誤字報告いただきました。本当に助かります。
スクカジャ……スカクジャ……スクガシャ……すごいぜんぶ違和感ない。
放課後になり、本日の予定を果たそうと移動を開始する。
ただ、行き先が璃音と同じなので、少し時間をズラす必要があった。これ以上波を荒立てたくないし。
世界史の教科書を使って、少し時間を潰してから移動。
空き教室に着いた時には、時坂と柊さん、璃音と全員揃っていた。
「すまない、遅くなった」
「いいえ、別に時間の指定はしていないし、集まったのはついさっきだから気にしなくていいわ」
柊さんが応える。
時坂も璃音も、頷いてくれた。
それじゃあ、席に座ろう、と思ったところで、悩みが発生。
どこの席に座ろうか?
現状、時坂と向かい合う形で柊さんが座っていて、時坂の隣にリオンが座っている。
つまり何も気にせず座るなら、柊さんの隣になるのだ。
ここで気にしなければいけないのは、柊さんの感情。彼女は自分を善く思っていない。さすがに声を上げて隣に座ることを嗜めはしないだろうが、快くも思わないだろう。
しかし、時坂・璃音の隣に座るというのもおかしい。柊さん側が一人でこちら側は三人。そのつもりはなくとも露骨に避けているみたいだ。
あと残っているとしたら、議長席のように1つ出っ張った席になるが……それはしたくない。
さて、どうするか。
──Select──
柊さんの隣。
璃音の隣。
>一人席。
──────
悩むまでもない。柊さんを不快にさせない為には、この選択肢しかないのだ。
「岸波お前……すげえな」
何故か時坂に尊敬するような眼差しを向けられた。
何を凄いと思ったのかは分からない。前後の動作をみれば、この選択を驚いたのかもしれないが。
もしかしたら彼は、この席配置が酷いことに気付いていたのかも。
結局、どれを選んでも角が立つだろうし。
「さて、岸波君も来たことだし、話を始めましょうか」
柊さんが仕切り、話し合いが始まる。
時間を掛けすぎない為に心がけるべきは、議題・議論の細かい整理だろうか。
備え付けの黒板に寄り、チョークの有無を確認する。
なかった。
「……」
「岸波君、どうかしたの?」
「話を分かりやすく纏めるものが必要かと思って。黒板に書いておけばいつでも見返せるから」
「……それはそうだけど、書く単語には配慮して頂戴。空き教室とはいえ誰かが見る可能性がある以上、痕跡は残さない方が望ましいわ」
確かに、黒板の跡を読み取った時、「異界」だの「ペルソナ」だの書いてあれば、どんな人間が落書きしたのかと思われるだろう。
しかし今の返事は、その点さえ気を付ければ実行して良いということだろう。
テーマを正しく共有する、というのは大事だ。論点の異なる議論ほど不毛なことはなく、主題を見失った討論ほど無意味なこともない。
歴史などを勉強していると、どうしてもそういうことを考える。互いの国、領土が必要としている物をどれだけ擦り合わせるか。一致しなければ戦争。勝った方の言い分が通る。
それ自体は日常生活でもさかんに行われているだろう。尤も国規模の話が個人規模の話まで落とされれば、戦争は喧嘩へとランク下げされるが。
複数人で話し合う際、最も大切なのことは、話すべき事柄から逸れないことだと思う。
すべて教科書知識だが。
大勢での話し合いなんて経験ないし。
「当事者以外が見ても分からないように書いていこう」
「まあ、視覚情報は記憶に残りやすいし、何より話が逸れても軌道に戻せる。複数人で話すからには、試みるのも有意義かしらね」
「……おお、柊が認めた」
「その発言はどういう意味かしら、時坂君」
「……いや、別に」
「ただ話すよりは分かりやすくなると思っただけよ。ところで、特定の先生と仲の良い時坂くんには、是非職員室へ行ってチョークを借りてきてもらいたいのだけれど」
「要らんこと言うんじゃなかったぜ……仕方ねえ。そんじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
口は災いのもと。よく分かった。
昨日の時坂の発言も合わせれば、言えることがある。
柊さんには余計なことを言わない方が良いらしい。
「さて、それじゃあ時坂君がお使いをしている間に、彼に関係のない分の話を進めましょうか」
