PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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 閲覧ありがとうございます。


 試験的に章タイに英語入れてみたけど、どうでしょう。え、文法あってます? 英語できないのに何故わざわざこんなのを書いたのかは自分にも分かりません……間違ってたら教えてください。

 追記)ルビ振りにできなかったので、表記の仕方変えました。

 という訳で、新章開始です。







第3話 拳に乗せる想い(Do you point fists toward anywhere?)
5月18日──少女の失踪


 

 

 

 ──郁島さんが、休んだ。

 

 

 

 

 昼休みにその連絡を時坂から回された時は、ああそうなんだ、としか思わなかった。正直他の面々も、まあそういうこともあるだろう、といった反応を示していたと思う。

 しかし、時坂が、時坂だけが違和感を主張した。この欠席はおかしい。アイツの性格なら、何かしら連絡を寄こそうとするはずだ、と。

 朝、郁島さんのサイフォンに連絡を入れ、昼休みの集合場所を連絡したところ、返信がなかった。実際に教室へ行ってみると、今日は来てないと彼女のクラスメイトから伝えられたのだという。

 言われてみれば確かに、先月末に調査した彼女の人柄についての評判や時坂の言を思い返してみると、約束をすっぽかすような人には思えない。

 

『取り敢えず、欠席の理由が知りたいわね。無断欠席でなければいいのだけど』

 

 柊さんはそう言って、職員室へと向かったらしい。

 その結果は、昼休みが終わる数分前に返ってきた。

 視界の隅では、席の周りを囲まれた璃音もサイフォンを起動して眺めている。流石に緊迫した面持ちだ。

 

『皆、時坂君から連絡は行っているかしら』

『ああ、大体は把握している』

『ひょっとしてマズい感じ……?』

 

 返信が来るまでの時間が、いやに長く感じた。

 

『……ええ、案の定、“無断欠席”。学校にはまったく連絡が来ておらず、親しい友人たちも心当たりないそうよ』

 

 この欠席が異界に関連するものだとする。

 気付いたのは、実際に問題になってから。事前に手を打つことができなかった。今回は郁島さんを注意深く見守っていたつもりだったのに、だ。

 ──いや、見守ってはいなかったのかもしれない。経過だけ聞いて、見守っているつもりになっていた、といった所だろう。

 ……璃音と時坂は、大丈夫だろうか。璃音は、こうなるとは知らずに打ち上げを提案したことに。時坂は、身近な後輩をまたも巻き込んだ可能性に。お互い何か良くないものを感じすぎていないと良いんだが。

 後で、しっかり話し合わないとな。

 

 

 

 

 

 

──放課後──

 

────>杜宮高校【空き教室】。

 

 

 扉を開けた時、教室が薄暗く感じた。

 恐らく実際の視覚情報的に、そんなことはないだろう。窓からはまだ十分な日光が差し込まれていて、日差しが遮られているということもない。

 ならどうしてそう感じたか。決まっている。中に居る3人の雰囲気が重かったからだ。

 

「……ゴメン」

 

 最初に口火を切ったのは、璃音。

 俯いたままではなく、しっかりと顔を上げ、3人の顔──特に柊さんと目を合わせてから、頭を下げた。

 

「あたし、浮かれてたんだと思う。もう大丈夫って。怖いコトは終わったんだって。1人だけ、先のことを直視しようとしてなかった……ッ!」

 

 ──ホント、ゴメン。彼女は、声を詰まらせながら謝罪する。

 そんなことはない、なんて慰めは誰も口にしなかった。彼女がその言葉を望んでいる訳でないことくらい全員分かっているからだ。

 

「……そうね。でも、それは私たちも同じ」

「ああ、気を抜いたのも、注意を怠ったのも、オレら全員の責任だろ」

「まずは、この件を全力で解決しよう。起こってしまったものは巻き戻せないから、この反省を次に利用していかないと」

「……みんな……」

「少なくとも私は、久我山さんが打ち上げがしたいと言ってくれて嬉しかったわ。それだけは覚えておいて」

 

 その行為自体は、何ら悪いことではなかったのだ。

 自分と時坂も、彼女に向けて頷く。もし仮に自分と時坂、柊さんの3人だったら、打ち上げなんて絶対にしなかっただろう。そう考えると、提案自体に価値があったのだと思える。

 

