PERSONA XANADU / Ex   作:撥黒 灯

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6月9~10日──【教室】(ネタバレ)「やべえ! あの転校生、リオンだけじゃなく、B組の柊と逢引きだってよ! 2股だ2股ッ!!」「!?」

 

 

 午前授業が終わり、放課後。鞄に筆記用具を詰め込みながら、今日の予定を企てる。

 明日は日曜日だから1日旅館でバイトをするとして、今日はどうしようか。

 流石に連日バイトという気分でもない。かといってやりたいこともなければ、部活のようなやるべきこともなかった。

 誰かと過ごすのもありだろう。

 だとしても誰を誘うべきか。

 ここで璃音を誘うのは得策ではない。彼女は既に周りを囲まれていて、連れ出すと非難の目を浴びること間違いなしだと直感したからだ。

 ……洸でも誘ってみようか。

 席を立ち、彼のクラス──2-Bを尋ねてみる。

 

「時坂君? さっき倉敷さんや伊吹達と帰ったわよ」

「そうか……」

 

 入口近くに居た生徒に洸の所在を聞いてみると、帰宅済みで知らないと答えられてしまった。

 さて、本当にどうしようか。

 頭を抱えかけたその時、教室の隅で立ち上がった少女の姿を視界に捉えた。

 

「あら、岸波君」

「柊」

 

 そういえば、2人は同じクラスだったな。

 何にしても、まだ帰っていなくて良かった。

 

「柊、この後暇か?」

「? ええ、買い物をして帰るだし、少しくらいの時間はあるけれど……何かあったのかしら?」

「いいや、たいしたことじゃないんだが、遊びに行かないか?」

「……は?」

 

 

────>七星モール【城嶋無線】。

 

 

「ここに用があるのか?」

「ええ、そうよ」

 

 誘いを掛けた時は猜疑の眼差しを向けられたが、やがて少し考え込んでから、了承の答えを貰った。

 そうしてやって来たのが此処、ジャンク屋の【城嶋無線】。

 何て言うか、連れてこられた場所は少し予想外だった。とはいえもともと謎の多い彼女。自分が予想に使っている部分だって、彼女を構成する側面の1つに過ぎないのだろう。

 

「テツオさん」

「ん……おお、アスカじゃねえか! 久し振りだな」

「ええ、ご無沙汰しております。すみません、この所、顔すら出せずに」

「良いってことよ、無事だったんだからな!」

 

 どうやら柊は、店主の男性と知り合いらしい。

 恰幅の良い男性だ。短めの金髪につなぎ姿で、いかにも技術屋といった風貌をしている。

 かといって怖いわけではなく、快活な笑顔を浮かべている辺り、人当たりは良さそうだ。

 

「んでそっちは……ははーん?」

「「?」」

 

 自分を見た後、急にニヤつき始めた店主。

 まったく謂れのない反応に、自分と柊は揃って首を傾げた。

 

「隠すな隠すな。お兄さんにはすべてお見通しよ。差し詰め、そこの少年が“特別な存在”ってトコだろ?」

「!? 流石ですね、テツオさん。見抜きますか」

「ああ、伊達に長く生きちゃいねえ」

 

 特別な存在……自分がそう言われるとしたら、ワイルドのペルソナ使いという面に他ならないだろう。それを一目で見抜くとは、もしかして凄い人なのかもしれない。柊も驚きを隠せないみたいだ。

 初見でそれが分かるということは、他の事例への関与を推察できる。他のワイルド能力者に触れたからこそ分かる、みたいな。

 しかし、この人も異界関係の人だったのか。まあ、柊と馴染みのある人と分かった時点で、薄々勘付いてはいたが。

 

「しかし、どうして分かったんですか? もしかして月光館学園のときも──」

「月光館? なんでその名前が出てくるんだ? ひょっとして、初デートがそこだったとか?」

「「……はぁッ!?」」

 

 む、寧ろ何でデートなんて言う単語が出てくるんだ。

 まさか……

 

「ま、まさか……」

 

 柊が頭を抱えている。

 自分と同様の結論に辿り着いたのだろう。

 

「テツオさん、正直に答えてください。岸波君が、どういう存在だと?」

「ん? 正直も何も、アスカと彼は、恋人同士なん……だよな?」

「違う」「違います」

 

 1人キョトンと驚くテツオさんを尻目に、自分たち2人は重い溜息を重ねた。

 

 

────

 

 

「なるほど、現地協力者……謂わば、杜宮のペルソナ使い達のリーダーってことか」

「リーダー、と呼ばれる実感は沸きませんが」

「ハハハ、何事も諦めが肝心だぞ。それに、ワイルドに目覚めた人間は総じて集団の中央に配置されるもんだ。って言っても、俺自身生で見るのは初めてだがな」

 

 テツオさんは、フリーの技術者らしい。

 なんでもソウルデヴァイスの修理・改修も行えるとのことだ。彼曰く、【倶々楽屋】のジヘイさんには劣るらしいが、安さや多様さでは負けるつもりがないらしい。

 今日は、彼に修理をお願いするついでに、自分を紹介するつもりで連れてきたのだとか。

 