どうやら、計算尽くで彼を追い出したらしかった。
ただ厳しいだけではないらしい。侮れない。
「岸波君、それと玖我山さん。端的に言って、貴方たち二人には強くなってもらう必要がある」
「? あたしはともかく……」
「自分も?」
璃音は力を抑えるために、使いこなす術を学ばなければいけない。それは美月との会話で分かっていたことだ。しかし自分については関わるかどうかを決めただけで、その必要性は聞いていない。
「あらゆる状況に対して万全の策を取れるのが、タイプ・ワイルドの特性。時坂君だけならまだしも、玖我山さんにも経験を積んでもらう以上、サポートに回せる力は多い方が良い。単純に、埋もれさせるには正直惜しい力なのも理由の1つ」
せっかくの対応力も、実践を積んでいなければ発揮しきれない。相性というものが存在する世界において、確かに重要性の高い能力だ。それは話を聞いていて分かる。
「それは分かった。だけど、それだけか?」
彼女の言葉を使うなら自分は、後ろ暗い背景のないタイプ・ワイルドというだけの存在。
先程説明された理由だけなら、きっと彼女は昨日の場で結論を出せていただろう。
背景確認の為、美月を訪ねた。確かに必要な行為だろうが、それだけでなにかが劇的に変わるとも思えない。彼女がその決断に踏み入った理由は何なのか。
「……」
「……」
「……はあ、あまり言いたくはなかったのだけれど」
無言で視線を重ねること約1分。
諦めたように、彼女は口を割る。
「正直時坂君と同じで、監視下に置いておかないと不安だからよ。玖我山さんの一件は聞いたわ。随分と無茶をしたそうね」
「うっ」
「挙げ句入院までする大ケガを負ったとか」
「……ま、まあまあそのくらいで! あたしも悪かったんだから、ね!」
璃音が仲裁に入る。
後悔していないとはいえ、その判断は経験者から見るに早計で短慮で無鉄砲なのだろう。
そこを突かれると痛い。
「そういうこともあっって、岸波君は時坂君と同じタイプのバカだと判断したわ」
「オイ、誰がバカだ。誰が」
ちょうど、時坂が帰って来る。
右手にはチョークが2本。誰かが使用したかのように丸みを帯びたものを持ってきた。
「あれだけ言い含めても、勝手に異界へと飛び込んでしまう貴方のことよ、時坂君」
「うっ」
「返答に詰まった時の反応も同じなのね」
これは分が悪い。
時坂は早々に自分へチョークを渡して席に戻った。
……柊さんが自分と、自分の後ろの黒板をみている。
書け、というのか。書けと。
彼女の視線は、雄弁に強要していた。
貴方が言い出したことでしょう、と。
黒板に、『時坂・岸波
「オイ!」
「「ふふっ」」
「分かっている。言うんじゃない」
こんなことの為にチョークを用意してもらったんじゃない……!
だが、柊さんの圧には勝てなかった。
「……さて、全員揃った所で話を進めましょう。異界攻略についてよ」
ここから本題。取り敢えず黒板には『本題:』と書いておく。
和やかな雰囲気は冷え、緊張の糸が張り始めた。
「今回の異界についての情報を整理しましょう。異界の種類は人的異界。その形成者は?」
「相沢だな。空手部の2年生」
時坂が答える。一昨日、現場から走って去っていった彼女だろう。
黒板に、『起点・空手少女A』と書く。
「あたしはクラスが違うし接点ないから分かんないんだけど、その相沢ってどういう子なの?」
「オレもそこまで付き合い深い訳じゃないが……まあ、マジメなヤツだ。責任感もある」
「そんな子がなんで……」
「さあな。その責任感が裏目っちまったのかもしれねえ」
責任感が、裏目に出る?
その言葉から推測できるのは、背負いすぎという事態。
必要以上の責任感といえば璃音の一件もそうだが……似たような感じだろうか。
何かしらの出来事が、我慢の限界値を突き抜けたのだろう。
そういえば事件当日、時坂は自分たちより早く現場に駆け付け、相沢という女生徒を止めていた。その後も曖昧な表情を浮かべていたし、なにか心当たりでもあるのか。
「推測を重ねても仕方ないわ。本人が巻き込まれたわけでもないし、明日直接聞いてみましょう」
「何を?」
「最近悩みがなかったかを」
悩み?