「さて、取り敢えずは今日からの動きを話し合いましょう」

「オレはまず、ソラの家に向かう。直接行って反応があるか確かめてからでも遅くはねえだろ」

「そうね、久我山さんも一緒に向かってもらっていいかしら? 商店街周辺の聞き込みを担当してもらえると助かるわ」

「了解、任せてっ!」

「岸波君と私は、学内からかしら」

「ああ。時坂と璃音は異界が発生したかどうかの確認と、その場所の調査。自分たちは原因の調査、ということで良いのか?」

「概ねその通りよ。今回も連絡は密に取り合うこと。良いわね、時坂君」

「……気を付ける」

 

 ……まあ、時坂については前科があるしな。特別に注意もされるか。自分も気を付けないと。

 

 

 

 

────────

 

────>杜宮高校【武道場前】

 

 まずは、彼女が所属する空手部の活動場所へとやってきた。昨日が外練だったから、今日は道場で練習しているはずだ。

 それに、部長である寺田先輩とは前の件で少し面識がある。そういえばあの時も柊さんと一緒だったか。ミドルスクール云々の話をしていたし。

 同好会の活動を覚えてもらえているなら、話が早く通るかもしれない。とはいえ前回はたった数分の会話、可能性は高くないだろう、少しだけ期待しているが。

 

「……あれ、柊さんと岸波……?」

 

 武道場を前に立っていた自分たちにいち早く気付いたのは、相沢さんだった。

 ボーイッシュな見た目の彼女が胴着を着ていると、迫力が増して見えるな。

 ……異界のシャドウのような、陰湿な表情を浮かべてないことに少しだけ安堵した。いや、本当に。

 

「ここで何してんの? 誰かに用事?」

「同好会の活動中だ」

「同好会?」

「ああ、その関係で少し話が聞きたくて。出来れば寺田部長にもお願いしたいんだけど」

「私がどうかした?」

 

 武道場から、寺田先輩がやって来る。

 彼女は自分と柊さんを見て怪訝そうな表情をした後、何かを納得したような頷きを挟んでから、口を開いた。

 

「もしかして、この前の件を心配して?」

 

 この前の件、というと、やはり相沢さんと郁島さんのことだろう。

 しかし、本人が目の前にいる状態で詳しい話は難しい。どうするべきか。

 柊さんに視線を流す。自分の意を汲んでくれたのか、彼女が応対を始めてくれた。

 

「ええ、ですが無用な心配だったようです。やはり上に立つ人が優れているからでしょうか」

「お世辞は結構よ。本当に優秀ならそもそもそういった事態に陥らないでしょう」

「ですが、長引かなかったのも事実です」

「……取り敢えず、その賛辞はありがたく受け取っておくわ。それで、要件はそれだけかしら?」

「そうですね。出来れば郁島さんともお話したかったのですが……本日はいらっしゃらないみたいですね」

 

 柊さんの言葉に、2人の表情が曇る。

 彼女たちも時坂同様、郁島さんの無断欠席に不信感を抱いているのだろうか。

 

「そうね、今日は学校自体を欠席したみたいよ」

「そうですか、残念ですが欠席なら仕方ありません。……そういえば岸波君は確か、昨日郁島さんと話したのよね? 体調悪そうだったのかしら?」

「いや、特に何も感じなかったが。風邪の症状とかも出てなかったし」

「……だとしたら、少し心配ね。何かあったのかしら。失礼ですが、お2人は何か事情などを聞いていたりは」

「……ないね」

「私もないわ。でもまさかソラが無断欠席なんて、本当に心配。少し前にもしてたけど、その時は入院にまで陥っていたみたいだから」

「……でも体調不慮の前兆はなかったんですよね? 最近様子が変だった、とかもなかったんですか? 予兆もなしに休むとは思えないのですが」

「あたしもそう思うけど……」

 

 彼女たちは、目を合わせた。言うべきか言わぬべきか、迷っているような顔だ。

 ……それらを強引に引き出すような話術など、今の自分は持ち合わせていない。

 

「その、どうしてそんなにソラのことを気にしてくれるのかしら?」

「それは……」

 

 寺田部長が、訝しげに尋ねてくる。同好会活動の一環とはいえ、流石に踏み込み過ぎたのかもしれない。

 郁島さんを気に掛ける理由。裏にある事情を説明しないとすれば──

 柊さんが言葉に詰まっている。先程の礼ではないが、ここは自分が応えよう。

 

「お2人が不審がるのも当然だと思います」

「……」

「それでも、お2人と同じくらいか、それ以上に心配するであろう兄弟子が、自分たちの活動仲間ですから」

 

 そもそもの発端は、彼が郁島さんの欠席に疑問を抱いたから。

 不安かもしれない。責任を感じ過ぎているかもしれない。

 自分はそれを晴らしたいと思っただけだ。

 