「それにしても、杜宮にワイルド。アスカの仲間、ねえ……」

「何か?」

「いんや、大事にしろよ、アスカ。その縁はきっと“一生のもの”になる」

「……まあ、それなりには」

 

 端から見ると、結構仲が良さそうだ。洸や自分に対するのとはまた違った接し方。年齢……いや、これは過ごしてきた時間の差、なのかもしれない。

 まずは少しずつ、柊 明日香を知っていかなければ。

 

 柊との縁が強まった気がする。

 

 柊の昔話という後ろ髪を引かれるワードをぶら下げられながらも、氷を背中に突き付けられている錯覚を得ながら、【城嶋無線】を後に。店で無事にソウルデヴァイスを修理に預けられた柊とも、帰路の途中にあった分かれ道にて別々の方向へ。

 ……自分も早く帰ろう。

 

 

──夜──

 

 

「そういえば、Tシャツ……」

 

 オリジナルのものが作れるという話を、一昨日あたりに聞いた。デザインと生地さえ決めてもらえれば作れる、とも。

 だが、デザインは頑張れるとしても、生地か……あまりよく知らないな。何か分かる本でも買ってこようか。

 今日は取り敢えず……ああ、その時にもらった本を読もう。

 

 “手芸入門編”を読んだ。

 小物の種類や難易度、気を付ける部位などが乗っていて、同時に簡単にできるアクセサリが紹介されている。

 少しだが、アクセサリの知識を得たことで、魅力が上がった気がする。

 

 

──6月10日(日) 午前──

 

 

────>駅前広場【オリオン書房前】。

 

 今日は神山温泉でのバイトの日だ。

 何か用事があるなら、朝のうちに済ませておきたい。

 という訳で、昨日の夜に考えていた、家庭科の教本“服飾の基礎・基本が分かる! 本”を購入し、次の機会に備えることに。

 今持っている本に優先順位はあるが、それでもできるだけ早く読んでみよう。

 他には……何もないな。

 さて、そろそろバイトへ向かおう。

 

 

────>神山温泉【休憩室】。

 

 

「ああ、岸波じゃないか。久し振りだな」

「こんにちは。会う度に久し振りって言っている気がしますね」

「確かに」

 

 バイトの先輩と他愛無い話をして、休憩時間を過ごす。

 

「そうだ、先輩。先輩は何か趣味とかありますか?」

「趣味? ……勉強かな」

「勉強が趣味って、珍しいですね」

「まあ受験生だし。ただ、勉強と言っても教科書的なものだけじゃなくて、雑学的なものも含むが。何かを知ることっていうのは大事で、かつ面白いものだぞ」

「……まあそれは、分かります」

 

 退院してからというもの、知識を得るのが楽しくて仕方がない。

 新しいことを知る。新しい人と関わる。新しい場所へ行く。結構普通なことだが、そのどれもが大切で、かつ面白いものだ

 だが、趣味かと言われると、そうでないような気もする。

 

「それに、知るということは、備えるということだ」

「備える?」

「授業で教わる知識は試験に備えるもの。人から聞く知識は危機に備えるもの。知らなければ何もできず、知っていれば行動を産むことができる」

「……」

「だから、気になることがあったらまず調査をするべきだ。って考えてる」

 

 確かにその通りだろう。

 勉強をしなければ試験でまったく点が取れない。十分な備えがあってこそ、きちんとした点が取れるのだ。まあ勉強しても今回のように赤点を取ることはあるが、それは置いておくとして。

 異界を攻略する為に、その人の抱えていた悩みを調査するのも同じだろう。知らなければ、対策ができない。対策ができなければ、助けるのが遅れる。

 勉強は、後悔しない為に行うものだ。気になったことがあって、それを放置して、失敗する。なんて最悪は、引き起こしてはいけない。

 

「そうだな……岸波は本を読む方か? 何だったら今度から何冊か古本を持って来るけど。勉強になるものも多いし」

「え、良いんですか?」

「ああ、ほとんど内容も覚えているしな。格安で譲ろう。ただし、新刊と呼べるような本はまだ持ってこれないから、そういうのは新品で購入してくれ」

「勿論です。ありがとうございます!」

 

 そこまで話して、丁度休憩の終わる時間になった。

 自分と先輩はそれぞれの担当場所へ戻っていく。

 あまり会う機会もないのに、なんて良い人なんだろうか。

 残りの仕事も頑張ろうと心に決めた。

 

 

──夜──

 

 

 昼に勉強の話題があったし、せっかくだからテスト勉強をしようと思い当たった。

 とはいえテストはまだまだ先。確か“7月の2週目”だった気がする。次こそは上位に入りたいものだが……まずは、頑張ろう。頑張って備えよう。

 

 

 




 

 コミュ・女教皇“柊 明日香”のレベルが2に上がった。
 
 
────


 知識 +3。
 優しさ +2。
 魅力 +2。


────


 先輩「やった。これで本棚の整理ができる」

 獲り損ねた本を読めないのはペルソナというより軌跡シリーズとかのような気がしますが、まあ良いとして。
 まあ質屋【大黒堂】の代わりみたいなものです。
 

 今話のタイトルはそのまま。彼らが学校を出た後の一幕。最後に驚いているのは、なんかとばっちりを受けそうな人。


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