それが重要なのだろうか。
「人的異界を沈静化させる条件は2つ。要因の解決か、その排除か、よ」
「解決っていうのは、その……あたしの時みたいな?」
「ええ、異界を発生させた人が落とし所を見付けるなり飲み込むなり、何らかの形で原因と正しく向き合えれば、それが解決」
璃音の件で言えば、本音を説得し、彼女にもう1度夢へ挑む覚悟を持ってもらうこと、だろうか。
なら、排除は。
「排除は、迷宮の主が抱く感情の矛先を無くすこと。対象が人なら遠くへ写したり、物なら取り壊したりしてしまうわね。最終手段と思ってくれて構わないわ」
「今回の主──相沢さんは、何を思ってたのかな」
「それなら分かるぜ。ソラ──
ソラ。昨日彼が幾度か口にした名前。
異界に巻き込まれている、一人の少女だった。
「じゃあ、情報収集の役割を分けましょう」
黒板に『後輩・I』と書き、『空手少女・A』から矢印を引いて向き直ると、全員がこっちを向いていた。
役割──流れでいえば、聞き込みだろうか。どんな悩みを持っているようだったか、変わったことがなかったかと、まるで探偵のように探る必要がある。
「取り敢えず聴取先は、空手部、Iの周辺、Aの周辺、それとA本人かしら」
「突然聞いたりしても怪しまれないか?」
「怪しまれないようにするのよ」
「アドバイスもなにもなく力押しかよ……」
時坂がぼやく。柊さんが見詰める。時坂が項垂れる。
ここまで1セット。力関係がよく見て取れた。
「……そうだ、こういうのはどうだろう」
突如として思い至った案を黒板に書く。
『同好会』と、二重に丸をして。
「これを活動の一環として認識させれば、違和感もないだろう」
「あ、そういえばそんな話あったっけ」
「なんの話だ?」
先日、美月に持ちかけられた同好会の話を、時坂と柊さんにも明かす。
二人が返してきたのは、良い反応だった。
「イイんじゃねえか、調査もしやすくなるだろうし」
「そうね、こうして集まって話していても誤魔化せるし、教室使用の許可もとりやすくなるわ。いっそのこと部活になれば部室ももらえるんでしょうけど、制限も増えるだろうし、顧問を頼めることでもないから、丁度良いかしら」
「問題は何の同好会にするか、だな」
「なんかこう……身近な不思議や出来事を調べていく、みたいな」
「新聞部に近い感じね」
「取り敢えずはそういうことにしよう。詳しいことは今後で良い。美──生徒会長には後で報告してくる」
部活の一環という体で、異界発生の理由と対処法を探す。
聞き込みは大丈夫だろう。人数的にも不可能ではない。あとは、それを実行に移すまでの時間さえ分かれば。
黒板に、『期限』と書く。
「柊さん、後輩さんの救出期限って分かるか?」
「少し待って頂戴」
サイフォンを取りだし、操作する彼女を見詰める。
答えはすぐに返ってきた。
「郁島さんの異界適正はC-。相沢さんのは……それより下ね。これなら最低でも3週間以上は保つわ」
「異界適正?」
「その人がどれだけ異界で長く過ごせるかの指数よ。適性値、つまり順応力ね。高ければ高いほど長い時間過ごせるし、反面産み出す異界は強大になる」
「相沢さんの発生させた異界の難易度は低く、適性のある郁島さんはそこそこ長く生存できると?」
「そうなるわね」
そんな値があったなんて初めて知った。
期限の下に20日以上とだけ書いておく。
「いつ測ったんだ、そんなの」
「4月。初日から3日間くらいで」
「全員?」
「ええ、全校生徒。そう難しくもなかったから」
「……取り敢えず話を戻すぞ」
見ると、もう結構な時間が経っている。
そろそろ話を終わらせなければ。
「けど、ゴールデンウィークは考慮に入れるべきかもしれないわね」
「何故?」
「その前に確認だけど、郁島さんは単身東亰へ出てきたのよね、時坂君」
「ああ、玖州の方から」
「出身は置いておくとして。この場合最悪なのは親御さんが様子を見に来た時、行方不明のままであること」
「……!」
そうか、救出までの間は行方不明扱いとなる。
学校の方は美月が色々手を回せることもあるだろうが、ご家族の方はそうもいかない。
だとしたら。
「これから10日。“5月2日まで”と想定するのが妥当ではないかしら」
全員が頷く。
10日。そこまでに原因を突き止め、すべてを終わらせなければならない。
余裕が出るかそうでないかは、情報収集の精度にもかかっていた。
「聞き込みは連絡を取り合いつつ進めましょう」
「対象が被らないように、と、情報が出てきた際はそれをいち早く伝えられるように、だな」
「ええ」
そこまで話して、チャイムが鳴った。
下校の合図。そろそろ行かなければならない。
「それじゃあ今後、この四人で同好会メンバーとして行動していこう。皆、よろしく」
「ああ、よろしく」
「ええ、よろしく」
「うん、ヨロシク!」
確固とした足場が生まれた。
なにかが心に満ちていく。
────
我は汝……汝は我……
汝、新たなる縁を紡ぎたり……
縁とは即ち、
停滞を許さぬ、前進の意思なり。
我、“愚者” のペルソナの誕生に、
更なる力の祝福を得たり……
────
……今のは。
「岸波、どうかしたのか?」
「……いや、なんでもない」
そのうち、ベルベットルームへ行かなくては、とそう思った。
コミュ・愚者“諦めを跳ね退けし者たち”のレベルが上がった。
愚者のペルソナを産み出す際、ボーナスがつくようになった。
────
(あまり意味のない)選択肢回収
──Select──
柊さんの隣。
>璃音の隣。
一人席。
──────
「いや岸波、オレがあっち座るから気にしなくて良いぜ」
→時坂くんいい人。
──Select──
>柊さんの隣。
璃音の隣。
一人席。
──────
……視線を感じる。横から、それも強烈なものを。
気になって仕方ないので席を立つ。
せっかくだし、板書でもするか。
→柊「どう接して良いかわからない」
かわいそう。
といった感じでした。
初コミュ覚醒!
編入して2週間、漸くコミュ1つなのかい、白野くん……