「仲間の不安を払拭してあげたい。それだけですよ」

「……彼には身内に甘いところがあるので。ご協力していただけると、助かります」

 

 柊さんが頭を下げる。茶色い長髪が地面に着くかもしれないといった程度に、腰を折っていた。

 自分も同様に低頭。純粋に、話を聞かせてもらいたい。それだけだから。

 

「……ソラね、何というか、最近練習に身が入ってなかったのよ」

「真剣でなかったと?」

「いいえ、真面目だったし、真剣だったとは思う。けど、“全力でなかった”と言うべきかしらね」

「真剣でも、全力じゃない……?」

 

 いたずらに手を抜いていた訳じゃなさそうだ。

 ただの体調不良か?

 

「そのことについて、何か本人とは話されました?」

「……一応。部活後に公園に寄って話とかは聞いてみたんだけど、笑って誤魔化された」

 

 つまり、言いたくなかったということか。

 不安を掛けまいとして黙っていたなら、まだいい。異界や検査入院を経て起きた体力の減少などに、身体や心が着いていけてないとかだったとしても、時間が解決してくれる問題だろう。

 でも、そうでなかったとしたら?

 

「「……」」

「柊さん、岸波?」

「あ、ああ、すまない」

 

 つい考え込んでしまった。結論を出すには、まだ早い。

 

「……今日は、ありがとうございました」

「いいえ。私達も出来る限りソラのサポートをするつもりよ、もし良ければだけど……」

「はい、こちらからも時坂君を通してアプローチを掛けてみます」

「お願いするわ」

 

 話し込んでしまったわね、と寺田部長は時計を見る。

 経過した時間は10分以上。部活動中にこれ以上時間を割いてもらうのは難しいだろう。

 一応、今後何かあった時の為に連絡先を交換した後、彼女たちは話し合いを終えようとした。

 

「そろそろ私たちは練習へ戻るわ」

「ええ、お時間を頂いてしまいすみません」

「良いのよ。その、時坂くんにもよろしく伝えておいて頂戴」

「じゃあ柊さん、岸波、また」

「ええ、相沢さんも」

 

 2人の背を見送る。

 空手部の仲は大分改善されたみたいだ。実際に話してみて、彼女たちの想いがよく伝わってきた。

 だからこそ、今回の件、大事に至っていないと良いけれど。無事な可能性が調べれば調べるほど減っていく。

 ……準備だけは、しておかないとな。

 

「ひとまず今日は、ここまでにしましょう。明日、時坂君と一緒に1年生への聞き込みに向かってもらって良いかしら?」

「良いけど、今日じゃないのか?」

「ええ、色々と理由はあるけれど、最大の理由は私たち2人だからよ」

「?」

「時坂君が居たなら、前回の調査も踏まえてそのまま向かったでしょう。話しかけるべき対象も覚えているだろうし、1度でもコンタクトを取っている人からの情報の入り具合は違うわ。久我山さんも知名度的に、話しかけてコミュニケーションを成立させることが可能だと思う」

「……なるほど。自分は勿論、帰国子女である柊さんも直接的に1年生との関わりがないのか。郁島さんとの関係性も薄い」

「ええ。恐らく話しかけても、『なんだろうこの先輩』と思われるのが順当でしょうね」

 

 まさか金銭や物で釣るわけにもいかない。こればかりは、仕方のないことと言えるだろう。

 これは、課題だな。他学年の生徒とのコミュニケーション。でもきっかけがないと……これも、解決した後には考えておかないと。

 

「それじゃあ、解散だな」

「ええ、今の会話結果は私がまとめて送っておくわ」

「ありがとう」

「では、また明日」

 

 茶髪を揺らし、去っていく柊さん。

 ……自分も帰ろう。

 

 

 

 

──夜──

 

────>【マイルーム】。

 

 

 どうやら時坂たちの方は、めぼしい情報を手に入れられなかったらしい。

 それでも分かったことと言えば、郁島さんが“家に居なかった”こと。

 それこそ病院に運ばれてでもいない限り、説明がつかなくなった。

 現状得られている最後の目撃情報は、昨日の夕方。一回帰宅する所を、商店街の面々が目撃しているらしい。その後ジャージに着替えてランニングへと向かったらしいが、どこで足が途絶えたのかまでは調査できていないそうだ。

 

 つまり明日は、郁島さんのランニング先を突き止める班と、1年生へと聞き込みをする班に分かれることになる。

 ……詳しくは明日、だな。忙しくなりそうだ。今日はもう寝よう。

 

 




 

 という訳でソラ編、開始します。


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