていった彼女だろう。

 黒板に、『起点・空手少女A』と書く。

 

「あたしはクラスが違うし接点ないから分かんないんだけど、その相沢ってどういう子なの?」

「オレもそこまで付き合い深い訳じゃないが……まあ、マジメなヤツだ。責任感もある」

「そんな子がなんで……」

「さあな。その責任感が裏目っちまったのかもしれねえ」

 

 責任感が、裏目に出る?

 その言葉から推測できるのは、背負いすぎという事態。

 必要以上の責任感といえば璃音の一件もそうだが……似たような感じだろうか。

 何かしらの出来事が、我慢の限界値を突き抜けたのだろう。

 そういえば事件当日、時坂は自分たちより早く現場に駆け付け、相沢という女生徒を止めていた。その後も曖昧な表情を浮かべていたし、なにか心当たりでもあるのか。

 

「推測を重ねても仕方ないわ。本人が巻き込まれたわけでもないし、明日直接聞いてみましょう」

「何を?」

「最近悩みがなかったかを」

 

 悩み?

 それが重要なのだろうか。

 

「人的異界を沈静化させる条件は2つ。要因の解決か、その排除か、よ」

「解決っていうのは、その……あたしの時みたいな?」

「ええ、異界を発生させた人が落とし所を見付けるなり飲み込むなり、何らかの形で原因と正しく向き合えれば、それが解決」

 

 璃音の件で言えば、本音を説得し、彼女にもう1度夢へ挑む覚悟を持ってもらうこと、だろうか。

 なら、排除は。

 

「排除は、迷宮の主が抱く感情の矛先を無くすこと。対象が人なら遠くへ写したり、物なら取り壊したりしてしまうわね。最終手段と思ってくれて構わないわ」

「今回の主──相沢さんは、何を思ってたのかな」

「それなら分かるぜ。ソラ──郁島(イクシマ) (ソラ)っていう後輩のことだ」

 

 ソラ。昨日彼が幾度か口にした名前。

 異界に巻き込まれている、一人の少女だった。

 

「じゃあ、情報収集の役割を分けましょう」

 

 黒板に『後輩・I』と書き、『空手少女・A』から矢印を引いて向き直ると、全員がこっちを向いていた。

 役割──流れでいえば、聞き込みだろうか。どんな悩みを持っているようだったか、変わったことがなかったかと、まるで探偵のように探る必要がある。

 

「取り敢えず聴取先は、空手部、Iの周辺、Aの周辺、それとA本人かしら」

「突然聞いたりしても怪しまれないか?」

「怪しまれないようにするのよ」

「アドバイスもなにもなく力押しかよ……」

 

 時坂がぼやく。柊さんが見詰める。時坂が項垂れる。

 ここまで1セット。力関係がよく見て取れた。

 

「……そうだ、こういうのはどうだろう」

 

 突如として思い至った案を黒板に書く。

 『同好会』と、二重に丸をして。

 

「これを活動の一環として認識させれば、違和感もないだろう」

「あ、そういえばそんな話あったっけ」

「なんの話だ?」

 

 先日、美月に持ちかけられた同好会の話を、時坂と柊さんにも明かす。

 二人が返してきたのは、良い反応だった。

 

「イイんじゃねえか、調査もしやすくなるだろうし」

「そうね、こうして集まって話していても誤魔化せるし、教室使用の許可もとりやすくなるわ。いっそのこと部活になれば部室ももらえるんでしょうけど、制限も増えるだろうし、顧問を頼めることでもないから、丁度良いかしら」

「問題は何の同好会にするか、だな」

「なんかこう……身近な不思議や出来事を調べていく、みたいな」

「新聞部に近い感じね」

「取り敢えずはそういうことにしよう。詳しいことは今後で良い。美──生徒会長には後で報告してくる」

 

 部活の一環という体で、異界発生の理由と対処法を探す。

 聞き込みは大丈夫だろう。人数的にも不可能ではない。あとは、それを実行に移すまでの時間さえ分かれば。

 黒板に、『期限』と書く。

 

「柊さん、後輩さんの救出期限って分かるか?」

「少し待って頂戴」

 

 サイフォンを取りだし、操作する彼女を見詰める。

 答えはすぐに返ってきた。

 

「郁島さんの異界適正はC-。相沢さんのは……それより下ね。これなら最低でも3週間以上は保つわ」

「異界適正?」

「その人がどれだけ異界で長く過ごせるかの指数よ。適性値、つまり順応力ね。高ければ高いほど長い時間過ごせるし、反面産み出す異界は強大になる」

「相沢さんの発生させた異界の難易度は低く、適性のある郁島さんはそこそこ長く生存できると?」

「そうなるわね」

 

 そんな値があったなんて初めて知った。

 期限の下に20日以上とだけ書いておく。

 

「いつ測ったんだ、そんなの」

「4月。初日から3日間くらいで」

「全員?」

「ええ、全校生徒。そう難しくもなかったから」

「……取り敢えず話を戻すぞ」

 

 見ると、もう結構な時間が経っている。

 そろそろ話を終わらせなければ。

 

「けど、ゴールデンウィークは考慮に入れるべきかもしれないわね」

「何故?」

「その前に確認だけど、郁島さんは単身東亰へ出てきたのよね、時坂君」

「ああ、玖州の方から」

「出身は置いておくとして。この場合最悪なのは親御さんが様子を見に来た時、行方不明のままであること」

「……!」

 

 そうか、救出までの間は行方不明扱いとなる。

 学校の方は美月が色々手を回せることもあるだろうが、ご家族の方はそうもいかない。

 だとしたら。

 

「これから10日。“5月2日まで”と想定するのが妥当ではないかしら」

 

 全員が頷く。

 10日。そこまでに原因を突き止め、すべてを終わらせなければならない。

 余裕が出るかそうでないかは、情報収集の精度にもかかっていた。

 

「聞き込みは連絡を取り合いつつ進めましょう」

「対象が被らないように、と、情報が出てきた際はそれをいち早く伝えられるように、だな」

「ええ」

 

 そこまで話して、チャイムが鳴った。

 下校の合図。そろそろ行かなければならない。

 

「それじゃあ今後、この四人で同好会メンバーとして行動していこう。皆、よろしく」

「ああ、よろしく」

「ええ、よろしく」

「うん、ヨロシク!」

 

 確固とした足場が生まれた。

 なにかが心に満ちていく。

 

 

────

 我は汝……汝は我……

 汝、新たなる縁を紡ぎたり……

 

 縁とは即ち、

 停滞を許さぬ、前進の意思なり。

 

 我、“愚者” のペルソナの誕生に、

 更なる力の祝福を得たり……

──── 

 

 ……今のは。

 

「岸波、どうかしたのか?」

「……いや、なんでもない」

 

 そのうち、ベルベットルームへ行かなくては、とそう思った。

 

 

 





 コミュ・愚者“諦めを跳ね退けし者たち”のレベルが上がった。
 愚者のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。
────


(あまり意味のない)選択肢回収
──Select──
  柊さんの隣。
 >璃音の隣。
  一人席。
──────

「いや岸波、オレがあっち座るから気にしなくて良いぜ」

→時坂くんいい人。

──Select──
 >柊さんの隣。
  璃音の隣。
  一人席。
──────


 ……視線を感じる。横から、それも強烈なものを。
 気になって仕方ないので席を立つ。
 せっかくだし、板書でもするか。

→柊「どう接して良いかわからない」
 かわいそう。



 といった感じでした。

 初コミュ覚醒!
 編入して2週間、漸くコミュ1つなのかい、白野くん……


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